【乙女ノ天秤】
の魔法登録が2つなのは天秤の左右に1つずつある器が合計で2つだから。という理由です。
登録後は自分で詠唱までしないといけなくなるのと、1回使えば登録が消えてしまいます。
アストレア様は【乙女ノ天秤】に【ディア・エレボス】が追加詠唱にあったのを見て
「これ、別の魔法が食い込んだようなものじゃないの?」と引いてます。あとベル君がこの追加詠唱を見て、嫌がってアストレア様に抱きついて泣いてしまってます。
兎と鼠と姫
―――いい天気・・・・。起きたらびっくりしたなぁ。
僕は今、バベル前の広場でクエストを受注しに行っている輝夜さんを待っている。
輝夜さんの音は特定できる中での1つなので、多少離れていても『そこにいる』とわかるので大丈夫なのだ。
なのでベンチに腰掛け、ぼぉーっと空を眺めていた。
昨夜、僕はステイタスを更新して、魔法が2つ発現してその後、アストレア様と一緒に就寝したはずなのだが、夜中、ふと喉が渇いて、水を飲みに行こうとランタンを取ってリビングに寝ぼけ眼を擦りながら下りていったら、どういうわけかライラさん以外のお姉さん達が灯りを絞った中で何やら話し合いをしていたのだ。
僕は思わず「・・・・ひぃっ!!」と小さい悲鳴を上げてしまい、それに気づいたアリーゼさんが僕の元に慌ててやってきて「大丈夫、ごめんね、たしかにこんなに暗い中で集まってたら怖いわよね。どうしたの?喉でも渇いた?」と言って、キッチンまで連れて行ってくれた。
水を飲んだ後、アストレア様の部屋に連れて行ってもらったと思って抱きついて胸に顔を埋めるように体を小さくして眠っていたはずなのに、目が覚めると裸のアリーゼさんがそこにいた。
「・・・・・ぇ?」
僕は困惑した。
―――どうして裸で寝てるの?いつもはちゃんと着ているのに。
周りを見てみれば寝巻きが投げ捨てられていて、ようやく僕が【どういうわけかアリーゼさんの部屋で寝ていた】ことに気が付いた。
最近またその立派なお胸がランクアップなされたそうで、僕の顔にむにむにと形を変えてはアリーゼさんの呼吸と共に押し付けられる。
「・・・・良い匂いだけど・・・う、動けない・・・」
レベル差という圧倒的な力の暴力の前に僕は身動き1つ取れず、ただただその柔らかい肢体に包まれていた。
「・・・・アリーゼさぁん」
「・・・ぅ~ん」
「ア、アリーゼさぁん」
「・・・べるぅ。結婚してぇ・・・・」
「ふぇっ!?」
声をかけて起こそうとしても、返ってくるのは寝言というか夢うつつな返事ばかり。というか、体をスリスリと擦り付けてさえ来る。
―――ア、アストレア様も裸で寝ることあるのかな??
