旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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・前回の終盤、明日の予定をする前のシーン前の話
・バベルで防具購入
・廃教会へ



幕間―とある廃教会―

【アストレア・ファミリア】本拠、星屑の庭にて

 

 

湯気が上がる。上がる。シャワーの音が広い浴室で響き、頭に心地よいお湯が伝い体を温めていく。

団員数11名+1名が入る、浴室。

そこに、2人と1柱がいた。

1人は腰ほどまである白髪に(ルベライト)の瞳を閉じて、姉の脚の間に座るようにして、おとなしく頭を洗われている少年、ベル・クラネル。

少年の後ろに座り、少年の頭を、自分の趣味で切らせず長くなっている髪を洗ってやる姉のような存在である紅の髪に緑色の瞳の美女、アリーゼ・ローヴェル。

そんな二人を微笑ましく眺め、隣で自分の体を洗う長い胡桃色(くるみいろ)の髪の1柱の女神、アストレア。

3人はあの騒動(どんちゃんさわぎ)の後、一緒に入浴していた。

 

「アストレア様?ベルのシャンプーまた変えました?」

「ええ。デメテルがおすすめしてくれたの」

「どうりで。また触り心地よくなりましたもんね」

「・・・その、なんていうか最初は痛んでいたのを直したかったのだけれど、楽しくなってきちゃって」

「なるほど」

 

そんな話をして少し咳払いをして、アリーゼさんは口を開く。

「今日はごめんねーベル」

「・・・??」

 

僕は目を瞑ったまま首をかしげた。

何に対しての謝罪なのか、わからない。さっきの【正義の眷属接吻大会】についての謝罪なのか。

その騒動の際に『ベルは精通はしてるの!?』『もしかして、もうアストレア様としちゃった!?』『リオンのおっぱいは美味しかった!?私のいる!?』と鬼気迫る表情で聞いてきたことについてなのか。

割と本気でドン引きし、恐怖すら感じた。

『ア、アリーゼさんは実は"性欲に飢えた"アマゾネスだったんじゃ・・・』と思ったほどだ。

思い当たる節が多すぎて、わからないのだ。

 

この人はよくたまに、燃え盛る炎の如く・・・いや、燃え盛りすぎて、隣の家まで焼いてしまう勢いで暴走してしまうことがある。

輝夜さんとライラさん曰く

「「兎に会ってからあきらかに変わった。でなきゃ、Lv4から6になるわけがない(ねぇ)」」と言うほどだ。

何をしたのかと聞いてみれば、単身で「最短時間でどこまで行って帰ってこれるかやってくるわ!!」と言って24階層に行って【木竜】から宝石をかっぱらってきたり、

「え!?剣姫ちゃんがゴライアスを通りすがりに倒した!?じゃあ私は消し炭にしてくるわ!!」と噂まがいのことを聞いて実行してきたという。

そして、ついでとばかりに27階層がなにやら騒がしくなっており、行ってみれば大量のモンスター達と冒険者の死体を見つけ、モンスターを全滅させてきたという。

 

さすがにファミリア総出で説教をしたらしい。

「いや、ランクアップはすげぇけど、さすがに祝えねえよ」「ベルを守るため力をつけるとは言ったが、誰も無謀なことをしろとは言ってないわ!!この大戯けが!!!」

「お願い、アリーゼ。私の胃を痛ませるのをやめてちょうだい??」「アリーゼ・・・さすがに擁護できませんこれは。何かあっては遅い。金輪際やめてください」

と中庭で正座をくらい雷を落とされたそうだ。

 

 

「いや、そのー・・・さっきの事もだけど。怪物祭(モンスターフィリア)でベルと逸れちゃったでしょ?『コロシアムを目指しなさい!!』なんて言ったわいいけど、さすがに無理があったなーって。しかもモンスターに追いかけられたみたいじゃない。」

「・・・・・・」

ピクっと僕はそのときのことを思い出して肩を揺らす。

 

アリーゼさんは僕の頭をわしわしと洗っている。でもどこか、申し訳なさが漂っていた。

「怖かったでしょ?ベルは1人だと十全に力を発揮できないみたいだからねー・・・・。それに、私達がベルの所に付いた頃にはすごい泣いてたし、ロキ・ファミリアの子たちが心配するくらいだったし。」

