旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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正史のベル君と雄牛さんの違い。

雄牛さん
正史:片腕喪失。魔剣喪失。満身創痍状態。

この話:両腕健在。魔剣健在。修行帰還がちょっと短い。

ベル君
正史:仲間の協力あり。攻撃魔法あり。ナイフx2

この話:スキルの反動で疲れが残ってる。攻撃魔法なし。魔剣あり。ナイフではなく槍x2。


ロンリーラビット-4-

廃教会地下の隠し部屋。

そこに、1人の少年と1人の少女、そして1柱の女神がいた。

中央には戦闘衣装と少年の背丈とほぼ同じほどの布に包まれた物。

少女が持ち込んできた物資等が広げられていた。

 

 

「散らかってる・・・お義母さんに怒られる・・・」

「は、春姫が後で片付けておきますので・・・」

「いいから、やるぞ。まずは戦闘衣装だ」

 

女神アルテミスは戦闘衣装は何食わぬ顔で少年に手渡し、受け取ってそれを広げた少年は絶句する。

 

「これ、アルテミス様のじゃないですか・・・!?」

「お前は小柄だからな。サイズは何ら問題ないだろう?」

「で、でもっ」

「まさか、小娘の臓物で汚れたボロボロの戦闘衣装を着るつもりだったのか?」

「・・・すみません、さすがに処分させていただきました」

「うっ・・・」

 

少年が着用していた戦闘衣装は、血やら臓物やら何やらでドロドロ。おまけに言えば、格上との戦闘行為で既にボロボロで見るも無残な状態だったためアルテミスが少年が体を洗っている間に『ポイッ』と指で摘んでゴミ袋に入れ、それを春姫が処分していた。

そのため、少年が着用する物はなく現在進行形で言えば少年は春姫が持ってきていた浴衣しか着ていない。

 

「さすがにその格好で行かせるわけにはいかないぞ?」

「わ、わかりましたよお・・・」

「・・・ズボンくらいあるのだろう春姫?」

「は、はい。持ってきております!」

「問題ないな。」

「・・・はい」

 

一通りの装備の確認を次々としていき、最後に布に包まれた物をアルテミスが両手で抱えて今までと違って真面目な顔で問いかけてくる。

 

「オリオン、確認だ」

「・・・?」

「お前に、選択肢をやろう」

「選択肢?」

「そうだ。好きに選べ」

 

1つ、失敗したらアルテミスとともにオラリオを去る。

1つ、成功してもオラリオに、ファミリアに帰りづらいならアルテミスと共にオラリオを去る。

1つ、失敗してもオラリオに残る。

1つ、成功してファミリアの元に帰り今まで通りの生活を送る。

 

「アルテミス様はやっぱりオラリオにはいてくれないんですか?」

「ああ。ダンジョンの外にだって色々やることはあるからな」

「・・・・・」

「正直なところを言えば、お前はギリギリだ。無理をしてオラリオにいる必要はないだろう?」

「・・・・・」

「私達と一緒に、世界を旅して回るのも悪くないぞ?」

 

少年は黙り、女神の顔を見て、春姫を見て自分がどうしたいのかを考える。

確かに外の世界を旅して回るのもありかもしれないと思うし、けれど、春姫――ファミリアと今まで通りいられたら・・・とそんなことを考えていたら、出会った人の顔をふと思い浮かべる。勝手に距離を置いてしまった金髪の少女や、鍛冶師の兄貴分に小人族(パルゥム)の少女。ギルドのアドバイザーのお姉さんに、一緒に18階層に行った極東の冒険者に、相談相手になってくれる女神様に・・・異端児達と、そして、家族にしてくれたアリーゼ達。それらに別れを告げることを考えたら、苦しくなって、少年は頭を横に振って、アルテミスに返答する。

 

