兎は星乙女と共に   作:二ベル

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北東
【アストレア・F】
ベル、輝夜、ライラ
【ディアンケヒト・F】
アミッド、他2
【ロキ・F】
ティオナ、ティオネ、フィン、オルバ、アリシア、エルフィ
【ディオニュソス・F】
複数

南東
【アストレア・F】
アリーゼ、ノイン、セルティ
【ロキ・F】
ベート、アキ、ラクタ
後続:ラウル、他
【ディアンケヒト・F】
複数
【ヘルメス・F】
アスフィ、ファルガー、ルルネ、他

南西
【アストレア・F】
リュー、、イスカ、マリュー
【ロキ・F】
レフィーヤ、ロキ、ガレス、クルス、ナルヴィ
【ディアンケヒト・F】
複数
【ディオニュソス・F】
フィルヴィス、ディオニュソス、

18階層東端
異端児


地上待機
アスタ、リャーナ、ネーゼ
【ガネーシャ・F】


What is justice

「がるぁあああああああああああ!!」

 

「はぁあああああああああああ!!」

 

凶暴な狼人(ウェアウルフ)と、赤髪の美女の咆哮が、進路上の障害を駆逐する。

水黽(ミズグモ)型の極彩色モンスター『ヴァルグ』の大群は、熾烈な蹴撃、斬撃によって比喩抜きで爆砕された。

 

「あの2人から振り落とされないでっ! 一気に進む!ノインさんセルティさんは、後続のラウル達をお願いします!」

 

「「了解!」」

 

凄まじい進撃力をもってモンスターの壁を蹴散らしていくベートとアリーゼに続くのは、アナキティが指揮する【ロキ・ファミリア】。楔のごとく大通路の道を切り開くベートを他所に、可憐な猫人(キャットピープル)の剣が横道から溢れてくるモンスターを疾走そのまま切り払う。たとえ彼と彼女が取りこぼしたとしても、Lv.3を誇る上級冒険者が流れるようにモンスターを屠っていた。

 

血袋と成り果てる怪物の死骸、数え切れない極彩色の魔石、大量の灰を踏み荒らしながら、激しい軍靴の音を奏でる。

 

人工迷宮(クノッソス)一層、南東部。

鍵で扉が開いた瞬間、突入部隊は全力の突貫をもって戦端を開いた。

団員達と【アストレア・ファミリア】にはフィンから作戦内容が伝えられている。

威力偵察にして、攻略戦。

第二進攻が本番だとしても、敵の本拠地に足を踏み入れた以上、蹂躙しない理由は存在しない。広大な迷宮をできる限り地図作成(マッピング)した上で、主要施設に打撃を与えるのだ。

 

「正面奥、あとは右に『扉』があるわ!」

 

「先に右を開ける!」

 

「雑兵の臭いが漏れてやがる! 罠でくたばるんじゃねえぞ!・・・おい、テメェ、遅刻したぶんは働け!」

 

「あーもう、うるっさいわねぇ狼! いいじゃない、ちゃんと間に合ったんだから! ギリギリでもベルを補給しておきたかったのよ!」

 

アナキティがもつ『ダイダロス・オーブ』が扉を解錠すると、ベートの宣言違わず、待ち構えていた闇派閥残党達の一斉砲撃が行われた。先読みしていたベートが金属靴(メタルブーツ)【フロス・ヴィルト】に魔法を吸収させ、生じた間隙にアナキティとアリーゼ達が滑り込み、敵部隊へと切り込む。

 

 

「なぁ!?」

 

あっという間に混乱に陥るのは残党達。

飛びぬけた戦闘能力を誇る第一級冒険者を筆頭に、2人が敵勢を無力化していく。自爆装置をもって特攻を仕掛けてくる者は魔法や魔剣をもって対処し、容赦なく自爆させた。

 

自爆(それ)は昔、散々痛い目を見せられたわ!!」

 

大抗争を戦い抜いた彼女達は、自爆(それ)をよく知っている。

だからこそ、余計に、過敏に対応してみせた。

下手をすれば仲間は死んでいたかもしれないし、友人もまた死んでいたかもしれないのだから。

 