「・・・・うん。で、でも」

「ん?」

「アストレア様が・・・・見つけてくれたよ。だから、大丈夫」

「そっか。よかったよかった」

 

―――ベルが私達に懐く様になってからではあるが、本当にこの2人は仲が良い。

そうアストレアは思い、あの時のベルはすごく格好良い冒険者の顔をしていたとアリーゼに伝えた。

 

「へー、私の真似してたんだ」

「ええ。『燃え盛れ(アルガ)』『燃え盛れ(アルガ)!!』って言って走り出していたわ」

「何々、ベル、そんなに私の魔法が好きなの?」

「・・・だって格好いいから。力を湧かせたいときはそういう言葉を使えってアリーゼさんが言ってたの思い出して」

「あーもう、かわいいなーほんと!!」

わしゃわしゃと頭を撫で、シャワーで頭を流していく。

心地よさのあまり、僕はアリーゼさんにもたれかかる。

「ベールー、私にもたれられたらちゃんと洗えないわ?あと交代、次は私を洗って頂戴?」

「・・・ぁぃ」

そして、今度は体を。そして交代して洗いあう。

 

「・・・アリーゼさん胸また大きくなった?」

「おやおや~わかりますか、ベル君」

「・・・なんとなく?」

「ベルと毎日のように一緒にお風呂に入って触ってもらってるからかしらね~どう?ベル的には」

「えっ、えっと??良いと思います??」

「・・・どうして疑問系なのよ」

「貴方達は何をしているの・・・?」

 

こんなやり取りが、あの時からの日常の1つ。

洗い終われば3人で並んで湯船に浸かり、「「「はぁー」」」と息を吐いて

 

「次のお祭りはちゃんと楽しめるといいわね」

「うん」

「今度は逸れないようにしないとねー」

「うん」

「ベルにもっともっとオラリオのことを知ってもらわないとねー」

「うん」

「あ、でも南は駄目よ?」

「そうね、南は駄目ね」

「へ?」

「あそこにベルが迷い込んだら一生でてこれないわ。あそこはね、女の皮を被ったモンスターがいるのよ。だからいっちゃ駄目」

「そうね、さすがにあんなところに行っては私でも見つけることはできないわ」

「女の子とそういうことがしたいなら私に言って頂戴?オッケー??」

「う、うん・・・?」

 

そんなこんなで、今日は私のところとアストレア様の部屋、どっちで寝る?なんて話をして、リビングのカウチに座り、うとうとしながら女神に髪を梳いてもらってアリーゼさんが寝る前に悪戯とばかりにまた接吻をして「おやすみ、ベル、アストレア様!」と頬を少し染めながら言われて

「おやすみなさい、アリーゼさん」「ええ、おやすみアリーゼ」といって女神の部屋に行って就寝した。

 

■ ■ ■

 

「良い天気ねー」

「はい、良い天気ですね!」

 

空は快晴、絶好の洗濯日和。

朝食を食べて、掃除やら洗濯やらのお手伝いをして僕はアストレア様と今、都市の中心地にあるバベルへと向かっている。

時間帯もあって大通りは賑やかで、人通りが激しい。

僕はまた怪物祭(モンスター・フィリア)で逸れてしまったことを思い出して表情を暗くしていると女神様が柔らかいその手でぎゅっと手を握ってくれた。

手を握って、歩いて、時には呼び込みをする店員さんに声をかけられて。

出かける前に「アストレア様とデートなんて羨ましい!!」なんて言われてからかわれたけれど、女神様とでかけるのはとても楽しい。

 

「・・・・それにしても、『持ち主が現れませんし、処分するので、どうせならベルさん貰ってくれませんか?』なんて言ってシルさん、真っ白な本を渡してきましたけど、貰ってよかったんでしょうか?」

「うーん・・・断れる感じじゃなかったし・・・受け取ってしまったものは仕方ないわ」

メインストリートを歩いていると、豊穣の女主人のシルさんに声をかけられて「たまにはリューと食べにきてくださいね?」と言われて、そのあと【誰でも簡単!!ハーレムの作り方創刊号】というタイトルの真っ白な本を渡された。

創刊号なんだ・・・えっ、シリーズがあるの!?

