『
コツコツと硬い石畳を踏みしめる存在が1人。
ゴーグル、白い軽鎧、黒いローブを深く被り、ブーツを鳴らして進んで行く。
【
「石畳というより・・・何だろう、金属?これが、入り口にいたリヴェリアさんが言っていた『
ダンジョンとは何かが違う。これが人工物とは俄かには信じられなかった。あまりにもでかく、そして広いがために。
違和感を感じながら、ゆっくり、ゆっくりと進んで行く。
目を閉じ、探知範囲を可能な限り広げる。すぐ近くにはモンスターも人の反応もない。どちらかと言えばもう少し先。
「・・・・24階層の時の怪物に似ている?・・・誰かが戦ってる。アリーゼさんもリューさんも別々の場所。たぶん、他は【ロキ・ファミリア】。他にも・・・あちこちに?リヴェリアさんとロキ様が言っていた可能性の1つ『罠』による分断?」
ベルが進む道は何の問題もなく、不気味なほど静まりかえっていて何の問題もなく進めている。
ベルの元にやってくる気配も無い。不気味な静寂と、仄暗い重圧。そしてどこか薄ら寒い。ゴーグルがなければ進んでいる途中で動けなくなっているとすぐに悟る。
「とりあえず・・・とりあえず、目的を作ろう・・・・。ふぅー・・・アリーゼさんたちは何人か離れてる。そこには【ロキ・ファミリア】の人たちも一緒にいる。だから、とりあえずは反応が弱っているところに行くべき・・・なはず。迷路みたいで迷子になりそうだけど・・・最悪、ナイフで溶断しよう。」
未知の場所に、複数の反応。
きっと、最初は二手、もしくは三手に別れていた・・・入り口から少し進んだ当りで戦闘の後。たぶん、ここで敵と遭遇し、戦闘が始まった。
ダンジョンとは違うからモンスターが湧き出すことも無い。無限ではなく、有限。
さらに進めば落とし穴があった。幅5Mはある通路の随所には正方形の縦穴が開いていて、暗澹たる闇は遥か下方に続いていることを示している。
「・・・血?少し乾きかけてる・・・・?入って敵と遭遇して、怪物とも乱戦状態になった?それとも新手が出て、誰かがやられた?血が途切れ途切れで・・・たぶん、誰かが抱えて逃げた。あの穴の先には、血が無い。なら・・・」
その血を追うべき?でも・・・・他にも弱っている反応がある。
もう考えても仕方がない。仕方がないから・・・・ベルは、1つの手段を取ることとして、モンスターの反応がある場所へと突き進むべく、走り出した。すぐ近くにいた倒し損ねたのか弱っている水黽に似たモンスターと食人花を魔法で倒す。
「【
連続使用5連射。
ナイフはすぐさま熱を放ち、鏡のような刀身が赤くなっていく。そして、そのまま少し進んだ先の足元・・・床の先に空間があるのを感知して、溶断する。
「――――ハァッ!!」
■ ■ ■
「団長、しっかりしてください!」
悲痛な声が迷宮の一角に反響していた。
場所は『上層』の六階層ほどの所。赤髪の怪人達のもとから何とか離脱したラウル、アキ、他三名の団員と【アストレア・ファミリア】の数名は斬り伏せられたフィンの治療に当たっていた。
「駄目だラウル、傷が塞がらない!」
「どうしてっすか!?あんなに回復薬を使ったのに、なんで・・・・!」
道具を使用する団員の隣で、ラウルが取り乱しながら叫び散らす。いくら回復薬を使っても、床に寝かしつけられているフィンの傷は塞がることはなかった。赤い命の滴が今も小人族の体から零れ落ちていく。かろうじて生きてはいるが、それでもその小さな胸は浅く上下していて、碧眼は掠れ、まともに視点を結べない危険な状態だというのが誰が見ても理解できた。
「まさか・・・『呪詛』・・・?おい!誰か【
「『呪詛』って・・・まさか、あの女が使っていた黒い剣が・・・?」
「たぶん、『特殊武装』だったんだと思う。それも『呪詛』が込められた、『