「僕は・・・オラリオに残ります。外の世界も興味あるけど・・・その、離れたくない、です」

「・・・・そうか」

「ごめ、なさい・・・何て言えばいいのか、わからないですけど、その・・・」

「いや、いいさ。もしお前が『行きます!』なんて言っていたら私はお前にサソリを喰わせていた」

「えっ」

「中途半端は許さんからな。『全部諦めて、一緒に行きます!』なんて言ったその日には、眷族達を動員して『じゃが丸君アンタレス味』を開発してお前に喰わせていたところだ」

「ひえっ」

 

少年は『この女神様ガチだ』と震え上がり、隣に座る春姫に抱きついてしまった。

春姫もアルテミスとは初対面だが、目が本気だったのを見抜いて同じように少年に抱きついてしまっていた。

アルテミスはそれを見てムッとしたが、一呼吸置いて布に包まれている物から布を取り払って見せ付けた。

 

「・・・・槍、でございますか?」

「本当はアストレアがオリオンに贈ったのと同じようなのを造ってもらいたかったんだが、ヘファイストスに怒られてしまった。」

 

こっちは土下座までしたんだぞ?最終奥義が通用しないとはどういうことだ?1本も2本も変わらないだろう・・・などと毒づいて膝の上に寝かせて撫でる。

 

「これは、『矢』だ」

「矢?」

「銘を【狩人の矢(ヴェロス・キニゴス)】と言う。まあ、()()と違ってこれは模造品(レプリカ)でな。あの赤髪の鍛冶師に『模造品(レプリカ)を造らされてるのか俺は!?』と言われてしまったが・・・まあ、性能としては申し分ないだろう」

 

三叉鉾のような、けれどどこか違う槍。そして穂の中央には石が填め込まれていた。

星ノ刃(アストラル・ナイフ)】が鏡のような刀身ならば、これは銀の槍。

ベルも春姫も、その槍に見とれていた。その2人の目の輝きを見てクスリと笑って続ける。

 

「いいか、お前はよく魔法の中に飛び込むと聞いているからな。材質としてはアストレアが贈ったナイフと同じ精製金属(ミスリル)を使ってる。あとこの石は、ロキの眷族にブーツに魔法を吸わせる変わった奴がいると聞いてな。真似させてみた」

 

「真似・・・させちゃったんだ」

「させちゃったんでございますね・・・」

 

この女神様は、『模造品(レプリカ)を造れ』だの『真似しろ』だのと言ったのか・・・とベルは思い、早くも赤髪の鍛冶師に会うのが怖くなった。会ったら絶対殴られる。そんな気がして。

そんな無茶振りをさせたその女神様は、ものすごいドヤ顔をして腕を組んでいるほどだ。

 

「えっと・・・」

「ああ、代金については既に支払い済みだ」

「ア、アルテミス・ファミリアが!?」

「いや、オリオンの貯金だが」

「「・・・・」」

 

ベルは知らない。自分がいくらお金を持っているのかを。

たぶん、お義母さん達が残してくれているんだろうな、だとしたら結構な額なんだろうな~なんて思っていたし実際そこまでお金に興味がなかったために今まで困ることもなかった。だというのにどうしてか今、タラリっと嫌な汗がつたった。なんなら会うのが怖くて逃げたというのに早速アストレアに泣きつきたくなるレベルで。

 

「お、お値段は、いったい・・・」

「ん?『0』が6、7つはあったな。」

「ヴェルフぅぅぅぅうぅぅぅぅっ!?」

「きゅぅ・・・」

「は、春姫さんが気絶したぁぁぁぁ!?」

 

優しくも厳しい処女神様はケロっとそんなことを言うわ、『え、そのお値段、私怨入ってないよね!?』と鍛冶師の顔を思い浮かべるわ、春姫が気絶するわで沈んでいた心など吹き飛ぶレベルでカオスがあふれ出した。

さすが武闘派の女神様!やることが違うぜ!なんてどこかで今日もじゃが丸君を売っている女神様の口調で言いたくなってしまった。

 

