兎は星乙女と共に   作:二ベル

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カサンドラのお告げを書くのが難しい。

「アポロンあほすぎん?」な感じになってますが、許してください。いや、ほんと。

暗黒期にアポロンファミリアは存在しなかった前提です


炉の女神

生ぬるい雨が降り注ぐ。その雫を飲んだ者達はたちどころに酔い潰され地に這い蹲るだろう。

尾のように振り回されるは銀の檻。やがて火を帯び近づく者達を悉く暴風とともに焼き尽くすだろう。

白き獣が進む後に残るは砕け散った鉄の道。

宣言とともに訪れる夜を覆すことなど叶わず、絶望が産声をあげる。

『太陽』は黒く染め上げられ、砕かれる。

あらゆる戦士達は地に平伏し、立ち上がる力を奪われるだろう。

抗うな、絶望しろ。我は汝らを陥れる恐怖の化身なり。

 

 

夢を見る。恐ろしい、夢を見る。明るい空は、突如として夜へと変わり、仲間たちは地に這いつくばっていた。抗おうとする者たちは鉄の檻で意識を刈り取られ、私たちの象徴たる『太陽』は砕かれる。その悪夢を回避する手段を考える時間すら与えないように、私は空を、『太陽』をまるでそうするのが当然だとでも言うように直視してしまう。そこにあるのは、太陽などではなく、真っ黒な太陽だった。温かみなどなく、ただただ私たちを『冷たい瞳で見つめている』。眼が合ってしまったが最後、私たちは自分達ですら共有できない絶望に苛まれ、全てが終わるのだ。逃げようとする私の目の前に現れるのは、恋人がするように指を絡めて手をつなぎ、鼻と鼻がくっつくのではないかという距離まで顔を近づけた『真っ黒な何か』でその何かは私にこう、語りかけるのだ。

 

「―――告げてやろう。今の貴様に相応しき言葉を。」

「―――脆き者よ、汝の名は■■■なり。」

 

そこで私は悲鳴を上げて、夢より覚める。

 

「――――――――――――ッッ!?」

 

声にならない悲鳴を上げ、カサンドラは飛び起きる。喉を裂けんばかりに震わせ、眼球を剥き、大粒の涙を目じりに溜めながら。

 

「はっ・・・はっ・・・は・・・!?」

吐息の破片が耳朶を震わす。

寝汗で服はぐっしょりと濡れて肌に張り付き、女性らしい体の線が浮き出ていた。もしここに、彼女の寝室に男がいたならば、征服欲にそそられていたことだろう。もっと、彼女の顔色を見てもその欲を抱けるのであればの話だが。やがて込み上げてくるのは吐き気で、部屋の中にあった桶へと吐瀉物をぶちまける。

吐き気がおさまっても、震えが止まることはなく、彼女の悲鳴を聞きつけて『何事!?』と彼女の友人が部屋へと飛び込んでくる。友人は彼女の様子があまりにもおかしいことには気づいてはいたが、夢の話は信じてはくれず、『その汗を流して、体を温めれば気分も良くなるわよ』とそう言うだけだった。体は汗でベトベトで、口の中は酸の味が残っている・・・気分をリセットさせようと何とか彼女は部屋を出て、浴場へと向かうのだ。

そんなとき、ふと、『あの黒いのは何だったんだろう・・・』と思いいたり、薄暗い部屋へと視線をめぐらせる。

 

「だ、誰もいない・・・よね・・・?」

 

もっとも、誰もいないのだが。それでも、『怖い話をした後は、誰かに見られている気がする』などという話のように、いやな気配だけが、カサンドラの思考を乱していた。

それが、これから起こる戦争遊戯のできごとだということにも、今はまだ、気づかない。

 

■ ■ ■

 

「えー・・・・みなさん、おそろいのようですが、言わせていただきます。アポロンがやらかしたでー!!」

 

【ロキ・ファミリア】本拠、黄昏の館の食堂でロキが酒の肴にするように眷属達に知らせる声が響いていた。

 

「ンー・・・ロキ、『やらかした』とは何のことだい?」

「我々に報告するほどの事なのか?」

「やけに楽しそうじゃの」

 

