「えっと・・・・この状況は?」
「いやぁ・・・はははは」
「ハハハハ」
「ふぇ!?ベル殿!?」
アリーゼさんに手を引かれて連れて行かれたのは、森の中に設けられた野営地の奥、周囲の天幕よりもう一回り大きな幕屋。【ロキ・ファミリア】のエンブレム入りの旗が横に立つ小屋だった。
中には王族妖精のリヴェリアさんに屈強な体のドワーフであるガレスさん、そして黄金色の頭髪に碧眼の小人族のフィンさんと、何故か、どういうわけか、どうしてそうなったのか、土下座をする命さんと「えぇ・・・」と困惑している桜花さんとアイズさんがそこにはいた。
桜花さんが言うには、僕がアイズさんに相談したとおり、アイズさんはフィンさん達が地上へと帰還する際に一緒に同行させてほしいと頼んですぐに了承も得て礼も述べてそれで話は終わりだったのに命さんが土下座をして「じ、自分達も帰還の際、同行させてください!」と言ってしまったらしい。つまりは、いっぱいいっぱいで人の話を聞いてなかったのだ。
「命さん・・・・あんまりやるとその、価値が下がるって聞きましたよ」
「な!?そうなんですか!?」
「えっと・・・確か以前、ロキ様が『こういうのはな、どっかのドチビみたいに毎日の様にやってると土下座っちゅう奥義そのものの価値が著しく下がってまうねん。たまーにやるからこそ、意味があるねんで。おぼえときや?』って言ってましたよ」
「「「「ブフッ!」」」」
「ロキは一体何をしているんだ・・・」
「この間その神と飲みに行っていたじゃないか・・・」
「な、なるほど・・・。いえ、その、申し訳ございませんでした!あ、あの、よろしくおねがいします!」
命さんは納得したのか土下座をやめて立ち上がり、頭を下げて桜花さんと一緒にパーティのみんなの元に戻って行った。何か「お前は何をやっているんだ・・・」とかいうやり取りが聞こえたけど。とりあえずの区切りがついたのかフィンさん達は咳払いをして改めて自己紹介をした。と言っても例の事件のときに自己紹介はすんでいるから簡潔に終わらせたんだけど。
「まずは・・・ランクアップおめでとう、ベル。所要期間1ヵ月半とは・・・アイズの記録を大幅に更新したね」
「ありがとうございます?」
「そして、
「私のベルですから!できますよ!フフン!」
「なぜ貴様が誇らしげなんだ・・・」
アリーゼさんは僕を背後から抱きしめたまま腰を降ろして、フィンさん達と談笑を始める。僕は状況がよくわからず、フィンさん達を見たり、アイズさんを見たり・・・キョロキョロしてしまっていた。
「アリーゼさん、アリーゼさん」
「ん?何、ベル?」
「その・・・・前に殴りこみをしたって聞いてたから・・・仲が悪いと思ってたんだけど・・・」
「あ~それはもういいのよ。ベルも気にしてないんでしょ?」
「うん」
「じゃぁ、いいのよ。いつまでも引きずっていても仕方ないしね」
「そっか」
「そ」
にへら。と2人見詰め合って笑ってしまって、他の面子も「話に聞いてはいたが本当に仲がいいな・・・」なんて言っている。
「それで、どうして僕はここに呼ばれたの?」
「あぁ、私が説明しよう。ベル、私たちのファミリアは現在【
「そこで、ベルの3つ目の魔法を使ってほしいの」
「・・・・どうしてバレてるの?アリーゼさん!そういうのは秘密だって!」
「もう遅いわ!24階層のときに使っちゃって、【ヘルメス・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】に知られちゃってるんだから!」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「こほん。それで、だ。今はベートが一度地上に戻り解毒薬を取りに行っているんだが・・・・君が来るとは思っていなかったからな。治療を頼みたいんだ。24階層での出来事を聞いた限りでは、【
輝夜さんの指示だったし、使ったのはあの時が初めてだったけど・・・・そんなにすごい魔法だったの!?輝夜さん、まさかそれを分かっていて使わせたの!?す、すごい!?輝夜さんはやっぱり【意地悪でえっちでたまに優しいお姉さん】じゃなかったんだ!?
