兎は星乙女と共に   作:二ベル

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アルフィアとザルドの印象
闇派閥側→『裏切りのアルフィア』『腑抜けのザルド』

オラリオ側(主要派閥)→『後悔のアルフィア』『拒食のザルド』


眼鏡を救い女神を攫う

走る、走る―――走る。

壁を破壊し、床を破壊して、弱っていく反応へといち早く足を進めるために、進む。

1つ、反応が消えうせる。焦る、焦る。

また1つ、消えうせた。

 

 

「はぁ・・・はぁ、はぁ・・・っ!」

 

 

何が起きているのかはわからない。

それでも、きっと先ほどの敵と同様にこの迷宮の中にきっといるのだろう。

仲間から逸れてしまって手負いの仲間と行動しているなら、きっとそれは危険な状態だ。その証拠に、1つ、また1つと消えていく。

正直なことを言えば、ゴーグルを付けていても1人なことに変わりはなく恐怖心と不安感が消えているわけじゃない。所詮は誤魔化しだ。だからこそ、失わないように必死に走る。

 

 

「・・・っ!お義母さん・・・叔父さん・・・!」

 

 

大好きな2人は、僕を置いて、何を思ってオラリオに行き、何を想ってオラリオを破壊していったのだろう。さっきの女の人の『裏切り者』という言葉が頭をチラつかせる。悪を裏切りオラリオの側についた訳では・・・きっとないのだろう。それなら、あの時、教会でアストレア様が言っていた言葉がおかしいことになる。最終的に、お義母さんはアリーゼさん達と戦って、命の終わりを迎えたと聞いている。だから、お墓がある・・・。なら、それなら、あの『裏切り者』という言葉には一体どんな意味があるのだろうか。

 

 

「――【一掃―よ、――の―杖(―――ち)】――オ・テュ――ス!」

「――っ!?」

 

突如目の前から現れた視界を暗ませるほどの雷の魔法が襲い掛かる。

それを咄嗟に、熱を放ち振動し続けるナイフをぶつけて反らす。そして、足を止める。目の前に現れたのは、紫紺のローブを纏った仮面を被った人物。

僕は咄嗟に【乙女ノ天秤・オーラ】をかけて構える。

 

 

「―――立ち去れ。貴様は邪魔だ」

「―――退いてください。貴方は邪魔です」

 

 

同時に放たれる言葉。そして、同時に駆け出す。

片や短剣。片や女神から授かったロングナイフ。

 

「―――フッ!!」

「―――ちぃっ!武器を焼き斬るか・・・っ!」

「貴方の相手をしている暇なんて、ない!」

「気にするな、ただの時間稼ぎだ。お前が誰かを助けに行かせる時間など・・・」

「【福音(ゴスペル)】ッ!!」

「ぐぅぅぅ!!」

 

音の暴風とナイフで絶えず攻撃を繰り出し、よろめいたところに回し蹴りで進路上から退かせる。

 

「くっ・・・行かせるものかっ!」

「行かせて・・・もらうっ!【福音(ゴスペル)】っ!―――【アガリス・アルヴェシンス】ッ!!」

 

 

音の暴風で襲い掛かってくる仮面の人物をさらに押しのけて、乙女ノ天秤で登録していた、アリーゼさんの付与魔法を発動させて、教えてもらった通りに全身に纏わせ、ブーツに収束させて加速し、仮面の人物から一気に距離を突き放して目的地へ向かった。

 

 

「――――ええい、厄介な!」

 

誰に聞こえるでもなく、仮面の人物は拳を握り締め、罅割れた仮面を押さえ、撤退していった。

 

 

■ ■ ■

 