愚か兎、大好きな姉が裸で抱きついて寝ている現実に対して、さらに大好きな女神様は裸で寝ることはあるのかという疑問を生んでしまう。
―――あ、後で聞いてみよう。
その質問が女神を困らせるであろうことに全くといって気が付かない。
「アリーーーゼさぁん。」
「・・・輝夜は2番目でぇ・・・リオンは・・・心の準備ができないなんて言うからぁ・・・・」
「・・・ありぃぜさぁん?」
「・・・・私とぉ・・・輝夜でぇ・・・抑えておくからぁ・・・ベルゥ・・・ヤッちゃいなさぁい・・・・」
「何を!?」
僕は思わず声を上げてしまった。一瞬、口に何やら柔らかくグミのような何かが当たった気がするけれど、それどころではない。この人はいったい僕に何をさせようというのか。
とても恐ろしいことを考えているに違いない、そう思って僕は、今度は違う呼び方で起こそうと試みる
「・・・おねえちゃん」
「・・・すぅ」
「おねぇちゃーん」
「・・・うぅんベルぅ・・・駄目よ、最初は私にしてぇ・・・」
「アリーゼお姉ちゃん!!!」
「・・・・・ベル???」
謎の羞恥に顔を真っ赤に染めて、必殺の【お姉ちゃん呼び】をすることで何とかアリーゼさんは起きてくれた。抱きしめて寝ていた僕のことを見て、回らない頭で自分が裸だということに気づいて、もう一度僕のことを見て少しからかうように言葉を発する。
「お姉ちゃんのこと脱がしたの?」
「・・・・怒るよ」
「ご、ごめん。わ、わかってる、わかってるから。自分で脱いだのよね。うん。い、嫌だった?」
「嫌じゃないけど・・・・」
グウゥ。とお腹の鳴る音がして、クスリと2人して起きて欠伸をして
「ベル、そこのブラ取ってくれる?」
「えっと・・・この赤いの?」
「違うわ、黒いのよ」
「・・・・はい」
「赤いのはサイズがちょっとキツくなっちゃったから、ベルに上げるわ」
「・・・・閉まっておくね」
「おはようのキスはしないの?」
「・・・・し、しない!」
「じゃあ、代わりにホックを止めてくれないかしら?」
「・・・もうからかわない?」
「うん、終わりにする」
「・・・・わかった」
そう言ってアリーゼさんのお願いを聞いて、アリーゼさんは近くにあったセーターをダボっと着て僕の手を握って部屋を出る。
どうしてセーターだけなの?ズボンとかはいいの?と聞くと『上だけ着るのがいいのよ。ほら、生足がよく見えるでしょ?』なんて言う。うん、綺麗だけど。
「あ・・・」
「どうしたの?」
「昨日、アストレア様の部屋にいたのにどうしてアリーゼさんの部屋に?」
「あー・・・・夜中ベルがリビングに下りて来て、私がベルと寝たくなったから連れて行っちゃったのよ。アストレア様には謝っておかないと」
とそんなやり取りをして、目が覚めると僕がいないことに驚いたアストレア様が慌てて出てきて「ど、どこに行ったのかと思ったわ」と言われてアリーゼさんが謝って、皆で朝食を食べて僕は新しい装備を身に着けてローブを羽織り、輝夜さんを待ちながら鏡で自分の姿を眺めていた。
「似合ってるわよ、ベル」「ローブさすがに置いておいたほうがいいんじゃない?大丈夫?まぁ、ベル君がいいならいっかー。かっこいいよ」
「うん、かっこいい」「ゴーグル、いいねそれ」「
と褒められて思わず「えへへへ」と漏らして、そうして準備を終えた輝夜さんと一緒にダンジョンへと向かう。
道中「せっかくだ。今日は、小遣い稼ぎにでも簡単なクエストを取って10階層に行こうと思う。お前のポテンシャルならもう少し行ってもいいが、モンスターとの戦闘経験がなさ過ぎるのも困るからな。そのあたりは【階層1周する】くらいの気持ちでいろ」と言われて今現在、僕はベンチに座って輝夜さんを待っていた。
と、そこで僕は声をかけられた。
■ ■ ■
「お姉さん、お姉さん。白い髪のお姉さん」
私は、ベンチに座っている、警戒心があるんだか無いんだか、どこかチグハグで、でもとても良い武器を持った昨日路地裏で出くわした冒険者に声をかけることにした。
その少女は時々どこか決まった場所を見つめては、ほっとしたり、オドオドしたりとどこか不安定ささえ感じさせた。
―――こんなのが冒険者?簡単に死にそうで、いかにも金品を巻き取ってくれと言ってるようなものではないですか。
私に気づいていないのか、目を閉じて、私を中々見ようとしない。
ならば、ともう一度声をかける。今度は裾をくいくいと引っ張って。
「お姉さん、お姉さん。白い髪のお姉さん」
「・・・・・『黙っていろ。ならば愛でてやる』ふふっ」
「・・・・はい?」
この人は今なんと言った?『黙っていろ?』『愛でてやる?』・・・・は??
