兎は星乙女と共に   作:二ベル

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配置やら、読み返して確認してるけど、頭痛くなりそう。
滅茶苦茶になるかもしれないので、今のうちに謝っておきます。


ごめんなさい。


忘れられた異端児

「君・・・よく、今まで誰にも気付かれなかったね?」

 

 

それは、作戦当日の朝のこと。女神が眠っている間に珍しく目が覚めた少年は、まだ静寂が包むオラリオの街を散歩していた。

 

聖火巡礼(ペレグリヌス・ウェスタ)というスキルを発現して以来、ある程度1人で行動ができるようになってからというもの、実験的に散歩を行っている。もっとも、心細くなったり、暗い場所を見たり入ったりするとしきりにスキルが『早く帰れ!』とでも言うようにうずくというか妙な感覚があり少年はすぐに本拠に逃げ帰り眠れる女神のもとに潜り込むのだが・・・・ちょっとした散歩ならできるようになった。

 

そんな少年は偶然にも、酒場の街娘、シル・フローヴァに出会い

 

『ベルさん、ちょっと・・・調べて欲しいことがあるんですけど・・・』

 

と自分より少し背の高い年上の女性に、潤んだ瞳にしゃがみ込んでからの上目使いでの懇願をされ、少年は逃げ場なく『お願い』を聞き入れてしまい、早朝デートを行う羽目になってしまった。真っ白なワンピースを着た彼女と訪れたのは現在は【ヘスティア・ファミリア】が運営する孤児院『竈の館』の前――つまりは、旧孤児院なのだが、そこの子供達が以前より『呻き声みたいなのが聞こえる』と言うらしく、そこに連れて行かれた。手を繋いで。腕を組んで。なぜか。

 

 

「こういうのを、影が薄いって言うんだよ・・・きっと。」

 

『・・・・ウ・・・ゥ・・・』

 

「とりあえず、コレ、食べて。お腹空いてるでしょう?」

 

『ウグルゥ・・・・』

 

「シルさんの手料理だよ。大丈夫、食べれないわけじゃないから」

 

 

少年は教会の裏庭から廃墟の海を上り、スキルで反応を感じる場所、瓦礫の密集地帯に向かっていきシルに近づいてこないように言いつけ、瓦礫を退かして行ったところいつだったか見た覚えのある石畳が露出。微妙にずれた石版の扉に指をひっかけ引き剥がす。そうこうしてちょっとした探検になりつつも先に進んでいくと、いたのだ。

 

人でもない、動物でもない存在が。

 

 

『モグ・・・・モグ・・・ングッ!?・・・・ブルッヘァッ!!?』

 

ビチャッ!! ビチャビチャッ!!

 

 

「あ・・・あぁー・・・うん・・・やっぱそれが正しい反応だよね・・・」

 

『ングルァッ!?』

 

「ご、ごめん!! ごめんね!! こ、今度!! 春姫さんに『かつどぅーん』っていう料理作ってもらうから!! 美味しいんだよ、春姫さんの料理!!」

 

『ンフー・・・ンフー・・・・・』

 

 

シルから受け取っていた魔石灯を向けたところにいたのは、ねじれ曲がった二本の大角、黒の体皮、赤の体毛、そして巨大な体躯。牛頭人体(ミノタウロス)に似た二足二腕の構造、大型級に匹敵する肉体の持ち主――バーバリアンだ。

 

 

「わーベルさん、モンスターとお話できるんですねー!」

 

「シ、シルさん!? 来ちゃだめって言ったのに!!」

 

「えー・・・あんなところに女の子置いて行っちゃうんですかぁ? ひどいなぁベルさん」

 

「うっ・・・・」

 

「廃墟に置き去りにされた女の子は、ゴロツキな男達に慰み者にされるのでした・・・ちーん」

 

「やめてくださいよぉ! もうっ、いていいですから、その、やめてくださいっ!」

 

「やったぁ! えいっ」

 

「ちょ、なんで抱きつくんですか!?」

 

『・・・・・・』

 

「ほら、お似合いだって言ってますよ! きゃっ!」

 

「言って無いですよぉ! シルさんはやっぱり魔女なんだぁ!」

 

 

いつからいたのかわからない彼は、普通のモンスターではないことはわかりきっていていきなり現れた少年に驚いて『咆哮(ハウル)』を放とうとするも極度の空腹状態で力が入らず、『もう好きにして・・・』と諦めたようにぐったりとしていてそれに対して少年は