「――言っておくが、お前のナイフなんてもっと高いらしいぞ?それを『アストレア・ファミリアに借金を作らせたなんてできるか』と都市に対する貢献ってことで目を瞑ってくれているだけで」

 

「ひぅ・・・」

「それをまさか、落とすなんてなぁ・・・オリオンお前、呪われるぞ?」

「ぐふっ」

「アストレアに会ったらちゃんと礼を言うんだな」

「・・・・はぁぃ」

 

 

ベルは知らない。

丁度、【ロキ・ファミリア】の褐色少女が自分が出てきたクノッソスの壁をブチ抜いて戦闘が行われた現場をドワーフと共に確認に行った際に見つけて拾っていることを。

 

『あっ、これ』

『む、どうした、ティオナよ』

『これ、アルゴノゥト君のナイフだ。綺麗な刀身だから覚えてる!』

『そんな変わったナイフなんぞ、この世に1つしかないわい』

『えへへー今度会ったら返してあげよー』

 

 

知らない。ベルは知らない。

今現在地上で行われていることを、全くもって知らない。

 

「・・・こほん。それでだ、オリオン」

「あれ、お金のことは?いや、いいんですけど。アルテミス様ですし」

「細かいことを気にするな。どうせ、お前のことだからいくら稼いでるかも知らずにダンジョンに潜っているのだろう?」

「う、うん」

「使った分なんて勝手に貯まっていく。問題ない」

「うーん・・・まあいっかぁ。槍、格好いいし」

「それでだ、オリオン。お前は明日の晩、例の化物に変えられたという娘を助けるのだろう?」

「うん」

 

再び真面目な話に戻す。強引に。さらっと。

ベルはもたれかかって気絶している春姫に膝を貸してやりながら話を聞く。

 

「お前の魔法のことはアストレアから聞いている。まだ一度もその条件化で使っていないのだろう?」

「うん」

「成功すると思うのか?」

「・・・わからないです。でも、いけるような気がして」

「そうか・・・」

「うん」

「では、その場合、お前は『偉業を成し遂げた』ということになる。つまりお前が望む望まないに関わらず『英雄』になってしまうことになるが、いいのか?」

 

英雄(アルフィアとザルド)』に憧れこそすれ、別になりたいわけではない。

ただただ、英雄(アリーゼ)達に並び立ちたいという気持ちがあるだけだ。

それが恐らくは多くの人々、神々に見られて成し遂げるというのであれば、『怪物にされたヒロインを救い出した英雄』として名を刻まれる。そう言いたいのだろうとベルなりに理解して

 

「約束、したんです」

「約束?」

「えっと・・・『アーディさんが化物にされちゃったら、助けます』って。皆とずっと一緒にいたいから・・・」

「・・・そうか」

「それと・・・夢を見たんです」

「夢?」

 

どうしようもないほどの『絶望』が『希望』へと覆された夢。

2人の男女が話をしていて、建物の外には強い光の中に立つ4人の背中。

それに手を伸ばすけれど届かない、夢。

 

「僕は・・・その背中に追いつきたい」

「そうか」

 

アルテミスは慈愛の目で子供を応援するように、槍を両手で持ち上げ、ベルに渡す。

もう確認することはない、と言うように。

 

「頑張れ、オリオン」

「・・・はいっ。だから、見ててください。女神様が見ててくれるなら僕は、きっと、頑張れるから」

「ああ、アストレアとヘスティアと一緒に見ているぞ」

「・・・・うん」

「もう、気持ちは大丈夫そうだな?なら、寝るとしよう」

「はい。えっと、アルテミス様はベッドを使ってください」

「ん?オリオンはどこで寝るんだ?」

「僕は、ソファで。春姫さんとベッドを使ってください」

 

そんなことを言うベルに、アルテミスはムスッとして浴衣の襟を掴んでベッドに引っ張り込んだ。

春姫を抱きかかえていたベルは春姫の下敷きになるようにベッドに仰向けに倒れこむ。

 