小人族の団長、王族妖精の副団長に酒好きドワーフに続くように似たり寄ったりな反応を示す眷属達。主神ロキはニヤニヤとした顔をしながら、「ふふふふふ、ホンマ笑えてくるで!」と前置きしながら、すぅーっと息を吸い大きな声で宣言する。

 

「アポロンファミリアが!アストレアファミリアに!戦争遊戯を申し込みおったでぇ~~~!!」

 

その言葉のあと、訪れるのはほんの僅かな静寂。

「戦争遊戯ってなんだっけ」

「えっと・・・なんだっけ」

「戦争遊戯は戦争遊戯よ」

「へぇー・・・で、どこが?」

「神アポロンが」「神アストレアに」「喧嘩を売った」

「「「「へぇ~・・・・」」」」「「「「は?」」」」

 

そこから飲み物を含んでいた団員の何名かが「ブフーッ!?」と吹き出し、主神は腹を抱えて大笑いし、副団長のリヴェリアに殴り飛ばされる。眷属達は騒ぎ出していた。

 

「えっ!?アストレア・ファミリアって、ガネーシャファミリアと同じくらい、その、オラリオを守ってる人達でしょ!?」

「アポロンファミリアの団長はLv3で、アストレアファミリアの団長はLv6!!数では劣っていても、そもそも勝ち目ないでしょ!?」

「「「馬鹿じゃないの!?」」」

「ていうか、何でそんなことになってんの!?」

 

数は確かにアポロン・ファミリアの方が多い。それでも、団長でもLv3。それに対してアストレア・ファミリアの団員数は12。団長はLv6、副団長はLv5にベル以外を除けば最低でもLv3だ。それ以前に、正義の派閥に喧嘩を売るというのは・・・オラリオの住民さえ敵に回すも同義なのでは?と誰もが疑問をいだいた。ただ2人の眷属と主神を除いて。だから、アマゾネスの少女、ティオナが聞いた。

 

「アイズー、昨日、ロキとアポロン・ファミリアの神の宴に行ってたんでしょ?何があったのー?」

「ベートも何か知ってるわよね?何があったのよ」

 

アイズはどう説明しようかと少し考え、ベートは面倒くさそうに舌打ちをして言葉を放つ。

「・・・・兎がキレた」

「ベル、全然見かけないから、ロキに宴に連れて行ってもらったんだけど・・・いなくて、えっと・・・」

 

そうしてアイズの口から放たれる一部始終。

女神アストレアと共に神の宴に現れたのは、ドレスに身を包んだアリーゼだった。アイズが全然姿を見せないことをアリーゼに聞くもアリーゼはニコニコと微笑むだけ。あえて口を開いたかと思えば「ねぇねぇ、私のドレス姿どう?ベル、褒めてくれなかったのよ。私ショックで・・・」と言うだけ。やがて、時間は過ぎて神アポロンは女神アストレアに

『やぁ、アストレア、先日は私の眷属が世話になったね』

『ええ、こちらこそ』

『私の子は君の子に重症を負わされた。その代償を払ってもらいたい』

『・・・重症?』

そうして、現れるのは全身を包帯でぐるぐる巻きにしたミイラ状態の小人族のルアンに同じく、腕や頭等に包帯を巻きつけた数人の団員だった。アポロン共々演劇のように騒ぎ立てワザとらしく泣く素振りを見せる。それに対して、アリーゼは待ってましたとばかりに指をさして笑いものにしたのだ。

 

『あっははははは!アポロン様!これは何の冗談ですか!?あなたのところは団員数が多いのに、碌に治療をしてあげられないほど資金に困っているんですか!?ポーションを使うのすら躊躇うほど困窮しているんですか!?それでパーティを開いたんですか!?第一、全員ベルが手を上げるまでもなく吹き飛ばされたらしいじゃないですか!!ふふふ・・・・あっははははは!!』

『笑いすぎよアリーゼ』

『いやぁーだってぇ』

 

アリーゼの発言と共に、そのほかの神々も眷属達も笑い声を上げていき、アポロンは赤っ恥をかかされていた。

『それで、アポロン?・・・代償というのは?』

『・・・・ベ、ベル・クラネルを貰い受ける!』

『断るに決まってるでしょう?』

『ならば・・・戦争遊戯を申し込ませてもらおう!』

『・・・・いいわよ。ただし、あなたが宣言した今、この場にいる神々を証人として『戦争遊戯の取りやめ』は一切、認めないわ。』

 

