兎は星乙女と共に   作:二ベル

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ギャグ・パートに真面目さを求めてはいけない。いいね?

※次の章からクノッソス&深層予定なので楽したい


ゾンビ・剣姫

 

 

「バリケードを補強する! 材料をくれ!」

 

「は、は~い!お願いしま~す!」

 

 

意外にも、ギルド本部は未だ混乱渦巻くオラリオにおいてその機能が生きていた。冒険者がバリケードの補強作業を行い、ギルド職員もまた、それに協力している。

【Zバスターズ】はその光景に、少しだけたまげた顔をした。

 

「裏口のバリケードも補強するっす!怪我人の方は大丈夫っすか?」

 

そこに、どこかで聞いたような口調の声が聞こえてきた。

 

「ん・・・」

「どうしましたベル?」

 

「あと数人で終わります。」

 

「使えそうなテーブルとか、とりあえず片っ端からバリケードにしましょ!」

 

「なんや? センサーに反応したんか?」

「ということは、私達の派閥でしょうか」

 

「さっすが私達の最高戦力! 頼りにしてますよ。【ハイ・ノービス】に【スカーレット・ハーネル】さ~ん!」

 

全員がその2名の二つ名に驚きの声を上げる中、

 

「!」

 

「あ、ベル!」

 

桃色髪のギルド職員の声が聞こえたとほぼ同時、一匹の白兎は白髪を揺らしてかけだしていった。そこには、赤い髪に緑の瞳の美女。そして、胡桃色髪の女神、白銀色の髪の美少女がいた。

 

「アリーゼさぁああああんっ! アストレア様ぁああああっ!」

 

白兎の声に、肩を揺らして反応した1人と1柱は声の方を向いて、ぱぁぁぁ・・・!と顔を明るくさせ、白兎を迎え入れるように両腕を開いた。そして、女神と姉に飛びつくようにしていった少年――計3名は

 

「「「ひしっ!!」」」

 

と抱きしめあい再会を喜んだ。

 

 

「皆さん!? どっから入ってきたんですか!?」

 

「ベル・・・いや、アルフィア!? いや、ベルよね。うん、私の可愛いベルぅぅぅぅ!良かった無事でぇぇぇぇ」

 

「お帰りなさいベル。こんなことになっててビックリしたでしょう?」

 

「えへへ・・・2人も無事でよかった!」

 

「ちょっとリオン!そんなとこにいないであんたも混ざりなさいよ!」

 

「い、いえ! 私は結構だ!」

 

「もう! 恥かしがり屋さんなんだからぁん! でもぉ、そんなリオンが、私は好きよ!」

 

「こ、こういう所でそんな恥かしいことを言わないでもらいたい!!」

 

「ちょいまちーや、えっ、ここの最高戦力がラウルとアリーゼたん!? 2人だけ!? 嘘やろ!?」

 

「Lv.6が1人いるだけで十分じゃねーか」

 

「いやいや、ゾンビに慢心はあかんで。ベートももう何回も見とるし経験しとるやん」

 

「・・・・」

 

ギルドにいたラウル、アミッド、 アリーゼ、そして女神アストレアと合流した【Zバスターズ】は状況を確認することになった。

まず、アリーゼとアストレアはロキとベートとはぐれた後、住人を各建物に入れバリケードを作ったりゾンビを追い払っていくうちにギルドに到着。するとそこにはすでにラウルとアミッドがいた。

 

「街中にギルドに向かうアミッドさんがいたんで、自分が護衛してたんすよ」

 

「ええ・・・こちらも状況が分かりませんでしたので、ギルドに行くべきと判断いたしました。」

 

「で、私達が来るまでは【超凡夫(ハイ・ノービス)】の彼がここでバリケードを作ったりして・・・まぁ、彼が最強戦力だったわ」

 

「ラウルが最強戦力て・・・しょぼっ。ラウルが作ったと思うと、途端にアカン感じするわー。こりゃそろそろ壊されてゾンビが押し寄せてくるで!」

 

「ヤメテ! 本当に傷つくからヤメテ!!」

 

「いやだって~ ゾンビものなら真っ先に死ぬタイプやろ? ラウルは。」

 

改宗(コンバージョン)・・・しようかなぁ。ベル君、そっち行っていいっすか?」

 

