旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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飲食店閉まるの早くなったお陰で帰りが遅いとものすごく困る。


地下へ行け

「オ―――オッタル!? なっ、何でお前がここにぃ!?」

目の前に現れるは、巌の武人。

その精悍な顔立ちから一切の表情を落としているその猪人は、静かにこちらへつま先を向ける。

 

「う、兎・・・兎はどこにいったぁ!?」

さっきまで戦っていたはずの、兎もアマゾネスも、そして自らが投げ捨てた狐人もそこにはいない。目の前にいるのは、感情さえ感じ取れない絶対的な強さを感じさせる武人。

 

指先は震え、悲鳴のような声を上げ、気圧され、怯える。

その武人は―――オッタルは一言も言葉を放つことはなくただ感情を持たずに顔をこちらに向けているだけだというのに。

その巨顔から冷や汗を滴らせ喉を鳴らす。

 

「そ、そもそも、なんでお前がここにいるってんだいぃ!?」

『殺生石』を使ってフリュネ等を強化し、異常魔法(アンチステイタス)や呪詛を重ねがけして限界まで弱体化させるオッタル対策まで取っているのに、計画以前に既に目の前にいるというのが理解できない。それだけのことをしなければ、この男を攻略するなど不可能だというのに。

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインを目の敵にすることができても、目の前の男にだけは反抗の意志は貫けない。防具も武器も何も装備していないというのに、重圧を撒き散らすあの武人には。【フレイヤ・ファミリア】団長、都市最強、オラリオ唯一のLv.7。・・・・勝てる気がしない。

 

 

「ぐ、ひっ・・・ぐぎぎ・・・!?」

徐々に接近してくるその存在に竦み、大戦斧の柄をぎしぎしと握り締める。その感覚はきっと、深層の階層主を前にした時と、同じだ。ウダイオスを1人で倒したアイズ・ヴァレンシュタイン?冗談じゃない。バロールを半殺しにして帰ってきたオッタルさん?おい、バロールに謝れ中途半端に残すな。やってられるか!最後まで責任持てこの猪!

 

魔法の効果でLv.6となっているフリュネには、前進するしか選択肢がなかった。魔法が切れれば、それこそ終わるから。怯え、臆し、背を見せればその瞬間に、惨殺されるから。

「ぐっっ、おおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

全身を咆哮させ、フリュネは自らを疾駆する。

右手に持つ大戦斧を高々と振り上げ、袈裟斬りを繰り出した。

 

「―――」

二つ名【男殺し(アンドロクノトス)】の通り、数々の冒険者を葬ってきたフリュネの渾身のその一撃に対し、オッタルはやはり無言のまま、無感情のまま、左手を伸ばし、斧の柄を握るフリュネの右手を、左手が受け止める。銀の大刃は肌に届きすらせず、その岩のような掌で拳を掴み取られた。

物凄まじい衝撃に体が僅かに沈んだオッタルの反応は、決まった動作を、作業をこなすようにするだけ。それで終わりだった。そして、そのまま、フリュネの右拳を柄ごと、握り潰す。

 

「ぎっっ・・・ギャァァァァァァァァァァァッッ!?」

 

骨ごと斧の柄を圧砕する音が、オッタルの手の中から放たれ、空間を震わせる。

右拳を砕かれたフリュネはしゃがれた絶叫を上げ、仰け反る。柄の折れた大戦斧が足元に落ちる中、オッタルはフリュネの巨体を半回転して後方に投擲する。腕一本。たった腕一本で投げつけ、石畳を滑空してごろごろと音を立てて転がる彼女の体は次の舞台に飛び込んだことでようやく停止する。

 

転がった先、目の前に立っているのは【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。Lv5になった頃の、かつて自身をボコボコにした13歳の姿だった。あり得ない、あり得ない!景色から先ほどあったはずの色素が薄れていき、目の前のアイズは自分のことを人として見てなどいなかった。

 

「なっ・・・何がどうなっているって言うんだいぃ!?」

 