 

 

 

 

「あの、バベルで何をするんですか?」

「んー知っていると思うけれど、ベルの装備をちゃんと買っておかないと。と思ってね。アリーゼにも言われたのよ。『そろそろお古じゃなくて自分の装備を持たせたほうがいい』って。それで、バベルには【ヘファイストス・ファミリア】のテナントがあるのよ。」

「【ヘファイストス・ファミリア】ってすっごく高いですよ?大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫よ。アリーゼからベルのお金は貰っているから。・・・それに、【ヘファイストス・ファミリア】は末端・・・いわば駆け出しの子にも作品を作らせてお店に並べているフロアがあるの。そこで駆け出しの冒険者は『これだっ!』ていう装備と出会って、まぁ、その後も気に入ってランクアップなんてすれば"専属契約"を結ぶ。なんてこともあるわ」

 

アストレア様に説明をしてもらって、なるほど。とつぶやきながらバベルを上がっていく。

途中、【じゃが丸くんの神様】が【ヘファイストス・ファミリアでバイトをする神様】にジョブチェンジ?していることに目を丸くして、さらに移動していく。

 

「もしベルが今日手に入れた装備を気に入って、ランクアップをしたときも『この人がつくったのじゃないと嫌だ!!』というなら専属契約を考えてみればいいわ」

「・・・ランクアップ?」

「うーん、簡単に言えば【自分より強い相手を倒す】とかかしら?」

「たとえば僕がアリーゼさんやリューさんから一本取る。とかですか?」

「模擬戦でランクアップは・・・どうなのかしら。フレイヤのところみたいなことはしたくないし・・・」

「???」

「ああ、ごめんなさい。イメージとしてはそんなところね。」

 

そして到着したのは、倉庫にも見える場所。

防具の各パーツを山積みにしたボックスがあったりしていて、悪く言えばガラクタの山のような空間だった。

「少し暗いけど大丈夫?」

「うっ、は、はい。これくらいなら」

「そう?こういうのはベル自身が自分の目で見て決めなきゃいけないから・・・」

「だ、大丈夫です!良いの見つけたら声をかけますね」

「ええ、待ってるからいってらっしゃい」

「あ、予算は?」

「5万ヴァリスよ」

「はーい」

 

そういって僕は少し薄暗い店内を歩く。

どのボックスもそれぞれ値札が付いていて、記された数字がまちまちだけど、どれも安価ではあるらしい。

色々あるなぁとキョロキョロしながら歩いていると、不意に僕の目に止まるボックスがあった。

純粋な白い金属光沢で彩色が何も施されていない素材のままの姿だけど、僕はそれを屈んでジッと見つめていた。

 

ライトアーマー。膝当て、体にフィットするような小柄のブレストプレート。肘、小手、腰部と最低限の箇所のみを保護する構造。

プレートを持ち上げてみれば軽くて、とても強く惹かれた。

 

「アストレア様ぁー!!」

女神様に声をかけるとすぐ近くで装備を眺めていたのか僕のところに来てくれた。

「どうしたの?いいのあったの?」

「はいっ、これが良いです!」

「ふふ、ベルみたいに真っ白ね。どうしてこれなの?」

「暗くても見えました!あと軽いです!」

「あらあら。サイズは・・・・ぴったりそうね。誰が作ったのかしら。えっと・・・・【ヴェルフ・クロッゾ】??」

アストレア様は、クロッゾ、クロッゾ・・・どこかで聞いたような?とブツブツ呟きだして、店内は薄暗くて僕はちょっと不気味に思ってアストレア様の服の裾を握って揺らした。

 

「あ、ごめんなさい、ベル。そうよね、暗いところ、駄目だものね。」

「い、いえ・・・」

「じゃあこれでいいのね?」

「はいっ」

そうして、女神様と一緒にカウンターに向かって支払いをする。

『女神様が直々に!?』『その白髪、例の祭りの時の・・・!?』なんて反応されたけれど、すぐに対応してくれた。

お値段は9900ヴァリス。

 

買い物も終わり、アストレア様と一緒に一度ホームへと戻る。

「たまには違う道を歩いてみるのも楽しいものよ」なんて言って路地裏に入って歩いていくので僕もついていく。

 

「だ、大丈夫ですか?変なのでませんか?」

「大丈夫よ。ベルもいつかはアリーゼ達と都市を巡回することもあるでしょうから、怖くてもこういった道も覚えておかないとね??」

「うぅぅぅ・・・」

「ふふふ、1人で行動することはそうそうないから、安心しなさい」

「ぁぃ」

 

と、そこで何か反応を感じて僕はアストレア様に止まるように促す。

「どうしたの?」

「い、いえ、その、小さいのと大きいの・・・・どっちも人なんですけど何か様子が・・・」

そんな僕の反応に疑問を抱いて、曲がり角を凝視する。

と、そこで小さい影が飛び出してきて、僕はとっさに女神様の手を引いて僕は前に出た。

息が上がっていて、足を縺れさせて倒れる。

ライラさんと同じくらいの身長で・・・・

 

―――パルゥム?

