『がんばれ』『がんばれぇ!』『頑張れ!!』
誰かを応援する、誰かの声が聞こえた。
街は僕の知るオラリオとは違い、寂しく、悲しいものだったから、これはきっと―――夢なのだろう。
『―――覆った。』
寂れた建物からその光景を見ている1人の誰かも分からない人物は独白する。
『完璧に、決定的に、言い訳のしようもなく。あれほどの『絶望』が、『希望』へと。たかが十と一人の眷属によって、完全に息を吹き返した・・・』
その感情は、悔しさがあるのか、喜びがあるのかは、わからないけれど。
『リオン・・・。それが、お前の『答え』か』
ならば、俺も『契約』を遵守しよう。ありとあらゆる手段、軍勢、殺意をもって民衆を殺戮する。
そんなことを言って、断頭台の刃を止めるためのロープを切り離す様に号令を出そうとしたところで、別の声が加わった。
『―――■■■■■?』
『ええ、私よ、■■■■。・・・久しぶりね。』
2人の姿を見ようにも、ぼやけてはっきりとはせず、片方が男で片方が女であること。片方に対する嫌悪感と恐怖心を抱くのに対して、片方に酷く安心感を覚える。
『あの夜、君を『生贄』に選ばなかったのは、ただの気紛れだぞ?』
男は笑いを抑えるように、女に告げる。
その言葉に、女はこう返す。
『言葉をもって戦いに臨む者に、凶刃で応えるのが貴方の『悪』?』
『・・・いいや、違うな。『悪』かどうかはさておき、少なくとも俺の『美学』じゃない。』
2人だけの世界に、外から鉄と鉄がぶつかる音。そして、先ほど聞こえた人々の声が聞こえてくる。
『子供達の争いの歌に抱かれながら、■■の語らいをしようじゃないか。』
2人だけの空間。2人による問答。
『―――下界における『正義』とは?』
何故、悪が正義を問うのか。僕には、わからない。
『―――【 】。』
女の答えが、何なのか、僕には、聞こえなかった。あの
僕には到底理解しえない問答を、2人は行っていた。
『―――異なる正義は『共存』できる。反発し合う『正義』が絶対的に多かったとしても、手を取り合える。』
なら、それならば―――あの小さな村での暮らしの中にあったように、この都市でも、【異端児】と共存することは、できるだろうか?
気が付けば、剣戟の音は消えていき戦いは終息していく。男は従者らしき人物と共に、去っていく。
剣戟のあった場所を見れば、強い光の中に4つの背中を見た。
何を言っているのかは、はっきりと聞こえなかったけれど、どうしてだか、胸が熱くなる、そんなことを言っているのだと思った。
――その背に手を伸ばそうとするも、届かなくて、遠くて・・・。
僕はいつか、その背に、追いつけるのだろうか。
何かに体を揺さぶられて、僕は、夢から現実へと目を覚ます。
■ ■ ■
カーテンの隙間から入り込む日の光、どこからか聞こえてくる鳥の囀りが、朝を教えてくる。
そして、朝であると教えるように、体を揺すられて、目を擦りながら、揺すってくる相手の方に顔を向ける。
「―――春姫さん?」
「はい、春姫でございます。おはようございます、ベル様」
回らない頭で
彼女の姿は寝巻き用の浴衣で、彼女自身も今しがた起きたばかりなのかはだけており、右肩が露出し、胸元まで若干露になっており、手で口を隠して欠伸をかいている。
「うーん・・・・?」
何故、朝になっているのか。
「春姫さん・・・今日の夕飯って何ですか?」
「―――クスッ。ベル様?昨日、ベル様はお昼寝をしたまま、そのまま朝を迎えてしまったのですよ?」
「え?」
