兎は星乙女と共に   作:二ベル

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気が付けば130。
着地点・・・どう終わらせるかはまったく考えておりません。


思いついた話で短編集をちょくちょくやってみようと思い始めました。
https://syosetu.org/novel/265399/


汝は既に罪人なり

とある廃教会。

そこに複数の冒険者達が雪崩れ込む。

彼等、そして彼女等の視界に広がるは倒れ伏した白装束もしくは黒装束の者達に加え、商人。複数の人間だった。

 

 

「憲兵参上! この教会は包囲されてるよ! 無駄な抵抗は・・・って・・・え?」

 

 

そこは、少年にとっては大切な場所。

そこは、義母にとっての大切な場所。

 

「う・・・ぁ・・・・」

 

「闇派閥も・・・商人も・・・やられてる・・・?」

 

()()・・・・? 私達が突入する前に? 一体誰が・・・!」

 

少年は、その光景を見て、自分が知る場所とは若干景色が違うことに気付いてこれが夢なのだと理解する。

 

 

「―――また騒々しくなった。」

 

聞き覚えのある女性の声。

さらに追加されるは、懐かしい声。

まるで氷の女王のごとき声。

 

「次から次へと、雑音が絶えない・・・やはり今も昔も、オラリオはオラリオのままか。」

 

黒いドレスの上から灰色のローブを羽織り、素顔は見えない。

少年はそんな素顔もわからない誰かを知っている。彼女が誰なのかを知っている。

 

 

「ここでは静寂にまどろむこともできない・・・・嗚呼、嘆かわしい。やはり私はこの地が嫌いだ。」

 

 

彼女の前に立つ冒険者達は誰一人として、彼女がいたことに気付いてはいなかった。

声を聞いてようやく認識し、いっそう警戒する。その中でもリーダーらしき麗人と鈍色髪の少女が彼女に声をかける。

 

「・・・これをやったのは、お前の仕業か?」

 

「他に誰がいる?」

 

「どうして、こんなことを?」

 

「私の癇に障った。それだけのことだ。」

 

そうだ。

彼女はそういう人だ。

祖父が『ワシも一緒に風呂に入る~』と言えば吹き飛ばし、祖父が『ワシも一緒に寝るゾイ☆』と言ってベッドにダイブしようとすれば家ごと吹き飛ばす。そういう人だ。

 

彼女を怒らせてはいけない。

彼女の前で雑音を立ててはいけない。

彼女にセクハラをしてはいけない。

 

さもなくば、死ぬ。

 

 

彼女はやがて、麗人が率いる冒険者達に包囲されるも、たった一言呟いて聞き慣れた音色を奏でて、その場から消えうせた。冒険者達は倒れている商人ともども地に伏して、呻く。圧倒的。圧倒的な力量差によって彼女達は蹂躙された。

 

そこで景色は暗転し、次に見えるのは―――

 

 

地獄だった。

 

 

花火が上がっていた。

人を焼いて打ちあがる花火だった。

人に向かって放たれるは、魔力によって精製された魔法(はなび)だった。

人に向かって迫るは、人の命を火薬として打ち上げられた、爆弾(はなび)だった。

 

無辜の民は焼かれ、斬られ、血を流し、玩具のように、弄ばれ辱められた。そこに女も、子供も例外はなく、無慈悲に、無意味に命を刈り取られていた。

 

金髪のエルフの少女はその光景を見て絶望して木偶と化し。

大和撫子はそんな少女に激を飛ばす。

 

 

「考えるな! 動け! 戦え! 1人でも多くの命を救え!」

 

黒髪の少女もまた、声を震わせながら地獄の中で戦っていた。

 

火の粉が舞う。

命が舞う。

血が地面を湿らせ、土を潤す。

平和な街並みなどそこになく、人の笑顔などそこにはなかった。

 

どこかで避難誘導する狼人の少女は、住人が目の前で死んでは涙を流し

どこかで民間人に避難場所を伝える桃色髪の少女もまた、目の前で爆発した命に苦痛を漏らした。

 

救えはしない。

巣食っているのは、絶対的な『悪』であった。

 

それは初めての感覚だった。

 

(夢の中で・・・歩ける・・・感じる・・・)

 

強制的に場面が変わるだけのものではなく、自分の足で確かに歩いていた。

耳を塞ぎ、歯をガチガチと震わせて、少年は地獄を歩いていた。

 