狼人のネーゼがそれが『呪詛』であると判断し、魔法で傷口を凍結させるように指示を出し、ラウル、アキが先ほどの女が使っていた武器のことを思い出す。
赤髪の女――レヴィスが装備していた禍々しい漆黒の長剣。あれそのものが『呪いの武具』であると。
「解呪しない限り、その傷はきっと塞がらない・・・・。【
「そ、そんな・・・!?」
一刻も早く、この迷宮から脱出しないといけない・・・それは分かってる。分かっているが、ラウルの膝は折れかけていた。フィンの事実上の再起不可能。どころか、早く解呪しなければ、命を落とすことは明白だった。
恐ろしい敵とモンスターがひそむこの場所から、可及的速やかに脱出?フィン抜きで?ここは地図作成もできていない未踏の迷宮。現在地もわからなければ、出口の存在も知れない。『鍵』があっても、場所が分からなければ意味が無い。アイズもガレスも、ベートも頼れる仲間もいない。活路など、どこにも存在しない。それを自分達でどうやって?怖い、動くのが怖い。怖くて仕方がない。回らない頭をひっしに回しても出てくる答えなんてない。
「しっかりして!」
「っ!」
アキに肩を掴まれ、ラウルは顔を上げた。アキの手は、震えていた。自分達が慌てるばかりの中、何とか冷静に振舞ってはいても動揺を必死に堪えていたのだろう。その彼女の弱さに触れ、ラウルは何とか気を確かに持つ。
「【
「ネーゼさん・・・そ、そうっすね・・・。よし!―――みみみみみみみんなっ、しっかりするっす!?」
ネーゼに、【アストレア・ファミリア】のメンバーに背を押され立ち上がり、それでも、と。状況が最悪であるこの今、どうすればいいのかと微かな呼吸を繰り返すフィンに視線を落として、決意し、全員に聞こえるように声を上げた。盛大に上擦っていたが。場違いなまでに滑稽な声音に全員がぽかーんとしていた。
「こっ、こーいう時こそ落ち着いてっ、じょじょっ、状況をよく観察して・・・・そ、そうっす!【紅の正花】は『バーニング!』て言って場を盛り上げてたっすね、あれ、やるっすか!?」
舌をもつれさせながら、肩をがちがちに緊張させ、両の拳までプルプルと震わせているラウルに全員が哀れなものをみる眼差しをそそいで、溜息をついた。
「えっ・・・なんすか、この空気・・・?」
「・・・貴方のそんな姿を見て、逆に冷静になっちゃっただけよ。」
「私達の団長の真似をあなたがしても、滑るだけよ・・・。いや、団長もすべってたけどさ」
アキとネーゼの声にある者は噴き出し、ある者は苦笑する。
「でも、空気は変わった。貴方の美徳ね、きっと。」
笑顔が戻った団員達に、挙動不審であったラウルも安堵を得た。
ラウルは、目を閉じ、思考する。フィンの状態、自分達の状況。敵から逃げるための策を。そこで、アキも同じ疑問に行き着いたのか、口を開ける。
「「ヴァレッタ達は・・・新種に襲われない『何か』を持っている・・・?きっと、それは臭いなのか、道具なのか・・・」」
その『何か』とは?と考えていると・・・ラウル達の思考は音を立てて空転する。
『フィ~~~~ンッ!!どこにいやがるぅっ!』
「「「!」」」
遠方より響いてきた大声がラウルの思考を中断させ、仲間達も肩を跳ね、咄嗟に声がした方へ振り向く。きっと・・・フィンに止めを刺すために、追手がやって来たのだと。ラウル達は縦穴から飛び降りた落下地点からすぐさま移動し、迷宮を出鱈目に移動する危険性を承知の上で、撤退を優先していた。追手であろう声の主であるヴァレッタとはまだ距離があるようだが・・・伝わってくる足音の数からして、敵は相当の数を率いてやって来ている。
『私が行くまでくたばるんじゃねえぞ!てめえは最後だ、目の前で子分どもをブッ殺して、たっぷり絶望させてやる!はははははは!』
嗜虐的な叫喚が恐怖を喚起し、その恐怖が行動を強制する。