どうして声のトーンを少し下げてまでそんなことを言った?・・・・は??
「あ・・・あの?」
「ん?・・・・・ああ、ごめんね、少し昔のことを思い出していただけだよ。どうかしたの?」
「い、いえ、なんでも。・・・あ、あの、突然なんですけど、【サポーター】なんて探していたりしませんか?」
「さぽーた・・・??」
聞きなれない言葉なのか、目の前の人物はその言葉を反芻する。
サポーターがどういうものか説明して、再度、たずねる。
「・・・・・」
「冒険者さんのおこぼれに預かりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんですよ?」
黙りこくる彼女に、私はにっこりと笑顔を見せて首を傾げる。
「・・・・アリーゼさん当たりにやったら喜ぶかな?」
「何か言いました?」
「ううん、何でもないよ?」
「それでお姉さん、どうですか?サポーター、いりませんか?」
「僕は構わないよ」
「本当ですかっ!なら、リリを連れて行ってくれませんか、お姉さん!」
無邪気さを出してはしゃぎ、そして、再度、昨日見た【変わりものの武器】を確認する。
そして、自己紹介をしようとして、彼女が言葉を続けた。
「・・・ただ、僕1人じゃなくて、もう1人来るけど、それでもいいなら」
「・・・・・はぃ??」
「いや・・・・待ち合わせをしていて。だから、3人でのパーティーってことになるけど、それでいいなら」
『基本的に戦うのは僕だけだけどね』と彼女は言葉を続けた。
ソ、ソロじゃない・・・・だと???
い、いや、大丈夫。大丈夫。今までどおりでやれば問題ない!!!
冷静さを失うな!!こいつも憎き冒険者だ!!!
「ま、まあ私からお願いしているんです。文句なんてありませんよ?」
「・・・・そう?なら、相談してみるね。ああ、こういうときは自己紹介するんだっけ。君は?」
「リリの名前はリリルカ・アーデです。お姉さんのお名前は何と言うんですか??」
「・・・リリルカさん・・・・【ファミリア】は??」
「【ソーマ・ファミリア】ですよ、お姉さん。割と有名な派閥だとリリは思ってます!」
「アリーゼさん達が何か言っていたような・・・・」
「何か言いました?」
「ん?ごめん、なんでもないよ。んー・・・・ベル。ただの、ベル。アストレア・ファミリア所属。よろしくね、リリルカさん」
あっ、終わった。詰みました。
■ ■ ■
「で、『【サポーター】を雇ってもいいか。』と?」
「うん。貧乏なんだって」
「公に他人の懐事情を言うな。お前だって自分がいくらもってるかしらないだろうに」
「・・・・そうだった」
「はぁ・・・。気をつけること。わかったな?」
「うん、わかった。輝夜さんっ」
僕は1~10階層の間で、お手ごろに稼げる・・・いわば小遣い稼ぎ程度のクエストを受注してきた輝夜さんがやってきたので、事情を説明して、『・・・・ベル、お前が雇ってもいいというなら雇えばいい。私は何も言わん。何事も勉強だ』と言われたので、リリルカさんに了承を伝えた。
何か、すごく顔色が悪いというか、白くなってるけど・・・大丈夫かな?