目の前で人が殺されそうになって手を伸ばすも、透けてしまい結局は命が刈り取られる。

地獄の中で、護衛も付けずに冒険者達に鼓舞をかける女神を見た。

 

胡桃色の髪の美しい女神だった。

 

彼女に無茶なことをするなと、後から旅行帽を被った橙黄色の髪の男神がやってくる。そんな2人を通過して、どこかへと引き寄せられるように足を動かした。

 

右も左も、見渡す限り、地獄だった。

燃えていない場所なんてない。どうしようもない世界だった。

 

やがて、鎧を着た大男に蹂躙される冒険者達を見た。

果実のように、柔らかく足を寸断され、その地に命の滴を噴出させていた。

 

「脆いな。柔すぎる。いつから冒険者は腐った果実と化した?」

 

(やめて・・・叔父さん・・・やめて・・・)

 

()()()()()()()?() 喰らってすらいない。どこまで俺を失望させる、オラリオ。」

 

 

よくよく考えてみれば、思い返してみれば、叔父の鎧を着た姿を見たのは初めて会った時くらいだろうか。戦っている姿を見るのは、この夢が初めてだっただろうか。あまりにも、悲しすぎて目を背けたくなった。

 

けれど、そんな少年の思いは許されず、現実を叩き込まれるようだった。

 

『―――お前があの時、止めなかったからこうなったんだ。』

 

『お前があの晩、眠りさえしなければ・・・この地獄はなかったかもしれないな』

 

『悪いな少年、コレが事実だ』

 

そんなことを、背後から聞かされた気がした。

振り向いても誰もおらず、少年は涙を流して地獄を歩いた。

やがて辿りついたのは、路地の1つだった。

 

――彼女が、義母がいた。

 

ローブを羽織ったままの義母が。

彼女の前には、翡翠色の髪のエルフがいた。

 

「何をしている?」

 

「忌むべき雑音、だが二度と聞くことのない旋律。それに耳を傾けている。」

 

周囲から木霊する悲鳴に、彼女は静かに耳を傾けていた。

ただただ、それだけだった。

 

「私なりの拝聴にして黙祷だ。いくら煩わしくとも、いざ失われるとなれば惜しむ。それが人だろう?」

 

「貴様の所業は、人のそれではない。貴様の足もとに広がっているもの、それは何だ?」

 

エルフの言葉の後に、義母の足もとには幾つもの人だったものが転がっていた。

どれもコレも、既に、雑音すら放つことのない肉と化していた。

 

(お義母さん・・・)

 

義母に手を伸ばす。

離れたくなくて、こんな地獄だというのに、彼女に手を伸ばそうとして

 

 

沢山の屍(ガラクタ)

 

 

その余りにも冷たすぎる言葉に、伸ばした手が固まった。

 

 

『これもお前のせいだ。お前が義母を離さなければ、ここにはいなかったかもしれないというのに』

 

『お前が眠らず、俺をあの晩追い払っていれば、2人はこんなことをせずにすんだかもしれないのに』

 

 

また、耳元で囁くいやな声が聞こえた。

 

 

『絶望するのは早すぎる。』

 

『これは、まだ、序の口だぞ?』

 

と、囁かれた。

だから、振り向いた。

 

 

今度は、また別の場所に立っていた。

わざとらしく、それを見せ付けるように、高台の上に、少年は立っていた。

 

少年の視界に映るのは――

 

(光の・・・柱・・・? )

 

 

神の一斉送還による、さらなる地獄だった。

幾本もの光の柱が天を穿つ。

それによって恩恵を失った眷族達がまともに動けなくなり、いっそう命が収穫されていった。

狂った女によって塵屑のように、蹂躙されていった。

 

 

ひとーつ。

 

ふたーつ。

 

みーつ。

 

よーっつ。

 

いつーつ。

 

 

見逃すな、見届けろ。

お前が目を離すことは許されない。

そう言う様に、耳元では光の柱が上がる度にカウントが入っていた。

 

地上では悲鳴以外の声はなく。

赤くない場所などどこにもなかった。

 

都市の中央。

ギルドもそれは同じだった。

止まらない殺戮。

一斉に消える【ファミリア】。

誰も彼もが絶望に染め上げられた。

 

 

「壮観だな」

 

むーっつ。

 

「ああ、景色だけはな。 だが目を閉じれば―神もやはり雑音だ。」

 

 

大好きな2人の英雄が、零落する地獄を、見せられた。

歯をガチガチと震わせ、体を震わせ、瞼からは絶えず涙が溢れた。

 

ななーっつ。

 

(僕のせい・・・?)

