死にます。
死亡描写が苦手な方、すいません。
ここから先『深層編』は暗くなると思います。
「あーぁ・・・してやられた。というか、完璧に嵌められた。俺はてっきり
敗北者たるタナトスは、人造迷宮の天井を見て自嘲の笑みを浮かべながら独白する。
彼の正面にいるのは、冒険者達と1柱の神。
タナトスの言う白髪の少年とやらが、現在、1人の男と1体の何かと対峙し迷宮27階層へと引きずり込まれている中、彼等にもまた、命の危機が迫っていた。
「『エニュオ』は端からココを『砦』なんて思っちゃいなかった。あれにとってココは『祭壇』。型は――『生贄』」
フィン率いる派閥連合と神ロキが来る数分前、タナトスは仮面の人物――エインに告げられた。
『主から伝言だ。――【此処マデダ。協力ニ感謝スル】』
『迷宮都市崩壊の計画は私が遂げよう。冥界に至る道は私が開いてやる。その為に――【贄となれ、死ノ神】』
『全ては主の神意のままに』
それだけだった。
気取られないために姿を現さない。
故に、腹の探り合いなど不可能。
神の化かし合いすら成立しない。
まったく度し難い『利用』だった。
善良な死神は、嵌められた。
・始祖から続きし人造迷宮を破壊して回った少年に報いを。
→
・あのクソガキをハメ殺してやる。裏切り者のアルフィアめ。
→バレッタの怒りである。しかし彼女は少年の知らぬ場で既に死んでいる。
・『お義母さんに会いたい』
→少年の無自覚な願いである。
・ならば叶えてやろう。
→タナトスの目にその少年は眩しく映ったから。死者に会いたいなどと片腹痛いが、少年すら気付かぬその願望は膨れ上がる一方であった。
・ならば、ともに死なせてやろう。お前の偉業を反転させたうえで。
→エニュオの企てである。
「―――まったくもってやってられない。ああ、見たかったなあ・・・あの子がどうなるのかを」
「神タナトス・・・あの子に、ベルに何をした・・・!? あの子を、壊すつもりか!?」
「いいや? あの子は既に壊れているよ【疾風】。だってそうだろう?墓参りだってしているのに、死者に会いたいだとか、面影を探しているんだぜ?」
「死んだ家族に会いたい思うことは何も間違ったことではない!」
「ああ、その通り。でも
「・・・・は?」
「いきなり墓の前に連れて行かれて『貴方の親はここで眠っている』と言われて納得して受け入れられるかい? できたとして、切り捨てられるかい? ずっと会いたがっていたのに? いいや、無理だ。無理なんだよアストレアの
墓はある。
でも、実際にその死に際を知っているわけじゃない。
だから、目の前で死んだところを見たアストレアの眷族とは全くもって違う。
少年にとってその墓は墓ではあるが、墓ではない。
『義母がそこで眠っている』という証明にはならない。
「いっそ告げてやれよ。墓を暴いて、義母の死体を見せ付けて『これが私達がしたことだ』と」
「・・・・・」
「まさか、誰も気付かなかったのかい? それとも放置した? だとしたら君たちの方がずっと惨い。 人ごみの中で親を探していたのを見たことは? 本拠の前で座り込んで迎えに来るのを期待している姿を見たことは? ・・・・正直言って気持ち悪い、あの子は。墓参りしているのに、その辺りチグハグだ。だったら、いっそ見せ付けるしかない。」
「ふざけるな・・・あの子の心を掻き毟ることが正しいようなことを言うな!! いったいどれだけあの子を、あの子の心を引っ掻き回せば気が済む!? 」
「それこそ、俺の知ったことじゃないよ。結局のところは、俺は神だからさ。つい、触りたくなっちゃうわけよ。」