「で、でも・・・その、使ったのは24階層が初めてだし・・・範囲とか分からないし・・・」
「大丈夫・・・ベルの魔法は、範囲が広かったから・・・少なくともこのキャンプ地全体は入ると思うよ」
「・・・・アリーゼさん?」
「ん?」
「使っても大丈夫?すごい魔法とかスキルがあると、奪い合いが起きるって・・・」
聞いた限りでは強引な引き抜きをする派閥とかがあると聞いていたから、だからこそ情報は秘匿しないといけないと聞いていたから、僕は不安になってしまった。そんな僕が何に不安がっているのか分かったのか、アリーゼさんもフィンさんも心配要らないと安心させる言葉をかけてくる。
「君を僕たちの派閥に無理やり引き入れるということはまず無いから安心してくれ。」
「そんなことをすれば、そこにいる君の姉が都市を火の海に変えかねないからな」
「さすがに無関係な民間人を巻き込むようなことはしないわ!安心してベル。私たちはあなたの手を決して離さないわ。どれくらい付き合いが長いと思ってるのよ」
「う、うん・・・わかった」
「じゃぁ、お願いできる?」
「・・・・うん。やる」
僕から承諾が得られてホッとしたのか、リヴェリアさんは吐息を吐き、アリーゼさんは僕の頭を撫でる。
「えっと・・・もうやっていい?」
「負傷者のところに行かなくてもいいのか?」
「えっと、確か・・・『絶対安全領域』を展開する魔法だから、回復効果はあくまでおまけなんじゃないかってアストレア様が」
その僕の発言にフィンさん達は目を丸くし小さな声で「
「すぅ・・・はぁ・・・ちょ、ちょっと恥ずかしいからあんまり見つめないで・・・」
「今更何言ってるのよ」
「うぅぅぅ」
目を瞑り、手を胸の前で祈るように組んで、そして唄を詠い始める。
「【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう――】」
「【凍える夜には共に手を繋ぎ傍にいよう。道に迷ったときは共に歩もう――】」
「【我はもう何も失いたくない――】」
「【箱庭に愛された我が運命はとうに引き裂かれた。我は貴方を憎んでいる――】」
「【されど】」「【されど】」「【されど】」
「【我から温もりを奪いし悪神よ、我を見守りし父神よ、我が歩む道を照らし示す月女神よ、
我が義母の想いを認め許し背を押す星乙女ら四柱よ、どうかご照覧あれ――】」
「【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう――】」
「【我は望む、誰も傷つかぬ世界をと。我は願う、涙を流し彷徨う子が生まれぬ世界をと。我は誓おう、次は我こそが手を差し伸べると――】」
「【救いを与え、揺り籠のごとく安らぎを与えよう――】」
「【何故ならば――我が心はとうに救われているからだ。】
唱え終わると、僕を中心に暖かい温もりを持った光が広がっていき外がちょっとした騒ぎになっている。「怪我が治ってるぅぅ!?」「バカティオナ、うるさいっ!」「毒がなおってく!?」「何コレ何コレ!?すっごい安心する!?」「千草が生き返ったぞ!!」「「そもそも死んでません!!」」と各々の反応が外から聞こえてきて、僕は力尽きるようにアリーゼさんにもたれかかった。
「はふ・・・・」
「はい、お疲れ様。ありがとうね、ベル。はい、マジック・ポーション」
「んぐ・・・んぐ・・・ありがとう・・・んぐっ」
リヴェリアさんは口元に指を当てながら「詠唱文がどこかアルフィアに似ているような・・・いや、だが全て似ているというわけでもない。おそらく一節だけだ・・・しかし、マインドダウンじゃないにせよ負担がでかいのか?」なんて言って何やら考え込んでいた。僕に膝枕しているアリーゼさんは何かを堪えるようにぷるぷるとしているし、フィンさんはアリーゼさんが何を考えているのかわかったのか「ヤレヤレ」と言っている。
「ねぇ・・・ベル?」
「・・・アイズさん?」