 

やーっつ。

 

『ああ、そうだとも。大神(ゼウス)にせめて口聞きしていれば、止めてくれたかもな?』

 

ここのーつ。

 

視界を焼き潰すほどの、光の柱がさらに天を穿つ。

 

 

『【生贄】は終わった。さぁ――行こう』

 

その声とともに、ガクンっと引っ張られる。

否、突き落とされた。

 

2人と1柱が確実に見える場所に。

 

 

『――聞け、オラリオ』

 

橙黄色の男神も、胡桃色髪の女神も、少年の知るいつもの表情はすでに消え、目を見開いて汗を垂らし、少女達の中には都市が終わったと、もうどうしようもないと心を半ば折れた者がいた。

 

『――聞け、創設神(ウラノス)。時代が名乗りし暗黒の名のもと、下界の希望を摘みに来た。』

 

 

零落せよ、零落せよ。汝が英雄よ、零落せよ。

 

『『約定』は待たず。『誓い』は果たされず。この大地が結びし神時代の契約は、我が一存で握り潰す。』

 

歌を奏でしエルフは絶望し。

 

『全ては神さえ見通せぬ最高の『未知』――純然たる混沌を導くがため。』

 

刀を取った女もまた、無力を知り。

 

『傲慢?――結構。 暴悪?――結構。』

 

正義を求めた赤き女もまた、己の主を守ることしか出来ず。

 

『諸君等の憎悪と怨嗟、大いに結構。それこそ邪悪にとっての至福。大いに怒り、大いに泣き、大いに我が惨禍を受け入れろ。』

 

星の乙女達は、成すすべなく己等が背負いし『正義』を陵辱された。

 

『――我が名はエレボス。原初の幽冥にして、地下世界の神なり!』

 

舞台に立つは、邪悪の権化。

舞台に上がるは、汝の家族。

 

零落せよ、零落せよ、汝の英雄よ、零落せよ。

 

『冒険者は蹂躙された! より強大な力によって!』

 

光の柱は天を穿ち、子らは絶望の歌を奏でるだろう。

 

『神々は多くが還った! 耳障りな雑音となって!』

 

大地は命の滴を持って潤され。

 

『貴様等が『巨正』をもって混沌を退けようというのなら! 我等もまた『巨悪』をもって秩序を壊す!』

 

より深き絶望が花を咲かすだろう。

 

『告げてやろう。今の貴様等に相応しき言葉を。』

 

汝が掲げし【正義】など、所詮は紛い物。

汝は咎人。汝は英雄を救わなかった罪人なり。

 

『―――脆き者よ、汝の名は【正義】なり。』

 

零落せし英雄の子よ、汝に相応しき言葉を告げてやろう。

 

―――弱き者よ、汝の名は【咎人】なり。

 

(・・・・・・・・)

 

『滅べ、オラリオ。――我等こそが『絶対悪』!!』

 

 

少年の知る英雄は、冷たい瞳の神と共に立ち、少年を見下ろしていた。

悲しく、冷たく、胸を砕かれる痛みを持って、少年は悲鳴を上げた。

 

 

零落せよ、零落せよ―――汝もまた、零落せよ。

 

 

■ ■ ■

 

「ぁああああああああああああああああああっ!!」

 

冷たい床、そこでのた打ち回るように悲鳴を上げる少年がそこにはいた。

それを落ち着かせるように、押さえるように抱き寄せるのは着物を着た黒髪の美女だった。

 

周囲では既に戦闘が終わったのか、『バルカの怪物』だったものが沈黙を貫いており、治療師たちが手分けして冒険者達を癒している最中だった。その中の1人、聖女が少年の絶叫を聞いて振り返り、走り寄って来る。周囲の冒険者も同じく、少年の聞いたこともないような絶叫に肩を揺らして振り返った。

 

「ベル!落ち着け!!落ち着け!!」

 

「兎、大丈夫だ! 大丈夫だから落ち着け!!」

 

「胸を押さえて・・・痛むのですか、ベルさん!?」

 

胸を握り締めるように押さえ輝夜に抱きしめられながらも悲鳴を上げる少年を見たアミッドは、輝夜に床に寝かせるように言い聞かせ、数人がかりで押さえつけさせた。

 

「すいませんベルさん・・・少しだけ我慢してください・・・!」

 

「~~~~~~!!」

 

「どうなってんだこれはよぉ・・・! アタシはこんな兎見たことねえぞ!?」

 