 

「後続、『柱』急ぐっす! アキ達を見失ったらダメっすよぉ!」

 

「【超凡夫(ハイ・ノービス)】、こっちにも柱ちょうだい! 設置するわ!」

 

「はいっす!」

 

先行部隊が開いた扉は、後続部隊に当るラウル達が直ちに『補強』する。

上方に開口した扉の下に立てられるのは、三本の金属棒。

左端、右端、中心に設置される太い柱の正体は超硬金属(アダマンタイト)白剛石(ヴァルマーズ)だ。

 

【アストレア・ファミリア】のノイン、セルティもまたラウルやサポーターから金属棒を受け取って、設置作業を迅速に行い遠隔操作による部隊の分断を防いでいく。それは、南西の部隊も、他の部隊も同じく行われている作業で、地図作成者(マッパー)を散開させ、地図作成(マッピング)をさせていった。

 

 

■ ■ ■

 

 

「いやぁ、急に後ろからタックルされてさぁ~。びっくりしちゃったよ。」

 

「大丈夫ですか、神様? お怪我は?」

 

「平気だよ、可愛い女の子。サイフを取り戻してくれて、ありがとね。」

 

日が傾き、街が夕焼けの染まるそんな光景。

ボサボサとした、けれど、それが汚らしくもないような黒と一部灰色の混じった髪型の神は笑顔で鈍色髪の少女に礼をする。

 

「俺の名前は【   】。君達は? そっちの子は【ガネーシャ・ファミリア】って聞こえたけど・・・」

 

何か日常の会話のようでいて、邂逅を楽しむようにその神は出会った少女達と談笑する。

もっとも、まるで標的にでもしたかのように金髪のエルフの少女に薄っすらと瞳を向けていて悪意でもなければ、嘲笑でもなく、けれど癪に障る。そんなことを言い、またすぐにどこかへと消えて行った。

 

 

「潔癖で高潔。しかし未だ確たる答えはなく。まるで雛鳥だ。正しく在りたいと願う心は誰よりも純粋なのに。・・・そうは思わないか、少年?」

 

 

背中が、熱い。

それは魔法のスロットなのか、スキルのスロットなのかはわからない。

けれど、やけに熱い。

時々見る夢。

誰かの記憶なのだと、漸くそこで理解した。

 

「お前はアストレアに答えを提示したようだが・・・アレがお前の答えでいいのか?」

 

それは、俺が最後に彼女に伝えた俺の答えなのだと、その神は言う。その神はどこを見るでもなく、空を見上げて夕日に染まる街を愛おしそうに眺める。

 

「『悪』を知り、『正』を知れ・・・お前がどのように染まるのか。楽しみにしているよ」

 

 

歪む、歪む、景色が歪んで風景が変わる。

それは、岩に、水晶に、森がある場所だった。

人が倒れ、死に、糸目の男と少女達が対峙していた。

 

「悲しいことに、私は()()()()()()をしているようでして。特徴がないのか仲間内でも『顔無し』などと呼ばれている有様です。」

 

あとはそう、関わった者はほぼほぼ始末してきた―――そう糸目の男は言い、少女達は殺気を込める。けれどその男はすぐに、全身を真っ黒なローブに包んだ男達に迎えられて立ち去っていってしまう。

 

 

彼女達はその後、一体どんな会話をしたのだろうか。

 

歪む

歪む

景色はまた、歪む。

 

それは巨大な壁の上だった。

それは石畳の上だった。

それは、巨大な体躯の大男だった。

 

ローブで顔を隠していながらも、顔に付いた傷が、風に揺らされたローブから見え隠れしている。

 

「何をしている?」

 

「眺めている。記憶のものと大して変わっていない、この風景を。強いて言うなら・・・懐郷か。」

 

びゅーびゅーと風が吹き、肌を撫でる。

やってきた灰色髪の上半身がほぼ裸の男に目を向けるでもなく、その大男は街を眺める。

 

「我が同志よ、なぜ冒険者共を殺さなかった?」

 

「・・・・」

 

