「じゃぁ、報告会と行きましょうか」
【アストレア・ファミリア】本拠、星屑の庭にて、今日一日あったことの報告会を行っていた。
「都市の巡回については問題ねーぜ?というか、あの頃と比べれば、平和もいいとこだな」
「平和なのはいいことよ!」
「ベルがいつの間にかアーディと仲良くなってましたね」
「な、仲がいいのはいいことよ・・・」
「一々落ち込むな、面倒くさいぞ団長」
「春姫がベルに『お帰りなさいませ、ご主人様』とかやってたぞ。何だアレ」
「はわわわわ、アリーゼ様!?め、目が怖いです!?」
お姉さん達は、巡回に回ったり、闇派閥について探りを入れていたり、僕の知らない・・・というか、把握しきれないところで色々動いてて忙しいらしい。アストレア様でさえ、護衛もつけずに1人で出かけているし。
「ベル?ベルは今日は何してたの?」
「えっと・・・アーディさんとレフィーヤさんと一緒に18階層まで行って、行方不明事件の聞き込みをしにリヴィラに」
「収穫は何かあった?」
「えっと、ボールスさんが『いなくなる奴なんて多すぎてむしろわからねぇ』って」
「あー・・・うん、そうよね」
「でも、確かに帰ってきてない人がいるって言ってたよ?」
「例えば?」
「モルドさん」
誰、モルドって?という顔をするから、初めてリヴィラに行ったときに酔って絡んできた人だと教えたら『あー、あの人ね!』と納得された。いいのかな、それで。
「それで、前みたいに遅くなったらいけないからって切り上げて帰ってきたよ」
「うん!よろしい!」
「異端児のヒトには会えなかったよ・・・」
「お、おおう・・・そ、そんなに落ち込まないで・・・」
僕の右隣に座りアリーゼさんは、頭を撫でて、そして落ち込んだ僕をさらに撫で回してくる。
リヴィラから帰る前に、『異端児に会いたい!』とアーディさんにおねだりをしたら『いるかどうかわからないよ?』と渋々、隠れ里の周辺まで連れて行ってもらったけど、結局、会えなかったのだ。僕は少し寂しい気持ちと共に、仕方ないと割り切って、何度も振り返りながら帰還した。
「ねぇ、リオン?その・・・異端児だっけ?本当に普通のモンスターとは違うの?」
「えぇ。セイレーンや、ハーピィという人型の異端児についてはとても美しい容姿をしていました。」
ベルがセイレーンに抱きついたときは、驚いて心臓が止まるかと思いましたよ。なんて言われて、アリーゼさんは僕のお腹に手を回して、自分の膝の上に座るように抱き上げた。くっ、Lv6の力・・・すごい・・・!?
「はわわ、ベル様が・・・まるでぬいぐるみの様に・・・!?」
「スンスン・・・」
「な、何!?」
「いや、匂いついてたりするのかと思って」
「け、今朝、アストレア様と入ったからもう匂いなんてついてないよ!?」
「・・・それもそうね。うん、ごめんね?」
「く、くすぐったい・・・」
『話が脱線したわ!戻しましょう!』とアリーゼさんは仕切るけれど、どうやら僕を手放す気はないらしい。お姉さん達の視線が痛い。
「【ロキ・ファミリア】にもその事件のことを聞きに行ったら、ギルドから連絡があったらしくてね。・・・明日、一緒にダンジョンに行こうってことになったから輝夜、お願いね」
「誰が来るのですか?」
「フィンさん、リヴェリアさん、アイズちゃんよ?」
「それはまた・・・」
「あー・・・それで、ベル?あなた、アイズちゃんを避けてたりする?」
「え?そんなことないけど・・・」
「そう?なら、いいんだけど。何ていうか、前に揉めて?謝りたいけど、中々会えてないって言ってたから」
「気にしてないし、お互い様だから、大丈夫だよ?」
どうやら、アリーゼさんが【ロキ・ファミリア】に行った時に、アイズさんから、エダスの村でのことを聞かされたらしい。言い合いになったことと、お酒を飲んでしまって泣かせてしまったことを含めて謝りたい。でも、中々会えずじまいで・・・と言われたと。
「・・・ところで、アストレア様?随分、お顔がにこやかでございますねぇ?」
「何かいいことでもあったのですか?」
報告会も終わり、皆雑談をしていると、終始にこにこしているアストレア様が気になったのか、輝夜さんとリューさんは声をかける。
「ベル、また何かアストレア様に言ったの?」
「言ってない、言ってないよ!」
「本当にぃ?」
「ち、近い!顔が近い!」
「嫌?」
「・・・嫌じゃないデス」
ぬいぐるみのように抱きしめられ、唇が頬につきそうなくらいに顔を近づけてくるアリーゼさんに、僕は見られているということに対して、顔を赤くする。アリーゼさんは、外じゃなければ人がいようがお構いなし。それが少し、いや、本当に恥ずかしい!