・・・まぁ、あとは『娯楽』が大半だけどね。
遺体を使って怪物を、【精霊の分身】を作り出せないかってアルフィアの墓を暴いて、素材を提供してもらったけど・・・ミュラーちゃんのお陰で『冒険者の怪物化』という事例もあったし、あとは応用で何度か失敗を繰り返して成功した。もっとも、『栄養補給』をしょっちゅうしなきゃいけないからコストが高すぎるんだけどね。
「死者まで辱めて・・・あの子は、あの子は今、幸せを確かに・・・」
「ああ、噛み締めているんだろうねぇ・・・。君達に対して恨みがあるわけでもない。というか、恨む矛先を自分で決めている。うん、よくわかるよ。その矛先には誰もいないことも・・・ああ、本当に面白い子だ」
それだけ言うと、タナトスはもう少年についての話はしなかった。
「・・・この迷宮のどこかに閉じ込めるか、あるいはダンジョンそのもの・・・例えばパントリーとかに閉じ込めるなりできればそれでよかった。だけどエニュオはそうとうあの子を排除したくて仕方ないらしい。ロキ、
その言葉に続くように、ロキの横にいたガレスが持っていた
『ガレスさんっ! 仮面の人物が・・・! モンスターをっ・・・たくさっ・・・操って・・・! 部隊が、後退・・・!!』
「レフィーヤ!? おいレフィーヤ、どうした!? 聞き取れん!」
ロキはそれを耳にしつつ、タナトスの眼差しから目を逸らせない。
少年と共にいる眷族のことも加えて、何か、そう、何か嫌な予感がしてならない。
「おい・・・偉業を反転させるって・・・なん・・・」
駒を打ち合った盤面を俯瞰して、刹那のうちに幾千幾万と繰り返される精査。
王手をかけたつもりで、導き出されたのは誰だったのか。
別の場所で行われていようとする所業とは何なのか。
ロキの思考に理解を示すように、いや共感するように、タナトスは慈悲めいた笑みを浮かべる。
そして、それを尋ねた。
「ロキ。ここに来るまで、貴方は一柱だったかい? 大切なお仲間は、いなかったかい?」
「!」
そう尋ねられたロキは、ようやくこの場に
『ワシからすれば、お主等が付いてくることの方が大丈夫なのか問いたいところじゃが・・・』
『すまんなーガレス! けど、うちらが必要になる時が必ず来る! 絶対、きっと、多分! だからしっかりうちら守ってな~』
『すまないね【
そんな会話をして、一緒に行動していたはずだ。
【アストレア・ファミリア】の眷族で一緒に行動していたのは、リュー、イスカ、マリュー。
そして今一緒に行動していてこの場にいるのはリューのみ。他2名はレフィーヤ達と行動している。この盟主の間へと向かう際に別れた? そう思いロキは
「おい、ディオニュソス!? 今どこにおる!?」
響き渡ったロキの声の後、男神の声が返ってくる。
『分岐していた通路の1つだ・・・独断行動は謝ろう。しかし許してくれ。私は・・・仇の首を取る』
「なに言うとる!?」
『いるんだ。いるぞ。この先に。全ての元凶が・・・私の子を殺めた憎き神がっ』
その声には確信があった。
この先に己の仇がいるという真実。
きっとその顔には憤慨と言う名の激情に彩られていることだろう。
「戻って来い! 今はやばい! 何かが! 何かが起ころうとしとる!! 自分1人じゃあ、あかん!!」
ロキの訴えは虚しく、ディオニュソスはやがて開けた空間にたどり着く。
そこには闇が満ちていた。
何も見通せない闇が。
そしてその奥に――ディオニュソスの仇は佇んでいた。
『いるな、フィルヴィス?』
『はい、ディオニュソス様』
短剣を握り締め、闇を追い詰めようと踏み出すディオニュソスは
「・・・まて。待てっ、ディオニュソス!? 自分、今、
