淫都迷子兎
「ベル、ランクアップおめでとう」
「・・・エヘヘ」
「こっちがLv2の最終と、こっちがLv3ね」
ベル・クラネル
Lv.2
力:SS1088
耐久:SS1029
器用:SS1094
敏捷:SS1099
魔力:SS1090
幸運:I
↓
ベル・クラネル
Lv.3
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
幸運:H
魔防:H
<<魔法>>
【サタナス・ヴェーリオン】
詠唱式【
自身を中心に不可視の音による攻撃魔法を発生。
※星ノ刃アストラルナイフを持っている事で調整され自由に魔法を制御できる。
擬似的な付与魔法の効果を与える空間を作成。
魔法の影響を受けた物質は振動する。
スペルキー【
周囲に残っている残響を増幅させて起爆。
唱えた分だけ威力が増加する。
【
□詠唱式【天秤よ傾け――】
対象との武器もしくは、詠唱済み魔法を入れ替える。
魔法のみ登録可能。
登録可能数×残り1
登録済み魔法:アガリス・アルヴェシンス
※登録する場合、詠唱式、効果を把握している必要がある。使用後、登録は消える。
□【天秤よ傾け、我等を赦し全てを与えよ】
一定範囲内における自身を含む味方の全能力を上昇させる。
□【天秤よ傾け、罪人は現れた。汝等の全てを奪え】
一定範囲内における自身の敵対者の全能力を低下させる。
■追加詠唱
【天秤は振り切れ、断罪の刃は振り下ろされた。さあ、汝等に問おう。暗黒より至れ、ディア・エレボス】
範囲内における敵対者の戦意を大幅低下(リストレイトに近い状態にする)。
※効果時間5分。
「『魔防』・・・・まぁ、自分から魔法の中に飛び込んだりしてたら、必要よね」
「アリーゼさん、怒ってる?」
「怒ってないわ!怒ってないけど、お願いだから自殺行為みたいなことはやめてよね?」
「ぁぃ・・・・ほ、ほっぺ痛い・・・」
戦争遊戯から2ヶ月ほどたったこの日、僕はランクアップを果たした。どうやら、戦争遊戯でのLv3のヒュアキントスさんとの戦いは【偉業】としてカウントされなかったらしい。アリーゼさんと輝夜さんからしたら『まぁ、お前のポテンシャルとか考えれば当然だろ』ということらしく、さらに分かったことは、【ディア・エレボス】を使用してからの5分間、僕には一切の
『アポロンの眷属達・・・正確には魔法の影響を受けた子たちも
ということらしい。よくわからなかったけれど、とにかく
「ほぉーこれがオリオンのスキルにアビリティか・・・・すごいな、これは」
「魔法を登録するって入れ替えてから使用しないことが条件だったなんてねぇ・・・しかもその後使用するには詠唱しなきゃいけないって、面倒くさいわね」
「あ、あの・・・」
「まぁ、基本的に入れ替えて使ってるみたいだし問題ないんじゃないかしら?」
「えっと・・」
「オリオン、背が伸びたな。そして相変わらず白いな」
「うぅぅ・・」
「何よベル、顔真っ赤よ?」
「だ、だって・・・僕まだ服着てないのにアリーゼさんもアルテミス様もアストレア様もさっきから背中ペタペタしたりしてくすぐったいんですぅ!!」
そう、ステイタス更新のために僕は今、上半身裸でうつ伏せになっているのに、僕に跨って座っているアストレア様にその左右に座るアルテミス様とアリーゼさんに横腹をつつかれ、背中をペタペタとされたりつーっとなぞられたりして、それはもう悶絶していたのだ。だって、戦争遊戯以降に輝夜さんに貪られてから耳を甘噛みされたり悪戯が増してきて敏感になっているのだから!