「私もだ。・・・・精霊の魔法を使って精神枯渇(マインドダウン)を起こした故に倒れたと思ったが・・・」

 

「いえ、そっちは正しいかと。あれほどの魔法は・・・倒れて当然です。恐らく今ベルさんの身に起きているのは、倒れた後のことです」

 

「・・・各員、次の行動に備えろ。残っている道具でアミッドとベルの治療を最優先。ティオナ、ティオネ、アミッドを手伝ってやってくれ。」

 

輝夜、ライラ、そしてフィンに命じられたアマゾネス姉妹が少年が暴れないように押さえつけ、アミッドはシャツを捲り上げた。しかしそこには何もなく、触れてみれば、通常よりも熱が上がっている程度。今度はうつ伏せにさせ、背中を確認。

 

 

「おいおいおい・・・!?」

 

「ねえこれって、どういうこと!? なんでこの子の恩恵、ロックがされてないの!?」

 

「いいや、アストレア様はロックをし忘れるなんてことはない!!」

 

「じゃあなんだっていうのよ!?」

 

「・・・・」

 

 

アミッドは神聖文字(ヒエログリフ)が読めないながらも、少年のステイタスを載せた羊皮紙を女神からもらったこともあり、1つずつ指でなぞっていく。高い体温、もっとも熱いのは、背中だった。

 

「・・・・2つ、でしょうか」

 

「・・・・?」

 

「おい聖女様、何が2つなんだ?」

 

「熱を最も放っている場所です。」

 

「どこだ?」

 

「ここと・・・ここ・・・です」

 

 

指で示された場所は、スキル、魔法とでそれぞれ1つずつ。

姉2人は記憶を総動員して思い出す。

その項目にあるのは。

 

スキル

追憶一途(ノスタルジア・フレーゼ)

・早熟する

・懸想が続く限り効果持続

・懸想の丈により効果向上

魔道書【記憶継承(ディアドゴス・メモリア)】の影響発生時、効果向上。

 

魔法

■【乙女ノ天秤(バルゴ・リブラ)

 追加詠唱

【天秤は振り切れ、断罪の刃は振り下ろされた。さあ、汝等に問おう。暗黒より至れ、ディア・エレボス】

 

 

の2つだ。

 

 

「おいおい・・・勘弁してくれよ・・・天に還ってまで・・・こいつに何か恨みでもあんのかよ・・・」

 

「いや、アストレア様が言うには、少なからず『神威』を受けた影響ではないか・・・ということだが?」

 

「幼少期に受けた『神威』に加えて、黒い魔道書・・・でしたか?それも関係しているのでは? 何か心当たりは?」

 

「・・・・・たまに、たまにこいつは、自分が知るはずのない夢を見る・・・という」

 

 

アミッドは今まで見てきた少年の様子を振り返って、『義母を探しているような素振り』をしていたりするのを思い出してそれも現在の症状に関係ありと判断。フィンに一度視線を向けるも、フィンもまた、少年が倒れる寸前のことで思考を回し親指を睨んでいた。

 

「・・・・効果があるかはわかりませんが、やらないよりマシでしょう。治癒魔法で癒します。」

 

(これはもう・・・病気と言ったほうがいいかもしれませんね)

 

 

■ ■ ■

 

「・・・彼は、落ち着いたかい?」

 

「ええ、すいません手間を取らせてしまって。」

 

「いや、彼の魔法があったとはいえ、補給が必要な者はいる。気にしないさ。それで、容態は?」

 

「・・・背中に浮かび上がっていた恩恵が、熱を冷ましたように消えました。ああ、()()()()()()()というわけではございません。そこはご安心を」

 

冒険者の一団は、部隊の再編成を行っている最中だった。

フィンは輝夜の膝を枕に眠る少年の横に膝を折り腰を下ろしてアミッドに容態を聞いて再び親指を舐めた。

 

「彼は今までダンジョンで倒れたことは?」

 

「さぁ・・・わからねえな・・・ないとは言い切れねぇ」

 

「今回のことのように、叫びあがることは?」

 

「少なくとも本拠ではございません。そんなことがあれば、大騒ぎになっておりますので」

 

「・・・だろうね」

 

フィンは少年の前髪を掻き分け、顔色を見る。

血色は問題ない。

呼吸も安定している。

脈も落ち着いている。

ごくごく普通に、輝夜に頬を撫でられ安心したような顔をして眠っている。

しかし、目元は涙が流れた後が残っていた。

 

 

「例の黒い魔道書とやらは、どういう効果なのかな? 愚者(フェルズ)

