【ソーマ・ファミリア】の一件で寝込んでホームまで運ばれた僕は、時間帯にしては早めの就寝をしてしまっていた。そのお陰か、変な時間帯に目が覚めてしまって、でも、女神様に抱きしめられてて、その柔らかい感触と温もりで何度も瞼を上げたり落としたりを繰り返す。
―――アストレア様・・・柔らかくて・・・暖かくて・・・寝てしまいそうだけど・・・眠れない・・・ううん・・・・。それに喉も痛い・・・。それにしても・・・。
それにしても、いつもいい匂いがするし、お互い向き合うような形で抱きしめてもらいながら寝ていたはずなのに、いつからか気が付くと僕は女神様の上で胸の谷間に顔を埋めるような形になっているけど・・・僕が寝相が悪いのかな?女神様がやってるのかな?
どことなく、その艶のある唇が気になってしまって、でも、枕のようにしてしまっている柔らかい双丘の感触も捨てきれなくて・・・つい指を伸ばして唇を触ろうとしてみたり、やっぱりやめたりと悶々とする。この間の【正義の眷属接吻大会】が原因な気がするけど、妙に気になってしまう。
―――こんな時間に灯りなんて付けちゃだめだよね・・・。
どうしたものかと思っていると、部屋の外から、小さくノックする音が聞こえた。
―――誰だろう?アリーゼさんかな?でも、アリーゼさんなら勝手に入ってくるだろうし・・・・。
「――――ベル、起きているか?」
「輝夜・・・さん・・・?ケホッ」
「―――早い時間に寝ていたからな・・・・もしかしたらと思ってな。今、出れそうか?」
アストレア様から抜け出せ・・・る・・・うん、大丈夫そう。起こさないように、そっと、そっと・・・。僕はベッドから音を立てないように扉に近づいていく。
「―――んぅぅぅ。・・・・べるぅ・・・?」
「――――ひぅッ!?」
お、起きてない・・・起きてないよね!?あ、あんな声を出すんだ、アストレア様・・・・し、知らなかった。そろり、そろりと僕は謎の隠密行動を行って扉を開ける。すると其処には、寝巻き用の浴衣を着た輝夜さんが立っていた。
「何故・・・そんな低姿勢なんだ?」
「ケホッ・・・アストレア様が起きちゃうと思って」
「・・・・まぁ、いい。ちょっと付き合え。」
「へ?でも、真っ暗・・・」
「1人になるわけじゃあるまいし、大丈夫だ。ほら、手を握ってやるから」
そう言って輝夜さんは僕の手を取って、輝夜さんの部屋に連れて行く。
「輝夜さんの部屋・・・・明るい?どうして?」
「月明かりだ。今日は雲がなくてな、絶好の月見酒日和なんだ。どうせ眠れないんだろう?ならこっちにいろ」
「お酒・・・?」
「無理に飲ませるつもりはない。1人で飲んでてもつまらんと思っただけだ。ほら、こっちに来い。」
輝夜さんは扉を閉めると、部屋の奥の窓際に座椅子と小さな机に酒瓶と御猪口という小さなコップを用意する。座椅子に座った輝夜さんは浴衣を少し緩める。浴衣は肌蹴て胸元は見えているし、下着も見えて、何だかいやらしい。足を開いて、立ち尽くしている僕に股の間に座れと手招きをする。
僕は輝夜さんに言われたとおりに、股の間に横向きに座って、輝夜さんの左足に自分の足を乗せて体を輝夜さんに預けるようにもたれる。自然に僕の頭は輝夜さんの胸の位置にくるわけで、でも、輝夜さんはそれを拒むでもなく当たり前のように迎え入れて、僕はその胸から聞こえてくる心音に耳を傾ける。
「それで・・・いい。ほら、外を見てみろ・・・・ベル」
「・・・??」
輝夜さんに言われて、窓の外を見る。そこには、雲ひとつない夜空に、オラリオ全体を照らす月光があった。僕は思わず目を見開いて、その光に見惚れる。こんなに綺麗なものを見たのはいつ振りだろうか・・・と。
