旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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ベル君が廃教会に向かっていったところから。


人を動かすのはとても、難しいのでおかしいところがあるかもしれないです。


ロンリーラビット-3-

「やぁ、君達が『異端児(ゼノス)』だね?」

 

薄暗い地下水路にて、女の声が響いた。

その声に反応して、黒衣の魔術師(メイジ)と複数の武装したモンスターが反応する。

 

「・・・・女神ヘスティアに、神ヘルメス?それに、【ロキ・ファミリア】の・・・」

 

未だ消費した精神力のせいで座り込んでいるフェルズは、現れた影にむけて言葉を零す。

武装したモンスター達は、2柱の神の後ろに控えている2人の少女を警戒し、武器を構えるも、男神ヘルメスが両手を上げて戦闘の意思はないと伝える。

 

 

「うっへぇ、こんなにいるんだ。すごいねぇ、アイズ!」

「・・・・うん、すごい、ね」

「攻撃しちゃ駄目だよ?」

「わかってる、よ。そんなことしたら・・・ベルと仲直りできなくなる・・・」

「あ、なんかごめん」

 

間近で見る異端児達を前にそんなやり取りをする2人をよそに、女神が歩み出る。

 

「女神ヘスティア・・・何故、貴方がここに?」

「我々ヲ狩ルツモリカ?」

「おいおい、石竜(ガーゴイル)君、俺たちをそんなに警戒しないでくれ。俺たちは敵じゃないぜ?」

「信用デキン」

「まあ、ヘルメスだからね」

「まあ、ヘルメス様だし仕方ないね」

「・・・・仕方、ないね」

「あっれー・・・・・」

 

困ったように頬をかきながら笑う男神ヘルメスを無視して、女神ヘスティアはアーディを見てようやく口を開く。

 

「僕がここに来たのは、君達を家に帰すためだ。それと・・・・ベル君もね」

「家に帰す・・・?」

「君達はダンジョンで生まれた。なら、ダンジョンこそが君達の家だろう?ベル君も君達も今は迷子みたいなものだ。なら放っておくわけには行かないんだ。何より、迷子の子供(ベル君)1人で君達のことを背負わせるにはキツすぎる」

 

ダンジョンに帰すために協力をする。

それを女神自らが赴いて宣言した。それに対して黒衣の魔術師も異端児も含めて目を見開いて固まる。女神は穏やかな口調でなお続ける。

 

「君達がどういう意図で地上に来たのかは、たまたまそこのアーディ君を追いかけるベル君を見て理解したよ。君達はあの子のためにここまで来た、そうだろう?なのにこのままじゃ君達の身が危険だ」

 

「しかし、このまま帰るわけにはいかねえよ。アーディっちのことだってある」

「それなら、ベル君が何とかする」

「ドコニ、ソノ根拠ガアル!?アノ小僧ニ何ガデキルトイウノダ!?」

「だって、あの子の魔法は『奪われることへの拒絶性』が体現したものだからね。」

「・・・・・」

 

 

義母と叔父を神に、それこそ少年の視点でしかないが奪われ、考え無しの行動で異端児の家族を、最後の拠り所を失った。家族であるはずの大神は2人が少年の前からいなくなり命を賭すことを止めなかった。月女神は少年がいてほしいときにいてはくれなかった。

 

少年が求めてやまないときに、英雄(救い)は現れなかった。

 

少年は義母と叔父が、多くの命を奪い都市を滅茶苦茶にしたことを知った。英雄が悪に堕ち、人々を傷つけたことを、奪ったことを知った。

 

少年が出会った新しい家族もまた、そうしなくては多くの人々が死ぬことになっていたとは言え図らずも少年の家族の命を奪った。

 

そもそもの元凶は、最初に2人を奪っていった悪神(エレボス)

 

少年の中で今の家族に対する思いの中に復讐心などない。出会った際に散々激情の限りを吐き出してしまったからだ。もっともそれを少年は覚えてはいないが。

 

 

「だからこそ、願ったのさ。『もう何も失いたくない』とね」

 

神を憎み、神に救われた。

奪った神あれば、与えてくれた神がいた。

失った家族がいれば、新たに得た家族がいた。

 

故に本人が気付いていないだけで、少年はすでに救われている。

 

「―――故に、ベル君は恐れるのさ、『また失うこと』をね」

 

