旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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雑になっていくう~


エンカウントは突然に

 

 

「―――す、すいませんベルさん眠ってしまって」

 

「いや、気にしないでください・・・僕の魔法なら2人寝たって15分は安全なんですから」

 

「それはそうですが・・・」

 

「寧ろ、僕が先に寝てしまってごめんなさい・・・アミッドさんを休ませるべきでした」

 

「いえ、それは・・・ベルさんはずっと私を守りながら戦っているのですから、休むべきはベルさんであって・・・」

 

 

身支度を軽く整えて、再び行動開始。

きっかり15分、魔法の効果が切れる頃に2人は目覚めた。

先に目を覚ましたのは少年で、自分の膝の上で綺麗な顔して眠る聖女にギョっとして彼女の体を揺すり起こした。互いに疲れていたのだろうが、いくら魔法を使って安全圏を作ってもモンスターが来れば15分間無傷な状態でハムハムされたりドスドスされたりするのだ。そんなときに目が覚めたら正気ではいられない。少年は非戦闘員のアミッドを優先させて休ませるべきだと反省。アミッドは逆にここまで1人でモンスターを引き受けている少年をゆっくり休ませてあげるべきなのに自分まで寝てしまったことを猛省した。

 

「じゃぁ、その・・・」

 

「はい、行きましょう。ベルさん体は大丈夫ですか?」

 

「はい・・・大丈夫です」

 

 

広間(ルーム)を出て、不気味な静けさが漂う薄闇の中を歩く。

 

「アイズさん達【ロキ・ファミリア】も・・・このような場所に今の私達のような少数で潜ることはあるのでしょうか・・・」

 

アミッドは戦闘時少年の邪魔にならない位置、かつ、少年がアミッドを守れる範囲内をつかず離れずんの距離を保ちつつも、会話を投げた。会話していなければ、どうにかなってしまいそうな不安感がどうしてもあった。それは勿論、少年も同じだ。

 

「わかりませんけど・・・少なくとも僕達のように2人でってことはないと思います。Lv.6なら話はまた別なんでしょうけど・・・それでも、三人一組(スリーマンセル)四人一組(フォーマンセル)のパーティで・・・」

 

治療師(ヒーラー)を加える・・・ですか」

 

「はい・・・」

 

 

白宮殿(ホワイトパレス)』の攻略難易度――『ギルド』が定める37階層の到達基準はLv.4。この条件を満たしているのは、ベル・クラネルただ1人だけだ。アミッドのレベルは2で、二人一組(ツーマンセル)でその片方が治療師(ヒーラー)。この構成を熟練の冒険者が知ったなら頭を痛めるか、冗談をいうなと笑われることだろう。

例え【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】だろうが、迂闊な真似は許されない。

 

「ベルさん、37階層の全容は・・・わかりますか?」

 

「ライラ先生から聞いた限りでしか・・・」

 

アミッドから話を振られ、少年は小人族(ライラ)に聞かされた『遠征』の話から頭の中に『深層』の地図を頭に広げる。

 

37階層の想像図(イメージ)にちょうどいいのは、箱に入ったホールケーキだ。

 

「箱が階層そのもので・・・ホールケーキが迷宮部、今いる『白宮殿(ホワイトパレス)に当ります」

 

その『白宮殿(ホワイトパレス)』たらしめる『大円壁』の数は、合計5つ。内側の壁から第一円壁、第二円壁と呼称されており、更に五つの円壁に隔てられた五つの迷宮部にもそれぞれ名称が存在する。

 

「第一円壁の内側、次層への階段と『階層主』が出現する階層中心部が『玉座の間』。そこから・・・えっと、『騎士の間』、『戦士の間』、『兵士の間』、『獣の間』と続いてて・・・」

 

『騎士』や『戦士』などとついてはいるものの、出現するモンスターの種類が異なるなどの差異は()()()()ない。

 

「ただ内側に行く分だけ面積も狭くなって、迷宮の造りも複雑になるからモンスターの奇襲や遭遇(エンカウント)が必然的に増えるって言ってました」

 

「では私達は・・・その中のどれかにいる、と?」

 

「たぶん・・・でも、その()()()がわからないんです」

 

「・・・・・」

 

「だから、36階層に行くための階段を見つけたくても・・・『階層主』と出くわす可能性だって・・・否定、でき・・・ない」

 

「・・・・・」

 

もし、『玉座の間(はずれ)』を引いてしまったなら・・・そんなことを考えてしまって少年は何度も頭を横に振るった。

 

「ベルさん、あれは・・・・」

 

いつの間にか足を止めてしまっていたのかアミッドが少年の手をそっと握り、安心させようと背中を摩る。会話をしながら何度か徘徊するモンスターをやり過ごしていると開けた空間に出た。そこでアミッドは目の前に佇立する巨大な壁を見つけ指を指した。

 

「アミッドさん、地図は?」

 

「・・・載っていません。道筋(ルート)の外です」

 

「・・・・これが『大円壁』?」

 

