「ねぇーフィン~」
「なんだい、ティオナ。珍しく難しい顔をしているね」
【ロキ・ファミリア】本拠、黄昏の館、団長執務室にて、ダンジョンから帰還したティオナが報告をしに来ていた。その表情は、どこか言いにくそうな、どう言えばいいのかという歯切れの悪いものだった。
「どうしたのだティオナ?今日はあの子・・・ベル・クラネル達とダンジョンに行っていただけではなかったのか?」
「稼ぎが悪くて落ち込んでおるのか?」
そのティオナの態度に違和感を感じて、話してみろと促すみんなのリヴェリアママと、稼ぎが悪いから報告がしにくいのかと髭を摩りながら言ってくるガレス。それに対して、ティオナは『そういうんじゃなくてさー』と言って、一度、ロキの顔を見て、リヴェリアの横に立っているアイズを見て、深呼吸をして、改めて言葉にしようとする。
部屋にいるのは、フィン、ガレス、リヴェリア、ティオナ、ティオネにそして偶々リヴェリアに用があって来ていたレフィーヤの6人。
「その・・・信じてくれないかもしれないんだけどさー」
「ンー、とりあえず、言ってみてくれないかい?」
「嘘かどうかなんて、ウチやったらすぐわかるで?言うてみいや」
「うん、えっと・・・」
意を決して、書庫から引っ張り出してきた御伽噺を自分の胸の前に出して、声を上げた。
「喋るモンスターに会った。って言ったら信じる?」と。
生まれるのは長い、長い沈黙。
この子、今何て言った?と彼女の姉がこぼしたような気がした。
何か、とんでもない爆弾を投下したような?という空気が纏いだす。
「・・・・ティオナ、聞かせてくれ。それは、例えば一部の鳥のように『人の言葉を真似する』類のモンスターかい?」
「・・・違うよ、真似して喋ってるわけじゃない。」
「惑わすためにそういう習性をとっているというのは?」
「そういうのでもないと思う。私たちと同じ、えっと・・・知性でいいのかな。それがあるんだと思う。」
「・・・とりあえず、何があったのか、教えてくれないかい?」
重苦しくなった空気の中、ティオナは語る。
20階層まで行って帰ってくるという形での探索。その際に19階層でベルが何かを感じ取って走り出し、目の前の壁に亀裂が入り、やがて生まれてきたのは所々にある鱗に青白い肌に琥珀色の瞳、額に宝石があるもその姿は手足のある人型の存在。額の宝石から、『
「あの子は、『ヒト』って言ってた。それに、私たちが普段戦ってるモンスターみたいな嫌な感じがしなかった」
「黙っていようとは、思わなかったのかい?」
「隠そうと思っても、私じゃ無理だよ・・・」
『・・・ヒトだよ、僕と同じ反応がする』
目の前で生まれたモンスターを見つめながら、ベルははっきりとそう言った。
「・・・人とモンスターが共存する、この御伽噺みたいなことって可能だと思う?」
「ありえないね。」
即答。ティオナ自身もそう言うだろうという事は分かっていた。でも、どうしてか聞きたかったのだ。
「御伽噺は御伽噺だよ、ティオナ。例え彼に『借りを今、返せ』って言われても、無理だ。あの迷宮を攻略するために、闇派閥を倒すために、結託するとして、その後は?」
団員達の士気は下がらないか?
離反する者は?
派閥の中には家族や恋人、仲間を奪われた者が数多くいる。
彼等を納得させることは本当にできるのか?