ヘルメスは旅行帽を摘んで、ヘスティアに続いてそう言ってのける。

 

 

「だから、今アーディ君と、えっとー・・・なんだ、異端児君の身に起きていることも祓ってくれるはずさ。」

 

まあ特殊な条件だから実際今まで見たことないんだけどね!と処女神は困ったように笑った。

 

 

「あと、アストレアの頼まれたんだよ、君達の力になってやってほしいってね。それになにより僕のファミリアはベル君に頼りっきりでね。あの子がいなくなると僕達は明日の生活も危ういんだ」

 

「まて女神ヘスティア、彼は貴方の眷族ではないはずだが・・・」

「わ、わーわー!聞こえない!きーこーえーなーいー!」

「・・・それで、どうするんだ?」

 

異端児、魔術師(メイジ)、男神、女神、冒険者2人が小さな魔石灯を中心に輪になって話し合う。

それはこれからの会議。

 

「僕はこれから、僕の眷族も含めて頼れる子たちを頼るつもりだ。」

「俺は特に何も」

「は?」

「いやいやいや、待ってくれヘスティア!?・・・俺の眷族達が何か勝手に動いてるみたいでね、俺が何をするでもないんだよ。アスフィも知ってて黙ってる、知らん顔してるし」

 

「私達は『好きにしろ』って言われてる」

「・・・うん。」

「【ロキ・ファミリア】が?ありえない、【勇者】はなんと!?」

「あーフェルズ、悪い、その【勇者】ってのとは前の事件の時に話してあるんだ。『同胞を攫った敵のアジトである拠点を潰す』ことは【ロキ・ファミリア】としても共通の敵だって」

 

だから一時的とは言え、協力関係を結ぶ・・・そうリドはボソっと言うと、フェルズに力なく殴られた。

 

 

「―――先に言え!」

「悪い悪い、忘れてた」

「・・・はぁ」

「それで、だ。君達の予定を聞かせてほしい」

「我々ハ、ダンジョンニ帰ルニシテモ、来タ所ヲ逆戻リスルシカナイト考エテイル」

「けどよ、あの時、街に火を放って煙に紛れて何体かはぐれちまってるみたいなんだ」

「合図とか出せないのかい?」

「・・・呼び、ました?」

「いや、呼んでないよ?」

 

ダンジョンに帰るための算段を話し合う面々、その光景は最早、モンスターと人という壁はなかった。

 

「それで、アーディっちはどうするんだ?」

「ああ、彼女はそうだね・・・都市の中心に行かせよう」

「おいヘルメス、何考えてるんだ!?」

「いや、俺もベル君の魔法は実際どうなるか分からないだろう?なら、中心地の方がいいかもしれないじゃないか」

「むっ・・・それは、そうだけど・・・うーん・・・見せびらかすことになるぜ?」

「それは仕方ないだろう?まあ、少なくとも大騒ぎになることはないさ。それにベル君が魔法を発動させれば、異端児達も安全だ」

「・・・・仕方ない。なら、誰が誘導するんだい?さすがに1人で行かせる訳には行かないだろう」

 

何やら1人でアーディに乗りかかって胸に布を巻かせているティオナを一瞥しつつ、『あ、そういや丸出しだったネ!』なんてヘスティアは言い、異端児達に目を向ける。

 

「あ、フィンが言ってたんだけど・・・闇派閥が出てくる可能性もあるから、その時に鍵を奪うって言ってたよ」

「でもさ、あっちも鍵ごと始末しにくる可能性があるから、本当に手に入るかはわからないよ?」

「うん、だから、賭けだって」

「ふーむ・・・・」

「誘導ハ、私ガヤロウ」

「グロス、いいのかよ」

「・・・・アレ以上、小僧ニ任セル訳ニハイカン」

「なら、オレっちも行くぜ」

 

 

話は進んで行く。

やがて、小1時間ほどして女神達は立ち上がる。

 

「それじゃ、僕はいろいろ忙しくなるから行くよ。」

「私も、フィンに『異端児達が出てきた通路を見てくるように』って言われてるんだよねー」

 

各々が立ち上がり、立ち去ろうとして、成り行きを見守っていたフェルズがヘルメスに声をかけた。

 

「神ヘルメス」

「なんだい、フェルズ」

 

 

数瞬躊躇って、フェルズは声を投げる。

適任だと思ったから。

どうにも好けない神だが、彼ならばと。

 