「へっ?」

「そんなスキルの反動で疲弊したお前を、ソファで寝かせられるか。3人一緒に寝るぞ」

「え、でも、アルテミス様、そういうの駄目だって」

「仕方ないだろう!?」

 

ベルと春姫をベッドに押し込んで、アルテミスは灯りを消してベッドに入り込んだ。

真っ暗な部屋でベルは横の春姫の手を握って瞼を閉じた。

 

「――まだ、暗いところが怖いか?」

「――うん」

「すまなかったな、あの時、お前の元にいてやれなくて」

「――ううん、大丈夫」

「そうか」

「うん・・・おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 

薄れゆく意識の中、少しだけそんなことを話して、頭を撫でられる感触がして

 

 

 

「―――お前ならできる、頑張れ、ベル」

 

そんなことを言われた気がしたけれど、疲れからか、すぐに意識は途切れた。

 

 

■ ■ ■

 

夢を見た。

地上が遠く、人々が小さく見える高い場所。

あまねく星々が見守るその場所に、2人の男、1人の女がいて会話をしている、そんな夢を。

余計な雑音などなく、やけに声が澄んで聞こえた。

それは神の最期の瞬間。罪人が処刑される前のような空気。

その中で、女は口を開いた。

 

 

「――『正義』とは?」

 

その問いに1人の真っ黒な男は冷たい目を見開いて答えない。

 

「あなたはずっと私達に問いかけてきた。『正義』とは何か?『正義』とはどこに至るのか?そしてわかるのならば、示してみろと、そう訴え続けていた。それはまるで・・・そう、()()()()()()()()()()()()ようにも見えた。少なくとも、私の目には。」

 

「・・・・」

 

「そして――今、貴方は満足している。戦い抜いた冒険者を見て・・・立ち上がった眷族達の姿を見て、貴方は『答え』を得ている。」

 

「・・・何を言っているのかわからないな。」

 

その黒い男は、誤魔化すようにはぐらかすけれどそれを女は許さなかった。

答えなければ、ここから引きずってみんなの前で問いただすと脅してさえいた。

その女は、最後の最後に散々自分勝手に振舞ってきたその男を困らせる事ができたことに嬉しそうにしている。

 

男は誤魔化すのをやめて、真面目な顔に切り替えて再度問われて口を開く。

 

「・・・君は、『正義』に絶対はないと言ったな」

「ええ、言ったわ」

「俺からすれば、それは間違いだ。俺には『   』が分かる。『   』を標榜していた俺にはわかる」

「それは、なに?」

 

男は腰に手を当てて、星を見上げて答える。

 

「正義とは――――【  】だ」

 

風の音が男の声を掻き消した。

 

「子供達はいつも面白いことを考える。『貨車(トロッコ)』の話だ。分岐器を切り替えなければ、5人を見殺しにする。切り替えれば、1人だけが死ぬ。」

 

僕がファミリアに入った頃に、ライラさん達にも同じようなことを聞かれた気がする。

どっちかが死ぬことを受け入れるなんて、僕にはできなくて結局答えが分からず、僕は頭が痛くなって机に突っ伏してしまったけれど、結局ライラさん達も答えを教えてはくれなかった。

 

「その選択に、ありとあらゆる『正義』が詰ってる。子供達はそう信じている。俺から言わせれば、真の正義はそこにはない。」

 

 

そもそも、どうして2択しかないのか、どうしてそこに選べるのが1人しかいないのかが僕には疑問だった。

 

「『正義』とは、――ことではなく、――――ことだ」

 

 

選択肢はきっと、2つじゃない。

やりようによっては、もっと、いくらでも増やせるはずだ。

徐々に、声が聞こえづらくなっていく。

 

「人々はそれこそを『正義』と信じ――神々は、それこそを『  』と讃える。」

 

3人は穏やかな笑みを浮かべて、何か納得がいったような顔をしていた。

僕は女のその微笑を、自分じゃない誰かに向けられているのが、少しだけ、ほんの少しだけ、気に入らなかった。

 

