「―――なぁ、本当にいいのか、お前達?」
朝霧の漂う、静かな朝の一時。
とある場所のさらにとある場所で、3人の人物が語らっていた。
「こんなしょーもない計画に加担して」
最初に声を投げたのは、黒い髪にして、自称
ひび割れたステンドグラスから差し込む光が、語らっている1柱の神と2人の男女を優しく照らしている。2人の男女は心底迷惑そうに、そして呆れたような微笑を浮かべている。
「何を今更。 残された時間を過ごしていた私達を無理矢理見つけ出したのは、お前だろうに」
「ああ、『どうせ死ぬなら世界の踏み台になろうぜ』、だったか。いきなり何だこの神は、と面食らったな。まあ最終的に頷いた俺達も俺達だが」
1人は灰色の長髪に、黒を基調としたドレスを着た終始瞼を閉じたままの女だった。
1人は顔をひっかかれでもしたのか大きな傷と、全身を覆いつくす鎧を着た大男だった。
「まぁ、聞け。最終確認というやつだ・・・・と言っても、まぁこれも何度聞いたかわからんが・・・。オラリオが俺達に打ち勝とうとも、打ち負けようとも・・・」
2人は『大罪人』として名を残す。数多の命を奪った人類の裏切り者として、未来永劫語り継がれるだろう。それでも本当に、構わないか? そう男神は、腰に手を当てながら2人に聞く。連れ出した張本人であるにも関わらず、彼のこの質問はしつこいくらいに何度も聞いてきていて2人は心底鬱陶しそうにしていた。
「本当に、ほんっとうに、ほんっっっとうに、構わないか?」
椅子に腰を下ろして、砕けたステンドグラスを見上げながら、彼女はやはり呆れたように口を開いた。
「くどいぞ、エレボス。 私達はもうとっくに決めた。今更翻すことなど、できるわけがないだろう」
「それに死後の名声なんぞ興味はない。満足して逝けるかどうか、俺達からすればそちらの方が重要だ。『剣も女も、人生すらも、思い立った時こそ至宝』。俺のどうしようもない主神の教えだ」
「出たな、狒々爺の好々爺。何度、私の胸に手を突っ込もうとしてきたことか。あれで大神だと言うのだから腹が立つ」
舌打ち、そして生理的嫌悪の表情を露わにするアルフィアは、膝の上に乗せている黒い本を指でなぞりながら、やはり舌打ちを打った。
「ほほう? それで? その糞爺のセクハラは無事成功したのかね、アルフィア君?」
「全て『魔法』で迎撃した」
「よく送還されなかったなぁ、ゼウス・・・・」
「そしてベルに『お爺ちゃん大嫌い』と言わせた」
「それは死んじゃうだろう、ゼウス・・・・」
幾度となく行われたセクハラとの闘い。
ベルと一緒に風呂に入れば、『ワシも一緒に入るぞい!』とやってきては『【
「はははは・・・・あったなぁ、そんなこと。ベルのやつも自分が何を言わされているのかわかっていないのに、お前が褒めるからニコニコしながら言うもんだから・・・くくっ、笑顔で罵詈雑言の嵐を飛ばして来たらゼウスでも耐えられんだろうよ。しかし・・・お前は本当によかったのか? アルフィア? 『子供』と離れて」
「ん? あー・・・・そういえば、いたな・・・あんときは夜中ってのもあって俺のことは見えてはいなかっただろうが・・・しかしアルフィア、お前が産んだ子なのか? その
「違う。『妹』の子だ」
長かったような、短かったような。
ベルと過ごした思い出を噛み締めるように、2人は微笑を浮かべていた。
楽しかった。
ああ、楽しかったのだ。心から。
戦うこともなく、することもなかった。 ド田舎だったから。
それでも、価値ある日々であったし、穏やかな日常であったから、『冒険者』であった2人からしてみれば縁遠い『日常』だったのだ。バカをするゼウスを吹き飛ばし、はしゃぎまわる兎をひっつかんで膝の上に乗せ、セクハラをかますゼウスを吹き飛ばし、巻き込まれてザルドが土に埋まる。楽しい日々だったのだ。
「ヘラの眷族の血筋であり・・・・『ゼウスの系譜』でもある」
エレボスもまた、そんな子供の姿は
アルフィアの背後から覗くようにして、己の姿にビクビクと怯えている、よわっちろい、ちびっ子の姿を。
「へぇ? ということは、父親が【ゼウス・ファミリア】か?」
「ああ・・・・俺達の中でも一番の下っ端だった男だ。猪や勇者のガキ共に、あいつだけはやられるくらい弱かった・・・」
頬の汗を滴らせ、キリキリする胃を抑えるようにザルドはアルフィアをチラッと見ては続けて語る。
「
何せ、相手はヘラなのだ。
【ファミリア】が全滅状態だというのに、その男は病弱で1人で部屋からでることもできないアルフィアの妹とレッツ☆子作り。これにはザルドも膝から崩れ落ち、一人でずっと怯えていた。
「お前も
「・・・・そうだったな。うん、そうだった。だが俺はそんな命知らずじゃないからな!!」
「・・・・反面教師、いや・・・あの子にはその辺、トラウマくらいには躾けたつもりだ」
「いやなこと教えるなよ・・・」
「なんだ、何を教えたんだ?」
アルフィアから黒い本を受け取り、ペラペラとめくっていくザルド。
中身なんて何も記されていない、空白の本。儀式でもしているかのように、ペラペラ、ペラペラ、ペラペラとめくってはパタリと閉じる。
「「―――で、お前が生まれたってわけ」」
「・・・・・」
