兎は星乙女と共に   作:二ベル

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イケロス

「―――で、ベルは他所の神様を攻撃しようとして、その後気を失ったように眠っちゃったってこと?」

 

【アストレア・ファミリア】本拠、星屑の庭のリビングの長椅子(カウチ)に、虎人(ワータイガー)の青年が、背負っていた眠っている少年を降ろす。

 

「ああ。その通りだ、【紅の正花(スカーレットハーネル)】。どうなっている?ああまで反応する少年とは聞いていないが?」

「いや、うん。本当に一瞬の出来事だった」

「私としては、あなたたち【ヘルメス・ファミリア】が、都合よくいたことが不思議なんだけど」

 

長机に肘を付いて、ベルを一度見て、【ヘルメス・ファミリア】の2人を横目に視線を移して、アリーゼは口を開く。

 

「そ、それは・・・」

「『武装したモンスター』」

「っ!」

 

口を開き説明する前に、関係ありそうなワードをアリーゼが呟けば、ビクリとローリエは体を揺する。

 

「【ヘルメス・ファミリア】がいつから知っているのかは、置いておくとして、少なくともベルのお爺様――ゼウス様はその存在を知っていた。だって、ベルの村にいたんだもの。なら、やり取りをしていたヘルメス様が知らないはずがないでしょう?」

 

「待て待て待て、疑っているのか?俺達を!?」

 

「疑うなって言われても・・・なんで、【イケロス・ファミリア】の主神が接触してきて、ベルが攻撃しようとしたところで、貴方達が都合よく現れるのよ。」

 

「ここオラリオが、世界一の魔石製品生産都市であるというのは知っているな?」

 

「ええ、もちろんよ。でも、あの手この手で密輸品の流出が後を絶たないわ。厳しく取り締まっていても、密売を許してしまうあたり、大きくなりすぎた都市故よねぇ。」

 

【ヘルメス・ファミリア】の虎人(ワータイガー)とアーディもアリーゼがいるテーブルまで行き、席について話を進める。

 

「べ、ベル君はこんな寝顔なのか・・・!」

「あ、あの、ベル様のお世話は私がしますので・・・」

「い、いや、しかし、運んできたこちらにも責任が!?」

「だ、大丈夫でございますから!?」

「あ、あとちょっとだけ・・・」

「―――ちょっとだけですよ?」

「――!あ、ありがとう、狐人!!」

 

「ちょっと、そこの妖精さんこっちに」

「おい、お前はこっちだ、残念妖精(ローリエ)

「ひゃぁい!?」

 

何だか眠れる兎と戯れようとする狐と妖精がいて、2人から圧の聞いた声をかけられ、ローリエはいそいそと席に着く。

 

「こ、こほん。まぁ、神を攻撃するなんて、この都市だってないわけじゃないし」

「アスフィだって、ヘルメス様を殴ってるしな」

「まぁ、大丈夫でしょ。その辺は」

「話を戻しましょうか。」

 

密輸品の経路を探り、関わった組織を突き止めるのは【ヘルメス・ファミリア】の仕事の1つだった。ギルドに依頼される形で彼等は都市外へと赴き、品の受け取りやそもそもの出どころを調べ上げるのだ。『運び屋』を始めとした仕事を担う彼等が、都市の自由の出入りを許されているのはここにも一因がある。【万能者(ペルセウス)】の魔道具を使いこなす中立派閥(ヘルメス・ファミリア)の依頼遂行の信用度は、例え公式Lv.を偽っていてもギルドの中で高い。

 

「――それで、密輸調査をしている傍ら、ローリエが()()()()()()()()を確認したんだ。」

「潜入先は?」

「エルリア貴族の屋敷だ。経路を調べた結果、他地域の王侯貴族のもとにも、運ばれている可能性がある。」

 

ローリエは、ヘルメスに伝えたようにアリーゼとアーディにも自分が見たものをそのまま、説明する。

 

「――地下の拷問部屋に、モンスターが鎖で繋がれていたんだ。調教を受けていたかは定かじゃないけど・・・人の所業とは思えない辱め――仕打ちを受けていた。私達が踏み入った時には、既に虫の息で・・・」

 

「そこからだ。俺達が正確に『武装したモンスター』『喋るモンスター』のことを知ったのは。ヘルメス様は確かに、知っている風だったが。」

 

