水晶林を突っ切り、なおも岩壁の方向へと向かっていく男達を追跡する2人。
茂みかの陰から飛び出し、水晶の林に突入する。物音1つ立てず、水晶の柱に体を隠す・・・を何度も繰り返し男達の背中を追いかけていく。そこで、手を繋いでいるベルがレフィーヤを引っ張る。
「どうしました?」
「えと・・・・そこ、足元にモンスターがいます。」
「へっ?・・・何もありませんよ?」
レフィーヤの目には確かに、周りの地面と変わりない土色の地面しか存在しない。それでも、ベルは首を横にフリ、指を刺す。そこと、そこと、あそこは駄目だと。
「
「むむむ・・・・つまりは、極彩色のモンスターがいると?」
「それは分からないですけど、普通のモンスターとは違う感じが・・・・」
多分・・・多分、この子は"極彩色のモンスター"についてのことを知らないのだろうと思い、もう引き返すべきか悩んでいるといつの間にか男達が姿を消していた。すると、今度はベルがモンスターがいるという場所にナイフの切っ先を向けて小声で魔法を唱える。
「―――『
すると、地面から
『~~~~~~~~~ァッ!?』
と悲鳴ともいえない甲高い断末魔を上げて、地面に大きな穴が開いた。穴からは反応が消えたとベルが言うので、ゆっくりと恐る恐る覗き込んでみれば、10Mほどの深さで穴全体は薄紅色の肉壁でできており、落ちれば上ってこれるような凹凸すらなく、まるで生物の体内や胃袋を連想させた。中には人の遺骸や武器などが所々に浮き上がっており、恐らくあのまま何も知らずに落ちていれば溶解液で溶かされて殺されていたのだろうとレフィーヤは察する。魔石の確認はできないが、恐らくはあの食人花や芋虫型と同じタイプ・・・根源を同じくする『極彩色のモンスター』なのだろうと結論つけた。
「闇派閥の残党が・・・・何か重大な秘密を、隠している何かを守るために、情報漏洩を防ぐために設置した・・・
レフィーヤがそう結論付けている間に、ベルはナイフを地面に刺してもう一度魔法を唱えると、同じように断末魔が上がり、穴が開いた。
「そ、その・・・・私が言うのもなんですけど、どうしてあの時、抵抗しなかったんですか?」
「したらベートさんが走ったり跳んだりするときの衝撃で魔法を唱えるどころじゃなかったんですぅ!」
「す、すいませ~~~ん!」
「そ、それより、ほら!どうするんですか?」
「えっ、えっと・・・進みましょう!?反応はありますか?」
「・・・・無いです」
「・・・・」
お互いに何ともいえない顔で見つめあい、ベルが急に男達が出てきたあたりを指差すのでとりあえず行くだけ行ってみるということになった。そして少しして辿り着いたのはダンジョン18階層の東端の絶壁。これ以上は何も無い、目視でもあるようには感じない・・・そう思いレフィーヤは念のためにとベルに確認を取ろうとする。
「・・・何か分かります?」
「・・・・レフィーヤさん、えっと・・・ダンジョンって"隠し通路"みたいなのがあったりするんですか?」
「隠し通路?・・・・ううん、未開拓エリアってことならありますけど?」
「うーん・・・・」
「どうしたんですか?」
ベルは壁をペタペタと触り、時にはコツンと小突いてみる。どうも違和感があるらしい。レフィーヤには分からないがベルが触っている場所に、どうも『道があるでも、壁がある』というのだ。と、そこでベルがピクっと反応してレフィーヤの手を引っ張って茂みに隠れるように連れて行く。すると、今度はベルが触っていた壁からローブを着た・・・さきほどの男達と同じ格好の者たちが現れ、地面に、モンスターがいた場所に穴が開いているのを見ると慌てて周囲を索敵し始めた。
