がんばります。
ダンジョンに行くのに色仕掛けは必要だろうか
ダンジョンに行くのに色仕掛けは必要だろうか?
ダンジョン、それは数多の階層に分かれる無限の迷宮。凶悪なモンスターの坩堝。
富と名声、あらゆるモノを求め神の恩恵を授かれば命知らずな冒険者達の仲間入り。
響き渡るは悲鳴、怪物共の咆哮、ぶつかる鉄と魔法の音。
そんな危険地帯に今、私はいる。
胸元を緩め、上目遣いで『パーティに入れてほしい』などと色仕掛けをして懇願して入れてもらう。
・・・・ダンジョンに潜入調査、いや、色仕掛けは間違っていないだろうか?
結論。
何もかもあの男神が悪い!!!!!
『ローリエ、この羊皮紙に書いてある"ファミリア"にソロを装ってパーティに潜り込んで内部の情報を探ってほしい。お前の器量なら問題なくポロっと吐いてくれるさ。え?やり方?それは色仕掛けさ。エルフの自分にはできない?おいおい、オレはヘルメスだぜ?可愛い眷族のできるできないは把握している。お前は優秀なエルフだ。こんな任務は朝飯前サ!!』
なんて胡散臭い優男の笑みとともに命じられて嘆く暇もなく送り出された!!
「ヴヴォオオオオオオオオオオオオッ!!」
「嫌アアアアアアアアアアア!!!!」
エルフらしからぬ不誠実な真似、我等が奉ずる大聖樹が許す筈もなかったのだ。恨む、タコ殴りにしてやります。ヘルメス様・・・。
結果、私は武器を失いダメージを負い、パーティを組んでいた者たちにも置き去りにされて雄牛に追いかけられている!!
「そんなに女が良いのかぁっ!!」
今までコレだ!!と思える所謂『真実の愛』などというものに出会うこともない
だったというのにまさか男達に置き去りにされた挙句、雄牛に追いかけられ胸が高鳴るなどあっていいはずがない!!
「これは愛などではなく、生命の危機だアアアア!!!」
私は走る。走る。とにかく走る。走る以外にない!!だって!!武器が!!無いんだから!!
「ヘエエエエルメス様アアアアアアアアアア!!!!」
――――そんな時だろうか。
何か誰かが呼んだような気がしたのは。
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「『こっちに来い』ッ!!!」
「ヴォッ!?」
「よし、このまま・・・えっと、まっすぐ向かったルームにっ輝夜さんが待ってっるからそっちに誘導っ!!」
「ヴヴォオオオオオオオオオオオオッ!!」
「―――やっぱ怖いぃっ!?」
僕は恩恵を貰ったときに発現したスキルの効果を検証するために今、ダンジョン5階層にいる。
そんなときに、雄牛・・・ミノタウロスの咆哮と女の人の悲鳴が聞こえ輝夜さんに
「ここで待っててやるから誘導してみろ」と言われて僕がいる通路の横を金髪のエルフさんが通り過ぎてミノタウロスが通過しかけたところを、僕が距離を保てるであろうギリギリの所で『誘引』した。
でも、初めて敵意を向けてきたモンスターがミノタウロスだなんてハードルが高すぎるっ!!
なんでいるの!?アリーゼさんたちやアドバイザーのエイナさんに聞いた限りじゃ15階層にいるはずなのにっ!?
「か~ぐ~や~さぁ~~~んっ!!」
「戯け!!一々大声を上げなくてもわかるわっ!!そのまま姿勢を低くして走れ。細切れにしてやる!!」
僕は素直に輝夜さんの指示に従う。
そのまま輝夜さんの後ろにすれ違うように滑り込んだところで転んで壁に背をぶつける。
「ぐえっ」
ズバッ!!
ビチャッ!!バシャッ!!
「ひぇっ!?ナンデ!?」
指示に従ったのに輝夜さんはミノタウロスとすれ違って即座に僕に血がかかる様に細切れにした。
待ってよ、話が違う。血まみれになったんじゃ何のために輝夜さんの背後に回ったのかわからないよ!?
