兎は星乙女と共に   作:二ベル

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Pixivにも上がっていますが、私が上げているので間違いありません。
ミノタウロス戦だけ、書き直すかもしれませんが、気分次第です。


雄牛、兎耳

乱れた呼吸の音が響いていた。

天井や壁面、地面が木皮で形作られた階層域。

通路中に繁茂する苔が青や緑に発光し、見る者に秘境を彷彿させる光景を生み出している。

轟いてくるモンスターの雄叫びに身を揺らすのは様々な形をした葉や、銀の滴を垂らす神秘的な花々だった。

上層域とは様変わりした大樹の迷宮の中で、1つの影がひた走っている。

影はしなやかで、華奢な、少女と見紛う四肢を持っていた。苔の光を浴びてきらめくのは青銀の髪だ。そして美しく滑らかな長髪だけでなく、その肌も青白い。肩や腰に生えた無数の鱗、妖精よりも歪で尖った耳、そして、額に埋まる輝かしい紅の宝石。それは紛れもなく、『怪物』の証である。枝の様に細い両腕を抱きしめるモンスターは、ただただ迷宮を走っていた。

 

――どうして?

 

モンスターは血を流し、涙を流していた。

爪や牙、剣で切り裂かれたかのような裂傷をいくつも負い、血を地面に落とし汚していく。

 

――どうしてっ?なんでっ?

 

瞳の中には恐怖があった。悲しみがあった。混乱があった。

いつもの様に移動していたはずだったのに、いつの間にか自分だけがはぐれてしまっていた。今までそんなことはなかったというのに、仲間の声も聞こえない。その孤独感がよりモンスターに恐怖を与え、いくつもの水滴と赤い血が地面へと落下していた。

 

「どうしてっ・・・?みんな、みんな・・・どこっ?リド?レイ、グロス?ラーニェ、レット、フィア、フォー・・・ベルっ」

 

仲間達の名を連呼し、最後に生まれたばかりの自分を拾って仲間の下に送り届けてくれた少年の名を・・・・呼んだ。

幼子の様に嗚咽交じりの声。その言葉の羅列を忌むかのように、錯綜する迷路から複数の怪物の吠声が押し寄せ、青銀の長髪と薄い肩が怯えるように震えた。

 

モンスターは、『彼女』は――ウィーネは、泣いていた。

 

――みんな、どこに行ったの・・・っ?

 

隠れ里を移動しながらの仲間探し。

移動できないものもいるが、それでも、彼女は寂しくはなった。手を取って歩いてくれる家族がいたから。

けれど、その家族との時間が、唐突に掻き消えた。

 

『あぁ、良い!良い!!実に良い、美しい色だ!!もっと、もっと見せてください!!』

 

どこからか聞こえてくる、彼女が家族といつの間にか逸れた・・・孤立させられた時から聞こえてくるその声が、迷宮に木霊する。(ベル)と同じように目を瞑っていたかと思うと、面白いものを見つけたかのように彼女を切りつけ追いまわしてきた。欲を満たすように、ある種の娯楽のように。だからこそ、彼女は逃げた。逃げて逃げて逃げて逃げて―――そして、自分がどこにいるのか、わからなくなった。

 

『あぁ―――貴方、『悪』とは何だと思います?』

 

狂気だ。狂気だけがそこにはあった。

人間であるはずなのに、彼女からすれば人間(冒険者)よりも恐ろしいとさえ思うほどの狂気だった。

 

『非道を尽くすこと?はたまた、残虐であること?いいえ、いいえ!!―――少し違う。それは手段であり、本質ではありません!』

 

時折開かれるその目は、とてもギラついていて、余計に彼女の体を震えさせる。

 

――知らない。あんなの、知らない!怖い、怖い、怖い!

