「―――18禁ラブコメの波動を感じるわ!」
場所は27階層。
大瀑布の落ちる場所、水の迷都の終わりの場所。
しかし、そこは普段の遠くから見れば美しく幻想的な世界とは打って変わって、地獄のような景色をしていた。階層間を巻き込む大爆発によって天井に張り巡らされていた放射状の木の根が落ち『絶望の檻』とでも言うかのように3人組のパーティを閉じ込めていた。
「【剣姫】・・・俺の認識が間違いでなければ、つい最近、貴様達が階層主・・・【アンフィス・バエナ】を討伐しているはずだが」
「うん、間違ってない・・・少なくとも
「ならばこれも『
「たぶん」
【猛者】、【剣姫】、【紅の正花】――この3人で構成されたパーティは滝壺を中心に出来上がった
「これ、落ちてきたのって24階層の大樹・・・でいいのかな」
「破壊された25階層が支えきれなくなったと考えるべきだ」
アンフィス・バエナは水上という地形条件を加味されギルドによって推定レベルを『6』と設定されている。そんな階層主を、泳げない【剣姫】が雄叫びによって『召喚』された『アクア・サーペント』『ハーピィ』を処理、【猛者】が頭を潰し、【紅の正花】が付与魔法で弱点である魔石を潰した。
「【猛者】1人でも討伐はできた?」
「・・・」
「できるんだ」
「・・・」
「・・・えっとこれからどうやって下に?」
「そこで阿呆を抜かしている【紅の正花】に『根』を破壊させればいい」
階層主との戦闘は『我慢』との戦いだ。軽い攻撃ではびくともしない超巨大の巨躯、疲れを知らない生命力。魔導士という火力の要を揃えても一朝一夕には撃破できない。冒険者達のLv.がよっぽど上回っていない限り、どのようにことを進めても持久戦になりがちである。が、それを無視してのけることができるのが、この3人であった。
「何でも『燃やせば解決する』って思ってるから・・・温暖化が止まらないんじゃ」
「・・・お前が、環境を考えるとはな」
呆れたような、若干帰りたくなっている【猛者】オッタルは背後で腕を組み、人差し指を唇に当てて、謎の推理、考察をする残念な美女、アリーゼ・ローヴェルを指差してアイズに自分の考えを伝えた。曰く、『炎』で爆砕させて採掘させればいい。それで正規の道を掘り出して通過する。ただそれだけだった。
「えと・・・アリーゼさん、大丈夫ですか?」
アイズはきっと少年のことが心配で仕方が無いのだろう・・・と気を遣う様にして声をかけたが、アリーゼは困ったように微笑を向けてくる。
「【剣姫】・・・ベルと【戦場の聖女】がくっついたらどう・・・思う?」
「えっと・・・1つの体に2つの頭がある・・・みたいな?」
「いや物理的にくっつくって話じゃないわよ!? いやまぁ、物理的にくっつこうと思ったらくっつけられるけど・・・少なくとも貴方が考えてることではないわ!」
どうしてこの子はいきなり怖いことを考えるのかしら、そういうのってダンジョンにいそうなモンスターじゃない? 自分のことを棚にあげてアリーゼはアイズを残念なものを見る目を向けた。
「?」
「ベルのことだから【戦場の聖女】を庇って戦い続けるわ! 『
じゃないと、目が覚めたらモンスターにモグモグされている光景が目の前に広がるからネ! 傷つかないとはいえ、気分は最悪よ! 経験あるかのように語るアリーゼは、少年の行っているであろう行動を予測していく。
「けどあの子は『深層』の情報なんてほとんど知らないわ、知っているとしても私達が『遠征』で『こうだった~』『あーだった~』とか・・・そういう情報! だってあの子を『遠征』に参加させるのはまだまだ先だって考えてたし! だからベルのことだから・・・スキル全開でモンスターが少ない道を選んで彷徨い続けると思うの」
「ベルのスキル・・・自分より弱かったら気付かれないし、ちょっとずるい」
「でもあれ、自分の意思で範囲広げたりできるけど・・・ずっと意識してると頭痛くなるみたいよ? だからあの子、ダンジョンから帰った日は本拠でいつも寝そべってるの。絨毯みたいに」
「・・・ちょっと可愛いかも」
「それを皆でモフモフしたり、夕飯まで膝枕してあげたり・・・癒しタイムよ」
「・・・ごくり」
「けどよく考えて! Lv.2の【戦場の聖女】を常に庇いながら、自分は常に負荷が掛かった状態・・・場合に寄っては抱きかかえて走りもするでしょう! そんなの・・・惚れてしまうわ、釣り橋効果ってやつね!」