「「1人で部屋からも出ることもままならない娘のベッドに潜り込むようなクソにはなるな」」
「・・・・・」
「「あの
「・・・・・」
「「愛するなとは言わん、しかし、ちゃんと考えろ」」
「・・・重いなぁ、その教育・・・・大丈夫か、その子供」
「・・・・ゼウスのことをしばらく『クソ』って呼んでいたな」
「二次被害出てんじゃん」
まったくもって酷い教育だ。
反面教師どころではない。
しかし、子を産むのはいつだって命がけで、アルフィアの妹は文字通り命を燃やして産んだのだろう。知らない間に孕んでいたとなっては戦争になりかねないことではあるが、
『いいかベル、病弱な女を孕ませるということは、こうなっても仕方がないということだ』
『待て待て待て、待ってくれアルフィア!? お前、何をするつもりだ!?』
『
『どうしたじゃない、やめろ!』
『顔に可愛い子猫の髭が増えるだけだろう、対して変わらん』
『俺のこの顔の傷、お前には可愛く見えるのか!?』
『可愛い
『違う! とにかくやめろ!』
『お、おかーさんやめて! 叔父さんが可愛くなっちゃう!』
『・・・・とにかく病弱な女に手を出すということは、これくらいのこと・・・いやもっと酷い目に合うと思っていろ』
そんな光景があったのかもしれない。
二次被害でゼウスが『クソ』呼ばわりされていたが、それもそれ。いつものことだ。
「・・・それで? その子供に、お前達は何も言わずに出てきたわけだが、本当にそれでよかったのか?」
「「真夜中に訪ねてきておいて何を言っているんだお前は」」
時間を考えろ。
起こされるこっちの身にもなれ。
村人を初めて見つけた時の変な歌を歌うのもやめろ、迷惑だ。
お前のせいでベルが怯えてしまっていた、なんてことをしてくれるんだ。
至極当然の苦情。
エレボスとてこれには『いやー苦情処理が追い付かない、困ったもんだ』と言うがまったくもってこの神、気にしていない。
『('ω')ウゥゥルゥゥルゥゥオォィヤァァィヤァァオォォゥゥウゥゥイェェエェェ…♪』
なんて玄関扉をノックして口ずさまれた時には、ザルドは顔を青くして止めたほどだ。もしアルフィアが先に開けていたらエレボスは3つ4つ向こうの山まで吹っ飛んでいた。しかしエレボスからしてみれば、いや、仕方ないじゃん。だって深夜だし。誰もいないし、夜道って妙にテンションあがらね? 深夜テンションにならね? そんな中人見つけたら、歌っちゃうよね~! である。この神、自分のせいでその子供にトラウマが刻まれ幻覚を見るようになってしまっていることに気づきもしなければ、それを申し訳なく思うこともなかった。ぶっちゃけてしまえば、たとえ彼がそのことを知っていたとしても、『あ、悪ぃ』で終わらせていたことだろう。
「ふぅー・・・・まぁそのことはいいとして」
「いや良くはねぇよ」
「神威を抑えることもできないのか貴様は」
「仕方ないだろ、チビッちゃったんだから」
「神威を小便みたいに言うな」
「ゼウスだって漏れるだろ? 歳なんだし」
「
まぁまぁ、老神に介護は必要かどうかの話はまたいずれするとして・・・、エレボスは両手で話を区切るようにパタパタと仰いで、話を戻す。
「たった1人の甥、しかも肉親の忘れ形見・・・・いや、義子なんだろう? 良かったのか、アルフィア?」
「・・・・・・」
「お前は、『妹』とその子供だけは愛していたんだろう?」
「・・・・・・」
ぷいっと顔を反らして何も言葉を返してこないアルフィア。
俯いて組んだ手をもぞもぞとさせるザルド。
エレボスは思った。
普通に思った。
だからつい、ツッコんでしまった。
「・・・・いやお前等、めっちゃ未練残ってんじゃん。」
天才策士、エレボスの作戦は2人に知られるや否や、超強制的に変更を余儀なくされた。
『子供』を使った自爆作戦―――×
『子供』を信者に勧誘―――――×
自爆作戦が通っていれば、心優しい冒険者は巻き込まれて死亡し、その亡骸を発見することさえできなかっただろうし、その友人共は、まだ少年少女とも言える歳の冒険者達は精神的に錯乱し絶望に叩き落されることだったろうに。
「俺もさ、不眠不休で作戦考えたわけ。 親を亡くした子供をタナトスだとか、邪神共が『会わせてあげるよ』とか『お空で待ってるよ』だとか言って勧誘してんの。わかる? ハロワがいっぱいいっぱいなわけ。 子供相手に冒険者共が攻撃するか? しないだろ? 子供ってのは時に何するかわからんから最も脅威なわけよ」
「「後ろから刺されて死んでしまえ」」
「だからそういうことを言うのやめろって」
「「『未来』をお前自ら潰しに行くとか、犬畜生にも劣るな」」
「第一、親がいないんなら子供は生きていけないだろうが」
「「・・・・・そういうこと言うの、やめろよ」」
「もー・・・・・お前等さぁ・・・・」
誘っておいてなんだけど、やってることと言ってること、滅茶苦茶だぜ? それでもゼウスとヘラかよ。おいアルフィア、こっち見ろよ何指で椅子なぞってんだよ。おいザルド、何床に落書きしてんだよ。兎描いてんじゃねえよ。エレボスは普通にツッコんだ。
