「―――千草ァ!」
仲間の名を呼ぶ男の悲鳴が聞こえた。それと同じように、モンスター達の甲高い叫び声が、獲物を屠った興奮とともに響き渡っていた。
「・・・・ベル様?」
「ベル、どうした。目を閉じて」
「・・・・3、5・・・いや、6人?1人、反応が弱まってる・・・?」
ベルはその声に、目を閉じて集中して、パーティの人数を、モンスターの数を大雑把に感じ取れるだけ把握しようとする。そのベルの行動がよくわからないヴェルフにリリルカが耳打ちで説明をする。
「リリ、ポーションはどれくらいある?」
「ほぼ使っていないので問題ありませんよ。以前手伝っていただいたクエストの報酬の【
「・・・怪我人を背負った状態で複数体のモンスターを相手に逃げている冒険者がいた場合、ありえる可能性って?」
「・・・・【
「うん、向かってきてる」
そのベルの反応に2人は表情を険しくするが、すぐに「大丈夫だと思う」とベルは言葉を続けた。追ってきているのが先ほどまで自分達が相手していたモンスターと同じ反応だから、たぶん、その
「念のために聞かせてください。ミノタウロスという可能性は?」
「それだと反応が小さすぎる。あの時のミノタウロスで何となく反応は掴んだというか、特徴は覚えたから・・・・。それでリリ、怪我人がいる場合、13階層から地上に行くのと18階層に行くのはどっちがいいの?アリーゼさんからは『18階層は安全階層』って聞いてるんだけど」
「・・・・上に行けば確かに中層進出しているパーティであれば安全でしょう。ですが、リリたちが護衛までする理由はありませんので、それなら、いっそ18階層に行くのが良いと思います。もっと言うなら、18階層でベル様のファミリアもしくはロキ・ファミリアに保護してもらって地上まで一緒に帰還するのが一番かと。」
「だよね」
「どうするんだ?
「・・・助けよう。助けて、一緒に18階層に行こう。僕がモンスターを引き受けるから、ヴェルフはリリを護衛して欲しい。リリは怪我人にポーションを。」
そう言うとベルはヴェルフに支援魔法をかけて走り出す。
「・・・・なっ!?こっちに来た!?」
「・・・・ッ!」
顔つきからして、輝夜さんの同郷の人かな?着ている戦闘衣装も極東っぽいし。あの女の人、泣きそうな顔してつらそう。怪我人は・・・息が浅い。
僕は、目の前にいるモンスターに追われているパーティを目視で確認すると一気に距離を詰めて声をかける。
「モンスターは僕が引き受けます!そのまま進んだところに僕のパーティがいるから合流してください!細かいことはサポーターの子が説明してくれます!」
「あっおい!?」
「えぇ!?」
パーティを飛び越えて、モンスターの群れに突っ込む。そして、『誘引』をしてモンスターを僕だけに集中させてさらに距離を取った。
「あんまり離れすぎてもよくないよね・・・・。なら、この当たりかな。」
僕は足を止めて、モンスターが追いついてきたのを確認すると一言唱えた。
「――――『
そのたった一言で、1つのパーティを殺しかけたモンスターの群れは灰へと変えた。
■ ■ ■
「――――ほんっとうに、申し訳ございませんでした!!」
僕が戻ると、申し訳なさそうにする数人と土下座をする女の人と、なんとも言えない顔のリリとヴェルフがいた。何この状況。
「えっと・・・・どうしたの?」
「・・・・っ!?その白い髪に白い浴衣・・・・まさか『白雪姫』殿!?」
「だからなんで僕にそんな変な名前がつくの!?ベルです!ベル・クラネル!!『
一体誰なの!?そんな名前をつけて歩いているのは!?浴衣楽だから着ているのに!!あれかな?輝夜さんと並んで歩いているとそう言われるのかな!?・・・・リリとヴェルフは口を押さえて肩を揺らしているし!
