「・・・・・・」
ちゃぷちゃぷと、水が体を優しく叩く音が森の中で響いている。
つい数分前までの戦闘など嘘のように、静けさに包まれていた。
ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ。
赤い髪に緑の瞳の美女が、裸で水面に浮いて気持ち良さそうに瞼を閉じていた。
「ふぅー・・・・また武器と防具でお金がかかっちゃうわ・・・」
自らの魔法とスキルによって、産まれたばかりのわんぱく褐色っ子の『ゴライアス君』は彼女の一撃をもって腰から上を蒸発させその後、トドメの一撃として少年が投擲した槍によって完全に消滅した。被害はもちろん出ただろうが、怪我人は幸いにも現在【
「体に熱がこもるのも困りものね・・・。」
形の良いハリのある胸を水面に浮かびながら両手で覆っては寄せて水を全身にかけていく。
「それまでは私、裸でベルのポンチョを羽織るしかないのよね。まぁ・・・ベルが喜んでくれるなら裸シャツだろうがやってあげるんだけど・・・はぁ、また泣かせちゃったなぁ」
ゴライアスにトドメを刺したベルはアリーゼのもとに戻るも、彼女はスキルの反動で大量の汗でぐっしょり。さらには地面に倒れ伏した状態だったためにベルは盛大に勘違い。
『アリーゼさんが死んだっ!!アリーゼさん、アリーゼさぁん!!』
そう言って泣き喚き、彼女の体をゆすろうとして―――
『ベル・クラネル! 今、彼女に触ってはいけません!!』
体に触れて、手に火傷を負ってしまっていた。
彼女からしてみれば、体が熱く火照り、胸焼けだとか熱中症のような状態なわけで休んでいれば元通りなのだが、それは周りからしてみれば別で他人に触れれば普通に火傷するほどの高熱を放っていた。考えなしに勘違いして火傷を負ってしまい、少年は聖女に雷を落とされ、治療され、今現在はショゲて彼女が体を冷やしている泉の岸で足をつけて彼女の衣類を抱きしめていた。
「ベルー、私の服、洗ってくれたんなら干してて欲しいんだけどー」
「・・・・・」
「心配させちゃったのは謝るからぁ・・・代えのシャツはアスフィが用意してくれるけど、下着とかはさすがにある程度乾かしておきたいのよー。ビショビショで帰りたくないしー」
「・・・・」
「それとも、あれかしら? ベルったら大好きなお姉ちゃんの汗の匂いをクンカクンカしちゃう変態さんだったのかしら?」
「死んだと思った」
「・・・・ごめん」
「・・・・」
「・・・・」
沈黙が生まれる。
黒いゴライアスを倒した際、大量の灰の上に残されていたドロップアイテム――『ゴライアスの硬皮』は、シャクティ等【ガネーシャ・ファミリア】によって回収後、【アストレア・ファミリア】に送られるらしくリヴィラのならず者達は血の涙を流しながら『実際ぶっ倒したのはテメェ等だし【
「ベル」
「?」
沈黙の後、アリーゼは少年を呼ぶ。
相変わらず水面に浮かび天井の水晶を眺めながら、パシャパシャと両手で水を自らの顔にかける。
「
「・・・わかった」
少年は一度岸から立ち上がり、近くの木の枝にアリーゼの衣類を干して自分も服を脱いで泉に入りアリーゼに近づいていく。顔は相変わらずしょんぼりとして前髪で顔を隠していてアリーゼは少し溜息をついて仰向けで浮いていたのをやめ少年に向き合って立つ。前髪をゆっくりと掻き分け、額に口付けをする。その行為にキョトンとする少年に、今度はデコピンを繰り出した。
「えいっ☆」
ピンッ!