「君のその魔法・・・負担が大きいの?」
「さ、さぁ・・・で、でも、その・・・」
「・・・?」
「詠唱文には、『神様達に僕がすることを見ていてほしい』みたいな一節があるから・・・・地上でやればまた違うんじゃないかって・・・。あとは、えっと女神様が魔法には本人の強い願いとかが反映されることがあるって言ってて、でも、僕はこの詠唱文がイマイチぱっとしなくて・・・だから、『自分自身の気持ちに無自覚なまま発現した』から、だから負担がかかってしまうのかもしれないって。」
「・・・・?」
「それより、アリーゼさん?何でさっきから笑ってるんですか?」
「ふふふ、だって!あの
「ひぇっ・・・・」
僕の大好きな姉は・・・時に怖いことを考えていた。
■ ■ ■
「みんな、聞いてくれ。もう話は回っていると思うけれど、今夜は客人を迎えている。彼らは仲間のために身命をなげうち、この18階層まで辿り着いた勇気ある冒険者たちだ。仲良くしろとまで言うつもりはない。けれど、同じ冒険者として、欠片でもいい、敬意を持って接してくれ。それと、さっき野営地を包んだ光は、【アストレア・ファミリア】の彼が唱えた魔法だ。予告もせずに驚かせてしまったのを謝っておく。・・・・それじゃぁ、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「「「あと以前はバカがご迷惑をおかけしました!!」」」
「ビクッ!?」
フィンさんが【タケミカヅチ・ファミリア】の人たちを紹介して、僕のパーティも紹介してキャンプファイア代わりの魔石灯を囲うように沢山の人達が大きな輪になって座り、食事や談笑を始めた。ヴェルフとリリは僕に気を使ってか、それぞれ【タケミカヅチ・ファミリア】の方に行ったり【ヘファイストス・ファミリア】の方に行ってしまって、僕は【アストレア・ファミリア】のお姉さん達の元に行き、でも、はじめてみる18階層の景色・・・いや、前に来たことはあるけど、それどころじゃなかったし・・・景色に目を光らせていた。沢山の葉に遮られた路上の奥で、陽光に似た白い光が・・・天井の水晶の光が薄れていき、ダンジョンの『昼』が終わり『夜』へと変わっていて、夕焼けも残照も介在しない空の移り変わりに何か不思議なものを感じていた。
――本当に暗くなった。
「べるぅー、何ぼぉーっとしてるのよ?」
「ア、アリーゼさん、酔ってる!?顔赤いよ!?」
「酔ってないわ!ほろ酔いよ!ほらベル、これ食べてごらんなさい!」
「これは?」
アリーゼさんに手渡されたのは、瓢箪の形をした赤い漿果、琥珀色で甘そうな蜜をたっぷり滴らせるふわふわの綿花に似た果実で・・・地上では見たことの無いものだった。
それを補足するように輝夜さんはその果実が何なのか教えてくれる。
「ベル、それはこの18階層で採った果実で、綿みたいなものは
「・・・・・っ!?」
あ、甘い!?甘過ぎる!?予想以上の甘さに僕は涙を浮かべ、渡してきたアリーゼさんに悶絶しながら訴えかける。何て物を渡してくれたんだ。と。するとしてやったりとアリーゼさんは笑みを浮かべ、僕に顔を近づけて
「お姉ちゃんが食べてあげるわ!だから・・・あーんってしてくれないかしら?」
「へっ!?」
「おい団長・・・さすがにここでそれはマズいだろ・・・・」
「ベルが困っていますよ?はい、ベル。これなら食べられるでしょう?」
「あ、うん。リューさんありがt・・・「あむっ」・・・・っ!?」
リューさんが代わりの食べ物を渡してくれてそれを受け取って食べようとしたら、アリーゼさんが僕に口付けをしてきて僕は思わず食べ物を落としてしまった。み、見られてる・・・すっごい見られてる!一瞬、静かになり、そして爆発するように女性陣は「きゃー!あの噂は本当だったのねー!?」とか「く、口移し!?なんて破廉恥な!!」とか言ってるし男性陣からは羨望と嫉妬の混じった殺気が飛んできた。それもすぐファミリアのお姉さんたちが殺気を飛ばして視線を切ってくれたけど。僕はその、あまりの羞恥に涙が浮かんできていた。
