兎は星乙女と共に   作:二ベル

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書いてると、自分が書いたことを忘れてしまっていることがあるのでおかしな点が湧いてくる。



長老の性別はわからないので、女ということにしてます。


生きて近づけた生命体がいないだけだ!!

「着いたぞ。ここが・・・・」

 

「わぁ・・・・」

 

「これは・・・」

 

「どの同胞の里とも違う・・・美しい・・・」

 

 

それは森の中の集落とも言える場所。

中心には巨大な大樹があり、天を蓋するように木々の葉っぱが覆っていて、けれどその隙間から差し込む日の光が、神秘的な光景を生んでいた。

 

 

「・・・私も初めて足を運んだが、なるほど、『精霊郷』とはよく言ったものだ。」

 

「しゅごい・・・」

 

「べ、ベルの語彙力が・・・」

 

王族(ハイエルフ)のリヴェリアを筆頭に、その光景に釘付けになる5人。

それは迷宮都市のような喧騒はなく、けれど、ド田舎のような静けさともまた違っていた。

 

「貴方達、どうやってここに・・・」

 

その5人に気付いたのか、声をかけてくるエルフ達。

 

「・・・いや、お待ちを。まさか、あなたはリヴェリア様!?」

 

周囲のエルフ達は、さながら『超人気アイドル』が目の前にいるかのように驚きの声を上げていた。

 

「・・・声を抑えてもらえるか。今日は王族として足を運んだわけではない。」

 

「も、申し訳ありません! ですが、嗚呼・・・! この地で貴方様のご尊顔を拝謁する栄誉に俗しましたること、身に余る光栄と・・・!」

 

「・・・やれやれ、エルフというのは全く」

 

そんな周囲のエルフ達を面倒くさそうに応対するリヴェリア。

そんな光景を見た少年は、『今なら美の女神みたいに【平伏しなさい】とか言ってもこのエルフ達はやってくれるんじゃないだろうか』なんてことを考えてしまう。まぁそんなことを考えていれば、一緒に行動しているエルフ'sに見抜かれてしまうわけだが。

 

「・・・ベル」

「クラネル」

「ベル?」

 

三者三様。

別に睨んでくるわけでもないが、ジーっとリヴェリアの横顔を見ている少年に3人のエルフは声をかけてくる。

 

『わかってるんだぞ。お前が考えてくることは』とでも言うかのように。

 

 

「どうしたんですか、3人とも」

 

「・・・何かリヴェリア様に失礼なことを考えていませんか?」

 

「考えているだろう?」

 

「昨晩、リヴェリア様にテントの中で後ろから触られたことを根に持っているんですか? だとしてもいけませんよ、失礼なことを考えては」

 

「別に僕・・・気にしてないですけど。 ただ・・・・」

 

「「「ただ?」」」

 

「今ならリヴェリアさんが、女王様みたいにどんな無茶振りをしても許されるんじゃないのかなって思って・・・ゴミを見るような目をして、肘をついて。」

 

「それです」

「それだ」

「駄目ですよベル。そういうのは」

 

昨晩、テントの中で寝る際、やはり興味と言うか気にはなっていたのかリヴェリアはどういうわけか後ろから軽く触ってきて少年はびっくりしたわけだがそれはまぁもう、どうでもよくてすぐに解放されたわけで、なんなら朝目が覚めて仕度をするときに髪を梳いてもらってその心地よさに二度寝しそうになったわけなのだが少年は『王族っていっても興味はあるんだなぁ』くらいに思っていた。

 

そして迷宮都市内でも、さらにはリヴェリアの周りのエルフの態度を見ているたびにリヴェリアが黒と言えば黒だし、白と言えば白になるくらいすごい権力があるのでは?と思っていて、そして現在この精霊郷の・・・レフィーヤが耳打ちで教えてくれた他のエルフとは違った所謂『高貴なお方』達も『ハハァ~!!』と膝をつきそうなくらいの対応をとっていたので少年はつい、『無茶振りをしても許される』なんてことを考えてしまっていた。

 

 

「ふむ・・・この方たちも、『王族(ハイエルフ)』に近しい存在なのでしょう」

 

