兎は星乙女と共に   作:二ベル

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サブタイトルに特に意味はないです


質疑

 

 

 

「それで、聞きたいこと・・・なんですけど」

 

おずおずと僕とアーディさんが並んで歩く一歩後ろを歩いているレフィーヤさんが質問をしてくる。内容は、先日ティオナさんとダンジョンに行ったときの出来事についてだ。

 

「本当にいた・・・いえ、いるんですか?『喋るモンスター』なんて」

 

僕達はルームに入って、周囲に誰もいないことを確認して、アーディさんに目線を送る。

 

―――どうしたらいいですか?

―――君が決めていいよ?

 

うーん、と唸って僕はレフィーヤさんの顔をチラっと見てみると、真剣な顔で見つめていた。僕が答えてくれるのを待っていた。

 

「レフィーヤさん」

「何ですか?」

「――その質問は、フィンさんに探るように言われたんですか?」

「そんなわけないじゃないですか。ティオナさんに本当なのか気になって聞いてみたら『本人に聞きなよ』って言われたんですよ」

 

誰かに言われたんじゃなくて、気になって仕方がなかったんです。そう言葉が返ってきて、僕はレフィーヤさんの目を見て、質問に答えることにした。

 

 

「いますよ、『喋るモンスター』は」

「・・・そうですか」

「と言っても、全員が全員、言葉を話せるわけじゃないですけど。」

「はい?」

「カタコトだったり、流暢だったり、まったく言葉を話せなかったり、いろいろです」

「じゃ、じゃあ、その・・・どうして、モンスターを助けたんですか?」

 

その質問に、少しピクっとして、すぐに僕は言い返す。何がいけないの?と思ったから。

 

「どうして、助けちゃいけないんですか?」

「だ、だって、モンスターですよ?」

「あのヒト達は、僕たちと同じように笑ったり、怒ったり、泣いたりできる。それでも?」

「・・・・・」

「モンスターにも襲われる、冒険者にも襲われる。それどころか、捕まって、売り物にされたりもする。それで苦しんでるのに、見捨てるなんて、僕にはできない・・・」

 

『喋るモンスター』に命を助けられた僕は、一緒に暮らしていた僕は、そんなこと、できない。

ダンジョンのルーム、その天井を見上げて、僕は何も間違ったことはしていないと正直に伝える。レフィーヤさんはただただ、真剣に聞いてくれている。たぶん、潔癖なエルフであるレフィーヤさんが話しを受け入れるのは難しいと思う。それに、たとえ受け入れたとしても、【ロキ・ファミリア】が、フィンさんがどうするのかなんて、僕だって知っている。

 

 

「僕にとって『喋るモンスター』は、一種族と何ら変わりませんよ?」

「う・・・・」

「聞く耳を持たず、目を背け、力でねじ伏せることは、簡単です。でも、それをしたら、僕達は怪物以下の蛮族に成り下がる」

「うぐっ・・・」

 

 

『ぐぬぬぬぬ』と揺れているレフィーヤさんに、くすっと笑みを浮かべて、僕は最後に言った。

 

「『助けてもらった僕』が、助けなかったら、見捨てたら、怒られちゃいますよ」

 

お義母さんに。叔父さんに。アルテミス様に。村の大人達に。

 

 

話を終えて、レフィーヤさんはがっくりと力を抜いて

『わ、わかりましたぁ・・・実際見ていないものを私がどうこう言えるものでもないですし。聞きたかったから聞いただけですし。すいません、ありがとうございます』

と言って、最後に聞かせてくださいと、アイズさんと何があったのかを聞いてきたので、その話もした。

 

「えと・・・」

 

怪物(モンスター)のせいで誰かが泣くのなら――私は怪物(モンスター)を、殺す(・・)

『それなら、僕は神様のせいでまた失うのなら――僕は神様を、殺す』

 

あの村で祭られていた『鱗』の前でした言い合い。

結局、お互いに何があったかなんて話してはいないけど。

 

それを聞いたレフィーヤさんは絶句。アーディさんはアリーゼさんかリューさんあたりから聞いていたのか『うわー』なんて言ってる。

 

「ベル・クラネル・・・『神殺し』は大罪ですよ?」

「知ってますよ。それに、もうこの下界にはいないから、僕は何もできませんよ」

「エェ?」

「神様が僕の家族を奪った。連れて行かれた。僕だけが、置いていかれた。復讐したいと思ったって、下界にいないし、そもそもできないんですよ」

「何があったんですか?」

「内緒」

 

もう話すことはないですよ、と言うようにアーディさんの手を取って、ズンズンとダンジョンを歩き出した。とりあえず18階層に行こうと思って。固まっていたレフィーヤさんは、ハッとして『ま、待ちなさーーーーい!』と叫び声を上げて、追いかけてきた。