「・・・『答え』が欲しかった。」

 

「―――達は『答え』を口にはしなかったが・・・大丈夫だ。あの子達は、もう大丈夫。」

 

 

自分勝手な男は満足そうに女に語っていて、僕は悔しかった。

僕は・・・・『答え』を出せるだろうか。

 

 

それは3人だけが知る真実で、僕が見た断片的な夢。

僕は・・・・あの人たちに、追いつけるだろうか。

 

視界がぼやけ、夢が薄れていく。

 

 

「最後に、聞かせて。貴方は――――ていた?」

「当たり前じゃないか、俺は――――さ」

 

薄れていく夢の中で、最後の最後に、その真っ黒な影の男は、僕の嫌いな目をした男は心底優しそうな目をして何かを言っていた。

僕はきっと、その言葉を、答えを理解しても、受け入れることはできないだろう。

 

 

■ ■ ■

 

「フレイヤ様。お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「なに、オッタル?」

 

都市中央、バベル最上階。継ぎ目の無い巨大な硝子の前に立つフレイヤは、背後より投げかけられる従者の声に応じる。

 

「神ヘルメスから提供された情報について、どうお考えですか?」

「例の『異端児』のこと?そうね・・・・」

 

騒動が起き神ヘルメスが女神ヘスティアが異端児と接触した後、神ヘルメスは女神フレイヤの元に訪れていた。フェルズに頼まれた『舞台』を用意するために。

 

『フレイヤ様、オレはこれから起こる事を、ベル君が成す事を何もせず、見守っていただけないだろうか。』

 

それに対するフレイヤの答えは、

 

『何故・・・私が動かなければならないの?』

 

であった。万人が見惚れるほどの美しい微笑みつきで。

キョトンとするヘルメスは頬をかいて、これから起こることの大雑把な流れを話す。

もっとも、『異端児』がどうだとかそのあたりはフレイヤからしてみればどうでもよかった。

興味があるのは、ベルについてだけ。

手に入れたいが、難易度が高すぎて手に入れられない。けれど、様子だけは伺ってはいた。

下手にちょっかいを出して、また月女神(アルテミス)大神の妻(ヘラ)あたりにいつぞやのように怪物の死体を投げ込まれては堪ったものではない。

 

【ベル・クラネル】攻略難易度はルナティック。

・魂の輝きはフレイヤが初めて見る透明であることには変わりない。けれど、悪神の神威の影響か、黒い靄がかかっている。

・下手に周囲から孤立させれば、その時点で少年は壊れる。

・例え魅了を使っても同じ。

・不安定さ故に、簡単に壊れやすい。

・義母あたりに何か告げ口されているのか、美神を警戒している。

・というか、イシュタルみたいなことをされたくない。

(アリーゼ)辺りに吹き込まれているのか、街娘にしても警戒心が多少なりある。

 

とにもかくにも、仮に少年以外を魅了の支配下に置いたところで、その時点で壊れてしまうのだから、普通に接触するしかないのだが、その接触すら難しい。

フレイヤは地団駄を踏んだ。

 

 

「黒いミノタウロスねぇ・・・オッタル、知ってる?」

「いえ、ですが、しかし・・・・」

 

フレイヤはワインの入ったグラスを揺らし、口をつける。

そして、外を眺めて微笑する。

 

「少なくとも、明日には何かが起きる。私は別に何をするでもなく見ているだけでいい。」

 

どっちにせよ、あの子以外はどうでもいいもの。

フレイヤの関心は相変わらず少年ただ1人。彼と比べれば異端児の命運もウラノスの思惑も正直どうでも良いと思っている。これから成し遂げるであろう少年の偉業を、フレイヤは待ち遠しそうにしながら、ヘルメスの言う『舞台』にほんの少しだけ、関心を寄せた。

 

 