主神に玩具のように面白がられるラウルは、ションボリ顔で少年に相談するが、少年は、そして姉は割りとガチトーンで真顔で即答した。

 

「駄目です。」

「嫌よ。」

「帰りなさい。」

 

「そこまで!? ア、アストレア様はどうっすか!?」

 

「ええっとぉ・・・今後一層のご活躍をお祈り致します・・・。」

 

「ま、まさかのお祈りっすか!? それは辛すぎるっすよぉ!!」

 

即答で切り刻まれ、女神に困った笑みで『お祈り』されたラウルの悲鳴が、ギルド内の緊張を和らいでいく。

 

 

 

「あれ、でも何でアリーゼさんが来てからアリーゼさんが指揮を執らなかったんですか?」

 

「いやいや、後から来て指揮権を寄越せなんて言えないわよベル。仮にも彼、次期団長でしょ? なら、フィンさんがダンジョンにいる間くらい頑張ってもらわないと。それに彼、やるときはやるのよ?」

 

「お腹がキリキリするっす・・・」

 

「ほら、ちゃんとサポートしてあげたんだからしっかりしなさいよ」

 

「そ、そうっすね・・・アリーゼさん、ほんと助かったっす。」

 

「何してたんですか?」

 

「いやーそれが・・・」

 

バリケードを作っている最中、ギルドにやって来たゾンビ集団・・・所謂『襲撃イベ』をアリーゼ単独で突破。ゾンビ達を張り倒しては投げ、張り倒しては投げ、街灯に縛り付けたり建物に閉じ込めたり、周囲からバリケードに使えそうなものやら食料やらを調達してきたらしい。

 

「アリーゼさんすごい!!」

「これが・・・Lv.6!?」

「さすがアリーゼです」

「【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】・・・伊達にただの色ボケと言われてはいないな」

 

「もーみんなして褒めないでよぉ。そんなに褒めても、何もでないゾ☆」

 

「「「イラッ☆」」」

 

「ま、まぁまぁ・・・とりあえずアミッドさんも居て安心しました!」

 

「ええ・・・皆さんご無事で何よりです。」

 

「? アミッドさん、顔色悪いですけど、ちゃんと寝てますか?」

 

「え、ベル、わかるんですか? 私にはいつものアミッドさんにしか見えないですけど・・・」

 

「んー・・・気のせいなのかなぁ。でも、アミッドさんよく徹夜するらしいし・・・」

 

「んっんっ、だ、大丈夫ですベルさん。それより・・・着替え、できていないんですね」

 

「そんな暇なかったので・・・。」

 

 

アミッドは自分の分身とも言える、偽乳房と再会を果たしたが、その目はまるで自分の黒歴史を見ているようだった。少年に近づき、『触ったりしました? しましたよね? いえ、まぁ、水浴びとかするのであれば仕方のないことなのですが』と耳打ちするも返ってきたのは『レフィーヤさんに乱暴されました』という言葉。

 

▶聖女は白兎を背後に隠し、山吹族に警戒網を敷いた。

 ▶山吹族は必死に謝った。

 

 

わちゃわちゃとする冒険者達の中、みんなのママことリヴェリアが咳払いをして状況整理に戻る。

 

「アミッド、状況はどうなっている? 解決策は見出しているか?」

 

「それが・・・何も・・・」

 

「あぁ? 本当か? てめえが治せねえようだったら、誰にも治せねえだろ。」

 

「お恥かしい限りです・・・都市(オラリオ)最高の治療師(ヒーラー)と言われておきながらこの体たらく・・・ですが、私の魔法をいくら試してみても人々を元に戻せませんでした。今回の騒動の種は、毒とも呪詛(カース)とも異なる、未曾有の厄災・・・」

 

「そ、そんな・・・」

 

「ベルさん、あなたの魔法では治せませんか?【乙女ノ揺籠(アストライアー・クレイドル)】は、聞けば『怪物にされた人間』さえも治したと聞きます。」

 

「満月じゃないから無理ですよ・・・」

 

 

どうせ僕は役立たずですよ・・・とでも言いそうにしょぼくれながらアミッドの背後から白兎は答える。そして、やはりアミッドのことが気になるのか、なんども顔をチラチラ見ては、手を握ったり、首に指を当てたりしていた。

 

「ベル、【戦場の聖女(デア・セイント)】がそんなに気になるの?」

 

「んー・・・アミッドさん、いつ寝ました?」

 