「いいですかベル。いくらリヴェリア様でも、そんな我侭な女神様みたいなことはしません。というか、リヴェリア様はそんな方じゃありません」

 

「ああ、ちなみにだが、リヴェリア様に手をあげると都市中・・・あるいは世界中の同胞を敵に回すと思っておいたほうがいいぞ、クラネル」

 

「そ、そこまで!?」

 

聞けば昔、どこぞの女神が広大な迷宮都市内をお供もつけずに出歩きまわり、眷族達は血相を変えて探し回る羽目になり、団員総出で動き回るその行動を何かの計画と勘違いし、警戒する【ロキ・ファミリア】と誤って衝突までしてしまったとか。抗争勃発かという大事件にまで発展しかけた始末であり、【アストレア・ファミリア】もその際は『勘弁してくれ・・・休ませてくれ・・・』と言いたくなるくらいには、周囲に被害が出ないように、キリキリしていた。

もっとも、その惨状を前に当の女神様は『ごめんなさい♪』と可愛く微笑んで許してもらおうとし、これには神ロキが鉄拳を下し、神アストレアがハリセンで尻を叩いた。眷族達もこの時ばかりは止めることはなかった。

 

「その派閥の団員があろうことか、リヴェリア様に手を出し・・・」

 

「ご、ごくり・・・」

 

「【ロキ・ファミリア】以外の妖精(エルフ)達からも憤怒(いかり)を買い、返り討ちにあっていました。」

 

リューはどこか遠い目をして、どこかの派閥の話をした。

 

「何て迷惑な派閥なんだ・・・」

 

「ちなみにリューさんとセルティさんは?」

 

「・・・・あとから輝夜に雷を落とされました。」

 

「「「うわぁ・・・」」」

 

ちゃっかりその騒動に、憤怒(いかり)のままにリヴェリアに手を出した輩を処分しようと混ざった【アストレア・ファミリア】の妖精2人は、全てが終わった後、副団長の輝夜に

 

『一般人に被害が出ないように我々が動いているというときに、貴様等阿呆は何をやっているんだ!? 秩序を守る我々が! 何、ちゃっかり混ざっているんだ!! 恥をしれ、クソ妖精共!! つぎやったら娼館に売ってドワーフと寝かせるぞ!! 』

 

などと雷を落とされたらしい。

これには2人の妖精も小さくなり

 

『しゅみましぇぇん・・・』と言うほかなかった。

 

 

「悲しい・・・事件でした」

 

「リュ、リューさん達が・・・ドワーフと・・・!? い、いやだ・・・想像したくない・・・!! ドワーフとエルフのハーフってどんなのなんだ・・!?」

 

「ちょ、ちょっとベル!? 帰ってきてください!!」

 

「おい山吹、こいつ頭がポンコツだぞ!? おいクラネル、しっかりしろ!! そもそも亜人(デミヒューマン)同士で子は成せん!!」

 

 

周囲の妖精たちに辟易とした顔をしながら応対するリヴェリアを他所に、4人はギャーギャーワーワーと騒ぎ出していた。

 

 

「嗚呼、リヴェリア様! お会いできるなんて光栄です! 今日という日に感謝を! それもこれも、精霊達のご加護のおかげ!」

 

「冒険者などという蛮族どもの都にあって、リヴェリア様の華々しいご活躍は我々も耳にするところ!」

 

「蛮族って言われてますよ山吹さん」

「ちょと、私のどこが蛮族なんですか!?」

「もう忘れたんですか?」

「な、なんのことですか?」

「昨日僕に乱暴したじゃないですか。」

「言い方ぁ!!」

 

「貴方様こそ一族の誇り!セルディア様ご再来の言葉は正しかった!」

 

「・・・・・」

 

後ろでなんか騒いでいる同行者に、周囲で崇めてくるエルフたちに、リヴェリアは徐々に顔を曇らせていく。レフィーヤ曰く、『王族扱いを快く思っていない』という言葉の通りであった。

 

「はぁ・・・世辞はいい。祭事を取り仕切る長老と話がしたいのだが、どこにいる?」

 