炎を纏い、地面を爆砕しながら、加速していく。進路上のモンスターさえ焼き尽くす勢いで走りぬく。そうして、目を見開き足を止めた。

僕が纏っている炎のお陰で、灯りには申し分なく、そこには、目の前には血だまりに沈む複数の冒険者がいた。石壁、石畳のいたるところには飛び散った鮮血の跡が走っていて、迷宮の石室はもはや赤い部屋と呼ぶに相応しく、ここで行われた蹂躙のほどを物語っていた。体を斬られた者、貫かれた者、全ての者が負っている共通の刀傷。それは、モンスターによって起こされた惨劇ではないことを告げていて視線を上げた先――壁の一角には、血の筆跡で『ざまぁみろ、勇者!偽者!』と共通語が走り書きされていた。

 

そのあまりな光景に、僕は膝を、手を地面につけ吐いてしまう。

 

「うっ・・・おえぇぇっ!み、みんな・・・死んでる・・・?そんな・・・誰か・・・誰かぁ・・・!」

 

口から涎を、胃液を垂らし、目から涙を流し、ゴーグルを汚していく。誰かに救いを求めるように、僕は、生きている人を探す。体を揺すっても、頬を叩いても、ぴくりともせず物言わぬ屍となっていて胸に痛みが走っていく。

 

「は・・・反応・・・反応を・・・っ!落ち着け、落ち着けぇっ!」

必死に、頭を落ち着かせようとして、目を閉じて、微かでもいいと願うように反応を探す。探す、探して・・・

 

 

「いた・・・。1人。たった・・・1人・・・!?」

 

ガチガチと歯を鳴らし、石室の最奥に弱弱しい反応の場所へと歩み寄る。

そこには、他の冒険者と同じように体にいくつもの血の斜線を刻まれていて、腹には半分もない破損した剣が墓標のように突き立てられていた。

唇を噛み締め、剣を引き抜き、エリクサーを飲ませる。

 

 

「・・・き・・み・・・は・・・?」

「喋らないでくださいっ!お願いですから、死なないで・・・!いかないで・・・!」

 

エリクサーを飲ませても、かけても、傷は塞がらず、血は流れる。失うのが怖くて、名前も知らない相手なのに、奪われていく瞬間を見せ付けられるようで怖くて怖くて仕方がなくて、声を震わせながら、歌を詠う。

 

 

「【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】―――」

 

■ ■ ■

 

痛みさえ感じない体、朦朧とする意識の中に現れたローブを纏った背丈は私と同じほどの子が声を震わせて私に回復薬を飲ませ、体に降りかけていた。助けを求めるのは普通に考えれば、私のはずなのに、ゴーグルの中で涙を溜めているその子はまるで、自分が助けを求めているようで、不思議だった。

 

 

「【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】」

 

声を震わせながら、誰かに祈るように手を握って目の前にいる子は歌を詠い始める。

 

 

「【凍える夜には共に手を繋ぎ傍にいよう。道に迷ったときは共に歩もう。】」

 

不思議な歌だと思った。まるで、『一緒にいてほしい』と願っている迷子のようで

 

「【我はもう何も失いたくない。】」

 

きっとこの子も、何か大切なものを、魔法に現れるほどの何かを失ってしまったのだろう。

 

「【箱庭に愛された我が運命はとうに引き裂かれた。我は貴方を憎んでいる。】」

 

大切な何かを、誰かに奪われて、そこでこの子の時は止まってしまったのだろう。

私は死にかけているというのに、笑えるほどに、冷静でその子から目が離せずそんなことを考えてしまう。

 

「【されど】【されど】【されど】」

 

付与魔法だろうか、炎が暖かくなびいて、私の体を温める。冷たくなっていく体に力が戻っていく、そんな気がした。やがて、どこかから風でも吹いたのか、目の前の子のローブが揺れ、隠れていた顔が露になった。

 

「【我から温もりを奪いし悪神よ、我を見守りし父神よ、我が歩む道を照らし示す月女神よ、

我が義母の想いを認め許し背を押す星乙女ら四柱よ、どうかご照覧あれ。】」

 

それは白髪だった。ゴーグルのせいでよくわからないけれど、可愛らしい顔だと思う。

涙のせいで赤い瞳が輝いて見えた。

 

「【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう】」

 

震えていた声に、力強さが加わり、白髪の子は口元に笑みを浮かべ始める。

 

