兎は星乙女と共に   作:二ベル

26 / 157
ふと、ダンまち原作での階層主戦ってあんまりないなぁ・・・と思いました。(アイズvsウダイオスさんくらい?)


帰還

 

 

バキリ、と大壁の上から下にかけて巨大な亀裂が音を立てながら、雷の様に走っていく。壁がひび割れていく音はなお続き、バキッバキッと響きを大きくし次第に喘ぎや苦しみ、嘆くような重々しい声音へと姿を変え大広間全体を震わせていく。

 

場所は17階層、罅割れていくは嘆きの大壁。そこに、僕達はいて、あるモンスターの誕生を待っていた。

「さぁ、そろそろ来るわよ!ベル、初挑戦組は焦らず無理に突っ込まないこと!」

 

雪崩れ込むかのような音の津波に、耳を、体を震わせているとアリーゼさんは僕の肩に手を置いて全員に鼓舞し指示を出す。徐々に徐々に大きく、深くなっていく何条もの亀裂。やがて臨界が近づき1層強い衝撃が内側から壁を殴りつけ・・・・巨大な破砕音が、爆発した。

 

「・・・・ッ!」

「大丈夫、今回はベル1人で戦うわけじゃないわ。思いっきり、その新しいのを試してみなさい。魔法もガンガン使っちゃっていいわ」

「・・・うん」

 

岩の塊が弾け跳んで崩れ落ち、横転していく轟音。背後で敗れた巨大壁の破片が散乱していく。そして、とうとう僕たちが待っていた存在がズンッと降り立つ一際大きな着地音が響き、煙が上がる。その立ちこもる土煙の中に、そいつはいた。

 

「・・・すげぇな、ベル。なんだぁ?ビビッてんのか?」

「ビ、ビビッてない・・・ッ!」

「せっかくだ、思いっきり試してみようぜ」

「うん!・・・・・【天秤よ傾け、我等を赦し全てを与えよ】乙女ノ天秤(バルゴ・リブラ)オーラ!」

 

大き過ぎる輪郭。太い首、太い肩、太い腕・・・・人の体格に酷似しその体皮は灰褐色で後頭部に位置する場所からは脂を塗ったように照り輝く黒い髪が、首元を過ぎる位置まで大量に伸びていた。

僕は、完全に姿が見える前に支援魔法を近くにいるメンバーをかけていつでも戦えるようにする。

 

「・・・・これが」

「そう、これが・・・」

「「階層主」」

迷宮の孤王(モンスターレックス)、ゴライアスだ。推定Lvは4。全員、気を引き締めろ!」

 

次第に煙は晴れていき、人の頭ほどもある赤い眼球が僕たちを捉え、ゆっくりと地響きのような足音を鳴らして体を向ける。

輝夜さんもアリーゼさん達も普段とはまた違った空気を纏っていた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

「・・・・行くわよ!」

「・・・はい!」

 

全力で駆け出す。

けたたましい咆哮を上げてゴライアスは迫ってくる。踏み潰されないように巨人の足が振り下ろされる前に前へ前へと進み、僕はゴライアスの背後に回り、腰に繋いでいる紐をクルクルと回しゴライアスの頭上めがけて【カナリア】を投げつけた。そして、他の冒険者に拳を振り下ろそうとするゴライアスに向けて唱える。

 

「―――『福音(ゴスペル)』ッ!」

 

鐘の音が鳴り、その拳を一瞬弾き上げた。その隙に拳の下にいた冒険者は退避し、斬りこむ。

 

「ベル!うまくいってるぞ!そのまま振り回してぶち込め!!」

「・・・うん!」

 

ゴライアスの頭上で浮遊する【カナリア】はコーンコーン!と僕が放った魔法とは少し軽い音を鳴らしながらも確かに魔法の影響を受けているのがよくわかった。素材となったミノタウロスの角の影響なのか微かに赤く輝いている。それを右足を軸に回転させることで鞭の様に操りゴライアスのコメカミへと叩き付けた。

 

『オオオオオガァッ!?』

「効いてる!?」

「まだまだぁ!・・・・『福音(ゴスペル)』ッ!」

 

さらに2度、3度と魔法を放っていく。そこで【カナリア】は微かな輝きから火の粉を散らし叩きつけるたびに轟音を鳴らし始めてゴライアスの動きを鈍くしていく。頭、肘、膝・・・と間接を狙っていく。打ち付けられた部位は3度使用された魔法でその分威力を増す。