 

リヴェリアのその言葉の後、騒ぎを聞きつけたのか、自身の頭よりも少し上まである杖を持ったチビっ子がやってくる。

 

「何の騒ぎじゃ? 誰か入ってきたのかー!」

 

「何だ、この子供は?」

 

「失礼な! わらわはリロ。儀式の元締めを任されておる。一時的ではあるが、この郷の長老のようなものじゃ!」

 

「えっ・・・! こんな小さな子が!?」

 

「小さい子とか抜かすなぁっっ!お主ら小娘どもより、ずっと長生きしとるわ! たわけめー!」

 

「私達より、年上・・・?」

 

小人族(パルゥム)との、ハーフか・・・?」

「ほら、やっぱり亜人(デミヒューマン)同士でもハーフがいるんじゃないですか!」

 

リヴェリアとベルがほぼ同時にそんなことを言うと、チビっ子エルフは、ただでさえプンスコしているところをさらにプンスコさせて声を張り上げた。

 

亜人(デミヒューマン)同士でハーフがなせるかぁ!! あとそこの白っこいの!なーに世界の神秘を知ったみたいな顔しとるんじゃ!わしは立派なエルフじゃ!!そんでもって何瞼閉じとるんじゃ! 開けんか!」

 

「そうだったな・・・いや、すまない。お前のような同胞がいたとは・・・」

 

「すいません・・・その、リヴェリアさん。」

 

「ん?なんだ?」

 

「なんか、不安になってきました」

「同感だな。包み隠さず本音を言うと、私も此度の宴・・・少々不安になってきた」

 

リヴェリアは珍しく目の前にいる『小さいエルフ』の存在に戦慄。

ベルは、『子供が取り仕切るの、大丈夫なんですか?』と不安を丸出し。子供ではないという言葉をしっかり聞き逃していた。

 

「なんだとコラー!! 喧嘩を売っとるなら買うぞ! シュ、シュ!」

 

「リヴェリア様に、なんて口の利き方を・・・!」

 

「お主がアルヴの王森を飛び出したお転婆娘だな!この秘境の管理を任せられているわらわも聞いたことがあるぞ!」

 

「なら話が早い。あらためて、我々は今宵の儀式のために郷を訪れた。参加の許可を貰いたい。」

 

そこからは、荒れに荒れた。

長老は、『わらわはお前ら王族が嫌いじゃぁ!』なんて言い出しては『黙らっしゃい長老!』と言われ『リヴェリア様ご参加に反対するものなどおりません!いるとすればそれは逆賊です!』などと言われ

 

「な、なんじゃ、王族(ハイエルフ)がそんなに偉いのか!? 長老であるわらわよりも!?」

 

「「「当然です!!」」」

 

そう言われて、長老は雷に打たれたようにショックを受けていた。

しかし、それでも、気に入らなかったのか、プンスコと怒りを露にし、けれど、怒れるエルフ達に怯えながらも、あれやこれやそれやどれやと説得され最終的に

 

「おい、王族(ハイエルフ)、参加を認めて欲しくばわらわについて来い!」

 

そう言って、集落とは少し外れた森へと案内された。

 

 

 

■ ■ ■

 

「あの、リヴェリアさん」

 

「ん?」

 

「どうして、儀式に参加するのに魔力が関係するんですか?」

 

「ああ、それはだな・・・」

 

「ふん! 白っこいの!エルフのくせにそんなことも知らんのか!」

 

「・・・・」

 

「その尖った耳をかっぽじってよーく聞いておれ。よいか? 儀式には、魔力が強いものがいればいるほど良い。霊薬実(タプアハ)は、参加する者の魔力によって、効果が強まるのじゃ!」

 

やはりまだ怒っているのか、長老は無知なベルを小馬鹿にするように下から『おぉん?』とメンチをきりながら、道中儀式についての説明をしてくる。ベルは少し、イラッとした。

 

そうして、ようやくたどり着いた場所には、オーブのようなものがフヨフヨと飛び回っていた。

 

 

「ほ、本当に精霊がいる・・・!?」

 