「・・・・どうします?」
「たぶん、気づかれますよね?」
「うーん・・・たぶん、気づかれると思います」
「私は貴方の様に近接戦ができるわけじゃありません。なので、あなたに直接敵を引き付けてもらう必要があるんですけど・・・」
『
『それほど時間は経っていないはずだ!探せ!』
『
そう言うと、今度は茂みの奥から黄緑色の長躯がずるずると這い出てきて、それが
「【
「それに、白髪に赤眼・・・・まさか、【アストレア・ファミリア】!?」
ずるずると這いよる食人花のモンスターは、ベルとレフィーヤをあっという間に包囲した。闇派閥の残党は巻き込まれないように離脱を始めるとモンスターの群れは閉じていた蕾は一斉に開花させて毒々しい極彩色の花弁に醜悪な大顎があらわになり、牙からは大量の粘液が草地に転がる水晶の上にぼたぼたと落ちていく。
「ここで死ね、冒険者ども!」
その声と共に包囲網を狭めながら、食人花の群れは一斉に飛び掛ってきた。レフィーヤは杖を強く握り締め、ベルはナイフを抜き駆け出す。
『―――オオオオオオオオオオオオオ!!』
「――――『
『―――ッッ!?』
レフィーヤ達に飛び掛ろうとしていた食人花の群れを、ベルはたった一言唱えるだけで、鐘楼の音を森の中で響かせ、灰へと変えて見せた。驚愕に染まるレフィーヤに、何が起きたのか理解できていないのか固まっている闇派閥の男達。さらにそのままベルは男達に向かってもう一度唱える。
「『
「「がっっ!?」」
鐘楼の音が鳴り響き、悲鳴さえ音の暴風の中でかき消されて男達は倒れ付した。気絶していることを確認すると、モンスターの魔石を拾い、男たちの手元から転がり落ちたのか、丸い玉を拾いレフィーヤの元に戻ってきた。
「・・・・・」
「レフィーヤさん・・・?顔が怖いです」
「私・・・いらない・・・くぅ・・・。そ、そんなに強いなら、私から逃げる必要ないじゃないですかぁ・・・!あ、あなた本当にLv2ですか!?」
「ひぃ・・・っ!?だ、だってレフィーヤさんは近接戦は駄目だって・・・!」
「うぅぅぅ・・・ずるいです!もう!」
「え、えぇぇ・・・・」
■ ■ ■
「それで、あなたが言っていた壁の先からさっきの男達がでてきたんですよね?私も見ましたよ?」
「どうやって出てきたんだろう・・・・」
「あの・・・その丸いの、発光してませんか?」
「・・・・?」
先ほど拾った、周りの暗さと、その光でよく見えないが、どこかで見た事があるような・・・・とベルは見つめていると、違和感があった壁が開いた。2人は見つめ合い、『ちょっとだけ、行ってみましょう』とほんの少しの好奇心に駆られて足を踏み入れる。
すると、途端にベルが怯えだした。
「暗いから震えているんですか?」
「ち、違います・・・!に、にに、逃げましょう!?」
「へ!?まだ入ったばかりですよ!?」
「い、いい、いっぱい!いっぱいいるんですぅ!!」
『~~~~~~~~ッッ!!』
「「ひぃっ!?」」
続く真っ暗闇な通路から、まるで風が通り抜けるかのように、人なのかモンスターなのかもわからない呻き声とも言える音を聞いた2人は即座に!反射的に!行動へと移す!
振り返り、お互いに強く手を握り、大声を出してこの謎の通路の先にいる何かに気づかれないようにお互いの片手で口を塞ぎ、二人三脚の様に来た道へと最大加速で走り出した。
(やばいやばいやばいやばいやばい!)
(何か鳴ってた!?鳴いてた!?怖い怖い怖い怖い!反応もあるぅ!!)