「いっ!?」
決して深くはない、腰より少し上――ヘソ辺りの水深の泉でデコピンをされた少年は後ろに倒れこみアリーゼに手を引かれて再び立ち上がり、抱きしめられた。裸の美女と少年が抱き合う光景であるが、残念、ここには『覗きは男の浪漫だぜ』と言って覗きに来る橙黄色の髪の神もいなければ、モンスターもいない。少年のスキルで周囲には誰も彼もいないことは把握済みなわけで、そう、完全に2人だけの世界だった。少しだけ顔を赤くする少年に微笑を浮かべるアリーゼはこれでもかと抱きしめて揺さぶる。少年の胸板でたわわな果実が何度も形を変えた。
「大丈夫よベル。大丈夫」
「・・・・」
「そう簡単に私達は死なないわ。」
「・・・・うん」
「だって、ベルはもう私達なしじゃ満足できない体なんですもの!ふふん!」
「・・・・うん」
「あら、否定しないのね」
「・・・うん」
「その『うん』、ちょっと可愛いわね。」
「水、温かい」
「私の体が熱かったからね。」
「アリーゼさん、なんか、アレだね」
「?」
なんだろうか、何がアレなんだろうか?『体が火照ってしかたがないの・・・ベル、慰めて?』と言ってほしいのだろうか?と色ボケ全開なことを考えていたが、次に少年が言う言葉に頬をひくつかせる。
「『全自動湯沸かし器』みたいだね」
「だ、誰が魔石製品よ!?」
「だって、熱くなったアリーゼさんを水につけるとお湯になr・・・むぎゅっ!?」
「ふ、ふふふ・・・・そ、それ以上言わせないわ・・・輝夜達にだって昔それでからかわれたのに。『団長様?今月は少しばかり出費がかさみますので、団長様のスキルでお風呂を沸かしていただけませんか?』って言われたのよ!?二度と言えない様に、この悪い口には暫く私が蹂躙してあげるわ!」
「んぐ・・・・むぐぐぐっ!?」
魔石製品みたいだと言われたアリーゼは、少年の口を強引に奪い、口内を蹂躙。
未だ少しばかり火照った体の熱を少年に移すように蹂躙、蹂躙、蹂躙。
僅かに残った真っ白な湯気さんが、ここぞとばかりに最後の力を振り絞って仕事をこなしてくれるおかげで、これ以上先の展開は発生しないのだ。唾液の糸で橋をつくりながら、漸くアリーゼが唇を離すと少年はすっかりデキあがってしまっていてアリーゼが支えてやらなければ立てなくなってしまっていた。
「あれ、やりすぎた?」
「ふぁ・・・あ、熱い・・・こんな・・・初めて・・・」
「生娘みたいなこと言わないの」
「きゅぅ・・・」
「茹兎・・・ごくり。はっ!駄目駄目、さすがにこれ以上は駄目。誰か来るかもしれないし。」
アリーゼは少年を抱き寄せながら肩ほどまで浸かれる場所まで移動して腰を下ろし、足を開きその間に少年を座らせて背後から抱きしめる。茹兎になった少年はトロンとした瞳で姉の体にもたれかかり、ぼけぇーと水面を見つめている。
「・・・・・」
「・・・・ごくり」
また、沈黙が生まれる。
いや、1人だけちょっといけない気分になっているが特に会話もなく体を優しく叩く水の感触を楽しんでいた。
数分後、少年はようやく動き背後のアリーゼの顔を見ようと自分の顔を横に向けて見つめてきてアリーゼはそれに対して、ニッコリと微笑む。
少年がまた、赤面する。
そして気になってしまうのか、指を伸ばし、唇をなぞる。
「・・・したいの?」
「僕も・・・アリーゼさんみたいな、必殺技、できるかな」
『したいの?』については解答が返ってこなかったが、少年は唇をなぞりながらそんなことを言ってくる。
『必殺技』。
それは古今東西、戦う男の子女の子が憧れるもの。
天元突破しそうなドリルだとか、謎の流派の剣術だとか、移動術だとか、御伽噺ではよくある、アレだ。そう言えば以前、入団希望だと言ってやってきた金髪マッチョの、女神曰く『1人だけ画風が違う』という人物・・・まぁ、彼は厚化粧をして肉襦袢を着ているだけのその辺にいた浮浪者だったわけだけど女神が言うには天界にたまたま転がっていた御伽噺に出てくる登場人物の格好だとかでその御伽噺の人物は『パンチで天候を変えた』とか言っていたなぁ・・・とアリーゼは『必殺技』について思考を巡らせている際にそんなことを思い出した。
( まぁ、ベルの魔法がそもそも『必殺技』だと思うんだけどね。というか、私のはただ剣を振り上げただけだし。必殺技とは少し違うというか・・・でも、この子は必殺技だって言うし・・・うーん )
やはりこの子も男の子なんだな、そういうお年頃なのね、と大人な笑みを持って少年の頭を撫でてやる。
「ベルは・・・そうねぇ・・・あ、ほら、『
「えへへ・・・でもあれ、1人じゃできないんですよ?」