「第二級冒険者などそれこそ脅威! 貴様の力をもってすれば鏖殺など容易い筈! それをあえて見逃すなど、一体どういう――」

 

「蟻を喰ったことはあるか?」

 

「は?」

 

「蜘蛛は? 蜂は? 蠍は? 怪物を喰って生き長らえたことは? 化物の灰で喉を潤したでもいいぞ。」

 

「な、何を言って・・・」

 

大男は、全てを試したらしい。

理由は様々だが、同胞と呼べるもの以外は、およそ全て喰ったという。

大男は、『殺す』ことと『喰う』ことは同義だと言う。

生き延びるために殺す、生き繋ぐ為に食す。

 

「手段は異なっても、差異はあるまい。血を浴びるか、啜るか、それだけの違いだ。」

 

悪食を極めたその大男にも、何を『喰う』かを選ぶ権利はあるといい、蛆を食べたいのであれば勝手にしていろと灰色髪の男に言うと、その男は狂ったように笑って姿を消した。

 

 

「・・・千の歴史が途切れた大地。俺は『失望』に耐えられるか、否か――」

 

 

夜闇に灯る魔石灯の輝きが、星々のように、けれどどこか弱々しく輝く。

そんな景色を眺める大男の顔はよく見えず。

 

けれど大男は俯いて、ギリッと拳を握ったような音を鳴らして小さく呟いた。

 

 

「・・・やはり、あいつだけでもあの子の傍にいさせてやるべきだったか・・・いや、もう遅いか」

 

 

その背中には、少年がよく知るような『父親』のようなものはなく、どこか悲しく、哀愁が漂っているようでさえあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・・アストレア様?」

 

「? どうしたの、春姫」

 

長椅子(カウチ)に座り胡桃色髪の女神が眷族の無事を願っている中、金髪の狐人の少女が、一冊の本を持ってやってくる。黒く黒く暗い、いつぞやの魔道書。いっそ呪いの書と言ってもいいそれをなぜか少女がもっていた。

 

「・・・何故春姫がそれを持っているのかしら? 」

 

「ええと・・・アストレア様のお部屋の掃除をしておりましたら、急に落ちてきまして・・・」

 

 

少女は申し訳なさそうにしながらも、主神室の掃除をしていたら本棚から急にテーブルから落ちてきたと言う。女神は魔道書を受け取り首を傾げる。

 

 

「これ・・・こんなに黒くて赤かったかしら?」

 

「私も、その・・・中身ではありませんが表紙程度なら見せていただきましたが・・・その、違和感を感じまして・・・それで・・・」

 

「そう・・・ありがとう。ああ、アウラの様子は?」

 

「ベル様とアリーゼ様が記したフィルヴィス様についての資料とにらめっこをして、頭が痛いと言ってお風呂に・・・」

 

「そう・・・まぁ、当然よねぇ・・・あの子ったら、フィルヴィス・シャリアのことを『バンシー』と呼ぶものだから、ベルったら怒って『当事者ですらないなら、黙ってろ』って言っちゃうんですもの。びっくりしたわ」

 

「確か、作戦前でしたっけ・・・・。」

 

「まぁベルもベルで・・・アルフィア達のこと、我慢というか黙っているところがあるから仕方ないのかもしれないけれど・・・」

 

 

女神はふと魔道書をペラペラとめくり、やがて窓から映る空を見る。

 

「嫌な・・・天気ね」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「―――!」

 

「――ル!」

 

「おいベルッ、しっかりしろ!!」

 

「っ!?」

 

体を揺らされ、大声を上げられて少年の意識が浮上する。

どうやら少年は、行動中に意識を飛ばして倒れたらしく、黒髪の姉におぶられていたという。

 

 

「・・・大丈夫か?」

 

「うん・・・平気」

 

「はぁ・・・頼むからこんなときに倒れるのは勘弁してくれ。何かあったら団長に何されるか・・・」

 

「頼むぜ兎。おめーに頼るのは忍びねえけど、お前のスキルで先読みするのはこっちとしては助かるんだ。」

 

「うん、わかってるよ先生。 輝夜さん、もう降ろして」

 