ヘルメスに伝えたときのローリエは錯乱してさえいた。恐らくは、眷属がそうなるのを防ぐためにあえて黙っていたのだと、ファルガーは言う。

そして、密輸に関わった商会、そしてモンスター密売の経路を追った情報が綴られた羊皮紙の中、迷宮都市にまで遡る道筋には、とある【ファミリア】の名前が挙げられていた。

 

「それが――」

「それが、【イケロス・ファミリア】?」

「ああ、そうだ。」

「なら、『喋るモンスター』を知っているベル君に何かしら接触があるとふんで、つけてたってこと?」

「す、すまない。ただ、ヘルメス様が言うには『彼なら気づくし、気に入らなければ俺達から逃げることくらい造作もないぜ』と言っていて・・・」

「―――あ。」

 

とそこで、アーディは気づいた。

神イケロスが接触してきた時にベルに声をかけた際、『大丈夫』と言っていた意味を。

 

「ベル君、【ヘルメス・ファミリア】がいることに気づいてたんだ・・・?あれ、でも、特定はできないはずじゃ?」

「『害意』の有無で判断してるんじゃないかしら?本人に聞いてみないとわからないけれど、たぶん、本人も『何となく』としか言わないでしょうね」

「ヘルメス様って、イケロス様のこと捕まえてくれると思う?」

「いや・・・ないと思う」

「だよねぇ・・・」

 

【ヘルメス・ファミリア】がいたことの説明が終わり、今度はアーディが『丁度いいし、そっちも意見を聞かせてよ』と口を開いて、ダンジョン内で起きたことを話す。

異端児を狙う密猟者の動きが活発になっていること、笑いながら襲い掛かってくる糸目の男のこと、そして、ベルに良くない教育をしているアリーゼのことを。

 

「―――『ばちこーん☆』って何かな、アリーゼ?」

「い、いやぁ・・・何かしらぁ」

「アリーゼしかいないでしょ!?」

「い、いや、やらせたら可愛かったから、つい!!ごめんなさい!」

 

可愛かったのは否定しないけど、空気が台無しになるから考えて!とアーディはアリーゼを説教。

 

「それで・・・えっと、ベル君と25階層まで行って滝を見てきたんだけどね?その、私の目にははっきりと見えなかったんだけど、27階層の滝の近くに男がいたみたいで」

 

噂になっているのをあわせると何か嫌な感じがするんだけど。とアーディは暗黒期にいた2人(アリーゼとファルガー)にどう思う?と聞く。

 

「特徴・・・糸目ってだけなら、それなりにいるだろうな。」

「ええ。けど、『悪』がどうとか言ってたんでしょ?それに、敬語を使う・・・」

 

2人は溜息をついて頭を抱える。

アーディはベルが起きてないか一度確認し、顔を近づけて小さめの声で言う。

 

「ねぇ、エレボス様って本当に送還されたんだよね?」

 

「――ええ、アストレア様が送還したわ。だから、その唯一の眷属が生きていたとして、別の神の眷属になっている可能性はあるんだけど・・・」

 

「神を憎んでるあいつが、あるのか?改宗なんて」

 

「うーん・・・可能性は0じゃないけど。」

 

「あと、ベル君が『赤髪の人と同じ』とか言ってたんだけど、わかる?」

 

「赤髪・・・赤髪・・・いやいやいや、はっははは!!あってたまるか!」

 

ファルガーは、そんなこと冗談じゃないぞと、思わず笑い声を上げてしまう。

赤髪の女――24階層でアイズが戦っていたレヴィスのことだとすぐにわかり、『同じ』とは即ち。

 

「じゃぁ、何か?【顔無し】は怪人(クリーチャー)にでもなったと!?」

「ちょっと、落ち着いて!?」

「うるさいわよ!?」

「ベ、ベル君が起きるだろう!?」

 

「んー・・・『福音』・・・・」

 

「「「「ビクゥ!!?」」」」

 

ベルが現在、魔法が使えなくてよかった。そう思った瞬間である。寝ている際に大声を出したあまり、吹き飛ばされるなんて冗談じゃないぞ!と美女3人はファルガーに抗議の目を向け、ファルガーは全力で謝った。