「あれ、そうなの?」
「えと、1人でするなら、魔剣を使わなきゃいけないし・・・あの時は確か、
「うんうん」
「アイズさんの『風』があったから、制御がうまくできてたってだけで・・・だからえっと」
「ああ、そういえば神様達が『あれは合体必殺技』とか言ってたわね。なるほど、あなた1人でやろうとしても威力とかが違うのね?」
「うん・・・それに、真っ直ぐにしか進めないから避けられたら不発に終わっちゃう」
「真っ直ぐ進むか、投擲するかの2つなのね・・・ナイフはどう?試してみた?あれってベルの魔法で震動するでしょ?」
ナイフではどうなのか?と提案。
魔法の効果で現在は任意で震動させることができるようになり、これには街中の鍛冶師たちが涙を流して歓喜。『お前を第2の大切断って言わなくて済む・・・!』などと言われていたのをアリーゼは聞いたが、女神から頂戴した鏡のような刀身のナイフはその震動で青にまで変色する。温度だけで言うならアリーゼよりも威力が上のはずだ。
「アリーゼさんみたいに、さっきのはできないよ」
「そりゃぁねぇ・・・でも、ナイフそのものは私のさっきの技より上な気がするのよ。それをさらに
「ううん、そういうわけじゃないよ。何ていえばいいんだろ・・・『安全装置』みたいな感じ?」
「じゃあ、その聖火もあわせてチャージしたら・・・ほら、何かできそうじゃない?」
2人して、
という図式を思い浮かべる。
アリーゼはふと、『あれ、つまりこの子の場合・・・超振動ナイフになるのかしら?』と考え至るが、2人が思い浮かべるその光景は、青く輝く軌跡を描きながら猛スピードで敵に向かっていく
「なんかいいわね。かっこよさそう・・・」
「名前は?」
「名前?いるの?」
「アイズさんが、『名前を叫んだほうが威力が上がる』って」
「へぇ~・・・・うーん・・・でも、自分で決めるのがいいわよ。何かないの?」
「うーん・・・」
いつの間にか少年はアリーゼに向き直って背中に腕を回し抱きつき、アリーゼもまた抱きしめ返し、うーんうーんと唸りながら少年はふと、口にする。
「えと・・・『ステラアアアアア』は?」
「却下。なんか死にそう」
「むむ・・・
「・・・・あんた、恥ずかしくないの?」
「ぶくぶくぶくぶく・・・」
「男の子はそういう『時期』があるのかもしれないけど、お願いだから【フレイヤ・ファミリア】のヘグニさんみたいなのはやめてね?眼帯つけたりとかやめてね?お願いよ?」
「ヘグニさん?」
「右眼が疼いたりとかしてない?大丈夫?」
「???」
「ご、ごめん、なんでもないわ。その、そんな綺麗な瞳で見つめてこないで・・・私が恥ずかしくなるから」
「裸で抱き合っておいて、それ以上に恥かしいことがあるのであれば、是非教えていただきたいのですが」
2人の会話に突如割って入ってくる声に、2人は揃って肩を揺らす。
スキルで気付いてた?と問いかけるも、『ごめんなさい、意識してなかった』と言われ、声の主に振り返ってみるとそこにはジト目をした聖女がいた。アリーゼの代えの服を持って。
「あ、あれ?アスフィは?」
「疲れたので私にアリーゼさんの代えの服を渡して【タケミカヅチ・ファミリア】の方々と先に帰られましたよ」
「え、えぇ・・・」
「何をしていたのですか?まさか、こんなところで・・・」
「あら、夫婦の時間なんだから詮索はナシよアミッドちゃん」
「夫・・・婦・・・?」
「なんでもないわ、こっちの話!ね、ベル?」
「う、うん」
「どうしたのよ、ベル」
「どうかされましたか、ベルさん」
「いやその、アミッドさん来ちゃったから隠れてる」
「貴方の裸なら、治療院で入院中にすでに見てますが」
「えぇっ!?」
「当然でしょう、でなければ誰が貴方の体を拭いたりするのですか。ご安心を、貴方の裸を見て発情するようなそこの女性とは違いますので」
「し、してないわよ!?」
『いい加減、出てきてもらえません?』と言われアリーゼはバシャバシャと音を立てて立ち上がり、泉から上がり体を拭きアミッドから着替えを受け取り着替えていく。
「ベルさんも・・・大丈夫とは思いますが、いつまでもそうしていると風邪を引いてしまいますよ?」
「いやその・・・えと・・・アミッドさんは他派閥の人だし・・・」
「何今更恥かしがってるのよベル。普段から恥かしがりなさいよ」
「どこに怒っているのですか?」
「普段も恥かしくないわけじゃないんだよ?」
「とにかく・・・ほら、タオルです。どうぞ」
「あ、ありがとうございます・・・」