そして、僕の左隣に座るアストレア様は頬に手を当てながら、ニコニコとしていて、僕の頭を撫でてくる。
「ベルがね・・・お土産をくれたのよ」
「お土産?」
「
「ベル、買ったのですか!?」
「あれは中々の値段のはずでは?」
「ち、違う!18階層で見つけた!!」
「「「幸せの白兎めぇ!!」」」
「ひぃ!?」
『ベルだけドロップ率高すぎる!』『魔石の純度も高い!』『ずるい!』などなど、お姉さん方は言ってくるけど、仕方ないじゃないか!!
「ベルには後でお礼をしないといけないわね」
「ア、アストレア様、い、今言わないでくださーい!ア、アリーゼさん!絞まってる、絞まってるからぁ!?」
「うーん、聞こえなーいっ」
アストレア様のお礼はとても魅力的だけど、せめて今、言わないで欲しかった!!
僕の腰に腕を回しているアリーゼさんの腕がキリキリと絞まっていく!
「ゆ・・・ゆるじでぇ・・・」
「うーん、どうしようかなぁー」
「な、なんでもする・・・からぁ・・・」
「へぇー・・・何でもねぇ」
「・・・・きゅう」
「ベ、ベル様ぁ!?アリーゼ様、ベル様が気を失っておりますぅ!?」
「あれ!?そ、そんなに強くしてないわよ!?」
拝啓お爺ちゃん・・・女の人の嫉妬?嫉妬でいいのかな。怖いです。お爺ちゃんもヘラお婆ちゃんに絞められていたんでしょうか?
僕は今日、アリーゼさんの膝の上で、意識を失った。
■ ■ ■
「・・・こんにちわ、フィンさん、リヴェリアさん、アイズさん」
「やぁ、こんにちわ、ベル。ティオナ達の探索に付き合ってくれてるみたいでありがとう」
「何かまた迷惑をこうむったら、すぐに言ってくれ」
「だ、大丈夫ですよ?僕の知らないこととかも教えてくれますし」
「それにしても、君がいつもここのベンチに座っているというのは本当だったんだな。遠目からアルフィアに見えたぞ?」
「うっ・・・そ、その、寂しくなるので、言わないでください」
知ってる人にはやっぱり、そういう風に見えてるのかな。髪の色、違うけど。
「ベル、お前、座ってるとき目を閉じてるからではないか?」
「うーん・・・そうかな?」
「ダンジョン内でも目を瞑って歩いている時もあるし」
「だって、集中しないと『探知』の範囲広げられないし」
「それより、少し不機嫌じゃないか?何があった?」
「昨日、アリーゼさんに気絶させられたから」
「そういえばそうだったな・・・」
僕が目を覚ますと、右にはアストレア様。左にはアリーゼさんがいた。
絞めつけられた痛みはもはやなく、気が付いたら朝でした。僕は寝ているアリーゼさんをコレでもかと見つめ続けて目を開けたアリーゼさんと目が合うと、アリーゼさんは飛び起きて全力の土下座をしてきたけど、痛かったものは痛かったのだ。
『そ、その・・・ベルがしてほしいこと、してあげるから、ね?』
『・・・・わかった』
と必死の土下座と謝罪を僕は受け入れて、今度は2人でアストレア様が目を覚ますのを見つめていた。
「まぁ、解決したなら良い・・・ほら、立て、アーディも来た事だしな」
「・・・ん」
立ち上がって、輝夜さんと手を握りあう僕たちを微笑ましく見ているフィンさんとリヴェリアさん。
そして、俯きがちに僕の方に寄ってくるのはアイズさん。
「ベ、ベル」
「―――?」
「その、この間は、ごめん・・・ね?」
「えと・・・」
「お酒を飲んじゃいけないこと、忘れてて・・・それで・・・」
「そ、そのことはもう大丈夫・・・ですから、ホント」
アイズさんがお酒を飲んだらあんなことになるなんて、危険にも程があると、痛いほど思い知らされたあの思い出を、僕は未来永劫忘れない。後世に語り継ぐ勢いで『アイズ・ヴァレンシュタインに酒を飲ませるな』と心に刻んでおく。
「ええと・・・それで・・・えっと・・・」
「どうしたんですか、アイズさん?」
「君はやっぱり、『喋るモンスター』のこと、その・・・」
