兎は星乙女と共に   作:二ベル

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ヘスティア・カウンセリング

 

 

「―――それで?今回は何に悩んでいるんだい、ベル君。聞くぜ、働きながらネ!」

 

それは、悲しいお仕置き(次やったら女装)を言い渡され、女神と姉と一緒に添い寝した翌日の昼頃。

少年(ベル)はダンジョン探索を休むように言い渡され、少女(春姫)と買物に出かけていた所、丁度じゃが丸君をせっせと売り捌く、【ツインテール】、【ロリ巨乳】の女神、ヘスティアに出くわし

『ちょっと話しようぜ!』と声をかけられ、少女(春姫)が買物に行っている間、働くヘスティアの横で【お悩み相談】という体で話をしていた。

 

「その・・・どうして、僕は今、こんな看板を持たせられて、女の人達に撫で回されているんでしょうか?」

「うっ・・・そ、それはだなぁ・・・アッハハハ人気者ダネ、ベル君!」

 

マスコット扱いで、撫で回されるのを回避するためだよ・・・とは、ヘスティアは口が裂けてもいえなかった。

少年(ベル)は両手で【じゃが丸君5個(種類は問わない)購入で白兎1分間撫で放題 】などと書かれた看板を持たされて無表情で立ち尽くし、道行く女性冒険者やら女神やらにそれはもう撫で回されていた。

 

『えー君、今日はいつものベンチじゃなくてこっちなんだね~』

『この髪質、いいなぁ』

『ねぇねぇ、ウチの派閥に来ない?』

『これが、アストレアが嵌っているっていう趣味の・・・?すごい・・・』

 

少年(ベル)は早くも、保護者(春姫)がやってくるのを、それはもう、待ち望んでいた。

というか、僕の頭を撫でるのが、安くて30×5=150ヴァリスでいいんだろうか?と思ったが、そもそもそういうお触りの値段はよくわからず、元【イシュタル・ファミリア】の春姫とアイシャに聞くべきか迷ったが、まぁどうでもいいや。と諦めた。

 

―――とりあえず後日、リリに報告しておこう。

 

『いいですか、ベル様?もし、ヘスティア様が、醜態を晒していたら教えてください!孤児院の子供達にとっても悪影響なので!』

『なんだかんだ、リリって子供の世話好き?』

『キー!うるさいです!』

 

おばちゃんは、後でお礼を上げるから許して~と言っているし、そのお礼も何かわかりきっているので、少年(ベル)は無心で身を任せることにした。

 

「ま、まぁ?アストレアとアストレアの子供達と・・・あと、アルテミスに聞いたぜ?最近、また君、不安定気味だってね。だから心配なんだよ、家庭を守護する神としては、君みたいなこはね?」

「・・・・・」

「何でも、暗い場所を見つめていたり、ぼけーっとしている時もあれば、思いつめている時もあって、僕は詳しく聞いてないんだけど、何か辛い事があったらしいじゃないか」

「・・・・・」

()()()()()()()言えないこともある。今の君、迷子みたいだぜ?」

 

ほれ、何でもいいから、言ってみ?おばちゃんにも働きながらなら大丈夫って許可貰ってるからさ!と『じゃが丸君の女神様』は少年(ベル)に親指を立てて言う。

曰く、孤児院を運営し始めてから、屋台でちょっとしたお悩み相談をするようになったらしい。

もっとも、恋愛ごととかだと『知らねぇぇ!!アモールの広場にでも行って乳くりあってればいいじゃないか!あ、でも、アルテミスに見つからないようにネ!?いや、マジで!!』なんて言って追い返しているらしいが。

 

「えっと・・・」

「ドンと来たまえ、ベル君!」

「―――【怪物】との共存は、可能ですか?」

「おおっと、予想以上に、ヘヴィな相談だぜぇ・・・」

 

ヘスティアは思わず、じゃが丸君を落としてしまった。

おばちゃんがキレた。女神は泣いた。

 

「あー、ちなみにベル君。君は所謂【怪物趣味】ってやつではないんだね?」

「違いますよ・・・僕は、普通に女の人が好きです」

「うん、聞いてないけどね。」

「アストレア様が好きです」

「あ~聞きたくなーい」

 

女神はじゃが丸君を作るスピードを上げた。

客のお姉さんに、【プレミアムじゃが丸君スペシャルBOX】を渡し料金を貰っていた。

なんだそのプレミアムじゃが丸君BOXは。いや、一瞬、最近気まずくて一方的に避けている金髪少女がいた気がしたけれど、その少女もそれに夢中で気づいてすらいない!!