「今いるのは自我もないような下位精霊だが時折、意思の通じる精霊もいる。そやつらは、この郷と大聖樹が大層気に入っているのじゃ。

 

「精霊と意思疎通が出来るのか?」

 

「そんな大層なものじゃないわいっ。動物と戯れておれば自ずと何を思っとるのかわかるようになる。それと同じじゃ。」

 

「それでも、すごいですね・・・!『神の分身』とも言われる精霊となんて・・・!」

 

「わ、わらわくらいになれば当然じゃ!精霊郷に来るまで、厳しい修行を積んだからの!」

 

ニコニコと長老が『わらわのすごさ、わかったじゃろ?』とでも言いたげに笑みを浮かべていると、初めて見る光景に瞳を輝かせていたベルの周囲にちょっとした異変が起きていた。それに気がついたフィルヴィスは隣で成り行きを見守っているリューに声をかけた。

 

「お、おい・・・クラネルの周り、精霊が多くないか?」

 

「確かに・・・下位精霊でしょうが・・・」

 

「あ、あの、これ、なんで?」

 

「な、なぬ!? なぜ貴様、精霊に群がられてるんじゃ!?」

 

「・・・スキルか魔法か?」

 

「魔法・・・魔法・・・あっ!!」

 

「どうした、山吹」

 

「リ、リヴェリア様、みなさん、ちょっと耳を貸してください!!」

 

長老とベルを他所に、4人は集まりレフィーヤは自分の推測を話した。

それに気がつかず、まるで虫にたかられるように鬱陶しそうな顔をするベルに、長老は『こ、これ!精霊に手をあげるな!大人しくしとれ!噛んだりせん!ええい、瓶の中に入れようとするな!』と声をかけては『こ、こんなこと、わらわ見たことないぞ・・・お主、何をしたんじゃ!?まさか、お主も王族かぁ!?・・・これだから王族は!』と嫉妬していた。

 

 

「お、恐らくなんですけどあの子・・・『精霊の魔法』を行使できますよね?」

 

「あ」

 

「な、なんだ【疾風】。知っているのか?」

 

「あぁ・・・ええっと・・・・確かにあの子は1つだけ精霊の魔法が使えます・・・」

 

「まさか、それに反応しているのか?」

 

「可能性はそれしか・・・ないかと。ま、まぁ、その、襲われているわけではありませんし・・・」

 

「我々は、知らないフリをしておこう。説明が面倒だ」

 

エルフ達はレフィーヤの推測が恐らく正解だろうと納得し、長老には黙っておくことを決定。

何事もなかったかのように、リヴェリアは長老に声をかけた。ここに連れて来た理由を聞かせろ、と。

 

「ふんっ・・・ここは会場となる神聖な場所じゃが、周囲には不浄なモンスターもおる。せっかくの儀式に邪魔が入らぬよう、近辺のモンスターを追っ払ってまいれ!文句は言わせんぞ?ここではわらわが法なのじゃからなぁ!ヌハハハハハ!」

 

ということらしい。

 

「ふっ・・・王族扱いより、この方がはるかに気楽だ。喜んで協力させてもらおう。」

 

 

■ ■ ■

 

 

「だいぶ、片付いたな・・・」

 

「ベルが魔法で一掃していましたからね」

 

「そういえば今回、武器を持ってないんですね」

 

「森の中だと邪魔になると思って・・・」

 

「まぁ、槍は少し難しいでしょうね。」

 

「ナイフはあるけど・・・別に必要ないかなって」

 

「ま、まぁ・・・これでモンスターに儀式を邪魔される心配はありませんね。」

 

「・・・だが、これであの長老は参加を許可してくれるだろうか?」

 

 

既にどこか意地になっている長老のことだ、難しいだろう・・・とモンスターの退治を終えて集合した5人は語り合う。

 

「しかし同胞であそこまでリヴェリア様に反発する方がいるなんて思いませんでした」

 

「なに、エルフでは珍しいかもしれんが多種族や神々であればよくあることだ。」

 