「だから、ありえないんだよ。少なくとも・・・いや、確実に、内輪揉めも起きる。それほどまでに人類と怪物の軋轢は深い。だから、共存なんて、そもそもありえないんだよ」
フィンは腕を組んでティオナをじっと見つめて、淡々と語る。
「例え・・・いや、本当だとしても、僕はそれを信じたくはないよ。」
『障害』にしかならないからね。と言って、フィンは長く息を吐いて、天井を見上げた。
もし仮にフィンがモンスターと繋がっていたとして、それが明るみになればその瞬間で、今まで積み上げてきたものは崩れ去り、【勇者】は自己崩壊を起こし、フィンの野望はそこで潰えるだろう。ティオナは別に『手を取り合いたい!』という意味で言った訳ではなく、あくまでも『どう思う?』程度で聞いただけだ。それもわかっている。だから、もう一度ティオナに『重たい空気にしてすまなかったね』と微笑んで、ティオナも『気にしなくていいよ、なんとなく、聞いてみたかったから』とだけ言ってそこで切り上げた。
「あ・・・でも」
「ん?まだ何かあるのかい?」
「えっと・・・その『喋るモンスター』が昔、都市の外っていうか、密輸?されたとかで、フィンは何か知らないか聞いてみて欲しいって言われたんだけど・・・」
ま、知らないよねー。とティオナは腕を頭の上で組んで、部屋を出ようとした。
「密輸・・・・よくわからないけど、可能性なら【クノッソス】しかないと思うよ」
「ん。だよね」
それなら、アルゴノゥト君が一緒に暮らしてた『喋るモンスター』はあそこを通ってきたのかーと小声で呟いて、そして、完全に執務室を出て行った。いつも通りの彼女の雰囲気で。
「リヴェリア、今の聞こえたかい?」
「聞こえないほうがよかったと思うが?」
「・・・それで、あの御伽噺か。ロキ、著者ってわからないのかい?」
「知らんなぁ。広めたっちゅうか、バラ撒いたんはヘルメスやろうけど。まぁ、その御伽噺が事実やとして、可能性としてはゼウスか、それこそアストレアなんちゃう?それより、アイズたん、前のドチビがアレスのアホに攫われて、それを追いかけて・・・」
世話になったっちゅう『エダスの村』で、あの子と何があったん?
帰ってきてから、なんや考えごとしとる時間増えてるで?
なんて、唐突にロキが黙り込んでいたアイズに聞いてくる。ありえない話をティオナが話したときも、何ら雰囲気を変えることもなく黙っていたアイズにロキが、からかうわけでもなく笑みを浮かべて聞いてくる。少し黙り込んでいたアイズが、気が付けば口を開いて、その村での出来事を話した。
「あの子が、小さい頃に『喋るモンスター』に出会って、生活してて、あの子にとってはそれが普通で、オラリオにもいると思ってたらしいんだけど、全然違ってて、私はつい、『怪物のせいで誰かが泣くのなら――私は怪物を、殺す』・・・って言ったんだと思う。そしたら、あの子が『じゃあ、魔石が埋まった人は倒さないんですか?』とか『なら、神様に家族を奪われた僕は、どうしたらいいんですか?』って言われた。『僕には、違いがわかりません』って言われて、何も言い返せなくて・・・それで・・・えっと」
24階層での一件以来、アイズはベルともよくダンジョンには行っていた。それはレフィーヤも知っている。というか、一緒について行ってた。そして、『あの魔法やっぱずるいです!』と思っていたし、2人は仲が良さそうに見えたから、揉めたというのを聞いて驚いた。いや、内容が内容だけど。
「それで?その続きはどないしたん?アイズたん?」
「えっと、村長さんの家で、一緒にご飯を食べてたんだけど、私が間違えてお酒を飲んじゃったみたいで・・・」
あの子を、ベルを、泣かせてた・・・みたい・・・です・・・。と少しずつ、自分がやらかしたことを思い出して、どんどん暗くなり、最後には膝を抱えて座り込んでしまった。
「あちゃー・・・アイズたんお酒飲んでしもうたんか」
「その、水と一緒に置いてたから・・・分からなかった・・・」
「あの子、反撃せえへんかったん?」
「聞いたら、『反撃して家が吹き飛んだらどうするんですか!?僕のお義母さん、お爺ちゃんがセクハラするたびに家を吹き飛ばしてたから、叔父さんがいつも巻き添えくらってたんですよ!?』って言われた」
話を聞いていたレフィーヤの脳内では、『僕のお義母さん、福音って言うだけで明日には新居を叔父さんに作らせてるんですよ。3日もったら凄いほうです!』と熱弁するベルの姿が映っていた。
「ま、まぁ・・・アイズ、その件はその件で彼に謝罪すればいいさ。彼には彼で思うところがあるみたいだし。」
「彼がモンスターとの共存を望んでいたとして、女神アストレアは動くのか?」
「ンー、彼女は彼に対しては基本的に自分の意思で動くようにさせているみたいだからね。それこそ、『都市』を巻き込む形にならない限りは、見守るんじゃないのかな?」