 

「えーっと、【怪物】との共存は可能かってことだったね。それは、【調教(テイム)】しているってことが前提かい?それなら、ある程度は可能なんじゃないかな?ガネーシャのところなんて飛竜がいたはずだぜ?」

 

「そうじゃなくって、僕達と同じ知性を持っていたらって話です」

 

ヘスティアは言葉に詰り、以前、リリルカが帰還したときに『あんなのがいるなんて、リリは知りません。ヘスティア様は知らないのですか?』と詰め寄られたことがあったことを思い出す。

 

「リリルカ君が言っていたのは、この事かぁ・・・・。ちょっと僕は見たことがないから、聞かせてくれないかい?」

「えっと、僕達が産まれる瞬間を見たその怪物は、竜女(ヴィーヴル)で、でも、人の姿だったんです。人の姿に、鱗がある感じで」

「えっと確か本来だと、下半身は・・・ラミアみたいな感じなんだっけ?」

「はい。それで、理性的な顔・・・僕達と変わらない表情を持っていて本能で生きているのとは違いました」

 

ベルは、どこまで話して良いのかわからず、『冒険者に命を狙われる』『密猟者に売り物にされる』『怪物にも襲われる』とポツリポツリと話す。

ヘスティアはそこで漸く、【翼を持った女と少年】の御伽噺の事が、ベルのことを指していることに気づく。

 

「なるほど・・・君が悩むわけだ」

「・・・?」

「恐らく、それは僕達神々にとっては『未知』だ。それに、モンスターは下界の住人の、君達の敵であり争わなければいけない存在だってことは、わかっているね?」

「・・・はい。」

「けど、君が言うその怪物たちは、普通のモンスターとは違って話し合うことができる、か。うーん・・・」

「やっぱり、難しいですよね」

「だねぇ・・・。そもそも、孤児がいる原因のひとつでもあるからねぇ。モンスターに親兄弟を殺された、なんて子はこの世界じゃ普通にいるわけだし。僕としては、複雑だね。」

 

自分の目で見ていないから、余計に判断できない。そうヘスティアは言い、一度口を閉ざす。

恐らく、この子は、地上に出た場合、自分のいるファミリアも、他のファミリアも怪物達を殺そうとするのがわかっている、対処せざるを得ないことをわかっているから、だから余計に必死になってしまっているんだろうとそう自分の中で結論を出した。

 

「君は、どう考えているんだい?」

「オラリオの壁を越えて・・・それこそ、【セオロの密林】にでも、身を隠せば、生きていくことはできるんじゃないかって。でも、手段がなくて・・・方法がわからなくて。」

 

僕1人でできることじゃない・・・無表情で、今少年(ベル)が受けている光景(撫で回し)とはあまりにも差のある話題は、ついに言葉が詰る。

 

「・・・そうだね、飛べるなら、夜にでも飛び越えれば、可能性はゼロじゃない。でも、そもそもダンジョンから出る手段がないんだ。」

「はい。危険すぎます・・・。ごめんなさい、こんな話して。話題、変えてもいいですか?」

「お、おう・・・ドンと来きな!」

 

■ ■ ■

 

「実は・・・変な魔道書のせいで、僕のスキルや魔法が、変わってしまっていて・・・そんなことってあるのかなって。」

「うーん・・・僕は、リリルカ君が初めての眷族だからなぁ。」

 

眷族の数が多い派閥なら・・・いやでも、そもそもそんなこと有り得るのか?とヘスティアは唸る。

魔道書ってめっちゃ高いんだろ?・・・ン千万ヴァリスはするって・・・なんでこの子が?アストレアが?