 

『【悪】とは―――恨まれることです!!』

 

誰に語りかけているのかもわからないその声音に、彼女に襲い掛かっていたモンスター達もまた、静まり返る。

 

『そして、【絶対の悪】とは――あらゆる存在を終わらせるもの!!生命も、社会も、文明も、時間さえも。それまで積み上げてきた万物を全て無に帰すモノ。断絶と根絶。あるいは、存亡の天秤を嗤いながら傾ける邪悪。それこそが【絶対悪】!』

 

何かに酔いしれるように、けれど、何かに対する憎悪をつのらせて、叫び上げる。

 

『と、まぁ、これはかつての主神が言っていた言葉なのですが・・・まぁ、いいでしょう。やるなら、とことん。ならば、私もまた、とことん、血を求めるまで。今や私もあなた方と似通ったモノをこの身に宿す。時折"彼女"の声が聞こえはしますが・・・まぁ、それもどうでもいいでしょう』

 

 

途端に理性的になり、自分は貴方と同じ――などと言っているあの人間・・・ニンゲン?は何を言っているのだろうか。

 

「リドぉ・・・助けてぇ・・・」

 

『あぁ・・・神エレボス、いや、神々よ、私はここにいますよ・・・!世界の樫たるこの私が!!』

 

「よぉ、化物(ニンゲン)、オレっち達の家族が世話になったみたいだな」

「気味の悪い・・・ベルさんとは全く違いますネ。本当に人間なのですか、貴方」

『おお・・・こんなにもいたとは・・・!貴方達はどのような色を私に見せてくれるのでしょうか・・・ふふふ、楽しみで仕方ありません!』

「お前の相手なんてするわけないだろ・・・おお、怖っ、おい、頼むぞ!ウィーネ、帰るぞ!!」

 

リザードマン、歌人鳥、ガーゴイルが漸く現れ、そして、その後に続くように黒い巨躯、2本の角、1本の両刃斧、1本の斧型魔剣を持って、現れた。

 

「リドォォォ、レイィィィ!!」

 

ウィーネは涙ながらに飛びつき、やっと助けが来たことに安堵する。

何より、その黒き存在は、異端児の中でも最も強いとさえ言われる新参。

仲間の窮地を聞きつけて、緊急で呼び出されたのだ。

 

 

 

『おやおやおや・・・これはこれは・・・ブラックライノスでしょうか?』

「オォォォォォォォォォォッ!!」

「いいか!適当に相手したら戻って来い!一々真面目に戦うなよ!!」

「オォォォォォォッ!!」

「聞いてんのかよ!?」

 

 

 

雄牛の叫び声と共に雷が迷宮を轟いた。

 

雄牛は求める、再戦を、再戦を!再戦を!!

かつて戦ったその弱くも輝かしい光との再戦を!!

そして、宿命たるその存在に、名を与えてもらうのだ!!宿命として相応しい、その名を!!

 

 

 

■ ■ ■

 

「ムッスゥー」

「ベル様ぁ・・・機嫌を直してくださいましぃ・・・」

「ベルぅ、仕方ないじゃない。あなただって悪いんだから」

「リューさんの時も、おしおきあったの?」

「・・・・・」

「顔反らしたぁ!?」

 

 

 

 

 

 

【アストレア・ファミリア】

朝食を囲む彼女達は、微妙な空気に包まれていた。

昨晩、主神アストレアは少年(ベル)に主神室に後から行くからと、少女(春姫)と一緒に眠るように説得し眷属会議にて少年(ベル)のステイタスが『ワケワカメ』なことになっていることを含めた話し合いに参加していた。されど、少年(ベル)が起きてみれば、横を見てもいつもいる(ひと)がおらず、不安になるも、金縛りにでもあったのか体が動かず泣きたい気持ちになっていたところ、モゾモゾと自分の体の上で何かが動いたのだ。

 

それはとても暖かく、柔らかく、そして、一部、モフモフとしていたのだ。

 

『あれ・・・そういえば、昨日、アストレア様が【ベルは1人は駄目だから、春姫と一緒に寝ていてね?後から私も一緒に寝るから】って言っていたような・・・でも、春姫さん、いないし・・・』

とぼんやりする頭で思い出す。

 

そうだ、昨日の夜、アストレア様がくるのを待っていて、でも、寝つけなくて春姫さんの尻尾をモフモフしたり耳をモフモフしたりしていて、気が付いたら眠っていて・・・

 