「団長!さすがに場を考えろ!!飲みすぎだ!」
「アリーゼ!人前でそれはやりすぎです!ベルが泣いています!」
「えぇーそんなぁ・・・。ベ、ベル?ご、ごめんね?」
「うぅぅぅぅぅ・・・」
さすがにまずかったと、酔った勢いでやってしまったと反省してアリーゼさんは僕に謝ってそこからはお酒はやめてお水を飲んでは遠征の話を聞かせてくれた。曰く、あのフィリア祭の時の植物のモンスターに似たのが沢山いたこと。そして、それの上位種ともいえる怪物が魔法を使ったこと。それを僕の魔法の効果で登録できないか?と考えていることなどなど。そして、ふいにアリーゼさんは僕がずっと肩から提げている筒状の布に目がいって聞いてきた。
「ねぇ、ベル?」
「・・・ナンデスカ」
「お、怒らないでよぉ・・・・・悪かったからぁ・・・」
「もう・・・・・しない?」
「し、しない!誓うわ!」
「じゃぁ・・・・許します」
「ハハァーありがたき幸せ」
「何をしているのだお前達は・・・」
「それで、ベル。その筒?は何?」
「えっと・・・・武器(?)だよ」
「「「「ん?武器?疑問系?」」」」
そう言われて僕は肩に吊るして布で巻いていた物を取り出す。本当は道中で試してみるつもりだったけど、それができなかった物。ヴェルフがヘファイストス様から『あの子の魔法は武器を簡単に壊しちゃうから、それに耐えられる物を作りなさい。』って注意されて、色々悩んで思い浮かんだのがモンスターフィリアで僕はシルバーバックを倒すときに作った『オルガン・ラビット』と言われる理由ともなった檻だったそうだ。それを持ち運べるサイズで試行錯誤して作り出したものが筒状に細長い檻の武器とも防具ともいえない物。
ヴェルフが言うには、
『こいつは魔法の影響を受けて初めて意味を持つ。影響を受けている間一定間隔で、その魔法の余波を打ち出せる・・・・簡単に言えば『魔法を吸収して吐き出す魔剣』みたいな物だな。ミノタウロスの角も少し混ぜ込んでるから、微量だが炎属性も混じってる。これを使えばお前の魔法でサンドイッチみたいに挟んで潰せる・・・はずだ。正直なところ、広範囲殲滅が可能で、既にいい武器を持ってるから必要かはわからないが・・・作ってみたくなった。・・・・・悪いが、これが今俺のできる限界だ。実際どうなるかは試してみないとわからないが・・・』
ということらしい。
「・・・へぇ~すごいわね。影響を受けている間ってことは、これを持って叩きつけることも?」
「うん、効果あるって。というより引っ掛けて叩きつけるのが一番いいみたい。音・・・というか振動が増幅されて常に圧力で叩きつけられるみたいになるらしいよ?」
「銘は?」
「えっと・・・鳥篭みたいに見えるから、偶々ヴェルフが通りを歩いてるときに見た鳥の鳴き声が綺麗だったとかで・・・"カナリア"って名づけたみたい」
「じゃぁ、もし、ハトだったら"ハト"って名づけていたかもしれないってこと?」
「・・・・・・リューさん、今日リューさんと寝たいです」
「ご、ごめんベルぅ!!謝る!謝るからぁ!!」
「仕方ありません。ベル、悪戯は駄目ですよ?」
「悪戯って?」
「な、何でもありません・・・!」
「ベル、この生娘妖精が寝付いたら乳を揉んでやれ。私が許す」
「なっ!?輝夜、貴様ぁ!!」
顔を真っ赤にするリューさんをからかうほんのり酔っていて頬を赤らめる輝夜さん、そして僕に抱きついて謝り倒すアリーゼさん。【アストレア・ファミリア】は今日も賑やかだ。そんなやりとりを【ロキ・ファミリア】の人たちは声を上げて笑っていた。
そんなとき、ふと、以前どこかで聞いたような声に声をかけられて振り返ると、そこには・・・・
山吹色の妖精さんがいた。
アリーゼさん達は普通に談笑しているけど、僕は思わず!咄嗟に!!反射的に!!!走り出してしまった!!