 

 

「1つ、舞台を用意してもらいたい」

 

 

あの名無しの異端児の願いを叶えるための舞台を。

 

 

 

■ ■ ■

 

蒼然とした夜空に見下ろされた街外れ、廃墟の一角。

そこに、一体の『怪物』が息をひそめ、物陰が作り出す闇と化していた。

 

同胞の指示に従い、両戦斧を地に叩きつけてこの巨躯を隠せる場所を見つけて同胞からの呼びかけがくるのを待っていた。

 

同胞の窮地を聞きつけ、一角兎(アルル)黒犬(ヘルガ)達に導かれて突き進んだ人工迷宮。

そこに、自分が追い求めていた憧憬がいた。

 

夢の中のソレは、泣きながら恐怖と戦い無様に武器を振り回し、自分のことなど見てはいなかった。

しかし、最後に、もう一度立ち上がり、恐怖を抜き去り自分を見て、意思と意思をぶつけ合った。

 

血と肉が飛ぶ殺し合いの中、あの瞳を、あの輝きが頭に焼きついて離れない。

 

 

『そこにいるのか、我が敵よ!』

『―――ブゥオォォ!』

『私と決着を望むか、強き敵よ!』

『―――オオオッ!』

『ならば私とお前はこれより『好敵手』!ともに戦い合う宿命の相手だ!』

『さぁ、冒険をしよう。僕が前に進むために。あの人たちの横に立つ為に!!』

 

追い求めていたものが、そこにはいた。

歓喜し、打ち震えた。

邪魔な狩猟者達を一掃し、再戦を願ったが、しかして少年は自分のことを見てなどいなかった。

 

偶然にも憧憬との共闘という形になってしまったが、これもこれで悪くはない。

しかし、『飢え』は満たされない。

 

憧憬と共に、共通の敵を蹴散らし地上の光に目を細めていたら少年はいつの間にか消えていた。

だが、まだだ・・・まだ、終わってなどいない。

同胞の窮地のために、修行を早く切り上げ浅い階層に居続けたのだ。

代価を願って何が悪い。

 

目の前の暗闇のそのさきに、かの白き輝きを持った少年を幻視し手を伸ばし、掴む。

 

 

「―――再戦を」

 

 

『君には名前がないのか?それでは、不便だぞ』

『・・・夢の住人に、宿敵に相応しい名をつけてもらいたい』

 

 

故に、自分は『名無しの異端児(ネームレス)』。

 

あの夢の住人が『炎』を持っていた。ならば、というわけではないが、転がり込んできたこの『雷』を持って少年の前に。

 

 

 

再戦を。再戦を。再戦を。

 

 

「どうか―――」

 

 

再戦を。

 

 

戦場での荒ぶる気性が嘘かのように静まり返りながら、『怪物』はおもむろに、朽ち果てて穴が空いた頭上を仰ぐ。

 

地上の空。迷宮にはない星々の光。

流れ動く雲の奥で、欠けた月が顔を出す。

今宵の月は、夢の住人のように白い。

 

『怪物』の瞳は、ようやく見つけた存在との再開を願い、白い月を見据えていた。

 

 

■ ■ ■

 

 

【ヘスティア・ファミリア】本拠兼【孤児院・竈の館】

 

広いその屋敷は孤児院として利用しており、デメテルなどの心優しい善神が良く食材などを持ってきては子供達と戯れる光景が見かけられる。その中のファミリアだけの空間、いわば談話室に複数の種族が集っていた。

 

【モージ・ファミリア】

 妖精:ルヴィス。

【マグニ・ファミリア】

 ドワーフ:ドルムル。

【オグマ・ファミリア】

 人間:モルド・ラトロー。

【ヘルメス・ファミリア】

 虎人:ファルガー・バトロス。

 妖精:セイン・イール。

    ローリエ。

小人族:メリル・ティアー。

    ポット&ポック。

ドワーフ:エリリー。

【ヘファイストス・ファミリア】

ヒューマン:ヴェルフ・クロッゾ。

【ヘスティア・ファミリア】

小人族:リリルカ・アーデ。

【タケミカヅチ・ファミリア】

ヒューマン:ヤマト・命。

      カシマ・桜花。

      ヒタチ・千草。

 

 

この場所に集まっている面子は、本人はそんなことは思っていないが、ベル・クラネルによって助けられたメンバーが殆どである。

 