「―――私達はどのみち、残り少ない命だ。 最期の瞬間まであの子と共にいて、私たちの死体を見て涙するあの子を見るより、『終末の時計』を遅らせるべきだと思った。だから選んだ・・・あの子が生きていける世界を望んだ。未練がないと言えば嘘になる、しかし・・・最早中途半端な私に、あの子の傍にいてやる資格はない」
中途半端なことをした私達は、もう帰ることなんてできない。
どんな顔をして帰ればいいのかもわからない。
せめて別れを言っておけばよかったのではないか? いいや、それこそわからない。 あの子はきっと嫌だ嫌だと泣きわめいて縋りついてくる。そうなってしまえばいよいよ私達は動けなくなってしまう。それに、なんて言葉を送ってあげればいいのかがわからない。
「―――腹を痛めて産んでいれば・・・メーテリアであれば、何かいい言葉の一つや二つ、かけてやれたのかもしれないが」
「・・・・・今も泣いているんだろうな、あいつは」
「泣き虫がすぎる」
「よく言う、それが良いと言っていたのはお前だろう?」
「・・・・・・」
もはや親としても失格ものだ。
天に上ったとき、メーテリアに正座させられるかもしれないな。申し訳なさそうにアルフィアはまたステンドグラスを見つめて微笑を浮かべた。本当は会いに行くべきではなかったのかもしれない。そう思ってしまって、だけど、会いに行ってよかったとも思っている。ああ、本当にどうしようもない人間だ、とアルフィアは瞼が熱くなって、その熱を押さえ込む。子供に何も言わず、捨て、泣かせたのだ。自分達に泣く資格なんてない、そう思うから。だから決して、泣かないのだ。本当ならこんな問答さえしてほしくはない、心を揺さぶるなと、誘ったのはお前だろうと恨み言を何度も言う。
少し間をおいて、再びエレボスが口を開く。
カチャカチャと筆を走らせて、黒い本に何かを綴りながら。
「・・・・肝心なことを、まだ聞いていなかったな」
ほんの少し、強い眼光を放って2人を見つめる。
「ザルド、アルフィア。 この戦いの先に、お前達は何を望む?」
子供を捨ててまで、俺に協力して。
子供は以後、お前達の名を呼ぶこともお前たちの偉業を誇らしく語ることもできないとして、それでもなお、何を望むのだと神は問うた。
2人は口を揃えて、力強く返答する。
「「 未来 」」
オラリオの後進が、自分達を喰らい『黒き終末』を乗り越えることを。
この世に『希望』をもたらすために、妹の子が、愛した子が、戦わずに済む世界にするために。
そのためなら、愛した子供に恨まれようと、構わない。
2人はたった1人の子供が生きていける世界にするために、糧となることを選んだ。
「もし、父親と母親の血に導かれ、お前達に憧れ、お前達の影を追って、この地にやって来たら? 世界の命運を賭けた戦いに、巻き込まれていったとしたら?」
「―――その時は、数多の『英雄』が、子の前にたちはだからんことを。」
かつての最強は祈る。
『英雄』の洗礼を浴び、より強い冒険者にならんことを。
そして願わくは、数多の洗礼を受け、幾つもの壁を越え、『英雄』なんてものに至らんことを。
何より、私達を誇らしく語っても得なんて何一つない。親の七光りみたいになってくれるな、と。
「父親譲りの逃げ足は、誰かの窮地を救い、次に繋げるかもしれない」
「母親譲りの優しさは、誰かの涙を拭い、笑顔をもたらすかもしれない」
「『家族』の温もりを知ったその心は、凍える誰かに手を差し伸べ、温もりをわけてやれるかもしれない」
「『傷』の痛みを知り、涙の重さを知った、その弱い心は、同じく涙を流す誰かの傍にいてやれるかもしれない」
「そうか・・・」
2人の言葉を聞いて、慈しむように微笑むエレボス。
それと同じように吹き出すように、言葉を漏らす。
「酷い愛だな。 何も告げずにいなくなっておいて、物騒な愛情まで押し付けられて、心底申し訳なく、哀れに思えてくる」
「私達はゼウスとヘラの眷族だぞ? このくらいは序の口だ。 それに、親のいない子供なんて、この世界には腐るほどいるだろう?」
「ああ、【ファミリア】が健在だったらもっと酷い目に遭っている。絶対にな。 せめて『家族』の温もりを知っている分、あいつはきっと前に進める」
今は好きなだけ泣けばいい。
私達は好きにしたんだ、勝手なことをしたんだ。
なら、あの子も好きに生きて、勝手に生きてくれればいい。
ハーレム? 大いに結構、できるものならやってみろ。
『英雄』になりたい? 好きにしろ、なれるものならなってみろ。
「そして」
「そしていつか」
「「あの子の旅の物語を、聞かせてほしい」」
お涙頂戴でも、腹がよじれるほどの喜劇でも、どうしようもなかったんだと怒りに任せて怒りに来てくれてもいい。これから歩む長い長い旅の道のりを、お前だけの『冒険』をいつか、聞かせてくれと瞼を閉じ、微笑んで口にする。
「やれやれ、とんでもない眷属どもだ、まったく・・・・」
「エレボス。 もう私達にこんな問答をするのはやめろ。これ以上心を揺さぶるな、もう帰り路なんてない、見せるべき面もない、晒す首もない。大丈夫だ、中途半端なことをした私達といえど、己の使命くらい果たしてみせるさ」
「これから俺達は多くの血を流す。 世界を救う礎を築くために、『悪魔』と化す。これ以上の手段はない。これ以上の『試練』はない。もう僅かも持たない命・・・・ここで使い切ってやる」