ロキはそのアストレアの言葉を聞いて、『うわ、めっちゃキレとる。絶対逃がさへんって言っとるわアレ』とアイズにだけ聞こえるように言葉を零した。

『それで、どういう形式でするのかしら?当事者同士でする?それとも、全団員で?』

『・・・・当事者同士で行おう。君のところはベル・クラネルとリュー・リオン。それで間違いないね?』

『ええ、もちろん。ああ、ヘスティアの子とヘファイストスの子を入れる。というのもあるわよ』

『えっ、ヴェルフも!?』

『おい!巻き込むんじゃないやい!サポーターが戦えるわけないだろう!こっちはタッパに詰めるのに忙しいんだ!おい、リリルカ君!もっと入れるんだ!』

『これ以上恥をかかせないでください!』

 

そうして、早々に話は流れるように進んでしまったらしい。『アポロンに宣言させた』『撤回は認めない』というアストレアに『私の団員は全員、あの場にいた』『こちらが勝った場合はベル・クラネルを頂く』『私が負けた場合は好きに要求すればいい』と言ってのけたらしい。どの神々も『えっ、あいつなんであんな自信満々なの?』『あいつ、えっ、もしかして、知らないとか?』『いやいやいやいや』という反応だったとか。

 

「・・・・という感じ、です」

「あー・・・えっと・・・」

「アストレア様が怒ってるってのはわかったわ」

 

一通りの説明が終わり、ほんの少し沈黙が訪れ、また言葉がポツリポツリと出てくる。

「ンー・・・・ロキ、確認なんだけど・・・神アポロンはひょっとして」

「ん?おお、気づいてへんで?まぁ、あの子、アリーゼたんの趣味で髪切らせてもらえんくてアイズたんと同じくらいあるしなぁ・・・・エンブレムが隠れて見えなくてしゃあないっちゃぁ、しゃあないわなぁ。まあそれでも間抜けすぎるけど」

「それで、事の発端であるベル・クラネルには何があったのだ?」

「簡単な話、『家族を侮辱された』ことと『アルフィアの墓を荒そうとした』ことやな!」

「・・・待て、私は直接訪れてはいないが、確か女神アストレアが土地ごと購入した廃教会があると聞いたが?そこのことか?」

「せやで」

「・・・・馬鹿なのか?」

「馬鹿やろな」

 

満場一致であの子がキレるわけだ・・・と納得する。そして、【静寂のアルフィア】を知らないのをいいことに付け上がったな。とアポロン・ファミリアがどうなるかについて全員が似通った結末を想像していた。まぁ、彼がどう戦うのかは確かに気になるが。実際戦っているところを知っているのは、アイズ、レフィーヤにリヴェリア、偶々出くわしたベートくらいだ。

 

「それで、ロキ、どういう形式なんだい?」

「確かー・・・『攻城戦』やで。アストレアんとこが『攻め』アポロンとこが『防衛』やな。大将が討たれたら確実にどっちかが敗北や」

「「「終わったな」」」

「え?どういうことですか?リヴェリア様」

「なんだ、知らないのかレフィーヤ。あの子の魔法を」

「えっと、見えないってことくらいしか」

「あの子の魔法は、『魔法の余波』がその場に残り続けて付与魔法の性質をその場に残す。それは唱えた数だけ威力が上がる。ということはだ、スペルキーを唱えるまでに拠点中に魔力がとどまると・・・」

 

ボンッ!!だ。とリヴェリアは説明する。つまり、攻めようが守ろうが変わらない。むしろ、防衛側に回った場合、敵が来るまでに魔法を放ち続けて起爆してしまえばいい。数の暴力など知ったことではないのだ。

 

■ ■ ■

 

「・・・・あの」

「なんだい?ベル君」

 

僕はどうして今、じゃが丸君の神様とじゃが丸君を売っているんですか?と思わず質問してしまう。あの後、ホームに戻ってアストレア様と眠っていたと思ったら目が覚めるとそこにいたのは輝夜さんで、アリーゼさんとアストレア様は出かけてしまって神の宴もあって数日留守になると伝えられた。少しショックだったけど今の、怒りに身を任せて問題を起こした僕を見られるよりは良いのかな・・・なんて考えて蹲っていると、溜息をついた輝夜さんに小脇に抱えられ、朝風呂に入れられ、朝食をとらされた。皆僕を怒ると思っていたのに、放たれたのは