流石に、『何もするな』なんて形で借りを返せとか言われても困るけどね。と乾いた笑い声を上げるフィンは、しかし、微かに、親指に疼きを感じ取っていた。
■ ■ ■
ベルとリューが、異端児の隠れ里から帰還したその翌日。
女神は顔を赤くして悶絶していた。
『アストレア様・・・大好きー!!』
寝ぼけ眼に、抱きついてきて、少女のような笑みで、そんな言葉を零距離で喰らったのだ、彼女が、女神が耐えられるはずがなかったのだ。
『わ、わたし処女神よね?そうよね?う、うん!だから、寝ているこの子を襲うようなことはしないわ!神に誓って!!』などと自分が神であるはずなのに、一体どこの神に誓うのかとツッコミが入りそうではあるが、必死に理性で自分を律した。
「うぅぅ・・・・ベルはずるいわ」
零距離爆撃を喰らってフリーズした瞬間、ほんの一瞬、なにやら幽冥の神、『我こそは、絶対悪!!』なんて言っていたエレボスが見えた気がしたけれど、『こっちこいよー』なんて手を振っていた気がしたけれど、冗談ではない。あなたのところに行くくらいなら、私はこの子と一緒にいるわ。当たり前よ!!と必死にエレボスと目線を合わせないようにした。いや、ほんとマジで、送還したはずよね?と疑うレベルで。
ベルを背負って、部屋に行き、『お風呂はもう明日でいいわよね?』と軽く拭いてやり、浴衣に着せ替えてやり、ベッドに寝かせ、自分は『起きないかしら?』とちょっと期待しながら、自分も明日一緒に入ろうと思い、ネグリジェへと生着替えをしたというのに、起きる事がなく終わってしまい、がっくりと頭を垂れた。
「起きてくれないのかしら・・・私だけ据え膳じゃないかしら?」
結局は、いつもの様にベルを抱き枕に、胸元にその顔をやるように抱きしめて寝るつもりが、ベルのお腹を枕にするようにベッドの中に潜り込み、抱きしめ、うつ伏せ状態となって呼吸の動きで、温もりで、さらに悶々。
「アリーゼ達はよくて、私では駄目なのかしら・・・・?」
いや、きっとそんなことはないはず。だって、もっとなにかこう・・・言おうとして?迷って?『大好きー!!』しか言わなかったのだから、きっともっと何か別のことを言おうとしたのだろう。それこそ、【不冷】がヘファイストスに言ったようなこと・・・を・・・。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
バンバン!!ジタバタ!!
ベルを抱きしめたまま、ベッドの中で悶える、女神アストレア。
彼女は内心、『この可愛さの化身を、アルフィア、あなた、置いていったの!?嘘でしょう!?』と勝手に八つ当たり。もぞもぞとベルの上を這い寄るように掛け布団から顔を出して、ベルの顔を覗くも、まだ起きる気配はなし。もう一度潜り込んで、お腹に顔を押し付けたりしながら、悶々とする。今、この顔を見せるわけにはいかない。けど、寝ているなら、好きにさせて欲しいという理性ギリギリ・・・いや、もう危ないところまできているけれど。好きにさせて欲しかった。下着に手を出していないだけ許して欲しい。と女神は思った。
「アルテミス・・・あなたもこれを喰らったことあるのかしら?」
いや、ナイナイ。ナイナイナイ。私だけよね?そうよね、そうだと言って?
もし私がフレイヤだったらそれこそ、伴侶にしたいとか言っていたかもしれない・・・などと考えてまた顔が暑くなって『うわぁぁぁぁ!?』とジタバタ。お腹に顔を押し付けてグリグリ。
「ベルもベルよ?どうして、あの子たちには凄いことされておいて、私にはしてくれないのかしら?」
いや、キスより先をしているといえばしているが、以前、ランクアップした時の短い2人だけのひと時だけだ。それ以降は、そういうことはない。勿論、別々で寝るということはほとんどないし、お風呂も一緒に入る。というか、ダンジョン以外で一緒にいない日などないレベルだとさえ思う。
「これはあれかしら、あの子達だけ先に行っているから・・・そう思うのかしら?」
いっそ襲ってしまおうかしら?
いや、駄目よ。そんなことはしては駄目。だって、私は何の神か思い出して、声を大にして言って御覧なさい?と心の中で自分に問うてみる。
「私は・・・女神アストレア。『正義』の女神・・・」
だから、襲うなんてことは、駄目。それは、駄目よ。アストレア。
『正義の女神様が悪に落ちるとか見てみたいわー』とかエレボスが言いそうな気がしたけれど、そういうことではないわ。
「・・・・そう言えば、この子がオラリオに来てから、2人きりになることってあったからしら?」
ダンジョン以外で言えば、ホームやちょっとした買い物に行くくらいだ。この子は必ず私が出かけるときは付いていこうとする。しかし、それでも、一緒に寝ている時は、夜中に抜け出しては、輝夜に誘われてお酒を飲んでいたり、いつの間にかリューがベッドからベルを取り上げて連れて行ったり、アリーゼがベルと私が寝ているときに潜り込んできたりなんてこともある。どういうことだ?