春姫曰く、夕飯時になり、目が覚め夕飯の準備をしている姉たちを手伝おうと着衣の乱れを正し、ベルを起こしたのだが、まったく起きる気配もなく姉達に相談に行き体を見てもらったところ疲労が溜まっているのでそのまま寝かせてやれと言われてしまったらしい。
「ベル様は、昨日、春姫とお昼寝をした後、そのままお眠りになり、今に至ります。私は夕食の後、お風呂に入り、その、雑事をした後にまたベル様と就寝いたしました。あ、体の方は拭かせていただきました。」
「―――アストレア様とアリーゼさんは?」
「お2人にベル様を運ぶべきかお聞きしたのですが、『気持ちよく眠っているのに、無理に動かすのは可哀想』とのことで、そのまま一緒に。」
つまり、ベルは昨日、仮面の人に襲われたときに使ったスキル
「少し早いですが・・・私はこれから、朝風呂を頂いて、朝食の準備をいたしますので・・・ベル様も朝風呂、いかがですか?お背中、お流ししますよ?うなされていたみたいですし・・・すっきりしては?」
それに、寝癖が酷いことになっております。そう言われて、春姫に鏡で自分の頭を見せられて赤面。寝起きのせいなのか若干フラついて、春姫に支えられて起き上がる。
「えと・・・着替え、どうしよう?アストレア様、まだ眠ってるだろうし・・・」
「ご安心を。アストレア様が、就寝前に、渡しに来られていましたので。」
「―――春姫さん、本当にメイドさんみたい」
「そ、そうでございましょうか・・・?」
「じ、実はナイフを投げて戦えたり?」
「さすがに、そこまでは・・・・」
春姫に手を引かれて、お風呂へと向かう。
まだ早い時間なのか、静かで、不思議な感覚でベルは廊下を歩く。
「春姫さんは、いつもこんなに早いんですか?」
「いえ、毎日というわけでは・・・。お姉様方が交代で当番してくださいますし、『全部春姫に丸投げするのはダメ!女子力が落ちるわ!』とアリーゼ様が」
「じょ、女子力・・・」
「ね、寝顔を拝みにいかれますか?」
「―――襲われるのでやめときます」
「私を襲っていただいてもよろしいのですよ?」
「え、えと・・・」
「じょ、冗談です」
結局、2人でこっそりと
「春姫さん、僕、朝からはちょっと・・・」
「そんなぁ・・・」
湯船に浸かりながら、ベルが眠っている間の話を聞いていると、アーディが尋ねてきたらしく、『25階層まで行こう』というお誘いだったらしい。
「アリーゼさん達は行かないんですか?」
「はい、巡回もあるため、あまりダンジョンに行けていないみたいです。その、春姫はそこまで詳しく聞かされているわけではありませんので・・・戦えませんし」
「気にしてます?」
「す、少し・・・」
「別に僕は、戦えなくてもいいと思いますよ」
「そう・・・でしょうか?」
「はい、適材適所って誰かが言ってました。春姫さんは、メイドさんがそれなんじゃないですか?」
「で、では、いっぱい、ベル様に御奉仕しますね?」
「え、えと、はい、よろしくお願いします?」
頭がすっきりして目が覚めて、風呂をあがり着替え、春姫が朝食の準備をしているのを一緒になって手伝ってやがて起きてきた姉達に
『ほぼほぼ半日くらい寝てたけど、体は大丈夫?』と言われながらも、いつもの朝を迎えて、ベルはいつものベンチに座ってアーディと合流し、ダンジョンへと向かう。
■ ■ ■
「――ベルさん、オ久しぶりでス。」
大樹の迷宮の奥の入り組んだ場所。そこで、
長い
「――レイさん?どうして、こんなところに?」
「レイ?どうしたの?」
全身を