まぁ布石は打っておいたんだけどネ! 【戦場の聖女】は少年が治療院に遊びにくるようになってから少なからず好感をもっている。加えて18階層で宿屋で再会したときにはアリーゼが外堀を埋めていた。なら、きっと今頃は・・・
「自分は何もしてあげられない・・・ならせめて、辛い思いを緩和させてあげなくては・・・癒してあげなくては・・・って体を差し出しているかもしれない! ベルもこういう状況は初めてだろうし、あの子よく泣く子だから、母性(物理)に弱いし、母性(精神)に弱いから年上の【戦場の聖女】にベッタリ溺れているかもしれない・・・」
「溺れる・・・アミッドは、水?」
「だーかーらー! そういう命が危ない状況では、エッチな気分になるかもしれないってこと! 『子供を残さないと』って!」
「・・・アミッドとベルの・・・赤・・・ちゃん!? い、いつ!? 何プレゼントしたら喜びますか!?」
「気が早すぎる!! でも、とにかく、なんかこう・・・あっちはあっちで
「でもベルはアストレア様が一番なんじゃ・・・」
「確かに!!」
まぁ実際、アリーゼが予想するようにアミッドは1人戦わせ続けていることに罪悪感を抱いているし、少年にトゥンクしてしまっているし、彼女達がここから移動した少しした時間軸において裸で抱き合っているわけだが・・・それどころか、互いに風呂の残り湯に癒し効果があることがわかっているアミッドの提案というか、アミッドから始まった舐め合いによって指やら首やら、あちこちを猫の毛づくろいのようなことをしているだなんて、今ここにいるアイズも、アリーゼも知る由もない。なんならアリーゼはさらに先のことをしているとさえ予想しているのだから。
「あの子達を地上に連れ帰ったら・・・【戦場の聖女】が孕んでないか調べてもらわないと・・・ディアンケヒト様、さすがに怒らないわよね? 状況が状況だし」
「ご祝儀・・・ご祝儀・・・『ジャガ丸君』じゃ・・・駄目ですよね
「おい、貴様等・・・それ以上くだらない話をするなら、俺は帰るぞ」
「「フレイヤ様の命令を無視して嫌われたいなら、どうぞ」」
「!?」
フレイヤの命によって少年とアミッドの救出に赴いているオッタルは、不幸にも彼女達を置いて帰ることは許されない。さらにダンジョンは下に潜れば潜るほど広くなっていくため、迷宮都市をすっぽり覆うほどの『深層』ともなれば1人で迷子を捜すのは不可能に等しい。行方不明者が正規の道にいれば可能性はあるかもしれないが、少年等はそれを知らず、途方もなく彷徨っていることはアリーゼが予想しているしオッタル自身その可能性が『大』だと思っている。さらには女神が望んでいるのは少年の『救出』である、これを無視、あるいは失敗ともなれば彼女に心の底から失望されかねない。オッタルは口をへの字にし、静かに拳を握り締めた。
そんな、くだらないことを言い合っているものだから、広間を走る水流から間断なくモンスターが出現し、あっという間に囲まれてしまう。視界に映る浮遊魚の数は有に30を超えている。石の体を持つ『ヴォルテリア』達は鳴き声を発さず、ただ額の単眼を絶え間なくぎょろぎょろと蠢かしている。
「・・・囲まれた」
「囲まれたわ! 人気者は・・・つらいわね!」
「貴様のせいだ・・・阿呆」
Lv.7にLv.6が2人。
このような状況でさえ、冗談を、あるいは肩を竦ませる程度に涼しい顔をしていて、オッタルは静かに大剣を持つ右腕を頭上高く上げ、振り下ろした。
「―――フン!」
視界が黒一色と染めていく周囲の浮遊魚を巨躯から繰り出された斬撃によって破砕、爆砕する。開かれた道を直進し、次層へと続く正規ルートへと向っていく。
「・・・【剣姫】」
「・・・後ろに、います」
「・・・」
「【猛者】、間違っても殺しちゃだめよ」
「・・・我が女神の神意はあくまでの兎のみ。他の事など、構う必要性はない」
視線だけで、チラッと背後を見た彼女達は特段何するでもなく下の階層に飛び込んでいった。
3人の『冒険者』が去っていった後方。
暗がりから顔を出したのは複数のモンスター達。
特徴的なのは『冒険者』の武器、防具を身にまとっていること。
「やべぇよ・・・あいつらやべぇよ・・・」
「ゴッド・ウラノスからの情報でミスター・ベルを探しに来ましたが、私達は必要なのでしょうか!?」
「リド、彼女達気付いてましたよ!? べ、べべべ、ベルさんに会うまでに私達の命はあるのでしょうか!?」
「落ち着けフィア!? オレっち達もとにかく行くぞ!?」