旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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輝夜さん・・・・服がッ!!


赤雷招来

 

清らかな水。

瀑布の如き轟音をもって滝は下へ下へと水を叩き付ける。

 

しかしてその水は、冒険者の生き血によって赤く染め上げられた。

少年は壊れた心でなお、少女を守るために骨の恐竜へと刃を叩きつけ意識を失った。

 

滝の下、水の中にて、少年がいた証拠とでも言うべき鐘の音が鳴り響いていた。

 

ゴボ・・・ゴボゴボ・・・

 

空気の玉は上へ上へと上がっていく。

血を流し、背を叩きつけられ水の中に沈んだ女は少年の元に駆けつける力も起きないまま、沈むばかり。

 

そんな彼女を、背後から何かが支えていた。

 

 

(・・・・?)

 

女の背を支えるその手は小さく、少女のようだった。

水の上に何がいるかがわかっているのか、震えていた。

けれど、少女は水の中に血を流しながら沈んできた女に、同族が襲い掛からないように支えていた。揺り籠で揺らされるようにゆらゆらと。

 

 

「―――アナタ・・・異端の同胞(ベル)?」

 

少女は水中だというのに、言葉を交わし女が失った右腕を未だ血が流れる傷口に押し当てて、そのつなぎ目とも言える場所に接吻をした。

 

(・・・・・・・)

 

背中に走る激痛は、まるで雷に打たれたようで、けれど自分が生きているのは鍛冶師の元にやってきたという【予知夢】なるものを見るという変な女の注文で出来上がった『ゴライアスの硬皮』を素材とした羽織りのお陰なのだろうと女は思い、そして少女の言う『異端の同胞』とやらのことも誰のことを言っているのかは自ずとわかった。

 

(――私では・・・ない・・・あの子は・・・今、上にいる・・・)

 

少女は今度は女の顔を見るために、クルリと正面へと回り込んだ。

その顔は通常のソレとは違って瞳が存在し、美しい容姿だった。上半身は裸で、豊かな胸は晒され柔らかく揺れており、下半身は魚のようだった。

 

 

異端児(ゼノス)人魚(マーメイド)

 

 

彼女は、口から血を流していた。

良く見ると、舌を噛み切ったのかそこから出血していた。

 

(・・・マーメイドの・・・生き血・・・そういえば、ベルも飲まされていたことがあったな・・・)

 

その血は、彼女から提供されたものだと理解。

少女は次に、輝夜の口に接吻し己の舌を輝夜の舌に絡ませ、血を飲ませる。

 

マーメイドの生き血にはユニコーンの角と並ぶ回復力がある。

 

少女は自分の体を傷つけ、女を癒す。

『死なないで』と涙を流しながら。

 

少女の血が、女の体に浸透し痛みを消していく。

右腕の感覚が回復する。

瞳に力が戻る。

 

「私・・・マリィ・・・。前にね、あの子と――」

 

狼さんと金髪の女の子が、緑色の怖いのをやっつけてくれたの。

リド達が『ベル』っていう子は『異端の同胞』だから、会う事があったら助けてやってくれって。

だけど、私には血をあげるくらいしかできないから・・・だから・・・

 

少女は見ていた。

実際にはその怪物は、『モスヒュージの強化種』は通りすがりに倒されたようなものだが、少女にとってあの光景は忘れられないものだった。同胞から聞いていた特徴に合致する子がいた。狼が怖くて声をかけられなかったけれど彼女は確かに見ていた。

 

自分にとって、怖い存在を打ち倒してくれたその少年のことを。

けれど、彼女は戦えない。

水の上の世界には出られない。

だから、無理を言うように申し訳なさそうに懇願する。

 

「泣いてるあの子を助けて? 」

 

「・・・・・・離れていろ」

 

 

女は少女(マリィ)の胸を押して離れさせ、水を吸って重くなっている着物を脱ぎ捨てた。

下着の上から、黒い羽織りを右腕に巻き付けて水中だろうとお構いなしに――

 

