「前方から5、右3、左2来ます!ベル様、アーディ様は前に!ティオナ様は右、リュー様は左をお願いします!ベル様は『誘引』はなしでお願いします!危険なので!」
『間違っても魔剣で『大樹の迷宮』を火の海に変えないでくださいねヴェルフ様!』とリリが指揮の最後に忠告を入れる。
「俺をなんだと思ってんだリリ助!?」
「クロッゾですが何か?あ、ベル様、エイナ様から聞いてるとは思いますが、『毒系統の魔物や罠』、ダークファンガスなども出現するので気をつけてください。ベル様対異常持ってないんですから!」
「わかった!」
「ああ、そうだったな!だが一緒にするんじゃねぇよ!おい、【疾風】、その目をやめろ!哀れむんじゃねえ!」
「い、いえ、決してそのつもりは。ただ、『先祖達のやったことでここまで言われるのか』と思っただけで・・・」
「それが哀れんでるって言ってんだ!」「それが哀れんでいると言うんです!」
「な、何故リリルカまで怒っている!?」
キーキーキャーキャーと騒ぐ3人を他所に、僕はアーディさんと前方の
ティオナさんはウルガをブンブン振り回して、刺身よろしく3体の
「アーディさん」
「ん?どうしたのベル君」
「リューさんのあれって木刀ですよね、何でモンスターを両断できるんですか?」
「えっと、【アルヴス・ルミナ】ってやつだったかな。リオンの故郷の大聖樹の枝を素材にして造ったらしいよ」
「木刀ですよね?」
「木刀だねぇ」
木刀で両断できるものなんだ、すごいなぁリューさんは。今度平行詠唱教えてもらおうかな。
「ベル様!可能な限り、探知もお願いします!」
「えっと・・・リリの後ろに何体かいるみたい!」
「えっ・・・ちょっとぉぉぉぉ!?ヴェルフ様!お願いします!」
「任せろ!―――オラァ!」
リリの後方からやってくる複数の
「魔剣ってすごいなぁ・・・」
「ベル君、集中ぅ!」
「むぐぅ・・・ほっぺをつままないでくださぁい」
「ベル君って集中が途切れると『探知』が駄目駄目だよね。ほら、前からいっぱい来てるよ。あれ10はあるんじゃない?」
「じゃ、じゃあ、えと、魔法使います!」
「うん、よろしい!」
『行っておいで!』と背中を叩かれて僕は大木の枝を足場に
「―――【
■ ■ ■
あらかた討伐し、ルームを見つけた僕達は、休憩を取る事にした。
リリはドロップ品や魔石の確認。ティオナさんはルームに傷を作りヴェルフは武器の整備を。
「ベル、念のために、
「個別では無理だよ。でも、えっと・・・・うん、もういないと思う。どれもほとんど動きが遅いモンスターというかほとんど同じ位置にいるし」
「では、依頼は終わりですね。」
「どうする?グレートフォール覗きにいけるとこまで行く?」
「うーん、今19階層でしょ?もうすぐ20階層だから、そこは行くとして・・・」
さすがに25階層まで行くのはまずくない?とティオナさんの提案にアーディさんがやめておこうと促す。『じゃあ、24階層に行って『木竜』見に行ってみるとか?宝石とか取れたら儲かるんだけど・・・』という言葉にリリがものすごい速さで反応したけど、理性が危険だと判断したのか、『ぐぬぬ』と言いながら拒否した。
「リリ、お金に困ってるの?」
「ベル様、直球すぎです」
「ベル、お前言い方・・」
「ベル、貴方はそもそもお金の管理すらしていないではないですか」
「え、何、ベル君って財布の紐握られてるの!?」
「アルゴノゥト君って普段買い物してるとこ見ないねそういえば」
総攻撃である。何コレ、ホームでお姉さん達に弄られる以外でここまで言われるなんて僕知らない。で、でもいいのだ。アストレア様曰く『ベルの貯金はもう既に働かなくても普通に暮らしていけるわ。だってザルドの遺品もあるし』ということなのだ。だけど僕は冒険者を続けている。私腹に肥えた『ギルドの豚』とエイナさんが言っていたギルド長とは違うのだ!