「あー・・・悪いベル。いや、こいつがさっきからドゲザ?っていうのをして謝ってくるからよ。」
「別に私たちは何もないですし?問題ありませんでしたし?気にしなくて良いって言ってるんですけどね。むしろそこのパーティリーダーの判断が正しいと思いますよ?恨まれるのは承知の上みたいですし」
「で、ですが!?」
「土下座?あの極東における最終奥義の?」
「お、おい、判断を下した俺が言うのもあれだが、何でそんなにほのぼのとしているんだ?」
「「だってベル(様)が引き受けるって言うから」」
とりあえず怪我人・・・千草さんと言うらしいんだけど、その人の治療が終わって自己紹介をした。このパーティの人たちは【タケミカヅチ・ファミリア】の人たちらしい。増えていくモンスターに対処しきれなくなり、怪我人が出て・・・・という流れなんだとか。土下座を続けている命さんに僕はロキ様を重ねてしまって、背中を摩ってあげながら思わず口を開いてしまった。
「あ、あの・・・命さん?」
「は、はい!?」
「えっと・・・その・・・どんまい?」
迷宮内でそれはもう、なんともいえない静寂が訪れた瞬間であった。
そこからは、リリが方針を話しタケミカヅチ・ファミリアの人たちも一緒に18階層に行くことになった。
「おらベル、行くぞ」
「行きますよベル様」
「ああ、行こう」
「そ、その・・・行きましょう!よろしくおねがいします!」
何事もなかったかのように・・・・僕はスルーされた。
えっ、何で!?こういうときはそう言えってアリーゼさんが!!あれ!?僕の心の中のアリーゼさんが笑ってる!?なんで!?
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
アリーゼさん・・・まさか、騙した!?
■ ■ ■
「・・・・っくしゅん!」
「アリーゼ、はしたないですよ。せめて口を塞いでください。」
「いや~もしかしたら愛しのベルが噂でもしているんじゃないかしら?」
「「「ないない」」」
場所は18階層『
そこから少し離れた湖で、【アストレア・ファミリア】の美女達は1名を除いて水浴びを楽しんでいた。
「リオンもそんなところにいないで、水浴びしましょう?気持ちいいわよ?」
「い、いえ、私は結構です!」
「・・・・体臭がきつくなりますよ。生娘妖精さん?」
「か、輝夜!?」
「いや~それにしてもあの変な精霊・・・だっけ?すごかったわ!」
「剣姫と一緒に突っ込んでいく団長も大概でございますけど?」
「あの魔法ってベルの魔法で登録できないかしら?」
「・・・・聞いております?」
水浴びをして、今までの戦いの汚れと疲れを流しながら、赤髪の美女アリーゼと黒髪の極東美人、輝夜はそんな話をしていて金髪エルフのリュー・リオンは見張り役をしていた。
団長であるアリーゼは、団員達の胸のサイズをチェックしながら59階層での戦闘で討伐した【穢れた精霊】の魔法をベルの魔法で登録できないか?と考えていた。
「それで?ベルはここに来るのでございますか?」
「うーん、来て欲しいわね」
「確か【パーティの最低人数は3人】でしたか。2人目はアーデだとして、3人目を見つけられるでしょうか?」
「あら、ベルのファンのローリエちゃんがいるじゃない」
「あの娘は【ヘルメス・ファミリア】だ。そんな自由に迷宮探索に参加できるわけではないぞ」
「まぁ・・・・大丈夫でしょ!」
呑気にそんなことを言う団長に、誰もが「おい、大丈夫なのか?」などと思いはするが、ベルがアリーゼからの指示を受けているなら「まぁ・・・来るんだろうなぁ」とは思っていた。まさか、
そんな時だろうか、聞き覚えのある鐘の音が聞こえた後に数人の叫び声が聞こえたのは。
■ ■ ■
「・・・・・気持ち悪い」
「・・・・不気味ですね」
「だろ?」「でしょう?」
「ひ、酷い!?」
18階層へと向かう【タケミカヅチ・ファミリア】と僕達のパーティ一行は、適度に戦闘を行いつつものんびりとした時間の中、迷宮を進んでいた。あまりにもモンスターにスルーされるので、言ってはいけないとわかってはいるんだけど・・・と、ついつい言葉に出されてしまった。
まぁ、モンスターが目の前にいるのに『ピクニック感覚』で進んでいるのだからそんなことを言われても仕方ないんだけど、やっぱり普通はモンスターが襲ってくるのが当たり前らしい。僕、基本的に『複数体と戦う』ことしかないから感覚がおかしくなっちゃったのかなぁ。
時にモンスターを魔法で灰に変え、時にミノタウロスを振動したままのナイフで惨殺し、時に命さんの魔法で圧殺していた。
「それにしても・・・まさか、ベル殿が
「うぅぅぅ・・・アリーゼさんの趣味なんですぅ!もうその話はしないでくださーい!あっ『
「いえいえ!良いではありませんか!聞けば、『バベル前のベンチで日向ぼっこしている姿を拝むことができれば、良い事がある』なんて話もあるのですから!」
「またそれぇ!?」
本当に誰だろう!?僕の変な噂を流しているのは!?そういえば最近やけに女性冒険者に手を振られたり、男性冒険者にも手を振られたりするなーって思ってたけど、そういうことだったの!?なんてことをしてくれたの!?僕はただベンチに座ってぼけぇーっとしていただけなのに!