 

「アストレアに買ってもらったのかい?」

「え?1冊は、遺品?で僕に残されてたんです。」

「――おい。いま、1()()()って言ったかい?言ったよね?言ったよな!?」

うるさいです(ゴスペル)・・・はぁ」

 

前みたいに、魔法が使えず、どんより落ち込む少年(ベル)と、冷や汗がぶわっとかいて、じゃが丸君を握る手がガタガタと震える女神。

 

『ヘスティアちゃん!震えすぎだよ!?衣が全部落ちてる!落ちてるから!生まれたままの姿に戻ってるからぁ!!』

『うっへぁあ!?ご、ごめんよ、おばちゃぁん!!』

『いったいどうしたら、一度つけた衣を全部剥がせるんだい!?振動しすぎだよ!?』

『ち、違うんだってぇ!!』

 

ヘスティアは、ヒヤヒヤしながら、じゃが丸君を売り捌きつつ、思考。

え、まって、魔道書(グリモア)って確か、ン千万・・・だよね?【100ヴァリス均一】とかで売ってないよね!?

この子は、2冊も使ったのかい!? ワケワカメなんだけどぉー!?助けてくれぇい、アルテミスゥゥゥゥゥ!!と、お悩み相談してやるぜ!とその豊か過ぎるわがままボディの女神は、匙を投げたかった。会うたびにベルの自慢話をしてくる、今どこで何してるかわからない月女神に。今度いつ来るんだろ、来たら一緒に神聖浴場行かないか誘ってみようかな?なんて現実逃避を始めてしまう。

 

「・・・ごめんなさい。」

「い、いやぁ~こ、子供は元気が、い、い、一番さ・・・!で、でも、街中で魔法使うのはやめようぜ!な!」

「はい・・・いや、使えません。使えなくなりました」

「それが、もう1つの悩みの種ってことかい?」

「元々あったスキルが、変わってしまったのと、魔法がいくつか使えなくなってしまったんです。アストレア様は『何かきっかけがあれば・・・無くなったわけじゃないから復活するはず』って言ってたんですけど。」

 

そのきっかけが、わからないんです。

義母の魔法が使えないから、義母に見放されてしまったなんて考えてしまうし、人を殺すことに特化したようなスキルが発現するし・・・と、撫で回してくる年上の女性を無表情で見つめながらそんなことを言う。

 

「変わってしまったきっかけ・・・そうだね、変わる前に君の心に大きく影響を及ぼした出来事ってあるかい?」

「・・・人が、怪物に変えられて・・それを、『助ける手段がない』って、その・・・目の前で【英雄】のような人がすぐ諦めて、殺しました」

「【英雄】が・・・ねぇ」

「何もできなかった僕が、人のせいにしている・・・傲慢だってことくらいわかってますよ。助ける手段がないこともわかってるんです。でも、あの時の僕は、いや、今でもそれを受け入れきれなくて・・・ひどく、絶望しました」

 

お義母さん達が命を投げ打ってまでした結果、呆れてしまうような、嫌なことばかりで、失望しちゃって。それで、暴走しちゃって、気が付けば、魔法が使えなくなっちゃってました。そう遠い目をしながら、少年(ベル)は自分の身に起きた出来事を大雑把に話す。

 

『ありがとう、またねー』

『はい、じゃが丸君も買ってくださいね?』

『ぎゅってしていい?』

『【プレミアムじゃが丸君スペシャルBOX】を買ってくれたら考えます』

『えぇー・・・むぅ、しょうがない。撫でるだけにしておきます』

『はい、そうしてください。』

 

「・・・それで、君は、その、言いにくいけど・・・もうこの世にはいない家族を幻視しているのかい?」

「どう・・・なんでしょう。ただ、『もしかしたら・・・』なんて考えてしまうし、手を繋いで歩く親子を見ると、自分と被せちゃいますね。」

「ちなみに、聞いてもいいかい?どんな感じのスキルなのかって。」

「・・・『人型の敵に対する特攻性』と『追撃時にステイタスに影響』って感じです。あとは『怒り』の丈で効果が上がる・・・とか。」

「うへぇ・・・まーた、大雑把だなぁ。人型ってなんだよ。人型って。それこそ、モンスターでも人間でも、神でもいいじゃないか」

「はい。だから、僕のことを止められる人がいない時は使うなって言われました。」

「負担とかはあるのかい?」

「・・・精神疲弊って」

 

疲弊・・・【蓄積した疲労により心身共に疲れ果て、弱ってしまうこと。 それにより何もしたくなくなること】

つまり、使いすぎると、寝たきりにでもなるのか?と思い、そういや、どこか疲れた顔しているなーと少年(ベル)を見つめる。

 

