鍛冶師
「何でいつもいつもっ・・・・あんな端っこに・・・!俺に恨みでも・・・!」
僕は、女神様が
その人は、炎を連想させる真っ赤な髪で身長も僕より高くて黒い着流しを着ていて、明らかに年上だ。
カウンターの上には軽装のパーツが詰め込まれていたボックスがあり
「こちとら命懸けでやってんだぞ!もうちょっとマシな扱いをだなぁ!」
「ですが上の決定ですし・・・せめて売れるようになっていただかないと・・・」
「おまっ、それを引き合いに出すのか!?」
とそこで、店員さんが僕の存在に気づいたのか、僕の特徴を覚えていたのか少し驚いたような顔をして「いらっしゃいませ」と言ってくれた。僕は、目の前の店員さんに探している鍛冶師の装備はないのかと質問をする。
「あ、あの」
「はい、何か御用ですか?」
「えっと、前も買ったんですけどアレと同じのを探していて・・・・【ヴェルフ・クロッゾ】さんの作品ってもう売ってないんですか・・・?」
そう不安そうに答えると、ぴたり。と声が止んだ。
どうしたのかと思って店員を見ると唖然とした顔をしていて、その隣にいた着流しの人も呆然としていて僕の方を向く。すると、そんな沈黙を破るように着流しの男の人が笑い声をあげた。
「ふ・・・うっははははははは!?ざまぁーみやがれ!俺にだって顧客の1人くらい付いてんだよ!!」
と店員さんの方に向き直ってカウンターをばんっ!と叩いた。店員さんは何も言い返せず居心地が悪そうにしていた。
戸惑っている僕にもう一度向き直ると、その人は笑いながら言った。
「あるぞ、冒険者。ヴェルフ・クロッゾの防具ならな」
「えっ!?」
「これだ」
ずいっと鎧の詰まったボックスが目の前のカウンターにまで寄せられる。その中には、白い光沢に溢れた鉄色のアーマー・・・すこしだけ形状が変わっているけど、僕が使っていたのと同じやつだった。
「こ、これだぁぁぁぁぁぁ!?」
「そうか、そうか、そんなに欲しかったのか!!俺が打った作品が!」
「・・・ふぇ?」
「せっかくだ、名乗らせてくれ。
「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
兄がいたらこんな感じなのかな?と思うくらい面倒見のいい人が、僕の防具を作った人であると呆気に取られた。
■ ■ ■
「じゃぁ、改めて。ヴェルフ・クロッゾだ。よろしくな。ああ、悪いが家名は嫌いでな、ヴェルフって呼んでくれ。」
「は、はいっ。僕はベル・クラネルです。【アストレア・ファミリア】です!」
「アストレア・ファミリアで白髪・・・確か、男だったか?ということは、お前が最近ランクアップしたってルーキーか!」
八階に設けられた小さな休憩所、そこで僕とヴェルフさんは話を交わしている。
聞けばヴェルフさんの作品は過去2回しか売れたことがなくてその内の1つを買って、さらにまた買おうという僕に興味を持ったらしく、少し話さないか?となってこの場所に誘われた。
よほど自分に客が現れたというのが嬉しかったらしく、柄にもなく興奮してしまい、苦労話なんかを聞かせてくれたりして、それでも大人びていて笑いかけてくれるヴェルフさんに対して、出会ってまもないのに僕には好印象で好感度は一気に上がっていった。何より、黒い着流しをしたヴェルフさんに白い浴衣を着た僕、何だかとても来るものがあった。
「歳は俺より下か・・・・まぁ、冒険者に年齢は関係ないか。ああ、俺は17だ。それでだ、いきなりなんだがな、お前は俺の打った作品の価値を認めて、2回も買ってくれた。つまり、俺の顧客だ。」
「ふ、ふむ?」
どうしてだろう・・・
「下っ端の鍛冶師の俺達は日々、顧客の奪い合いだ。有名なら勝手に人が寄ってくる。だが、無名ならそうはいかない。だから俺達下っ端の作品を認めてくれた冒険者は貴重なんだ。だからこそ、その客を他の鍛冶師のところに行かせるわけにはいかない。逃がすわけにはいかない・・・」
ごくり。と唾を飲む僕に気持ちのいい笑みを浮かべるヴェルフさん。
あっ、この人・・・すっごい良い
「それで・・・だ。」
「は、はい!」
「俺と、直接契約しないか?ベル・クラネル?」
「・・・・・・ア、アストレア様が言っていた!?あの直接契約!?」
た、たしか、冒険者は鍛冶師のためにダンジョンから『ドロップアイテム』を持ち帰り、鍛冶師は冒険者のために強力な武器や防具を作製し、格安で譲る。いわゆるギブアンドテイクの関係!!