「アイズ、悪いけど、その話は地上ではしないでくれ。下手に混乱を生みたくない」
「フィン・・・ごめん。ベル、その、本当に、ごめんね?」
「もういいですよ、そんなに謝らないでください。それに、僕こそ、ごめんなさい。」
気まずい・・・片や『モンスターを憎む』アイズさん。片や『神様を嫌う』僕。
『怪物は、人を殺す、沢山の人を殺せる。・・・沢山の人が泣く』
『神様は、娯楽とか言って、沢山の人を苦しめる。・・・玩具みたいに扱う!家族を奪う!』
『神様は、みんなそんな
『それは怪物だってそうでしょう!?』
『ベルのわからずや!』『アイズさんのわからずや!』
必死に怒りを静めようと、だけど拳に力がはいって震えるアイズと、今にも泣きそうにアイズを睨むベル。子供の喧嘩のように、言い合う2人が、あの時、黒竜の鱗の前にいた。
幼いもう1人の
・・・でも、言い過ぎたとは思うから、謝らないといけないと思う。
「ベルは、全部の神様が嫌いってわけじゃないの?」
「初めて会う神様相手なら・・・たぶん、警戒すると思いますけど。少なくとも、アストレア様に会ってからはいきなり石を投げようとはしないですよ?」
「そもそも物を投げるのはやめようね?ベル君?」
「だ、だってぇ・・・」
「まぁ、会った時よりかは、遥かにマシですねぇ」
「・・・コホン。そろそろ行きましょうか?こんなところで駄弁っていても仕方ありませんし」
「ああ、そうだね。行くとしようか」
今から目指すのは19階層。
地図でマークをしながら、しらみつぶしに探していくらしい。
■ ■ ■
18階層のリヴィラに立ち寄って、もう一度聞き込みをしたけれど、結局は収穫なし。なので、19階層、大樹の迷宮に下りて、地図に従って僕は探知を使って異変や違和感を感じたらすぐに知らせる様に言われて捜索をしていた。
「調査した地帯はもう十箇所め・・・目立った痕跡はなく、全て空振りに終わっている。わかってはいたが、迷宮で人探しは骨が折れるな。」
「ん、調べた場所、地図には×印をつけてるけど・・・偏りとか、共通点は、なさそう」
「ベル、君は何か感じるかい?」
「うーん・・・あれ?」
「ねぇねぇ、これって何かわかる?」
何ともいえない反応をしめす僕に、その近くの草の中に手がかりがないか探していたアーディさんが、花弁を持ってやってくる。
僕は同じく、アーディさんがいた近くの壁を見つめてリヴェリアさんの手を引いて近づいていく。
「お、おい、どうしたんだ?急に」
「ベル、言っておくが、【
「えと?」
「はぁ・・・気にするな。それで?どうしたんだ?」
リューさんもローリエさんもレフィーヤさんも普通に手を握ってくれるけど、僕がおかしいんだろうか・・・。リヴェリアさんが気にするなって言ってるし、いいよね。
「ここの壁の向こう、空間があって・・・でも、その、フィリア祭の時のと、24階層とこの間のダイダロス通りの地下の迷宮にいたモンスターと同じ反応がいっぱいあって・・・」
その僕の言葉に、リヴェリアさんとフィンさんは目を見開いて『ほぅ・・・』と零した。
「遠征の時に欲しいな・・・」
「【勇者】様?私の兎様に何か言いましたか?」
「いいや、何も?」
「ベル、モンスターの反応はいくつあるかわかるか?」
「えっと、10は越えると思いますよ、リヴェリアさん」
「フィン、どうする?」
「恐らく、当りだろうね。・・・リヴェリア、詠唱を頼む。」
「威力は?」
「最大」
「わかった。ベル、少し離れていろ」
僕はリヴェリアさんから少し後ろに下がって、目を瞑って念のためさらに探知をしておく。
でもやっぱり、目の前の壁しか、なさそうだ。
「恐らく、魔力に反応して、モンスターが飛び出してくる可能性が高い。全員、すぐに殲滅できるようにしておいてくれ」
そうして、リヴェリアさんの魔法に反応して、現れたのはやはり、食人花だった。