「僕・・・どうしたら、いいんだろう・・・やっぱりこういうのって、【ロキ・ファミリア】にいるっていう伝説のシスター【プリティ・シスター・アールヴちゃん】に聞くべきなのかなぁ。でもなぁ。

「ベル君、そのシスターは誰から聞いたんだい?」

「え?お義母さん。そういうのがいるって言ってた」

「お義母さん、笑ってたかい?」

「はい!叔父さんも『ちぃママ』とか言ってました!」

「それ、絶対、言うなよ。」

 

よくわからないけど、マジで、危ないから、やめなよ??とヘスティアは少年(ベル)の身を案じて忠告しておいた。

心の中で、道化(ロキ)がゲラゲラ笑っている気がするが、しったことじゃない!と蹴り飛ばした。

 

「そうだねぇ・・・なぁ、ベル君、聞いておくれよ」

「?」

「これは僕が司る事物の象徴で、同時に称号みたいなもので、もう1つの名前でもあるんだけどね・・・【ウェスタ】っていう言葉があるんだ。」

「ウェスタ?」

「そう。神々の言葉で『燃え続ける聖炎』っていう意味なんだ。」

 

君の近くに、1人、いるだろう?手を引いて歩いてくれる姉がさ。君にとっては、彼女の炎はそれなんじゃないかな?君の怖いものだって、跳ね除けて、『浄化』してくれるはずさ。

ヘスティアは、ちゃんとした答えを用意できない。できないが、少年(ベル)に必要なのは、そういう支えなのだろうということはわかった。

酷く不安定な子供。だからこそ、ボロボロになったときに支えが必要。でないと、本当に壊れかねないから。

 

「君だって、君自身が覚えていないだけで、多くの人を助けているはずだぜ?」

「助けた・・・?」

「ああ!今だって、ボクとおばちゃんを助けてくれてる!売り上げに貢献してくれてるぜ!?」

「う、うーん?」

「まぁ、あれだ。そういう助けられた人からしてみれば、君が頑張っている姿を見て、君の中に『炎』を見出すんじゃないかな。それが、伝播して、いずれは大きな炎になる・・・」

 

だからきっと、君が転んだときに、君の事を、君が助けた人達が助けてくれるはずだぜ!

その言葉を、ヘスティアは何とか少年(ベル)に贈った。

 

「ベ、ベル様」

「・・・春姫、さん?」

「は、はい。その・・・じゃが丸君を買いましたので・・・えっと」

「春姫さんは買わなくてもホームで好きなだけ・・・」

「おい!そういうのは、他所でやってくれ!!ほら、もう帰った帰った!!」

 

少年(ベル)から看板を取り上げ、『えー!?もっとぉ!!』などと抗議する女神達に『おい、君達はさっきからずっといるじゃないか!!何回触れば気が済むんだ!?』と怒鳴り散らして追い出した。

少年(ベル)少女(春姫)から荷物を半分受け取り、自然と手を繋いで帰ろうとすると、再びヘスティアは声をかける。

 

「君が困っているときは、あれだ、リリルカ君が世話になっているからね!応援はするぜ!?だから、やりたいように、君が正しいとおもったことをすればいいさ!」

 

そう声援を贈る。

神は一緒に戦えない。

背中を押し、応援してやるくらいしか、できない。

それでも、できることはしてやるぜ、と。

 

少年(ベル)は、振り返り漸く笑みを浮かべる。

 

 

「―――はい! でも、他派閥の団員で金儲けしたことは、リリには伝えておきますから!」

「あ、ちょっ、ま、待ってくれぇ!!それだけは、ほ、ほら、この【プレミアムじゃが丸君スペシャルBOX・ヘスティアスペシャル】を上げるから許してくれぇ!!」

 

 

 

女神の必死の懇願が、ストリートに響き渡った。

 

 

 

「―――ったく。アストレアがボクに『相談相手になってほしい』なんていう理由がわかった気がするよ。難しいねぇ彼女じゃ、動けないだろうし」

「きっかけには・・・なったと思うわ」

「うわぁぉ、いたのかい、アストレア」

「ええ、丁度今。」

「ぼ、ボクは何もやましいことはしてないぜ?」

「【プレミアムじゃが丸君スペシャルBOX・ヘスティアスペシャル】を貰えるかしら」

「さーせんっしたぁ!!」


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