「えっと・・・あっ、見えてきましたよ。17階層、【嘆きの大壁】です!」
「階層主は・・・・いなさそうだね」
「再出現まではまだ余裕ありますよ!」
「よし!んじゃぁ、もう走っちまおうぜ!!よし、ベル、合図を鳴らしてくれ!」
「な、なんか僕の魔法がアイテム代わりになってない!?」
「いいから!ほれ!」
「もー、よーい『
そういって鐘の音が鳴ると、みんながいっせいに走り出して、その後を千草さんと彼女を背負っている桜花さんがヤレヤレといった顔で微笑んで眺めながら歩いていた。
「え、えっと、桜花さんたちはいいんですか?走らなくて」
「治療したとは言え無茶させるわけにはいかないだろう。階層主がまだ出ないなら、俺達はこのまま行かせてもらう。だから気にしないで行っていいぞ」
「じゃ、じゃぁ!」
「ああ。それとベル・クラネル!」
「・・・・?」
「この借りは必ず返す。ありがとう」
「・・・はいっ!」
そう行って僕もみんなの後を追うように走り出して、光が大きくなってついに18階層へと進出した。
「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」
目の前に広がる、草原、クリスタル、そして中央に大きくそびえる中央樹。見上げれば天井は全て水晶になっていて、まるで真昼のように明るかった。その光景に僕達は感嘆の声を上げた。
「よし、アレ、やるか!」
「アレ、ですか?」
「やりましょう!」
「えっと・・・アレって?」
僕の疑問をよそに、全員がすぅーっと息を吸って大声を上げた。
「「「「やってきました!18階層ぅぅぅぅ!!」」」」と。
い、いいなぁ、それ、僕もやりたい!
「ほら、ベル。お前もやっとけやっとけ」
「う、うん!すぅー・・・・・やってきました!18階層ぅぅ!」
「「「いえぇぇぇぇい!!」」」
全員でわいわいしていると後ろから桜花さんたちも到着して、今後の予定を話していた。
すると・・・・
「あれ・・・・ベル?」
と僕のことを呼ぶ声がして、振り返ると、そこには最近たまにダンジョンに行くようになった3つ上のお姉さん、アイズさんがいた。
「もう、ここまで来たの・・・?」
「ア、アイズさん!?なんでここに?」
「えっと・・・大きい音が聞こえたから。ゴライアスでも出たのかと思って。」
「た、たぶん僕の魔法です」
「そっか・・・・。えっと・・・一緒に来る?みんないるよ」
「・・・はいっ!」
アイズさんは少し嬉しそうにして僕の手を取って、歩き出した。それに呆気に取られて小さい声で「剣姫殿とも顔見知り!?」「いったい何者なんです?」「ベルはあれか、モテるのか?リリ助?」「・・・聞かないでください」なんてやり取りをしながら、後に続いた。
「あ、あの、アイズさん!」
「ん?何・・・ベル?」
「あ、アリーゼさん達は?」
「えっと・・・・確か、水浴びに行くって言ってたから、今は離れてるかも?でも、この階層にはいるよ?」
「そ、そっか・・・もうちょっとで会える・・・・!あっ、アイズさん、後ろに【タケミカヅチ・ファミリア】の人たちもいて怪我人がいたんですけど、その人たちも同行させてあげられませんか?」
「えっと・・・・多分、大丈夫じゃないかな?フィンたちに聞いてみるね」
「はいっ!」
アイズさんは嬉しそうに「もうランクアップしたの?」「君は強くなるのが早いね」「普通はランクアップしてもすぐここまで来ないよ?」「モンスター無視してきたの?」「目の傷、残っちゃったんだね・・・」「体は大丈夫?」と声をかけてくれて、何と言うか、僕の印象は親戚のお姉さんだ。僕もアイズさんに「59階層ってどうでした?」「皆さん何してるんですか?」「街があるって聞いたんですけど、どんなところなんですか?」と質問攻めしては嫌な顔をせずアイズさんは答えてくれた。やがて、拠点を設けている野営地へと到着した。
「えっと・・・【タケミカヅチ・ファミリア】の人たちはフィンに事情を説明したいから、一応、ついてきて?じゃあ、ベル、【アストレア・ファミリア】の人たちはあっちのテントだから、またね」
「ベル殿!ありがとうございました!この借りは必ず!」
「はいっ、また!」
そう言ってアイズさんたちは行ってしまい、ヴェルフは「同じファミリアの奴らもいるみたいだし顔だしてくるわ」と言って鍛冶師達のところに向かいリリも「リリは少し疲れたので、あっちで休んできますね」と言って各々解散した。僕は胸を弾ませながらアリーゼさん達がいるであろうテントに向かう。反応もあるし、絶対いる!