「2人っきりになれるとき・・・なくないかしら・・・・!?」
それに気が付いて、ガバッと掛け布団をめくり上げるように膝立ちになる。頬に手を当てて、『あっれー?おっかしーぞー?』なんて考えて、これはやはり、主神としてガツン!と
「でも、でもぉ・・・」
「うぅー・・・ん・・」
「―――ッ!?」
起こしてしまったかしら?と、膝立ちの状態から体を前に傾けていって、ベルの顔に自分の顔を近づけて、確認をする。よっぽど疲れていたのか、それとも異端児達に会えたことが嬉しかったのか、幸せそうな顔で眠っていた。
「すぅー・・・」
「ほっ・・・良かった・・・」
何が良かったのだろうか。自分でもよくわからなかった。
もしここにアルテミスがいたら、『おい、離れろ!不潔だ!!不純だ!!聞いているのか!?』なんて怒っているかもしれない。しかし、そんなこと知ったことではないのだ。だって、私の眷属だもん!!と心の中でその豊かな胸を張って宣言する。
「私の眷属・・・私の・・・ベル・・・私もベルに『お姉ちゃん』と言われてみたい・・・・ふふふ・・・はっ!?い、いけないいけない。」
ニヤけている自分の頬をつねって、顔を引き締める。これではフレイヤみたいになってしまう。それは駄目だ。
この子なら『アストレア様になら、魅了されてもいいです!』なんて言いかねないけれど、それは駄目だ。絶対に。そういうことではないのだと、己に律する。そもそも、魅了なんてできないが。
「フレイヤが・・・この子を欲してはいるのよね・・・」
『魂が純粋で綺麗で、何か黒い靄がかかっているけれど、それが晴れたら、伴侶にしたいくらい欲しい。でも・・・』仮に無理やり奪ったり、それこそ都市そのものを魅了して、我が物としようとした時点で、ベルの魂の輝きは完全に崩壊する。だから、攻略難易度は『ルナティック』だとかのフレイヤはこの間行った女神のお茶会で言ってのけたのをふと、思い出した。
「そもそもあげないけど・・・。」
そのルナティックな難易度のキャラを私は、すでに攻略済みなの、どう?フレイヤ?悔しいでしょう?と女神は心の中でドヤ顔をしつつ、それでも『頂戴?』なんて言おうものなら、次のお茶会のときにでもベルを連れて行って目の前で接吻しているところを見せ付けてやろうかなんて考えてしまう。
「ベルは私の・・・ベルは私の・・・私達の、家族・・・だから、あげないわ・・・」
少しずつ頭が冷えてきて、もう一度掛け布団を被って、今度は自分の腕をベルの浴衣の中に通して素肌に直に触れるようにして、抱きついてお腹に耳を当てる。
「そういえば、異端児・・・ベルにとっては、かつての家族の同胞に会ったのよね。私としては、どうするべきなのかしら。」
リューは『ベルは、ベルなりの正義を貫けばいい。見つけていけばいい』そう言っていた。私もそれでいいと思っている。それは間違いない。ただ、密輸があったことを考えればあの人工迷宮が関わっていること、そして闇派閥が関与していることは明白だ。それが、もしも、都市を巻き込むようなことになった場合、自分達はどうする?