「い、いいんですか!?」
「『いいんですか?』ってのはこっちの台詞だぞ。なんせお前はLv2で俺は『鍛冶』のアビリティを持っていない無名の鍛冶師。バランスはつりあっていないはずだぞ?」
「で、でも、ヴェルフさんの作品を使えるなら・・・・!」
「そうかそうか!そんなに俺の作品が気に入ったか!?」
「はいっ!白くて使いやすくて、『これだっ!』て思いました!!」
その言葉に大笑いするヴェルフさん、そして手で「あっちに行け」サインを僕の後ろにいる人たちにすると舌打ちをして散っていった。聞けば、あの人たちも直接契約を持ちかけようと目をつけていた人たちらしい。
ヴェルフさんは「これからよろしくな、ベル」と手を差し出して、僕はワクワクしながら握手をした。僕よりも大きいその手は、ガッシリとしていてどこか熱かった。
「あー・・・それで早速で悪いんだが・・・」
「・・・はい?」
申し訳なさそうに首を掻きながら口を開くヴェルフさんに僕は首を傾げながら、きょとんとしていると、
「お前の装備をタダで全部新調してやるかわりに、俺をお前のパーティに入れてくれないか?」
「・・・・・やったぁぁぁ!!」
「いいのか!?」
「パーティ組んでくれる人を探してたんですうううう!これで3人だあぁぁぁぁ!」
アリーゼさんの課題である【パーティの最低人数は3人】という項目をクリアできたことに僕は、直接契約のこともあって大いにはしゃいだ。
■ ■ ■
ダンジョン50階層。
モンスターが産まれない
まるで噴火した火山灰に覆われたかのように階層中に広がる森林は灰色に染まっていて、背の高い樹木には葉脈状に青い清流が走っていた。地面から何十Mもかけ離れた頭上の天井には巨大な鍾乳石にも似た幾本もの岩柱がうっすらとした燐光を放つ。
灰の大樹林を見晴らせる巨大な1枚岩の上に【ロキ・ファミリア】【アストレア・ファミリア】は
「・・・・でね、ベルがね?ベルがね?」
「早く言え、団長様よ」
「なんとミノタウロスを倒したのよ!?私たちがいないときに!1人で!!」
「「「マジか!?」」」
「あー・・・それでさっきから凶狼たちが殺気だってやがるのか」
「いやー・・・冒険してたわよ?なんだっけ、【友人の知恵を借り。精霊から武器を授かって。】ってやつ。魔剣をミノタウロスのお腹の中に埋め込んで、スペルキーで大爆発させるとは思わなかったけど!」
「・・・アルゴノゥトでいいのか?それ?」
「いいのいいの、格好良かったんだから。ね、フィンさん?」
わいのわいのと食事を取りながら、アストレア・ファミリアの団員、そしてその団長であるアリーゼはロキ・ファミリアの団長であるフィンに話を振った。彼は苦笑しながらも「そうだね」と肯定した。
ベルの戦いの後、治療施設へと運び込んだアリーゼはまた猛スピードで遠征隊へと合流し今へと至る。危なっかしくて、無様と言われても仕方ない戦いではあったが、それでもあの怖がりで暗闇に怯える子が吼えて戦ったのだ。付き合いも長くなってきた姉達としては嬉しい思いが強い。
「たぶん、ベルはランクアップすると思うわ。以前の24階層でのこともあってステイタスも上がっているみたいだし」
「あぁ・・・できれば思い出させないでくれると助かるよ」
「本人はステイタスが伸びていて、ほくほく顔してましたし、『何でもしてくれるのよ!?いいの!?』って言っても『べ、別にないから・・・・次からはちゃんと説明してほしい・・・』って言うんですもん。私としてはまぁ、今回の遠征も含めて要求を飲んでくれたのでまぁそれでいいかなーって」
「本当にあれは・・・何事かと思いましたよ?」
「うん、謝ってすむ話ではないんだけど、本当にすまない。こちらとしても、戦力が増えるのは助かるし断れる立場ではないからね。それに、君達が極彩色のモンスターのことを調べているとはね」