「ええっと・・・」

 

「また徹夜してません?」

 

「すいません・・・少なくともこの騒動が起きてからは・・・」

 

「また深夜テンションでやらかしますよ?」

 

「うっ・・・」

 

▶白兎は寝不足な聖女様に説教をした。

 ▶聖女は落ち込んだ。

 

 

「にしても・・・【戦場の聖女(デア・セイント)】にそう言われると、一気に深刻さが増すなぁ。せや、アストレア、どうせなんもないと思うけど聞いてええか?」

 

「・・・何かしらロキ?」

 

「フレイヤは?」

 

その質問に、アストレアは人差し指を天井に向けた。

 

「バベルから下りてきてないわ。少なくとも、この騒動が起きる前と起きている今現在で、見たという情報はなし。騒動が起きていて『面白そうだから』と下りようとしても、【猛者】がそれを許さないでしょう」

 

「せやな。じゃあ、地上にいる眷族は?」

 

「そっちも特に変わりはないみたい。というか、ゾンビが近づかないみたい。怖いのかしら」

 

「まぁあいつらに近づいたらガチで殺されかねんしなぁ・・・個人的にはゾンビを魅了するとこ見てみたいでもないけども」

 

「魅了できるのかしら?」

 

「さぁなぁ・・・。んじゃぁ・・・ダンジョンはどない?」

 

「ダンジョンから上がってきた冒険者たちから聞いた話では異常はないみたい。むしろ、地上に上がってきて何が起きてるのか混乱していたわ。」

 

「そか・・・ああ、あと、『おやくそく』やろうけど・・・闇派閥は?」

 

人工迷宮(クノッソス)の出入り口は、【ガネーシャ・ファミリア】と私の眷族数名に見張りをさせてる。出て来たら拘束されちゃうし、下手に出てこれないでしょう。少なくともダイダロス通りに人はいないようにしているから、怪しい人物が見えたらすぐ捕まるわ。ちなみに、ゾンビが外に漏れないように、門は閉めたわ。たぶん、ベル達が帰って来たのとすれ違いになっていると思う。」

 

「あ!」

 

「どうしたのベル?」

「どないしたん?」

 

「僕、思いついたんですけど・・・ゾンビを人工迷宮(クノッソス)に流し込むのはどうですか?」

 

「「却下」」

「阿呆か」

「馬鹿兎」

「「ベル、正座」」

「彼等はまだ生きている、そんなことできるわけないだろう」

 

 

▶兎は満場一致で正座させられた。

何故?という顔をしていると、ラウルが近づいてきて耳打ちをして過去にあったことを教えてくる。

 

「いいっすかベル君。闇派閥(イヴィルス)は昔、自爆攻撃を仕掛けてきたことがあるんすよ」

 

「じ、自爆・・・」

 

「だから、自分の死を厭わない奴等にそんなことをしてもお構いなしに殺されるだけってことっす」

 

「コホン、ベル?」

 

「レ、レフィーヤさん?」

 

「貴方はそのぉ・・・私達のせいでショックで覚えていないかもしれませんけど、24階層でも自爆攻撃をしかけてきた人達がいたんですよ」

 

 

▶兎は自分の浅はかな考えを反省して土下座した。

 ▶リヴェリアは、土下座するアルフィアの姿にしか見えず、なんともいえない顔になった。

 

「とにかく情報が足りないわ。だから今、ギルドの子達に文献を調べてもらっているの。」

 

そこに、ハーフエルフのギルド職員が一冊の本を持ってやって来た。

彼女の名は、エイナ・チュール。ベル・クラネルの専属アドバイザーではあるが、『とりあえずアドバイザーになってもらっておきましょ、美人だし』という団長判断で決められたもののダンジョンに関する知識はファミリア内で教えてくれる人達がいるため、たまに顔を見せに行くレベルだ。

 

「みなさん!関係ありそうな手記を見つけました!」

 

「な、何やてぇ! ナイスタイミンスグやー!」

 

「エイナさん、お久しぶりです!」

 

「ベ、ベル君・・・また女装させられてるんだ・・・ああ、うん、久しぶり。あ、女神アストレア、どうぞ」

 

 

アストレアは手記を手に取り、開き、咳払いをして読み上げていく。

 

 