白濁色を纏う迷宮の中で、その円壁は曇りない純白を帯びていて透明な水、あるいは白水晶と勘違いしそうな存在感を出している。天然のものとは思えないほどの整然としている超巨大壁は、視界の左右の果てまで続いていた。頭上を塞ぐ闇のせいでその身の丈も計り知ることはできない。地上のあらゆる国と都市を探しても、ここまでの城壁は存在しないだろう。

 

「・・・ベルさん、この壁・・・僅かですがこちら側に向って湾曲しています」

 

「・・・・・?」

 

「どの円壁かはわかりません・・・が、湾曲しているということはつまり円を描く壁に()()()()()()()ということではないでしょうか?」

 

いつモンスターが壁から産まれ落ちるかわからないというのに、アミッドはそっと静かに掌を壁面に押し当て横へ移動してそんなことを言った。少年が姉達に教えられた情報は正確じゃない。何しろ、少年は一度も『遠征』に参加することもなかったし、まだまだずっと先のことだと思って少年自身も『深層』のことなんて行くつもりはなかった。姉達も、少年が自分達のように『ダンジョン攻略』に熱を持っているわけではないことを知っていたから、先のことを話しても頭に入りきらないだろうと思っていた。だから、全てを教えていたわけじゃない。

 

包囲されている、つまり自分達がどこにいるのか限定することもできる。

自分たちが、どの円壁にいるのかさえわかっていれば。

 

 

「・・・・ごめ、なさい」

 

「ベルさん・・・」

 

「わからない・・・」

 

 

正解は第三円壁――『戦士の間』。

それぞれの大円壁は微妙に色が異なる。純白の色は、円壁の中でも中間に位置する第三円壁のみだ。ここに『深層』経験者がいたならば、そう言うだろう。だが、ここにいる2人にはその情報がない。俯いて震えて、泣きそうになる少年。つられてアミッドも悔しそうな顔をするが、パンっと自分の頬を叩いた。

 

(私が泣くのは・・・いけない・・・! 私はただついて歩いているだけ・・・ずっと辛いのは彼、泣きたいのも彼。それを差し置いて私が泣くなんて、許されない・・・!)

 

アミッドは一度深呼吸をして、少年のもとに戻り、両手を強く握り締めた。

 

「ベルさん、どちらにせよどの円壁かわかったとしても正確な現在地がわからないことに変わりません」

 

「・・・・はい」

 

「状況は、()()()()()()()()()()。『前進』もしていませんし『後退』もしていません。」

 

「・・・・?」

 

「私達は今、()()()()()にいる、これは確かです。 どちらにせ、進むしかないのです。」

 

「・・・・」

 

「責任を感じる必要はありません、私はとことん、貴方についていきます。私が貴方を癒します。だから、どうか」

 

 

諦めないでください。

闇の中で、過酷の中で、アミッドはたった一人ボロボロになりながら自分を守る少年を励まし続けた。それしかできないから。『外側にいるのか』『内側にいるのか』それがわかったところで、何も変わっていない。少年にはきっと今、『アミッドを地上まで守らなければならない、だけどどうしたらいいかわからない』と責任を背負っているのだろう。自分だって怖いくせに、誰かに縋って泣きつきたいくせに。アミッドは治療師(ヒーラー)だ。だから、自分にできるのは彼を癒してあげること、不安を少しでも紛らわせてあげることだけなのだ。

 

 

 

『教えてさしあげましょうか、今貴方達がいる場所を』

 

 

深紅(ルベライト)の瞳と視線を交わしていると、ふと、どこからか自分達とは違う誰かの声が聞こえた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

怪物の雄叫びが轟く。

重なり合う威嚇の声に対し、滴る汗を放置し、斬撃を見舞う。 

『深層』の一角に広がる戦闘地帯。迷宮を移動していた少年が陣取ったのは上に伸びる階段の天辺だった。

 

 

「アミッドさん、アミッドさんッ!」

 

「―――ッ!」

 

 

遭遇(エンカウント)は突然だった。

薄闇の中、聖女が少年を励ましていると、それは現れた。

 

細目で、細身で、黒衣を纏っていて笑みを浮かべていた。

そして、言ったのだ。

 

『貴方達がいる場所は第三円壁と第二円壁の間・・・つまり、『戦士の間』です』

 

その声はひやり、と肌を撫でる様だった。

 

『つまり、『白宮殿(ホワイトパレス)』の中間地帯に位置します』

 

さぁ、がんばってください。と男は言った。

 

そして、アミッドの右肩を白い杭突(パイル)が貫いた。

 

「―――ッ!?」

 

「・・・え?」

 

『その辺から拝借したのですが・・・ええ、やはり、良い・・・』

 

グラっと崩れるアミッドを少年は抱きとめすぐに走り出した。

男のいる場所に背を向けて。

 

 

『怪物にされた女性を救った、人語を解する怪物も救った、都市最大派閥の冒険者の命を救った・・・ああ、貴方は真実、英雄なのでしょう。実に良い! 今この状況においても! 苦しいのに、辛いのに、立ち上がる! 貴方こそ英雄というに相応しい!』

 

さぁ遊びましょう! 我が主神――エレボスを誑かした憎き英雄よ!