そして降り注ぐは、デスペレードによる怒涛の乱打。乱打。乱打。乱打。乱打。かつて喧嘩を売り返り討ちにされた時のように、乱打。さらなる悲鳴と共に吹き飛ばされ、今度は風を纏って突っ込んでくる。その姿は16歳、Lv.6になった現在の姿。暴風と共に突き上げられ、上空に吹き飛ばされる。視界からアイズが消えれば次は、空中から衝撃が与えられた。

 

その足にはメタルブーツがあった。その顔には牙があった。灰髪をなびかせる狼人が、そこにはいた。その目は確実に獲物を殺すという意志が、怒りがあった。背後には・・・・満月があった。かつてメレンで、アイズとの戦いに割って入り、ロログ湖まで吹き飛ばした記憶が蘇る。

 

「ヴァ・・・【凶狼(ヴァナル・ガンド)】ォっっ!?」

 

色素が薄れた世界から、音が聞こえなくなった。

ベートからの踵落としによって、上空から地上へと叩きつけられる。巨体の重量に蹴りによる威力が加算され一気に地面へと落ち、石畳は陥没した。

 

「ぐ・・げ・・げぇ・・・!?アッ、アタイの美しい顔が、体があぁ~~~~ッ!?」

 

砕けた右手を振り上げながら自分を叩き落したベート・ローガを掴みかかろうとする。踏みつける石畳を爆砕しながら突進してくる女戦士は、今度は目の前に猪人の拳が現れ顔面中央にめり込み、また吹き飛ばされた。

 

「げへえっ!?」

 

何が起きているのか理解できない。猪人が現れたと思えば、剣姫。剣姫が現れたと思えば、姿が変わり、姿が変わったと思えば狼人が。3人相手どるという考えすらわかず、目の前の相手に敵意を向けようと攻撃を与えようとすれば、また景色が変わる。変わる。変わる。どこかの物陰で、黒髪の男がほくそ笑んでいる。そんな気さえしていた。

 

「だ、誰だ!?誰なんだい!?」

 

「【さぁ――知らんな】」

 

絶えず襲い掛かる暴風と暴力と脅威と重圧と激痛によってフリュネは涙を、涎を垂れ流し、手で顔面を腹を押さえた。でも、もう遅い。吹き飛ばされた先で、さらに舞台が変わっていた。

尻餅をつきながら必死に後退しようとするが、何か、振り返ってはいけないと思える何かがそこには、背後にはいた。

 

色素は薄れ、音は消え、気配は当たりに散りばめられ、常に何かに見られている錯覚が追加された。

 

震える体で振り返れば、そこには7人の人影があった。

猫人、白妖精、黒妖精、4名の小人族。そして・・・・猪人。いつのまにか剣姫も狼人も消えていた。

 

「【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】に、Lv.6ヘグニとヘディン、【炎金の四戦士(ブリンガル)】ガリバー兄弟だとォ・・・!?」

己を取り囲む存在を、都市最大派閥(フレイヤ・ファミリア)の最強戦力に囲まれ、フリュネは血の気が引いていき、戦意は跡形もなく喪失し、彼女の心の均衡はへし折れた。

 

「ヒッ、ヒイイイイイイイイイッ!?ゆっ、許しておくれよォ!?」

顔を、体を抑えながら、なりふり構わず命乞いを始めた。

「そもそもアタイが何をしたっていうんだァ!?こんなことされる謂れはないよォ!?だ、大体いつ現れたってんだいィ!?」

その言葉なぞ、聞こえもしないのか、彼らは表情も、感情もなかった。ただその辺の道に落ちている石ころにふと目がいった程度の視線でしかない。フリュネそのものを見てなどいない。

 

「な、何でもするっ、何でもするから助けてくれェ!?そ、そうだっ、体、体で払うよっ、アタイと寝させてやるから見逃してくれなよォ!?」

 

「【オイオイ、冗談だろう?・・・本気で言っているのか?】」

 

フリュネを囲む8つの影から殺意が募る。消えていた音が世界に戻る。色素も徐々に戻る。

 

「アタイ以外に素晴らしい女なんていないよォ!?この体にこの美貌、女神も裸足で逃げ出すってモンさぁ!こんなアタイを好き勝手にできるんだ、ほぅら、そそるだろォ!?」

媚を売るのに必死なフリュネは、その8つの殺気に気づかない。そして、最後の言葉が、舞台の幕を下ろす言葉が彼女から放たれる。

 