そのロキの叫びに、初めて足を止めた。
その後の悲劇と共に、同時刻、時間を合わせるように、『儀式』は行われた。
その日、2つの光の柱が天を穿った。、
貴公子然とした神の眷族は、否、貧窮を司っている神の眷族にされていることに気付くこともなく恩恵を失い。
エルフの少女は目の前で友人の死に様を見せ付けられたがために壊れた。少年の『あの人、精霊さんなんですよ!』という意味に気付くこともなく。
美しくも歪んだ歌声が響いた。
その後、凄まじい速度で緑肉の侵食がはじまり恩恵を失った冒険者達が最初に喰われた。
闇派閥の残党でさえ例外なく喰われ、コレによって闇派閥は完全に消滅した。
悪は、悪によって消された。
唯一幸せだったのは自らが手がけてきた千年の妄執を穢され、このような末路を見ることなく散ったダイダロスの末裔だろう。
築き上げてきた『悲願』を穢されたその末裔への愛を垣間見せた死神は、『やられっ放しなのは癪だから』と、ロキと冒険者達に『生の道』を授けて天に昇った。
主神を仲間に託し、迫り来る死に親指の疼きが全てを諦めたように止まった小人族を、金の
『正義』の眷族――ベル、輝夜、ライラ。そして地上待機のネーゼ、アスタ、リャーナ等以外のメンバーをもってしても全員を救い出すことは不可能だった。
故に、【
冒険者達が攻略した筈の魔窟は、新たな魔城と化した。
未だダンジョンで危険な目に会っている少年と仲間2人の安否を確認することもできず、冒険者達は『敗北』した。
■ ■ ■
「・・・輝夜さん!」
「ベルッ!!」
後ろから迫り来る爆発から逃げ切り27階層へとたどり着いた少年を除いた冒険者達10名は、目の前の2名と再び対峙する。どういう訳か、少年にも理解できないままに、拘束はすぐに解け輝夜の元へと逃げおおせた。
けれど、この場において2名・・・輝夜とライラのみは、先ほどの爆発から、1つの可能性が脳裏をチラつき、嫌な汗を流す。
「この階層は、『水の都』は繋がっている・・・それはご存知のはず。この領域は1つの階層と同義・・・損傷も何もかも共有する。ダンジョンはそう
「てめぇ・・・何がしてぇ・・・!!」
「エニュオからの伝言です。」
『これがお前の、お前だけの
それを言い終えると、男は隣にいる
まるでお楽しみ景品を公開するように。
その男の顔は、背筋がぞっとするほどに笑顔だった。
パサリ・・・。とローブが地に落ちると露になるのは
「・・・・お義・・・母さ・・・ん・・・・?」
ピシリと少年の中で、義母の絵画が割れるような錯覚が起きた。
ガタガタと自然と体が震えだす。
周りの冒険者は、吐き気を抑えるように口を押さえるなり、眼を逸らすなり似たり寄ったりな反応だった。
「嗚呼、いい反応・・・ありがとうございます。これで、贄にされた
クツクツと男は笑っていた。
既に少年のスキルは、先ほどの爆発で封じられたために探知は暫くの間不可能。
目の前の
・それは真っ黒なドレスを着用していた。
・横腹には、まるで人魚のもつエラのような切れ目があった。
・背中には、溶けたような汚い、そして千切れたような翼があった。
・
・それは灰色の髪をしていた。
・それは石造のように、不気味なほど真っ白な肌をしていた。
・首には真っ赤に輝く魔道具が取り付けられていた。
『ア・・・ァァ・・・ラララ・・・ララララ・・・・』
それは、歌を紡いでいるように囁いていた。
「君の為に用意したんですよ? 貴方の、お義母さんです!!」
男は手でそれを見せ付けるように声を上げるも、少年の頭はぐちゃぐちゃとして思考が回らなかった。少年の目には、それは、その怪物は、
