僕達は、目が覚め仕度を整えると18階層の西部に存在する湖に浮かぶ『島』を目指して歩いていた。湖面の上には遠くからでも分かるような大木が島とを繋ぐ橋になっていて踏みならされた跡はあるけど、手すりなんてものは無くて所々でこぼこしていて足場も悪い。
「アイズさん、どうしてさっきから上を向いて歩いているんですか?」
「・・・・・空、綺麗だね」
「・・・・?」
確かに『朝』というだけあって、『昼』より明るさは控えめで、空からクリスタルが照らす光は暖かかった。光に当てられ、水面には僕たちの姿が映りこむ。一緒に移動しているのは【ロキ・ファミリア】のアイズさん、ティオネさん、ティオナさん。【タケミカヅチ・ファミリア】のパーティに僕たちのパーティと【アストレア・ファミリア】のアリーゼさんとリューさん。輝夜さん達は、撤退の準備もあって留守番をしている。
「・・・・・『街』があるなら、どうしてそこに宿泊しないんですか?」
「「「ぼったくられるから」」」
「えっ」「ん?」「はい?」
僕の疑問に、何度も来ている面子は即答し、初めて来た【タケミカヅチ・ファミリア】の人達と僕とヴェルフ、そしてリリは余計に疑問が浮かんだ顔をしていた。
「18階層は安全階層とは言われているけれど、怪物達も果物や清水を求めてここに来るわ。だから、どちらかといえばモンスターにとっての楽地ってのが適切ね!だから、決してモンスターがいないわけじゃないから・・・勝手に!1人で!出歩かないこと!」
「・・・・ぁぃ」
アリーゼさんは18階層についてさらに補足し、昨日の夜に森の中に飛び込んでしまった僕に釘を刺す。こうして話しているときは格好いいお姉さんなんだけど・・・・どうして起きたら服が寝袋の中で脱げているのか、僕は不思議で仕方ないよ。
そして、高所を越え僅かも無い道を登り続け、目の前に現れたのは木の柱と旗で造られたアーチ門だった。
「・・・『ようこそ同業者、リヴィラの街へ!』??」
「あー・・・・その旗というか、見た目に騙されないほうがいいよ皆。気を良くして懐を暖めようって考えだから。素直にお金払ってると痛い目みるよー」
「そんなにか・・・」
「おい大男、金は?」
「・・・・ない」
「俺もだ」
「「・・・・ふっ」」
「何故お金が無いのに良い顔をしているのですか・・・」
アーチを潜れば、白水晶と青水晶に彩られた一種の集落にも見える『街』だった。住居や看板を飾るそれぞれの店は、木や天幕で造られた即席なものや岩に空いた天然の横穴や空洞を利用して造られたもの。とにかく、山肌だろうが利用しているのか急な斜面が散見され、丸太の階段が至る所に設置されていた。ちなみに、何度もモンスターに襲われて壊滅しかけることもあるため、そのたびに「造って、破壊されて、また造って・・・・」を繰り返していてついに334代目なのが今僕たちがいる『リヴィラの街』らしい。
「ここを経営しているのは、冒険者でギルドが関わっていないから細かい規則も存在しないから・・・・みんな好き勝手に商売を営んでるわ。それはつまり・・・」
そう言ってアリーゼさんは立止まった商店の商品・・・・研石を指差して言う。
「鍛冶師君ならわかるだろうけど・・・・これくらいの、小石程度の物でも通常の何倍もの値段で売られているわ」
「おいおい・・・・嘘だろ!?桁が違ぇ!!・・・こんなのありか!?」
「バ、バックパックが2万ヴァリスだなんて・・・法外すぎます!じゃが丸君がいくつ買えると思ってるんですか!?」
「じゃが丸君は・・・それだけの価値がある・・・よ?」
「いいえ!毎日食べさせられる身にもなってください!!」
「ッ!?」
「どうして羨ましがっているんですか剣姫様!?」
値段がとんでもないことになっていて、だから『遠征』するほどの大人数が宿なんてとればそれこそとんでもない金額を請求されるらしく、森の中でキャンプを作っていたらしい。
そうして、僕達はそれぞれ保護者付きで別行動をとることになって、僕はアリーゼさんとティオナさん、ヴェルフにリリと行動することになった。
「ねぇねぇアルゴノゥトくん」
「・・・・アルゴノゥト?」
「あれ、知らない?」
「いや・・・知ってますけど・・・」
「ミノタウロスと戦ってる姿がさぁ・・・状況というか、被っててさぁ・・・よかったなぁ、アレ」
「恥ずかしい・・・」
「【そこにいるのか、我が敵よ!】【私と決着を望むか、強き敵よ!】」
「「【ならば私とお前はこれより『好敵手』!ともに戦い合う宿命の相手だ!・・・さぁ、冒険をしよう。僕が前に進むために。あの人たちの横に立つ為に!!】」」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
ティオナさんとアリーゼさんは、褒めているのと弄ってくるのとで僕は思わず悶絶してしまった。だっだって仕方ないじゃないか!そうでもして自分を奮い立たせないと戦える気がしなかったんだから!!