「【我は望む、誰も傷つかぬ世界をと。我は願う、涙を流し彷徨う子が生まれぬ世界をと。我は誓おう、次は我こそが手を差し伸べると】」

 

きっとこの子は、ただ『平穏』を願っていた子なのだろう。

何があったのかを知るなど、私にはとてもできないことだろう。でも、それでも、その歌はこの子の優しさを物語っているようだった。きっとこの子は『与えられた優しさを誰かに同じように与えら得る子』なのだろう。

まったくもって、冒険者らしくないなぁ・・・と思ってしまう。

 

「【救いを与え、揺り籠のごとく安らぎを与えよう】」

 

魔法が完成に近づいたのか、光が私の体を・・・微かに見える死んでしまった仲間たちの体を包み込む。

 

「【何故ならば――我が心はとうに救われているからだ】」

 

とても・・・暖かい。気持ちのいい、日の光を浴びているような心地よさだと思う。

 

「【乙女ノ揺籠(アストライアー・クレイドル)】っ!」

 

その心地よさに、死を迎え入れるはずの私は、そんなことさえ忘れて瞼を閉じ、眠りに付いた―――。

 

 

■ ■ ■

 

「ぐすっ・・・・お義母さん・・・叔父さん・・・2人は、僕を置いてまで、こんなことをしていたの・・・?」

 

そんなはずない。厳しかったけど、優しかった2人が、そんなことするはずないと、必死に否定する。アリーゼさん達が僕に何かを隠していたのも、もしかしたらこのことで僕の心が揺れるかもしれないと思ったからなのかもしれない。

魔法のおかげなのか、今にも死にそうな女の人の体から傷は消えて、安心したように眠っている。ゴーグルを外して、綺麗にして、涙を拭って周囲を確認する。

 

 

「近くに敵はいない・・・。反応は・・・・この人だけ・・・」

 

きっと、あの仮面の人物さえ現れなければ、間に合ったかもしれないのに・・・。

僕自身の力不足を皮肉るように、死んだ冒険者たちの体は、失った体の部位こそ戻らないまでも、綺麗になっていた。

 

「―――この人が起きるまで待っていても、仕方ないよね。他の人たちには悪いけど、回収は諦めよう。僕1人じゃ・・・無理だ」

 

マジックポーションを飲んで、自分の状態を確認する。

 

「ナイフ・・・問題なし。カナリアは、整備中だからナシ。エリクサーはロキ様が入り口で渡してくれたのも入れて10本中5本をラウルさんに、2本をこの人に使ったから残りは3本。かなり高いって聞いたけど・・・。反応は・・・」

 

何かとても大きな反応が1つに、そこに複数の反応が向かっていってる・・・・。たぶん、1つの場所に合流してるんだ。大きいのはたぶん、24階層とさっきの仮面の人物と似てるからその仲間?かな・・・。他にもモンスターやらがいるけど、無視しよう。

イシュタル様・・・いや、神様の反応は・・・・2つ?2人も神様がいる・・・?

 

「移動しはじめた・・・付き添い?が1人いる・・・。一か八か、移動を開始した方に近づいて、神様だけを捕らえよう。」

 

ゴーグルを再び装備して、僕は眠っている女の人を背負う。付与魔法を纏ったまま背負ったら燃えたりしないかと心配したけど、大丈夫そうだ。よかった。

 

「ふぅー・・・・・じゃぁ、急ごう。アリーゼさんも『切り替えが大事』って言ってたし。」

 

助走をつけるように駆け出して、再びブーツに炎を収束させ、移動する神の反応へと爆走していく。破壊の音を轟かせながら。

 

 

「捕まえて、ロキ様達の前に転がしてやろう・・・!」

 

 

怒り、炎を纏い、轟音を鳴らし、迷宮を破壊して進む兎が、徐々に徐々に、神の元へ近づいていく。

 

 

■ ■ ■

 

 

「私が五年前から、一体いくらの投資を落としたと思っている?」

 