「あんた達の主神(フレイヤ)なんて目じゃないさァ!!」

瞬間。暗転し、世界から色が、自分を除いて消えうせ、己の口から言葉が消えた。もう、何も喋れなかった。

 

「貴様は我等の崇高なる女神を汚したァ!!」

比喩抜きで両目から真っ赤な眼光を放ちながら、怒りの大咆哮を上げる。周囲の7人も同じく憤激を爆散させる。

 

「貴様の辿る末路はただ1つ!!」

「死刑、死刑、死刑!!」

 

オッタルの大音声の後に死の斉唱が続く。顔面蒼白するフリュネは、体が縫い付けられたように動かない。断頭台で固定されたかのように動けない。徐々に狭まる凶戦士達の輪。

制止しようにも、彼女の口から言葉なぞ出るはずもなく、パクパクとさせるだけで、8つの影は巨女の体を覆い、刃を振り下ろした。

 

「う、うぎゃああああああああああああ!?」

 

「【――断罪の刃は、振り下ろされた】」

 

 

 

 

■ ■ ■

 

「・・・・・・」

 

フラフラとする体を、片膝をついて耐える。倦怠感と吐き気と寒気、悪寒が少年を襲う。

 

「大丈夫かい?」

「アイシャさん・・・はい、なんとか。それより、春姫さんは?」

「レナがエリクサーを飲ませた。もう大丈夫さ。それより・・・」

 

それより・・・と言ってアイシャは全身から汗という汗を噴き出し、泡を拭いて白目を剥いて倒れているフリュネを指差して言う。あれは、何を見せられているのか?と。

それに対して、ベルは首を横に振る。

 

「知りません」

「はぁ?知らないって、あんたの魔法だろう?」

「・・・相手が一番恐怖するもの。トラウマとかもありますけど・・・だから、対象によって見るものが違うから、分かりようが無いんです。」

「今のヒキガエルを殺した場合、経験値は入るかい?」

「・・・この魔法の効果が切れるまで、僕も、対象者も、一切の経験値は入りません。それは、対象者を倒しても同じです」

「春姫よりも厄介じゃないか。経験値が入らないだなんて」

 

ベルは体をふら付かせながら、意識が回復し始めた春姫の元にいき、もう一度片膝を付いて、左手を差し出す。顔色は悪いかもしれないけれど、それでも、安心してほしくて、笑みを浮かべて、手を差し出した。なんていえばいいのかわからず、少し迷って、そういえば、アリーゼさんが『こんなこと言われたら~』なんて言ってたっけ。と思い出して、口を開く。

 

「春姫さん・・・貴方を、助けに来ました」

 

春姫は目を見開き、瞳から涙を零し、笑みを浮かべる。そして、その言葉にはこう返すんですよと教えるように

 

「ありがとう・・・英雄様」

 

そう言って、二人で子供の様に屈託の無い笑みを浮かべ笑いあった。邪魔する神も、敵もいない。今だけは2人の時間とでも言うように、アマゾネス2人も黙って見届けていた。

 

 

 

 

「それじゃあ、3人・・・・でいいんですよね?」

「どこに連れて行くってんだい?」

「ベート・ローガのところ!?」

「アホ、黙ってな」

「えっと、ダイダロス通りを抜けたところで、【ガネーシャ・ファミリア】のアーディさん達が待機しているらいしので、そこで3人を保護してもうことになってます。2人だと思ってたけど・・・ベートさんが買ってる人なのかな?まぁ、いいよね1人くらい

「何か言ったかい?」

「いえ、別に。それより、僕が春姫さんを背負うんですか?」

「不満かい?そのへっぽこ狐の体が」

「「はい!?」」

 

別に背丈は大して違わないじゃないか。黙って背負いな。役得だよ役得。などと言ってアイシャとレナは先を歩き出す。ベルも春姫を背負って、フリュネが起き上がったりしないかと振り返り、2人の後を追う。背中の感触になんともいえない・・・いや、姉に見られたらそれこそ怒られるなんて思いながら、でも、いい匂いだなぁ・・・とか、尻尾をモフモフさせてもらえないかなぁ。なんて思いながら歩く。

