旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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ロンリーラビット-6-

『ダイダロス通り』の中心で、金属が激しくぶつかる音が響いていた。

 

「―――ベル、遅い、よ?」

 

ガキィンッ!!

したたかな斬撃が少年の体を打つ。

納刀したままとはいえ、それは紛れもなく【剣姫】の斬撃。一撃一撃が必殺であり甚だしい威力を備えている。Lv.3の冒険者など耐えられるわけがない剣撃の嵐。けれど、倒れない。少年はただただ邪魔な存在を押しのけようと、道を塞ぐ少女に果敢に攻めかかる。

 

「ひぅっ!?・・・こ、んのぉ!」

 

右脇腹を狙って振るわれた剣を銀の槍で受け止め、押し返し、槍の石突で少女の顔を狙う。

 

「顔はよくないと思う」

 

それを簡単に往なされ、回し蹴りを左脇腹にくらい吹き飛ばされ建物の壁に集められていた木材に突っ込む。

 

「ケホッコホッ・・・Lv.6なのに、ずるい!」

 

埃に咳き込みながら、再度少女に突進し、突きの3連撃を繰り出す。

 

肩、胸、足。

 

「―――君のこの魔法で、ダメージは入らないから、そっちの方が、ずるい、よ?はいっ、また私の勝ち」

 

スパンッ!と突きを避け、少年の頭上を飛び越え、背中に蹴りを入れて、少年は地面に倒れ伏す。

 

「う・・・痛みがない・・・わけじゃない・・・ですぅっ!」

「えっ・・・ご、ごめん・・・ね?」

「僕、行かないといけない、のに・・・」

「ベ、ベル・・・?」

 

あ、あれ、私、やりすぎた?でも、加減してるつもり・・・と思ったところで、レフィーヤに並行詠唱の特訓に付き合ってほしいと言われてダンジョンに行った際、ものの見事に気絶させそのことをリヴェリアに相談したら『お前は加減もできんのか』と怒られたことを思い出して冷や汗を垂らす。まずい、このままでは仲直りどころか更に嫌われてしまう・・・!?

 

「―――アイズさ、ん・・・嫌いっ!」

「!」

 

ズキン!と何故だか胸が痛くなった。手を差し伸べようとして、その手がプルプルと震えた。

少年は、ベルはアイズの瞳が揺れていることに気が付いて『あっ、しまった』と勢いとはいえ言いすぎたと思って罪悪感で同じく胸が痛くなった。ベルは立ち上がり、アイズから一度距離を取る。

 

「邪魔してっ!何がしたいんですかっ!」

「わ、私は、その、君と仲直りが・・・」

「今じゃなくてもいいじゃないですか!?」

「うっ」

 

で、でも、君、逃げるじゃん!とわりと本気で思っているし、なんなら心の中の小さな少女(アイズ)も逃げようとする兎を逃がさんとその小さな尻尾を掴んで踏ん張っている。つまり、私は間違ってない!ロキも言ってたし!!ダラダラと汗を流しながらアイズは再びベルに攻撃をしかける。

 

「・・・っ!」

「あの事件から、君は、全然、顔を見せてくれない!」

「じゃが丸君の売店でヘスティア様の横にいました!アイズさんは【プレミアムじゃが丸君スペシャルBOX】を買って帰っていったじゃないですか!?」

「い、いたの!?」

「いましたよ!!」

 

おっと、なんという恥ずかしい失態!やっちまったぜ、とアイズは思った。よくよく思い出せば何か、看板を持たされて立っている子がいた気がする・・・え、いたの?ほんとに?りありー?そんなことを剣と槍をぶつけ合いながら思考する。ベルはそれを隙ありと言わんばかりに姿勢を低くして足払いでアイズのバランスを崩し真上から槍を叩き付ける。

 

「――っ!!」

 

剣の腹で真上から叩きつけてきた槍を受け止め、跳ね除け、後ろに後転して立ち上がる。

 

「も、もう、僕、行っていいですか!?魔法、もうすぐ消えちゃう・・・!」

 

ベルは少し焦りの顔になって、周囲を見渡す。

だからアイズはあえて、自分に意識を向けさせるようにする。挑発をする。

 

「―――『怪物』は殺さなくちゃいけない」

 

瞬間。

今まで以上の速さと力強さで、ベルは突貫。飛び上がり、全体重を乗せた槍で頭を割らんと叩きつけてくる。

 

「――やっぱり、リヴェリアが言ってた通り。私と似たスキルなんだね」

 

それを打ち払えば、そのまま体を捻って横薙ぎ、防がれて突きを繰り出してくる。

アイズはすぐに、リヴェリアから聞いていたベルのスキルが発動されたと感じ取り、対応していく。これでいい、アイズは聞きたかった。言葉足らずでも、ベルの気持ちを。

 