「ああ、絶望をもたらし、希望のための『踏み台』となろう。それがここまで生き残ってしまった私達の、ほんの少しの幸福を味わえた私達の、最後の務めだ。 私たちの全てを、未来の英雄どもに託す」
迷いを振り切るように、決意を込めた力強い瞳を晒す2人の『英雄』。
たった1人の家族の生きる世界のために、残り僅かな命で『終末』を遅らせる。
たった1人の家族のために、『希望』をもたらせるように。
たとえ最低だと、勝手だと言われようとも。
いつまでもいつまでも、傍で醜く朽ち果てた死体に縋りついいて欲しくはないから、彼女達は足を進める。
優しいあの子は、醜く朽ち果てた私達の死体を見ることは耐えられないだろう。
優しいあの子は、傍で死んだ私達から離れることなんてできないことだろう。
泣き虫なあの子は、一歩も前に進めなくなることだろう。
泣き虫なあの子は、親離れすらできなくなってしまうことだろう。
だから、そう。
だから、これは2人からの最初で最後の『試練』。
『巣立ち』させるための、勝手な試練だ。
泣くのも良い、挫けるのも良い、大いに泣け、大いに笑え。
立ち止まり、苦悩し、振り返り、足元を見て、たくさん考えて。
『箱庭』を飛び出して、どこまでも進んでいけ。
「―――嗚呼、眩しいな。本来ならば、誰よりも讃えられなければならない、英雄達を、俺は黒い泥で穢し、罪人の烙印を押し付けようとしている。」
男神のせいで、子供は2人の英雄の名を堂々と呼ぶことができなくなるだろう。
男神のことを、心底恨むだろう。
英雄なんていないと、豪語するかもしれない。
「―――大いに結構」
男神はそれでも、謝りはしない。
誰かがやらなくてはいけないことに変わりはない。
子供がいたことは大誤算だったが、これから恨まれまくるのだ、なら1番最初に恨んでくれる相手がその子供なら嫌でも覚えていてやれる。
しかし、そうだな。
「まさか子供がいるとは思わなったなぁ・・・こればかりは、少し罪悪感がある」
せめてもの償い・・・いや、違うな、選別と言っておこうか。
ゼウスもいつまでもあの子供の傍にいるとは思えないし。
ここはひとつ、最初で最後のお節介を焼いてやるとしよう。
「なあ、アルフィア」
「・・・・なんだエレボス。まだ何か聞くことがあるのか?」
「いや・・・提案だ」
人差し指をピン、と立ててエレボスは言う。
「神は奪いもすれば、与えもする・・・・だから、俺は奪ってしまったから、与えておこうかと思う」
何を言いたいんだ、と2人は眉をひそめる。
「女神にでも・・・・そうだな、アストレアあたりがいいか? あいつに、その子供を託すというのはどうだ?」
「・・・・何?」
「膝枕してもらいながらヨシヨシしてもらいたい女神No.1のアストレア。 おっぱいでけーし、母性あるし、ザ・お姉さんって感じだし。あいつなら、その子供を託しても問題はないだろう? それをどうするかは、お前が見定めればいい。 子供がいつかオラリオにやってきたとして、どこぞの貧乏神の眷族になるより、今から知れる相手の方が、まだ安心できるんじゃないか?」
何かイラッとすることをサラッと言った気がするが。
どこぞの知らないアホ神の玩具にされるよりはマシか? と思案。
「もちろん、眷族として迎え入れるか、家族として迎え入れるか、派閥の団員としての活動を強制するかはアストレア次第だが・・・まぁあいつなら、『私の眷族になったからには毎日足を舐めてもらうわ』とか言ったりしないだろ」
「・・・・
「おっと失言。まあ、考えておいてくれ・・・っと、もう
筆を適当に走らせていた黒い本をアルフィアに手渡す。
アルフィアはそれを開くも、やはり何も記されてはいない。
神と義母と叔父の血を混ぜた特性のインクで作られた特殊な魔導書。
使うも捨てるも、運しだい。
「これには、何の効果があるんだ? 魔法を発現させるのか?」
「それもある・・・が、重要なのはそこじゃない」
「?」
「それには、俺達・・・・いや、俺はまぁ特にないとして、お前達2人の
「何の意味があるんだ・・・」
意味なんてあるわけないだろう。
それを見て、聞いて、何を感じるのかはその子供しだいだ。
だって、そもそもその子供がそれを手にする保障すらないんだから。
「私達の『冒険』を、この子も追体験する・・・そう思えばいいのか?」
「ああ、それでいい。 そして、それも含めて、その子供の『冒険』となる」
過去を知り、傷の痛みを知り、今を歩き、ただ進め、どこまでもどこまでも。
無意味で結構。
無価値で結構。
意味があったのかは自分で決めろ。
「はぁ・・・・わかった。これは『運』に任せて、仕舞っておくとしよう」
「ああ、そうしてくれ」
そうして、仕舞われていく黒い魔導書。
これはいずれ、この場所に訪れた子供が手にしてしまうもの。
「あー・・・・そうそう、アルフィア、ザルド」
「はぁ・・・まだ何かあるのか?」
「いい加減、鬱陶しいんだが?」
「本当に、ほんっとうに、これで最後だ。 お前たちは・・・・それでも、子供を、愛していたか?」
2人は至極当然のように即答で返した。
微笑んで返した。
「「言うまでもなく」」
最後に。
そして最後に。
エレボスが口にする。