「全員、移動するっす!」
「待って!」
「ネ、ネーゼさん!?どうしたんですか!?に、逃げないと!」
「嘘でしょ・・・」
何かに気づいたのか、ネーゼは目を見開いて固まる。「なんでこんなところにあの子が?」と動揺を隠せない。悪化するばかりの状況に、逃走しなければいけないというのに、場に静寂が訪れる。
アキも、他の獣人も耳を澄ませていると、確かに、何か聞こえる。自分達が落ちてきた場所に、誰かが飛び降りて来ている音が。着地音が。そして・・・・
『―――【
と小さく聞こえ、伝わってきていた足音が一斉に止んだ。
■ ■ ■
「テ、テメェ・・・・・【静寂】のアルフィア!?」
「そ、そんな馬鹿な!?奴はあの大抗争で死んだはずでは!?」
動揺するのは、ローブを羽織った暗殺者とヴァレッタ、総勢十名。【勇者】を失ったラウル達を抹殺しようと進んでいたというのに、突如現れたのは、深く黒いローブを被った存在だった。そのローブの存在に、魔法を放たれ、防ぐ暇もなくダメージを負う。
黒いローブに、時折見える白い髪。そして、あの魔法を、ヴァレッタ・・・いや、大抗争で戦った者は知っていた。
『音』を放つ魔法。ただ、それだけ。余波だけで平衡感覚をズタズタにする絶望的な破壊力、破壊力に釣り合わぬ超短文詠唱による隙の無さ、長射程、そもそも音なので攻撃が視えないというチートもチートな魔法。
「落ち着け馬鹿共、そいつがアルフィアな訳ねぇだろ。背丈も違うしよぉ。あの『裏切り者』はとっくの昔にくたばってんだ、誰だテメェは!?」
ヴァレッタ達の目の前にいる存在は、何も言わない。むしろ、ヴァレッタの言う『裏切り者』という言葉にすこしピクリとし、ゴーグルから微かに開いた赤眼で周囲を確認して、そして、ヴァレッタ達を確認して、右腕を伸ばし、指を開いて唱え始めた。
「【天秤よ傾け、罪人は現れた。汝等の全てを奪え】
「なっ!?ち、力が抜ける!?」
「ま、まさか、『呪詛』か!?」
「テメェ・・・何のつもりだ!?」
総勢十名の全能力を低下させて、さらに、大きく息を吸って、駆け出し、ヴァレッタへと接近し【星ノ刃】を振りぬいた。
「なっ―――!?舐めんじゃねぇぞ!!クソガキが!!」
「・・・多分、貴方を倒すのは僕では無理。でも、『装備』だけなら、破壊できる」
「は・・・・?」
ナイフとヴァレッタの剣と接触し、金属同士が擦りあい耳をつんざく音が響くと、暗殺者とヴァレッタの武器・・・ベルの魔法の影響を受けて振動していた武器が、防具が破壊された。目を見開くヴァレッタと暗殺者たち。そして、ベルはそのまま次の行動を起こす。
すぅーっと息を吸い、叫んだ。それは、金属でできた迷宮にその存在を教えるように、響いた。
「『こっちに来い!!』」
「は・・・はぁぁぁぁ!?」
「ぶ、武器が!?」
「結晶が、結晶が砕けたぁ!?」
アキたちが推測していた新種のモンスターに襲われないための術である道具。その結晶が砕けた。
専用の苗花から採取できる結晶を持つことで、同じモンスターであると誤認させることができる。これによって、闇派閥の残党はモンスターに襲われることなく、迷宮内を自由に行き来する事ができていた。そして、その結晶が今、ベルの魔法の影響を受けていたがために、砕け散った。
そして、ベルの叫びによって、押し寄せる新種のモンスター達。ベルはそれを確認すると、すぐさま撤退を選んだ。
「なっ、なっ!?」
――このガキ、意図的に
「ヴァ、ヴァレッタ様ぁ!?」
「
「しょ、処理しきれない数です!!」
「ふっ――――ふざけんなァあああああああああああああ!?」
ヴァレッタの絶叫を皮切りに、夥しい怪物が雪崩れ込んでいき、地獄の宴が始まった。