 

「あなた・・・大丈夫?」

「ぅ・・・・っ」

「女神様、まだ来ます。前にでちゃだめです」

女神様の変わりに手を貸そうとしたときに、もう1つの反応の人物が現れた。

 

「追いついたぞ、この糞パルゥムがっ!!」

 

目をギラつかせて僕よりもガタイがよくて、比較的大きな剣を背中にさしていて、冒険者だとすぐにわかった。

悪鬼のような表情で抜剣した冒険者は僕たちに気づかないのかパルゥムの少女を切りつけようと近づいてくる。

 

「・・・ベル、相手が気づかないってことは貴方よりポテンシャルは下なんじゃないかしら。良い?振り下ろすギリギリで止めて頂戴。それでも逆上して攻撃してくるようなら魔法を使って構わないわ。でも加減はしてね?」

「・・・・わかりました」

 

男は目の前の少女に向けて剣を振り下ろす。少女は顔を背け、目を閉じ、体を小さくする。

そこで、ナイフを抜刀して受け止めた。

 

「・・・・はぁ!?んだお前はぁ!?いつ出てきやがった!!?」

「・・・・街中でこんなこと、やめたほうがいいですよ」

「うるせえぞガキッ!!今すぐどかねえと、後ろのそいつごと叩っ斬るぞ!」

 

そういって、男はもう一度剣を振り下ろす。

「――――福音(ゴスペル)

 

ゴーン!と小さ目の鐘が鳴って、男は吹き飛ばされ気絶する。

そこでさらに近づいてくる反応が

 

「まだ何かいるの・・・?」

「どうしたの?あの人の仲間?」

「うーん・・・・」

「すごい叫び声がしたけど、何事!?・・・・ってあれ?」

「「あっ」」

「ベル君にアストレア様?なんでこんなところに?」

 

現れたのは巡回で近くを回っていたアーディさんだった。

何でも、やけに鬼気迫るような男の叫び声が聞こえたと近くを通りかかった一般人の話を聞いて路地裏に入り込んだらしい。

 

「ベル、アーディちゃんは特定できないの?」

「・・・そこまではちょっと。」

「で、どうして2人はこんなところに?今、魔法も使ったよね?」

「「使ってないですヨ??」」

「何で2人して顔をそらしてるの!?下手な嘘つかないでよ!?」

「・・・・・すいません」

「ごめんなさい、アーディちゃん。私が許可したの。そこで倒れている彼が制止を無視したら無力化しなさいって」

 

アーディさんは溜息をついて「それならそう言ってくださいよ・・・あなたたちが犯罪行為をするなんて思ってませんから」と言葉を零す。

そして、ここで起こったことを説明してアーディさんは念のため事情聴取ということで気絶している男を連れて行くために仲間を呼んだ。

その間に少し話をする。

 

「・・・・それで、追われていたっていうパルゥムちゃんは???」

「・・・・え?」「あら?」

といなくなっていることに気が付いた。

「ベル・・・?」

「ご、ごめんなさい。そこまで万能じゃないっていうか!?」

「はぁ・・・まあ逃げちゃったなら仕方ないかぁ。・・・あぁ、そうだ。最近、盗みを働くサポーターがいるらしいからベル君がファミリアの人以外とパーティーを組むときは気をつけてね?」

 

そう言って解散した。

 

■ ■ ■

その後、アストレア様が連れて行きたい場所があると行って、北西と西のメインストリートの間の区画に存在する古ぼけた廃教会へと連れてこられた。

 

「アストレア様、ここは?」

「ここは・・・あなたのお義母さん、アルフィアがいつかあなたがオラリオに来ることがあれば連れて来てやってほしいって言っていた場所よ」

あなたの産みのお義母さん・・・ごめんなさい、時間がなくて名前は聞けなかったの。と言って僕に紹介した。

なんでも、アストレア様がファミリアの皆に相談して、土地ごと買い取ったらしい。

 