「ふふふ、ベルの反応が可愛くてつい・・・」
「何だオリオン、嫌だったのか?」
「うぅぅぅ・・・アルテミス様は、いつまでオラリオに?」
「今は眷属達がダンジョンに行っているからな・・・明後日には出て行くつもりだぞ?」
「ずっとオラリオにいればいいのに・・・」
「そう言うなオリオン、オラリオの外にもモンスターはいるんだ。誰かがやらなくては」
「・・・・はぁい」
「それにアポロンのこともある」
「「あぁ~」」
アルテミス様が言うには、あの日以降、オラリオの外では怒号、悲鳴、雷鳴、爆撃音とそれはもう、五月蝿いらしく、「ヘラが『ヘラ・ファミリア式、チキチキランクアップするかもブートキャンプ』とか言っていたぞ」などというイベントに発展してしまっているらしい。お義母さんにチョッカイだされたらチクれ。って言われたとは言え、僕の産みのお母さんの延命のために動いてくれたと聞いていたから、そこまで怖いことはしないだろうと思っていたけれど、僕の予想ははるか斜めへと向かっていたらしい。拝啓お義母さん『ヘラ式、チキチキランクアップするかもブートキャンプ』って何ですか?モンスターに陵辱されろとかそういうことですか?
「ま、まぁ・・・
「に、二次被害起きてないよね!?大丈夫だよね!?」
「・・・・大丈夫よ、きっと。アレスは強いもの」
「あいつはアホだぞ?」
「アルテミス・・・そういうことを言ってはいけないわ」
「ふむ、そういうものなのか?」
「あれでも子供達には慕われてるみたいだし」
その後、一頻り僕の頭を撫で回すのに満足したアルテミス様は「ヘスティアの所に行って来る」と言って出て行ってしまった。
「・・・ところで」
「どうしたの?ベル」
「お義母さんのお墓・・・教会が賑やかになっている気がするんですけど」
「・・・アルフィアのことを知る人がお墓参りに来ているだけだから、安心してちょうだいベル。」
「この間行ったらアーディさんが寛ぎながらティオナさんと【アルゴノゥト】読んでたのはビックリした・・・」
「け、警備がてら掃除を頼んでいたんだけどね。でもいいじゃない、綺麗になって」
「う、うん。」
戦争遊戯以降、【静寂のアルフィア】の墓があるとお義母さんのことを知る数少ない人達はお墓に立ち寄るようになったらしく、掃除をしに行ったらリヴェリアさんがいたり、ロキ様が『酒おちてへんかな~って思って』と言ってやってきたり、リリが『日ごろお世話になっているので挨拶に』とやってきたり・・・と、まぁ、少しばかり賑やかになっていた。
■ ■ ■
夕方、僕はある男神様と一緒に南のメインストリート、繁華街に来ていた。
曰く、たまには男だけで飲みに行こうぜ!ということで声がかかって、アストレア様に了承を得て連れ出された。大劇場や賭博場といった巨大かつ派手な建物が並ぶ大通りは、身なりのいい商人や冒険者、更には神々でごった返していた。
「知ってるか【涙兎】、グラン・カジノっつー賭博場のオーナーは女をはべらせてVIPルームで見せびらかせてくるらしいぜ」
「グラン・カジノ?モルドさんよく行くんですか?」
「ふっ、俺達もゴールドカードを手に入れるのに金をつぎ込んだもんよ・・・!この間の戦争遊戯では稼がせてもらったからな!行きたくなったら連れて行ってやるぜ!大人の世界によぉ!」
「お、大人の世界・・・!」
いつぞや18階層で酔った勢いで絡んできたモルドさんはいつの間にやら僕の知らないオラリオを教えてくるようになった。どうやら気に入られてしまったらしい。たまにファミリアのお姉さんたちに殺気を飛ばされているけど。女の人を侍らせてるってことは・・・ハーレムなのかな?オラリオではハーレムが許されるんだろうか。
「ベル君はもう女の子には困ってないと僕は思うなぁ・・・ハハハ」
「ヘルメス様、何でそんな疲れてるんですか?」