2人を追ってくる姿はなく、すぐに入ってきた場所から外に飛び出し自分達が戦っていた場所にいた4人へと飛びついた。
「アリーゼさぁぁぁぁん!!」
「アイズさぁぁぁん!!」
「「「ベル!?どこから!?」」」
「レフィーヤ?・・・どこに行ってたの?」
2人はすぐにこれまでの・・・恥ずかしい勘違いを起こした、ある種、レフィーヤの自業自得ではあるが経緯を話し、食人花と闇派閥の残党、そしてベルが見つけた壁の違和感のことを報告した。
4人はとりあえず2人に『勝手に夜の森に飛び出さない!』と軽くお説教をし、これ以上暗い中調べるのは危険だと判断し、拠点へと帰還することを決めた。
拠点に戻り、ベルがまだ水浴びができておらず体を洗わせに行こうと輝夜たちが行っている間にアリーゼとレフィーヤ、アイズは【ロキ・ファミリア】のフィン達がいる小屋に行き、何があったのかを伝え情報を共有した。もっとも、ほとんどがレフィーヤに対するお説教に近かったが。
「それでレフィーヤ・・・・謝罪はできたのか」
「は、はい・・・その、謝罪をしようとして逃げられたのは驚きましたけど、ちゃんと聞いてもらえました。」
「ふぅ・・・なら良い。もうあのような事はするなよ?」
「は、はい!」
「わかったなら、今日はもう休め」
そうしてレフィーヤとアイズは自分達が休むテントに戻り、残るのはアリーゼ、リヴェリア、フィン、ガレスの4人。小屋の中心に設置された小さな机の上にはベルが回収した魔石と丸い玉があり、アリーゼは以前、アストレア様がベルをとある廃教会・・・アルフィアたちがいた場所に置いてあった物と同じだろうと伝えた。
「・・・闇派閥にとって何か特別な道具?魔道具か?」
「ベルが言うには、壁の先に道があって最初は入れなかったのに、それがあると入れたみたいよ」
「となると・・・・これは『鍵』だろうね」
「アルフィア達がこの『鍵』と同種の物を残していったのか・・・?」
「入り口より先には?」
「さすがに行ってないみたいです。ベル、すごい怯えてましたし。『たくさんやばいのがいる』って言ってましたよ」
結局、それ以上話は進むことはなく、ベルの言う『やばいもの』も分からず話は後日改めてということになり解散する。情報不足な今、下手に飛び込むのは危険ということも付け加えて。
■ ■ ■
【アストレア・ファミリア】のテント内にて、アリーゼと一緒に寝袋に入り眠りに付いたベルの頭を撫でながら、アリーゼ達は報告会を行っていた。
「それで?どうなったのだ、団長」
「んーとりあえず、情報不足で保留。ただ、今回ので『芋虫型』『食人花』『トラップ型』・・・そして、59階層にいた『穢れた精霊』の4種・・・あぁえっと、オリヴァスと赤髪の女?を入れたら5種だっけ。その確認ができたってくらいかしら」
「潜入する予定は?」
「ベルが最初に壁を触っても中には入れなかったらしいわ。あくまでも『鍵』がないと駄目みたい。それとその通路の先に何があるのかも不明。ベルの怯えようからだとモンスターは確実にいるでしょうね。もし、閉じ込められた場合、鍵を持った人間が1人となると逸れた場合も含めて危険だから・・・まだ潜入するのは危険だからそれも保留ね。でも、おそらくいるわあの奥に闇派閥が」
情報不足、どんなモンスターがいるのかも不明、鍵は2つしかない。通路の構造がどうなっているのかも不明。どこまで続いているのかも・・・・不明。そのため、そこに手を出したくても手を出せない状態となってしまっていた。
「では、しばらくは放置・・・と?」
「いいえ?もちろん、調べることはあるわ。例えば・・・『出入り口が18階層以外にもあるのか』とかね。あとは、ベルが昔言ってた『喋るモンスター』についても調べたいわ」
「大丈夫なのか?」
「うーん・・・でも、密売云々では関係はあると思うわ。今はそれしか言えない。」
「はぁ~」と他の団員たちも溜息を吐き、話を切り上げ、伸びをして各々寝袋へと入って就寝していく。ただアリーゼだけはどこか嬉しそうにしながら。
「団長様?嬉しそうでございますね?」
「・・・わかる?」
「顔がデレデレだ。気持ち悪いぞ」
「ガーン!ひどい!」
「いえ・・・食事の時からそんな顔でしたよ。そんなにベルに会いたかったのですか?」
「そうよ!そしてこの可愛い寝顔!最高よ!癒されるわ!」
そのアリーゼのデレデレとした顔を見て、言葉を聞いてまた溜息をついてジト目で見つめ、輝夜とリューも寝袋に入り就寝する。「駄目だこいつ」そう思いながら。
「あ、あれ・・・どうしてそんな目をするのよ。輝夜とリオンだって一緒に寝たかったはずでしょ?」
「否定はしないが、そこまでではない」
「私は・・・・結構です」
「ムッツリ妖精め」
「んなっ!?」
灯りを消して、明日はリヴィラに連れて行こう。と軽く予定を話し、全員が眠りにつくのだった。
補足
ベル君のスキル『人魔の饗宴』にある効果の1つ、反響帝位:自身を中心に音波を聞き取り人・魔物の距離・大きさを特定。対象によって音波変質。
ですが、『大きさ』とはレベルの差も入っています。今のベル君が深層種と戦えるわけではないため、そこまでの差があれば「反応が大きく」感じてしまいます。
そのため、通路に入った時点で音波が滅茶苦茶跳ね返ってきていて即座に逃げることを選択しました。