 

 

 

 

「―――ところで」

「―――何かしら、ローリエちゃん?」

「もし、『武装したモンスター』が、地上で騒ぎを起こしたら・・・貴方達は【アストレア・ファミリア】は、【ガネーシャ・ファミリア】は、どうするんだ?」

 

まぁ、聞いてくるでしょうね・・・とアリーゼは、少し目を瞑って、ベルを見つめて、再び【ヘルメス・ファミリア】の2人を見つめて答える。

アーディもまた、答える。

 

「ガネーシャ様なら、『市民の安全が最優先!』って言うと思う。最悪、対処しなきゃいけなくなる・・・と思う。したくないけど」

「こっちも同じよ。ダンジョン内ならまだしも、地上となれば、騒ぎになるし、市民が危険に晒されてしまう。私達は市民を守らざるを得ないわ。」

「で、では、ベル君が『武装したモンスター』を助けようとした場合は・・・!?」

「私達はあの子に、派閥としての活動を強制していないわ。『自分が正しいと思ったことをしなさい』とは言っているけれど・・・。私達が、アストレア様があの子を助けたくても、できない可能性が高い。・・・だから、」

 

 

お願いしたい事があるの。そのお願いは、決して少年から口にすることのない、お願いであることを2人は知らなかった。

 

 

■ ■ ■

 

「で、用ってのはなんだぁ、ヘルメス?」

「なぁに、ちょっと聞きたいことがあるんだ。・・・【イケロス・ファミリア】が都市の密輸に関わっている、そんな情報を小耳に挟んでね」

「おいおい、どこの情報だ?眉唾物じゃねえのか?」

「確か、エルリアの貴族だったかな?」

「・・・ひひっ、何が小耳だ、随分遠くの方まで調べ回ってるじゃねえかよ」

 

【イケロス・ファミリア】は過去に闇派閥の一味として候補に挙がっていたため、ヘルメスは探りを入れてるが、イケロスは終始食えない言動でのらりくらりと質問をかわす。

ヘルメスもまた、帽子の下から覗く笑みを崩さない。そして、さらに情報を聞かせた。

 

()()()()()()モンスターまで、このオラリオからばらまかれているらしい。世界に混乱をもたらすように」

 

核心に踏み込んだヘルメスに対し、イケロスは紺色の瞳を見開き、口が裂けんばかりに唇を吊り上げた。

 

「ひっ、ひひひひひひひひっ・・・!!俺が望んでいるっていうのか、ヘルメス!?この俺が獣の夢――悪夢を下界に振りまくって!?そりゃ面白え!!」

 

何が痛快なのか、イケロスはゲラゲラと笑い声を上げ、黙って見つめるヘルメスの横で、腹を抱えて何度も体を折り曲げる。

散々声を響かせた後、イケロスは上体を起こし、笑った。

 

「ひっひひひひぃ・・・――生憎、俺は一切関与してねえ。指図もしちゃいねえ。はしゃいでいるのは、眷族(ガキ)どもの方さ」

 

もはや更々隠す気などないように、イケロスは言葉を発する。

 

「最近はよぉ、馬鹿なガキがめっきり減って、生意気な連中が増えた。神を敬いもしねえ連中だ。この俺を使いっぱしりにしやがる。おまけに・・・神を殺すことに躊躇がねえようなガキまで現れやがった。笑えるぜ?」

 

「――ベル君を刺激しないでやってくれないかい?」

 

「何をしたらああなるんだ?えぇ?それこそ、邪神が欲しがるようなガキじゃねえかよ」

 

相貌に浮かぶ笑みは、愉悦を噛み殺す神の笑い。

神の視点から見れば愚かな真似をする子が滑稽で、何より愛しいと言うかのようだ。

『こりゃ、エレボスがベル君のことを愛しているとか言ったらそれこそ血祭りものだな』とヘルメスはイケロスの顔を見てそんなことを思った。

 

「イケロス・・・【ファミリア】の手綱を握るのも主神の仕事だぜ?」

「思ってもないこと言うなよ、ヘルメス。ガキどもは苦痛には耐えられるが快楽には逆らえない。神々(おれら)だってそうだろ?俺はあいつ等の気持ちが痛いほどわかる。」

 