「兎のトマトソース添え・・・ふふっ」
「輝夜さぁん!!」
僕はすっかり真っ赤にそまって、所謂『トマト野郎』にされてしまった。
輝夜さんは悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑っている。
僕が所属しているアストレアファミリアの中で意地悪なお姉さんだ。
ギリギリで走って少しばかりのダメージを負って涙目になりながら僕は意地悪なお姉さんこと輝夜さんを睨む
「悪かった悪かった。そんな顔をするな。ほら、涙を拭け。立って歩けるか?」
「・・・ちょっと背中が痛いです」
「さっき滑り込んで器用に背中をぶつけていたみたいだからそれだろう。ほら、ポーションを飲んだら帰るぞ。」
輝夜さんは僕にポーションを渡しに近づき、そのまま僕をおぶった。
えっ、着物に血が・・・
「輝夜さん?着物に血が」
「気にするな。汚れてはいけない格好でそもそもダンジョンなんぞに入るか」
「あっそっか。じゃあ、一回バベルでシャワーを浴びて帰るの?」
「いや?」
「え?」
バベルでシャワー浴びずに僕このまま帰らされるの?嘘でしょ?
そんなことを思っていると輝夜さんはまたクスクスと笑う。
「たまには私も殿方と混浴したくなりましたので。しっぽりと洗いっこなどいかがでございますか?」
「はぇっ!?ちょっ!?輝夜さん!?」
輝夜さんのこういうときは僕のギリギリを精神的に弄ってくる。
嫌な予感しかしない!!
どうしよう!!どうやって逃げよう!?
アリーゼさんたちと入るのは昔からだし少しは恥ずかしいけど慣れっていうのもあるけど輝夜さんのは言葉遣いといい、こう、いけないことをしている気持ちになって羞恥心が湧き上がってくる!!
そんなことを考えているのがわかったのか、輝夜さんは真顔になって
「―――拒否権はないからな」と圧をかけた。
「・・・・ぁぃ」
ダンジョンに虚しい兎の声がひび・・・響かなかった。
(15階層にいるはずのミノタウロスが上層に・・・。異常事態か?たしか期間的にはロキファミリアの遠征隊が帰ってくる頃合か?さっきの小娘は巻き込まれた?まぁギルドには伝えておくことに変わりはない・・・か)
輝夜はミノタウロスがなぜ上層に現れたのか思考しながら血塗れの兎を背負って地上へと向かう。
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「おい!!アイズ!!クソ牛はどうした!!?・・・ってなんだありゃぁ。ぷっ、トマト野郎が正義の眷属様に背負われてお帰りかよっ!!」
灰色髪の狼人、ベート・ローガは自分より早く走っていったアイズ・・・金髪、金眼の少女に聞くもアイズの目線の先にいる2人を見て笑い出す。
アイズはムッとしながらも
「・・・えっと、ミノタウロスはあの着物の人・・・輝夜さん?が倒してました」
「けっ、んじゃあ逃げたのはこれで終わりだな?」
「はい。」
「じゃあ帰るぞ」
「はい」
ベートはそういって遠征隊へと合流しに行く。
遅れてアイズも向かうが、考えていることは違った。
(あの子・・・魔法?なんだろう、モンスターを挑発した?でも何か違うような・・・)
少女・・・ベルがミノタウロスに声をかけたところは見かけた。
何を追いかけていたかは見えなかったが、誰かが追われていてそれをあの子が引き付けたのだろうと結論付けた。おそらくは、輝夜の指示で。
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ベル・クラネル
所属派閥:アストレア・ファミリア
Lv.1
力:I 77→82
耐久:I 13→20
器用:I 93→96
敏捷:H148→172
魔力:I 0
<<魔法>>
【サタナス・ヴェーリオン】
詠唱式【
不可視の音による攻撃魔法。
スペルキー【
周囲に残っている残響を増幅させて起爆。
<<スキル>>
◻️
パッシブ:自身に害ある存在からの遭遇率を減らす(認識されにくくなる)
アクティブ:自身でトリガーを設定し、害あるモノを誘引する
対象によって音色変質。
◻️
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
女神アストレアは「ふぅー」っと息を吐きステイタスの更新を終える。
血濡れのベルが輝夜に背負われて帰ってきたので何事かと思えば、そのまま風呂場へ直行、艶かしいベルの悲鳴が聞こえた。
上がってきたころにはベルはヘトヘトになって女神の元に訪れステイタス更新をしてもらうために横になって眠っている。
『上半身裸でやってくるのは、どうなのだろうか』と思わなくもないが、恐らくは輝夜が「どうせ脱ぐんだ。だったら最初から脱いでいろ』と言って丸め込んだのだろう。
―――嫌ではないのよ?でも羞恥心は大事だと思うわ。
とは女神の言だ。
―――まぁ、出会った日から一緒に入ったりしてたわけだから、慣れちゃったのかもしれないけど・・・・でもまったく羞恥心がないわけではないのよね・・・。その証拠に輝夜たちが下着姿とか普段よりラフな格好で寛いでいるとオドオドしている時があるし。ギャップに弱いのかしら?