「いやぁ、ファミリアの仕事が多すぎてね。アスフィから逃げるのに苦労したよ」
「大丈夫なんですかそれ・・・」
「ハハハハハハ」
「本当に大丈夫なんですか!?」
繁華街で飲み屋でいつもとは違う時間を過ごし、そろそろ帰ろうかという頃合になったときに、ふと視界に見覚えのある女性の影が映った。
「どうかしたのかい、ベル君」
「えっと」
「スキルに反応でも?」
「ここまで人が多いとスキルで探知なんて無理ですよ。なんていうか、今あそこの角を知り合いが曲がっていくのが見えたんです」
「うーん・・・・悪い、モルド君!俺達はこれで失礼するよ。また機会があれば飲みに行こうぜ!」
そう言って僕とヘルメス様はモルドさん達と別れて、僕が見た場所へと向かった。するとそこにいたのは【タケミカヅチ・ファミリア】の命さんと千草さんの姿が。なにやら神妙な顔で頷き合いその場から離れていき、やがて薄暗い小径の先へと進んでいく。
「あれは・・・タケミカヅチの子だね」
「何をしているんでしょうか?」
「この先は・・・まさか・・・!タケミカヅチ、そんなに金に困っているのか?」
「ヘルメス様?」
「ん?あ、ああすまないベル君!なんでもないんだ。だが・・・この先は・・・」
「?」
「ベル君には早い・・・いや、もういいのか?だが下手なことがあっては俺の身が・・・」
「ヘルメス様?」
「ベル君、君は女の味を知っているかい?」
「はい!?」
「そ、その反応・・・まさか!?よし!俺は君を応援するぞベル君!!さぁ行こう!!大人の世界へ!!」
「えぇぇぇぇ!?」
何やら変な勘違いをしたのか、ヘルメス様は僕の背中を押し前へ前へと足を進めていった。そして、道が開けたところで現れた目の前の光景に、僕は固まった。現在地は都市の第四区画、その南東メインストリート寄り。地理的に隣接する繁華街とは打って変わって、場は雰囲気がまるで違っていた。建物の壁や柱に設置される桃色の魔石灯。数少なにぼんやりと輝く街灯に照らされるのは、艶かしい赤い唇や瑞々しい果実を象った看板、そして背中や腰を丸出しにしたドレスで着飾る蠱惑的な女性達。
「ヘ、ヘルメス様・・・ここって?」
アマゾネス、ヒューマン、獣人、小人族まであっちこっちで彼女達は道行く男性を呼び止めては魅惑的に、あるいは挑発的に微笑んでいる。あれ、なんだろう、この『行っちゃいけませんよ』と僕の心の中でアストレア様が指を立てて警告を出しているしあの女性達を見るといつも僕に悪戯をしてくる輝夜さんやアリーゼさんが被って見える・・・!?あっ!今度は手を取って、腰を抱き寄せて店の中に入っていった!?
「な、なんだか甘い匂いが・・・」
「ここが大人の世界なんだぜ・・・ベル君」
「大人の世界・・・あ、あの女の人たちは?冒険者ですか?」
「さぁ・・・一概に言えないね。でも、あの色気たっぷりの彼女達は『娼婦』っていうやつだぜ?」
「しょ、娼婦!?」
輝夜さんが言ってた!!『お前が私たちとしていることは、普通は娼婦にでも金を出さないとできないことだ』って!!そういうことなの!?あっ、心の中のアストレア様が『早く帰ってきなさい!!』ってご立腹だ!!ち、違うんですアストレア様、これは事故なんです!!
「み、命さん達はなんでこんなところに・・・?【タケミカヅチ・ファミリア】は借金でもあったんでしょうか?」
「俺は聞いた覚えがないなぁ~。でも、あんなに可愛い女の子がこんなところに足を運ぶ理由なんて、お金のために・・・ってことなのかな?」
「み、命さんはそんな人じゃないですよ!?ってアレ!?ヘルメス様!?ヘルメス様がいない!?」
気が付いたらヘルメス様がいなくなっていた。僕が1人で行動できないことを知っていて、だから『ちゃんと送り届けるから』って約束してくれたから付いていったのに!?どどどど、どうしよう!?