輝夜さんも何か、目つきが変わったというか・・・・まぁ、この子は何かある。そんな気がして、そのまま対応することにした。
「そういえば・・・・どうして違うファミリアの僕に?別々の派閥同士の繋がり?ってイザコザの原因になったりとかって聞いたような・・・?」
「えへへ、リリはこんなに小さいですし、腕っ節もなく冒険者としての才能がないのでファミリアの方々は愛想をつかして邪魔者扱いにしてるんです。頼んでも仲間に入れてなんてくれません。」
仲間外れを受けている、とリリルカさん・・・えっと、リリと呼んで欲しいんだっけ。リリはそう言った。
僕たちの後ろを一定の距離感で歩く輝夜さんが時折「ほぅ・・・」「なるほど・・・」と呟いている。
なんでも、リリは役立たずの烙印を押され、ファミリアのホームでは肩身が狭く、今も割安の宿屋を巡って寝泊りをしているんだとか。
僕にとってはファミリアは家族で、大好きな人たちがいる場所だ。だから、ファミリアの中で身内をのけ者にするなんて考えが僕には理解できなかった。
思わず輝夜さんの方に振り返ってみれば
「・・・ファミリアなんぞ、千差万別だ。仲が良いところもあればそうでもないところもある。【ファミリア】なんて言ってはいるが、一枚岩というわけではないのだからな。」
「そっか・・・・」
「派閥によっても、生産系、探索系とそれぞれ行動目的も違う。故に、全部が全部、同じというわけではないぞ。」
と説明してくれた。
必ずしも【苦楽を共にする生涯の関係】というわけではないらしい。
「ファミリアの関係の話でしたら、大丈夫です。リリの主神であるソーマ様は、他の神様達のことに未来永劫無関係というか、敵になる以前の問題というか。【お酒を造る】こと以外に興味を持ちませんので、そうそう争いが勃発することはまずないと思います」
そうして、ダンジョンを進んでは道中クエストの目的のドロップアイテムのためにモンスターを倒して『キラーアント』を倒したり『パープルモス』が飛んでくればナイフで羽を断ちバランスを失ったところでさらに止めを刺す。
輝夜さんは『
スキルのせいでモンスターは僕たちに気づいていないから、リリは首を傾げながら『どうしてモンスターが私達を無視しているんです・・・?』なんて言っている。
そして10階層に到着。
10階層からは、ダンジョンにギミックが発生しはじめるらしく、ここでは視界を妨げる霧が発生して、視界が悪くなる。
ライラさんから聞いた話では、この霧のせいで、方向感覚がわからなくなったり、敵の察知に遅れるらしい。
「いいか、ベル。10階層からはギミックの1つとしてモンスターの同時多発発生・・・つまり【
「・・・はいっ!!」
「
「わかった!」
「なら行って来い」
「はいっ!」
「えっ!?」
僕は輝夜さんから一通りのおさらいとしての説明を受け、ゴーグルをはめて駆け出す。
僕に気づかないオークの群れに飛び込み、切り刻み、さらに低く走ってインプを倒し、輝夜さんが注意しろと言っていた怪音波がきたら、足で石を蹴り飛ばして魔石ごと粉砕する。
うん、どうやら怪音波もわかるみたい。
なんていうか、ノイズのような感じがする。
そして、輝夜さんが言っていた
「―――
そして、群がろうとしていたモンスターたちは灰へと変わっていった。
■ ■ ■
「なっ・・・・!?」
早すぎる・・・!?ありえない!!コレは!!どんなカラクリなんですか!?
これがフィリア祭から噂になっている『泣き兎』!?
おかしい!!色々おかしい!!どうして、どうして、ここに来るまでの道中でモンスターを素通りできるんですか!?
ありえません!!まるで、まるでコレじゃあモンスターがリリたちに気づいていないみたいじゃないですか!?
さっきから、草原を駆け回る野うさぎの如く、縦横無尽に駆け回ってはモンスターを蹂躙していますし・・・なんなんですか!?
それに、確かあの派閥に入った新人はまだ最近入ったばかりのはず・・・!!
い、いえ、あの派閥は大抗争の1年後からやけに活発に動いて力をつけてきた勢力・・・・ですが、それで・・・ありえるんですか?こんなことが。
あっ、また魔法を使った!?見えない!?