だから、あいつ等が俺を楽しませる限り、俺はあいつ等を止めない。

ヘルメスに顔を寄せて、イケロスははっきりとそう言い

 

「にしても、可哀想だよなぁ・・・殺したくても、あのガキはそれに逆らい続けなきゃいけないんだもんなぁ?」

「やめろ。イケロス」

「俺を捕まえるか?それとも、ブッ殺して送還するか?どっちでもいいが、眷族(ガキ)どもは止まらないぜ?身をくらませるか、他の神々と再契約するかのどっちかだ。」

 

「だろうなぁ」

「まぁ、調べるといい。そこら辺に潜んでるのでもさっき現れたのでもいい、お前の眷族(ガキ)を使って、俺の身なりだろうが、あいつ等だろうが。なぁに、構いやしねえよ、存分に嗅ぎ回れ――そっちの方が面白くなりそうだ。」

 

眷族達の行く末を楽しむかのように、イケロスは言葉を残し、話を切り上げ軽薄な笑みを崩さず、広場から去っていく。

 

「―――やれやれ、娯楽に飢え切っている神ほど、たちが悪いものはないなぁ」

「――ご自分のことを棚にあげないでください。それより、どうされるおつもりで?」

「そうだなぁ・・・とりあえず、ベル君をはっておきたいなあ・・・なぁんか、狙われている感じがするし」

「スキルで気づかれない範囲で。ですか?」

「難しいだろうなぁ。アスフィ、【ハデスヘッド】ならどうだ?」

「無理ですよ。」

「だよなぁ・・・仕方ない。手探りでギリギリの範囲を見つけるしかない」

 

また無茶振りをさせるつもりか、こいつ。とアスフィはヘルメスを殴りそうになったが、それでは少年を止めたのに自分はいいのかと少年本人に抗議されるような気がして、やめた。

 

 

■ ■ ■

 

 

「―――ふぁ。」

 

間抜けな欠伸をこぼし、瞼を擦り、少し冷えていたのか震えて体を起こす。

少年は、ぼんやりとする頭で自分の最後の記憶を掘り起こし、まだスキルの影響が残ってるのかな?なんて考えていたところで、声をかけられる。

 

「あ! アストレア様、ベルが起きましたよ!ほら、ベル、起きたならこっちに来なさい。もう夕飯よ?」

「んー・・・・寒い」

「上着、貸してあげるわ」

「ありがとう、アリーゼさん」

 

冷える体を摩りながら、アリーゼから上着を借りて、女神の横に座って、その横顔を見つめる。

 

「――私の顔に何か、ついているかしら?」

「うーん・・・何か、久しぶりな感じがして」

「そうかしら?」

「ベルったら、2日連続で春姫と添い寝ですもん、寂しいんですよきっと」

「ああ、なるほど。今日は一緒に寝る?」

「――! はい!」

 

少年は嬉しそうに返事をしているのを、姉達は微笑ましく眺めると同時に、抱きつく際に女神の首に手をまわしたり・・・と最悪な光景が起きなくてよかったと内心安堵していた。

各々が、用事やら巡回やらで帰還すれば、少年は眠っているし聞いた話では他派閥の主神を殴り飛ばそうとしたとかで、それはもう驚いたのだ。

もっとも、他の神に会ったからと無差別に襲い掛かるわけじゃないことは、もう既に複数の神に会っているためにわかっているため、そんなことが起きたのは、その神が原因であることはわかっていたが。

 

 

「ベル、しないとは思うけど、寝てるアストレア様を襲ったりしちゃだめよ?」

「襲うわけないじゃないですか・・・」

「ベルが眠っている女の子を襲ったりなんてしないわよ、アリーゼ?」

「え、あ、うーん?ソッチの意味じゃないんだけど、まぁいっか。・・・そ、そうですよね。」

「アリーゼさんも一緒に寝る?」

「え!?いいの!?」

「いいわよ、アリーゼ」

 

わーいやったー!と喜びはしゃぐアリーゼ達を嫉妬の目で睨みつける姉達。しかしそれに気づくのは、ベルと春姫だけだった。

 

「そういえば、輝夜さんとリューさんとライラさんは?」

「えっと、ダンジョンよ?」

「こんな時間に?」

「そ。ちょっと調べものをしにねー」

「そっかー」

「何々、寂しいの?」

「べ、別に・・・」

 