「大切な場所ってことですか?」

「ええ、そうね。大切な場所だったそうよ。それで、ちょっとこっちに」

そういって僕の手を引いて、教会の中に入っていく。

中は少しホコリっぽくて、でも、隙間から入る夕日でどこか神聖さを感じさせていた。

教会の入り口から左側は無理やり床板を破ったのか、土が見えていて複数の花が咲いていた。

アストレア様の方を見ると、少し、躊躇うようにして、言葉を発する。

 

「あの戦いの後、この場所を教えてもらって、アルフィアの遺体を誰にも見つからないように運び出して、そこのお花が咲いている場所にお墓を作ったの。」

その言葉で、僕の胸はぎゅっと握られたように痛み、心が寒くなった。

輝夜さんたちから暗黒期については、僕の精神状態もあって少しずつだけど聞かされていた。

とても悲しいことだったと・・・そう聞いている。やらなきゃやられていた。と。僕も、その話を聞いてそう思った。

だから、仕方ないことなんだと。そうやって受け入れた。

僕が、堂々と2人の名を呼べる日は・・・きっと来ないだろうとさえ思うほどに。

 

ぽろぽろと涙を流し始めた僕の背に手を当ててお墓の前に一緒に座る。

「・・・・実のところ、あの2人が貴方を置いてまでエレボスの企てに乗った理由はよくわからないの。アルフィアの体も限界で長話をする時間はなかったから」

アストレア様は、僕の頭に自分の頭を乗せるように首を傾けて言葉を続ける

 

「それでも、あの最後のとき、私は気づいてしまった。アルフィアが後悔に満ちた顔をしていたことに。―――きっとあの大抗争の中で貴方のことを思い出す"何か"があったのでしょうね。そこからは、振り返りたくても後戻りできない場所にいて、ザルドは気が狂ったように、この教会の隠し部屋に何かと物を入れ込むようになったらしいの。ベル、貴方がここに来たときにそれが残っていれば、売るなり使うなり好きにしろ。って。」

 

「――――ッ!」

「アルフィアに『何か言い残すことは?伝えたいことは?』って聞いても、『あの子を頼みたい』としか言わなかった。たぶん、言ってしまえばそれこそ、自分達がしてきたことを否定することになってしまうから。止まらなくなってしまうから。」

「・・・・どんな理由であれ、多くの命が失われたことに変わりはない。だから、あの2人の行いは決して許されることはないわ」

 

その言葉に僕は、震えて嗚咽を漏らして、さらに泣く。

アストレア様は僕の背中を摩りながら、「それでも」と続けた。

 

「それでも・・・それでも、あの最後の瞬間、私にはあのアルフィアが『たった1人の子供を思う母の顔』に見えた。だから、だから・・・・私はあの2人の"行い"は許さなくとも、その"想い"だけは赦そうと、そう、決めたの」

「・・・・・え?」

「ベル・・・たとえ人々に許されなかったとしても、世界中のどこかで誰かが、その罪を負ってしまった人のことを赦したいと思うなら、その罪は贖えるのよ。きっとね」

「・・・・・・でも、オラリオに英雄はいません。アリーゼさんたちは僕にとっては英雄です。でも、きっとこれは違う」

「そうね、きっとそれは違うわ」

「僕・・・僕は・・・僕は・・・っ!!」

 

言葉が出せず、何を言えばいいのかもわからず、ただただ「僕は」「僕は」と繰り返す。

アストレア様はただただ「いいのよ」「大丈夫大丈夫」と僕を抱きしめて、いつものように背中をぽんぽんと叩く。

そして落ち着いた頃、僕はお墓に向いて

 

「僕、がんばるから・・・!!がんばるからっ!!」とだけ涙を流しながら、精一杯の言葉をお義母さんに贈った。

 

■ ■ ■

 

「やぁやぁ!ベル君!!久しぶりだね!!」

少し時間がたったころに、橙黄色で旅行帽を被った男神様と金髪エルフさん、そして水色の髪に眼鏡をかけた女性が現れた。

 