 

 

『もしかして・・・同胞の人?』

 

『・・・・・』

 

『リドさん、グロスさん、レイさん・・・』

 

『・・・!』

 

『ラーニェさん、ラウラさん、フィアさん』

 

『っ!!』

 

 

異端児であると判明し、自分は敵でないことを明かして『食べれるもの』を与え人心地・・・人心地?ついてから、この目の前の巨体のバーバリアンに『影が薄い』と謎に評価した。

 

 

「ベルさん、どうするんですか? この子・・・【ガネーシャ・ファミリア】に伝えます?」

 

「うーん・・・でも、もうすぐ・・・だしなぁ・・・」

 

「?」

 

「あ、いや・・・なんでもないんですけど・・・。うーん・・・もう少しだけ我慢してくれるなら、知り合いに頼んで18階層まで連れて行ってもらえるように頼んでみようか?」

 

『・・・・・』

 

ダンジョンに帰るなどもとより諦めているのか、力なく俯く彼にうーん・・・と唸る少年。【ガネーシャ・ファミリア】にお願いして、ケージに入れて人目の少ない時間を狙って運ぶというのは悪くないと思うんだけどナーとない頭で考える。あるいはいっそのこと作戦に混じって人工迷宮(クノッソス)に突っ込んで愚者(フェルズ)に合流してもらうか。

 

 

「フェルズさんにお願いしてみようか? もちろん、危険だから・・・無事に帰れる保証はないけど・・・君なら臭いでわかるでしょ?」

 

『・・・・・ゥ』

 

「たぶん、君が来た通路を逆に戻っていけば入れるとは思うけど・・・」

 

『・・・!』

 

「あ、忘れてたんだ・・・」

 

「ベルさんベルさん」

 

「?」

 

「モンスターの言葉、わかるんですか?」

 

「わからないですけど・・・なんとなく、というか・・・普通のモンスターじゃないから、なのかなぁ。」

 

 

その後、一度本拠に帰還した少年は春姫をゆすって起こし、『かつどぅーん』を作ってもらい、それをバーバリアンに謙譲。彼は親指を立てて『美味』を証明。危険を承知で人工迷宮(クノッソス)に潜っていき、少年はファミリアが所持している眼晶(オクルス)愚者(フェルズ)に連絡し、あとは『神のみぞ知る』・・・いや、『怪物のみぞ知る』に委ねることにした。

 

ちなみに、シルも春姫の横で一緒に『かつどぅーん』を作っていたが、なぜか真っ黒になっており、『ダークマター』を生成。偶々起きてきた1人のエルフが犠牲になった。滋養強壮にいいらしい。春姫は泣いた。何をどうすればそうなるのか・・・と。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

都市南東部、『ダイダロス通り』は物々しい空気に包まれていた。武装した冒険者に、多くの憲兵。前者は都市の秩序を守る【ガネーシャ・ファミリア】で、後者は『ギルド』の職員である。現在、この貧民街(スラム)の住民達は誰一人としていない。

 

表向きは街の修繕のため。『武装したモンスター』の一件によってなんやかんやと建物に被害がでていた『ダイダロス通り』の復興を進めるという名目のもと、一般人は『ギルド』の指示で現在、都市北西の仮設住居に移っている。

 

真相は、今より始まる『攻略作戦』に巻き込まないようにするため。

 

【アストレア・ファミリア】はここ最近、『ダイダロス通り』に人が入り込まないように【ガネーシャ・ファミリア】と協力して重点的に目を光らせており、仮に指示に従わない無法者がいればことごとく捕らえられ、強制退去させられる。聡い者は気づいただろう。喧騒を広げる周囲の区画に対し、この『ダイダロス通り』から不自然なほど一切の音が消失していることを。

 

そんな『ダイダロス通り』の中、【ロキ・ファミリア】を中心とする突入部隊がいる地下――人工迷宮(クノッソス)の『扉』と面する『地下の隠し通路』、冒険者がひしめく中で白髪の少年は、正座させられていた。

 

 

「ベェェェルゥゥゥゥ?」

 

「・・・・・あぃ」

 

「最近、早く起きたら散歩しているのは知ってるけど、今日は随分、長い散歩だったみたいじゃない?」

 

「うっ・・・」

 