 

手に持つ水晶の魔道具に声を落とすと、少し間が開いた後に返答がやって来た。

 

『それは、私が昔作り上げた魔道具を改良したものだ。』

 

「ほう・・・元々はどういった用途だったのでございますか?」

 

『別の肉体に記憶を移すこと・・・それはある種の不老不死なのではないか? そうして作り上げた物だ。だがしかし』

 

「記憶を植えつけられた肉体は、その莫大な情報量に耐え切れずに死滅した。だね?」

 

『ご名答だ、【勇者】。だから私は、その魔道具を処分した・・・・・はずだった』

 

「だったって・・・お前なぁ・・・」

 

『元々は、魔道書ですらなかったんだ。だから私ですらすぐには断定できなかった。元は、液体・・・ポーションのような物だったんだ。神の血によって恩恵を・・・そして、その眷族が歩んだ冒険を刻んでいくように、自身の血を持って・・・とね。』

 

魔道書になったのは、何者かが偶然にも処分したはずのものを拾い上げてしまい改良したのだろう。もはやその何者かを探し出す術等ないが・・・。水晶の奥からはそんな声。

 

「それで? 魔道書になって魔法を発現させるだけじゃないってのは何でだ?」

 

『君達は、()()()()()()()()使()()できる血潮の筆(ブラッド・フェザー)という魔道具を知っているかい?』

 

「アンドロメダが造ったやつだな」

 

『正解だ。【大和竜胆(やまとりんどう)】。それと似たようなものを、暗黒期の中で造ったのかもしれない。それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()という手法でね。断片であれば負担は少ないはずだ』

 

「おもいっきり、負担がでてるじゃねえか」

 

恩恵が勝手にロックが解除されるわ、絶叫してのた打ち回るわ、体温は上がるわ、とライラは水晶越しに『てめぇちゃんと処分しやがれ、燃やすぞ骨!!』と脅迫。

 

 

「・・・・負担が今回出たのは、恐らく彼自身にあるんじゃないかな、ライラ?」

 

「・・・・あん? 何が言いてぇんだよ、勇者様」

 

「彼は、Lv.4だ。そんな彼がギリギリ耐えられる・・・まあそのギリギリのラインはわからないけれど、一定の基準でもあったんじゃないか? そして、彼自身にあるということについては、僕達は一瞬だけど、はっきりと聞いたはずだ。精霊の魔法が消されたあの瞬間に。」

 

『こちらからは特に。』

 

「ちっ・・・できれば空耳だと、幻聴だと思いたいぞ」

 

「同感だ。ただでさえ化物女だったんだぞ? 化物になって生き返ってどうすんだ?」

 

「おまけに、彼女の棺桶は空だと聞いた。さらに・・・これは推測だが・・・」

 

 

そこで沈黙。

部隊を再編する冒険者達を他所に考察しあう数人の冒険者達。

誰もが黙るフィンを見つめていた。

 

「アーディ・ヴァルマ、そしてさっきの『バルカの怪物』と似た事例なのではないか。僕はそう思う」

 

「死体使って、こいつの母親をモンスターにして宝玉の胎児を埋め込みましたってか!?」

 

「ライラさん、声を抑えてください! ベルさんが眠っているとは言え、聞こえたら一大事ですよ!?」

 

「あ・・・あぁ、すまねぇ【戦場の聖女(デア・セイント)】・・・」

 

「あとは・・・そうだね・・・・・彼は優しすぎる。だから、心のどこかで、『2人がいなくなったのは自分のせいなんじゃないか』と考えていてもおかしくはないだろう。だから、今回はより一層、自分を責め立てるような夢を見たんじゃないかな?」

 

 

フィンの考えは、正解だった。

ベル自身の心の内、口にはしないながらも感じる罪悪感やそういった考えから、今までにないものを少年は見ていた。

 

 

「何を見たと思う、ライラ・・・私はもう、だいたい想像がついた。ついてしまった」

 

「奇遇だな。アタシもだ」

 

「なら、合わせて言って見るかい?」

 

3人は視線を交わし、同時に口を開いた。

少年がどんなものを見たのかを。

 

 

「「「 大抗争、神の一斉送還。 2人の英雄が零落した瞬間。 」」」

 

 

たらり・・・と少年の瞼から、滴が床に零れる。

口からは小さく、『ごめんなさい』を繰り返す声。

聖女は痛々しいものを見るように少年の頭を撫でては手を握り締めた。


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