「許してくださぁぁぁぁぁい!!」
「えっ!?ちょっ!?ち、ちが!!逃げないでくださぁぁぁい!!しゃ、謝罪を!謝罪をさせてくださぁぁぁぁぁい!!!」
僕はわき目も振らず逃げ出し、妖精さんはそれを追う。しかし、僕には妖精さんの言葉が最後まで聞こえておらず、自分の速さに身を任せて森の中へと・・・大嫌いな暗い場所へと突っ込んでしまうのだった。もしここに妖精さんが追いかけていくその真実を知っていたならば、『どこの"森のくまさん"だ』と言っていたに違いない。そして、その2人の追走撃の開始を目撃していた全員が「なんだなんだ?」「あの子叫びながら走っていったけど大丈夫?」「レフィーヤ、また何かしたの?」とざわざわとしていた。
「・・・・団長様よ」
「な、なにかしら」
「ベルが暗い森の中に突っ込んで行ったぞ」
「そ、そうね・・・・」
「ランタン・・・持っていなかったぞ」
「み、みたいね・・・・」
「大丈夫なのか?」
「・・・・・大丈夫なわけないわ!?お、追いかけないと!!」
バタバタと、灯りを持って森の中に飛び出していくアリーゼ、輝夜、リュー。そして、溜息をついたリヴェリアがアイズに彼女達について行くように指示を出してアイズも森の中に飛び込んでいった。
■ ■ ■
18階層に存在する大森林は広大で階層南部から東部にかけて背の高い木々が生い茂り、その面積は優に『迷宮の楽園』の五分の一を占める。中央地帯に広がる大草原と隣接している他、階層の壁際まで森の勢いが及んでいる。
日中は幻想的な光を宿す青水晶が夜になると顔を変えたように幽玄とした薄明かりとなり、蒼然とした森の中はおどろおどろしいものへと様変わりする。無論、安全階層とはいえどモンスターがいない訳ではなく、夜目の利くモンスターがいれば脅威になるのは当然のことで・・・つまりは、夜の森はとても危険で、たとえ大森林に慣れていようが行き先などあっさり見失ってしまうだろう。
そして、そんな暗い森の中で、1人いろんな意味で泣き腫らす白兎と、「謝る事がどんどん増えてしまう・・・」とやっと追いついたはいいものの互いに脚をつまずき、押し倒す形になってしまった少女が、そこにはいた。
「ひっぐ・・・・えっぐ・・・ゆ、許して・・・許してくださぁい・・・!」
「ゆ、許すも何も・・・・わ、私が悪いんですよ!?」
「ひっく・・・・黒い神様がいるぅ・・・!」
「わ、私はエルフです!?」
「おねえちゃぁあん・・・・・!」
「くぅ・・・・っ!?」
片や例の事件のことと暗闇に対するいわばトラウマのダブルパンチを受けて。
片や謝罪をしたいのにそれどころじゃない少年にたじろぎ、さらに謝罪する事が増えてしまっている上に勘違いではあるが『黒い神様』と言われたり、『お姉ちゃん』と呼ばれてしまったことに対して何かクルものを感じて。
「ひ、1人で森の中に走り出しちゃ・・・あ、危ないんですよ?ほ、ほら・・・お、落ち着いてください・・・ね?」
「ひっく・・・・記憶消さないですか・・・?」
「け、消しませんよ!?」
「うっく・・・ひっく・・・・」
「ほ、ほら・・・・と、とりあえずお水を飲んで、落ち着いてください・・・」
「く、暗い・・・」
「ら、ランタンならここにありますよ!ほら!持ってていいですから!」
灯りを少年に持たせ、水を飲ませて背中を摩ってやりハンカチで顔を拭わせて、ようやく落ち着いてきたところで少女はほっと胸をなでおろした。そして、どうしてか逃げられ・・・いや、原因はそもそも自分にあるわけだが。とにかく、したくても中々できなかった謝罪をしようと決意する。
「あ、あの・・・・」
「・・・?」
「そ、その・・・以前、急いでいたとはいえ、まともに事情説明もなしにあなたを危険な場所にまで連れて行ってしまってすいませんでした。」
「・・・・」
「そ、その、団長とロキと一緒にあなたのホームへと謝罪に行ったんですけど、そのときはその・・・泣き疲れて眠っていたみたいで・・・・中々謝る機会がなくて・・・あなたの団長、アリーゼさんに相談して今回18階層にくるだろうから、そのときに・・・と」