 

「やあやあ、悪いね、急に来てもらって。あーところで、モルド君だっけ?君、ちょっと【きぐるみ】でも着ててくれないかい?子供達が怯える。ファンシーさが必要だと思うぜ?」

 

「呼び出しておいて失礼すぎやしませんかね!?」

 

女神ヘスティアはいきなり他派閥の荒くれ者の見た目を注意した。

やれ『ちびっこ受けしない』やれ『この館によくそんな格好で来れたね』やれ『もうちょっとさぁ・・・あるだろう?』だの。

派閥違いの団員達はそんなやり取りを声を殺して笑っていた。

 

「それで、ヘスティア様、ヴェルフ様や命様達はわかるのですが・・・この方々は?ヘスティア様が呼んだのですか?」

「いいや、違うぜリリルカ君。【モージ】【マグニ】【オグマ】の3派閥の子は、『行方不明事件』の被害者の一部だ。」

 

彼等は助けられた際のことを、ぼんやりと覚えていた。

その光景が光景なだけに『あれは夢だったのでは?』だの『ラミアの乳が意外と柔らかかった』だの『フォモールにお姫様抱っこされた』だのと酒場で言いあっては『お前等疲れてるんだよ』と言われては、けれど、他の被害者もいたのか噂話になっていた。

 

『モンスターに命を救われた』という噂話に。

 

 

「はぁ・・・・我々はある人物に声をかけられたのだ。リリルカ・アーデよ」

「ルヴィス様?えっと・・・ある方とは?」

「オラは女神様だったぞ?」

「何!?ゆるせんぞ!?」

「あーもうっ話が進みません!誰に声をかけられたのですか!?」

 

3人は口々に揃えて・・・いや、揃ってはいないが、言った。

それは、今回の騒動について直接動けない派閥の者の名。

 

「「アリーゼ・ローヴェル」」

「女神アストレア」

 

女神に声をかけられるなんて、なんてうらやまけしからん!と乱闘騒ぎになりかけるのを黙らせ、内容を聞き出した。

 

『あなたたちね!【被害者の会】ってのは!!』

『げっ』

『げっ、て酷い!?』

『俺達に何か用か?』

 

赤髪の女は、胸を揺らして偉そうに、ドヤ顔をして酒を飲む2人に言い放つ。

 

『あなたたち、命を救われておいて【借り】を返せずに、あのモンスター達が死んだらこれから先、冒険者やっていけるのかしら!?』

 

2人はあれは夢ではなかったと、ようやく持って理解した。

そして、何も言い返せずに

 

『手を貸してもらえると助かるんだけど?ああ、集合場所はここね。あ、私忙しいからこれで!!』

 

勢いに押され、気が付けば【ヘスティア・ファミリア】の本拠にいたという。

 

ドワーフのドルムルは、ダンジョンに行こうか迷ってやはり帰ろう。迷いのある時は危ないと考え本拠に帰ろうとしている時に

 

『そこの貴方・・・力を貸してはもらえないかしら?』

『女神アストレア様!?い、一体どうしただか!?オ、オラ何も悪さなんて・・・!?』

『落ち着いて。あなた、『行方不明事件』のこと覚えているでしょう?』

『うっ・・・』

『つけ込むようで悪いのだけれど・・・少し、力を貸してほしいの。この場所に行ってくれればいいわ』

 

 

そう言われて、たどり着いたのが同じく【ヘスティア・ファミリア】の本拠だった。

 

 

「女神様に言われちまった。【涙兎(ダクリ・ラビット)】がこの騒動の渦中にいて、けれど自分は動けないから手を貸してほしいって」

 

「何より、我々を辱めた連中が関わっていると聞く」

 

「なら・・・」

 

「「「しっかり落とし前つけてもらわねえとな」」」

 

荒くれ者のように、不適に拳を叩いて笑みを浮かべる。

それは『やられたらやり返す』という顔だった。

 

「ありがとう3人共。手は多いほうがいい、助かる」

 

「いえ、謝らないでくださいヘスティア様。我々は直接【涙兎(ダクリ・ラビット)】に助けられた訳ではないがあのモンスター達を見捨てては寝覚めが悪い」

 

「けどよ、どうすんだよ。俺らバレたら追放じゃねえのか?」

 

「エイナちゃんに怒られるべ・・・」

「しかし怒ったエイナ嬢も良い・・・」

「わかる・・・」

 