近づいてきて漸く見えたフードの奥からは、女性的な細い顔の輪郭が覗いていて、2人を見据えているのは、海か、あるいは空を彷彿させる青い瞳だ。彼女はどこか余裕がないのか、周囲を何度も確認する。
「アーディさん、ベルさん、最近、地上デ・・・変わったコトハ、ありませんデシタカ?」
「変わったこと?」
「うーん・・・?」
この
ベルもアーディもレイの様子が、何かただ事ではない何かが起きているのではと、感じてならなかった。
「何か、あったの?」
「―――その、最近、密猟者の動きがやけに活発なのでス。フェルズが、『武装したモンスター』など我々【
中々尻尾を出さず、むしろ同胞が危険な目にあったり、行方不明になることが、また増えたと頭悩ましげにレイは言った。ベルは、先日リューからギルドの掲示板にあった情報の1つとして、『武装したモンスター』のことがあったことを聞いていたのを思い出して、アーディなら何か知っているのではと思って見つめる。
「――うん、前々から、フェルズさんが異端児を無差別に捕獲している
曰く、『人語を扱うモンスターだ、人型に限って言えば見目麗しい。珍しければ、そそるのだろう。彼等を虐げた上で都市から密輸し、好事家どもに売り払っている』らしい。
あの行方不明事件の一件以降は、特段変わったこともなく、移動しての生活をしていた異端児達だったが、それが突如として動きが変わってしまった。その要因の1つが。
「――笑いなガラ、襲い掛かってくる男がいたのでス。つい最近デハ、ウィーネが襲われまシタ。」
「ウィーネが?大丈夫なんですか!?」
「エエ、なんとか。ソノ・・・以前リドが言っていた
魔剣を使い派手に暴れまわり、その間にウィーネを回収し、何とか逃げおおせたのだという。
「それで、その襲ってきた男の特徴は?」
「――ええと、糸目というのでしょうか?」
「ふむふむ」
「それで、エエト・・・【悪】がどうトカ・・・」
「ふ・・む・・?」
「よくわかりまセンガ、『世界の樫』がどうとか・・・」
とにかく、狂っていて気味が悪かったノデス、とレイは言いながら腕を摩るように震え上がった。
「うーん・・・それが
「か、返り討ちにしてやりましたよ!ばちこーん☆」
「―――えいっ!」
ぺしっ。
「痛い!チョップ、チョップやめてください、アーディさぁん!?」
「まーたアリーゼに悪い教育されたね!?駄目だよ!?」
「だ、だってぇ!?」
「というか、まーた無茶したんじゃないの!?君、ただでさえ魔法が使えないんでしょう!?」
「ご、ごめんなさぁぁい!?」
アーディはベルに飛び掛り、頭をグリグリと小突き今は地上で何かしている
「ア、アーディさん!ベ、ベルさんが泣いていますヨ!?」
「ハッ!?ご、ごめんベル君、やりすぎた!?」
「くぅぅぅぅ・・・」
「ご、ごめんね?よ、よしよーし」
「ベ、ベベベルさん、大丈夫デスカ!?」
「だ、大丈夫、大丈夫・・・デス」
3人で一度、脱線してしまったと、深呼吸。
その謎の人物に心当たりがあるのかアーディは口で親指を咥えるようにして思考。
「いなくなった異端児達の行方はやっぱり、わからないんですか?」
「エエ、分かりまセン。というより気が付けば逸れてしまっていて、悲鳴を聞きつけて追ってみた者がさらに襲われる始末・・・」
「密輸なら・・・たぶん、あそこだよね・・・?」
「何か、知っているノデスカ?」
「あくまで、可能性だけど・・・。でも、フェルズさんだって知っているはずじゃ?うーん」
――フェルズさんはあえて黙ってる? 鍵がないから?