仕事に真面目な湯気さんはいつの間にやら退勤してしまったらしく、少年と美女の体を隠す要素はすでになく、少年は聖女からタオルを受け取り体を拭き着替え髪を拭きずらそうにしているのを見抜かれて聖女にゴシゴシと拭かれる。そんな光景を見ていたアリーゼは『これが友達以上恋人未満の関係なのかしら?よくわからないわね』などと言っているが、彼女の手には彼女の下着があった。
「アリーゼさん?下着は?」
「まだ乾いてないから着けないわよ?着けたら濡れちゃうでしょ?」
「そのまま帰るの?」
「まさか。もう1泊してから帰るわ。・・・さすがにアストレア様に心配されるでしょうけど、今回は仕方ないわ。アミッドちゃんもそれでいいでしょ?」
「まあ私は護衛をしてもらわなくてはいけませんし・・・ああ、そういえばヴィリーさんがベルさんに謝罪しておいてくれって言ってましたよ」
「?」
「何でもベルさんが【ヘラ・ファミリア】のエンブレムの入ったローブを着用しているのを見かけたことがあったのを思い出したそうで、ベルさんが倒れる少し前に『大抗争』の話を少ししたとかで・・・『不謹慎なこと言って悪かった』と。」
「別に気にしなくても・・・」
「あの方は優しい方ですので。また泊まりに来るなら安くしてくれるみたいですよ」
「よし! じゃあ、行きましょう! また3人で寝るわ!」
「え、またですか、アリーゼさん?」
「別にいいじゃないアミッドちゃん。安眠できるしベルと一緒にお風呂入ると不思議と傷の治りも早いし・・・右手に兎。左手に美少女。うーん・・・最っ高!!」
まるで、下卑たおじさんのようなことを言うアリーゼを先頭に、少年と聖女は後を追うように片方は『そういえば輝夜さんも僕がいると治りが早いって言ってたなぁ』と呟きながらトコトコと歩き聖女は『また同衾ですか・・・何故でしょうか、流れに逆らえません。これは外堀が徐々に埋められているのでは?』と困ったように溜息をついた。
「ベルー」
「はーい」
「宿に行く前に最後に教えて上げるわー!」
前方を歩くアリーゼは振り返ることなく、声を張り上げて今回のデート?の最後の授業を開始。
「ここがどうして『リヴィラ』って言うのか知らないでしょー?」
「うん!」
「むかしむかし、こんなダンジョンの奥深くに街を築いたバカがいたのよ。それで、その人は女性で、すっごく強くていい女だったらしいわ。」
「アリーゼさんも、『いい女』だと思うよー」
「きゃー、ありがとーベルー!」
「アミッドさんも」
「私を巻き込まないでくださいベルさん・・・それでアリーゼさん、続きは?」
「こほん・・・その人の名は、『リヴィラ・サンティリーニ』。その名にちなんで付けられた、この街は・・・今もここにいるならず者達が愛する、極上の女みたいな街なんですって」
森を抜け、戦闘の被害など忘れたかのようにいそいそと動く
「お義母さんも・・・ここが好きだったのかなあ・・・」
暗い顔などしていないのに、ポロっとそんなことを少年が言うものだからアミッドは少年がふらっとどこかへ行かないように手を取り横を歩く。
「――――アミッドさん?」
「ベルさん・・・『死者との再会』は不可能です。お願いですから、しっかりしてください」
「?」
その言葉に対して、理解しているのかしていないのか定かではないが、『あたりまえじゃないですか』というような顔をしながら首を傾げる少年に聖女は溜息をついてジトっとした目を向けながら
「何度でも言いますが・・・勝手に遠くへ行かないように。」
「?」
「寂しいのなら、いつでも我が治療院へ。話し相手くらいにはなりますよ」
「アミッドさんのところには必ず行きますよ?お手伝いもありますし」
「そうでしたね・・・ええ、そうですね。そうしてください」
「アミッドちゃん・・・やっぱりベルが好きなんじゃないかしら・・・」
「アリーゼさんはベルさんの前から決していなくならないように」
「アッハイ」
その後はやはりというか、また宿泊してくれたことに気をよくしたヴィリーが晩御飯をご馳走して3人でそれを食べ、眠り、翌日に地上に帰還しアミッドを治療院に送り届けて―――
「2人とも、無断外泊。長いわ」
「すいませぇん・・・事情はちゃんと話しますぅ・・」
女神の前でションボリ顔で正座する2人の姿があったそうな。
次から精霊郷できたらいいな。
・スピカとはおとめ座のα星。
・乙女座は、ギリシャ神話でアストレア様、ペルセフォネ、あるいはデメテル自身の姿に見立てられ、スピカは女神の手にした麦の穂の位置に輝いているそうです。
コトバンクより。
スピカという言葉をふと浮かんで、調べたら乙女座(アストレア様)がでてきてひゃっほいしてしまいました。