まさしく、義母、アルフィアの姿がチラついて仕方がなかったのだから。
壊れた心を利用した悪行であった。
「1つ、貴方に最初の偉業を指摘するならば・・・それは彼女とザルドの2名に貴方の存在を
大抗争時、2人は子供を使った自爆テロを行うことをしってしまった。
その子供が、どうしてだか少年がダブって見えて2人はその作戦をやめさせた。
子供の死者が決して出なかったとは言い切れないが、不思議なことに少なかったのだ。
2人はあの抗争時、少年のことを
少年は戦わずして、零落した英雄を、そして『悪』の戦力を削ってしまった。
1つ目の偉業である。
「ならば・・・貴方の英雄を、穢すことで『反転』させましょう。」
偉業を反転させて、悪行へと変えよう。
かつての英雄は今や、魂なき骸の怪物へと成り果てた。
躊躇い無く少年を、そしてその家族たちを殺すことだろう。
「お前・・・いや、貴様等は何を・・・掛け合わせた・・・?」
大和撫子が、少年を抱きしめながら震えながら、嫌な汗を流しながら聞いてしまった。
男は笑顔のまま、あっさりと答えた。
レストランでメニューを言うように。
「マーメイド、セイレーン、アルフィアの遺骨、信者の死体、精霊の宝玉・・・・でしょうか。ポテンシャルは本物より劣りますが・・・なまじ精霊。魔法だけなら本物にも並びます。まぁ彼女の魔法が使えたのは奇跡としか言えませんが。」
「2種・・・歌かよ・・・んでもって・・・
「おい、ライラ!!」
「・・・・・やっぱりって?」
不気味なほどに、気持ち悪いくらいに静寂が生まれていた。
少年は瞼から涙を溢れそうなのを堪えながら、桃色髪の小人族を、そして震える自分を抱きしめている大和撫子に目を、何度も向けた。言っている意味が分からないと。
「ねぇ・・・ライラさん」
「・・・・・」
「ねぇ・・・輝夜さん・・・!」
「・・・・」
2人は唇を噛み締めることしかできなかった。
隠し通せることではないが、少なくとも最近の少年に教えられることではなかった。少年の知らぬ内に自分達だけで解決しようとさえした。でも、見つからなかった。当然だ。何せ、『アルフィアだったもの』が動いているのだから。
周りの冒険者達は、この目の前のおぞましい存在がいるにも関わらず、それが少年と何か関係があるのだろうことくらいはわかる。
「おやおや、教えてあげないので? 家族、なのでしょう? ・・・ならば私が教えましょう!」
「・・・・黙れ」
男は両手を開いて越え高に叫ぶ。
ショーを楽しむように。
「とある女神に掘り起こさせました。」
「・・・・・・」
ポタポタと、瞼から滴が溢れた。
何か、裏切られたような気がしたから。
義母の顔がわからなくなるほどに、目の前のソレは、かつての彼女にしか見えず、けれど、別のものにも見えてしまうから。
「まぁ彼女も彼女で色々と・・・・ああ、これは黙っておいたほうがいいんでしたっけ。まぁ、あなた方ならきっと見つけ出せることでしょう。・・・・生きていれば。」
最初に気付いたのは少年だった。
調べた方がいいのではないかと女神に言ったのは聖女だった。
もうその時点で、無くなっていたのだ。
ワザと、ズラしたままにしていた。違和感を抱かせるためだけに。
「では、2つ目の貴方の偉業を讃えましょう! 貴方は正義の眷族達に出会ってしまった。故に!!」
【ルドラ・ファミリア】による罠で殺されるはずだった彼女達は、罠にかかることなくかの派閥は自滅した。少年は戦うこともなく、闇派閥の1つを消滅させた。
「だからこそ・・・・この場所で『儀式』を行いましょう!!」
召喚の儀式を!!