 

「「「おはよう」」」

「「「体は大丈夫?」」」

という、いつもの言葉だった。僕は何度も『ごめんなさい』を繰り返して朝食をとって、今度は輝夜さんに手を引かれて外に連れ出されて、じゃが丸君の神様の前に何故かいた。

 

「少し、この神と一緒にいろ。あれだ、カウンセリングというやつだ」

「輝夜さんは?」

「近くにいる」

「・・・置いて帰らない?」

「ああ」

 

そうしてじゃが丸君の神様にじゃが丸君作りを教わっては手伝わされていた。じゃが丸君1つが30ヴァリスに・・・小豆クリーム味が40ヴァリス・・・。これが・・・・これが・・・

「これが、じゃが丸君の神様が司っている『眷属を増やす種』・・・」

「おい!僕はじゃが丸君の神様じゃないぞぉ!?僕がじゃが丸君の神様なら、タケだってそうだ!!僕の名前はヘスティアだぁ!!・・・というか、その、『じゃが丸君を食べると眷族になる』ってのは冗談だからいい加減忘れてくれぇ!!おばちゃんに怒られる!!」

「じゃあ・・・土下座を司る神様?それに、タケ?」

「タケは、タケミカヅチさ!君が助けた冒険者のファミリアの主神だよ。・・・おいちょっと待て。土下座を司る神様ってなんだ!?聞き捨てならないぞ!?」

「えっ、だって・・・『雨だろうが関係なくヘファイストスファミリアのテナント前で叫びながら土下座をしていた』って。ロキ様が」

「あんのロキィィィィイ!!落ち込んでいる君を自棄酒に誘ってやった僕の恩を仇で返したなぁ!?よし、ベル君!覚えておくんだ!!ロキはね、『台所を司る神』なんだよ!」

「・・・台所?」

「ああ!だから、ロキに何か言われたらこう言ってやりな『ふっ、あなたは早く台所に帰るんだ。食材たちが貴方の上で捌かれるのを待っているぜ』ってね!」

 

ヘスティア様は親指を立てていい顔をして、僕にそう言った。すると『くっちゃべってないで、働いて頂戴!ヘスティアちゃん!!』とおばちゃんから雷が落ちて、ヘスティア様は謝りながらいそいそと仕事を再開する。そして今度は真面目な口調で僕にお悩み相談というか、お喋りを促してきた。

 

「アポロンのところにちょっかいを出されたらしいね。リリルカ君から聞いたよ、君が今まで見たことないくらい怒ってたって」

「・・・リリ、怖がってなかったですか?」

「いや、あの子は強いぜ?元いた環境が環境なだけにね。むしろ君の事を心配していたよ、顔も見せないからって」

「・・・・会いづらくて」

「何があったか、聞いていいかい?」

 

僕はヘスティア様に、リリ達に話したことを同じように説明した上であの酒場で『会いに来てくれて迎え入れてくれたアストレア様を侮辱された』ことと『お義母さんのお墓がある大切な場所を汚されそうになった』こと、それで自分でもわからないくらい頭に血が上って他に人がいようがお構いなしに魔法を使ってしまったことを話した。ヘスティア様は僕が話を終えるまで、作業を止めることなく黙って聞いてくれて僕が口を閉じると今度はヘスティア様が口を開いた。

 

「まったく、アポロンも馬鹿なことするね!無理な引き抜きをするために、子供を追い詰めるなんてね!いいかいベル君、君は何も間違ったことなんてしちゃいないぜ!怒って当然さ!!むしろよくやった!僕が褒めてやるぜ!」

「でも、アストレア様達に迷惑をかけました。」

「それの何がいけないんだい?」

「・・・・え?」

「家族を馬鹿にされて怒らない子はいないぜ。何より、『子供が親に迷惑をかける』なんて普通のことさ。最初から『良い子』な人間なんていないよ。君達は成長する、だから、今はそれでいいんだよ」