「春姫さんも、アストレア様もいない・・・なんでぇ・・・」

 

まだ昼にすらなっていないはず。ましてや、仮に先に女神が起きていても少年(ベル)が起きるまで、待っていてくれるというのに、何故今日に限っていないのかと不安になっていく。

そんな不安などお構いなしに、少年(ベル)の体の上で、モゾモゾ、モゾモゾ、モフッモフッ、もにゅん、もにゅん、と何かが動いて、やがてその布団のふくらみが少年(ベル)の首元まで来て、ぶはぁっと生まれたのだ。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

――ドウシテ、春姫お姉さんは僕の上に乗っかって眠っていたのだろう

 

目と目が合い、無言で見つめあう。

どちらも今だ頭が回っておらず、ぼんやりとしている。

 

片や『なんで春姫さんは僕の上に?お姉さん達に抱き枕にされるのはよくあることだけど』

片や『何故、私はベル様のお腹を枕に?いえ、やけに幸せな夢を見ましたが。』

などと考えて、さらに少女(春姫)少年(ベル)は掛け布団の中に視線を移せば、掛け布団の中は、脱げた少女(春姫)の浴衣が薄っすらと見え、少年(ベル)の上にいる当の本人は、パンツを履いているだけの姿で、今もなお、そのたわわな双丘が少年(ベル)の胸板に乗っかって形を変えており、少年(ベル)も何故だか、浴衣がはだけていた。いつもはそんなことないのに。

 

「・・・ア、アノ」

「・・・ハ、ハイ、何デ、ゴザイマショウ?」

「・・・僕のこと、食べたんですか?」

「イ、イエ!?ソ、ソンナコトハ!?」

「春姫さん!?」

「ほ、本当にございます!!春姫は夜這いなどしておりません!!」

 

2人は見詰め合ったまま、そして、自分達の格好を確認して大混乱!

見目麗しい年上の、いや、アリーゼ達よりも年がまだ近い金髪で、モフモフなお姉さんがほぼ裸の格好で自分の体の上で眠っているし女神はいないしでこれはまさか、彼女に襲われていたから女神はこなかったのでは!?と思ったのである。

 

「うぅぅぅ・・・!」

「ち、違うのでございます!本当です!ア、アストレア様は私も見ておりません!」

「布団の中に潜ってたら、来たかどうかなんてわかるわけないじゃないですかぁ!」

「ひゃう!?そ、そうでございますが!?あ、あの、その、そ、そんなに、春姫が一緒なのが嫌だったのでございますか!?」

「・・・嫌だったら一緒に寝てませんよぉ!!」

「ありがとうございますぅ!!」

 

とりあえず、体が動かせないから、退くか体勢を変えるかしてくださいよぉ!と抗議して、春姫は体を起こし少年(ベル)の下半身に座る形に。

漸く腕が開放されて、少年(ベル)は自分の浴衣を軽く直す。

掛け布団は春姫が起き上がったせいで、バサリ・・・と捲れ落ち、目の前には、美しい肢体が。

 

「あ、あの・・・そんなにマジマジと見られますと、さすがに恥ずかしいといいますか・・・い、いえ、もうお風呂でお背中を流している間柄ですから、構わないのですが。」

「見えちゃうんですから・・・仕方ないじゃないですか」

「そ、その・・・春姫では駄目でしょうか?」

「へ?」

「い、いえその・・・は、春姫の体ではベル様はご満足いただけないのでしょうか!?」

「んんんんん??」

 

このお姉さんは胸を寄せて顔を近づけてきて、何を言っているんだろう?

