「―――はぁ~」
「―――ふぅ。2人だけだとこのお風呂も広いわねぇ」
「ですねぇ・・・・。いつもは他に誰かしらいるんですけど・・・」
「目は平気?痛くはないかしら?」
「・・・・はい。すごいですね
丸1日寝続けて、女神様と一緒に帰ってきた僕はとにかく湯船に入りたくてお風呂に直行していた。なんていうかこう、綺麗にしたかったのだ。
大剣で斬られた右目は、しっかりと見えており、うっすらと傷がある程度。あとは体が所々痛みがあるくらいで、特に支障はない。オラリオの
「そういえば・・・どうしてベルは、2つ目の魔法を使わなかったの?」
「えっと・・・『詠唱に失敗したら、爆発して汚い花火になる』ってアリーゼさんが・・・」
ちょっとだけ怯えたように、魔法を使わなかった理由を答えるベルに女神アストレアは微笑をピクピクさせた。そして心の中で、少年に変な不安を与えていたであろう姉に叫ぶ。
―――言い方ぁ!!!
湯船の中で女神に体を預けて甘えてくる兎に女神は微笑を浮かべ、のんびりとした時間を楽しみ、いつも通りいろいろな話をする。
「ベルはお風呂が好きなの?」
「うーん・・・何と言うか、アストレア様達と一緒に暮らすようになってから好きになった気がします。」
「ゆったりできるものねぇ・・・あとくすぐったいわ、ベル?」
「・・・えへへ」
「・・・ふふ、まぁベルが楽しいならいいのだけれど・・・昔を思い出すわねぇ・・・」
アストレア様と2人きり。
いつ振りだろう・・・・初めて一緒に入ったとき以来?うん、多分そうだ。
抱きしめられながら、その立派で綺麗な双丘に頬ずりをしてみたり、手で触ってみたり、思わず吸ってみたりして怒ってないかその度に顔を見て確認してみたり、綺麗な唇を指でなぞってみたり、キスをせがんでみたり、とにかく甘えてしまっている。アストレア様は怒るでもなく慈愛に満ちた顔で微笑んで、僕と目が合えばニッコリと微笑んでくれる。アリーゼさんがいればきっとからかってくるけど、今は2人しかいないのだ!
「・・・・発展アビリティ、どうするか決まったかしら?」
「うーん・・・・【狩人】に【魔防】とそれと、【幸運】ですよね?どうしよう・・・。アストレア様はどう思います?」
「そうねぇ・・・前者の2つは聞いたことがあるけれど・・・【幸運】は、知らないわねぇ。たぶんベルしかいないんじゃないかしら?でも効果がわからないとイマイチなんとも言えないわねぇ。ベルが自分の魔法の影響でダメージを受けるのを防ぎたいなら【魔防】でしょうし。でも・・・うーん」
「「むむむむ・・・・」」
2人で発展アビリティについて悩む。
どれも捨てがたい。でも・・・・でも・・・といった感じ。そして、あっそうだ。と言わんばかりにアストレア様が僕を見て
「貴方はトラウマの件もあるんだし、【幸運】で回避というか・・・いい道にいけるなら、縁起物としてはいいんじゃないかしら?」
「な、なるほど?」
「ま、まぁ・・・決めるのは貴方よ?私が勝手に決めて、あとから『アストレア様大嫌い!』なんて言われたら、私はショックで送還されてしまうわ」
「ソ、ソコマデ!?大丈夫です!!大好きですぅ!!」
■ ■ ■
ベル・クラネル
Lv.2
力: I 0
耐久: I 0
器用: I 0
敏捷: I 0
魔力: I 0
幸運: I
<<魔法>>
【サタナス・ヴェーリオン】
詠唱式【
自身を中心に不可視の音による攻撃魔法を発生。
※
擬似的な
魔法の影響を受けた物質は振動する。
スペルキー【
周囲に残っている残響を増幅させて起爆。
唱えた分だけ威力が増加する。
【
□詠唱式【天秤よ傾け――】
対象との武器もしくは、詠唱済み魔法を入れ替える。
魔法のみ登録可能。
登録可能数×2
※登録する場合、詠唱式、効果を把握している必要がある。使用後、登録は消える。
□【天秤よ傾け、我等を赦し全てを与えよ】
一定範囲内における自身を含む味方の全能力を上昇させる。
□【天秤よ傾け、罪人は現れた。汝等の全てを奪え】
一定範囲内における自身の敵対者の全能力を低下させる。
■追加詠唱
【天秤は振り切れ、断罪の刃は振り下ろされた。さあ、汝等に問おう。暗黒より至れ、ディア・エレボス】
範囲内における敵対者の戦意を大幅低下(リストレイトに近い状態にする)。
