兎は星乙女と共に   作:二ベル

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異端児

「―――ァははははははははははっ!!」

 

アーディの持つ魔石灯が唯一の灯りとなっているその空間で、冒険者のものとは思えない笑い声が響きわたる。その笑い声の主は、襲い掛かってきたリザードマン。最初は怪物の鳴き声で、次第にそれが人語の響きへと変わっていき、冒険者は唖然とする。

 

 

「悪かった悪かった!いきなり襲い掛かって悪かった!」

 

「そうだよ、いくらアポなしとは言え、いきなり襲ってくるのはどうかと思うなー!」

 

「いやいや、近頃また同胞が攫われたり殺されたりしてるんだぜ?警戒するに決まってるだろ?」

 

「でも何か納得いかないなー!」

 

笑いこけるリザードマンと、友人と接するように会話するアーディのその光景に、置いてけぼりの竜女とエルフと鍛冶師、そしていきなり魔法をぶつけてしまって、酷く動揺してエルフの影に隠れる少年がそこにはいた。エルフは溜息をつき、アーディに説明を要求する。

 

「アーディ、まずは説明を。何故私たちは今、モンスター達と共に火を囲い、宴をしている?」

 

魔石灯と石英による光源を得たその場所は、特大のルーム。

灯りを得たことで、ベルは落ち着きを取り戻すもそれでも、『出会いがしらに咄嗟に福音してしまった』ことに負い目を感じているのか、エルフの姉の袖を掴むのをやめない。同じようになんとも言えない顔をして渡された酒を飲む鍛冶師のヴェルフ。

 

「あー、ごめんねリオン。このヒト達も、いきなり私たちが入ってきたものだから、つい警戒しちゃって攻撃しちゃったんだよ」

「ついで殺されちゃたまったもんじゃねぇよ・・」

「いやー、悪い悪い。」

 

ベル達が出会った竜女と同じように流暢に喋るリザードマンに、『ごめんねベル君、びっくりさせちゃって』と謝罪するアーディと同じように『ぺこり』と頭を下げるゴブリンとハーピィ。

 

「ベル君が加減してなかったら、今頃、リドたち灰になってたよ?」

「怖ぇよ!いやまて、あれか?最近、やたら不思議な音がすると思ったらそれか!?」

 

『いやー、危なかった危なかった。あんな見えない魔法があるなんてなー』とケラケラ笑うリザードマンは、まったくもって気にしておらず、ベルに向かって手を振ってくる。そして、立ち上がり、焚き火代わりの魔石灯の前に立って代表して喋りだす。

 

「んっんっ、よし、じゃぁ、自己紹介ってやつだ。オレっちは、リド。見ての通りリザードマンだ。初めまして、冒険者。」

「はぁ・・・やれやれ。私は、リュー・リオン。地上では【アストレア・ファミリア】という派閥に入っています。種族はエルフ。」

「俺はヴェルフ・クロッゾ。まぁ、鍛冶師ってやつだ」

 

2人が自己紹介をし、リューは袖を掴んで気まずそうにしているベルの背中を押して、『ほら、あなたの番ですよ』と促す。ベルは、何とか立ち上がり、リドの目の前までやって来る。

 

 

「べ、ベル。ベル・クラネル。【アストレア・ファミリア】です。えと・・・よろしくお願いします。それと、さっきはごめんなさい。暗くてビックリして・・・」

 

ベルは自己紹介と共に、何のためらいもなく、手を差し出した。

その行為に、リザードマンも、周囲のモンスター達も目を見開いて固まる。アーディだけがニコニコとしていて、リューとヴェルフは成り行きをただ見守る。

勿論、その差し出された手が何を意味するのかなど、知っている。

握手。友好の証。しかし、人間から手を差し出してくることなど、今まであったか?と驚いてしまっている。

 

「えと?『握手』って・・・知らない・・・ですか?」

「い、いや、知ってるけどよ・・・・お、お前、いや、ベルっち、俺っち達が怖くないのか?」

「・・・・・どうして?」

 

 

『どうして?』その疑問の言葉が、彼らの心をさらに揺さぶる。

ベルはむしろ、『どうして握手してくれないのか?』と見つめてくる。モンスター達は、冒険者とアーディをチラチラ視線を送るも、3人とも肩を揺らすのみ。竜女も生まれたときに出会ったせいなのか、それがおかしい行為だということに気づきもしない。