・・・たまに、ミノタウロスのような咆哮音が聞こえるのは気のせいだろうか。

 

「・・・ヴェルフゥ!」

「なんだぁ!楽しいかぁ!」

「すごいけど・・・すごいけど、これ、呪われてない!?ミノタウロスの咆哮音が聞こえるんだけど!?」

「ふざけろっ!」

 

激しい戦いの中、魔法、打撃、斬撃、と様々な攻撃がゴライアスを襲っていきゴライアスは次第に弱っていく。

 

「ベル!チャージ!1分!」

「・・・はい!」

 

アリーゼさんから指示が飛び、ヴェルフに紐を渡し【カナリア】の制御を任せ、僕は英雄羨望(アルゴナウタイ)のチャージを開始する。腕に光の粒が集まっては離れる・・・を繰り返しリンリンと音を鳴らす。1分が経過する頃に、炎を纏ったアリーゼさんがやってきて手と手でタッチするように触れるとチャージした分の光がアリーゼさんへと移った。譲渡が終わると、少しだけどガクっと力が抜けてフラつく僕をヴェルフが支える。

ブーツへと収束させた炎でさらに加速するアリーゼさんは地面を爆砕しながらゴライアスへと接近していき、光と炎を纏った剣を横に薙いだ。

 

炎華(アルヴェリア)ッ!!」

 

■ ■ ■

 

「・・・・すごかった」

「ああ、すごかったな」

「ええ・・・・すごかったですね」

「剣・・・・私の剣がぁ・・・」

「大壁が焼き切れるとはどういう威力だ。やりすぎだ団長」

「・・・『私はいつもやりすぎてしまう』ふっ」

「アリーゼェ!?」

 

あの後、アリーゼさんの一撃をもってゴライアスは下半身を残して蒸発した。ただし、アリーゼさんの剣も、溶けた。予備の剣を装備してはいるけれど、ショックなのはショックらしい。僕も星ノ刃(アストラルナイフ)が壊れたら立ち直れる自信がないから・・・というか、【ソーマ・ファミリア】の一件の時に一回泣いてしまったことがあるから気持ちはわかる気がする。

 

「ア、アリーゼさん・・・元気だして・・・その、格好良かったよ」

「・・・ベルゥ、あなた優しいのね。さすが私が育てたベルだわ」

「団長様、『育てた』と言うのをやめろ。」

「別に間違ってはないんじゃないかしら?」

「・・・・・・まぁ、否定し辛いが」

「清く正しく美しい私の愛でベルはこうも優しい子に育ってくれたのよ!ふふん!」

「育てたというなら、アリーゼだけではないと思いますが・・・ベル、体はもう大丈夫ですか?」

「あ、うん。大丈夫だよ」

 

チャージを譲渡した後に体から力が抜け、戦闘後にそのことを報告すると『体力と精神力を消耗する』という結論へといたった。なので回復するまで少しの間、輝夜さんに背負われていたのだ。

 

「ベルのあの武器・・・武器でいいのよね?鍛冶師君」

「あ、あぁ・・・いいと思うぞ・・・」

「歯切れが悪くございませんか?」

「いや、俺も武器を作るはずがどうしてかアレになっちまって・・・・ヘファイストス様には『確かに壊れないのを造れとは言ったけど・・・』って微妙な顔されるし椿には腹抱えて笑われるしで・・・何か、魔剣のことで悩んでたのが馬鹿らしくなっちまったわ

「ん?何か?」

「いや、何でもない」

 

そうこうして戦闘も少なく地上へと帰還し、アリーゼさん達は残りの遠征隊を待って解散、ギルドに報告と換金する作業があるらしくヴェルフは先に帰っていった。僕はいつもの様にベンチで座り皆が戻ってくるのを待つ。なんというか、あっという間だったなぁ・・・。18階層・・・あの隠し通路はなんだったんだろうか?すごく、こう・・・ざわざわするというか、少なくとも今のLv2の僕が迷い込んで生還できる自信はない。きっと確実に死んでしまうだろう。

あの変なモンスターもレフィーヤさんが知ってるってことは・・・・【ロキ・ファミリア】も知ってるわけで、少なくともアリーゼさん達も知っているはず・・・だよね・・・・。

 