壁画が填められている回廊で、女神と男神がいた。

胸や肢体を大きく露出させた褐色の肌。誰もが目を奪われてしまう絶世の美貌。煙管を片手に持つ『美神』、イシュタルだ。

そして、女性のように長い髪、闇を凝縮したような風貌、醸し出す雰囲気は退廃的で、陰鬱な空気を纏い、『死』を象徴するようなローブを着込んだ神、タナトス。

 

「だから、私が貰い受ける予定の『天の雄牛』。アレの力を見せろ。都合よくも今、ロキの連中がここにいるのだろう?」

 

背に青年従者を控えさせるイシュタルは、勝手知ったる風にタナトスに命令する。さらにその後ろには、罅割れた仮面をつけた案内人であろう仮面の人物がいた。

 

 

「あー・・・・仮面ちゃん、何、怪我したの?」

「・・・・うるさい」

「ふーん。凶狼にでも当たっちゃったとか?」

「・・・・・」

「どうでもいい、話を変えるな」

 

 

『女神イシュタルがつるんでいる怪しい連中』

それが、闇派閥の残党であった。イシュタルとごく一部の者が繋がっており、この人工迷宮完成のための莫大の資材、資金を必要とする製作者の取引相手になり出資していたというわけだ。

娼館ひしめく『歓楽街』を領域とするイシュタル派はオラリオのファミリア随一と言っていいほどの財源を持ち、そしてそれは、都市最大派閥と呼ばれるロキ、フレイヤの二大派閥さえ超えるほどだ。

 

 

「いやーあのさ、イシュタル?『鍵』を持たないロキの子供達は、ぶっちゃけほとんど詰んでいるようなものでさ?あんなラスボス引っ張って来なくても間に合っているっていうか、逆に現場を混乱させちゃうっていうか・・・それに、なにやら『異常事態』が起きててバルカちゃんご乱心みたいだしー・・・・」

 

「知ったことか」

 

説得しようとするタナトスに、イシュタルはにべもない笑みを返し、咥えていた煙管を唇から話、紫煙をふきかける。

 

「はぁ~わかった。わかった、やるよ、やるさ。出資者様のお願いを叶えよう」

タナトスは降参するように、両手を挙げてイシュタルの要求を飲む。

 

「それでいい。」

 

イシュタルは満足そうに目を細め、「物見できる場所に案内しろ」と従者とともに回廊をあとにし、仮面の人物もまた、すっと姿を消す。

 

「はぁ~・・・・レヴィスちゃんには『まだ使うな』って言われているけど、イシュタルには散々世話になったし、ここでヘソを曲げられると後が面倒だし・・・・。」

 

美神の気まぐれと暴走を危惧しながらも、タナトスは唇を吊り上げて、近くにいた眷族に向けて言い放つ。

 

「俺も見てみたいんだよねぇ・・・都市の破壊者(エニュオ)の切り札がどれほどのものなのか。」

 

仄暗う主神に、ローブ姿の眷属たちは息を震わせ、タナトスに命じられて慌しく行動に移り、そして、合流を果たした【ロキ・ファミリア】【アストレア・ファミリア】の元に『怪物』が放たれる。ふとそこで、タナトスはイシュタルが歩いていった先を見て思い出したように口を開く。

 

 

「そういえば・・・・バルカちゃんがご乱心していた原因、『異常事態』の原因って映ってなかったらしいけど、『鍵』でも持ってたのかなぁ。やばいなぁ、怒られちゃうかなぁ。まぁ、黙っとこう」

 

 

そのあと、目を見開くほどの轟音がイシュタルが進んでいった先で鳴り響く。

 

 

■ ■ ■

 

「イシュタル様、『天の雄牛』とは?」

 

―――ドド

 

「単純に言えば、巨大な牛だ。天界時代に父であるアヌを脅して造らせた・・・な。それを、やつらの造りだした怪物で新たに造らせた・・・というわけだ。たしか『精霊の分身(デミ・スピリット)』とか言っていたな。」

 

―――ドドド

 

 

「『精霊の分身(デミ・スピリット)』・・・・」

 

――ドドドドッ!