『――国のお偉いさんが無茶言い出した。こんな低予算で魔導ゴーレムを作れと言う。無茶だ。ここは魔法大国じゃない』

『動力源をどうこう言われたけど知るか。伝説の天の炎でも持って来いと言ってやった』

 

 

「・・・・ごめんなさい、読むところ間違えたわ。」

 

「やろうな。なんかおかしいと思ったわ。それ、ダイダロスの手記ちゃうやろな?低予算で1000年かけてあんなん作ってたりしてへんよな?」

 

「人件費いくらなのかしら・・・」

 

「ウチ思ったんやけど、あそこ奪って避難所とかに活用できひんか?」

 

「んー・・・掃除に時間がかかるんじゃないかしら?」

 

「あー・・・やっぱり?」

 

「でも、案としてはありかもしれないわ」

 

「あ、あの! 続きは!? 続きはどうなったんですか!?」

「魔導ゴーレムは完成したんですか!?」

 

 

読むところを間違えたというのに続きが気になる兎と山吹色妖精に、女神2柱は困ったように笑ったので、オチだけ伝えた。

 

『やっべー、エピメテウス来ちゃったよ、やっべー!めっちゃ怒ってる!やっべー!』

『あ、設計図燃やされた。でも、なんかスッキリした。うん、ありがとう大英雄!』

 

「・・・おわり。」

 

「「おわり!?」」

 

 

「んなことどうでもええから、アストレア、読み直してぇな」

 

「そうね・・・」

 

『―――ついに完成した。意識も恐怖も持たぬ『生ける死人』、いわゆるゾンビを生成する秘薬が。』

『この秘薬で作り出されたゾンビは、■■■■■■や体液の交換で爆発的に拡散していく。』

『都市に満つ恐慌、阿鼻叫喚の混乱。未曾有の混沌に見舞われる日も近い。』

『惜しむらくは■■■■■■という『第一感染者』の血清を使えば秘薬の効果は消失されてしまうということだが・・・』

『むしろ、それが我々の切り札となる』

 

「予想した通り娯楽に飢えきった神の悪戯か・・・」

 

「神様って碌なことしないんですね・・・」

 

「ベ、ベルがゴミを見るような目に・・・な、何をされたんですか貴方・・・!?」

 

「・・・・内緒」

 

「そ、そんなぁ!」

 

「しかし、この手記はどう見積もっても数百年前のもの・・・どうして今更・・・」

 

「当時、何かしらの事情で頓挫したんじゃないかしら。そして、眠っていた秘薬を誰かが掘り起こした・・・蔵書に所々、汚れや虫食いはあるけれど、肝心な部分は残ってて良かったわ。」

 

「『第一感染者』の血清・・・これが皆さんを元に戻す鍵に違いありません。」

 

つまり、外に溢れてるゾンビの中から、最初に感染した人を探し出さなければならないということ。それがわかると、全員が黙った。

不可能だからだ。誰が最初に感染したかなど、調べようがない。

 

しかし、一匹の狼は吠えた。

 

 

「やるしかねぇだろ。『冒険』にも種類がある。今、必要なのは、砂漠の中から砂金を見つけ出す類の『冒険』だ。」

 

「リーダー・・・」

「ベートリーダー・・・」

 

「ベートさんって、時々哲学言うっすよね・・・見かけによらず。」

 

「意外ね。見かけによらず。学ばせてもらったわ!」

 

「普段の粗暴さから出る言葉とはとても思えません・・・見てくださいアリーゼ、あのベルの尊敬の眼差し」

 

「くっ・・・私のベルを取ろうとするなんて、許せないわ! 駄目よ、『狼×兎』なんて!! お姉ちゃん認めないわ!」

 

「聞こえてんぞテメェら!!」

 

「せめてゾンビが溢れだしたんがいつ頃なんか、兆候があったんかは知っときたいなぁ。」

 

話を聞けば、情報を割り出せるのではないか、とエイナが提案し避難民に情報を聞いてみることにした。

 

「あれ、エイナさん? 手、怪我してますよ?」

 

「ほんとだ、エイナ大丈夫?」

 

「えっ? あ、本当だ・・・いつの間に。本を探してるとき、切っちゃったのかな?」

 

「チュールさん、見せてください。傷を塞ぎます。」

 

 

いつの間にか怪我をしていたエイナを、ベルと彼女の友人ミィシャが気付き、それをアミッドが治療する。その間に、聞き込みを始める。

 