「・・・・ふわぁ」

「ンヌフフフフ・・・・ベェルきゅうううん、待っていてくれよぉぉぉぉ」

「ッ!?」

なんだろう、今、すっごく!すっごく悪寒が走った!!僕は当たりを見回すも、その悪寒の正体がわからずいやな汗をかく。

「ベルー?」

「・・・アリーゼさん?」

「・・・・こんなところで寝てたら風邪引くわよ?」

「えっ・・・あっ、えっと・・・なんだかあっという間で、でも色々あって・・・ちょっと疲れた。」

「そうね!水浴びも気持ちよかったでしょ?」

「うん・・・とっても。それより、もういいの?」

「ええ、もう終わったから。帰りましょ!」

 

アリーゼさんの他にもファミリアの人達が戻ってきて、アイズさん達ともお別れを済ませて僕達はアストレア様の待つ【星屑の庭】へと帰還する。ちょっとしか日付は変わっていないはずなのに・・・・なんだかとても久しぶりな気分だ。

それに、何か嫌な視線を感じたので早くアストレア様に会いたい。

 

■ ■ ■

【アストレア・ファミリア】本拠【星屑の庭】

扉を開けると、穏やかな微笑で迎えてくれる胡桃色の長髪を持った美しい女神様・・・アストレア様が僕たちを迎えてくれた。

 

「おかえりなさい、みんな」

「アストレア様!」

「ただいま帰りました、アストレア様」

「子供みてぇにズラズラ並んで帰還しましたよっと」

「主神様自らお出迎えさせるなんて、わたくし達も随分偉くなったこと。」

 

アリーゼさんも輝夜さんも皆、再会を喜ぶように会話に花が咲く。なんだか、オラリオに来る前に久しぶりに会いに来てくれたときみたいだけど、少し違うというか・・・なんだか、新鮮なものを見ているようで不思議と僕も口元が笑っていた。

 

「そんなことないわ、輝夜。帰ってきてくれた者の無事を喜ぶ、それに神も子も関係ない。ましてや今まで行った事もない階層。眷属(あなた)達が誰1人欠けずに戻ったなら、私だって新妻みたいなことをしてしまうわ。」

 

新妻・・・えっと、たしか結婚したばかりの・・・女の人のことを言うんだっけ・・・・・新妻?誰が?・・・・アストレア様が!?

 

「に、新妻・・・アストレア様が・・・!やっべ、そこはかとない背徳感が・・・!!」

「え・・・・そ、そんな!?」

「なぜ貴方は興奮しているのですか、ネーゼ。そしてなぜ貴方はショックを受けているのですか、ベル」

「だ・・・だって!?」

 

だ、だだだ、誰と!?い、嫌だ!?

 

「ふふっ、大丈夫よベル、どこにも行かないから。・・・それより、疲れたでしょう?お風呂にする?それとも食事かしら?」

「あるいは・・・新妻(アストレア)様でございますかぁ?」

「なっ!?かっ、輝夜っ、貴方はっ!?」

「あらあら~?今、何のご想像を?潔癖で高潔で下ネタなど無縁だと澄まし顔をしているエルフ様ともあろう者がぁ?」

「き、貴様ぁ・・・!」

 

そういえばさっきからどうしてアリーゼさんは黙っているんだろう・・・すごい笑顔なのに何も喋らないし。でも僕のほっぺを触る手は止めないし。すごく、あの、くすぐったい。

 

「じゃあ、私はまずはお風呂を頂こうかしら!そうだ、アストレア様も一緒に入りましょう!お風呂もアストレア様も・・・そしてベルも私が堪能するわ!!」

「へっ?」

「「「!!?」」」

みんな驚いているし・・・いつの間にやら僕は小脇に抱えられている?あれ、本当にいつのまに?アストレア様を見てもニコニコしているし・・・・。

 

「あらあら・・・やっぱり誰もアリーゼには敵わないわね。」

「さぁ、アストレア様・・・ベルも一緒に!」

「えっ?・・・・えっ!?」

「何よベル、今更恥ずかしいの?嘘でしょ?さぁ・・・お風呂が私たちを待っているのよ!!」

 

あっ、お風呂とご飯済ませたら反省会して、情報の整理するから!そう言うとアリーゼさんはものすごいスピードでお風呂へと直行するのだった。他のお姉さん達はその勢いに口を開けたまま固まってしまっていた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。