「・・・・っ!!」

「ま、待ってくれベル君!!オレだ!!ヘルメスだ!!石を投げようとするのをやめてくれ!!さすがに冒険者の投石はやばい!!」

「ヘルメス・・・あなた、何したのよ・・・」

「ち、違うんだアストレア!!ほ、ほら、エレボスのやつ、オレの真似をしていた時があっただろう!?だから似ているって思われて、出会ったときに石を投げられたんだよ!!」

 

そう、ヘルメス様。アストレア様と入れ違いで僕の住む家にやってきた男神様だ。

丁度影で見えづらくなって、黒い神様(エレボス様)とダブって見えたため、僕はアリーゼさんたちを連れて行かれると思って石を投げつけたことがあった。

 

「・・・・ごめんなさい」

「い、いや、いいんだ。君が悪いわけじゃないさ。ハ、ハハハ!!」

「笑えてませんよ。ヘルメス様。・・・・あなたがベル・クラネルですね。リオンから話は聞いています。この神があなたに失礼なことをしたら遠慮なく石を投げてやってください。死なない程度に」

「ア、アスフィ!?」

「・・・・もう、早く用件をすませたほうがいいんじゃないかしら?」

「あ、ああ、そうだね」

 

そういって、ヘルメス様は後ろにいる金髪のエルフさんに手招きする。

この人・・・どこかで・・・

 

「ベル、あなたが以前、ミノタウロスの件で助けた子よ。特徴とヘルメスの名を言っていたからすぐ見つけ出せたわ」

「この子もあの時は逃げるのに精一杯でね。誰かに助けられたということに気づけなかったんだ。だから、礼をと思ってね」

「・・・・あぁ。あの時の」

 

「す、すまない!助けてくれたのに!!」

そういって、金髪エルフさん・・・名をローリエさんというらしい。

何でも助けられたことに気づかず、ヘルメス様からその話を聞かされて、お礼を言う機会がほしい。と頼んでいたらしい。

 

「あ、いえ、あの時はローリエさんが通り過ぎた後にミノタウロスを惹き付けたってだけだし気にしないでください。怪我とかしてませんか?」

「あ、ああ。おかげさまで!本当にありがとう!!」

 

それから少しだけ話をして、今度はアスフィさんが僕の元にやってきて、

「リオンから相談を受けていまして・・・・何でも暗い場所が駄目で十全に力を発揮できないとか。それで、ローリエの件とヘルメス様が迷惑をかけたということで貴方ように装備を。」

「・・・・えっと、ゴーグル?」

「ええ。まだ試作品ではありますが。暗い場所でも・・・真昼ほどというわけではありませんが、明るく見えるようになっています」

「ベル君、アスフィが作ったのは魔法道具だ。名前は【アカルクミエール】だ」

「・・・・・・」

「ま、待ってくれ!!無言で石を投げようとしないでくれ!!」

「えっと、アスフィさん。ありがとうございます。大事にします」

「ええ、そうしてください」

 

一通りやり取りを終えて、ヘルメス様達は帰った。

「も、もし都合がよければ、私をパーティーに加えてもらえれば・・・」とローリエさんが頬を染めていたけど、夕日のせいかな?

「ベル、泣きすぎて目が疲れてるんじゃないかしら?」とアストレア様に言われてしまった。

 

「じゃあベル、こっちに来て」

「?」

「このあたりに・・・・あったわ!隠し部屋!!」

そう言ってアストレア様は隠し部屋に入っていく。

入ってすぐにアストレア様は「べ、ベル!!はやく来て頂戴!!すごいわこれ!!!」と大声を上げたので僕も入っていく。

 

そこにあったのは、

ユニコーンの角、カドモスの皮膜、木竜の宝石、マーメイドの生き血、ブルークラブの鋼殻etc...etc...

たくさんのモンスターのドロップアイテムに、クリスタル、ダンジョンで取れる宝石や鉱石だった。

 

「・・・・これ叔父さんが??」

僕は目を丸くした。

価値はよくわからないけれど、すごい。ということくらいはわかった。

「これ・・・・お金にしたらいくらになるのかしら・・・ほんと、すごいわ・・・・それだけベルのことを思っていたのね・・・」

「すごい・・・すごいしか出てこないです。」

「ええ、すごいわ。これ・・・・」

 

2人してその光景に固まっていた。

 

「ん?あら?これは?」

「どうしたんですか?」

 