「・・・・でも、お義母さんは僕を置いていなくなりました。それは、僕が良い子じゃなかったからじゃ?」

「さぁ、それは僕にはわからない。だって、僕は暗黒期が終わってから降臨した神だからね。『大変だった』くらいにしか聞いてないんだ。もし仮に僕が暗黒期にいたら、子供達に泣きついて一緒に引きこもっていたか後ろ指を指されるのを覚悟でオラリオから逃げ出して田舎暮らしをしていたかもしれない」

 

黙りこくる僕に、さらにヘスティア様は「でも」と言葉を続けていく。

「でも、少なくとも君のお義母さんは君を置いていってしまったことを後悔していたから、アストレアに託したんじゃないか。君が羽織っているその『ヘラのローブ』だってそうだ、このオラリオでそんなのを持ってるのは君だけだし、何より君が堂々とそれを着ることができるのはアストレアの眷族たちのおかげだろう?君がオラリオに来るまでの間に、動き回ってたって聞いたぜ?『人殺しの子供』?はっ!知らないね!!僕の目の前にいるのは、『倒れた女神に抱き縋って泣き喚く寂しがりやな優しい子供のベル・クラネル』だぜ!?アポロンの言った言葉なんて、オラリオの誰が気にするんだい?むしろアポロンを指差して笑うだろうぜ。『だからなんなんだ?あの苦しい時代を知らないお前が語るな』てね!!だから、君は堂々と笑っていればいいのさ!」

 

不思議なことにあの時代で子供の犠牲者は少なかったらしいぜ。とヘスティア様は言葉を発するのを終えた。僕は思わず目を丸くして、おばちゃんの方を見るとおばちゃんも「どうでもいいね、そんなこと」と肩を竦めて笑っていた。

「僕は・・・・怒っていいんですか?」

「それが当然の権利だ。君は間違っていない。アストレアだって顔には出さないけど、怒ってるんだぜ?」

「僕は、あの人たちと一緒にいていいんですか?」

「当たり前だろう?君の家族なんだから。いつもみたいに、泣いて笑っていいんだぜ。仮に君がオラリオにいられなくなったとしても、アストレアは君と一緒に出て行くだろう。絶対手放さないさ、ベル君!『家庭に温もりを与える竈の女神』が保証してやる!」

 

その言葉にポロポロと涙を流して、僕はヘスティア様に「はい!」と言って精一杯の笑みを向けた。ヘスティア様も僕に笑みを向けてくれる。

「ひょっとしたら、アストレアと出会ってなかったら、僕の眷属になっていたかもしれないね。君は」

「・・・でも、僕はアストレア様が大好きです」

「かー――っ!!甘っ!!僕もリリルカ君に言ってもらいたいね!!あの子ったら僕に『眷族の1人や2人勧誘して来い!!』『サポーターの稼ぎ舐めんな!!』『毎日じゃが丸君とか地獄か!?』って言うんだぜ!?」

「ははっ・・・でも、仲良さそうですよ?リリ、いつも楽しそうですし」

「まぁ・・・否定はしないよ。ハハハ!!」

 

笑いあって、マスコットキャラでもあるヘスティア様に巻き込まれて僕まで女性冒険者に頭を撫でられたりしてヘスティア様のバイトの時間が終わって僕も輝夜さんが迎えに来てくれて帰ろうとする。そのときに、最後だけヘスティア様が僕に向き直って親指を立てて伝えてくる。

 

「君の怒りは当然の権利だ。だから・・・・あのアポロンに痛い目みせてやってくれ!ブチかましてしまえ!」

「・・・・はい!僕、頑張ります!」

「その意気だ!僕は全財産を君に賭けるからね!!」

 

賭けのことはよくわからないけれど、輝夜さんと手をつないで夕日を浴びながら帰路に着く。重たかった足は軽くなって、気持ちも少し軽くなった。そんな僕を見て安心したのか輝夜さんも少し微笑んで僕の手を強く握る。決して手放さないように。

「輝夜さん・・・」

「ん?」

「僕、頑張ります」

「ああ、頑張れ」

「・・・はい」

 

ひとまずの目的は、アポロン様に僕の怒りをぶつけてやろう。

そう思って僕は、ドン引きするヘルメス様に頼んでアルテミス様とヘラお婆ちゃんにはじめて手紙を送った。お義母さんの言い付けどおりに。

 

 

『いいかベル、変な神にちょっかいを出されたら、ヘラにチクれ。アルテミスでも構わん』


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