 

「くくく、アレさえあれば、フレイヤなんぞ塵屑も同然だ。ついでに、あの優等生ぶるアストレアも潰しておくか?」

 

―ドドドドドッ!

 

 

先ほどから何の音だ?そう思い、イシュタルの従者である青年、タンムズとイシュタルが振り返ったところで、赤い炎がすれ違っていき、視線を戻せばイシュタルが一瞬にして消えていた。

 

「―――なっ!?」

 

すれ違うように轟音を鳴らしながら、地面を爆砕しながら、自らの主神が攫われたことを理解させられる。

 

 

「イ、イシュタル様!?」

 

後を追おうにも、さらに轟音が鳴り響き、通路が破壊され後が追えないようにされてしまいタンムズは頭に血を上らせて叫びあがった。

 

「な、何者だあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

しかし、そんな彼の叫びなど轟音の中にかき消され、かすかに耳に入るのは少女の悲鳴のみで、タンムズはただ、闇の中で立ち尽くすだけだった。

 

 

■ ■ ■

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「リーネさん!あんまり暴れないで!本体(眼鏡)が落ちますよ!?」

「本体じゃありません!こんな猛スピードで進んでたら誰だって悲鳴をあげますよ!?それにさっきから壁を・・・これ、超硬金属(アダマンタイト)なんですよ!?」

 

しかも、なんで女神イシュタルがこんなところに!?と少女――リーネ・アルシェは大混乱!!

当然だ、目が覚めたら炎が体を包んでいて、超硬金属(アダマンタイト)の壁を、床を破壊して突き進んでいるのだから、『異常事態』も『異常事態』、驚くな、悲鳴を上げるなというのが無理がある!

ガレスやティオナあたりならやりかねないが、こんな連続して壊せるほどではないはずだ!仲間の死に悲しむ暇なんて、目覚めた少女にはなかったのだ!

 

「そ、それにさっき、女神イシュタルを・・・・まるで馬車で跳ね飛ばされた人みたいに・・・・さ、攫うなんて!?」

「『容疑者』ですし、アストレア様に言われているから問題ないです!」

「問題大有りでしょう!?というか、どこに向かっているんですかぁぁぁ!?」

 

ベートさん助けてぇぇぇぇぇ!?なんて悲鳴をあげる彼女を他所に『ベートさんて実はハーレムを持っていたりするのかな。あのアマゾネスさんといい・・・・』なんてことを考え、1人じゃなくなったことで心に余裕ができて、ぐんぐんとスピードをさらに上げていく。

背中に少女を背負い、小脇に女神を抱えて、右腕のナイフと音の魔法と付与魔法の炎で突き進んでいく。

 

 

「ひ、ひいいいい!?またスピード上がったぁぁぁ!?というか、モンスターが轢き殺されてるぅぅぅぅ!?」

「その、みんな集まってるみたいで・・・何かと戦っているんで、急いでるんです!!もうすぐ付きますから!ちょっと黙っててくださいよぉ!?」

「命の恩人なのはわかってるんですけど!その、もうちょっと女の子に優しくしたほうがいいですよ!?」

「む・・・・背負い方がまずかったですか?えっと、『お姫様抱っこ』がいいですか!?」

「そうですねぇ・・・あ、でも、どうせならベートさんにしてもらいた・・・・あっ!?いや、今のは違いますよ!?というか、そういうことじゃないんですぅ!!」

「アストレア様にしたら喜んでくれるかなぁ・・・」

「知りませんよぉ!?」

 

 

ドゴォン!バゴォン!?とナイフで壁を破壊し突き進み、己が纏っている炎と音の暴風でモンスター達はすれ違いザマに灰へと変わっていく。リーネは思った。恐怖の中で理解した。この子は、『この迷宮との相性がよすぎる』と。