部屋の中央に小さなテーブルがあって、そこには大きめの箱が置いてあった。

「鍵は・・・かかってないわ。これもザルドが?」

「何が入ってるんでしょう?あけていいですか??」

「ええ、いいわよ。あっ、待って、虫とか出てこないかしら・・・」

「だ、大丈夫ですよきっと」

 

そして、箱を開けると、そこに入っていたのは・・・・・

 

「真っ黒な包装のされた本」「眼球のような形の玉」だった。

 

その後、ホームに戻り、夕飯前にカウチで2つの本を読んでは意識を失ってを繰り返し、何かおかしいことに気づいたリューさんが僕が読んでいた2つの本を見て顔を白くさせ、アストレア様を呼び出し、皆の前で服を脱がされステイタスを更新された。

 

「こ、これ・・・嘘!?」

「グリモア!?」「なんで!?」「何処で!?」「しかも何、2つ!?」

「へ!?・・・・ど、どうしたんですか!?」

「べ、ベル、この本は何処で!?」

「シ、シルさんが処分するからどうせならって。黒いのは教会の隠し部屋に・・・!!」

 

「・・・・・まぁ大丈夫だと思うわ。それより終わったわ。はい、たしかにちゃんと発現しているわね」

そういって僕の上から退いて皆に羊皮紙を見せる。

あ、あの、僕にも・・・!!

 

「「「ベル・・・あなた・・・」」」

「へ?」

「「「アストレア様のこと好きすぎでしょ」」」

 

■ ■ ■

ベル・クラネル

Lv1

 

アビリティ、スキル、既存魔法覧、省略

 

<<魔法>>

乙女ノ天秤(バルゴ・リブラ)

効果時間:5分

【天秤よ傾け――】

 対象との武器もしくは、詠唱済み魔法を入れ替える。

 魔法のみ登録可能。

 登録可能数×2

 

短文詠唱

【天秤よ傾け、我等を赦し全てを与えよ】

 一定範囲内における自身を含む味方の全能力を上昇させる。

 

【天秤よ傾け、罪人は現れた。汝等の全てを奪え】

  一定範囲内における自身の敵対者の全能力を低下させる。

 

 追加詠唱【天秤は振り切れ、断罪の刃は振り下ろされた。さあ、汝等に問おう。暗黒より至れ、ディア・エレボス】

 範囲内における敵対者の戦意を大幅低下(リストレイトに近い状態にする)。

 

乙女ノ揺籠(アストライアー・クレイドル)

 絶対安全領域の展開

 

 

 

刃は通らず、矢は飛ばず。魔法は霧散しあらゆる痛みは浄化し治癒され、範囲内にいる敵対者以外の者は温もりを与えられる。

 

長文詠唱

【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】

【凍える夜には共に手を繋ぎ傍にいよう。道に迷ったときは共に歩もう。】

【我はもう何も失いたくない。】

【箱庭に愛された我が運命はとうに引き裂かれた。我は貴方を憎んでいる。】

【されど】【されど】【されど】

【我から温もりを奪いし悪神よ、我を見守りし父神よ、我が歩む道を照らし示す月女神よ、

我が義母の想いを認め赦し背を押す星乙女ら四柱よ、どうかご照覧あれ。】

【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう】

【我は望む、誰も傷つかぬ世界をと。我は願う、涙を流し彷徨う子が生まれぬ世界をと。我は誓おう、次は我こそが手を差し伸べると】

【救いを与え、揺り籠のごとく安らぎを与えよう】

【何故ならば――我が心はとうに救われているからだ】

 

効果時間

15分

月下条件化において月光が途切れない限り効果範囲拡大

月下条件時、詠唱式変異

回復効果

雷属性付与




めっちゃ長くなりました。

最初に読んだのは黒のグリモア(いったいどこの絶対悪が置いていったんだ)
次に読んだのは白のグリモア(シルから貰ったもの)

という順番で魔法が発現しています。

【乙女ノ天秤】の
バルゴは、乙女。
リブラは天秤というそうで、そこから付けてます。

追加詠唱はエレボス様からの嫌な贈り物だとベル君は思ってます。
3つ目の魔法はだいぶ先まで使うつもりはないですが、2つ読んで発現してしまったので、載せています。


ベル君の装備にヴェルフの例の防具「ぴょん吉」さん。
アスフィが作った、ゴーグル(試作)が追加されました。
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