「都市の秩序を守るのは私たちの役目ではある・・・だから、その場合、この子とは対立してしまうことになるのかしら・・・」
そうなれば、ベルはきっと涙を流しながら迷いに迷って、自分達に刃を向けるのかもしれない。だけど、傷つけるなんてできなくて、刃を捨てて、全てを一身に引き受けてボロボロになってしまうのかもしれない。どっちにせよ、ベルにとっては辛い決断を強いられてしまうだろう。それでも・・・
「私が書いたあの御伽噺が、些細な、小さなものでしかないけれど、何らかのきっかけになってくれたら・・・」
そうなってくれたら、どれだけいいだろうか。
難しいことを考えて、少し悲しくなってきてしまって、つい強く抱きしめてしまう。
「ただでさえ、黒い魔道書が気がかりで仕方ないというのに・・・フレイヤの言っていた『魂を覆っている靄』それはきっと、エレボスから放たれていたであろう微かな、神意なのかもしれない。ステイタスには未だ変なことは起きてない。でも、嫌な感じはする・・・」
不安なことも多い。
はぁ・・・と溜息を付いて、ベルのお腹に顔を埋めるようにモゾモゾとして、ベルが起きるまで、もう一度眠ってしまおうかなんて考えていると、抱きしめていたベルが動き出す。
「うぅぅ・・・ん・・・?アストレア・・・様・・・い、ない?」
あ、不味い。
起きたときにいないというのは、ベルにとっては嫌な事を、トラウマのスイッチになりかねない。それを思い出して、慌てて、モゾモゾ!と体を浮かせ、四つん這いになってベルの方へと這い出る。
「――――?」
自分の体の上に違和感を感じたのだろう。
捲り上げようとして、掛け布団に手をかけたところで、私が顔を出す。
「―――わっ!」
「わぁ!?な、何してるんですかぁ!?」
思っていた通り、驚いてくれた。そして、安心したような顔をしていた。
その顔を見て、私は顔が熱くなるのを覚えながら、ベルに飛びついて胸に顔を押し付けるようにして、これでもかと撫で回す。
「ア、アストレア様、どうしたんです、か!?」
「ふふふふ、ベル、昨日あなた、私に何言ったか覚えてないの?」
「えぇ・・・っと?何か、アストレア様に喜んでもらいたくて、何かを言ったような?」
どうやら、本当に寝ぼけていたらしい。碌に覚えていない。それはそれで、少し、ムッとした。
少し、そう、少しだけ、悪戯をしてやろう・・・なんて考えてしまった。
「教えてあげましょうか?」
「え、えと・・・?あ、その、アストレア様、その、柔らかいのが当たって・・」
「当ててるのよ」
「ありがとうございますぅ・・・」
見慣れているでしょう?触りなれているでしょう?何を今更?と思いつつも、いや、真顔でいられてもそれはそれで悲しいと思ってしまった私がいた。
「えと・・・?僕、アストレア様を怒らせるようなことを?」
「いいえ?嬉しかったわ?でも、ベルったら寝ぼけて、私には何もしてくれないんですもの」
そうだ。ベルからは、してくれていない。これはどういうことだと抗議する。
「ごめん、なさい?」
「ベル、私に『大好きー!!』って言ったのよ?別に何か言おうとしていたみたいだけれど・・・何を言おうとしたのかしら」
「うーん・・・・」
『そりゃぁ、アストレア様は大好きですけど・・・』と目線をずらして、当たり前の様にこの子は言う。
こ、この子はぁぁぁ!?と声を上げたいが、必死に堪える。
「顔、赤いですよ、大丈夫ですか?」
バレてしまっていたわ。残念。
「ねぇ、ベル?」
「は、はい?」
そうだ、悪戯心に、フレイヤに習って、耳元で囁いてみよう。
「あなた・・・
「あ、あ、あぁぁ・・・!?」
見る見るうちに赤くなっていくベル。そして、また顔が熱くなる私。
なるほど、これがいいのね、フレイヤ。え、違う?でも、私は好きかもしれないわ、こういうの。
「今度・・・2人でどこか遊びに行きましょうか」
「うぅぅぅぅ・・・・・へ?」
「で、でも、オラリオの外に出るのは難しいんじゃ?」
「大丈夫よ、全員で行くわけじゃないんだし。」
「アストレア様と2人きり?」
「そう、2人きり。デートよデート。いやかしら?」
『嫌じゃないです・・・』と顔を赤くしたベルは、私の背中に腕を回して、顔を埋めるようにして、二度寝をしようとした。
「駄目よ、二度寝は。」
「え、えぇ!?」
「寝たら悪戯しちゃうわよ?」
「うぐ・・・」
「あら、ちょっと期待した?」
「し、してません!!お、起きました!!オハヨウゴザイマス!!今日もアストレア様はスケスケで綺麗です!!」
ネグリジェのことを言っているのだろうか・・・半目になってベルを見て、自分のことを見るも、たしかに透けてはいる。しかし気にしない。だって、女神だもの。
「えいっ」
「わっ!?」
ベルを押し倒して、また抱き枕のようにして、横になる。
「あ、あの・・・二度寝は駄目だって・・・」
「ゴロゴロはいいの。ゴロゴロは」
「え、えぇぇー・・・」
「約束ね?今度、時間ができれば、2人で出かけましょう。」
『はぁい』と観念したように、だけど、期待するように、抱きしめ返して、私達は眷属達が起きだす音がするまで、ゴロゴロとする。