 

■ ■ ■

 

―――聞き込みの結果、突如混乱に襲われたが故に情報はバラバラで異変の兆候は掴むことはできなかった。

 

「え・・・? ちょ、ちょっと! しっかりして!」

 

「・・・何だ?」

 

聞き込みの結果を報告しあっていると、女冒険者の1人が声を荒げた。そちらに目を向けると、彼女の仲間がどこか痛みでも感じているかのように呻き声を発しており――

 

『ゥアアアアアアアア!!』

 

「きゃぁあああああ!?」

 

 

体をゆすって心配していた女冒険者は、突如襲い掛かってきた仲間に、『ガブリ』と噛み付かれてしまった。

 

「なっ!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

「まさか、ゾンビか!? 襲撃イベントか!?」

 

「おかしいわ、ここに噛まれた人間はいなかった!私達が徹底して調べたわ!なのに、なぜ!?」

 

「ア、アストレア様、お、お胸を隠して!?」

 

「ベル、あなたは落ち着きなさい!!女神デメテルのことは忘れなさい!!」

 

「デメテルやられちゃったの!?」

 

『あああぁぁぁぁぁ・・・』

 

瞬く間にゾンビは増加。

被害を止めることもできず、冒険者も一般人も次々にゾンビ化していく。

 

「恐れてた事態が起こったか・・・!今までより数十倍はタフになったと思うんや!」

 

 

爆発的に増えていくゾンビに、バリケードによって『城』だったギルド本部は今や『檻』へと様変わり。

 

「【超凡夫(ハイ・ノービス)】じゃ駄目だったの・・・!?これが彼の限界だと言うの・・!?」

 

「これ以上、自分の胸を抉らないでほしいっす!?」

 

「に、逃げないと・・・エイナさん! ミィシャさん!・・・って・・・そ、そんな!?」

 

「どうしたベル!?」

 

エイナとミィシャの名を呼び動揺する少年に、エイナと親交のあるリヴェリアは振り返った。

しかし、しかしもう手遅れなのだ。いつの間にかエイナはゾンビになり、ミィシャに噛み付き、ミィシャもまたゾンビになった。

 

 

「・・・エイナ・・・そんな・・・お前まで・・・」

 

『ベル君・・・ドウシテェ・・・会イニ来テクレナイノォ・・・私・・・アドバイザーナノニィ・・・』

 

「ひぃ!?」

 

「べ、ベルがまた捕まりました!?」

 

「「また!?」」

 

▶哀れな兎はエイナゾンビに捕まり、床に押し倒された。

 ▶エイナゾンビは哀れな兎の首筋に噛み付いた。

 

『ベェルゥクゥ・・・ゥン・・・』

 

「んにゃぁああああああああ!?」

 

「「「「べ、べるぅううううう!?」」」」

 

「感染経路は何なのですか!! わからないっ、何もわからない・・・! 一体なにが・・・!」

 

「おい、兎は無事だろうが、さっさと回収しやがれ!!」

 

「くっ・・・すまない、エイナ・・・!」

 

ベートに促され、リヴェリアはエイナを杖で引き剥がし、兎を回収。小脇に抱えそのままギルド本部を脱出する。

 

「安全な避難所でパニック発生・・・これもゾンビものならではやけど、ちょい洒落にならんなぁ。」

 

「行きましょう・・・生存者は、もう我々だけのようです。」

 

「しゃあない!【Zバスターズ】、ここの拠点は放棄! ズラかるでー!」

 

「アストレア様、抱えます!乗ってください!」

 

「お願いするわアリーゼ。」

 

「何が原因で感染するのか、もうわからねえ! 掠り傷1つもらうんじゃねえぞ!」

 

 

▶ギルド本部は、大量のゾンビの収容所と化した。

 

 

■ ■ ■

 

 

「ギルド本部も落ちた・・・ここからどうするっすか!?」

 

 

一行は再び、建物の屋根に。

リヴェリアはベルを降ろし座らせ、アミッドが噛まれた箇所を確認する。

 

「ベルさん、大丈夫ですか?」

 

「な、なんで僕・・・デメテル様に狙われたり・・・エイナさんに狙われたの・・・!?」

 

「デメテルはわからんけど・・・エイナたんは会話しとったんやから、それで『気付いてる』判定になってもうたんちゃうか?」

 