すでにフラれているというのに懲りない2人のことは放っておいて、説明の前に他の団員達を女神は見やる。

 

「俺達はベル・クラネルに命を救われている。彼が来なかったら全滅していたかもしれない。」

「まあ、あいつが来る前に死んでしまったやつもいるけど・・・キースだってここで借りを返さなかったら怒ってるぜ」

 

ファルガーとルルネは説明する。

今回の一件は、24階層で助けられた面子だけが()()に動いていると。

 

「アスフィには事情は伝えているが、あいつは団長として主神の傍を離れられないはずだ。」

「だから、知らないフリをしてもらっています」

「ローリエ様は24階層に?」

「い、いや、私はそのお・・・」

「ミノタウロスから助けられたんだよな」

「はぅっ・・・」

 

よくよくもってあの子は自分が覚えていないだけで人の命を救っているのだとヘスティアは慈愛の目を向ける。これを知ったらあの子はどんな顔をするのだろうかと、そんなことを思いながら。

 

「俺はあいつの相棒です。それに、友を見捨てたらそれこそヘファイストス様に怒られちまう」

「私は・・・専属のサポーターですし」

「18階層まで連れて行ってもらった恩です。タケミカヅチ様もここで動かなかったら自分達を見限るでしょう!」

 

 

ヴェルフは中央の机に数本の魔剣を置く。

リリルカは地図を。

ファルガーは魔道具を。

 

「アルテミス様からの注文は、騒動が起きる前から聞いているので魔剣を用意しています。住人に被害が及ばないように『非殺傷性』の高いもの・・・まあ加減したものを作っています。もっとも、あくまで加減しているので怪我や致命傷になる場合は零ではありません」

 

「ダイダロス通りの地図の写しをフィン様に譲っていただきました。あちらも闇派閥が出てくることを考えて配置につくそうです。表向きは『異端児の捕獲』という形で」

 

「こちらは、遠くのものを見ることができる『望遠鏡』という魔道具です。これなら恐らくはベル・クラネルの監視が可能かと」

 

「よしよし!いいね!僕はこの水晶さ。名を眼晶(オクルス)と言う!あとは透明化できるリバース・ヴェールっていう魔道具を借りてきたぜ!全員分はさすがにないけどね!」

 

全てあわせればとんでもない額になる魔道具や魔剣が冒険者達の中心に納められる。

金に目がくらみ涎を垂らすものもいるが、全員の気持ちは『負ける気がしない』というものだった。

 

 

「それで、実際どうするというのです?自分は異端児とはよくわからないのですが」

「ええ、まず作戦を開始するにはベル様が最初に動く必要があります。」

「どういうことだ?」

「ベル様の魔法で私達が『傷つかない』状態になってからが行動開始です。」

「まあ、闇派閥を相手にするのだ。そうしてもらうにこしたことはないが・・・」

「異端児達を無事に帰すためには、使うしかありません。無論、冒険者達にもその効果対象になるかと。」

「つまりあれか?こっちは傷つかずに相手をボコれるってことか?」

「言い方は悪いですが、そういうことです」

 

リリルカが説明をしていく。

 

ベルが【乙女ノ揺籠】を使うことで異端児を含めダイダロス通りの冒険者には魔法の加護がつく。

次にベルはスキルを使って突然地上に現れた者を闇派閥と判断して強襲する。つまりは、それに乗り込んで『鍵』を奪い取る。

 

「無論、必ず『鍵』があるとは限りません。もしかしたら無い可能性もあります」

「『鍵』とはどのような形をしている?」

「目玉です」

「うわぁ」

 

『鍵』を奪い取ったら頭上に投げる。

それを飛行できる異端児が回収し、異端児達が出てきた場所や他の出入り口があればそこから人工迷宮に入り込みダンジョンに帰る。

その際、異端児とは違うモンスターが出る可能性もあるため魔剣の使用は気にせず使ってよい。

 

「奴等は24階層で自爆攻撃を行ってきた。今回もないとは言えない」

「問題ありません。ベル様の魔法の効果時間・・・15分間は私達は傷1つつきませんので」

「それはいいな」

 

要は騒ぎに乗じて馬鹿な冒険者が乱入してきた。という体で暴れればいいというだけのこと。

 