 

「あ、あのクラネル様?」

「・・・ベルでいいですよ?」

「で、ではベル様?そ、その・・・これから私はどうなるのでしょうか?故郷には恐らく帰れませんし・・・」

「うーん・・・。知り合いはいないんですか?」

「うーん・・・そういえば、故郷の幼馴染が私がオラリオに来る前に旅立ったような・・・?」

「名前はなんて言うんですか?」

「えっと、ヤマト・命ちゃんです!」

「・・・・・」

「?・・・ベル様?」

 

「それであの時、命さんは歓楽街に入っていったのかぁぁぁぁ!?」と漸くそこで、ベルは理解した。故郷の友人が、娼婦をしているという噂でも聞いたのか、探し回っていたのだろう。てっきり、借金塗れになって体を売るしかなくなったのかと、もし本当だったら廃教会のおじさんの遺品でも・・・なんて少しでも考えていた自分が恥ずかしい!!なんて頭の中で叫び散らした。

 

――叔父さん、ごめんなさい!もう少しで叔父さんの遺品が、女の子の借金返済に使われるところだったよ!!

 

叔父さんはどことなく、「気にするな」と手を振っているようだった。背中が小さい・・・。

 

「そ、それなら、命さん・・・えっと【タケミカヅチ・ファミリア】に入るっていうのは?」

「ベル様は、どちらのファミリアなのですか?」

「僕ですか?僕は・・・【アストレア・ファミリア】ですけど」

「【アストレア・ファミリア】ですか・・・」

 

そう言って今度は、むむむ・・・と悩ましげに春姫はベルに背負われながら呻き始め、それを後ろ目で見ていたアイシャは「あのへっぽこ・・・」とどうしようもないものを見る目をしていた。やがてダイダロス通りを抜けたところで、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達とアーディの姿が見え、ベルは手を振る。

 

 

「アーディさーん!」

「っ!ベルくーん!!ぎゅってしていい!?」

「な、何で!?アリーゼさん達に怒られる!」

「大丈夫だって!はいぎゅーっ!!」

「うぁぁぁ!?」

「ふっ――。ご馳走様でした。」

「何が!?」

「それでは、ベル君。2人・・・あれ、増えてる。まあいっか、3人を保護させてもらうね。君はアストレア様が呼んでいるから本拠に戻ってあげて」

「じゃぁ・・・春姫さん、アイシャさん。また」

 

■ ■ ■

 

【アストレア・ファミリア】本拠、星屑の庭に戻ったベルは女神アストレアに『殺生石』について『イシュタルが関わっている何か』についてと、フリュネジャミールと交戦することになったことを報告した。資料に目を通したアストレアは『イシュタルが関わっている何か』の中にある文面を見て目を細めて、主神室の引き出しの中にある、かつて廃教会に『黒い魔道書』が入っていた箱を取り出して、中から『眼球のような形の玉』を取り出し、ベルに右腕を出すように言い手甲に填められている紅玉を取り外し装着する。

 

「えっ・・・アストレア様!?」

「に、似合っているわ」

「いやですよ!趣味悪いって言われますよ!?」

「い、いいのよ!と、とにかく、次の指示を出すわ!」

「えぇ~!?」

 

アストレアは目を瞑り、深呼吸をしてベルの両手を握ってゆっくりと目を開き、見つめて指示を出す。次の行き先を。『ダイダロス通り』が存在する南東、『旧式の地下水路』を進んだ先に向かいなさいと。

何があるのかと聞けば、首を横に振り、直接見ているわけではないからわからないけれど、アリーゼ達が出て行ってからまだ帰ってきていない。つまり、その先で何かが起こっている。だから、力になってあげてほしい。と。そして、女神イシュタルがそこにいるはずだから、捕まえるようにと。

 

「・・・・アリーゼさんは何を隠しているんですか?」

「行けば・・・わかるわ。ベルにとっては怖い場所かもしれない。でも、ベルにしかアリーゼ達を見つけられない。だから、お願い」

「わかり・・・ました・・・」

「皆で帰ってきたら、ちゃんと話をしましょう。だから・・・無事に帰ってきてね?」

「・・・はい」

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.3

 