「ベル君今、『ギルドの豚とは違う』って思ったでしょ」
「バレてる!?」
「おこちゃまの考えなんてお姉さん達には見え見えだよ~ほれほれ~」
「ひゃひぃ!?ア、アーデッィさん、横腹つつかないでぇッ!リュ、リューさん助けてぇ!?」
「ベル・・・女性に『お金に困ってるの?』という言い方はいけない。お仕置きです」
「何で混ざるの!?」
ダンジョンの中で撫でくり回される一匹の白兎。哀れ『口は災いの元』というとある極東の神に教えられたというのにすっかり忘れていた。今度お詫びにジャガ丸君買いに行ってあげよう。そう思う僕だった。
「それでリリルカ、実際どうなのですか?【ヘスティア・ファミリア】はそんなに困窮していると?今回の依頼も別に無理して受ける必要はなかったはずです」
「いえ、生活そのものは問題ないんですけど・・・ええっとですね、ベル様の戦争遊戯のあと、旧アポロン・ファミリアのホームをヘスティア様が貰い受けてダイダロス通りで孤児院を営んでいたマリア様と話し合って一緒にやらないかってことになったみたいでして」
「ええっとつまり、旧アポロン・ファミリアのホームは、現在ヘスティア・ファミリアのホーム兼孤児院ってこと?」
「その通りです、アーディ様。デメテル様や心優しい神様達が食材などを分けてくださるのですが・・・・『神会に行ってくるから、君達楽しみにしているんだヨ!』とか言ってバックパックにタッパをコレでもかと詰めていく醜態を・・・」
「あーなんかこの間ロキが言ってたなぁ。それ。『あいつどんだけ余裕ないねん。それでウチの自棄酒に付き合うとかなんやねん。善神なのか貧乏神なのかどっちかにせえや』って」
「なので、好意に甘えてばかりではまずい・・・いえ、醜態を晒されてはまずいと思いまして、とにかくお金を稼いで『金に余裕がある』と周囲に示さなくては。と」
「苦労してるんだな、リリ助も」
「ええ、ついこの間ラキアが攻めてきた時なんてまんまと誘拐されてましたし。ベル様、その節はありがとうございました。」
ひたすら横腹をつつかれ、撫で回されて疲れ果てた僕はチラチラこっちを見るリューさんを他所にすっかりアーディさんの膝を枕に横にさせられ、【ヘスティア・ファミリア】の現状を聞かされる。
戦争遊戯で女神様達が「全財産没収」「ファミリアは解散」「オラリオから永久追放」「鬼ごっこしようぜ、私が鬼な!」「月夜に気をつけろ」とフルボッコ、確かにファミリアは解散し、それでも付いていくと忠誠を誓う眷属達はアポロン様についていき、旧アポロンファミリアのホームはどうするかとアストレア様が僕に聞いてきて僕はつい言ってしまったのだ。『ヘスティア様が相談に乗ってくれたのと、ダイダロス通りの孤児院がちょっとボロボロになっていて安い所がないかあったら紹介してくれ。って言ってたので、あげてください』と。ヘスティア様、大喜び。しかし眷属は未だ1人。リリは嘆いた「維持費ぃぃぃぃ!!!」と。
さらに、ヘスティア様はじゃが丸くんの材料を取りにオラリオの市壁の外に出た際にアレス様に拐われ、それをアイズさんと一緒に探しに行ってなんやかんやあったのだ。
「ベル様もよくそんな簡単にあれほど広いホームをあげようと思えましたね。【アストレア・ファミリア】のホームをあそこに移すという手もあったでしょうに。」
「うーん・・・今の方が僕は好き」
「ご自分の部屋も持てますし、【ゴブニュ・ファミリア】に頼めば改築してもらうことだって可能でしょうに。それこそ、輝夜様の故郷である極東のお風呂を再現するのだって・・・」
「・・・・・」
「ベル、今少し悩みましたか?」
「極東のお風呂、ちょっといいなぁ・・・って。檜風呂?って言うんだっけ?木でできてる。前に輝夜さんが言ってた」
「もう返しませんよ?」
「―――別にいいデス。今が丁度いいのは本当だから。」