穏やかな顔をして語るリヴェリアに、3人のエルフは再び集合。

ベルとリヴェリアだけなぜか取り残され、2人は2人で語らっていた。

 

「僕もリヴェリア様って呼んだほうがいいですか?今一応、エルフの格好してますし」

 

「やめろ。やめてくれ。アルフィアの格好でそんなことを言われては背筋が痒くなってしまう。」

 

「ま、さまかリヴェリア様の恋は・・・絶望的な片思い!?」

「相手がわからないぞ!? クラネルではないことは確かだ・・・あのリヴェリア様の横顔とクラネルの顔は、明らかに『親戚の子』『親戚の親』に対するソレなのだから。」

「いがみ合ってからの多種族婚はエルフの定番だと見た気が・・・アリーゼが読んでいた恋愛小説で!」

 

「おまえたち、何の話をしているんだ?」

 

「い、いえ!? 別になにも!? ね、ねぇ!」

 

「ええ、何も!下衆な勘繰りなどしておりません!」

 

 

よくはわからないが、エルフ達は崇拝すべき王族のリヴェリアに意中の相手がいるのであればそれは誰なのだろうか・・・?とそれはもう、興味津々だった。

 

「コホン・・・仮にですが、このまま儀式に参加できなかった場合、どうするのですか?」

 

霊薬実(タプアハ)を誰かに譲ってもらえるのなら、ありがたいが・・・気が引けるな」

 

「何をごちゃごちゃくっちゃべっておる! 化物退治が終わったのなら、報告せぬか!」

 

「あ、ごめんなさい! モンスターは無事退治しました」

 

「よし、大儀であった」

 

「じゃあ、これで参加させてもらえるんですよね?」

 

「それとこれとは話が別じゃ」

 

「は?」

 

「ひぃ!? 白っこいの、お前、圧を出すのをやめんか!」

 

「最初から認める気なんてなかったんじゃないですか?馬車馬の様に働かせるのが目的で・・・なんかそういうの、よくあるって聞きましたよ。」

 

ベルは女神から『都市は必ずしも治安が良いとは言えないの。人がいれば悪事を働く人は必ずでてくるわ・・・働かせるだけ働かせて、何も与えなかったり、報酬が少なすぎたりね?』という話をそれとなく聞いていて、今回のはそれでは?と何かとメンチをきって来る長老にイラッとして言い返した。これには長老は、一瞬ベルの圧にびびりながらも鼻で笑った。

 

「うわー!出たー!エルフにありがちな偏屈かつ攻撃的な自己妄想! 綺麗な顔と容姿をしてお主、全くモテんじゃろ?そうじゃろうそうじゃろう?」

 

「なっ!?」

 

「はぁヤダヤダ、これだから若いもんは~。一族の行く末が、わらわちょうしんぱーい。」

 

ベルは、さらにイラッとした。今のベルの姿は、アルフィアを若くしてエルフの耳をつけた状態だ。つまりは、ベルからしてみれば、アルフィアを、義母を馬鹿にされた気がしたのだ。

 

 

「お義母さんは別にモテないわけじゃない!!」

 

「ベ、ベル!?」

 

「生きて近づけた生命体が少なかっただけです!!」

 

「お、おいどうしたクラネル!?」

 

「お義母さんは!!」

 

「お、おい・・・少年・・・」

 

「喪女じゃない!!」

 

「ほ、ほぇ!?」

 

「お義母さん馬鹿にするなぁ!!」

 

「お、落ち着きなさいベル!! 大丈夫、あなたの義母は喪女ではありません!生きて近づけた生命体が少なかっただけです!!」

 

 

フーフー!!と顔を赤くするベルを背中を摩りながらリューは落ち着くように促すも、その瞼を閉じながら眉間に皺を寄せて怒りを露にする姿は、大抗争時に輝夜に歳のことを言われてキレかけたアルフィアのようだった。

 

 

「――そ、それで、参加の許可は?」

 

「ふ、ふーんなのじゃ。モンスターを追っ払ったら許可をするとは言っとらん!!」

 

「そ、それはそうですけど・・・」

 

「―――では、どうすれば認めて頂けるのか、教えてもらえないでしょうか?」

 