力:E 433

耐久:E 440

器用:E 467

敏捷:C 656

魔力:C 670

幸運:H

魔防:H

 

<<魔法>>

 

【サタナス・ヴェーリオン】

 

詠唱式【福音(ゴスペル)

自身を中心に不可視の音による攻撃魔法を発生。

 

※星ノ刃アストラルナイフを持っている事で調整され自由に魔法を制御できる。

擬似的な付与魔法の効果を与える空間を作成。

魔法の影響を受けた物質は振動する。

 

スペルキー【鳴響け(エコー)

 

周囲に残っている残響を増幅させて起爆。

唱えた分だけ威力が増加する。

 

乙女ノ天秤(バルゴ・リブラ)

 

□詠唱式【天秤よ傾け――】

 対象との武器もしくは、詠唱済み魔法を入れ替える。

 魔法のみ登録可能。

 登録可能数×残り1

 登録済み魔法:アガリス・アルヴェシンス

※登録する場合、詠唱式、効果を把握している必要がある。使用後、登録は消える。

 

 

□【天秤よ傾け、我等を赦し全てを与えよ】

 一定範囲内における自身を含む味方の全能力を上昇させる。

 

□【天秤よ傾け、罪人は現れた。汝等の全てを奪え】

 一定範囲内における自身の敵対者の全能力を低下させる。

 

■追加詠唱

 

【天秤は振り切れ、断罪の刃は振り下ろされた。さあ、汝等に問おう。暗黒より至れ、ディア・エレボス】

 範囲内における敵対者の戦意を大幅低下(リストレイトに近い状態にする)。

 効果時間中、一切の経験値が入らない。

※効果時間5分。

 

 

 

ステイタスを更新し、ベルを力強く抱きしめ、多めにエリクサーを持たせ、アスフィが持ってきたゴーグルを装着させ見送る。すこし振り返ったベルはどこか不安そうではあったが、それでも、姉達が危ない状況なのだろうと、駆け出して行った。

 

 

「アリーゼは・・・やっぱり怒るかしら?でも・・・・少なからずあの子も踏み込み始めている。スキルのことも考えれば、あの子は絶対に有効打になる。巻き込みたくはないけれど・・・でも」

 

このままにしているほうが、何かまずい。そんな気がしてならなかった。

 

 

 

 

ベルがたどり着いた地下水路の先には、扉があった。そこに、1匹の白兎が踏み込んでいく。

 

 

■ ■ ■

 

 

「逃げろぉおおおおおおおおおおおおお!?」

ガレスはあらん限りに叫ぶ。全てを放り出して撤退しろと。ガレスの怒号を皮切りに冒険者達は一斉に出口の1つへ飛び込んだ。初動が遅れた下位団員達をアイズ、ティオナ、ティオネ、ベート、ラウル達第二級冒険者が服を掴んで強引に引き連れる。

 

「何アレ・・・・牛?」

「おいおいおい!?」

 

突如、超硬金属の破片を爆散させながら現れたその巨塊に、アイズ達、そして、アリーゼ達は息を呑んだ。衝撃波に背を殴られ吹き飛ばされ、床を転がり、何とか体勢を立て直し、直ちに後方へ振り向くと、巨大な輪郭が現れた。

太過ぎる強靭な四脚、雄々しくも捻じ曲がった巨大な双角、頭部から不気味な緑色に蝕まれる鋼色の体皮。見上げるほどの巨躯は肩高六Mを優に超え、生えている尾は途中から二股に別れており、先端は剣の様に硬く尖っていた。

紛れもなく『牛』の体型を象っておきながら、額にあたる位置には『女』の体があり、不気味な微笑みを浮かべていた。

 

「・・・59階層以外にもいたというのですか?」

「超硬金属の壁をブチ壊してきたんすか・・・・?」

 

リューとラウルの呟きがこぼれ落ちる中、第一級冒険者達は【ロキ・ファミリア】は【アストレア・ファミリア】はその既視感を、悪夢を思い出すように共通の答えを、その名を呼んだ。

 

 

 

 

 

「「『精霊の分身(デミ・スピリット)』」」

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