目標を誤認させる結晶など、砕けてしまえば何の意味もない。目の色を変えて飛び掛るモンスターの物量に暗殺者達は押し倒され、貫かれ、噛み付かれ、悲鳴が連鎖する。抵抗するヴァレッタ達は死に物狂いで破壊された武器を振り回し、怪物の怒涛に抗わんとしていた。
ベルのスキルによって怪物を『誘引』し、その本人はそそくさと姿を消す。それによって、ヴァレッタ達は、フィンを追うことも突如現れた存在を追うこともできずに地獄へと叩き落されていた。
「くそがぁぁ!?」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
第一級冒険者級の力を持つヴァレッタでさえ危機を覚えるほどのダンジョンのモンスターの数。あの叫び声がどこまで届いているのかはわからないが、際限なく怪物たちはやってくる。
襲われる心配はないと高をくくっていたヴァレッタ達は忘れていた。ここは怪物がひしめく『ダンジョン』であることを。
「に、逃げねえと・・・!?か、『鍵』さえあれば・・・!?」
そういえば・・・とでも言うように鍵を握っている手を開いてみれば、『鍵』はヴァレッタの手の中で粉々になっていてそれがさらなる絶望を与える『鍵』に変わっていた。
「くそがあああああああああ!!」
突然の奇襲、絶望に叩き落すはずが逆に叩き落された女の怒号が、ベルが消えた通路に轟いた。
■ ■ ■
トコトコと足音を鳴らして、複数の反応と弱っている反応へと近づいていく。
しゃがみ込み、エリクサーをラウルに手渡す。
「えっと・・・エリクサーです。お兄さん」
「き、君は・・・」
「嘘でしょ・・・【
「ど、どうしてここにいるのベル!?あなた、【イシュタル・ファミリア】に潜入調査に行くって聞いてたんだけど!?」
「えと・・・終わってアストレア様の所に行ったら、ここに行ってほしいって言われて」
「ああ・・・・団長がキレる・・・やばい、お腹痛い」とネーゼはお腹を押さえて仰け反り、それをベルが抱きとめてお腹を摩る。なんなら尻尾をモフモフしてすらいた。緊張状態だった集団に、「なんだこれ」を思わせる空気が漂っていた。そして、何をしたのかと聞いてみれば魔法で敵の装備を破壊してモンスターを『誘引』して逃げてきたという。
「ど・・・どうやってここまで来たの?」
「えと・・・・?」
「待ってラウル、この子の手甲・・・『鍵』が填められてる」
「まじっすか!?でかしたっす!」
ラウルの大声にピクっと肩を跳ねさせるベルに、アキが手甲に填められている球のことを説明し、フィンの呪詛を解除できないかと状況を簡潔に説明する。
「これが『鍵』・・・お義母さん達はこんなところにいたの・・・?」
「ベル・・・?」
「あ、ううん。なんでもない、えと、魔法、使えばいいんだよね?」
「うん。お願い」
魔法の使用を頼まれ、【
その魔法の効果でフィンの呪詛は解呪され、緊張状態だった団員達も冷静さが、安心感が与えられて心に余裕が生まれた。フィンは血を失いすぎたがために、意識は朦朧としているが。
指揮を執るしかないラウルが、ベルに頭を下げて頼み込む。『鍵』を持っているのは君しかいない、だから、一緒に行動してもらえないか・・・と。するとベルは少し考え込んで、あたりを見渡して手甲を外してラウルに渡した。
「僕、ここにイシュタル様がいるはずだから、探して捕まえなきゃいけないんです。だから、一緒に行動はできません」
「なっ!?き、君1人で行動するってこと!?」
「それに・・・他にも弱ってる反応があるから。たぶん【ロキ・ファミリア】の人だと思います。」
「け、けど、『鍵』なしでどうやって行動を!?」
「僕にはこのナイフがありますから」
そう言ってベルは【星ノ刃】を壁に突き刺して横に一薙ぎする。それだけで、この子がどうやってここまで来たのかをすぐにラウルもアキもそしてネーゼも理解した。
「
「私、この子とは仲良くしよう。」