■ ■ ■
「ぼったくりもいいところだ・・・・」
「お、桜花殿・・・・正論ではありますが自重を・・・」
ふっ、新顔か。
ぼったくり?よく言うぜ、『安く仕入れて高く売る』。それこそがここリヴィラで買取所を営む、俺達のモットーだ。お前たちのような右も左もわからねぇようなヤツはきっと地上の価値観なんざ捨てきれずに痛い目を見るのがオチってもんだろうよ。
買い取り額が安くて気に入らない?大いに結構。それなら、他所に行ってくれ。別に店は俺のところだけじゃないんだしな。・・・・なんだ結局売るのかよ、ほれ、魔石だ、地上で換金するがいいさ。
「お金がない場合はどうするのですか?わざわざ多めに持ち込むのですか?」
「いいえ、違うわ。そういうときは証文を作るのよ。冒険者の名前と【ファミリア】のエンブレムを契約書に記入して、後で請求・・・っていうのがまぁ、普通かしら。基本的に買取は物々交換か証文で行われているわ」
そういや今日はやけに賑やかだな・・・ああ、そういや【ロキ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の遠征隊が引き返してきたって聞いたな。・・・ん?ありゃぁ・・・
おっ、モルドどうした?何?『調子こいてるルーキーに冒険者としての掟を叩き込んでやる』だって?おいおいそりゃぁ、確かにランクアップして大して経ってねぇ間に中層中間区に来たのは手品でも使ったんじゃねえかって思っても仕方ないかもしれねぇが・・・相手は【アストレア・ファミリア】だぞ?それに【ロキ・ファミリア】まで・・・あ、おい!・・・って行っちまいやがった。まさか、気づいてねぇのか・・・あいつ?いや、なんか酒臭かったな。
「よぉ、ルーキー!ずいぶん景気がよさそうだな!」
「へ?」
「しかもえれぇ、上玉まで連れて・・・保護者同伴で遠足か?えぇ?」
「えっと?」
「いったいいくら払ったんだ?この女どもに。俺にも分けてくれよ!
おいおいモルドのやつ、完全に酔ってやがるな。どんだけ飲んだんだあいつ・・・・?その周りの女共もすげぇ殺気だぞ、死んだな。あいつ。あの白いのもちょっとだけ目つき変えやがったぞ。ま、まぁ・・・骨は拾ってやるよ。
「『
「ベ、ベル!?そ、それ以上は駄目!!ほんとに!加減してても駄目よ!?ステイ!ベルステイ!」
「だ、だって・・・!」
「綺麗な音・・・」
「なんでアイズちょっとうっとりしてるの?」
ゴンゴンゴンゴーン!とリズム良く気持ちのいい小さい音が聞こえたと思ったら・・・・なんだ?モルドとその他2人、頭抑えてフラフラして・・・・おいおいおいおいおい!!何そんなところで吐いてやがる!!あ!?グレートフォールが見える!?馬鹿野郎!!そりゃぁテメェらの口から出てんだよ!!アンフィスバエナまで見えてきただって?それもテメェがさっき食った物が逆流してるだけだろうがよ!!あぁ、くせぇ!!ふざけんじゃねぇぞ!!