「・・・・パルゥムさん、パルゥムさん。少し、よろしいですか?」
ビクっと肩を揺らして、私は後ろでずっと見ているだけの着物の女性・・・・
「な、ナンでしょうか?ゴジョウノ様・・・・」
「輝夜で構いませんよ?いや何、少し・・・お話がしたくなりまして。」
「は、はぁ・・・」
「ああ、あの子のことは放っておいて構いません。見失うこともないでしょうし。・・・・では、貴女様の所属する派閥について少しお聞きしたいことが」
「・・・・なんですか?」
「あなたの主神が造り出している
「・・・・どうでしょう。似ているとも、違うとも言えます。お飲みになりたいので?」
「"失敗作"なら、少々、嗜んだ事はございますよ?ただまぁ、最近何かと活発に動いておられる・・・・いえ、騒ぎになっている派閥でもありますので」
「はぁ・・・・」
「・・・・・申し訳ございません、どうやら有力な情報はなさそうでございますので。ああ、お仕事のお邪魔をしてすいません。手伝いましょうか?」
「いえ・・・リリ1人で問題ありません。お気遣いどうも」
そう言ってリリは蹂躙撃が行われていた現場に魔石を回収しに向かう。
少し振り返ってみれば、ニタァと怪しい笑みを浮かべた着物を着た黒髪の女がいた。
―――こ、怖すぎる!?
■ ■ ■
「・・・ベル!私は少し近くのルームでクエストの物を取ってくるから、お前は階層を上がりながらモンスターを倒していけ。」
「えっ、輝夜さんは?」
「そんな捨てられる兎みたいな顔をするな・・・すぐに合流するし、帰りまで急いでいく必要はないだろう?」
「う、うん」
「序盤が飛ばしぎみだからな。体のことも考えて急がずに上がってくれ。そうすれば私も合流しやすい。」
「わ、わかった」
「お前なら私の位置もわかる。そう不安がるな。」
「・・・・うん」
僕は輝夜さんに帰りの方針を聞く。
受けたクエストの目標物はある程度手に入ったらしく、いい時間だからそろそろ切り上げようということだ。ただ、輝夜さんは一旦僕たちから離れて行動するらしく、僕は不安になってしまった。
見かねた輝夜さんは僕の頭に手をやって優しく撫でながら安心させてくれて、別行動になった。
「ベル様?」
「・・・ベル・・・サマ?」
「ああ、リリの仕事としてのなんと言いますか、上と下の立場をはっきりさせておきたいというリリの拘りみたいなものなので。慣れないかもしれませんが、受け入れていただけると」
「・・・・うん、わかったよ。それで?」
「あっ、えっとですね・・・・?ベル様は本当にLv1であってますか?どこぞのファミリアのように詐称してたりしていませんか?」
「どこぞの・・・・・そういえばローリエさんってLvいくつなんだろ」
「???」
「あっ、ごめん。うん、Lv1だよ」
「なんていうか・・・・規格外すぎません?」
「さぁ・・・・比べる相手がいないから・・・」
僕達はそんな話をして、モンスターを倒しながら上層へと向かっていく。
途中、「ベル様の武器って変わってますね?どこで鍛えられたものなんです?」とか「いったいいくらなんでしょう・・・」とかそんな話をして。
そして気が付けば地上への階段が見えて「輝夜さぁん・・・」なんて零して、地上に上がってとりあずリリが換金をしてくれて今回は【お試し】ということで換金分のほとんどが僕の手元に来た。
途中言葉が聞き取れなかったけれど。
そしてクエストの報告があるので、そこで僕はリリと解散することになった。
「輝夜さん・・・どうしたんだろ」
少し心細くなって、ギルドの受付に向かうと
「ベル君?どうしたの?」
と僕のアドバイザーのエイナさんが声をかけてくれた。
「それが、輝夜さん、地上に上がるまでには合流するからって別行動してたのに・・・結局出てこなくて・・・それで、とりあえずクエストの報告をしておこうと思って」
「うーん、そうなんだ。あっ、こっちにはまだ来てないよ?というか、今君の後ろに・・・いるよ?」
「ふぇ???」
ガバッ。ギュッ
「っ!!!?」
「ぶぁ~かめぇ~。まったく気づかんとはまだまだだなぁ、ベルぅ??」
「か、輝夜さん!?なんで!?反応無かったのに!?」
「私はLv5で副団長だぞ?気配くらい消せるわ」
後ろから輝夜さんに抱きしめられて頭に顎を置かれて、そんなことを言われた。
えっなに、輝夜さんって音を消して歩けるの!?ま、まさか、極東にいるっていうニンジャ!?