テントの前に到着し、声を上げる
「アリーゼさぁん!輝夜さぁん!リューさぁん!!」
すると、中でバタバタと走り回る音と
「えっ!?本当に来た!?」
「嘘でしょ!?早っ!」
「ま、待ってぇ!!まだ着替えてるところだからぁ!」
「今更見られても平気でしょ!?」
「他の人もいるかもでしょ!?」
なんて騒いでいた。僕はおとなしく中から入っていい許可が出るまで待機する。でも、周りから見たらきっと今の僕は、千切れんばかりに尻尾を振る兎にしか見えないだろう。心なしか後ろを通り過ぎていった【ロキ・ファミリア】の猫人のお姉さんと人間のお兄さんが「あの子って兎人だっけ?」「いやいや違うっすよ。確かに兎に見えるっすけど」なんて言っていた。
やがてテントの中が静かになって、入っていい許可が下りて僕はテントに入ると、アリーゼさん達が
「「「ランクアップおめでとう!」」」と出迎えてくれてアリーゼさんが抱きしめてくれた。
「課題クリアね!さすがベルだわ!」
「えへへへ!やりました!アリーゼさんっ!」
「あぁ~~なんかすっごい久しぶり。ごめんベル、ちょっと吸わせて?」
「な、何を!?」
「おい!団長を引き剥がせ!!」
「アストレア様とは何してたの?」
「えっえっと、一緒にお風呂入ったり、寝たり、買い物行ったり・・・そ、その・・・お、お胸を触らせてもらったりキスしてもらったり・・・もにょもにょ」
「「「「きゃ~~~」」」」
「ビクッ!?」
なんて久しぶりなやりとりをぎゃーぎゃーわーわーとする。僕は嬉しくて瞼に涙を浮かばせながら笑ってしまって、お姉さん達は僕が笑ってるのが嬉しいのか何度も「おめでとう」と笑っては頭を撫でてくれる。あ、そうだ。女神様に言われていたんだった。そう思い出して僕は1枚の羊皮紙をアリーゼさんに渡した。
■ ■ ■
ベル・クラネル
Lv2
力: G260
耐久: H150
器用: G299
敏捷: F380
魔力: F399
幸運: I
僕を股の間に座らせて後ろから抱きしめながらニコニコと中層に入る前の僕のステイタスが記された羊皮紙をアリーゼさんが見ていて、それを後ろから全員が覗き見をしていた。ただ、発展アビリティと新しいスキルを見て固まっていた。
「「「「【幸運】って何!?」」」」
「「「「
僕はその驚愕の声にビクっと肩を揺らして、キョロキョロと皆を見るもみんな笑うことも忘れてスキルと発展アビリティについてブツブツと考えだしていた。輝夜さんとリューさんは「幸運とは?ドロップ率でも上がるとかか?」「魔石の純度が上がるとかでは?」と考察まで始めている。
僕はどうしたらいいのかわからず、僕を抱きしめているアリーゼさんにもたれかかって、顔を上げて見つめているとアリーゼさんはやっと思考の海から帰ってきて僕の目を見てまたニッコリと笑顔を見せて皆にわかるように手を叩いた。
「はいっ!この話はまた後!!とりあえず、そろそろ夕食だろうから、各々、【ロキ・ファミリア】の人たちを手伝ってあげて!ベルは一緒にフィンさん達のところに行きましょうか!」
「あっ、うん!」
「夕飯食べたら、水浴びして、それで寝ましょ!一緒の寝袋に入れてあげるわ!フフン!お姉ちゃんと密着して寝れるのよ!幸せでしょ!」
「ベル、襲われたらすぐに言え。団長はそうとうベルに飢えているからな。」
「えっ、う、うん。わかった。輝夜さんも水浴びする?」
「・・・・考えておく」
ファミリアのお姉さんたちはそれぞれアリーゼさんの指示通り、夕飯のお手伝いに向かい僕とアリーゼさん、リューさんは【ロキ・ファミリア】の本営のテントに向かう。道中にあったことをお互いに話をしたり、怪我人を背負ったパーティが怪物進呈をしてきたのを引き受けて一緒に連れてきたから、帰り道に混ぜてあげて欲しいとお願いをしながら。
「人助けしちゃうなんて、さすがだわ!」とアリーゼさんはそれはもう僕を褒める。何事かとリューさんに目で訴えると
「その・・・・・遠征の当日、ベルに会えなかったものですから、そうとうストレスになっているといいますか・・・・」と言われてしまった。
「あっ、そうだベル」
「?」
「たぶん、ちょっと仕事を・・・というか、魔法を使ってもらわないといけないかもしれないからお願いね?」
いったい、僕は何をさせられるんだろうか・・・・
黒いゴライアスは出ません。神様がくる理由がないので。