そう、今ので丁度いいのだ。第一、僕は自室があっても使ってないし。今は春姫さんが使ってるしネ!極東のお風呂に少し憧れるけれど、慣れているものの方がやっぱり良かったりするし・・・・うん、今のままでも問題ないはずだ。ヘスティア様には『君は神か!?』と言われたけれど、神は貴女ですヘスティア様。だからリリのためにも『じゃが丸君の神様』から『バイトの神様』さらには『タッパの神様』と実績を解除していかないでください。
「まぁ、そんなわけで少しでも懐を暖めておきたいわけですよ。」
「団員の方はどうなんだ?勧誘とか」
「うーん、難しいですね。リリはサポーターですし、あえて言うなら孤児院の子たちが将来的に入ってくれたら・・・とは思いますけど」
「まぁ、先は長そうだな」
「ええ、長いです。学区に行きたいという子もいますし。【ロキ・ファミリア】に入りたいって言っている子までいますし。孤児院の子たちの口から【ヘスティア・ファミリア】の名前が出ないものですから眠っている子供達の耳元でヘスティア様がファミリアの名前を連呼する始末ですし」
全員でうわぁ・・・という顔になる発言である。それはある意味洗脳なのでは。
「それより、ベル様はいつまでアーディ様に膝枕されているんですか?」
「僕のスキル、意外と疲れるんだよ?」
「常に反応を感じてるの?」
「常にっていうわけじゃないですけど・・・・一定間隔で波が出てるみたいな感じと言いますか・・・」
「ベ、ベル、私の膝、開いてますよ」
「リオンちょっと大胆になったよね」
「き、気のせいです」
「ぎゅってしていい?」
「だ、駄目です、あ、やめなさい!?ベル、何故あなたまで混ざる!?い、いけない!いけないことだ!」
「おい、乳くりあうんじゃねぇ!!」
話題は変わって今度はティオナさんに矛先が向かう。
【ロキ・ファミリア】の現状はどうなのだ?と。
「ティオナさん、アイズさんにお酒飲ませたらダメですからね」
「えっ、なんで?」
「殺されますよ」
「えぇ!?」
あの竜信仰の村に滞在した時に、間違えてお酒を飲んだアイズさんが暴れて、それを止めようとした僕は周りを巻き込みかねなくてろくに反撃も出来ず、結果、酔ったアイズさんに泣かされたのだ。
「リーネさん、元気ですか?」
「うん、すっかり元気だよ。まぁ・・・この間の一件で、助からなかった子もいるからリーネ達が助かったのは奇跡みたいなもんだよ。ありがとね、アルゴノゥト君」
「・・・えへへ」
「フィンも無事に退院したし、次は『呪詛』対策と『鍵』がいるって言ってたかなぁ。アルゴノゥト君がラウルに渡したのが1つ、18階層で回収したのが1つ。【イシュタル・ファミリア】の人が持っていたのが1つで合計3つ。」
「足りないだろうねぇ」
「うん、フィンもせめて複製できたらって言ってた」
「・・・ベルに扉をすべて破壊してもらうというのはどうですか?まぁ、誰かがついてあげなくてはいけませんが。」
「ティオネもその案を出したけど、『少なくとも中層までの深さがあるのに、それを1人でやらせるのは無理がある』って却下されてたよ」
アストレア様が手甲に填め込んだ鍵をそのまま、ラウルさんに渡したんだけど、鍵だけを外そうとしたら『ぬ、抜けなくなってるっす。どんだけ押しこんだんすか?』と逆に問いただされて、アストレア様に無言で尋ねると『てへっ』をされてしまった。許せた。
「ラウルさんって・・・・」
「ん?どうしたのアルゴノゥト君」
「たまに格好いいですよね。【――これが『冒険』。気合を入れろ。剣を握れ。声を奮わせろ。ここで本当の冒険者の真価が問われる。】って」
「えっ!?そんなこと言ってたの!?いついつ!?」
「あの迷宮を出たあとに、アキさんが教えてくれましたよ?」
聞いた話ではスキルも魔法もないのにLv4。それでいて、本人曰く『全部二流止まりだったっすけど、人並みなら武器を何でも使えるっすよ』と言っていたのだ。何それ凄い。むしろ何でそれでスキルが発現しないの!?