 

「ベルっちは・・・牙が怖くないのか?」

「怖くないですよ」

「爪は怖くないのか?」

「僕にはナイフがあります」

「鱗はどうだ、この両目は!?全身くまなく怪物なんだぞ、怖くないのか?」

「・・・・怖くないですよ?」

 

揺れる。揺れる。揺れる。心が、瞳が揺れる。アーディとも、違う、目の前の少年は明らかに違うと本能が告げてくる。ベルはただ、手を、握手をしてくれるのを、待っている。リドは揺れる心が、『これは喜びなのだ』と結論付けて、やがて不細工に笑って

 

「・・・よろしくな、ベルっち」

 

と瞳を細めて、牙を剥いて、破顔して、握り返した。

火に照らされ、怪物と人間が握手を交わす。

 

「それと、さっきはオレっち達がいきなり襲い掛かったんだ。気にしないでくれ」

 

と、ベルの謝罪を受け入れて『こっちも悪かった』と返す。

 

次の瞬間―――わっっ!!と、静まり返っていた宴が、冒険者達が飛び上がるほどの大音声がルームを満たした。『有り得ないものを見る目』で固唾を呑んでいたモンスター達が、歓声を上げている。

 

拍手する赤帽子(レッドキャップ)のゴブリン。

地面に降り立ちはしゃぐ少女の半人半鳥(ハーピィ)

緩慢な動きで諸手を上げるフォモール。

ぴょんぴょんと跳ね回り、やがてベルに飛びついたアルミラージ。

 

喝采が、止まらない。

まるで人との親交を、今まで見たことがなかった『未知』に喜ぶように沸き立った。

 

「お前等、酒をもっと持って来い!!食い物もだ!!」

 

モンスター達が歓喜する中、リドが大きな声で号令を放つ。

 

「地上のお方、挨拶させてください!」

『ウゥ・・・・』

「ワタシモ!」

 

喋れる者、喋れない者、発音がたどたどしい者、多くのモンスターがベルの前に集まってくる。

 

「貴方の様な方にお会いできて光栄です、ミス・ベル」

「み、ミス?ち、違う、男!僕は男です!」

「で、では、ミスター・ベル!アナタと握手できて、トテモ嬉しいです」

「う、うん」

「ワタシ、ラウラ、ヨロシクネ」

「わぁ・・・ラミアだ」

 

ベルは自分を囲むモンスター達に何のためらいもなく、握手をしていく。自分よりも大きい体格であるフォモールの手も、おかまいなしに握り返す。ヴェルフ達は躊躇いがあるというのに、ベルだけが、まるで『かつての家族と再会した』かのように嬉しそうにしている。

 

「嬉しそうだな、あいつ」

「ええ・・・。喋るモンスターと暮らしていたことがある。というのは、やはり本当だったようです」

「疑ってたのか?」

「私たちが聞いたときには、既に他界していたので。それに今までその存在を確認する手段もありませんでした」

「あぁ・・・なるほど。確かに、それじゃあ仕方ないな」

 

ベルは、モンスター達に『ここはどうなってるの?』『この服は自作?』『リューさんはエルフだから、迂闊に触ると吹っ飛ばされますよ』なんて会話をしていて、もはやそこに、先ほどまでの緊張感などなかった。

そこで、また新たな気配が加わった。2つの影。1つは黒いローブを身にまとった人型の存在。さらにもう1つは、人型ではあるがどこか違った姿。

 

 

「コレは一体・・・?」

「リドから連絡があったから急いで来てみれば・・・・【象神の詩(ヴィヤーサ)】に、【疾風】に【涙兎(ダクリ・ラビット)】?」

 

灯りが届く場所までやってきた2人に気づいたのか、全員がその2人に顔を向ける。

 

「レイ、フェルズ!悪かった!敵襲じゃなかった!!」

「エエ、とても面白い方デスヨ!」

 

『こいつ・・・ベルっちって言うんだけどよ!初めてだぜ、『人間』から握手を求めてきたのは!!』と歓喜に満ちた顔で言うリドに、驚愕を浮かべる歌人鳥(セイレーン)のレイと、黒いローブの存在(フェルズ)。そして、そのベルと呼ばれるモンスターに囲まれている少年に顔を向けると、少年も気が付いたのか、レイのことを見て、目を見開いて、そして、駆け出した。嬉しそうに。

 

 