 

 

「ベル君、ベル君」

「アーディさん?どうしたんですか?」

「君、歳のわりには、難しいこと言うんだねぇ」

 

ニヤニヤと顔を寄せて、そんなことを言ってくる。

 

「か、からかってます?」

「いーやー?ギャップっていうのかな?私は好きだよ。そういうの。」

 

へぇ、可愛いだけじゃないんだぁ。なんて繋いでる手をにぎにぎしながら、呟いているアーディさんに、やっぱりからかわれてるって思ってしまった。僕の周りにいるお姉さんは、意地悪さんばかりだ。

 

 

「ま、待って、待ってください、ベル・クラネル!」

「『ベル』でいいですよ、レフィーヤさん?」

「う、で、では、ベル。その、さっきから、普通に怪物(モンスター)を倒してますけど・・・躊躇いとかないんですか?わ、私その・・・」

「いや、だって・・・僕はスキルのせいで、区別ができますから・・・。リドさん・・・えっと、その『喋るモンスター』のリザードマンのヒトが『躊躇わないでくれ、迷わないでくれ。死なないでくれ』って言ってたので。だから、レフィーヤさんもちゃんと戦わないと、死にますよ?」

「うぐ・・・」

「やっぱり、聞かないほうがよかったんじゃ・・・?」

「い、いいえ!モヤモヤするよりマシです!【我が生涯に一片の悔いなし】ってやつです!」

 

フンス!と鼻を鳴らすレフィーヤさんに、僕はむしろ『聞いたことでモヤモヤしてしまうんじゃ・・・』と思ったし、最後のその台詞は、すっごく何か違う感じがしたけれど、もう、何も言わないことにした。

 

「と、ところで、どうして2人は手を繋いでいるんですか?」

「私がベル君のこと好きだからだけど?」

「僕はこの方が安心するから・・・」

「じゃ、じゃぁ、バベルのベンチに一緒に座っていたメイドさんは?」

「ベル君が雇ったの?」

「アーディさん面識ありますよね!?違いますよ!?新しく派閥に入ったんです!!それで、ホームの給仕とかをして欲しいってアリーゼさんが言ってたから、あの格好ってだけなんですぅ!」

「アリーゼの趣味?」

「はい!」

「【アストレア・ファミリア】っておかしな派閥ですよね」

「【ロキ・ファミリア】に言われたくないですよ!?」

「な、何をぉぉぉお!?」

 

 

 

■ ■ ■

 

18階層【リヴィラの街】

 

「おう、涙兎(ダクリ・ラビット)。珍しいな、お前が街に来るなんて。今日は保護者はいねえのか?」

「今日は私が保護者代理だから!」

「げ、【ガネーシャ・ファミリア】!?な、何もいかがわしいものなんてねぇぞ!?」

「私何も言ってないんだけど・・・」

「アーディさん、何かしたんですか?」

「うーん?お姉さん別に何もしてないけど?」

「ひっ、こ、怖いです、顔が怖いですアーディさん!?」

 

今日はオフだから、そういうのナシだから、一々そういう反応しないで。とアーディさんはボールスさんに言っているけど、ボールスさん、顔が引きつってるよ・・・。

 

「・・・ベル、【ガネーシャ・ファミリア】がどういう派閥かしらない訳じゃないですよね?」

「えと、確か、都市の憲兵ですよね?」

「では、このリヴィラには何があるか知ってます?」

「うーん?」

「・・・以前来た時、何て教えられてたんですか?」

「ぼったくりタウン」

 

僕の発言にアーディさんは固まり、レフィーヤさんは吹き出した。そして、ボールスさんは【ガネーシャ・ファミリア】のアーディさんがいるから余計なこと言われたくないのか、ものすごい速さで僕の首根っこを掴んで、店の奥に連れ込んで、小声で話してきた。

 

「よ、よよよよ、余計なこと、言うんじゃねぇよ馬鹿野郎!」

「だ、だって!?」

「ほ、ほら、これやるから、黙ってろ!な!?」

「何ですかこれ?水晶?」

 

小瓶の中に入った小さな水晶に思わず目を奪われてしまう。

 

「何だ、見たことねぇのか。水晶飴(クリスタル・ドロップ)つってな、地上じゃ瓶詰め価格で3万ヴァリスはくだらねぇ代物だ」

「そ、そんなに!?で、でも、どうしたこれを!?お高いのに!?」

「・・・口止め料金だ。あとは、前にモルドの野郎がちょっかい出してたろ。それの侘びってことにしといてくれ。いいか、お前は何も聞いちゃいない。『ぼったくりタウン』なんて教えられてない。いいな?」