例の一件も含めて話をする。
アリーゼは以前、ロキ・ファミリアへと殴りこみに行ったが、アナキティから報告を受けて慌てて出てきたリヴェリアと鉢合わせ、お互いに状況が理解できていないことに気づき、とにかく『騒動が大きくなったら、ベルも困るからギルドに行って来るわ!』とアリーゼはすぐに行動を開始。リヴェリアはロキとフィンにも報告を入れて手の空いている団員に2人が帰還しだい団長室へと連れて行けと指示を出して女神アストレアの元に急行。
噂好きなギルド職員のおかげというか、変な噂が一時期流れるだけですんだが・・・いや、ロキはショックを受けていたが、お互いに思い出したくない事件となった。そして、女神アストレアからのペナルティというか、賠償なども受け入れ、ベルからも要求があるかと思ったが彼は彼でもう終わったことだから、次から説明をちゃんとしてくれたらいいから。と言うだけで、代わりに団長であるアリーゼが要求をしたのだった。
その1つが遠征への同行。アリーゼの考えとしては『以前のロキ・ファミリアでの遠征で新種のモンスターが出たって聞いたし、24階層では死んでいるはずの
「それでだけど、アリーゼ。君は、どこまで知っているんだい?」
「というと?」
「僕達は前回の遠征で初めて極彩色の魔石を手に入れてその存在を知った。だが、その時点では何もわからなかった。あくまで新種としか」
「私たちはフィリア祭よ?えっと、ベルがメインストリートで倒したシルバーバックの後ろにいた2体のうち1体の魔石を回収したわ。その後、そのモンスターが地面から出てきたっていう話を聞いて地下水路とかを調べたけど、私の方が遅かったのか戦闘痕があるだけだった」
「・・・・たぶんそれはベートとロキが調べた場所だろうね」
「それで、もう1体の魔石をティオネちゃんでしたっけ。お胸の大きい子。あの子が回収していったので、『あっ、何か知っているな』って思ったんですよ。いやーさすが私!近くに同じものを調べている人がいるなんて!」
「遠征が終わり次第、情報を一度纏めたいですねぇ」
私も胸の谷間に物を入れてみようかしら・・・などとふざけながらも会話を続けていく。
もちろん、ベルに課題を課したことも含めて。「私たちが帰る頃にはあの子は18階層にいるかもしれない!?」などとどういうわけか士気があがるアストレア・ファミリア。
「ベル・クラネルは・・・・今回のことには?」
「巻き込みたくは無いわ。でも、本人が協力するつもりなら、手を貸してもらおうかなと。気になることを言ってましたし」
「・・・・ああ、そう言えば言っておりましたね?何でも『赤い髪の女と骨の仮面の男は変で、僕とウィリディスさんと一緒にいた黒髪のエルフさんも変で音が割れてる。それで、道中後ろに誰かいたような気がした』と。後ろにいた云々はあの子もパニックを起こしていたので、イマイチ確信めいたものはございませんけども」
「・・・・・変?」
「ごめんなさい、あの子のスキルのことだから・・・私たちもあの子が実際どう感じ取っているかはわからないのよ。『人の反応でもあるし、そうでもない。モンスターではないけど、でも、別の何かがある』って言うし・・・その黒髪の子の主神とこの間すれ違ったんですけど、『音が反転してる』なんて言うのよ?もう少し私たちでも理解できれば助かるんだけど・・・・」
その会話に、妙な疼きを感じたが、確かに本人も曖昧にしか感じ取れていないらしい。
以前、謝罪にいった際に聞いてみた限りでは『水面に石を投げたときにできる波紋』が綺麗な円であれば人で感情によってトゲがあったりするらしい。
(ベートのことを『嘘つきじゃないけど、トゲトゲしていてその中に優しさがある』と言って、妙に警戒心が薄かったのはそういうことなのか?)