少年(ベル)は理解に苦しんだ。

【アストレア・ファミリア】は綺麗なお姉さんしかいない。そうだ、皆綺麗なのだ。頭の先から足の先まで、綺麗なのだ。満足も何もないと思うのだ。美の女神?何を言ってるんだ?この派閥には美の女神みたいなお姉さんが11はいるんだぜ?と心の中で思いかけて義母(アルフィア)に極寒の目で見つめられた気がして、やめた。

 

「そのぉ・・・ええっと・・・」

「いいものをお持ちだと思いますけど・・・」

「ほ、本当でございますか!?・・・ホッ。」

「どうしたんですか、本当に。それより、早く浴衣、着てくださいよ。僕その、とりあえずトイレに行きたいんです」

「はっ!?そ、そうでございました。い、今、降りますね」

 

春姫がようやくベッドから降り、脱げている浴衣を回収し、目の前で着なおすのをボケェーとしながらベルは、ベッドの上で猫のように体を伸ばし、ようやく立ち上がり、ドアを開けようとした。

ドアノブを握り、開けると目の前には、捜し求めていた女神アストレアが。

 

「―――アストレア様っ!どこ行ってたんですか!?」

 

少年(ベル)は飼い主を見つけたペットよろしく、ぴょんぴょんと飛び跳ねて女神がいなかったことに抗議するも女神はそれはもう気まずそうな顔をして、けれど『どうして朝からこんなに可愛いの?』と少年(ベル)を抱きしめて女神の部屋を見渡した。

 

「ア、アストレア様?」

「―――ふぅ。」

「あ、あの?」

 

少年(ベル)にはわからない。何故、女神がこなかったのか。

だって、少年(ベル)はガチで眠っていたし、少女(春姫)に関しても、普通に隣で添い寝・・・別に抱き枕にするくらいは構わないが、それくらいだと思っていたのだから。だから、女神がどうして頭が痛そうにしているのかがわからなかった。

女神の視点からしてみれば、少年(ベル)は浴衣がまだはだけていて、右肩が露出しているし、ベッドは乱れて少女(春姫)は下着姿に浴衣を着なおしているし・・・つまり、勘違いしちゃったのだ。眷属会議が終わって部屋に来たら、ベッドが妙に膨らんでいたから、余計に。

 

「ベル・・・春姫・・・その、そういうことは・・・私の部屋ではしないでね?」

「「違うんですぅ!!?」」

 

少年(ベル)はちょっぴり泣きたくなって、ベッドまで女神の手を引いて座り込んだ。

女神は何の抵抗もなく、手を引かれベッドに腰掛け、抱きついて涙目になる少年(ベル)の頭を撫でてやり、『いいのよ、いいの。男の子だもの。』などと要らない励ましをしてしまう。

 

「ひっく・・・ぼ、僕、アストレア様が来るの、ま、待ってたのに・・・お、起きたら、は、春姫さんが上にいただけで・・・」

「そ、そうでございます!ベル様は何も悪くありません!ベル様を責めないであげてくださいませ!」

「じゃ、じゃあ、どうして2人はそんなに浴衣が乱れているの?春姫にいたっては、殆ど裸じゃない・・・」

「は、春姫が悪いんですぅ!!」

「うぅぅぅぅ」

 

少年(ベル)はもう、やけくそになって、女神をそのままベッドに押し倒して掛け布団を被り、女神に抱きついて再び眠りに付こうとした。

強引に、なかったことにしようとしたのだ。

 

「ふふ、ベル、どうしたの?私は怒ってないのよ?」

「ひっく、アストレア様っ、僕、嘘ついてないのにっ」

「そうね。嘘、ついてないわね。いい子ね、ベルは。」

「だから、もう一回寝るんです。アストレア様と寝ます」

「駄目よ。もう朝食の時間なんだから。ほら、起きて起きて」

「むきゃぁっ!?」

 

哀れ兎、少年(ベル)の強引な『お・や・す・み』は、女神に抱きかかえられることで幕を閉じた。

 

「はぁー、本当にベルは軽いわねぇ。ほら、春姫も着替えが終わったのなら、早く行きましょう。みんな待っているわ」

「は、はい!そ、その、本当に申し訳ございません・・・」

「いいのよ、私があなたにベルと寝るように言ったんだから・・・そういう意味ではないけれど」

「わ、分かっております・・・うう、春姫はいつから寝相がわるくなってしまったのでしょう・・・」

「脱ぎ癖でもあるのかしら」

「うーん・・・」

「どんな夢を見ていたの?」

「・・・・とても幸せな夢でございました」

「はぁ・・・・」

 