「それよりベル・・・なんともないの?」

 

「アリーゼさん・・・なんか、背中のスキルの項目が熱いです。デメテル様のときもそうでした」

 

「ベル・・・ちょっと見せてね? 指でなぞるから、どこが熱いか教えてくれる?」

 

「はいぃ・・・アストレア様」

 

 

アストレアはベルの背後に回り、神血を垂らしステイタスを確認。そして、やはりと言うべきか、ベルが熱いという項目は

 

聖火巡礼(ペレグリヌス・ウェスタ)・・・これで守られてるみたいね。」

 

「っちゅーことは、アストレアも安全なんちゃうか?」

 

「アミッドちゃん、ベルの体は大丈夫そう?」

 

「ええ・・・すこし熱っぽいですが、スキルが発動しているせいでしょう。」

 

「僕、なんだか女の人に襲われてばかりな気が・・・ね、レフィーヤさん、フィルヴィスさん」

 

「しゅみましぇぇん・・・」

「返す言葉もない・・・」

 

「ちゅーかアストレアぁ。ついウチもチラッと見てしもうたけどこの子、ランクアップできるやん。何でせえへんの?」

 

「だって・・・まだ伸びそうだし・・・ベルはまだする気なさそうだし・・・神会でイジられそうだし・・・」

 

「ベルさん、本当に平気ですか?」

 

「僕はアミッドさんが気になるんですけど・・・」

 

「へっ!? わ、私ですか?」

 

「アミッドさん顔色、やっぱりおかしいような・・・むー・・・」

 

「あ、あの・・・顔、近いです・・・」

 

あまり表情を変えない彼女の顔色を、『なんとなく怪しい』と見つめ続けるも、暗いこともあってよくわからず結局少年はアミッドの顔を見るのをやめて、街に視線を回す。

どうやらゾンビたちは高い場所に飛ぶことはできないらしく、屋根の上は安全だった。

 

 

「あれ」

 

「どうした、クラネル?」

 

「あそこ・・・あれって『豊穣の女主人』の制服・・・」

 

「む・・・あれは・・・シル? なぜ、あんなところに」

 

 

少し離れた建物の屋根の上に、『豊穣の女主人』の制服を着た、薄鈍色の髪の少女。シル・フローヴァを発見。友人関係でもあるリューが、屋根を飛び移り、シルの元へと向かっていく。

 

 

「シル!」

 

「リュー! 無事だったの!? よかったぁ」

 

「そんなことより、なぜこんな屋根の上で1人なのですか?」

 

「え~っと・・・助けてくれた方々がいたんだけど、今は離れ離れになってて・・・あ・・・そうだ。リュー、お願いします! ルノアを助けて!」

 

「ルノア・・・ルノア・ファウストですか?」

 

 

■ ■ ■

 

 

シルを回収後、【Zバスターズ】はゾンビがいない路地裏に降り立ち、事情を聞いた。

 

 

「それで、ルノアさんまでおかしくなったんですか、シルさん?」

 

「はいベルさん、地下水路を掃除中に・・・私を助けてくれた人達にもお願いして、探してもらっているんですけど・・・」

 

「へぇ・・・あの【黒拳】を傷つけるゾンビがいるなんて・・・。彼女って確か・・・私の覚え間違いじゃなければ、Lv.4よね?リオン?」

 

「ええ、間違いないかと。」

 

「え・・・ゾンビ? ルノアは、誰にも襲われてないですけど・・・?」

 

「どういうことですか?」

 

レフィーヤの質問に、シルは思い出しながら語り出す。

 

曰く、昨日の夕方頃に一緒に地下水路を掃除中、急に唸り声を上げ出したという。

 

「すまない、私達ではその時のオラリオはわからない。どうだったんだ?」

 

「ええっと確か・・・まだその時は平穏だったと思うわ。ロキ様と一緒に本拠にいたし。」

 

「そしてゾンビが爆発的に増え始めたのが日が傾いて暗くなり始めた頃でしたので・・・彼女が第一感染者の可能性は高いです。」

 

「地下水路のどこで逸れたのかわかるかしら?」

 

「ええっと・・・ダイダロス通りの近くの場所で。子供達がよく遊び場にするので、危険がないように柵を用意してて・・・あ、でも、立ち入り禁止になっているところには入ってないですよ?ギリギリ外の所です」

 