「本当に貰っていいんですか?後から金払えとか・・・」

「言わねぇよ!!・・・女神アストレアが喜ぶぞ」

「リヴィラは最高の街です!」

「よし、交渉成立だ。持って行け!」

 

 

秘密の会談が終わり、店の奥から2人で表に出る。

ルンルン気分で水晶飴(クリスタル・ドロップ)を大事そうに持って帰ってくる僕を見た年上の女性2人は『うわぁ・・・』という表情を隠せていない。

 

「ベ、ベル君・・・?それは?」

「落ちてました!」

「奥で何を話していたの?」

「リヴィラは最高の街です!!」

「そうだろう、そうだろう。いつでも、利用してくれよな!ガッハッハ!」

 

 

「「買収されてるぅ!?」」

 

 

 

 

 

「それで、ボールスさん?最近、冒険者がいなくなったとか何か聞いてない?」

「あん?んなもん、冒険者なんだから、どっかでくたばったとかあるだろ」

「いや、そうじゃなくてさ。」

「あー・・・いや、待てよ。なぁ、【涙兎】、おめえ、この間、神ヘルメスとモルドの野郎と繁華街で飯を食ったんだよな?」

 

モルドの野郎から聞いたぞ?とボールスさんが顎に手を置きながら聞いてくるので、素直に肯定する。

 

「・・・・【涙兎】この間の炎鳥の依頼は参加してたよな?」

「はい、参加してましたよ?」

「その時、モルドの野郎も参加してたんだけどよ、見かけたか?」

「いいえ?見てませんけど」

 

ボールスさんは黙り込んで、頭をかきながら、『いや、まさかな』とか言い始めた。

 

「どうしたの?そのモルドって人がどうかしたの?」

「いや、それがよ、その依頼の後から、街に戻ってねぇんだよ。報酬も渡せてねぇって報告があってよ」

「はぁ?」

 

他にも参加した奴、してない奴も含めてみなくなった奴が多い気がするな。なんて言い出すボールスさん。アーディさんは目を細めてボールスさんに質問していく。

 

「他に見た冒険者は?」

「多すぎてわからねぇ」

「見かけた派閥は?」

「わっかんねぇ。それこそ、ダンジョンじゃ今日会った奴が明日には死んでるなんて普通にありえるわけだしよ」

「・・・・」

「おい!『こいつ使えねぇ』みたいな顔すんじゃねぇ!!【涙兎】、おめぇもだ!!」

「リヴィラは最高の街です!!」

「それはもういいんだよ!!」

 

溜息をついたアーディさんは、『ここにいてもしょうがないし、撤収しよっか』と言って、僕の手を引いてリヴィラを出る。

 

「ベル君?買収されちゃ駄目だよ?君だって、アリーゼ達から『自由に』していいって言われていても、正義の眷属なんだからさ」

「うっ・・・」

「買収された物渡しても、アストレア様は喜びませんよ?」

「うぐっ・・・」

「ベル君がアストレア様のこと大好きなのは普段から見ててわかるけどさぁ・・・・だから、気をつけようね?って、ほら、あれ見てごらんベル君」

「うわっ、こんなところにあるなんて」

 

 

2人にちょっとしたお説教をされて、しょぼくれる僕を『しょうがない子だなぁ』なんて笑いながら歩いていたアーディさんがふと足を止めて僕はぶつかりそうになる。何があったのかと思って見てみたら、そこには小さな水晶があった。

 

「・・・それは?」

「「水晶飴(クリスタル・ドロップ)」」

「・・・へ?」

「すっごい、貴重なやつなんだよ、これ。うわー、本当にベル君と一緒にいると良いことあるなぁ」

「ティオナさんも『ドロップしやすい』って言ってましたけど・・・すごいですね」

 

アーディさんは水晶飴(クリスタル・ドロップ)を根元からプチっと取って、僕に差し出してくる。

 

「・・・?」

「そうだねぇ・・・うん、地上に上がるまでに稼いだ魔石を換金した額で交換してあげよう!」

 

君と一緒にいたら、そこまで戦闘しないし、まぁ、それくらいならいいかな。なんて提案してきて、僕はレフィーヤさんの顔を見るも『まぁ、いいんじゃないですか?』と言ってくる。

 

「じゃ、じゃぁ、これは?」

「うーん・・・ちょうど三粒あるみたいだし・・・3人で食べちゃおうか」

「「えっ!?」」

「受け取っちゃったものを今更返しに行ったら、それこそ何言われるかわからないよ?」

 

だから、内緒ね。と言って、僕から小瓶を取って、中身を取り出し、アーディさんが採取した水晶飴(クリスタル・ドロップ)を小瓶に入れる。1人1粒ずつ手渡してくるアーディさんに2人して『本当にいいのかな?』なんて顔をする。