名無しの異端児(ネームレス)とベルを戦わせる・・・ねぇ。ふふっ、あの時のようになるかしら?」

 

 

■ ■ ■

 

 

私はぼやけた視界の中、ゆっくりと覚醒する。

だらんと体を落としていたのか、上体を起こすもやはり視点が高い。

不思議な事に、今はどうにか頭の中が落ち着いていた。

それでもどこか記憶が曖昧というか、チグハグだが。

 

「お、起きたのか!?大丈夫か?えっと・・・ウィーネか?アーディっちか?」

 

蜥蜴人(リザードマン)が声をかけてくる。

今の私が誰なのか・・・・恐らくとしかいいようがないが

 

「アーディ・・・だと思うよ」

「そうか、よかった」

「ベル君・・・は?」

 

最後に覚えている視界に映った光景、大粒の涙を流す男の子の安否を自分よりも優先して聞きだした。

蜥蜴人(リザードマン)は笑っているのか口角を吊り上げて大丈夫だと伝えてくる。

私達の会話が聞こえたのか、暗闇の奥から黒衣の魔術師が近づいてきて声をかけてくる。

 

「アーディ・ヴァルマ、調子はどうだろうか?」

「うーん・・・よく、わからない。でも、頭の痛みは今は無いかな」

「そうか。それは何より」

 

黒衣の魔術師――フェルズさんは私に一通りの事情を説明してくれた。

どうやら私は一度、死んでしまったらしい。

好意を寄せている男の子の目の前でバラバラに死んで、男の子の体を自分の臓物で汚したらしい。

そして、フェルズさんの蘇生魔法で生き返って恐らくは半日ほどは眠っていて日を跨いだのだという。

 

「どうして私の体・・・・濡れてるの?」

 

体を見渡してみる。

腰より下は、アラクネを彷彿させるようだが、蜘蛛の部分は竜種の体だった。

背中には不釣合いな、これもまた竜種の翼で動かそうと思っても動かない。

胸は何故だかちょっぴり大きくなっていた。あの子は喜ぶだろうか。

腕や太もも、頬には鱗があった。これは、竜女の特徴だろう。

裸だったのか、胸には布を巻きつけられていた。

そして、私の体は全身が水浸しだった。

 

「君の体は絶えず崩壊しかけていてね。回復魔法やポーション、エリクサーとかけて君の体を維持させていた」

「・・・・・私、どうなるの?」

「今日の晩、月が真上に来るまでにバベルまで行ってもらうことになる」

「私、討伐されちゃうんじゃ」

「彼が魔法を使う。だから、我々が危険な目にあうことはまずないだろう」

「そっか」

 

あの子が助けに来てくれる。

なら、任せられる。

 

「信じているのか?」

「あの子は・・・そういう子だから」

「そうか」

「うん」

 

私達は夜に合図が送られてくるらしく、そこから行動開始。

ダイダロス通りから来た道を戻るようにクノッソスからダンジョンに帰還するらしい。

そして、道中、逸れてしまっている同胞とも合流もしくは別ルートからダンジョンに帰還。

しかし、私はバベルに向かう。

どういうわけかはわからないが、中心地がいいらしい。

 

「別に中心である必要、ないと思うけど・・・」

「私もそう思ったのだが・・・神ヘルメスに決められてしまった」

「誘導ハ私ト、リド ガスル」

「体、動かせそうか?」

 

リドに言われて、私は自分の体を再確認。

腰より上――本来の肉体部分は何の違和感もなく動かせる。

腰より下は、何と言うか、違和感はあるがなんとか動かせそう。

 

「うん・・・早くは動けないけど、何とか」

「ふぅ・・・最悪、この魔道具をオレっちかグロスにつけてアーディっちにオレっち達を襲うようにして誘導する手段をとるところだったぜ」

 

あの神様は何恐ろしい魔道具を渡しているんだろう。

アスフィがまた無茶振りさせられたのかな?