それは2人に対してではなく、これを視ている少年に対して。
「では少年、長らくの旅路ご苦労であった。 ああいや、ご清聴ありがとうございました、と言うべきか? どうだ、『剣』を握った時の高揚感は味わえたか? その時初めてお前は冒険者になったということだ。 どうだ、アストレアに出会えたことは。 嬉しかったか? 救われたか? それはなにより。 俺のことを恨んでいるだろう? ああ、恨んでくれ、じゃなければ困る。 悪である俺が恨まれないなんて、堪ったもんじゃない。 だが・・・・お前の『家族』は、お前を最後の最期まで、愛していたよ」
それでは、少年。
この本はこれをもって役目を終える。
もう二度とこの本は開かない。過去を、憧憬を乗り越えること。それこそがこの光景を最後に見せる条件だ。ならば、これにてお終いだ。
この魔導書は仕様上ボロクズとなるから、二度と触れることも出来ない。
お前がどのような道を歩いているのかを、俺達は知らないが・・・そうだな、いずれ、聞かせてくれ。
「ああ、そうそう、もしアストレアが引き取ってくれたならお前、俺に感謝しろよ? んでもって、ハーレムとかできてたらもっと感謝しろ。アストレアにお相手してもらったんなら、俺にも分けてくれ。アストレアにお相手してもらえるとか羨ましすぎる。いやマジで」
最後の最後にくだらない事を言った神はやはり不敵に笑って、次第に淡い光に包まれて景色は溶けていった。
■ ■ ■
「・・・・・」
少年――ベルは、瞼の中に溜まる水滴を感じた。
それを零れ落とさないよう、睫毛を震わせる。
「・・・ぅ・・・・けほっ」
薄っすらと目を開きかけるものの、眩い光にすぐ閉じてしまう。
迷宮の闇に慣れすぎた
瞬きもできず顔をしかめ、次に体が異常に重たく感じられた。
「・・・・・けほっ」
呼吸も少し、苦しい。
体を動かそうと身じろぎをするも、触覚がまだ覚醒しきっていないのか鈍い痛みが全身を包み込んでくる。喉は乾いてしまっているのか、咳はでるし、鼻から空気を吸えばツンッとして、それが長らく嗅いでいなかったかのような消毒液の匂いだと気づくのにも時間がかかった。
真っ白。
真っ白な空間だ。
耳もまだよく聞こえていないのか、それとも自分ひとりだけ見知らぬ世界に来てしまったのか、何も音が聞こえない。けれど自分の咳は聞こえているのだから、聴覚を失ったわけではないのだとすぐに認識する。
「ァ・・・ィ・・・ォ・・・・ん」
一緒にいたあの人は、無事だろうか。
意識を失う寸前、口から滝のように血を吐き出して、腹からは大きな、肩に担げるほどの黒いイチモツが生えていたから、きっと彼女は悲鳴をあげてしまったかもしれない。それでも、あの時、彼女を押しのけていなければ、彼女まで貫かれていたかもしれない。あの嫌いな体に、綺麗な肌に、あんなものが突き刺さってしまっては、消えない傷になってしまっていたかもしれないし。うん、別に問題はないはずだ。良くある話だ、冒険の終わりに英雄が集めたものを、子悪党がちょろまかす。それだけのこと、ありきたりなオチのひとつだ。彼女がいなければ、『
「・・・・・・・・」
正直なところを言えば、親殺しをした。
その罪を、彼女も背負うと言った。それだけで、少し不謹慎かもしれないけれど罪の重さが軽くなったような気がして、頼もしかった。
命を救う役割を担う彼女の目の前で、命を投げ出すようなことをした僕はきっと怒られるかもしれないけれど、それでもやっぱり少しくらいは罪の意識というか、このままお義母さんのところに行けたら・・・と思わなかったと言えば嘘になる。
「・・・・・ぐすっ」
ゆっくりとぼやけた視界を、瞼を上げていく。
光にも慣れ始めた視界は、今度は無駄な水分を浪費して歪んでしまっていた。
そして、伝っていった。
何とか体を動かそうとして、手を掴まれているような、握っているような感覚を感じて目線を右へと向けた。
ぼやけていた像はやがて焦点を結んでいき、色を帯びて、胡桃色の髪を映した。
ベルの眠っているベッドに突っ伏すように、しかし手をぎゅっと握りしめて、すぅすぅと寝息を立てている。視認と共に、手から温もりを感じ始めて、ほぼ反射のようにぎゅっと握り返してしまって。
「・・・・んっ」
胡桃色の髪の彼女は、浅い睡眠から覚醒して、ぼんやりとした顔をあげて、同じくぼんやりとしている顔のベルを見て、徐々に目を見開いていく。そして、ポロポロと涙をこぼし始めて握りしめている手に頬ずりして、何度も何度も、良かった、良かった。と連呼する。
「ア、ストレ・・・様・・・?」
「ええ、ええ・・・! 私よ、よかった・・・・本当に良かった・・・!」
彼女はひどく疲れているはずなのに、そんなところは一切表に出そうとせずベルの頭を優しく撫でて、抱き着いて、唇まで落としてくる。瞼の下には睡眠不足かクマをつくって、髪は少しボサついて、いつも着用している彼女の衣服の袖は涙でも拭ったか皺も酷い。なのに、そんなことを一切気にせず、泣いていて、気が付けばベルもまた幼い子供のように、悪夢が覚めたことを理解したように、彼女の胸に顔を埋めるように、泣きわめいた。
■ ■ ■
「―――それでね、アリーゼが貴方を運んできたときは、大変だったのよ?