 

歌った。

 

 

「――【忌まわしきは我が(つみ)。我が心に贖罪はなく、懺悔はなく、憐憫はなく、同情はない。】」

 

 

バチチッ

と光が走り、マリィはさらに距離を取り姿を隠した。

それは、水の中にいる自分達を巻き込みかねない存在だと理解したから。

 

「――【汝の愛を殺した私は既に罪人。されど汝は私を裁くことはなく、向けるべき矛先は神にあった。】」

 

魔法が発現したのは、少年に出会ってから。

理想よりも現実をとる輝夜は『やらなければやられていた。』『もっと死人が出ていた』と告げた相手は少年。『他に方法がなかったのか』と考えないわけではなかった。けれど少年は彼女達を恨むことはなく、そもそもの元凶だけを恨んでいた。

 

「――【ならば私は心を捧げ、身を捧げ、奉仕し、尽くし、癒し、包み込もう。胸に出でたるは恋慕なり。】」

 

白い雷が水に広がることなく輝夜の周りを回転するように走る。

 

「――【雷よ、我が罪を貫き、焼き、殺し、裁け。全てをお前にくれてやる。】」

 

白い雷が、彼女の血のように赤く染まっていく。

激しく雷電が走る。

 

「――【愛しきは雪。愛しきは深紅(あか)。愛しきはその白光(ひかり)。愛しきものに祝福を。我等に降りかかる災いをこの()をもって振り払わん。】」

 

 

詠唱が終わりに近づき、輝夜は加速し浮上する。

岸に手をかけ、飛び上がり、上空へと躍り出る。

 

「――【赤雷招来】――【アメノムラクモ】」

 

主神に『危険だから、なるべく使わないで』とまで言わしめた魔法を解き放つ。

暗い迷宮に赤い雷が迸る。

状況を確認するよりも、その怪物を倒すことだけに意識を向けて壁も何もない宙を蹴り稲妻となって破壊者(ジャガーノート)に突撃する。

 

 

『―――――ッッ!?』

 

「死ね、去ね、死ねぇ!!」

 

 

刀で何度も装甲殻ごと斬り、焼き、砕いていく。

左からの薙ぎ、突き、そして、羽織りを巻きつけた右腕による叩きつけ。

 

『――――ガッ!?』

 

一瞬にして、その破爪の1つを失った破壊者(ジャガーノート)は27階層の壁に吹き飛ばされる。

壁から這い出れば、すでに目の前に自分を傷つけた女がいた。

そして、今度は残っている破爪に赤い光が走り、破壊された。

 

「魔石のないお前を倒すのは面倒くさい。時間もない。さっさと去ね。化物!!」

 

『~~~~~~~~~~~~~~っ!?』

 

母たる迷宮に仇なす冒険者を抹殺に来たその怪物は、輝夜という化物に全身を砕かれる。

スキルと魔法を合わせた強引な、そして防御そのものを捨て去った自殺行為に等しい加速による暴力。破爪を失い、装甲殻を破壊され、逆関節の脚力による高速移動も封じられた。吹き飛ばされれば目の前に輝夜が現れる。怒れる女の形相はまさに雷神。破壊者(ジャガーノート)は初めて恐怖というものを知り、そして、壊れた足で、27階層に出来ていた大穴に滑り落ちた。

 

 

「・・・・・・げほっ、ごほっ」

 

魔法が解除されるとともに、ボロボロになった刀を杖の様にして膝をつく輝夜。

それにライラが駆け寄る。

 

「輝夜・・・お前・・・」

 

「・・・・?」

 

「服がっ!!」

 

「ふざけてる場合か!?」

 

「馬鹿野郎、ふざけなきゃやってられねえって言ってるんだ!! それにお前、使うなってアストレア様に言われてるだろ!?」

 

「使わなきゃ、全滅してただろう・・・!?」

 