 

「私とベル君は・・・今、お尋ね者?」

「いや・・・・行方不明扱いだ。」

 

お尋ね者でないなら、いいか。

少なくともあの子が悪く言われる状況でないのなら。

 

「えっと、あとどれくらい?」

「もう少しだ。今は夕方。じきにはじまる」

「・・・よろしく、おねがいします」

「ああ、任せてくれ。君の体を少しでも維持するために、リド達にも回復薬を渡している。異常があればすぐに伝えるんだ」

「・・・はい」

 

あの子が、頑張ってくれるなら、私も、頑張らなくては。

そんなことを考えながら、瞼を閉じて、姉のことを思い浮かべる。

きっと、心配している。全部終わった頃、きっと怒られるだろうなあ。

この意識がウィーネちゃんなのか、アーディなのかはハッキリとしないがどうか助けて欲しい。

そんなことを頭の中で呟くと、片手が親指を立てていた。

 

 

そして、時間を報せるように、獣達の咆哮が響き渡る

 

■ ■ ■

 

 

「じゃあ、アルテミス様」

「ああ、行って来い」

「はい。・・・春姫さん」

「はい」

「えっと・・・その・・・」

「くすっ。行ってらっしゃいませベル様。私も、見守っております」

「はい。行ってきます」

 

 

暗くなり始めた時間。

女神のローブにケープを羽織り、覆面で鼻まで隠し正体を完全にわからなくした冒険者が廃教会から歩み出す。

その背には銀の槍と赤い槍が。

手甲のない右腕にはリトルバリスタ。

腰のホルスターにはリトルバリスタ用の魔剣と、直剣型の魔剣。

 

 

「―――なろう、僕は今日。この時だけ、『英雄』に。」

 

歩き出しダイダロス通りへと向かう少年。

監視していたエルフと少年の知己達も行動を開始する。

 

 

そして、ダイダロス通りに入る辺りで、合図替わりの魔法を空に向かって放ち、さらに少年は歌う。

範囲はダイダロス通り全域。

目的は、『鍵』の奪取。

次にバベルへ向かう。

 

「【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】」

 

月は未だ真上には届かない。

故に条件は満たされていない。

 

「【箱庭に愛された我が運命はとうに引き裂かれた。我は貴方を憎んでいる。】」

 

魔法で加護を与えるのは異端児と冒険者と一般人。すなわち地上に出ている存在。

 

「【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう】」

 

ここからは目を瞑る。

スキルの反応にのみ意識を向ける。

突然現れた反応は闇派閥として認識する。

それらに、襲い掛かる。

 

「【何故ならば――我が心はとうに救われているからだ】」

 

『鍵』を奪い取って、異端児達に与える。

闇派閥以外に対して攻撃できないのであれば、【ロキ・ファミリア】だろうと何もできはしない。

 

「【乙女ノ揺籠(アストライアー・クレイドル)】っ!」

 

 

異端児を守る。

アーディもウィーネも助ける。

そのあと、少年がやろうとしていることを・・・きっと誰もが怒るだろう。

 

 

「さあ―――【足掻いて見せろ、ガキ共】ッッ!!」

 

叔父の言葉を使って、誘い出そう。

 

 

 

『冒険』の時間だ。




ヘルメス様:『雄牛vsベル君』の舞台を見繕って欲しいと頼まれてる。
     ベル君だと知られているわけじゃないので英雄回帰イベをする必要が無い。
     アーディを誘導するための魔道具として正史でエイナがつけているブレスレットを渡してる。


フレイヤ様:動く理由がない。


アストレア様:ヘスティアに協力してもらって『被害者の会』も使ってダイダロス通りに向かわせて間接的に動いてる。


ティオナ:ナイフ拾ったのに、あの子どこにもいないんだけどぉぉぉ!?
アイズ:ベル・・・どこ・・・


ベル君がやろうとしてる誰もが怒ること:『セオロの大森林』

異端児+ヘスティア:ベル君をファミリアに帰す、自分たちもダンジョンに帰る
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