ベルもまた思い返す。
廃教会で1つ。18階層で1つ。そして、人工迷宮でイシュタルの
廃教会で入手した物に関しては、ベルの手甲に填め込んだまま、【ロキ・ファミリア】の
というより、先日リューから聞いたギルドの掲示板に載っていた情報
【『笑いながら、血を見せろと襲い掛かってくる糸目の男がいた』だの『雄叫びを上げて戦いを求めてくる雄牛がいた』だの『武装したモンスター』だの】と全部異端児関連じゃん。と思わず遠いところを見て乾いた笑みを浮かべてしまった。
「アーディさん?」
「怪しいのは【イケロス・ファミリア】だよね・・・お姉ちゃんもそんなこと言ってたし。でも、私だけじゃどうにも・・・」
「アーディサン?」
「かと言って、ベル君を巻き込むのも・・・ううん。アリーゼに要相談?いや、あそこに入るには鍵がいるんだよね?」
「アーディーおねーさーん?」
まったく反応しない思考の海に沈んだアーディに対し、ベルは耳に息を吹きかける姉直伝の必殺をお見舞いした。その威力はお墨付き。なぜなら、ベル本人が食らっているからだ。
「うっひゃぁ!?なななな、なぁに、ベル君!?」
「なに考えてたんですか?親指咥えて」
「い、いやぁ・・・フィンさんみたいなことできないかなぁって」
「疼きました?」
「―――ごめん、駄目でした」
「どうすればよいのでショウカ・・・密猟者の動向も分からず、同胞が攫われてしまう・・・このままでは【里】まで見つかりカネマセン。」
結局、結論は出ず、レイは長居することもできないため、その場を飛び去っていってしまった。
2人は話し合いながら、そのまま足を25階層に。もともとの目的は、
「アーディさん、何か知ってるの?」
「うーん・・・何とも言えないかなぁ。お姉ちゃんから聞いた限りじゃ、それらしい話はなかったし。」
「―――大丈夫かなぁ、すごく、嫌な感じがする」
「だねぇ・・・ちなみにベル君、スキルに反応はあった?」
「ううん、なかったよ?」
スキルに反応がなかったなら、少なくとも尾行されているということはないと考えて良い。
そうこうしていると、水が流れ落ちる大爆音が聞こえ始める。
「――とりあえず、要調査、だね。ほら、ベル君、あれが
「わぁ・・・すごい・・・」
「【アストレア・ファミリア】の遠征では通る階層ではあるけど、この下の27階層の階層主が、【
死ぬから。
とトーンを落として、耳元で囁かれたベルは、ブルリと震えて、アーディの手を握り締める。
よく見れば、
「――――あれ?」
「どしたの?」
「―――あ、あの、変。」
「ん?」
ベルの様子が変わる。
知っている反応。正確には違うが、どこかで感じたことのある・・・割と最近・・・と。
「あの、一番下の滝の所・・・誰かいる?」
「へ?」
「―――人じゃな・・・い?あの、赤髪の人と同じ?」
アーディは目を凝らして滝の方を見る。
すると、いた。落ちる水によって霧がかってぼんやりとしか見えないが、男がいた。
「アーディさん、帰ろう?」
「ど、どうしたの?」
「怖い。お願いだから、帰ろう?」
「わ、わかった」
アーディの手を握るベルの手は若干震えていて、今すぐこの場所を離れたがり、2人はゆっくりとその場を後にし、大樹の迷宮へと戻る。
■ ■ ■
「やっぱり、18階層のあそこ・・・だよね」
「えっと、確か、【ロキ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の遠征の帰りに、合流したベル君が見つけたんだっけ?」
「うん。でも、怖くてすぐ引き返した」
あの時とは、Lvもまた1段違う。
もしかしたら・・・とは思うが、鍵がないから入れない。
魔法を使ってナイフで溶断していくという手段も取れないため、何もできない。