「無理するなよ?」

 

「うん、平気だから。」

 

 

少年は少し顔色が悪かったが、ケロッとしていて、輝夜の背から下りてすぐに走り出す。

走り出した先は、後方。

敵の伏兵にでも気がついたのか、後ろの隊列に伏せるように呼びかけるとすぐさま奇襲を行おうとしたのか、黒装束や白装束の敵が現れる。

 

 

「―――【福音(ゴスペル)】!」

 

ゴーンッ

という鐘の音とともに、敵を倒し、手に持つ『呪道具(カースウェポン)』を回収。同志がやられたことを確認した敵は、目を血走らせて叫喚を上げ少年へと一斉に飛び掛る。それを肘より少し上まで覆うグローブで両腕をクロスさせて呪道具(カースウェポン)を受け止め、後からやって来た輝夜とライラ、ティオナが討ち取っていく。

 

 

「馬鹿馬鹿兎! 馬鹿! いくらその防具・・・?防具? いや、武器か? まあいいけどよ、呪道具(カースウェポン)を受け止めようとするな!」

 

「スキルで治るからって無茶をするな! 無効化されるわけじゃないんだぞ! 一度受けたのを徐々に治す程度なんだぞ!?」

 

「ベルさん・・・」

 

「ぴっ!?」

 

「な・に・を・考えているのですかぁああああああああ!?」

 

「ご、ごめんなさぁああああああああああいっ!!」

 

 

ガミガミ、ガミガミガミ、ガミガミガミガミガミ!!

呪道具(カースウェポン)を受け止めるなどという危険な行為をした少年はすぐさま首根っこをつかまれ、聖女様にグローブを外されお説教をされながら体を調べ上げられた。結局のところ無傷だったわけだけれど、それでも少年の行動に注意せざるを得なかった。その怒気から、少年に怒っていた姉2人は何も言えなくなってしまい部隊を指揮するフィンのもとに歩み寄っていた。

 

 

「輝夜、彼は大丈夫そうかい?」

 

「あの様子なら大丈夫でございましょう・・・しかし驚きましたわ」

 

「急にぶっ倒れるんだもんな。輝夜、あいつに触って何も感じなかったのか?」

 

「・・・・少し、あの子の背中が熱く感じましたね。」

 

「あーこういう場所のせいか、すっげー嫌な感じがするぜ。それに、あいつの義母の墓のこともよぉ・・・」

 

「おい、せめてもう少し声を落とせ。ベルが動揺したらどうする!? 」

 

「わかってるって。アストレア様からも注意されてるだろ? あいつが知ったらそれこそパニックになりかねねえんだからよ」

 

「ああ・・・確か彼がリヴェリアと都市の外に行っていた時のことだったかい?」

 

「ええ、神ロキとアストレア様、あとは団長とそちらの猫人さんが調べたそうですが」

 

 

以前、アミッドとヴェルフと共に廃教会に訪れ、その帰り際に『墓石がずれている』ことに気付いた少年。けれどその時は、『知り合いの冒険者しか来ないなら、不意にぶつかってずれてしまったこともあるのでは?』という言葉で少年は一応の納得はしたものの、アミッドはその後、少年のいない時に女神アストレアに相談。そして、件の『エニュオ』なる存在の話をするためにロキに会う約束もあり、2柱の神が見守る中、墓を掘り返す作業が行われた。

 

結果。

 

 

「―――()()()()()()。そうだね、ライラ」

 

「ああ、その通りだぜ。【勇者】様」

 

「ただ単に『なかった』なら良かった。だが、団長が言うには、『そもそも最初からなかったみたいに何もなかった』と言っていた。」

 

 

掘り起こされた墓、その中の棺桶。

その中には、本来あるはずのアルフィアの遺体はなく、それどころか毛一本すらなく綺麗にされていたという。そう、少年の前からいなくなったときのように、何もなかったかのように。

 

 

「彼女の死から数えても・・・たとえ肉が腐り落ちていたとして、何もなかったなんてことになるはずがない。」

 

「ていうか、死者を辱める云々よりも、アルフィアの墓を荒らせる度胸がすげぇよ・・・かえって尊敬しちまう」

 