 

ダンジョンに向かった3人の調べものの内容は、ベルには話さない。

嫌な予感しかしないから。それが、団長としてのアリーゼの決定だった。

仮にもベルにとっては、一番のトラウマの神である眷族かもしれない存在がいるなんて噂があるのだ。

なんとしても何かしらの情報を掴みたかったために、3人だけを行かせた。

 

「それより、ベル?」

「何ですか、アストレア様?」

「あなた・・・復讐者(スキル)、使ったでしょう?」

「―――ギクッ」

 

少年は、ダラダラと汗を流し、ギギギギ・・・とアリーゼの方を見る。

自然と体は、女神アストレアという絶対的な保護者の背後に回ろうとさえしていた。が、首根っこをつかまれ、Lv.6の力をもってして、抱き上げられ、膝の上に座らせられ、額と額がくっつく距離まで顔を近づけられた。

他の姉達は、『あ、これまたお仕置きなやつだ』と助けを求められても困るため、各々がそれぞれ、勝手に会話をしだす。

狼人のネーゼは春姫に『ねぇ、どうしたらベルにモフって甘えにきてもらえる?どんなボディーソープ使ってる?』なんて割りと最近、少年が自分ではなく春姫の尻尾ばかりモフりまくっていることにショックが隠せないのか、そんなことを聞く始末。

 

「ア、アリーゼお姉ちゃん・・・え、笑顔が素敵・・・ですね?」

「あ・り・が・と・う!!清く正しく美しい私だもの。ありがたく受け取っておくわ!」

 

ギチギチと逃げ場を塞ぐように、抱きしめていく。

胸は当り、形を変え、少年は近すぎるその距離に顔を赤くしていく。

 

「ア、アストレア様ぁ・・・・」

「―――あ、後でいっぱい抱きしめてあげるわね」

「そ、そうじゃなくってぇ!?」

「べーるーぅ?」

「うひゃぁい!?」

 

耳元で温かい吐息をかけるように、ネットリと少年の名を囁き、少年はくすぐったさから来る悲鳴を上げる。なんとか逃げようともがくも、Lv.という絶対的な力の差によってそれは敵わない。

 

「リュ、リューさ・・・」

「リューはいないわ」

 

――シルさんの弁当を食べたのに!?約束と違う!!

 

試練(シルの弁当)を乗り越えたのに、こんなのあんまりだ!!約束が違う!!と涙ながらに、心の中の妖精(リュー)に訴えかけるも『私は確かに、()()()()()()喋っていません。約束は守っている。』と言われ目を背けられた気がして、開いた口が塞がらなかった。

 

「あ、あの・・・その・・・」

「私ぃ、『使わないように』って言ったわよね?危ないからって。」

「ひぃぃぃぃ・・・」

「しかも、リューと離れた時に使ったんでしょう?」

「ひぅっ!?」

 

人差し指が、おなかを、ヘソのあたりをツツーとなぞってくる。

 

 

「何か、言うことはあるかしら?」

「ご、ごめん・・・なさい・・・」

「―――次は、どんなお仕置きがいいかしら?ねぇ、みんな?」

 

笑顔の姉は、少年に額をくっつけたまま周りの家族達に問う。

 

「「「「女装」」」」

 

即答であった。

ましてや、味方をしてくれると思っていた女神と春姫まで、若干頬を染めて、小さい声で呟いていたほどだ。

 

「ア、アリーゼさぁん・・・・」

「―――ぷふっ。」

「へ?」

「ふっふふふふ。駄目よベル、そんな、捨てられたペットみたいな顔して・・・ふふふっ。よしよし、もう怒るのはやめるわ」

「ほ、ほんと?」

「ええ、本当よ。さ、ご飯食べて、お風呂入って、アストレア様と川の字になって寝ましょ?」

「う、うん・・・!!」

 

先ほどまでの圧は霧散し、ニコニコと優しく微笑んで、アリーゼは少年の頭を撫でて、食事をさせる。

それを肘をついて眺めながら、しっかりと判決を下す。

 

 

 

「まぁ、次、破ったら『女装』させるけど」

 

「ブフゥッ!?」

 

少年は、スープを噴き出した。


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