 

女神の中ではもうすでに、できる子なのにすごく残念な子になっていた。いや、似たようなのが割りと多いが。

 

「ア、アストレア様ぁ・・・」

「どうしたの、ベル?」

「お、降ろしてくださぁい。アリーゼさんたちにまたからかわれますよぉ」

「うーん・・・仕方ないわね」

「ただでさえ、昨日、『お楽しみでしたネ!』ってからかわれたのに・・・」

「安心して、ベル。たっぷり、怒っておいたから」

「ホント?」

「ええ、本当よ。だから、手を握って欲しいわ」

「わ、わかりました・・・!」

 

 

しくしくしていたのが嘘のように、パァァ!と明るくなって女神の手を握る少年(ベル)が、そこにはいた。

そんなこんなで、食卓に行くと、3人以外がすでに着席済み。なんなら、食べ始めてすらいた。

春姫は輝夜の隣に座り、ベルとアストレアはアリーゼとリューの間に2つ席が空いておりそこに座る。

 

「ベル、なんかさっき騒いでたけど、大丈夫?」

「ムッ。ノーコメントっ!」

「な、何で不機嫌なのよ・・・」

「アストレア様、コーヒーをどうぞ」

「ありがとう、リュー。ベルはいる?」

「の、飲みます!」

「あれ、ベル、いつから飲めるようになったの?」

「ぼ、僕だって大人なんですっ!コーヒーくらい・・・ぐびっ・・・うげぇ」

「駄目じゃない」

 

無理して大人ぶろうとしてるの、バレバレよん☆と朝一にアリーゼに鼻をピンっとされて、ベルは顔を赤くする。周りの姉達も、朝から癒されるわーなどと眺めている。

 

「・・・アリーゼさんの意地悪

「どうしたのよ、ベル。どうしてそんなに機嫌悪いの?私がアストレア様と一緒に寝たのがいけなかったの?でも、貴方、春姫としっぽりしてたんでしょ?」

「し、してない!」

「し、しておりません!アリーゼ様!勘違いでございます!」

「そうよ、アリーゼ。勘違いはやめてあげて」

「はぁ・・・まぁ、わかりました。」

 

ごめんね?とアリーゼはベルの頭を撫でて再び食事に戻り、早々に食べ終わると、立ち上がり、どこかへ行ってしまう。

 

「あれ、アリーゼさん今日忙しいのかな」

「団長はいつもあんなだぞ?」

「輝夜さん?そうなんだ?」

「ああ、お前が知らないだけで、忙しいんだ。あれでもな」

「やっぱりアリーゼさんは凄いんだ・・・」

 

いつも甘やかしてくるアリーゼに、自分が知らないところで色々動いていると聞かされて尊敬の念を抱いていると、ふと、ポフ。と頭に何かがはめ込まれる感触がした。感触がして振り向くと、ニコニコとしているアリーゼ。そして、周りを見ると、目を丸くして、けれど嬉しそうにしている姉達の姿が。

 

「え?」

「ベル、一応、貴方、家出・・・無断外泊したから、お仕置きね」

「え!?」

 

慌てて頭に乗っかっているモノを触って確認しようとするも、抱きしめられて腕が封じられてしまう。

 

「私、春姫といい、こういう何が似合うのか見抜くセンスがあるのねきっと。ふふん!」

「え!?えぇ!?ア、アリーゼさん、離して!?」

「お姉ちゃんに抱きしめられるの、いや?」

「い、いやじゃない・・・けど・・・!?」

「じゃぁ、今日はアストレア様と3人で寝ましょ。さっきのお詫びよ!」

「ほ、ほんと?」

「えぇ、本当よ。約束する。だから、今日1日、貴方は頭についている物を取っては駄目よ?」

「はい!・・・あっ。」

「はい、言質~!」

「あぁぁぁぁぁ!?」

 

 