「【勇者】、どう思う?」

 

「ンー・・・『魔道具(マジックアイテム)』にするために。というのはどうかな?」

 

「外道め」

 

「下衆かよ」

 

「遺体を素材として使う・・・なんてものも、一部ではあるらしいし、考えとしてはアリだと思うよ?あと僕に聞いておいて罵倒しないで欲しいかな」

 

「はぁ・・・・まぁ、遺体を使うというのは私達も知らないわけではない」

 

【アストレア・ファミリア】にいる1人の狐人の少女が実際、もうすぐ素材にされるわけだったし・・・と頭の中で呟いてフィンの言う可能性を頭に抑えておく。

 

「他は・・・そうだね・・・生き返ったと考えるのはどうだろう?」

 

「ない」

「ねーな」

 

「だろうね。僕もそう思う。それ以上に、遺骨からの蘇生なんてそれこそ有り得ない。何より仮にそれを成したとして、あちら側につく意味が分からない。眠っていた自分を辱めるような真似をしたんだ。それこそ闇派閥が滅ぼされているはずだよ」

 

 

アミッドに小言を言われ、しゅん・・・と落ち込む少年を励ますアマゾネスの少女を見て笑みを零し、進路方向の先の先の闇を睨みつける。この闇の先に、何がいるのか。【精霊の分身】だけではない、そんな予感のような何かが親指を疼かせる。

 

 

「少なからず、何かをしたことは確かなはずだ。ただ単に嫌がらせで掘り返したのだとしたら、彼の怒りを買うだろうね」

 

「はぁ・・・手のかかる」

 

「そんなところがいいんだろ? 輝夜」

 

「言うなライラ」

 

「おおっ、こわっ」

 

 

静かになり、ようやくお説教から解放された少年はすでに疲れたようにフラフラと輝夜に後ろから抱き着いてきてその顔をぐりぐりと摺り寄せてくる。その温かい温もりを感じ取って彼女もまた振り返りそんな手のかかる少年の頭に手を置く。

 

「あらあら、人が見ているというのにこの発情兎様は盛っておいででございますか?」

 

「つ、疲れたから少しだけ・・・アミッドさん、怖い」

 

「自業自得でございます。」

 

「ごめんなさぁい・・・」

 

「夜伽の予約であれば、またこの一件が終わってからにしてくださいませ?」

 

「み、みんな見てるところで言わないでぇ!?」

 

 

へぇー【アストレア・ファミリア】ってやっぱり・・・な声がチラリと聞こえたが、少年は無視して抗議の頭グリグリと姉に抱かれながら敢行。輝夜はクスクスと笑いながらポンポンと頭を優しく叩き、咳払い。次には真面目な顔に切り替えた。

 

 

「ベル、何が起こるかわからん。変な気は起こすなよ」

 

「うん・・・わかった」

 

「あと・・・そうだな・・・ベル」

 

「?」

 

「お前は、アルフィアのこと、好きか?」

 

「・・・・うん、お義母さんのこと、好きだよ」

 

「そうか・・・そうか」

 

「どうしてそんなこと聞くの?」

 

「いや・・・なんでだろうな。わからん。そういえば・・・精霊郷で何か貰って来たらしいが、何をもらったんだ?」

 

「えっと・・・霊薬実(タプアハ)って言って、()()()()()()()()()だったり、恋が成就する実だったりするって」

 

 

そこでフィンが、ライラが、輝夜がピクリと固まる。

()()()()()()()()()

 

 

少年は、別におかしいところがあるわけでもなく首を傾げる。

 

「誰かにあげたのか?」

 

「ううん、騒動があったから・・・誰にも。リューさんももらってたから、帰ったらみんなで食べようって」

 

「・・・そうか」

 

「・・・・こほん、そろそろ行こう。のんびりしている時間はないからね」

 

 

その声と共に、部隊は前進を再開させた。

 

 

「これがあったら・・・お義母さん、元気になったのかなあ」

 

 

そんな声は、誰にも聞かれず軍靴の音に消えうせた。


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