ベッドの角度を調整して、痛まないか確認しながらベルの上体を起こさせるアストレアは顛末を語る。
ダンジョンに向かう冒険者、帰還した冒険者、ギルドの人間、街の人々、治療院の治療師達は、それはもう・・・・有名どころの聖女様が血まみれで帰ってくるわ、トマト野郎どころかミンチ野郎になってる白兎に阿鼻叫喚、悲鳴のオンパレード。なんならベルの担当アドバイザーは予想だにしていない出来事にひっくり返った。治療院から『星屑の庭』に帰ってきたアリーゼは全身ベルの血で真っ赤に染まっていて、彼女本人はみんなを心配させないように
「今日は多い日だったの! テヘ☆」
とか言っていたけれど、鼻の良い狼人のネーゼが顔を真っ青にしたことでそれが姉達に伝播。大急ぎで治療院に駆け込むも、【フレイヤ・ファミリア】の治療師へイズが死んだ魚の目をさらに死なせたくらいやばい目をしながら
「今はちょっと勘弁してもらえませんか・・・? ベルきゅん、貴方達が騒いだ勢いでぽっくり逝きそうなんで」
と言われ追い出された。
落ち着かない数日を待たされ、ようやく面会できたと思えば包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態。
「あれ? うちの兎ちゃんはアンデットだったかしら?」
と思うほどの状態で、数回心臓止まってましたと聞いたアストレアはいよいよ倒れた。
なお、アミッドはベルほどではないもののそれでも中身が相当ダメージを負っていて『精霊』の魔法を槍でガードしていたと言えど、その腕はボッキボキ。見えない音の暴風のせいで内側はボロボロ、過度なストレス環境下にいたせいかそれが祟るように熱まで出す始末。ベルが目覚めた今もなお眠ったり起きたりを繰り返しているらしい。
「――――というわけ。 みんな交代で貴方の部屋にいたのだけれど・・・・落ち着かなくって、【ガネーシャ・ファミリア】にも都市の巡回はしなくていいって追い返されるくらいでね?」
まあ全員、睡眠不足なのだ。
自分の部屋で寝ることもなく、ある者は【ロキ・ファミリア】に報告に行ったり、またある者は【ヘルメス・ファミリア】に報告に行ったり、なんで『黄昏の館』に
「治療費は、ウラノスが出してくれるってことらしいんだけど・・・その、ディアンケヒトがね? アミッドを無事帰還させてくれたのだからもう何も言うな! 言ったら金をとるぞ! って言ってきたの・・・だからもう、治療費は気にしなくていいってことになったの」
ディアンケヒトはお百度参りをしていたらしい。
神なのに。
「それと・・・そこ、部屋の隅に真っ白の塊あるでしょう?」
アストレアが、ベッド――ベルから見て正面の壁に立てかけられている白い塊を指さす。
純白だった。
まるでベルの髪と同じような、処女雪を彷彿させるような真っ白な塊。
それを指さして、困ったように微笑むアストレアは口を開く。
「【猛者】が、餞別だって・・・・なんでもウダイオスの『ドロップアイテム』らしいわよ? ウダイオスって黒なのに・・・ねぇ? 彼、口数が少ないものだから私にはよくわからなかったの」
オッタルはあの後、一人で階層主と戦闘を行っていた。
異常事態で生まれた者であるなら、それをそのまま放置しておくわけにもいかなかったからだ。
生まれたウダイオスは、ベルの放った『
そうして回収したウダイオスの白剣の一部を治療院に持ち込んだオッタルは部屋に置いていった。
へイズはせめてラッピングしろとか、床に傷が・・・とか思っていたし、話を聞いたアストレアはやっぱり理解できなくてとりあえず「うん」と頷くしかなった。
「返せと言ってくることはないでしょうから・・・・もらっておきなさい・・・すごいのよそれ、ずっと熱を放ってるの。この部屋が暖かいのもそれのおかげ」
「・・・・どう、しましょう?」
「貴方の好きにしなさい?」
「・・・・・は、い」
「それと・・・これは少し、貴方には残念なことかもなのだけれど」
「?」
ベルが眠っている間、ロキ、ヘルメスとで話し合いを行っていた。
と言うのも、今回はロキとヘルメスの眷族、そしてディオニュソス・・・というよりはぺニアの眷族が死んでしまったことなのだが、それとは別で
『すまんけどアストレア・・・』
『ベル君には申し訳ないが・・・しばらく、オラリオを出てもらった方が良いかもしれない』
そう、ベル・クラネルの死を偽造するしかなかった。騙す
勿論これは、仲間でさえ騙す必要性があるため、今はまだベルは何度も峠を上り下りしている・・・と、そう濁している状態だ。生存を知っているのは治療院の者とアストレアの眷族達、そしてロキとヘルメス、ウラノスのみだ。
「ずっと、というわけではないの・・・アミッドが目覚めて、期日を見て
「・・・・」
「ヘルメスの真似をするなら、今は一度、貴方と言う『カード』を手放す。 その理由は『エニュオ』に気づかせないため、もうあの厄介者はいないんだと思わせるため」
「・・・・僕、一人で出て行くんですか?」
「いいえ、そんなことはしないわ」
「・・・アストレア様は?」
「私がいなくなると、アリーゼ達のステイタスを更新できなくなっちゃう・・・だから、外にいる信頼できる女神に頼むの」
あの子、貴方の話を聞いて激おこぷんぷん丸だから。
女神はクスリ、と笑った。
■ ■ ■
アストレアと話していると、バタバタと足音が複数。
そして、勢いよく扉が開く。