そう男が天に向かって吠えると、チカチカとまるで暗い迷宮の中に星が光るかのように赤い光が瞬いた。
―――瞬間。
『タナトス様に我が命をぉおおおおおおおお!!』
『私の愛をもって冒険者に死をぉおおおおおおお!!』
『魂の解放をぉおおおおおおおおおおお!!』
愛するものとの再会を契約した者達・・・
迷宮に命の花火が打ち上がった。
全員がその衝撃に耐えようと、落下物に巻き込まれないようにするもその爆発は轟音は轟き続けた。
「【ルドア・ファミリア】が一瞬にして滅んだ。何が起きたか? では、それを今、お見せしましょう!!」
見せる。
とくとご照覧あれ。
信者達の断末魔を音色に、轟音は轟き、やがて迷宮は火の海に変わる。そして、崩れ落ちた。
「先ほど、言いましたね?『この領域は1つの階層と同義・・・損傷も何もかも共有する。ダンジョンはそう
バラバラと降ってくる水晶の欠片。
ダンジョンは悲鳴を上げた。
「輝夜!! 逃げ道は!?」
「わからん!! 落下物で見えん!!」
「くそ、何が起きてるの!?」
「お前等ぁ!! 一塊になるなぁ!! 散らばれぇ!!」
何が起きるかを知っている2人は冷静さを手放し叫んだ。
何が起きているのかがわからない冒険者達はこれが異常だと言うこと以外わからず、焦燥にかられた。
「神ルドラは言った!!『俺の眷族が一気に死んだ。ダンジョンで。何が起きたと思う? 俺の眷族達はアストレアの眷族をハメ殺すために爆弾を用意してた。それが爆発して巻き込まれた・・・だけだと思うかぁ?』と!! そして、これは誰もが知っているはず!! 神々は言うでしょう!!」
【ダンジョンは生きている】と。
そして、一際強い大爆発がトドメのように発生した、次の瞬間。
ダンジョンが、
「――――」
怪物を産む亀裂音ではなく。
異常事態を起こす地震でもない。
比喩ではなく、哭いている。
途轍もない無機質な高音域。
まるで引き絞った銀の弦に刃を走らせたかのような、鼓膜を貫く甲高い音響。
「あ・・・あああっ・・・・!?」
最初に悲鳴を上げるのは、少年だった。
爆発音で『探知』を封じられてなお、その甲高い音響の正体を感じ取ってしまった。
あれは間違いなく、どうしようもなく、自分達の天敵であると。
自分の身に起きていることに整理などちっともできず、姉に話を聞くこともできず、耳を塞いで現実から逃げようとした。
「逃げないと・・・逃げないと・・・!! 輝夜さん・・・ライラさん・・・!!」
「もう遅い! さぁ・・・これが貴方のためだけにエニュオが用意した、
ピシリッ、と。
27階層の大空洞で、亀裂が生じる。
それは広く、長く、深く。
大いなる滝と相対するように、縦に走った。
亀裂から最初に飛び出したのは液体。
高熱を宿し湯気を放ちながら、血液のように吹きだす紫の漿液は、
やがて。
その奥で瞬いたのは、真紅の眼光。
【絶望】が、産声を上げた。
瞬間。
誰も知覚できず、本人さえ気付けないまま、1つの命が終わった。
「――え?」
猛烈な斜線が走りぬけ、紫紺の『破爪』が無慈悲に閃き、【ロキ・ファミリア】の少女が3つの部位に分解された。少女は結婚し子供を儲けいずれは孫を・・・そうしてまた黄昏の館で語り明かす未来がくることもなく、明るい地上に帰ることもできず、優しい主神に『がんばったな~』と言ってもらえることもなく、死に絶えた。
少年が人造迷宮でリーネ・アルシェを助けた際に助かった女性冒険者だった。
少年の偉業がまた、穢された。
「レ、レミリアッ!?―――ぐづっっ!?」
2人目。
死んだ少女の名を呼んだ同じ派閥の青年の上半身が弾けた。
紫紺に輝く『破爪』の仕業だった。
彼もまた、彼女と同じく少年に命を救われた冒険者だった。
3人目。
咄嗟に盾を構えた盾ごと
ゴツイ体が大嫌いだという彼女は、しかしその屈強な体でどんな相手も守ってあげられるその体を気に入っていた。
そんな乙女は、誰も守れずに死んだ。
【ヘルメス・ファミリア】所属。
24階層で少年が魔法で助けた冒険者だった。
その3つの死が連なったのは、僅か数瞬の出来事だった。
「――――」
ぴちゃ、と。
少年の頬、そして白い髪を生暖かい液体が付着する。
まるで【助けた分だけその命を返上された】かのように気高い血潮が、少年に縋るように伝った。
これが現実であると認めるのに一瞬。