すると、トクトクとお酒を注ぐ音が聞こえて、何をするのかと思えば輝夜さんは、ぐいっとお酒を一口呷った。少しだけ零れたのか、雫は唇から、喉を伝って、胸の谷間に流れてその胸はどこか湿っているようにすら見えた。そしてなにより、御猪口に触れていた唇は魅惑的なほど艶を持っていて、僕は思わず見惚れてしまっていた。
「・・・・月が綺麗だな」
「うん・・・・。えっと・・・・輝夜さんも綺麗だよ」
「クスクス・・・誰に習ったんだ??それは」
「うーん・・・誰だろう・・・ケホッ」
「何だ、痛むのか?」
「えへへ・・・・ちょっとだけ」
2人して寝静まっている皆を起こさないように、小さな声で会話をする。時折、咳をする僕に別のコップに水を入れてそれを飲ませてくる。いつも意地悪で弄ってくるけど、今日はなんだかいつもより優しい・・・。
「輝夜さん、今日は優しいね・・・」
「私が、いつも貴方様に意地悪をしているみたいな言い方でございますね??ん??」
「か、輝夜お姉さんは、いつも、優しいデスッ!!」
「よろしい」
特に多くを話すわけでもなく、月を見て、お酒(水)を飲んで、また話をする。
「そういえば・・・・昔は女神アルテミスと過ごしていた期間があるんだったか?」
「うん。あるよ。えっと、確か・・・村の近くにモンスターが一杯湧いちゃって、それを退治しに来てて、安全が確認できるまでの間、僕がいた村に滞在しててアルテミス様とはよく一緒に遊んだよ」
「ほう?あの女神が?」
「うん。いつもオリオンって僕のことを」
「大の恋愛アンチが・・・・??」
「輝夜さん?」
「いや、なんでもない。どんな話をしたんだ?」
「えっと・・・アルテミス様達が村を出るときに、『月明かりが消えない限り、お前の歩む道を私は照らし続ける。寂しくなったら月を見上げてくれ。私もまた見上げてお前のことを想っている』って。」
「小さい子供に言う言葉ではないな」
「うん、難しかった」
他愛ない、他愛ない話。
月明かりに照らされるは、黒い髪に黒い浴衣姿の極東美人と、その極東美人から与えられた白い浴衣を着た処女雪のように白い髪の少年。
心地よい、姉の胸の鼓動と懐かしい女神様のことを思い出して、ほんの少し、過去へと想いを馳せる。
月を見て、水を飲んで、また月を見て、そしてふと輝夜さんの方を見る。
体を預けているから、胸は潰れて形を変えていて、でも、谷間が見えていて、浴衣の隙間から・・・あれ?
「輝夜さん・・・?」
「・・・・ん?」
「下着、つけてないの?」
「寝るときにつけるわけがないだろう。邪魔なだけだ。アストレア様だって着けていないはずだぞ」
「言われてみれば・・・?」
「そんなことより・・・・ほら、こっちを見ろ」
今度は輝夜さんが顔を向けろと言ってくるので、僕は輝夜さんの顔を見ると、輝夜さんはまたグイっと呷って僕に口付けをしてきた。
「~~~~っ!?」
ついこの間のように、唇が触れて、舌が入り込んで、僕の舌に絡んで、そしてトロトロと僕の知らない水とは違う何かが流れ込んできた。
「・・・・ふぅ。今回は貴方様に無理をさせましたし、ナイフの件でも申し訳ないことをいたしましたので・・・これでお許しいただければ。口より先をすれば、団長様に殺されてしまいますので」
「・・・はふぅ。な、なんらか・・・えっと・・・ぽかぽかします・・・」
「恩恵があれば年齢に関係なく飲酒は認められている・・・。だが、いきなり強いのを飲ますわけにもいかない。甘いだろう?今のは」
「・・・輝夜さんの味?」
「ばぁ~かめ。果実汁入りの酒だ。おこちゃまめ。こんなのでもう顔が赤いではないか」
「だってぇ・・・く、口ぃ・・」
「あれだけされておいて何を今更・・・」
そう言われて思い出す。僕が怖くなって逃げる前に姉たちが「私もしてみたい!」と迫ってきて未知の嵐に襲われたあの時のことを。『何を今更・・・』と言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい!!