「お姉さぁぁぁぁぁあん!!」

 

飛びついて、抱きついて、押し倒した。

 

「エ!?エェ!?」

 

「お姉さん、お姉さん!」

 

嬉しそうに涙を流す、ベル。

固まるフェルズ。

開いた口が塞がらないモンスター達。

顔を赤くして困惑するレイ。

そして、驚きのあまり声を失い飲み物を噴き出す、アーディ、リュー、ヴェルフ。

 

「ベ、ベベベベ、ベル!!離れなさい!!」

「そ、そうだよベル君!離れて!!」

「おいおいおい!?」

「レ、レイ、良かったな、願いが叶ったぞ!?」

「エ、エェェ!?」

 

リューとアーディによって引き剥がされ、座らせられるベル。

未だフリーズするレイにモンスター達は冷やかしを入れる。

場は混沌と化していた。

 

 

「―――コレは一体なんなのだ」

 

とフェルズは呟いたが、誰も答えなかった。

 

 

■ ■ ■

 

 

「なるほど・・・つまりベル・クラネルは幼少期に彼等の同胞と生活していた期間があったというわけか。それも、歌人鳥(セイレーン)か・・・」

「えぇ・・・まさか、目の前にいる彼等の同胞だとは思いもしませんでしたが」

「リューさん、アーディさん、離してぇ」

「駄目です」

「だめー」

 

リューさんがフェルズさん達に、ことの経緯を説明し、漸く場の混乱は収まった。それでも、一部まだ興奮状態が消えていないが。

僕はリューさんの足の間に座らせられガッシリ抱きしめられホールドされ、アーディさんにも腕を組まれて、また同じ事ができないように拘束されてしまっている。リューさんに関しては耳元で『年上の女性なら誰でも良いのですか、ベル?』と言われ『アーディお姉さんにもしてくれないの?』とアーディさんに言われて顔を真っ赤にする。

 

「ふむ・・・となると、ベル・クラネルが異端児達に対してなんら躊躇いなく接することができるのも納得がいく」

「おい、レイ、いい加減、落ち着けよ」

「べ、べべべべ、ベェルしゃぁぁん」

「駄目そうですネ、リド」

「ああ、駄目だな」

 

ニヤニヤ。ニヤニヤ。ニヤニヤニヤ。

冷やかし、面白い玩具が見つかったような笑みを浮かべる異端児達に、しかし、古参の1人としてしっかりしなくては、微かに同胞の匂いがするが、それはそれ!と咳払いをして、新たに生まれた同胞を連れてきてくれてありがとうと礼を入れる。

 

「そ、それで、その・・・アナタの名前ヲ聞かせてもらっても、いいですカ?」

「・・・名前・・・ベル?」

「違いますよ、貴女の名前です。」

「・・・・?」

「ベル、お前が見つけたんだ。お前がつけてやれよ」

「えっ」

 

僕は唸る。

ヴィーヴル、竜、女の子、宝石、ガーネット、青と銀、琥珀の瞳・・・・。

ぱっと見た外見の特徴を片っ端から列挙するも、思いつかない。発汗を催しながら目をぐるぐるし悩みまくり、みんなに催促されるほど時間をかけた後震えた口を開く。

 

「ウィ・・・『ウィリュジーネ』・・とか?」

 

僕では考え付かないような、そんな大層な名前に、人間側は「ん?」とそろって首を傾げ、異端児側は「どういう意味デショウ?」と同じく首を傾げた。

 

「あー・・・ベル君、その名前ってまさか、英雄譚に登場する精霊の・・・?」

「うっ・・・」

 

名前が英雄譚の引用であることを、同じく英雄譚好きお姉さんのアーディさんに見抜かれ、カァーっと顔を赤くする。

 

光の翼を持つ精霊が登場する『異類婚姻譚(メリュジーネ)』。物語と同じ名前の光精霊(ルクス)が己を助けた英雄に恋をして、人間に成りすまして想いを遂げようとする物語だ。自分の沐浴を『見てはいけない』と告げるのだけど、約束を破った英雄に光翼を広げた精霊本来の姿を見られてしまい・・・その後は一度離れ離れになったり、町で暴れる竜を協力して退治したりする。

昔、アルテミス様に『覗きをすると酷い目にあうから、約束を破るんじゃないぞ』と読み聞かせられていた物語で・・・竜女で・・・ウィリュジーネ。

安直なのは、いけないだろうか?