「ふーむ・・・そうじゃのぉ。この辺りには、精霊の訪れとともに多くのユニコーンが足を運んでくる。」

 

「―――落ち着いたか、少年」

「ごめんなさい、つい・・・あの、これ、噛まないですか?」

「噛まない噛まない。こう・・・優しくな? お前も『呼び寄せ』て見たらどうだ?」

 

「かのものたちは、滅多に人目に触れず、穢れなき処女としか接触を許さぬ貴重な存在じゃ。」

 

「結構来ましたね・・・」

「ああ。さすがだな・・・」

「リヴェリアさんにも寄って来てますね」

「そうだな。そうだ少年、いっそ名前でもつけてみたらどうだ?」

「でも、覚えられないですよ?」

「遊びだからいいんだ。」

「じゃ、じゃあ・・・」

 

「儀式に参加したいのなら、ユニコーンを探し出すくらいしてもらわねば! まぁ、無理だとは思うが――」

 

「ふふっ、くすぐったいぞ」

「えっと・・・この子は『赤兎馬』、角が長いのは『イッカク』・・・『バハムート』『ムシュフシュ』『じゃが丸君の元』『テンペスト』・・・」

「なんだ、随分、適当な名前が出てくるな? どこで知ったんだ?そんな名前」

「神様達が書いた本?が書店にあってそこに。天界で流行ってたのをテキトーに書いてるらしいですよ?」

 

「ん・・・?」

 

いつの間にか移動していた2人の声が聞こえ、振り向いてみればそこには、ユニコーンの群れが集まっていた。

 

「だぁぁ!?」

 

「リ、リヴェリア様とベルにユニコーンの群れが・・・」

 

「なにやら変な名前をつけている気がするが・・・しかし、リヴェリア様・・・なんと神々しい・・・」

 

「ベルは恐らくスキルを使ったのでしょうが・・・それ以前にリヴェリア様、ユニコーンの扱いに慣れているような・・・まさか、ダンジョンで調教の経験がおありで?」

 

「馬鹿を言え。王族の森でも飼っていただけだ。コツさえ掴めば誰でもできる。」

 

「いえ、普通に不可能かと・・・ベルみたいに、その、ズルみたいなことしないかぎり・・・」

 

「わ、わらわでさえも、近づくことしか出来んのにぃぃっ・・・!!」

 

リヴェリアに対しては、『さすが』『すごい』という声なのに対して、ベルには各々が『あ、こいつスキルで誘引しやがったな?』という反応を示していた。2人の違いをあえて言うならば、触れることができるリヴェリアに対して、ベルの場合は近づいても触らせてくれるものはおらず、見つめてはウロウロするのが数体いるだけだ。

 

「さ、さすがリヴェリア様・・・とクラネル。いや、その、やり方はどうかと思うがでかしたぞ。これで、先ほどの言質も・・・」

 

喜びの顔で歩み寄ってきたフィルヴィスに対して、ユニコーンたちは一斉に、ものすごい勢いで逃げ出した。これにはフィルヴィスもショックを受け、手が虚しく空をつかんだ。

 

「・・・やはり、私は汚れて・・・」

 

「そ、そんなことありません!ユニコーンたちは・・・えっと、ちょっと用事を思い出しただけです!」

 

「大丈夫ですよ、フィルヴィスさん! いつか胸のしこりも取れますから!」

 

「いいんだ・・・気を遣わなくても・・・あとクラネル。お前はいったい何の話をしているんだ!? 」

 

「気なんて・・・! だって、フィルヴィスさんも、汚れなき純潔の乙女じゃないですか!」

 

「ほぁ!? なっ、なっ、何を言ってるんだ、お前は!?」

 

「えっ、違うんですか!?」

 

「ディオニュソス様に泣かされてるんですかー?」

 

「おいクラネル!おちょくってるなら、買うぞ、その喧嘩!! お前を泣かしてやろうか!?」

 

「フィルヴィスさんは山吹さんに苛められてる僕を助けてくれる優しーい、お姉さんエルフでーす!」

 