「私達の役割は少しでもベル様の負担を減らすことです。」

「その通りさ!アストレアの眷族達もガネーシャの眷族達もダイダロス通りに人が入り込まないように警戒網を敷く。そして、街自体に被害がでないように住人の安全を優先して動く」

 

「ですので、我々は眼晶(オクルス)を使って通信して状況を逐一報告をしあいます。ローリエ様はベル様に見つからないよう、監視をお願いします」

「わ、わかった」

「ストーカーに目覚めるなよローリエ」

「わ、わかっている!」

 

そこで、ルヴィスが手を上げて質問をする。

複雑怪奇なあのダイダロス通りでどう動くのか?と。一々地図で指示を出すのか?と。

 

「いえ・・・・少し、馬鹿な話になりますが」

 

リリは一拍置いて口を開く。

 

 

「ベル様のスキルの効果『誘引』に巻き込まれて頂きます」

 

リリはベルのことだから絶対『誘引』を使って『冒険者』を一手に引き受けることを考えていた。

そして、そのまま闇派閥にぶつかるということは

 

「まさか、彼は・・・!?」

「ええ、そのまさかです」

 

何をしようとしているのか察した冒険者は口角を引くつかせ、ヴェルフは頭をかきながら口を開く。恐らくは全員が至った答えを。

 

 

怪物進呈(パスパレード)ならぬ冒険者進呈(パスパレード)だな」

 

 

「し、しかし!!本能で動くモンスターとは違い私達は知性を持った人間ですよ?」

「はい、ですので全員が『引っ張られる』訳ではありません。あくまでベル様よりレベルが下の方のみです。ですが・・・『引っ張られる』という感覚は起こるのでそれに続きます」

 

リリルカが気になって調べたことだった。

『知性』を持った相手には『誘引』は可能なのか?と。

結果としては可能だった。

『本能』で生きるモンスターと違うとするなら、それは『抵抗』が可能だということ。

【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯では、敵はベルだけを狙っていたために『誘引』の効果が分かりにくいというだけで、ベルよりも格下であればあるほどまず引っ張られるというのが検証結果だった。

 

 

「まじか、俺達モンスターみたいな扱いか・・・」

「仕方ありません。皆様の位置を知る術がないのですから」

「まぁ、仕方ないか。やるしかねえな」

「では諸君!迷子のベル君のために、頑張ろうぜ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

少年の知らないところで、舞台は整えられていく。

 

■ ■ ■

 

 

廃教会に、1人の狐人が荷物を持って現れる。

女神に与えられた地図を手に、廃教会の中をキョロキョロと見て隠し扉を見つけてノックする。

 

 

「アルテミス様、ベル様・・・・春姫でございます。お世話に参りました」

 

キィィ・・・と扉が開き、女神アルテミスが恨めしそうに春姫を見上げる。

せっかくの2人の時間を・・・とでも言いたげに。

 

「・・・よく来たな。こっちだ」

「お、お邪魔します・・・」

 

そこには血を流し終えて半裸上体の少年が頭にタオルを置いた状態で座っていた。

 

「こ、こん?」

「オリオンの頭を拭いていたんだ。オリオンのやつ、髪の手入れも自分でできないなんて知らなかったぞ?」

「い、いえ、それはアリーゼ様のせいですので・・・」

「はぁ・・・まあいい。適当に座ってくれ」

「は、はい。」

 

春姫はバッグを降ろして必要になるからと言われていた物を広げていく。

 

・リトルバリスタ+小型魔剣(雷属性)

・リューのケープ+マスク

・ロングブーツ

・デュアル・ポーション

・直剣型魔剣(火属性)

 

「春姫さん、これは?」

「はい、リリ様が『魔法が使えないなら』と持ってきてくれました。ヴェルフ様も同様に。」

「じゃあ、これは?」

「それはリュー様が。『正体不明の冒険者がやったのなら、同じように正体を隠したほうが動きやすいでしょう』と」

「ブーツは?」

「それはアリーゼ様が『ボロボロになったの使うよりいいでしょ』と。」

「・・・・」

 

ベルは春姫が持ってきたものを髪を拭かれながら眺めて言葉を無くす。

何を言えばいいのか分からず、恐る恐る春姫の顔を見る。

春姫は、いつものように優しそうに微笑んでいた。

 

「春姫さんは怒らないんですか?」

「・・・そうですね、『困っていることがあれば、春姫はお手伝いします。派閥に入ったばかりの私です、追い出されたって痛くありません』そう言ったのに相談してくださらなかったことには悲しく思っております」