 

「長いな、あと気取ってるしな」

「ベル、顔が真っ赤ですよ。そして気取ってます」

「気取ってるねぇベル君」

「ぐぅぅぅ・・・」

「イ、意味はわかりまセンが、気取っているカト・・・!」

「では、縮めてウィーネというのはどうだろうか?」

「おお、それいいなフェルズ!それなら気取ってないな!」

 

ヴェルフ、リューさん、アーディさん、そしてまさかのレイさんに好き放題言われた挙句に駄目だしされ項垂れる僕。お姉さんたちの目は、とても優しいものを見る目でした・・・。でも、『ウィーネ』の方がいいと・・・僕も思う。

 

 

「ウィーネ・・・?わたしの、名前?」

「う、うん・・・駄目かな?」

「ウィーネ・・・わたし、ウィーネ」

 

ウィーネは嬉しそうに顔を綻ばせて、何度も何度もその名を呼ぶ。その美しい相貌からこぼれ落ちた、何にも染まっていない無垢な笑みに、僕達は目を奪われ、見惚れていた。

 

「ウィーネ・・・とても良い名ですね」

 

レイさんはウィーネの目の前に手・・・ではなく、羽を差し出して『握ってください』と握手を求める。ウィーネは少しだけ躊躇って、ベルがしていたように、だけどそっと腕を伸ばして、静かに握る。レイさんはその青色の双眸を細めた。

 

「初めましテ、新たな『同胞』。貴方の誕生に祝福ヲ。私達ハ貴方ヲ歓迎します」

 

ベルたちとは、人とは違う、けれど、それを同じく異端である者たちが『同胞』として自分を迎え入れ受け止めてくれる。その優しさに触れ、その存在を認められ、ウィーネは笑みを浮かべて涙を静かに流した。周囲のモンスター達は祝福するように、頭上を仰ぎながら大きな啼き声を上げた。

 

 

 

■ ■ ■

 

明るい洞窟内で響き当たる美しい歌声。

その高く流麗な歌声に、ウィーネたちはたちまち喜色をあらわにし、人と怪物の輪の中心で、瞑目しながら歌を紡ぐ歌人鳥(セイレーン)

魔石灯と石英の光を浴びるその姿は、この世のものとは思えないほど優雅で、美しかった。

それは地底に広がる怪物達の魔窟にはありえない光景――いや、あるいはダンジョンが垣間見せる神秘と幻想の瞬間であるのかもしれない。

 

「ベル君、楽しそうだねぇ・・・」

「ええ、恐らく、今まで私たちが見たことがないような顔です」

 

半人半鳥(ハーピィ)の少女によって連れ出され、よくわからないまま振り回される少年を眺めながら、呟くリューとアーディ。ベルは嬉しそうに、時折、ラミアと手を取り合ったり、レッドキャップと手を取り合ったりし、ヘルハウンドに跨ったアルミラージは周囲を走り回り、フォモールとトロールが大きな拳で軽快に地面を叩き出す。一部のモンスターに耳打ちされ唆されたウィーネも、嬉しそうにベルのもとに駆け寄って、手を取り合う。

 

「君達【アストレア・ファミリア】が、大抗争が終わってすぐに動きが活発になったのは、彼の影響か?」

 

「否定はしません。私達はアルフィアの最期にあの子のことを託され、出会うために後始末を早める必要があった。」

 

「たった1年ですごい動いてたよね。みんな。闇派閥のアジトを探し回ったり、復興のために資材やら何やら手配したり・・・【ガネーシャ・ファミリア】の出る幕がないくらいだったよ。それを11人でやっちゃうんだもん」

 

「ですが、全てに手を出せたわけではない。その分、1年後には全員というわけではありませんが・・・都市外に出る許可をアストレア様が取ってくれました」

 

「彼が、アルフィアの子・・・か。ヘラのローブを着ても問題ないよう君たちが動いたのか?」

 

「それはアストレア様が動いてくれたみたいです。詳しくは教えてくれませんが」

 

『それと正確に言えば、甥だそうですよ』というリューの言葉に、確かに経産婦には見えないスタイルだよねとアーディは零す。ヴェルフは戦争遊戯前の酒場での話を思い出して静かに話に耳を傾ける。

 

「何故、彼女達は彼を置いていったのだ?」

 