というか、この子を一度、誘拐・・・誘拐?うん、誘拐でいいよね。誘拐して泣かせたベートさんとレフィーヤにある意味、賞賛と尊敬の念を抱くほどだった。いや、絶対この子敵に回しちゃ駄目でしょう・・・と。どうやってこんな子を泣かせたのか、むしろ教えてほしいとさえ思ったほどに。

 

 

 

 

『アハッ、アハハハハハハ!』

 

 

 

「リーネさん、今笑いました?」

「へ!?い、いえ、私じゃないですよ。それより、まだなんですかぁぁぁ!?」

「えと・・・あっ、あの壁の向こうです!!」

 

なにやら壁の向こうから、地震のような音が響き、女の笑い声と牛の咆哮が聞こえてくる。

2人とも誰かが壁の向こうで戦っているのを理解して、見つめ合い、リーネは覚悟しぎゅっと力強く抱きつき、ベルは小脇で気絶する女神をしっかりと落とさないように掴みスピードを上げる。

 

「無理無理無理ぃ!!?覚悟したけど、やっぱり早すぎますぅぅぅ!?」

「あぁぁもう!もう諦めてください!ロキ様が言ってましたよ!!『当たって砕けろ!』って!!」

「それ絶対ここで使う言葉じゃないですよぉぉぉ!?」

 

そうして、ドッゴォン!!と爆音、轟音を鳴らして、広いルームに入る。

そこにいたのは、アマゾネス2人、ドワーフ1人、エルフが1人。そして撤退を行おうとしている冒険者達。全員が時間が止まったように目を見開き、固まった。牛なのか何なのかベルには判断できない怪物さえも。

 

 

「え―――リーネぇぇぇ!?」

「ベルぅゥゥゥゥ!?」

 

ベルは仲間を確認して、ベートが目に入って、体をひねって投擲する。少女と女神を。

ぐんっと体がひっぱられる感覚がして、「まさか・・・まさか・・・!?」とリーネは顔を青くするも、もう遅い。

 

 

「ベートさん、お届け者ですぅぅぅぅ!!」

「いやぁぁぁぁあぁぁ!?」

「はぁぁぁぁぁ!?」

 

ベートは咄嗟にリーネをキャッチ。

隣にいたラウルは女神をキャッチして倒れる。

ベルはキャッチしたのを確認してそのまま爆走して怪物に突っ込んでいく。

 

「ベル、駄目です!戻りなさい!」

「ベル、駄目ぇ!」

エルフの、リューと、アリーゼの制止が聞こえていないのかお構いなしに突き進む。

 

『―――【突き進め雷鳴ノ槍代行者タル我が名ハ雷精霊(トニトルス)雷ノ化身雷ノ女王――】』

 

アマゾネスのティオネの魔法で動きが鈍っている中、ベルを視認し笑みを消した女体が詠唱を奏で、人智を超えた高速詠唱により、瞬く間に砲台が完成する。

ベルは炎を纏ったまま右腕を女体へと向けて、唱える。

 

『【サンダー・レイ】!』

「【天秤よ傾け】!」

 

宙空に巨大な魔法円を展開し、自身側面、周囲を回るように爆走して近づいてくるベルに片手を突き出し狙い撃つ。狙い撃った―――はずだった。

 

 

『―――イヤァァァァァァッ!?』

 

 

 

誰もが目を見張った。

『精霊の分身』が放った豪雷が、『精霊の分身』を貫いたのだから。

戦争遊戯で見せた『武器の入れ替え』ではなく、最後の最後にやってみせた『魔法の置換』。それを初見の『精霊の分身』の魔法でやってみせたのだから。

 

「ア、アリーゼが以前言っていたことができてしまった・・・?」

 

リューは59階層から帰還する際にアリーゼが興味本位で言っていた『アレの魔法ってベルでも登録できるのかしら?』という言葉を思い出した。入れ替えができるのであれば、登録も可能なはず。

残留する雷が炎に混じり、ベルは女体へと飛び掛り、蹴りを放つ。炎雷の弾丸となって。

 

 

 

 

「【炎華(アルヴェリア)】ッ!!」




アリーゼさんベル君登場に複雑

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