そんなことで動揺する僕に代わって輝夜さんがクエストの報告をしてエイナさんが処理をして、報酬を受け取る。
「さて、帰るぞ。ベル」
「う、うん」
輝夜さんの手を握って踵を返してギルドを出ようとすると、エイナさんが声をかけてくる。
「あれ?ベル君?」
「はい?」
「君の・・・あの変わったナイフはどうしたの??」
そういわれて僕は体をチェックする。
「え・・・えぇ・・・えぇぇ!?」
「・・・・・・クスクス」
「ど、どどど、どうしようお姉ちゃん!?」
「ええい、こういうときだけ"お姉ちゃん"と呼ぶな!!」
「だ、だって、だってぇ・・・・っ!!」
僕は輝夜さんに縋るようにしがみ付き、動揺に動揺を重ねる。
い、いつ、いつなくした!?
そんな輝夜さんは、またいつものようにぽん。と頭に手を置いて
「私は少し寄り道をしてくるから、お前は先に帰っていろ。」
「で、でも・・・!!ナ、ナイフ・・・!!」
「・・・ちゃんと持って帰ってやるから安心しろ」
「ほんと!?」
「ああ、本当だ。1人で帰れるか?」
「う、うん。走って帰るから大丈夫・・・」
「なら、先に帰っていろ。ああ、風呂は待て。」
「え?」
「今日は一緒に入りたい気分だ」
「わ、わかった」
そうやり取りをして、僕達は別行動。
僕は暗くなり始めたオラリオの中、いかに早く、ホームに帰るかという精神的な戦いを。
輝夜さんは、どこかへ寄り道をして僕のナイフを探しに。
メインストリートを人を避け、まるで白い閃光のように走り去る1匹の兎が、そこにはいたのだった。
■ ■ ■
「さぁ~てぇ~。最近何かと臭いことをしている【噂のパルゥム】はお前か~ちぃびぃすけぇ~~」
そうして、黒髪に着物を着た極東美人はオラリオ北西の路地裏を歩く。
足音もなく歩く。
―――ベルのスキルは常に発動しているわけではないことはわかっている。あれはあれで、疲れるらしいからな。パッシブとは言え
「ベル自身も、あのチビ助に"何かある"ことはスキルで気づいていたようだが・・・まだまだだな。さすがに細かい動作までは拾えないらしい」
輝夜は、ベル達に合流しなかったわけではない。
リリルカがサポーターとして自分を売りに来て、ベルが相談しに来た時点で勘付いてはいた。
「ああ、こいつ、なんかあるな」と。
ベルに小声でどこのファミリアか聞いてみれば、何かとギルドで騒ぎ立てる【ソーマ・ファミリア】という。
ここいらで、あの派閥に釘を・・・・いや、槍でも刺すか。そう思った輝夜は利用してやろうと思ったのだ。
「ベルには悪いことをしたな・・・・。まぁ、あとでたっぷり奉仕してやるからそれでチャラにしてもらうといたしますか。クスクス」
スタスタと何の迷いもなく歩く。
まるで行き先を知っているかのように。
「この当たりには盗品倉があるくらいだからなぁ・・・・それをわざわざヴァリス金貨になぞ変えるわけがない。ほとぼりが冷めるまで別のものに形を変えて保管している。まぁ、宝石やアクセサリーだろうが」
リリルカがベルのナイフをチラチラみていることはわかっていたし、声をかけてファミリアの情報を聞き出そうとしたが、『その程度、ギルドでも聞ける』レベルのものでしかなかった。
「あえて喋らないのなら・・・・喋りたくなるようにしてやるだけだ・・・・。こういうのを確か・・・・司法取引?というのだったか?」
まあ、あのチビが何を望むのかなぞ知らんが。と無責任に言い放ちながら、ノームの万屋という骨董品店の前へと近づいたところで、1人の小柄な少女が俯きながら、されどどこか怒っているように出てきた。
―――みぃつけた。
ドンッ。