「っつーか、なんつー恰好で戦ってんだよ、お前ほぼ裸じゃねーかよ!?」

 

「・・・・ちっ、下着まで焼けたか・・・」

 

「羞恥を持て、羞恥を・・・」

 

「・・・見られて恥かしい体はしていない」

 

「そういうことじゃねーよ。ほら、ポーション。1本だけ無事だった。」

 

 

輝夜はポーションを受け取ると、裸だろうと気にせずに腰を下ろして息を荒くしながら飲み干していく。羞恥を捨てた美女に溜息をつきながらもライラは自分のローブで輝夜の体を隠す。体は徐々に治り、息も落ち着いていき頭が冷えていく。

周囲を見渡す。

地面は血に染まり、確認できる生存者は自分を入れて4人。

 

「・・・・おい、ベルと【戦場の聖女(デア・セイント)】はどうした? まさか・・・」

 

「いや・・・まだわからねぇ・・・お前が水から上がってくるちょっと前に、兎があの化物に攻撃した時、どっちも動かなくなってよ・・・」

 

「何? どういうことだ?」

 

2人で状況整理しているところに、生き残っていたヘルメス、ロキの眷族2人が近づき、何があったかを説明する。少年が投げた鳥篭のような物が化物の背中の突起に引っかかり、それで挟み撃ちするようにナイフを叩きつけて魔法を唱えたと。

 

 

「そ、それで・・・その篭?からもあの子と同じ魔法が出て・・・そしたらあの化物がガクンッて動かなくなったんです。一瞬ですけど」

 

「アタシが思うに・・・『骨伝導』とか言うのじゃねーかって思ってる」

 

「ベルまで固まった理由は?」

 

魔法反射(マジックリフレクション)だろうな」

 

「それでその後は?」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】が飛び掛る形で兎を化物から距離を取らせた。」

 

そしたら、横の壁から『大蛇の井戸(ワーム・ウェール)』が出てきて2人を飲み込み、穿孔していった。

そうライラが説明すると、27階層の床に開いている、先ほど破壊者(ジャガーノート)が落ちた大穴を指差した。

 

「どうする? 追うか?」

 

「・・・・無理だ」

 

「だろうな」

 

自分を含めて、怪我人もいる。

その状態で穴の先にいくのは無理があった。

輝夜は顎に手を置き、4人の状態を確認。

 

・輝夜:羽織りを巻きつけていたとはいえ右腕の骨が砕けてる。加えて、魔法によって自分自身がダメージを負っている。

・ライラ:魔法反射(マジックリフレクション)で跳ね返ってきた魔剣の炎に当ったのか、火傷を負っている。

 

他2名も五体満足ではあるが、火傷に切り傷。見たものが見たものなためとても戦闘が可能とは思えない。よって、輝夜は一度帰還することを選んだ。

 

「いいんだな?」

 

「・・・あいつもLv.4だ。【戦場の聖女(デア・セイント)】を見捨てるようなことはしない・・・泣きながらでも動くはずだ。」

 

「まぁ・・・アタシらが深層域までの情報は教えてるしあいつのスキルを考えればなるべく戦わずに動くだろうけどよ・・・」

 

「・・・・・まずは回復だ。しかし、どうやって上に行くべきか・・・」

 

「悪ぃけど眼晶(オクルス)はあの化物が出たときに砕けちまった。」

 

「まぁ・・・仕方ない。」

 

「顔なしの野郎もいなくなってるしよ・・・ああ、くそ、早く団長に伝えて兎を助けに行ってもらわねえと・・・」

 

どうやって上に行くか、そう考えていると25階層の入り口から声が聞こえた。

 

 

『誰か・・・誰かいないのですかー!?』

 

 

「・・・この声は」

 

「アンドロメダだ。」

 

 

■ ■ ■

 

 

落ちる、落ちる、落ちる。

深くあけられた穴を落ちる。

 