「さ、幸い暗くないから・・・と、とにかく、み、命さんと合流してみようかな・・・1人じゃ心細いし・・・」
仕方なく命さんと千草さんと合流しようと後を追っていると、時折2人に手を伸ばそうとするニヤけた大男が現れ、2人は半泣きで逃げだしてしまう。何とか後を追いかけるも人が多すぎて中々追いつかず、今までいた第四区画から大通りを横断して、第三区画入り口に来たあたりで僕は完全に2人を見失ってしまった。そしてそれに追い討ちをかけるように
『今からサービスタイムでーす!』と宣伝する娼婦の人達と男性客の波に呑み込まれ、僕は完全に道もわからなくなり迷子になってしまった。
僕は顔を右に、左に、何度も振るけれど、やっぱりヘルメス様も命さんも千草さんの姿はなくて、自分が通ってきた道もわからない。立ち並ぶ石造の娼館、抑えられた魔石灯の光、そして四方から聞こえてくる女の人の黄色い声に甘い嬌声。恩恵によって強化された聴覚が、耳を澄まさなくても建物や路上の隅から漏れる艶かしい声を拾ってしまう。
「ど・・・どうしよう・・・」
僕の脳内は、走馬灯の如く2人との会話が蘇った。
『あそこにベルが迷い込んだら一生でてこれないわ。あそこはね、女の皮を被ったモンスターがいるのよ。だからいっちゃ駄目』
『そうね、さすがにあんなところに行っては私でも見つけることはできないわ』
そ、そういえば2人がそんなことを言っていたっけ・・・こ、ここのことだったのかぁぁ!?そう気が付いても時既に遅し。もはや僕にとれる手段などなかった。人の多いところでは僕の探知スキルなんて役に立たない!というか、こんなところじゃ出口がわかるわけじゃないしネ!!
「ぼーく、迷子なの?」
「ひぃっ!?」
突然声をかけられ、思わず変な声が出て体を跳ねさせてしまう。
振り向くと、そこには美しい肌白の女性・・・色欲の虜になったようなエルフの娼婦が、微笑んでいた。深い切目の入った白の衣装に大きな胸、エルフに似つかない妖艶な雰囲気に・・・というか、エルフの娼婦がいるということに驚き声を失い思わず逃げ出してしまう。お姉さんの「あっ」という声が聞こえた気がしたけれど、今の僕にそこまでの精神的余裕はない!真っ暗じゃなくてよかったのがせめてもの救いだ!
―――うううう、ヘルメスさまぁぁぁ!!
右に左に何も考えず走り回っていると、さらにまた景色が変わり今度はお祭りを思わせる賑やかな極東風の建造物が両端を埋め尽くしていた。
「えっと・・・ゆ、遊郭って言うんだっけ・・・?」
お爺ちゃんが昔、極東にはそういう場所があるとか話していた記憶が掘り起こされたけれど・・・その話に出てくる特徴に合致していて僕はその独特な造りの建物群に僕は当たりをつけた。
「歓楽街は、沢山の国の建物が入り混じってできている・・・?」
そこで歩いている娼婦達は、輝夜さんが着ている極東の民族衣装の『着物』だということはすぐにわかった。広い路上の真ん中や脇には迷宮でとられたであろう蒼桜が植えられており、季節に関係なく美しい花を咲かせていて花びらは石畳の上に散らしていた。月光を浴びる蒼い桜の存在がこの遊郭は極東の模倣に過ぎないということを教えてくれる。その幻想的な桜に感嘆していると、不意にある光景が目に付いた。朱塗りの娼館の一階。通りに面した梯子状の大部屋に沢山の娼婦が並んでおり、その中にいた1人の女性と目が合った。
「・・・」
「・・・狐人?」
光沢を帯びる金の髪と、翠の瞳。髪の色と同じ獣の耳と太く長い尻尾、オラリオで初めて見る獣人の種別だとすぐにわかった。
鮮やかな紅の着物を纏っていて、他の娼婦達に場を譲るように部屋の隅で座している。細い首には、装飾品なのか黒い首輪がはめられていて、目が合った彼女は僕に向かって唇を淡く綻ばせ儚く微笑んでいて、僕にはそれがとても泣いているように見えてしまった。