「はぁ・・・お前の羞恥心の基準が私にはわからん。」
「・・・・・」
「なんだ、眠たくなったなら、寝ていいぞ。アストレア様の所に運んでやる」
「ううん・・・・もうちょっとだけ。」
「そうか?ならいいが・・・」
「えっと・・・その・・・」
「ん??」
「もう一回してほしい・・・」
その一言に、輝夜さんはポカン。としてクスクス笑って「恥ずかしいのに、嫌じゃなくて、もっとして欲しいなんて欲張りな兎さんですねぇ?」とからかってもう一度、お酒を呷って僕に口移しをする。僕は抵抗する気力もなくそれを受け入れて、お酒を飲むというより輝夜さんの唇と舌の感触に酔いしれて、どんどんトロン。としていく。
「求められるのは嫌ではないが、酒になれないうちは程ほどにしておけ。」
「・・・・あと一回」
「駄目だ。体に悪い」
「・・・えっと、『最後まで責任とって』。」
「おい、それを教えたのは団長だな?本当に、碌な教育をしないな。本当にこれが最後だからな?終わって口を濯いだらアストレア様の所に運ぶからな?」
「うん・・・。輝夜さんも一緒に・・・」
「いや・・・私がアストレア様のベッドには・・・」
「一緒がいい・・・」
「はぁ・・・朝になったら驚かれるぞ」
そう言って、僕のおねだりに最後の1回をして、水を飲んで、トイレに行って、フラフラしている僕を抱き上げてアストレア様の部屋に2人で入って、僕はアストレア様に抱かれるように、でも輝夜さんの方を向いて抱きついて胸に顔を擦り寄るようにして。輝夜さんも肌蹴た浴衣のまま、僕を抱きしめるように瞼を閉じた。
■ ■ ■
「・・・・・えっ」
起きたら、ベッドの上に人が1人増えていた。
いったい何事かと再確認。
そこには私と輝夜にサンドイッチされるように眠る1匹の子兎が。2人とも浴衣が少し乱れていて、輝夜に限ってははしたない格好とさえいえる。もう、それ丸出しじゃない・・・・。風邪引くわよ・・・。
「黒髪に白髪・・・・浴衣も髪の色に合わせて買ってきたのかしら・・・?」
きっと早い時間に就寝して、目が覚めて、2人で何か話しでもしていたのだろう。だって、ほんのりお酒の匂いがするし。まさかと思ってベルの口に鼻を近づけてみれば、ベルの口からも微かに果実酒の匂い。
「いくら恩恵を得たからって・・・大丈夫なのかしら??酒に溺れる様にはなって欲しくはないのだけれど・・・」
まぁ、この子は言う事をちゃんと聞いてくれるし・・・大丈夫でしょうけれど・・・。
ベルが起きたときに私がいないときっと不安になるだろうことは、もうわかっている。だから、この子が起きるまで、いつものように頭を撫でてやったり、胸をぽんぽんとしてやったりと、いつもの習慣を行う。
ふと、ベルの顔を覗き見る。最近でこそ減っているが、それでも時々、苦しそうにしていたり、顔色を悪くさせていたり、うなされていることがあるが・・・今回はそのどれでもない。と安心して、またベルを愛でる。その少年の瞼は確かに涙が流れた後があったが、その顔はとても嬉しそうなものであったから。
その後、ベルが『ぼけぇー』と浴衣から肩を出して涎を垂らして起き上がり、女神がいることを確認して、黒髪の姉がいることを確認して、
「アストレア様?」
「どうしたの、ベル?」
「おはようござい・・・ますぅ・・・」
と、まだ回らない頭で挨拶をして、私の胸に軟着陸してきたベルに、頭を撫でてやりながら、二度寝をしないように、飲酒に関する注意をしておいた。
輝夜さんは普通に足を開くらしいし、男の前でも暑いからという理由で下着姿になるというのを見たので、開いた足の位置に座るのっていいよねって感じでベル君の定位置に。
「これでも足を閉じろと?生娘妖精め」
「輝夜ぁ!!」