「―――まぁ、今、何かできることもないし、とりあえず、今日は帰ろうか。目的も達成したし。」
「はぁい。アーディさん、誘ってくれて、ありがとう」
「いいのいいの。お姉さんとデートだよ、嬉しい?」
「う、うん」
「えへへへへ」
滝を見に行くだけの探索だったために、後は特に目的もなく、地上へと戻っていく。
リヴィラに行っても、その『糸目の男』の情報などはなく、噂程度。
アーディだけは、何か心当たりがあるのか何度も後ろを確認しては、頭を横に振る。
「だって、主神は送還されてるのに・・・まさか、改宗?どこの神?」
ベルには聞こえない声で、ブツブツと唸り、帰還したら姉と知己に相談してみよう。というところで地上に到着。道中手に入れた採取物やドロップアイテムを換金して、ホームへと向かう。
外は太陽が傾きかけ、ぽつりぽつりと魔石灯がつき始めていた。
「アーディさんも、こっちの道でいいの?」
「うん、アリーゼに用があって」
「ダンジョンで聞いた人物のこと?」
「そ。アリーゼはどう思うかなーって。」
2人で、他愛ない話をしていると、声をかけてくる神物が1つ、現れた。
「おー、ラッキー。おーい、【
「・・・・」
少年の知らない神。しかし、『嫌な感じがする神』で、少年は、ベルは立止まり、黙る。
「ん?【
「―――私達に、何かご用かな、神様?」
「ひひっ、そう警戒しないでくれよ、っつっても無理かぁ。胡散臭ぇもんなぁ、
「というより、【イケロス・ファミリア】だから余計じゃないかな。イケロス様?」
アーディは、ベルを神イケロスから庇うようにしながら、話をする。周囲に視線を向けるも特に何も感じずベルに小声で聞いても『大丈夫』としか言わない。
「あー、俺のこと知ってるのか。そら、知ってるよなぁ、やっぱ。でもよぉ、聞いてくれよ。生意気なガキどもに顎で使われている最中でよぉ?」
聞いてくれよ、と眷属の文句交じりに2人の周りをぐるぐると周回する。
顔を覗きこんできたり、気安く肩に手を回してきたり、馴れ馴れしいを通り過ぎておちょくってくるような真似をしてくる神イケロスに、ベルはガタガタと震える。
全く見えてこない会話に、アーディは面倒くさそうにし、ベルは我慢の限界だった。
アーディはそんなベルの様子に気が付いて、神イケロスを捕縛したいけど、ベルの安全を優先させるために失礼させてもらおうとすると――。
「喋る怪物って知ってるかぁ?」
「――――フッ!!」
神イケロスが喋ったのと、ほぼ同時。
神イケロスの眼前、鼻ギリギリにベルの拳が飛んできていた。
それを、1人の
「ダメだ、ベル・クラネル。冷静になれ。」
「落ち着きなさい、ベル・クラネル。深呼吸を、深呼吸をしてください」
「き、君が神殺しをするなんて、私は見たくないぞ!?」
「え、えぇ!?【ヘルメス・ファミリア】!?アスフィ!?」
「申し訳ありません、【
冷や汗を流しつつも、笑いながら固まるイケロスから距離を取らせるように少しずつ、ベルを下がらせる。
「―――彼はこのまま行かせても構いませんね、ヘルメス様?」
「ああ、構わない。ローリエ、ファルガー、頼む。ベル君、ゆっくり、深呼吸をするんだ。落ち着いて。じゃないと、アストレアが悲しむ」
「・・・・はい」
2人はベルとアーディをつれて、その場を離れるように促しヘルメスはイケロスに向き合う。
「何だぁ?あのガキは。【神殺し】に躊躇がねぇのかぁ?いつから【アストレア・ファミリア】は神殺しまでできるようになったんだぁ?」
「なりかねない子ってだけさ。何処にだって居るだろう?神を憎む子くらい」
「ひひっ、違いねぇ。それにしても、ヘルメスぅ、何の用だよ。こっちは【涙兎】に話をしてる最中だったろう?」