 

「私達は、たまたま、水浴びをしようとしたら、たまたま、小瓶が転がっていて、それを拾ったら、たまたま、本当にたまたま、中に水晶飴(クリスタル・ドロップ)が入っていたの。じゃ、いただきまーす」

 

やたら、『たまたま』を強調するアーディさんが先に水晶飴(クリスタル・ドロップ)を口の中に放り込んだ。

 

「そ、そうです!これは、ベルが!たまたま!転んで、そのときに転がっていた小瓶で!たまたま!中に、入っていたんです!つまり、ドロップアイテムです!」

 

と続くレフィーヤさん。

2人して、頬に手を当てて『う~ん』と言いながら、僕に早くしなさいと促してくる。

 

「そ、そうです・・・よね。お、落ちてた、転がってた。持ち主いなかった。だから、セーフ・・・セーフ?うん、いただきますぅ!」

 

今度、ボールスさんの所でドロップアイテムを多めに持っていこうと心の隅に置いて、僕も口に放り込む。その青白い果実は、すごく、不思議な味がした。

 

 

■ ■ ■

 

「それで・・・結局、行方不明者なんてどう探せばいいんでしょうか?」

「うーん・・・情報がなさすぎるねぇ。でも、中層域で何かが起こってると思うんだよねぇ」

「19階層以降・・・【大樹の迷宮】ですよね?」

 

3人でうーん・・・と腕を組んで唸り声を上げる。

場所は相変わらず18階層のちょっとした湖・・・水浴びができそうなそんな場所。

 

「ベル君、君のスキルで他の冒険者を探すことは?」

「アリーゼさん達なら、特定できますけど、他は無理ですよ。それこそ【大樹の迷宮】を全部回る羽目になりますよ?」

「・・・どうして派閥の方だったら特定できるんですか?」

「えと・・・付き合いが長いってのもありますけど。その・・・よく抱きつかれてたから、『胸の鼓動』を聞くのが好きになっちゃって・・・それで」

 

それで特定できるようになっちゃったんです。とモジモジしながら言う僕に、レフィーヤさんはポカーンと口をあけて固まる。6歳の頃からの付き合いだし・・・よく抱きつかれてたし・・・気が付いたら胸の鼓動を聞くと安心してしまうようになっていて、スキルが発現するとどこにいるのかがわかるようになってしまうほどだ。

 

「ベル君、私は?よく、抱きしめてあげてるけど?」

「うっ・・・」

「好感度が足りてないかぁ・・・」

 

がっくりと頭を垂れるアーディさんに、ワナワナと顔を赤くさせて指を僕に向けてレフィーヤさんは爆発した。

 

「だ、だだだ、抱きつかれて?な、何を!?こ、この、は、破廉恥な!?」

「へ!?」

「どうしたの?」

「む、むむむ、胸に顔を・・・!?そ、それで、う、兎みたいに発情してたんですか!?」

「何言ってるんですか、レフィーヤさん!?」

「6歳の頃からの付き合いだってアリーゼが言ってたよ?それくらいからだったら、別に普通じゃない?家族なんだし」

「・・・・・普通、なる、ほど・・・?なるほど?うーん」

 

 

よくわからない関係ですね、ベル。ごめんなさい、取り乱しました。

そう言うと、レフィーヤさんは水辺に顔を突っ込んで頭を冷やしだした。レフィーヤさんというか、エルフさんは時々暴走してしまうスイッチでもあるんだろうか・・・。リューさんもそうだし。

 

「とりあえず、今日はもう帰ろうか。また遅くなると、心配させちゃうしね」

「はーい」

「そ、そうですね。すいません、ベル、タオル取ってもらえますか?」

「あ、はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「ベル君、おんぶしてあげようか?」

「大丈夫です、歩けます!」

 

帰り支度をして、レフィーヤさんも多少稼ぎが欲しかったのか、戦闘をしながら地上を目指していく。

地上が目前になった頃、僕はふと、フィルヴィスさんのことを思い出してしまった。どうしてなのかはわからないけれど、すごく、不思議な人だったから。24階層の一件以降、僕は彼女に会った覚えがないから。

 

 

「あの、レフィーヤさん」

「どうしました?」

「フィルヴィスさんってお元気ですか?」

「へ?えぇ、元気ですよ?私の平行詠唱の特訓にも付き合ってくれました!」

「そっか・・・・。あ、あの、フィルヴィスさんってどこの派閥なんですか?」

 

レフィーヤさんは、どうしてそんなことを?というような顔をして、そして口を開く。

 

「【ディオニュソス・ファミリア】ですけど?」

 

 

 


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