「いつもなら一緒に寝てるはずなのに、『ベルがいないの!!』って大慌てだったわよアストレア様」

 

「はうっ」

 

「アストレア様が!『ベルにおはようのキスしてもらっていないの!!』って言ってたわよ?」

 

「や、やめて! こういうところで言わないで!っていうか何で知ってるの!!?」

 

「あら、ほんとにしてたのね。何となく言ってみただけなのに」

 

「んなっ!?」

 

 

周囲には、【アストレア・ファミリア】だけでなく【ロキ・ファミリア】の団員もおりすぐ近くには、アマゾネスの姉妹に、【ディアンケヒト・ファミリア】の聖女様もいて各々が談笑してる。先日のゾンビ騒動で対呪詛専用の秘薬の製薬作業に遅れが出たことを謝罪するもアマゾネス姉妹のやり取りに、微笑み、そして、近くでお説教されている少年を見て、やれやれ・・・という顔をした。

 

 

「・・・なんでカツどんを春姫にお願いしたのよ。まさか、勝負飯的な?」

 

「ち、ちがう」

 

「あ、ちなみに私、今日は『赤』を着けてるわ! 勝負下着よ、フフン!」

 

「そ・・・そうなんだ・・・」

 

「ちょっと、何よ。こっち見なさいよ。」

 

「まぁまぁアリーゼ、その辺にしてあげて・・・皆に見られているわよ? ほらベル、まだ食べていないなら食べておきなさい。」

 

女神にクロワッサンの入った紙袋を渡されて1つとり、むぐむぐと食べては、そそくさと女神の背後に隠れ、赤髪の姉から逃げる少年。アリーゼ他、姉達はやれやれと首を横に振り怒ってないから理由を話せと促すと早朝の出来事を聞かされた。

 

 

「旧孤児院の近くに、『人工迷宮(クノッソス)』の地下通路らしいのがあって?」

 

「そこにバーバリアンの異端児がいて?」

 

「春姫の『カツどん』を食べて、危険を承知で帰って行ったぁ!?」

 

 

姉達は頭を抱えた。

この子は朝っぱらから何をやらかしているのか・・・と。

だから、リビングでやたらゲッソリした金髪妖精と、ボコボコ音を立てる謎の『料理(危険物)』があったのか・・・と。

 

 

「ベル・・・お願いします・・・シルを・・・シルを・・・本拠につれてこないでください・・・」

 

「リュ、リューさん・・・大丈夫?」

 

「え、えぇ・・・まさかこんなことで回復薬(ポーション)を使う羽目になるとは・・・ぐぅ・・・す、すいませんベル、その飲み物を分けてください。あと少し休めば回復するので」

 

「あ、うん。どうぞ・・・ご、ごめんね?」

 

お腹を摩る金髪妖精に体を横に傾けて覗き込んで謝罪すれば、すぐに顔を赤くした金髪妖精は『だ、大丈夫でしゅ・・・』などと意味不明な返答を返し少年から飲み物を分けてもらい補給。一応の一段落がついたところに、聖女様とアマゾネスの少女達が少年達のもとにやってきて挨拶をしてくる。

 

本日の都市最高の治療師と名高い彼女の衣装は、普段の【ファミリア】の制服ではなく、ともにダンジョンへもぐる際にティオネやベル達がよく目にする戦闘衣ですらない。白を基調とした『法衣』。階層主戦を始め、アミッドが一介の治療師ではなく【戦場の聖女(デア・セイント)】として出向く際に見に付ける()()の戦闘装束に違いない。手には水晶の長杖、腰の帯や小鞄には治療系の道具が備わっている。

 

「へー・・・アミッドちゃん、それ、ガチなやつじゃない」

 

「ベルとは正反対の色でございますねぇ」

 

「まぁアタシ等は全員、黒っぽいのをつけてるしなぁ・・・このローブ。」

 

「アミッドさんも一緒の部隊なんですね?」

 

「はい。フィン団長と協議させて頂き、この北東の部隊に配備してもらいました」

 

 

少年に頷き返しながら、アミッドは複数の【ファミリア】が混合した部隊を見回した。

突入部隊は、全ての勢力が一箇所にまとめられているわけではなく、複数箇所存在する人工迷宮(クノッソス)の『扉』の前に分けられていた。

 

 

「ベルさんも、少し武装が加わりましたか?」

 

「うん。『ユニコーンの角』と『ゴライアスの硬皮』で作ったグローブに、槍にナイフに篭。」

 