※効果時間5分。
【
絶対安全領域の展開。
回復効果
微弱な雷の付与効果。
月下条件化において月光が途切れない限り効果範囲拡大。
長文詠唱
【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】
【凍える夜には共に手を繋ぎ傍にいよう。道に迷ったときは共に歩もう。】
【我はもう何も失いたくない。】
【箱庭に愛された我が運命はとうに引き裂かれた。我は貴方を憎んでいる。】
【されど】【されど】【されど】
【我から温もりを奪いし悪神よ、我を見守りし父神よ、我が歩む道を照らし示す月女神よ、
我が義母の想いを認め許し背を押す星乙女ら四柱よ、どうかご照覧あれ。】
【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう】
【我は望む、誰も傷つかぬ世界をと。我は願う、涙を流し彷徨う子が生まれぬ世界をと。我は誓おう、次は我こそが手を差し伸べると】
【救いを与え、揺り籠のごとく安らぎを与えよう】
【何故ならば――我が心はとうに救われているからだ】
※効果時間 15分。
<<スキル>>
【
パッシブ:自身に害ある存在からの遭遇率を減らす(認識されにくくなる)
アクティブ:自身でトリガーを設定し、害あるモノを誘引する
対象によって音色変質。
声量によって範囲拡大。
【
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
【
能動的行動に対するチャージ実行権。
発動権の譲渡。
※譲渡する相手に一度触れておく必要がある。
ステイタスを更新し、上裸のまま女神に寄りかかって羊皮紙を一緒に見つめる。
「・・・・増えてる」
「増えてるわね・・・。よく英雄譚を読んでいるところは見かけているし、昔は読んで欲しいってせがんで来てたからよほど好きなのはわかるのだけれど・・・」
女神様は僕を見て、じーっと微笑みかける。それはもう、可愛いものをみるように、悪戯に微笑む。その微笑に僕は徐々に赤面していって・・・。
「よほど、
と言われた。
もう僕は耳まで真っ赤にして、女神様を見ては口をパクパクとさせる。でも、言いたい言葉もなにも思い浮かばない。だって、その通りなのだから。あの人たちと何処までも一緒に行きたい。その気持ちは本当だ。でも、でも・・・
「・・・・可愛いわよ、べーるぅ??」
「―――にゃああああああああああああああ!?」
何も言い返す言葉が出ずにせめてもの抵抗と言わんばかりに、耳まで真っ赤にした僕は女神様の胸に飛び込んでそのまま押し倒してしまいジタバタとしてしまう。
その間、女神様はずっと「ふふふふ」とお腹を押さえるように笑ったり「く、くすぐったいわベル。も、もう笑ったりしないから、ね?素敵だと思うわよ?ほら、機嫌を直して?」なんて励まされた。
「ぜぇーーったい、アリーゼさん達にもからかわれますよ・・・・。」
「そ、それはそう・・・かもしれないわね。でも、効果はすごく良いと思うわ?ほ、ほら、明日もやることがあるのだし、もう寝ましょう?ほら、ぎゅーってしてあげるわよ?」
「なんか誤魔化したぁ!?」
女神様は僕を迎え入れるように、手を伸ばし『おいでー』のポーズを微笑みながらする。僕はその誘惑に勝てるわけもなくて、「むむむ・・・」としながら横になる。女神様は僕の顔を胸元に抱きしめては頭を優しく撫でて明日の予定を話す。
「―――ベル、明日は私、『
「―――へ?女神様・・・いないんですか?」
「そ、そんな捨てられた兎みたいな顔をしないで・・・胸が痛くなるわ・・・」
「だ、だだ、だって・・・」
「ほ、ほら!新しい防具も買っておかないとアリーゼからの課題が間に合わないわよ??それに、明日はベルの"二つ名"が決まるんですもの、行かないわけにはいかないわ」
「どうしてそんな鬼気迫る顔を・・・」
「変な名前が付きません様に・・・神様仏様・・・」
「えっ、アストレア様、神様ですよね??」
「・・・・・すぅ」
「あっ!寝たふり!?もーっ!!」
そう、課題。治療施設から帰宅した僕にアストレア様がアリーゼさんから預かっていた手紙を渡されて、その内容が
「パーティを組んで、18階層まで来ること!!」
という内容だ。