『滅茶苦茶だ!?』と頬をヒク付かせるラウルに、もういっそ清々しくなったのかベルの頭を撫でるアキ。
そこにまた、見計らったように前方の扉が開き、食人花の群れが通路に出現する。ベルは立ち上がって、次の行動へと映るべく数本のエリクサーをアキに渡して動き出した。食人花の群れに突っ込み、魔法で灰へと変え、壁を溶断していく音が響いていった。
ラウルはベルから受け取った『鍵』の付いた手甲を装備し、声を上げて自分達も動くっす!と行動を開始した。
ネーゼは振り返り、そういえば・・・と言葉を零す。
「やけにあの子の魔法が・・・音が響くなぁ・・・」
ほどなくして、ラウル達はアイズの『風』を感じ取り、合流することになる。
■ ■ ■
マジックポーションを飲んで、さらに深く、深く進んで行く。扉らしき場所があればナイフで溶断していき、扉がなく、壁の向こうに空間があれば、それも容赦なく溶断して、正規ルートを無視して突き進む。時折モンスターを見つけては魔法の連射で確実に仕留め、仕留め損なったなら威力が上がりに上がったナイフで焼き切っていく。
「音が響く・・・・魔法の威力が上がってる・・・?」
弱っている反応が複数・・・あった。
今にも尽きてしまいそうな命の反応が複数あった。
「ちくしょう・・・・ふざけやがって、くそったれがぁ!死にかけたぁ・・・・『偽者』がぁぁ!!」
女、ヴァレッタは1人迷宮内を徘徊していた。
モンスターを引き寄せ、押し付けたアルフィアのような人物に殺されかけ、遮二無二に得物を振り回し、何とか縦穴に飛び込んで逃げおおせたその全身は、噛み付かれたのか、仲間の獲物があたったのか、重傷で全身が真っ赤に汚れていた。フラつきながら自分をこんな目に合わせた存在を、かつて【勇者】にされたことを思い出した女の怒りは、とどまることを知らなかった。
「―――早く、急ぎましょう!この音、皆さんが近くで戦っています!」
「・・・あぁ?」
そんなヴァレッタの視界を過ぎったのは、死にかけのパーティだった。
片腕を失った者、自爆に巻き込まれ火傷を負った者、癒えない傷に涙を流しながら苦しむ者。いつ死んでもおかしくない連中が生き繋いでいるのは、眼鏡をかけたあの治療師の少女のお陰だろう。怪我人に肩を貸しながら、血に濡れた顔で激励の言葉を重ねる姿は、ヴァレッタにはさぞ美しく映っただろう。健気で、献身的で、輝いて見えた。そして、この鬱憤を晴らすのには丁度いいとさえ思えていた。
だから、自分達を置いていけという仲間の言葉を首を振り、励ます少女へと歩み寄っていく。暗い喜びに浸りながら、破損した武器をギラつかせながら。
今からすることは、きっとあの仇敵の顔を、【勇者】の顔を歪ませてくれるだろう、そして、自分を襲ったあの忌々しい存在を苦しめるきっかけになるだろう。こんなにも美しい命の輝きを踏みにじるということは、こんなにも楽しくて仕方がない・・・。
「ひひっ・・・てめぇが悪いんだぜぇ・・・【
舌で唇を舐めて、幽鬼のように音もなく忍び寄る。
「ひひひっ・・・!」
全身から血を流し破損した獲物を握り締める。破損したとしても『呪い』の効力まで消えたわけじゃない、呪詛の刃。
「おい、お前等、【ロキ・ファミリア】だな?」
女は唇を吊り上げ、喜びに満ちた狂喜の顔で少女達の前に現れた。
「あなたは―――」
少女の瞳に、禍々しい凶笑と、振り被られた刃が映りこむ。
道化師のエンブレムが、血飛沫に彩られ、少し遅れてから鐘楼の音が響いた。
正史
ヴァレッタに怪物進呈→鍵を奪い取る
今話
ベルが魔法を放ち、武器と接触させたことで装備品を破損、鍵も巻き込まれる。→ヴァレッタ鍵のない状態で彷徨う→ベルの手甲をラウルに渡す。
ベルがローブで頭まで隠していたので、アルフィアと間違えられる。
次くらいで精霊とぶつけよう。ついでにイシュタル様も。