「まっお互いに情報が少ないわけだし、今後も情報を開示してくれると助かるわ!」
「ふぅ・・・わかったよ。」
そうして会話を切り上げ、最後の打ち合わせを行う。
「みんな、聞いてくれ。事前に伝えてある通り、51階層からは選抜した一隊で進行を仕掛ける。残りの者は【ヘファイストス・ファミリア】とともにキャンプの防衛だ。パーティには僕とリヴェリア、ガレス・・・・」と支援役も含めて選抜していく。
アストレア・ファミリアとしてはもうすでに初めて進出する階層。そのためレベルが高くても防衛に残る者の方が多い。パーティに加わっていくのは、団長のアリーゼ、副団長の輝夜そして、リュー。ライラは拠点にのこって指揮役を行う。
「キャンプに残る者達は、例の新種のモンスターが出現した場合、【魔剣】および【魔法】で遠距離から対処するんだ。接近を許さないよう見張りは気を抜くな。指揮はアキとライラ、君達に任せる。」
「はい」「あいよ」
今後の予定を話し合い、各々解散。武器の整備に就寝する者、情報をまとめる者、慣れない武器を少しでも慣らしておこうとする者がいた。
アリーゼは天井を見上げて、「そろそろ二つ名が付いた頃かしら?ゆっくりいらっしゃい、ベル」と思いを馳せる。【アストレア・ファミリア】にとっては未知の階層。聞けば52階層からは地獄らしい。緊張もする。でも、慢心もせずに帰還する気持ちの方が強い。彼女達の目標は未知への挑戦と可愛い弟との再会だ。
■ ■ ■
至る所に灰色の岩石が転がっており、周囲一帯が岩盤で形成されていてどこか湿った空気が漂った天然の洞窟。その言葉を信じさせるような場所・・・・ダンジョン13階層【
「おいおい!モンスターどもが俺達を無視してやがるぞ!?」
「ベル様のスキルです!!言っておきますが、絶対襲われないわけではありませんからね!?10体いたら2体くらいは反応しますし、ベル様の強さに応じて変わってきますから、どこまでが感知されないかは不明です!!」
「おもしろいスキルだなぁ!ベル!」
「あはははは」
「聞いているんですかぁ!?」
黒い着流しに真っ赤のサラマンダー・ウールを着たヴェルフに同じくサラマンダー・ウールを着たリリルカ。そして、【ヘラのローブ】を着たベルの3人パーティは自分達に気づいていないモンスターであれ、無視して進むのではなく適度に戦闘を行いながら進んでいく。リリルカ曰く「かなりハイペースで進んでいるので怖い」とのこと。
「ベルはそのローブで良いのか?」
「うん、アストレア様が『サラマンダー・ウールがなくてもそれがあれば大丈夫』って言ってたから。かなり良い物らしいよ」
「確かに、少し古くて解れている部分もありますが、かなり頑丈ですよね。素材はなんなのでしょうか・・・」
「さ、さぁ・・・?」
ヘルハウンドをヴェルフと連携しながら切り伏せ、時には魔法を使う。パーティを組んでから何度か中層にはチャレンジをしているし、連携にも慣れてきた。リリの指示に攻撃役は即座に動き、18階層を目指していく。と、そこで真っ白な兎が現れた。
「ベル様!?」
「ベルが相手か・・・きついな」
「ちょっと!?」
「しかも見てくださいヴェルフ様!私たちに気づいていないから、こんなにも愛くるしい!」
「無警戒なベル・・・『よく朝ベンチに座って日向ぼっこしている兎』の光景があるって聞いたがこういうことか」
「待って!?なにそれ!?・・・・あぁ、もう!『
哀れアルミラージ。敵に気づくこともなく灰にされていく。心なしか、ヴェルフとリリまで悲しそうな顔をしている。いや、待って、なんで手を合わせて拝んで灰を指でつまんでるの!?
「ベルさまぁ・・・」
「いいやつだったのに・・・」
「ちょっとぉー!」
そんなやり取りをしながら、どんどん、どんどんと進んでいく。
そんな時だろうか、人の声が聞こえたのは。