最低でも3人の構成で、二つ名が決まる頃もあわせて1週間ほど時間を見て僕が18階層に来れば帰還途中の遠征組と合流できるはずだから。ということらしい。
「リリと・・・・・。えっとローリエさんは・・・いないんだっけ・・・・うーん」
■ ■ ■
「今回【ランクアップ】した子供は多いらしいぞ」
「ああ、豊作なんだろ?楽しみだな」
一定間隔を空け円形の卓につく神の数は、ざっと数えただけでも30は超える。つまりその数だけ、上級冒険者――Lv.2以上の冒険者――に匹敵する構成員を保有し、実力を認められた【ファミリア】がオラリオに存在するということだ。
「こんにちわ、アストレア。隣、いい?」
「あらヘファイストス、いいわよ。」
私の隣に紅髪紅眼の神、ヘファイストスが座る。
煌びやかな紅髪を流す彼女の格好は薄手な上衣と黒のスラックスで男装に近い姿はその美貌もあいまって、異性同姓問わず視線を引き寄せる魅力を持っていた。
「あなたのところの・・・えっと、真っ白な子。今日見かけたわ、白い浴衣を着て歩いてるものだから、死装束かと思ったわよ?」
「し、死装束・・・・。やっぱり別のを着せるべきだったかしら・・・・。体がまだ少し痛いって言うものだから、楽なのを着せたのだけれど」
「・・・・ずいぶん可愛がっているのね?」
「それは・・・まぁ、初めての男の子の眷属というのもあるけれど・・・つい先日大怪我して運ばれてきたから・・・」
「あの子、今日は私のテナントのところに向かっていったけど・・・・新しい防具でも買いに?」
「ええ、そうよ?前に買ったのは壊れちゃったから・・・えっと確か『ヴェルフ・クロッゾさんの作品を見つけに行って来ます!!』って言っていたわ」
「・・・はい?ヴェルフの?」
「え、ええ」
どうして彼女は自分の眷属の防具を気に入る子供が現れたのに、鳩が豆鉄砲をくらったようにポカーンとしているのだろう。まさか、何か問題が?
「びっくりしたわ。その子、魔剣が欲しいとか?」
「???いえ、普通に防具が気に入っているだけだけれど?」
「・・・・なら良かったわ。」
「????」
「ま、まぁ、そうね。変な二つ名が付かないことを願いましょう!!」
「え、ええ。そうね?」
どうしたのかしら、ヘファイストスは。まぁ、そうね。今はベルの二つ名の方が重要よね。あの子はあの子であれでも人を見る目はあるみたいだし、大丈夫でしょう・・・大丈夫よね?
なんて考えていると、円卓が静まり返り、開催の挨拶が行われた。
「んじゃま、第ン千回
『イェー!』とやいやいと喝采と拍手が巻き起こる。朱色の髪を後ろに結わえたロキは、糸目がちの瞳を笑みの形に緩ませながら手を上げた。
何でも今回は、『遠征』でファミリアの団員がほとんど留守にしていて、手持ち無沙汰だったために立候補したのだとか。
「そういえば、以前ロキの子供達に例の白兎君が誘拐されたって聞いたけど?」
「言わないで・・・言わないで・・・。ロキにとっては黒歴史だから・・・。」
「な、何があったのよ・・・」
「・・・・ベルのスキルのことをフィリア祭のときに知ったロキの子供たちが『アイズさんが帰ってこないから、探すの手伝ってください!』って言って有無を言わさず担いでいったのよ。」
「よく問題にならなかったわね」
「・・・帰ってきた後にロキが土下座しに来たのよ。あのロキが。『ヘラだけは・・・あいつだけは勘弁してくれぇ・・・』って言ってね」
「うわぁ・・・・」
そう、リューとサポーターちゃんと待ち合わせをしていたベルが、突如目の前に現れた狼人と山吹色妖精と黒髪赤眼妖精に連れて行かれたことがあったのだ。その様子は、狼に首根っこを咥えられた小動物よろしく抵抗する暇もなかったのだそう。
リューとサポーターちゃんは大混乱!!「「ベルウウウウウウウ!?(ベル様あああああああああ!?)」」なんて騒ぎになるし、連行されたベルは一気にキャパオーバーで涙目で『許してください・・・許してください・・・!』と連呼する始末!!仕舞いにはまだLv1だというのに一気に到達階層を強制的に更新!!24階層で生じたモンスターの大量発生の原因の場所に件のアイズ・ヴァレンシュタインが謎の女と戦っており、そこには【ヘルメス・ファミリア】と同じく調査を行っていた輝夜がおり、輝夜も大混乱!!