「―――わかりません。しかし、2人が後悔していた、後悔してしまうきっかけが、あの戦いの中であったのでしょう。でなければ、アストレア様にベルを託すようなことは言わなかったはずです。」

 

 

それなりに幸せに暮らしていたある日、エレボスがやってきて、朝目が覚めると2人はいなくなっていた。

ベルに出会ったときには、すでにボロボロの状態だった。オラリオにつれてくるまで、懐いてくれるまで、大変だった。本人が覚えていないだろうが心無いことを言われもした。それでも、今笑えているのが嬉しいのだと、リューは言う。

 

 

「あの子は、たまに、自分でもよくわかっていないみたいですが他人の言動を真似する時があります」

「ただの物まねとかじゃなくて?」

「最初はそう思っていましたが・・・どうも違う。それに、よく誰もいない暗い場所を見て固まっているときもある。酷く怯えているときが・・・ある。」

「確かに、たまにだけど、雰囲気が違うって感じることがあるな。てっきり、虚勢を張っているのかと思ってたが」

 

『黒い魔道書を読んで以降は、うなされていることもあると、アストレア様が仰っていた。正直に言えば、心配なのです。』と、いつかベルがベルでなくなってしまうようなそんな気がするとリューは笑って異端児達と戯れているベルを見つめながら、時折遠いところを見てはそんなことを言う。

そこに、フェルズが、もし・・・と声を上げる。

 

「もし仮に、神エレボスが多少なりとも、子供にしか気づかないほどのか細い神威を放ってしまい、それが彼に影響を及ぼしているのだとしたら・・・それが彼の『トラウマ』というのに直結しているのではないだろうか?」

 

それにその黒い魔道書とやら・・・とさらに続ける。

魔導書は一度読んでしまうとその効力を失って白紙になる。それが普通だ、と。

 

「なのに、君の言うその『黒い魔道書』はページが黒く塗りつぶされていると・・・そして、彼の魔法に追加詠唱という形で神の名が食い込んでいる。・・・女神アストレアは何と?」

 

「アストレア様は、ベルがいない間に『黒い魔道書』を調べてはいるのですが、何もわからず仕舞い。ただ、光にかざすと複数のエンブレムが重なって浮かび上がって見えるそうです」

 

「複数?」

「黒すぎて分かりにくいのですが、恐らく3つ。」

「魔導書そのものを作り出すには【魔導】と【神秘】の発展アビリティが必須だ。その黒い魔道書がどのようになっているかはわからないが・・・あの戦いには【ヘラ】【ゼウス】【エレボス】の恩恵があったはずだ。神から直接とは言わなくとも、恩恵を得た血をインクとして使うことは可能なのではないだろうか。実際、自分の血をインクにする魔道具も存在する」

 

 

試しに女神アストレアにステイタスを更新する時のように神の血を垂らしてみるというのはどうだろうか?と提案するフェルズに、黙り込む3人。

 

「彼の見ているものが分からないが・・・仮に、仮に、魔導書を造り出す際に【呪詛】を組み込むことができるのであれば・・・・」

 

ありがた迷惑な話ではあるが、本人に代償を払わせ、他者の記憶を焼付け、技術の模倣や本人の知らないことを覚えさせることもできるのでは?と、そこで話を終わらせた。所詮は可能性の、仮定の話でしかないからと。

 

「・・・・はぁ」

「大丈夫、リオン?」

「えぇ・・・大丈夫です、アーディ。何かあれば、私たちがあの子を助ければ良い。『英雄となれ』そう言われましたから、あの子の義母に。」

 

であれば、あの子が立ち向かうときに精一杯支えてやるのが私たちの務めだ。それだけ言って、リューも話を区切り食事に手をつける。アーディも果実を食べていると、疲れたのかベルが戻ってきた。

 

「お帰り、ベル君。」

「・・・はい。何の話をしていたんですか?よく聞こえなかったんですけど」

「うーん・・・ベル君は可愛いなあって話。ね、リオン?」

「え、えぇ・・・そうですね。」

「うーん?」

 

 

 

本人が不安がるような、そんなことを言うわけにはいかない。

だから、今はまだ、自分達の胸に秘めておこうと3人は決めて宴を楽しむ。

恩恵も持たぬ子供が『人と怪物の共存』を成し遂げたのだ。問題は山積みだが、きっといつか、彼等異端児達の願いが叶う日がきっと来るはずだと、そう願って。

 

 

 

 


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