「まーた、面倒なところに・・・。確か前の孤児院はダイダロス通りにあったんだっけ」

 

 

次なる目的地が決まったその時、バキバキバキィ!!と破壊音が鳴り響く。一同は、シルと女神を守りながら周囲を警戒。

 

「あれを見てください!近くのバリケードが・・・破壊されています!」

 

レフィーヤが指を指した場所は無残にもバリケードが破壊されていた。

それは1つや2つではなく、次から次へと大きな破壊音となって街中に響き渡る。

 

『あー、うー・・・、あー・・・』

 

破壊音と共に聞こえてくるのは、バリケードの中に居たであろう街人の動揺と悲鳴。バリケードが破壊されたがために、そこに徘徊するゾンビたちが雪崩れ込み街人がまた1人、2人、3人とゾンビにされた。

 

『・・・あまる、くぅん・・・』

 

 

それはまるで、暴風のようだった。

暴風が街を暴れ周り、バリケードを破壊する。

【Zバスターズ】はシルをその場から逃がし、接近する暴風に構える。

 

「おいおい・・・おいおいおい!ちょい待ちっ、この感じ、まさか・・・!」

 

「ロキ、下がってろ!来んぞ!」

 

「アストレア様も下がってください!」

 

『――うぁあああああっ!』

 

土ぼこりをあげ、ついに街中を暴れまわっていた暴風は降り立った。

 

「う、嘘ッす・・・」

 

「・・・いよいよ悪夢の域だな。 彼女まで、とは。」

 

雲が晴れ、欠けた月が、街を照らす。

降り立った暴風を――彼女を映し出す。

その装いは普段とは違い、ラフなもので、しかし暴れまわっていたせいなのかところどころ破れている。

 

『・・・じゃがまる、くぅぅぅぅぅん・・・』

 

 

その名を、【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「アイズさん!?」

 

「ほ、ほら! やっぱりアイズさんは空を飛べるんですよ!!」

 

「わ、私だってやればできるわよ!」

 

「アリーゼ、変に対抗意識を燃やさないでください!!」

 

「そんな、信じられません・・・!アイズさんまで・・・!」

 

「どうなっているのかしら・・・? 彼女がそう簡単にゾンビにされる・・・いえ、傷つけられるとは思えないのだけれど」

 

「とりあえず、今のあの子に好き放題されると洒落にならないわ!【凶狼】、止めるわよ!」

 

「わかってんだよ、そんなことは!」

 

『あー、うー・・・・? ――うぅぅ!』

 

瞬間。

ドゴォォン! という音と共にベート・ローガは、ゾンビ・アイズに吹っ飛ばされ近くの建物に突っ込んだ。

 

「――!! ちぃっ!?」

 

「ちょっとちょっと・・・【凶狼】は同じLv.6でしょ!? それを一撃で!?」

 

「あかーん! ゾンビになって、アイズたんのリミッター吹き飛んどるんかー!?」

 

「つまり・・・全力の【剣姫】が、敵に回ったということ・・・?」

 

「・・・本気か。今のてめえは、本気なんだな、アイズ?」

 

『うー、あー・・・?じゃがまるくぅん?』

 

▶ゾンビ・アイズは、戦線を離脱した。

 

 

「じゃが丸くんと言っていたが・・・まさか、じゃが丸くんを探して、都市を無作為に・・・?」

 

「! フィルヴィスさん、リューさん、ヘスティア様からじゃが丸くんを貰って来て下さい!」

 

「何か考えがあるのか、クラネル!」

 

「逃げられるなら、じゃが丸くんで誘い出せばいいんです! それで閉じ込めておきましょう! 頭から吊るして、大人しくなってくれたら嬉しいです!」

 

「うん! 考えはお馬鹿な気がするけど、ちょっとその光景見てみたいから、2人とも、お願い!」

 

▶2人の妖精は、【ヘスティア・ファミリア】の本拠兼孤児院に急行。

 

 

「めちゃくちゃやで、アイズたーん! 飛び回るゾンビとか、イメージぶち壊しすぎや!」

 

「孤児院は無事なのか・・・?」

 

「たぶん、『おやくそく』だから・・・無事だと思うわ」

 

「はぁ、まったく・・・私はもう頭が痛いぞ・・・」

 

「・・・ひとまず、この場所から離れるで。チーム分けなあかんしな!」


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