初めて恩恵を刻んでから数日。
初日は長旅の疲れもあり寝ている間に恩恵を刻み目覚めたときにステイタスを見せた。
たぶん、今までで一番喜んだ顔をしていただろう。と思いだす。
『私の家族になった証』を貰ったという喜びと『憧れの魔法』『義母と同じ魔法』が発現してそれはもう涙を流してはしゃいだ。
―――もしかしたら、私の眷属で初めてあそこまで喜んだのはベルくらいじゃないかしら。
今、アストレアのベッドでは少年がうつ伏せになってそのまま眠りに落ちている。
出会った当初より少しずつ・・・いや強引にだが明るくなってきていて喜ばしく思いつつもう一度ステイタスを見る。
「1つ目のスキルは、輝夜が言うにはおそらく通常時は『同等の強さ以下』は素通りしてしまうしベルの近くにいる人にも適応される。それも同行していた輝夜にさえ気づかずにゴブリン達が素通りしていたと。そしてアクティブ・・・これは何かトリガーを決めて呼びかけることでモンスターを誘引する・・・。でもおそらく1対1にできるわけじゃない。」
うーん、うーんと唸る。
この子が強くなれば怪物進呈されてもおそらく無事なはず。
でも、この子が強くなるためにはモンスターと戦うことが必須。けど1体だけを引き付けることはおそらく不可能。
―――戦い方に関しては、輝夜たち専門家に任せるしかないけれど。
3つ目の効果の反響帝位・・・この子は鳥だったの?兎じゃなくて?おそらく幼少期にアルフィアの"音"と例の"喋るモンスター"とが影響しているんでしょうけど。
またうーんと唸る。
―――2つ目のスキル・・・2つもスキルがいきなり発現するとは思わなかったけど、これは『成長促進』させるスキルってことでいいわね。恐らくこれは『アルフィアたちとの思い出』と『私達に出会った思い出』・・・過去への依存ではないでしょうけど、思い出が何よりの宝物ということかしら?
―――ミノタウロスに追われたらしいから元々高かった敏捷は高くなってるし、どう化けるのか楽しみではあるわ。
でも、でも、やはり2つともレアスキル。
そして、アルフィアと同じ魔法。
―――アリーゼが『魔法にばかり頼った戦い方はさせたくないので暫くは禁止にします!』と言っていたけれどちゃんと守っているみたいね。でも、この子の情報は自分の身を守れるようになるまで隠し通さないと危ないわ。
ベルが狙われる。そんなことになれば恐らく眷属たちはブチキレて何をしでかすかわかったものではない。それに碌でもないことをする神もいる。ガネーシャのように趣味、娯楽への優先度が低ければ安心もできるのだけど・・・。
と考えて、疲れて、女神は羊皮紙を仕舞い、ベルの横に入り布団をかぶる。
「・・・・ところで、どうして上層にミノタウロスがいたのかしら」
長くなってしまった・・・
人魔の饗宴(モンストレル・シュンポシオン)
の饗宴は「宴」をギリシャ語で何かないか探しているときに見つけたもので発音が良くてつけました。
対象によて音波変質とは、強いモンスターであれば帰ってくる反応は大きいし、人であれば聞き取りやすい音になります。
慣れない内はすごく疲れます。
アリーゼたち親しい人物達においてはベルがよく抱きつかれたときに心音を聞いてるのでそれによって区別しどこにいるのかがわかるためミノタウロスとの追いかけっこのときに指示されていたとは言え、迷うことなく輝夜の元に行けました。
アリーゼ、リュー、輝夜、アストレア様はベルが安心できる音波に感じるので確実に場所を特定(信頼度の高さ)できます。
※ベルにしか聞こえないので、他の人物には聞こえません
強化種や変異種は普通に気づきます。
追憶一途(ノスタルジア・フレーゼ)は、アリーゼ達と一緒に前に進みたいけどベルの『思い出を捨てたくない』『思い出を大切にしたい』という想いが形になって発現しています。
ステイタスの数値は、他の作者様方がどう考えてるのかわからないので、原作1巻P41を参考にしてます。
アストレア様はベル君に恩恵を見せるためにロックをせず、ベルが満足してからロックをしました。