「・・・あぁ、申し訳ございません。このあたりの道に慣れていませんでして。お怪我はありませんか?」
「えっ、ええ、大丈夫です。こちらも余所見をしていたので、気にしないでください。それじゃ」
「・・・・・・クスクス」
ぶつかった拍子にベルのナイフを回収。
自分の着物の袖に仕舞い込み。ホームへと向かう。
「利用させてもらうぞぉ、チビスケェ―――」
そんな小さな声が路地裏に微かに、響き、少し後になって先ほどの少女による「やられたあああああああああ!!!!」という悲鳴が響くのだった。
■ ■ ■
アストレア・ファミリア本拠
星屑の庭
そのリビングにて、カウチに座る女神の膝に顔を埋めるようにして泣く一匹の兎がいた。
皆、「朝あんなにニコニコして出て行ったのに、何があったの・・・??」「まさか、輝夜に怒られたとか??」「いやいや、この子に限ってそれはないでしょ?」「じゃあ、何があったの?」「10階層に行くって言ってたし、視界が悪くてトラウマが蘇っちゃったとか?」などと心配する始末。
「ひっく、ひっ、うっ!!」
「ベル、大丈夫よ?泣かないで??」
「だ、だって、だってぇ・・・!!」
「あなたが無事に帰ってこれたのだから、それだけで私は嬉しいわ?ほら、泣いてないで、涙を拭いてその綺麗な瞳を見せて??」
「ひっく・・・ひっく・・・」
ベルが帰ってきて、カウチで座って読書をしていた女神の姿を見て大粒の涙を流して、膝に飛びつき泣きついた。
意図的ではないが、股に顔を埋めているような絵面なため、女神は少しビックリしたが、ベルの様子からしてそれどころではなかった。
事情を聞き、今日一日の行動を整理させ、輝夜と別行動で帰ってきたと聞いてだいたいの推測はついて、ベルを宥める。
「べ、ベル??いつまでもそうされると、私、恥ずかしいわ。それに、息がかかってくすぐったいの」
「うぅぅぅ・・・」
「ほら、夕飯まで膝枕してあげるから、せめて向きを変えて頂戴??」
「・・・・・ごめんなさぁぃ」
「いいのよ、大丈夫。大丈夫だから」
とそこで、玄関が開き、輝夜が帰宅し、泣いているが無事1人で帰宅できたベルの姿を見てテーブルの上にゴトリと【
その音にベルが、ピクっと反応し、起き上がり、ナイフを見て、輝夜を見て、ナイフを見て、女神を見て、輝夜を見て、ぷるぷると震え涙を零し
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!輝夜お姉ちゃん大好きいいいいいいいいいいいいい!!!!」
と抱きついた。
女神や他の
―――アリーゼが先に帰宅していたら、間違いなく私が怒られていた。
「すまなかった、ベル」
そういって、女神の変わりに夕飯までベルを膝枕し、頭を撫でるのだった。
兎の好感度
1アストレア様:大好き、よく一緒にお風呂に入ってる。寝るのも一緒。
2アリーゼ:アストレア様と同じくらい好き。よく一緒にお風呂に入るけど最近なにやら胸を揉ませてくる。起きるとなぜかアリーゼさんが裸で寝ている時があるのでビックリする。
3輝夜:意地悪だけど大好き。たまに一緒にお風呂に入ってたまに一緒に寝てる。寝てるときにやたら服の中に手を入れてきたり、耳を甘噛みしてきたり誘惑まがいのことをしてくるのでドキドキ。
4リュー:静かに微笑んでる顔が綺麗。昔はアリーゼさんと3人でお風呂に入ってたのに一緒に入ってくれないのと一緒に寝てくれなくてちょっと寂しい。
他:みんな優しいお姉さん。よく「アストレア様の胸の感触」とか「唇の感触」とかとにかく感想を聞いてくる。お風呂に入ってると一緒になることもあるけど普通に髪を洗ってくれたり自分が行けないダンジョンの話を聞かせてくれる