「ベル、起きました!?」
「ベル君は生きてますか!?」
「ベル様、ベル様ぁ!?」
「「「おかえり、ベルぅぅ!!」」」
多種多様な、けれどだいたい似通ったような言葉の羅列が飛び交う。
輝夜にアーディに春姫に、エトセトラエトセトラ。
ベルがこちらを見ているのを見て、痛々しい姿ではあるものの彼女達はよかったぁ・・・と深く息を吐き捨てる。
「貴方達、まだベルは体が痛むだろうから・・・・お触りはダメよ?」
「ベル様痒いところはございませんか!?」
「ベル君、痛いところはない!?」
「貴方達・・・・」
半ば暴走状態な乙女達。
しかし仕方がない、こればかりは仕方がないとアストレアも強くは言えない。
けれど、アストレアはひとつ、失念していた。
暴走状態になってもおかしくないのは、何も乙女達だけではないということを。
「ベル・・・・おかえり」
「・・・・・ぇぅ」
「ぷふっ、なんだそのカエルが潰れたような声は」
アストレアの隣、ベルの横に立って頭を撫でる輝夜を見て瞳を泳がせるベル。
まるで、
ぷるぷると両腕を震わせて頭の上に置かれた輝夜の手を握って、何度もにぎにぎと感触を確かめて、また輝夜の顔を見る。
「・・・・?」
どうしたんだ? 首を傾げる輝夜。
ぷるぷると腕を震わせて輝夜の着物の衿へと手を伸ばし、掴んだ。
そして。
「―――――フンッ」
がばっ!! と左右に開いた。
勢いよく開かれ、肩から肘上まで露出、なんなら上半身裸な状態にされた輝夜は固まった。
「・・・・・・・は?」
いや別に?
ベルにそういうことされるのも構わないのだけれど?
今日はやけに積極的なんだな?
とか?
思う以前に、普段そんなことをしてこないベルがそんなことをしてきたものだから、輝夜の思考回路はショートした。ぽよんぽよん、と大きく実った2つの乳房が揺れ、そこに顔を埋めて頬ずりしてくる。
室内は、静寂に包まれた。
そして数秒の静寂と共に乙女達は声を上げた。
「きゃあああああああああ!?」
「ベル様ぁあああああああ!?」
「命かけてたから!? 命かけてたから、盛っちゃってるの!?」
「みんな見てるところで!?」
「扉! 扉しめてマリュー!?」
「か、輝夜のおっぱいがめっちゃ揺れてた!?」
「輝夜が、いつも本拠で下着姿でうろついてベルに当たり前のようにおっぱい見せつけたりしてる輝夜が、固まってる!?」
「ア、アストレア様も固まってる!?」
「え、なに、今っておっぱいを出す時間なの!?」
「そんな時間があるの!?」
乙女達のきゃーきゃー音。
勢いよく扉は閉められ、けれど状況が状況なだけに大混乱。
「お、おいベル・・・・その、嬉しいがさすがに・・・」
「ぐすっ・・・本物? 本物? 本物・・・?」
引っ付いているのを、離そうと肩に手を置いて、そこでベルが輝夜の胸の中を、
「ああ、本物だ・・・・そうか、お前は私が消えたところまでしか知らなかったな」
ベルからしてみれば、腕を斬り飛ばされ、水の中に落ちた輝夜は、モンスター達の餌になって死んだと思われてもおかしくはない。ましてやアルフィアの偽物に出会っていたのだから、輝夜が実は偽物なのではないかと混乱してもおかしくはないのかもしれない。そう思うと、全員は黙りこくるしかなかった。乳房の、谷間の中を何度も確認するように触って、そして斬り飛ばされた腕を何度もペタペタと触って確認する。
「好きなだけ確認してくれ、それでお前が安心できるなら」
「ぐすっ、ひぐっ・・・うえぇぇ・・・」
「ああもう、鼻水っ! 汚いっ! 春姫、ティッシュ!」
「は、はぃぃ!? ベル様、ちーんってできますか!?」
涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃなベルを甲斐甲斐しく世話をする。
痛むだろうに体を動かして、上半身裸な輝夜に抱き着いて、決して離れようとはしない。そのことを誰も責めることもできない。アリーゼから何があったのか、あくまで推測ではあるものの聞かされてはいるのだ。自分の手で偽物とはいえ親殺しをしたベルの心が不安定な気がして、今は好きにさせてやるのが一番なんだと、そう思うしかなかった。
「えっとぉ・・・・こほん!」
アストレアがようやく再起動、なんならアリーゼに背後から乳揉みをくらっているのもお構いなしに咳払い。
「みんな知っているだろうとは思うけれど、改めて・・・ベルが目を覚ましたわ。だけど、みんなには悪いのだけれど、アリーゼちょっと胸から手を離して。こほん、みんなには悪いのだけれど、敵……つまりエニュオにこの子の存在が気取られないようにしたの。つまり」
「ベルを死んだことにするんですよね? それを周りに言いふらさないように」
アリーゼが真面目な顔に切り替えて、口を挟む。
そう、と頷いて派閥の人間ではないアーディにも申し訳ないけれど・・・と謝罪。
「知られてしまうと、この子は狙われるかもしれない・・・・そのために、仲間内とはいえ、隠してほしい。 言いたいかもしれない、でも、内緒にしておいてね?」
「「「はい!」」」
手をぱちん、と叩いたアリーゼはせっかくだから、あれ、やっときましょう! と正義の眷族達をベッドの周りに集めた。
「ベルと春姫はやったことないでしょ? だから景気づけにやっときましょ!」
それが何なのか、見ていた2人は目を見開いて瞳を輝かせた。
すぅーっと息を吸って。