『この兎、チョロイわー』と眷属と女神は全力で思ったし、助けに入るべきか数名迷っていたが、本人が『はい!』と言ってしまったので、諦めた。まぁ、似合っているし?見てて癒されるし?いいんじゃないかな?と思って。

そうして輝夜が春姫に手鏡を貸してやれと言い、春姫はベルに手鏡でベルの頭にあるものを見せてやった。

 

「う・・・兎・・・み、耳ぃ!?」

「ヒュームバニーのベルちゃんよ!どう!似合ってるでしょう!?」

「「「さすが団長!!」」」

「ひ、酷い・・・あんまりだ・・・ア、アストレア様ぁ!?」

「ベル?すぐに何でもかんでもアストレア様に頼るのは、良くないと思うの。格好いい男になれないわよ?」

「うぐ・・・」

 

どんどん言いくるめられていく。

そもそも、癇癪を起こして飛び出したのはベル。

女神を傷つけるような言葉を投げつけてしまったのも、ベル。

そんなこんな理由があったとは言え、無断で外泊して心配をかけたのも、ベル。

自業自得というやつなのだ。

 

 

「そ、それなら!アストレア様には何もないの!?」

「うーん・・・そうねぇ、ベルはどんな格好してほしいの?」

「えっ」

「ベルは、アストレア様にどんな格好してほしいの?」

「う・・・そ、それはその・・・メイドさんとか・・・浴衣姿とか・・・もにょもにょ

「「「きゃー!」」」

 

アストレア様に、いろんな格好してもらいたい。それは確かなのだ。でも、こう、姉達の前で聞かれるなんて思ってなくて、どうして僕はこうも墓穴を掘ってしまうんだろうとベルは思って顔をますます赤くする。

 

「み、耳は!?アストレア様にも、耳!」

「うーん・・・似合うとは思うけど・・・色合い的に、ベルよね」

「ベル?私が貴方を追いかけてなかったら、あなた今頃、リヴェリアに回収されていたはずよ?そうなれば、貴方、余計気まずくなるわよ?」

 

事実、地下室から出たらいたでしょう?と言われて、さらに言葉に詰まるベル。もはや、逃げ場はなく、がっくりと首を落とした。

 

 

 

 

「ムッスゥー」

「ベル様ぁ・・・機嫌を直してくださいましぃ・・・」

「ベルぅ、仕方ないじゃない。あなただって悪いんだから」

「リューさんも家出したことがあるって聞いたけど、リューさんの時も、おしおきあったの?」

「・・・・・」

「顔反らしたぁ!?」

 

わ、私には・・・関係ない!とばかりに顔をそらされて、さらにベルはがっくりとして、もう諦めて隣にいるアストレアにもたれかかった。

 

「も、もう・・・どうにでもなーれ・・・あ、あははは・・・・」

「ベ、ベルが壊れたわ・・・」

「ベル、今日1日の辛抱だ。耐えろ」

「で、でもぉ・・・輝夜さぁん」

「男ならそれくらいの試練、乗り越えて見せろ」

「ザルド叔父さんもこんな試練乗り越えたの?」

「・・・・想像させるなぁ!!」

「うひゃぁ!?」

 

 

ザルドのウサ耳姿だと!?ふざけるな!!と輝夜を含めた姉達は、ものすっごい微妙な顔をした。そんなもの、周りに対する嫌がらせでしかないぞ!!と。思わず輝夜はベルにデコピンをしてしまった。

 

「は、春姫さんはお仕置きないの?」

「春姫?なんで?」

「僕が起きたら、裸だったよ?」

「私も裸で寝るときあるし、別にいいわ。」

「・・・・チィッ」

「こ、この子、今、舌打ちしたわ!?」

 

悪あがきも悪あがき、何の意味もなくあしらわれ、ベルは心の中で決意した。

【あの尻尾を、これでもかとモフってやろう】と。

春姫からすれば、そんなものご褒美でしかないのに、そんなことを決意していた。

 

「まぁ、とりあえず今日1日はそれつけてなさい。いいわね?」

「はぁい、わかりましたぁ」

「うん、良い子良い子」

「うぐぅぅぅぅ」


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