「ベル、一度組み手をしてみては?」
「フィンさんが駄目だって言ってたよ」
「【勇者】が?理由は?」
「アイズさんが僕に組み手をしようって言ってきたときに、僕がアイズさんの戦い方を真似したから。」
「・・・・そうだった。たしか蹴りは【凶狼】の足技を真似しているんでしたね。」
『アルフィア・・・さすが貴女の血縁です』と天井を見上げてリューさんは言った。
でも、そんな僕を見ていたフィンさん達が言うには『所詮は子供の真似事レベルでしかない。アルフィアと比べてはいけないけれど、あれは『完成』させてくるのに対して、君は『真似』しているだけ』ということらしい。それでも敵に回したら厄介だと苦笑された。
お義母さんはやっぱり、すごく強かったんだなぁ・・・僕の前では、魔法しか使っているところしか見たことがないけれど。
「ベル君、遠いところを見る目をしてるよ?」
「・・・ごめんなさい、ちょっと」
「すいません、ベル。思い出させてしまいましたか?」
「平気」
少し、お義母さんのことが恋しくなってきてしまって、でも、そんな顔を見られたくなくて膝枕をしてくれているアーディさんのお腹のほうに顔を向けて隠す。アーディさんはそんな僕に何も言わず、ただ頭を撫でてくれる。頭を撫でられるの、好きだなぁ・・・。
「アルゴノゥト君のお義母さんってどんな人だったの?」
「とりあえず、ベルと同じ魔法を使っていましたね。正確にはベルより強力でした」
「まじか」
「一緒にお風呂はいってたらお爺ちゃんが覗いてきたり、一緒に入ろうとしてきたりして、そのたびに家が吹き飛んでた。あと、一緒に寝てるときもお爺ちゃんがベッドに入ろうとしてきてまた吹き飛ばされてたよ」
「よく死ななかったなお前の爺さん」
「厳しいし五月蝿くしたらデコピンで気絶させてくるけど・・・・優しかったよ。何でいなくなっちゃったんだろう」
「ベル・・・・寂しいですか?」
「ちょっとだけ」
「地上に上がれば、今はアストレア様も私たちもいる。だから、大丈夫ですベル。」
「・・・・・うん」
少しというか、僕が泣きそうな声をしてしまったせいで空気を暗くしてしまった。
こういうときの対処法を僕は知らない。知らないから、おろおろしてしまって、アーディさんの顔を見上げたり、リューさんを見上げたりしていると、武器の整備が終わったヴェルフが手を叩いた。空気を入れ替えるように。
「うっし。ベル、次の武器、やっぱりお前の【星ノ刃】と同型にするぞ!」
「・・・・へ?」
「真似するような感じがするが・・・まぁ、カナリアはこういう入り組んだ場所じゃ使いにくいからな!なら双剣スタイルを視野にいれるべきだと俺は思うぞ」
「ふむ。では、素材に【オブシディアン・ソルジャー】の体石を使うというのはどうでしょう?この子は魔法の中に飛び込んだりとたまに危ないことをしますから、『魔法』の効果を減殺させる黒曜石を混ぜれば・・・と思うのですが」
「なるほど・・・じゃぁ、それプラス、ミノの角だな。まだ残ってるし。楽しみにしてろよ、ベル」
「う、うん!」
『ベル、チョロイな~あんな泣きそうな顔してたのに』
そう真上から聞こえた気がしたけど、ナンノコトデスカ?アーディさん?僕は泣いてませんよ?泣いてないったら!
「そういえば、最近、オラリオにアマゾネス増えてますよね。どうしてですか?」
「カーリーがロキを怒らせたから。」
「へ?」
ティオナさんが言うには【
「逃げないようにちゃっかり船沈めてたしね」
「何それ怖い!」
「そういえば、この間【重傑】がアマゾネスに群がられていましたね。【勇者】に関しては、セーラー服なるものを着たアマゾネスがその、こ、子作りを迫っていました」
「ハーレムってすごいね、リューさん」
「ベルが言えたことではありませんよ」
「リオン、顔真っ赤だよ?」
「き、気のせいです!」
そんないろんな話をしていると、僕のスキルに唐突に、今までとは違う反応が流れてきた。
「――――っ!?」
「ベル君、急にどうしたの?」
僕はそんなアーディさんの声など露知らず、走り出す。引っ張られるように、導かれるように。
「待ちなさい、ベル!」
「ベル様!?」
「どうしたってんだ!?」
■ ■ ■
ビキッ、と迷宮の一角で壁面に亀裂が走る。
「――――」
それを見つめるのは、僕。
「ベル君、急に走っていっちゃ駄目だよ」
「一体どうしたというのです?」
その亀裂は普通に考えれば、新たなモンスターが産まれ落ちようとしているのだと理解するはずだろう。
「おい、モンスターが産まれるんだろ、離れろベル」
「大丈夫・・・」
ビキリ、ビキリ、と音を立てて壁面を破り、最初に現れたのは、青白い肌の腕だった。
「ベル、離れなさい」
「なになに、どうなってるの?」
腕の次に肩、首、頭部、さらには一気に上半身と下半身が出て、地面に落ちた。
「人・・・?いや、人型のモンスター?リオン、知ってる?」
「い、いえ・・・・知りません」
それは四肢を持ち、女性を彷彿させる滑らかな曲線を描く人型の体躯。肩や腰を始めとした部分的に生えわたるのは無数の鱗。
「鱗・・・竜種とか?」
「リザードマンの亜種か?」
「亜種にしては、違いすぎませんか?鱗がなければ『人間』と間違われますよ」
「だよな」
頭部から伸びる青銀の長髪を揺らし、倒れ伏した体勢から、ゆっくりと顔を上げた。
「額に・・・紅石・・・・【
「待ってくださいアーディ。
そのモンスターは、虚ろな瞳で辺りを見回し、樹木で塞がれた天井を見上げる。
細い喉が、震えた。
ベルが、震えた。
「・・・ここ、どこ?」
「・・・『ヒト』だ」