・・・・ったく、あいつら吐くだけ吐いて地べたを這い回って、やっと回復したと思ったら「ナマ言ってすんませんしたぁぁぁぁ!」ってなんだそりゃぁ。しまらねぇな。あん?あの白いのはやばいって?一瞬背後に灰色髪で目を瞑った女が見えただと?おい・・・モルド、悪いことはいわねぇ、もう今日は寝ろ。良い、良いんだ。金のことは。そんな幻覚を見ているような状態で地上に返すほうが寝覚めが悪ぃ・・・・。ちょっとくらいはサービスしてやるよ(嘔吐物処理の件で上増ししてやるからな)・・・いいってことよ。俺様ことボールス・エルダーとお前の仲じゃねぇか!!な!!
お?おお、お前が
そ、そんなことよりお前ぇ・・・ランクアップしてすぐにこんな所まで来やがったのか?どうやって?何?パーティを組んで来た?課題?意味がわからねぇ、普通そんなことしたら死んでるぞ生きてるのが不思議だぞ・・・・・。あれか、【モンスターも人も泣かせる】から『
■ ■ ■
「面白い人でしたね、ボールスさん」
「私はヒヤヒヤしたわ・・・・ベル、あなた、魔法の連打はいけないわ。あなたのは超短文に加えて威力もそれなりなんだから。それに見えないから避けようがないし」
「・・・・だって、アリーゼさんたちを寄越せって」
「大丈夫よ!私たちがあんなのにやられるわけないじゃない!」
僕達はリヴィラの街の探索に一通り満足して、帰還する準備をするために野営地へと向かっていた。桜花さん達も一通り見て満足したみたいだけどティオネさんが『ここはなるべく利用しないほうがいいわ。損するもの』という言葉に納得していた以上に『俺達だけでここまでこれるようにならないとな』と目標のようなものができていたらしい。
「アリーゼさん、グレートフォールって?」
「25階層から27階層まで一直線になっている巨大な滝のことよ。あ、落ちたら助からないと思ったほうがいいわよ?」
「ひぇ・・・・ってアイズさん?なんで水の話になると空を見上げているんですか?」
「空・・・ほら、あの雲、じゃが丸君みたいだよ、ベル。おいしそう・・・」
「雲なんてないですよアイズさん・・・・」
アイズさんはどうしてか、水の話になるとそれから目を背けるというかもう逃げていた。よくそれで橋から落ちないなあ・・・・第1級になるとそんな器用なこともできるのかな?
「あれ、でもアリーゼさん」
「ん?」
「その・・・水しかないんだったら、アリーゼさんの魔法って使えないんじゃ?湿気たマッチみたいになったりしないんですか?」
「なっ!?し、失礼な!ちゃ、ちゃんと燃えるわよ!?アンフィスバエナの炎と同じくらいすごいんだから!」
「やけにならないでくださいアリーゼ・・・・」
『今度私も一緒にダンジョンに行きたい!』なんてティオナさんが言ってきたり『じゃが丸君は克服できた?』なんて談笑をしながら来た道を戻り、武装を整えて帰還の準備をする。アリーゼさんが言うには
あ、ベートさんが僕を見て目を丸くしてる。『解毒薬を取りに行った俺の苦労はなんだったんだ・・・?』『ハハハ、でも伝言もあったんだ。決して無駄ではなかったはずだろう?』『なんで兎がここにいやがる!?』なんて話をしている。すると、アリーゼさんは悪戯な顔をして、息を吸って・・・
「やーい!無駄足狼ぃぃ!!」
「ガァァァァァ!!うるせぇぇぇぇ!!!」
・・・・意外と仲がいいのかな?
真ん中はボールスさんの視点で書いてみましたが、口調が違っていたらすいません。
モルドさんは良い人(悪友)だと思います