「おいおい、殴られかけておいて、話も何もないだろう?・・・なに、いたいけな子供が神の毒牙にかかりそうだったからね、見過ごせなかったのさ」
「ひひっ、ひでー言い草」
「アルテミスにバレたらガチで殺される。ヘラは遠くにいるから・・・いや、やっぱヘラもダメだ」と小声で言うも、その顔には先ほどのベルの行為で冷や汗がダラダラだった。
2人は申し合わせたように街路から動き、噴水が設けられた小広場へと移る。まるで密会を始めるがごとく、人気のない場所で向かい合った。
「ホームを訪ねても誰もいない、もぬけの殻・・・随分探したよ」
「あーわりぃわりぃ。あそこは住み心地が悪くてなぁ。ちょっと引越しをしたんだ。」
「ギルドに一報入れておこうぜ、イケロス」
そこから行われるのは、神々の腹の探り合い。ベル達の知らない神々のやり取りだった。
■ ■ ■
「――――ヒヤヒヤしたぁぁぁ!!」
「おい、落ち着けローリエ。うるさいぞ」
「いや、でも!?ベル君、君が神に手を出すなんてはじめて見たぞ!?」
「いや、ヘルメス様には割りと石を投げようとしたり、アストレア様に『膝枕してー』とか変な声で言った所を、アスフィと一緒に殴っているのを俺は見た」
「「うそぉ!?」」
ぼんやりと歩くベルの手を心配そうな顔をしながら歩くアーディに、先ほどの出来事を思い返して叫びあがるローリエに冷静に『いや、こいつならやりかねん』と冷や汗を垂らすファルガー。しかし、ヘルメスをアスフィと殴ったという話でアーディとローリエは思わず叫びあがってしまった。
「ベ、ベル君、神様を殴ったりするのは・・・その・・・」
「お義母さんだって、お爺ちゃんに魔法当てて吹き飛ばしてた。だから、大丈夫。お義母さんが『あいつらは、ゴキブリ並みの生命力だ。そう簡単には死なん』って」
「うーん・・・。ところで、ヘルメス様と何かあったの?」
「えっと・・・前に、ファミリアのホームに何の用かはわからないけど来てて」
『――ご褒美?何かしら?』
『――アストレアママァ~!オレ、すっごく頑張ったんだよ~! ご褒美にぃ、膝枕をしてぇ、頭をヨシヨシしてほしいなぁ~!』
ドゴォ!!
『ごぽぉぉ!?』
『それ以上アストレア様に近づいたらブチのめしますよ!!』
『アストレア様に触るなあぁ!!』
『既にブチのめされてまーーーーすっ!!?』
はじまるは美女からの殴打と少年からの殴打。罵詈雑言の嵐。
『大体なんですかっ!全然姿を見せないで!仕事サボって!!このっ、このぉ!』
『僕のアストレア様に触るなぁ!!邪神めぇ!!』
『ち、違う!!俺は邪神じゃないぞ、ベル君!?』
アスフィの前にベルが。2人して馬乗りになって殴るという奇妙かつ器用なコンビネーションによって右、左、右、左と拳がめり込んでいく。
『すいませんっ、すいませぇんアスフィさぁん!!顔面っ、顔面の形っ、変わっちゃう・・・!そ、それにベル君!?き、君、アルフィアに見えて仕方がないんだが!?君はほら、もっと優しい子だろう!?』
『アスフィさん、この神、埋めましょう!!』
『いい案ですね、ベル・クラネル。埋めてやりましょう。明日には新しく生え変わってるでしょうから!今度はまともに成長してほしいものです!そうだ、【デメテル・ファミリア】から肥料を分けてもらいましょう!』
『お爺ちゃんだって毎朝採れたてで土から出てきたんです、ヘルメス様だっていけます!』
『ア、アストレアっ、お、お助けぇぇぇ!?』
「―――ということがあって。」
「「その節は本当に申し訳なかった」」
「え、いいの!?2人とも!?ヘルメス様、ベル君に殺されかけてるじゃん!?」
いやだって、ヘルメス様だし・・・と、眷属2人は微妙な顔で答えるしかなかった。