彼女達はもう帰ってこないと悟るのに刹那。
気がつけば、男も彼女もどこかへと姿を消していた。
白く染まっていた少年の頭は、
「あ・・・贖えぬ罪・・・あらゆる罪、我が義母の罪を・・・・我は背負おう・・・」
この魔法さえ使えば、発動させればきっと誰も死なずにすむ。
そうしてあの化物を倒せば、みんなで帰れる。
そう思ったから歌った。
けれど、次の瞬間、少年は姉に突き飛ばされた。
「―――馬鹿っ!! 歌うな!!」
地面に倒れた少年は、とっさに突き飛ばした黒髪の姉を見た。
少年がいた場所に、容赦なく『爪』が通った。
大好きな黒髪の姉の片腕が、なくなっていた。
遅れて飛び出したその真っ赤な血が、少年をまた汚した。
右腕が宙を飛び、次にはソレが第三の腕のごとく尾が彼女の背に叩き込まれた。
口から血化粧を施しながら彼女は滝の真下へと落ち、遅れて右腕が『ぽちゃり』と音を立てて沈んだ。
「あ・・・あぁぁ・・・ぁぁあああああああっ!!」
仲間達の鮮血に濡れた禍々しい『爪』、闇の中で光る真紅の眼光、『鎧を纏った恐竜の化石』とでもいうべき細く巨大な体躯。
それは【厄災】。
神ウラノスによってその存在を知らされた派閥は5つ。
・ロキ
・フレイヤ
・アストレア
・ヘルメス
・ガネーシャ
そして、その中でも幹部の中でも一部しか知らない。
知ること自体がタブー。
それを呼び出して【偉業】を獲得しようなどと考える愚か者を生まないための措置。
その名は、『
「ポック! 魔剣、合わせて!!」
「ああ、わかってる!!」
「馬鹿! やめろ!!」
ライラの制止など耳に入らず、その小人族の姉弟は魔剣を放った。
けれど、それも惨劇の材料にしかならなかった。
「!?」
『
「あぁぁ・・・ぁぁぁ・・・!!」
いかなる魔法も反射する破壊者唯一の『盾』に砲撃を跳ね返された2人の小人族――ポックとポットはあえなく炎上した。2人は【勇者】のサインをナイフのレプリカに貰うこともなく焼け死んだ。その遺体は手を重ねていた。
少年が同じく24階層で助けた冒険者だった。
『―――――――ッッ!!』
上級冒険者を一撃で葬る『破爪』に、モンスターの道理にそぐわない機動性、そして『魔法』を反射する装甲殻。『封殺』だけに特化した怪物の全貌を理解した瞬間、一気に仲間を減らされた冒険者達は絶望した。
その咆哮の音色はあらゆる怪物よりも恐ろしく、おぞましく。
最低最悪の『初見殺し』。
存在を知っていたからと言って対処できるかはまた別の話。
どこかで三日月のように口を裂いて笑う神が言ったような気がした。
『お前が助けた数だけ、収穫しよう』
『お前がそこに来た時点で詰みである』
『たとえ生還したところで、お前は仲間を見殺しにした愚か者である』
『仲間の臓物を浴びたお前には、もう何も出来まい』
そんな声が聞こえた気がして、そして―――
「・・・・・・」
絶望にへたり込むように顔を天井に向けている彼女を見た。
気にかけてくれている優しい聖女を見た。
『
そんな言葉を、昔・・・聞いたような気がした。
血が沸き立つように熱くなって、だから、少年は疾走した。
「『うぁあああああああああああああああああっっ』!!」
『――――――――ッッ!!』
まるで同じことを考えたかのように、破壊者は、少年は1人の少女に向かっていた。
少年は『誘引』するために叫びあがり、自然と右手に鏡のような刀身のロングナイフを、左手で鳥篭のようなものを引っ掛け、怪物の頭上を狙って投げて少女を守るようにして立ちふさがった。
そして――立ちふさがったところで篭が弧を描いて、カランコロンと骨の突起に引っかかった音がし、ナイフを叩きつけながら唱えた。
「―――【
骨の怪物がガクンッと上下からくる衝撃に襲われて動きを止めた。
【アストレア・ファミリア】は黒ゴラの装備(ローブ、羽織り)を装備しています。
輝夜さんがどうなったかは、正史のベル君を重ねてくれればわかります。
もしベル君が揺籠を唱えた場合、廃人になって終わります。
理由はこの魔法は傷つかないことを前提とした魔法ですが、『痛みが発生しない訳じゃない』為です。つまり、生きたままハムハムされたり、生きたまま焼かれたり、生きたままバラバラにされる、という『感覚』を味わう羽目になるため、そんなもの普通耐えられないと考えてます