「変わった武器ですね・・・投擲して使うのですか?」

 

「うん。ヴェルフが持って行っておけって。」

 

「なるほど・・・」

 

それぞれの場所で、それぞれが今より始まる攻略、その前哨戦のときを待っている。

最優先目標は『精霊の分身(デミ・スピリット)』の発見。

もう1つは、敵首魁の確保。

 

 

「さ、肩の力を抜いて、深呼吸よベル」

 

「う、うん・・・・」

 

「大丈夫・・・全員が同じ場所にいるわけじゃないけど、輝夜とライラがあんたと一緒にいるから、あんたはあんたで暴れなちゃいなさい」

 

「すぅー・・・・はぁー・・・・」

 

「無事に帰還したら、みんなで美味しいご飯を食べましょう。春姫、留守番お願いね」

 

「はい、アリーゼ様・・・ベル様、お気をつけて」

 

「うん、行ってます。春姫さん、アストレア様」

 

「みんな、気をつけてね」

 

「ここにいるリオン、輝夜、ライラには改めて伝えておくわ! 地上に待機組のアスタ、リャーナ、ネーゼは【ガネーシャ・ファミリア】と『ダイダロス通り』に侵入者がないように警備。それ以外の突入部隊は【ディオニュソス・ファミリア】に目を光らせておきなさい。」

 

「「「了解」」」

 

「輝夜、ライラは特にベルのことをお願い。離れてもこの子ならすぐに見つけて戻ってくるでしょうけど・・・気に留めておいてあげて。」

 

「わかった」

「あいよ」

 

それぞれの場所で、見送りなり、激励なりと済ませ、やがてやってくる時間。

 

「―――総員、準備」

 

そして。

始まりを告げようとするフィンの言葉は、短く人工迷宮(クノッソス)北東の門前。長槍を持つ小人族の周りにいる団員達が、一斉に強い緊張と獰猛な戦意を纏う。フィンは『遠征』の時のように、士気向上のための演説をすることはなかった。もはや不要とばかりに、その鋭い眼差しだけで語る。一度視線を落とし、自分の手もとにある拳大の水晶から光が発しているのを確認した後、顔を上げ、固く閉ざされた最硬金属(オリハルコン)の門に向かって吠える。

 

「作戦開始!!」

 

先頭の団員が『鍵』を掲げ、門が開口する。

関の声を上げ、冒険者達は人工迷宮(クノッソス)に突入した。

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たされよ、果たされよ、汝の願いよ、果たされよ。

 

我が名は『死神(タナトス)』。

 

汝が願いを、愛を持って叶えてやるとしよう。

 

再会せよ、再会せよ、死よりいでし母の手で、死に至れ。

 

礼など要らぬ。

 

もう『不良品』は全て使い果たした。

 

ソレは最後に出来上がりしものである。

 

我が信者を犠牲にしてまで生み出したるは、異形にして偉業の怪物なり。

 

出でよ、出でよ、出でよ、代行者たる化物よ、歌いたまえ。

 

汝のためだけに用意した、褒美である。

 

偉業を成した、絶対悪(エレボス)が見初めし子への、褒美である。

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼・・・・喜んでくれるといいなぁ・・・」

 

 

薄暗い闇の中、ローブに包まれた神が水晶を撫でながら、そっと笑った。

 

 

 

■ ■ ■

 

ベル・クラネル

Lv.4

力:S 1130

耐久:S 1099

器用:SS 1121

敏捷:SS 1190

魔力:SS 1199

幸運:G

魔防:G

精癒:H

 

武器

■【星ノ刃(アストラル・ナイフ)

■【狩人の矢(ヴェロス・キニゴス)

 槍

(カナリア)

 長い鳥篭のような形。振り回したり投擲したりして使う。

 【サタナス・ヴェーリオン】の影響でナイフと同じように震動し威力を上昇させる。

◻️白幻

グローブ(指の第一関節部分がユニコーンの角)

 

防具

■兎鎧シリーズ

■女神のローブ

※ヘファイストス曰く、ゴライアスローブと同じ素材らしい。




黒いゴライアスの素材から作られたゴライアスローブは、【アストレア・ファミリア】の11人に渡されてます。
春姫とアストレア様、保護されてるアウラは留守番。
アスタ、リャーナ、ネーゼは地上組。
その他は適当。

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