「くっ・・・こ、こいつぅ・・・! というか2人ともなんということを口にするんだぁあああ!?」

 

「あっ・・・ご、ごめんなさぁーいっ!! あ、でも、リューさんもユニコーンが・・・」

 

「黙りなさい、山吹。でないと・・・私はいつもやりすぎてしまう」

 

「ひぅっ!?」

 

「何をやっているんだお前達は・・・」

 

「ま、まぁ・・・えと、これで儀式に参加させてもらえるんですよね?」

 

 

ベルが、『もう、いいですよね?』とユニコーンと触れ合うこれまた初体験による笑顔を向けると、長老はリヴェリアとベルに嫉妬したのか、プンスコと癇癪を起こし自棄になった。

 

 

「ならんならん!どうしてもと言うのなら、わらわを倒してからにせいっ!!」

 

その言葉に、ベルは一瞬真顔になり、もう面倒くさくなり、長老のまん前まで近づいて立止まり腕を組んだ。リヴェリア等エルフ達は長老を吹き飛ばすんじゃないかとヒヤヒヤしたが、それは杞憂となる。

 

 

 

「【学ばないな、貴様は。どれだけ私達に雑用をさせれば気が済む?エルフとは知識の種族ではなかったのか、弱輩?】」

 

その言葉に、『ん?』とリヴェリアは眉根をぴくっとさせた。

 

「なっ・・・! わ、わらわはお主より年上じゃぞ!? 話を聞いとらんかったのか!?」

 

「【ならばより手に負えんだろうが。世間知らずの年増、癇癪持ちのババアなど。】」

 

リヴェリアはさらに『んんん???』と目元をピクピクとさせ、いつかの戦いを思い出していた。それはリューも同じで、『あわわわわ・・・』とでも言うように顔を強張らせた。

 

「ぐぬぅ~~~~~~~~~!!」

 

これには長老も『良いパンチを食らった』レベルで顔を真っ赤にした。

ベルは相変わらず、瞼を閉じて涼しい顔をしていた。

 

( お義母さんなら、こう言う気がする・・・! )

 

「【倒せというのなら、倒してやろう。この噛ませ犬】」

 

「ぐはっ!?」

 

「【だいたい、儀式に参加するだけだというのに貴様・・・王族というだけでここまでさせているな?】」

 

「ぐふぅっ!? じゃ、じゃが・・・いやなものはいやなんじゃぁあ!!」

 

 

ベルはアルフィアが言いそうなことを長老にぶつけて行くも、何だか少し、楽しくなってきていた。それを見守るアルフィアを知る2人はなんともいえない顔をしていたが。レフィーヤとフィルヴィスはいつ止めるべきか、おろおろしていたが、長老の駄々をこねる声が聞こえたのか郷にいたエルフがやってきて雷を落とした。

 

 

「長老殿!! いいかげんになさい!!」

 

「ひぅ!?」

 

「リヴェリア様と・・・その、そこの精霊に群がられている方・・・がここまでしてくださったのですよ!!」

 

「じゃ、じゃが・・・」

 

「リヴェリア様は王家。ひいてはセルディア様に繋がるお方です。これ以上は、セルディア様の侮辱にもなりますよ!?」

 

「そ、そこまで・・・!? ぐぬぅ・・・わかったのじゃ・・・ぬぅううう・・・おい、白っこいの」

 

「・・・・なんですか?」

 

「良いボディーブロー・・・いや、言葉のジャックナイフじゃった。」

 

「はぁ・・・」

 

「じゃが、貴様が怒るとなんかこう、背後に見えるんじゃ・・・思わずチビってしもうた。」

 

「はぁ・・」

 

「じゃからお主―――」

 

 

長老は疲れたのか、けれど清々しい笑顔でベルに向き直りこう言った。

 

 

 

「儀式が終わるまで、郷の外で不埒な輩が来んように見張っとれ」

 

 

長老と兎。

 

その軍配は、兎にあがったが、兎は見張りをすることになってしまった。




ユニコーンは処女に寄ってくるらしいですが、『女装した男でも可』というのを最近どこかで見かけました。

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