 

「う・・・・」

「ですが、ベル様の事情を詳しく知らないのも確かなのです。ですので、そうですね・・・この件が終わったら、埋め合わせをしていただければ」

「埋め合わせ?」

「はい!」

 

首を傾げて両手を合わせて微笑む春姫。

しかし、処女神は見逃さない。

 

「おい、私の前でそういう話はするな。」

「「すいません!!」」

 

その後は体が痛むベルにマッサージする春姫と、『私にもさせろ』とぶーたれる女神と一悶着が起こり、少年の心は少しずつ回復していく。

 

 

「・・・アルテミス様」

「何だ、オリオン」

「自分の眷族が・・・モンスターにされたら、どうしますか?」

「そうだな・・・・私の眷族が、他の眷族達を殺す悲劇を生むなら、殺すだろうな。救う手立てがあるなら別だが」

 

アーディの件も含めてアルテミスにふと、そんなことを聞いてしまった。

アルテミスは特に怒るでもなく言葉を続ける。

 

「仮に、だ。仮に私がモンスターに取り込まれたら、もう殺すしかないだろうな」

「・・・え」

「神を取り込んだモンスターは神の力を使えるんだ。何より、その時点で神は死んだようなもの」

「・・・」

「だから誰かに殺してもらうしかない。そして、何年、何十年、何百年と時間をかけて新たに生まれる」

「生まれる?」

「ああ。だからもし、私がお前達が倒した『アンタレス』に取り込まれていて、それをオリオンの手で私を殺したなら、私はお前に感謝してこう言うだろう」

 

アルテミスは微笑んで、頭を撫でる。

 

 

「『次にあったときは――一万年分の恋をしよう』とな」

 

その言葉にポカーンとするのは、少年と少女。

あれ、この女神様、結構なロマンチスト?なんて思ったが少年はすぐに笑みを浮かべる。

浮かべて、頬を抓られる。

 

 

「おい、なぜ笑う!?ようやく笑ったと思ったら!!」

「ご、ごめ、ごめんなさいっ!」

「ランテ達も言っていたんだぞ!?『恋は素晴らしいものだ』と!!」

「わ、わか、わかりましたから!」

「まったく、すっかりアストレアに絆されてからに・・・。1万年後くらいは私の番でもいいだろう?」

 

人差し指をちょんちょんとぶつけ合う処女神様のことを2人はきっと忘れないだろう。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「――そう、俺が!!ガネーシャだっ!!」

 

謎の雄々しい姿勢を決めながら、象の仮面を被った男神はのたまった。

 

「知っているよ、ガネーシャ」

 

【ガネーシャ・ファミリア】本拠、『アイアム・ガネーシャ』のとある一室。

寝台の上で上半身を起こす藍色の髪の麗人、シャクティ・ヴァルマは慣れ切ったように主神の奇行に対応する。姿勢とともに差し出された果物篭を受け取り脇棚の上に置いた。

 

 

「突然だが、あ…ありのまま、起こった事を話すゾウ!アーディの恩恵が消えたと思ったら、アーディの恩恵が復活した!な…何を言っているのかわからないと思うがガネーシャも何が起きたのかわからなかったゾウ!あの光の柱が関係しているのか!?」

 

シャクティは18階層の強制任務で深手を負ってしまい、傷を癒すため部屋で過ごしている。

妹のアーディは依然として行方不明、一緒にいるはずの少年も行方不明で今回の一件に深く関係していることは察していた。

部屋の中にいたために、外で何が起きたのか。それは聞かされていなかったが。

心配はしているが、それでも派閥をまとめる者として動かなければならなかった。

 

 

「無茶をさせて、すまなかった」

「謝らないでくれ、ガネーシャ。至らなかったのは私達だ。モンスターの暴走を押し止めることができなかった。」

 

主神の謝罪に、シャクティは頭を振る。

顔を上げたガネーシャは、象面の奥から彼女の顔を見つめた。

 

「ガネーシャ・・・異端児とは、人類(わたしたち)と同じように・・・・あの怪物達も同胞のために怒れるのだな」

 

彼女達もまた動く。

群衆の主の眷族たる彼等は、一般市民を優先し守る。

 

 

「願わくば、仲の良い2人がまた帰って来ることを」

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