骨の恐竜は、怪物は、恐怖に染まって落ちていく。

あんな存在は知らない。

自分を破壊する存在は知らない。

母たる迷宮は、外敵を抹殺するために自分を産んだのだ。

ゆえに魔石など存在しない。

役目を終えれば消滅する存在であるからだ。

 

だというのに、アレは自分を確実に殺そうとしていた。

幸運にも穴に滑り落ちたがために助かったようなもの。

 

『―――――ッッ!!』

 

 

そんな幸運は、すぐに砕け散る。

 

 

「コツーンコツーン」

 

背中を叩く何かに気がついた。

それは、鐘のような音を鳴らして何度も何度も背を、体を叩いていた。

 

『――――ッッ!?』

 

恐らくは、穴に入った瞬間から音を鳴らしながら怪物の体を叩き、砕いていた。

音は次第に大きくなり、威力を増す。

 

『こいつは魔法の影響を受けて初めて意味を持つ。影響を受けている間一定間隔で、その魔法の余波を打ち出せる・・・・簡単に言えば『魔法を吸収して吐き出す魔剣』みたいな物だな。』

 

それは製作者の言葉。

その鳥篭のようなものの名を、『カナリア』。

素材に混ぜて用いられているのは、『ミノタウロスの角』。

故に、炎上する。

そして、その大穴は音が響き渡っていた。

 

威力は上がる。

音量もまた上がる。

叩きつけ、体を燃やす。

 

『~~~~~~ッッ!?』

 

その篭を外すことは、破壊者にはできない。

なぜなら、破壊者には手がないからだ。

すでに破爪を2つ失っている。

脚力で逃げることなど叶わない。

逆関節を破壊されているからだ。

重力に任せて下に落ちるしかない。

 

落下地点は遥か彼方。

鐘の音は、篭の破壊力は魔力を帯びて威力を増す。

次第に崩れ始める体。

大穴で、耳をつんざくほどの轟音が鳴り響く。

 

 

そして、穴の最果て。

その地面に落ちたのは、ボコボコに変形した鳥篭(カナリア)だったものと。

破壊者(ジャガーノート)だったものらしき、灰だった。

断末魔を遺すこともなく、轟音によって掻き消された。

 

 

場所は37階層。

深層。

 

穴の少し先には、少年と少女を飲み込んで切り開かれた『大蛇の井戸(ワーム・ウェール)』の死体だけがあった。

 

 

■ ■ ■

 

ゴジョウノ・輝夜Lv.5

スキル

 

【剣乱舞闘】:『装備重量が軽ければ軽いほど、器用と敏捷に補正』

 

魔法

【アメノムラクモ】

「――【忌まわしきは我が(つみ)。我が身に贖罪はなく、懺悔はなく、憐憫はなく、同情はない。】」

「――【汝の愛を殺した私は既に罪人。されど汝は私を裁くことはなく、向けるべき矛先は神にあった。】」

「――【ならば私は心を捧げ、身を捧げ、奉仕し、尽くし、癒し、包み込もう。胸に出でたるは恋慕なり。】」

「――【雷よ、我が罪を貫き、焼き、殺し、裁け。全てをお前にくれてやる。】」

「――【愛しきは雪。愛しきは深紅(あか)。愛しきはその白光(ひかり)。愛しきものに祝福を。我等に降りかかる災いをこの()をもって振り払わん。】」

「――【赤雷招来・アメノムラクモ】」

 

付与魔法(エンチャント):雷属性

効果時間:1分。

赤い稲妻。

 

・使用中、雷が自分自身を焼き貫きながら身体能力を強引に上げるかわり、絶えずダメージを負う。詠唱文が長い故に威力は高いが、代償も存在するため、主神には使うなと言われている。

 




輝夜さんに魔法があったらどんなだったんだろうなぁ・・・と。
デメリットあるけど強くなる系の魔法は好きです。


デメテル様が出てる話がないから書かないと後々、『なんで出てきた』となりかねないな・・・
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