そろって、けれど外に響かないような声量で。
「正義の剣と翼に誓って!」
この日から数日後、ギルドを通してベル・クラネルの死亡が伝えられた。
■ ■ ■
ベル・クラネル
Lv.5
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
幸運:G
魔防:F
精癒:H
対異常:I
<<スキル>>
□
パッシブ:自身に害ある存在からの遭遇率を減らす(認識されにくくなる)
アクティブ:自身でトリガーを設定し、害あるモノを誘引する
□
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
魔道書【
□
・
・人型の敵に対し攻撃力、高域強化。
・人型の敵に対し敏捷、超域強化。
・追撃時、攻撃力、敏捷、超域強化。
・怒りの丈により効果向上。
・カウントダウン(Lvに依存)
カウントごとに威力、敏捷上昇。
カウントに応じ精神力、体力を大幅消費。
・精神疲弊
□
・自動発動
・浄化効果
・生命力、精神力の小回復。
・生きる意志に応じて効果向上。
・信頼度に応じて効果共有。
・聖火付与
・魔法に浄化効果付随
※魔法と複合起動可能
□
・
・
・
・体力及び精神力の
<<魔法>>
□【サタナス・ヴェーリオン】
詠唱式【
・不可視の音による攻撃魔法を発生。
・任意で使用武器に振動を付与。
■スペルキー【
・周囲に残っている音の魔力を起爆。
・聖属性
【
□詠唱式【天秤よ】
・対象との武器もしくは、詠唱済み魔法を入れ替える。
・魔法のみ登録可能。
・登録可能数×残り1
■登録済み魔法:【ジェノス・アンジェラス】
・詠唱式
【祝福ノ禍根、生誕ノ呪イ、半身喰ライシ我ガ身ノ原罪】
【
【神々ノ
【箱庭二愛サレシ我ガ運命ヨ砕ケ散レ。私ハ
【代償ハココニ。罪ノ証ヲモッテ万物(すべて)ヲ滅ス】
【代行者タル我ガナ名ハ アルフィア才禍化身才禍
□【天秤よ傾け、我等を赦し全てを与えよ】
・一定範囲内における自身を含む味方の全能力を上昇させる。
□【天秤よ傾け、罪人は現れた。汝等の全てを奪え】
・一定範囲内における自身の敵対者の全能力を低下させる。
■追加詠唱
【天秤は振り切れ、断罪の刃は振り下ろされた。さあ、汝等に問おう。暗黒より至れ――ディア・エレボス】
・範囲内における敵対者の戦意を大幅低下(リストレイトに近い状態にする)。
・恐怖付与。
・効果時間中、自身を含めて一切の経験値が入らない。
※効果時間5分。
□【
・
□【聖火を灯し天秤よ、彼の者に救いを与えよ】
・一定範囲内における自身もしくは味方の1人全能力、生命力を上昇させる。
■
・絶対安全領域の展開
・回復効果
・効果時間15分
長文詠唱
【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】
【凍える夜には共に手を繋ぎ傍にいよう。道に迷ったときは共に歩もう。】
【我はもう何も失いたくない。】
【箱庭に愛された我が運命はとうに引き裂かれた。我は貴方を憎んでいる。】
【されど】【されど】【されど】
【我から温もりを奪いし悪神よ、我を見守りし父神よ、我が歩む道を照らし示す月女神よ、
我が義母の想いを認め赦し背を押す星乙女ら四柱よ、どうかご照覧あれ。】
【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう】
【我は望む、誰も傷つかぬ世界をと。我は願う、涙を流し彷徨う子が生まれぬ世界をと。我は誓おう、次は我こそが手を差し伸べると】
【救いを与え、揺り籠のごとく安らぎを与えよう】
【何故ならば――我が心はとうに救われているからだ】
・月下条件化において月が隠れない限り効果範囲拡大
・月下条件化において詠唱式変異
【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】
【凍える夜には共に手を繋ぎ傍にいよう。道に迷ったときは共に歩もう。】
【
【箱庭に愛された我が運命はとうに引き裂かれた。我は
【我から温もりを奪いし
我が義母の想いを認め赦し背を押す
【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう】
【我は望む、誰も傷つかぬ世界をと。我は願う、涙を流し彷徨う子が生まれぬ世界をと。我は誓おう、次は我こそが手を差し伸べると】
【我は拒む、傷つくことを。我は拒む、奪い奪われることを。我は、故に、拒絶する。】
【今こそ、
【だから大丈夫、今はただ眠るがいい。】
【目が覚めれば汝を苛む悪夢は消えている。】
【大丈夫、その心を許し、我が手を取りなさい。それだけでいい。】
【汝が歩むべき道を照らし示そう。】
【たとえ闇が空を塞ごうとも、天上の星光が常に我等の帰るべき道標となるだろう。】
【故に、その温もりに身を委ね、あるべき場所へと帰りなさい。】
【
・効果時間15分
・回復効果
・雷属性付与
デイドリーム:「白昼夢」。 転じて、幻想や夢想といった意味合いでも用いられる。
トロイメライ:「夢」「夢想」。
サーカディアン:おおよそ一日のリズム。
メメモントモリ:「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」「人に訪れる死を忘ることなかれ」