「アリーゼさんが・・・・?」
「は、はい。ベートさんとはもう和解?しているようでしたが、私はまだ謝罪すらできていなかったので・・・」
本当に申し訳ありませんでした!!と深く頭を下げる山吹色の少女に、少年は少しだけ警戒度を下げて
「もうしないですか?」
「し、しません!に、二度と!!な、なんなら貴方の攻撃魔法を打っても構いません!あれだけ怖い思いをさせてしまったんですから!」
「・・・・」
「・・・・」
「も、もうちょっとだけ・・・その、山吹さん・・・・背中・・・摩っててください・・・」
「え、えぇ・・・もちろん!あ、あと、私は山吹さんではなくて、レフィーヤ・ウィリディスです!」
■ ■ ■
「・・・・落ち着きましたか?」
「・・・うん。」
「で、では・・・その・・・・拠点に戻りましょう?皆さん心配しているでしょうし」
「・・・・・・」
「も、もしかして探知不可能だったりしますか?」
「えっと・・・それは大丈夫・・・ですけど」
落ち着いて、改めて自己紹介をして、握手をする。そして、帰りましょう、申し訳ないですが探知で拠点の位置がわかったりしますか?と聞くと少年は、どことも知れぬ暗闇・・・ずっと先の何かを見つめている。少女・・・レフィーヤはそれに不気味さを感じながらも、少年がスキルで何かを感じ取ったのだろうと察していた。
「な、何かあるんですか?」
「・・・・人」
「・・・え?」
「人の反応が急に出てきました・・・・どこから出てきたんだろう・・・・」
まさか・・・とレフィーヤは息を呑み、ベルに少しだけ木の上から確認するので灯りを消して待つように指示を出す。ベルは一瞬怯えながらも頷き、灯りを消し小さく蹲った。レフィーヤは申し訳なさそうな顔をしながらも、木を跳躍をもって上り目視で確認をする。
「・・・あの子では探知できても、目視で分かるわけじゃない。だから、確認のために木を上ったけど・・・あれって・・・・」
上半身を覆う大型のローブに、口元まで覆う頭巾、額当て。闇に溶け込むような暗色で彩られた衣装は顔と素顔を隠していて、色こそ違うが、その姿は24階層の食料庫で交戦したローブ姿の一団―――
「・・・2人?どこに向かってる?」
方角だけを確認し、あまりあの子を1人にするのは危険だと判断し樹枝から飛び降りベルに声をかける。
「戻りました。もう体を起こして大丈夫ですよ?ただその・・・灯りは付けないでください」
「えっ・・・なんで?」
「その、24階層にいた白いローブの人達を覚えてますか?」
「う、うん・・・・」
「アレと同じ組織の者がいました。見つかると厄介かもしれません。だから、灯りは付けては危険なんです」
理由を説明し、ベルを納得させ振るえている体を手を握ってやることで安心させる。24階層から輝夜がベルを回収していくとき、一瞬ではあったが震えていた体を撫でていたのを見ていたから、咄嗟にそれに習って行動していた。
そして、
―――尾行をすれば、
「――――フィーヤさん」
「どうすれば・・・せめて誰か来てくれたら・・・」
「レフィーヤさん!」
「は、はひゃぃ!?」
「・・・・追うんですか?」
「えっ・・・?」
「いいですよ。ここで置いてきぼりにされるくらいなら・・・」
「で、でも・・・」
「・・・・僕もあの人たちが急に出てきたのが気になるから・・・」
確認がしたい。とベルが怯えながら、手を強く握り返しながら伝えてくる。そこで、レフィーヤも決断する。ギリギリまで行くことを。
「念のため確認させてください。武器はありますか?」
「はい」
「
「大丈夫です」
「ちなみに・・・・味方が来ているかは?」
「・・・・・まだ、距離があります」
「ふぅ・・・・ギリギリまで、行って見ましょう。でも、何かあればすぐ逃げることを優先してくださいね?」
「はい」
「では・・・行きましょう」
立ち上がり、ベルのスキルに頼り、暗い森を進んでいく2人の姿がそこにはあった。
アリーゼ「やーい!無駄足狼ぃ~!!」
ベート「クッソガァァァァ!!」