男はそう言い2人の後を追いかけてきた。

 

 

そうして現在。

 

「【癒しの滴、光の涙、永久の聖域。薬奏(やくそう)をここに】――【ディア・フラーテル】」

 

『グギャァッ!?』

 

階段を上がってくる怪物の波に恐れず、けれどアミッドが負傷したことに焦りを滲ませ、痛む頭を無視して人魔の饗宴(スキル)で敵がどこから来るのかを把握して近い順に倒していく。

 

敵の体躯中枢に鋭い突きが決まる。

虚を突かれた悲鳴を散らして『ルー・ガルー』が灰の霧に変わる。

 

 

「アミッドさん・・・アミッドさん・・・!」

(痛い・・・体も、頭も・・・! あの人、やっぱりずっと僕らのことを追いかけてた、探してた・・・!)

 

「ベルさん・・・大丈夫です、今、魔法で治療しましたから、大丈夫・・・冷静になってください」

 

「でも・・・でもっ!」

 

「冷静さを失ったら、それこそ終わりです・・・」

 

「ぐすっ・・・はい・・・はいっ!」

 

男は追いかけてきたと思えば、今度は姿を消していた。

いや、2人に襲い掛からんとしているモンスター達の相手までしたくないのか隠れていた。治療を終えたアミッドは再び詠唱。今度は少年の体を癒していく。アミッドが負傷したことで動揺し、傷を生み、お構いなしに結果、体は傷だらけだった。

 

「――ふっ!!」

 

肉薄せんと迫る全てのモンスターを捕らえ、戦闘の蜥蜴人(リザードマン)を引き付けて首を袈裟斬りで飛ばす。間を置かず、首を失った死骸を避けて左右から迫るルー・ガルー、その後方にいる『スカル・シープ』を視界に入れて少年は詠唱した。

 

 

「【福音(ゴスペル)】!」

 

ゴーン、と鐘楼の音がなり迫り着ていたモンスター達が灰に、あるいは吹き飛んでいく。そして、それを待っていたかのように男は飛び出して来た。

 

「――なっ!?」

 

「私が何故、貴方を見つけられたと思いますか!? ええ、ええ、不思議でしょう!? 私も貴方と似た『スキル』を持っているのです! 条件はありますが・・・貴方1人を特定するくらいは、なんてことはありません!」

 

剣が振り下ろされ、それを槍で受け止め、掃う。

掃われた剣をそのまま体を捻って再び、叩き込んでくる。それを受け流す。

 

「何故、エレボスが眷族ですらない貴方を気にかける!? 実に不快でした! しかし今ここにいる貴方は紛れもない『英雄』だ、私は『英雄』に憧れている。なら、ならば・・・私程度の脅威も過酷も乗り越えて頂かなくては、おもしろくないではないですか!」

 

同じく『家族』に捨てられた者同士、仲良く死合いましょう!

男は笑って剣を何度も叩き込んでくる。

思考がまともに定まらない少年は、アミッドは、次に男のとった手段で言葉を失った。

 

「【舟旅は其処に。 旅路は何処に。 大いなる海原、辿り着かぬ陸地】――」

 

「え・・・」

 

「詠唱・・・」

 

「【帆は焼け、竜骨は割れ、船底より水が染み込み舟は沈み行く】」

 

 

剣を何度も叩き付け、詠唱を阻むことも逃げることも許さない男。

並行詠唱を平然とやっている目の前の男に少年は超短文の魔法を打ち込んだ。

 

「【(ゴスペr)】―――ガッ!?」

 

「【女は辱めを。男は餌に。 英雄さえもそれは変わらず喰られ行く】」

 

魔法を打ち込もうとして、足を腹に叩き込まれアミッドを巻き込む形で後方に吹き飛ぶ。

 

「げほっ、がっ!?」

 

「ベルさん、逃げましょう!」

 

「【やがて舟は砕け散り、嵐の中、舟板にしがみ付くも救いは訪れることなく深き眠りがやってくる】」

 

アミッドを抱きかかえ、男と距離をあけようと走る、走る。

男の顔が笑みに染まっていき、人差し指を差し向けて唱えた。

 

「【衰弱せよ、困窮せよ、絶望せよ、英雄が立つは(なかま)の山、報われることなく破滅するがいい】」

 

 

【シーレーン・アルゴー】

 

 

放たれたヘドロのようなものが、少年に纏わりついた。




【シーレーン・アルゴー】
詠唱

【舟旅は其処に。 旅路は何処に。 大いなる海原、辿り着かぬ陸地】
【帆は焼け、竜骨は割れ、船底より水が染み込み舟は沈み行く】
【女は辱めを。男は餌に。 英雄さえもそれは変わらず喰られ行く】
【やがて舟は砕け散り、嵐の中、舟板にしがみ付くも救いは訪れることなく深き眠りがやってくる】
【衰弱せよ、困窮せよ、絶望せよ、英雄が立つは骸の山、報われることなく破滅するがいい】

別作品『天秤の傾き亭へようこそ』で使われている魔法とは効果が違います。
回復ではありません。
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