『・・・ベルぅ!?何故、私どもの新人がここにいるのですかぁ!?貴様らは駆け出しを殺すつもりかぁ!?』
『し、しまった!?【アストレア・ファミリア】の人がいたなんて!?で、でもこの子のお陰でアイズさんを見つけられました!!』
『ひっく・・・うっ・・・輝夜ざぁん・・・・ひっく・・・!!』
『だぁぁぁ!!男が泣いてんじゃねぇ!!敵がいるんだから戦いやがれ!!』
『『無茶言うなぁ!!!(言わないでくだざいぃぃ)』』
何でもそこに、以前アリーゼが対処した27階層で起きていた異常事態で死亡したとされる
「輝夜がベルを保護して帰ってきたけれど・・・頭がいたかったわ。あれは。アリーゼは闇派閥関連には関わらせたくなかったから余計怒ってしまうし」
「あぁ・・・それはロキも土下座するわけね」
「まぁ・・・その後、アイズちゃんとたまに一緒にダンジョンに行ってるみたいだし仲が悪いとかではないらしいのだけれど・・・連行した犯人たちには怯えていたわね」
「可哀想に・・・」
「死者がでなかったからよかったものの・・・・・。はぁ・・・あの時のロキの引きつった笑み、忘れられないわ」
そんな話をしていると、ラキアの件や、ソーマの件など話が進んでいってロキは情報をまとめていた。そして、少し間を置いて、ニッと口を吊り上げた。・・・・あれ、なんかピクピクしているわ、もしかして聞こえていたのかしら??
「な、なら次に進もうか、め、命名式や!!」
あ、聞こえていたのね。すごい動揺しているわ。
周りは気づいていないみたいだけれど・・・。
各々が資料を開いて、嫌らしい笑みを浮かべる。
「んじゃぁ、トップバッターはセトのところのセティっちゅう冒険者から」
「た、頼む、どうかお手柔らかにっ・・・!?」
「「「「「「断る」」」」」」
「ノォォォォォォォォ!」
ああ、始まった。
子供達はどうかしらないが、神々が悶えてしまう『痛恨の名』が決められていく・・・。
「――決定ナー。冒険者セティ・セルティ、称号は『
「イテェェェェェェェェッ!?」
こんな二つ名が大量生産されていく。
性根の悪い特定の神たちが、酸欠に陥りかねない笑いの衝動を得たいがために、子供達には畏敬さえ抱える二つ名を連発するのだ。称号を授かり、誇らしげにする子供と、発狂する神々、彼等はその両名に指を刺し今日も床を転げ回るのである。
十中八九、後世で語られるであろう『神話』の1つに違いない。
「相変わらずね・・・」
「ええ・・・まったく」
次々と膝を折り、ダメージを与えられていく神達。
【タケミカヅチ・ファミリア】に【ヘファイストス・ファミリア】【ガネーシャ・ファミリア】etc...etc....
何か途中、剣姫アイズ・ヴァレンシュタインの二つ名で【神々の嫁】などと言ってロキに「殺すぞ」と言われているのが聞こえたけれど・・・
「んで・・・次で・・・最後やな」
チラッとロキが私を見た。すごい気まずそうな顔で。いや、もう、その・・・・気にしないで?ね?貴女は良くやっていると思うわよ?
「「1ヵ月半でランクアップ・・・・」」
「ありえるのか?」「いやでも、アストレア様がズルするわけないし・・・」
「保護者がLv6だろ?常に経験値はいってるんじゃね?」
「「あぁ~~~『私にも春が来たわ!!!』」」
「――――げほっげほっ!!?」
「アストレア!?」
あの子・・・あの子は本当に何をしているの!?大暴走どころじゃないわ!?もう、そこらじゅうが火の海よ!?まさか、今もどこかで何かやらかしていないわよね!?本当にお願いよ!?
そうこうして、あれやこれやとベルの二つ名の意見が飛び交って、ようやく「「「「「決まったぁー!」」」」」と円卓が爆発する。
ベル・クラネル
二つ名
【
ロキファミリアとは数名とは顔見知りになっているベル君。
狼人と山吹エルフには怯え、黒髪赤眼エルフに対して(この人・・・・ヒト?ヒト??ううん??)と困惑
3つ目のスキル……うーん、まあいっか