「もう、なんなんですか!なんで、邪魔するんですか!」

「怪物は、人を殺す。沢山の人を殺せる。・・・沢山の人が泣く」

「そんなの・・・!だったら、神様は!?神様は、娯楽とか言って、沢山の人を苦しめる。・・・玩具みたいに扱う!家族を奪う!」

「神様は、みんなそんな(ひと)達ばかりじゃない!」

「怪物だってそうでしょう!・・・・神様は、神様は!僕から2人を奪った!オラリオに連れて行って、悪にして!みんなを傷つけた!!『英雄の礎』?そんなの勝手だ!!けど、でも、じゃあ!?」

 

いつかどこかでしたそのやり取り。

けれど、スキルの影響かあふれ出すのは少年の激情。胸のうちに秘めていた思い。

 

「――この胸の痛みに!どう耐えればいいっていうんですか!?」

 

失望させられるようなものを見せ付けられて、2人が望んだ英雄がいるのかもわからず、ベルでさえどう例えればいいのかわからないような胸の痛み。それでも、目的は決まっていた。

 

「僕はこんな世界よりも、家族と一緒にいられたらそれだけでよかったのに!!だからもう、失いたくない!だから、僕がやらなきゃいけない!異端児(あのヒト)達を、あの異端児(あのヒト)達まで失いたくない!」

 

 

泣きそうな顔で溢れ出る激情を聞いたアイズは、勢いよく突き出される槍をアイズはかわし、脇で挟んで動きを止めた。そしてあの事件で考えて考えて悩んで悩んだアイズなりの言葉を、ベルに伝えようと口を開く。

 

 

「そうだね、怪物も、全部一緒じゃない・・・少なくとも、あの異端児(ヒト)達は違う」

「―――っ!」

 

槍を抜き取ろうと暴れるベルを、アイズは勢いよく抱きしめて動きを封じる。けれど、言葉は続ける。

 

「私の剣も・・・ベルの今使ってる槍も、誰かを殺せる。私達冒険者も一緒。」

 

 

同胞も殺す人類。今、都市を滅ぼし数多の命を奪おうとしている闇派閥。

怪物よりもおぞましい人間は確かにいる。

人類と怪物を隔てる境界とは何なのだと、だからこそ、アイズは

 

「だから私は、見極めることにした。」

「・・・え?」

 

 

理性を持ち、涙を流すモンスターは『怪物』なのか。

あるいは人の括りに身を置きながら残虐の限りをつくす者こそ『化物』なのか。

 

「誰が『人』で、誰が『怪物』なのか・・・・」

 

スキルが解除されたのか、暴れていたベルが大人しくなっていく。

 

「君と似た私の黒い炎(ちから)・・・それを誰に向けるのか、私は自分の目で確かめる。」

「・・・前みたいに、あの造られた化物を、殺さないんですか・・・?異端児達は?」

「襲ってくるなら、そうするけど・・・君だってそうでしょ?」

「・・・・・襲ってくるなら」

「あの子・・・えっと、竜女の子に、私は助けられた。泣いてる君を見た。だから、私なりに考えることにした」

「・・・・ほんとに、異端児達を殺さないんですか?」

「うん。それだけをいいたかった。でも、君、逃げるから・・・言えなかった」

「だって、アイズさん、わからずやだから」

「それは君も、だよ?」

 

大人しくなったベルをアイズは離し、ベルの頭を撫でる。

ベルは何度も、異端児を、アーディを殺さないのかと聞いてくるも返す答えは同じ。

 

「アイズ・・・さん」

「ん?」

 

少年は涙を拭って、少し微笑んだような顔をしてアイズの名を呼ぶ。

 

「僕、アーディさんを助けたい」

「うん。知ってるよ」

「ウィーネ・・・えっと竜女の子の名前。あの子も助けたい」

「うん、知ってる。聞いていい?」

「?」

 

最後に、聞いておこうと思ってアイズは最後の質問をする。

 

「どうして、怪物を助けるのか、聞いていい?」

 

それは無差別に襲ってくる怪物ではなく、異端児であろうと人類の敵として認識されているのなら助けることがどれだけ危険なことかわかっているのかと、そういう質問だった。

ベルはアイズにゆっくり近づいて、胸当てに下から手を差し込んで掴んだ。

 

「え」

 

アイズは戸惑った。

ベルの表情はよく見えず何をしようとしているのかわからなかった。

ベルは手を差し込んだままアイズに背を向けて、剣を持っていない腕を掴んで

 

「―――フン!」

「へっ?」

 

あろうことか、背負い投げをして地面に叩きつけた。

叩きつけて、馬乗りになって反撃できないようにした。

 

「決まってる・・・誰かを救う事に、人も怪物も関係ない。『助けを求めてる』それだけで十分だ!!」

 

丁度心臓がある位置に槍の穂を向けて言ってのけた。

 

「アリーゼさん達が僕を救ってくれた・・・迎えてくれた・・・なのに、僕が誰も助けなかったら、そんなの、駄目だ!」

 

息を荒げるベルを、アイズは投げられたことに対して目を見開いて固まっていた。

 

「・・・・でも、なんで、投げたの?答えてくれたら、それでよかったのに」

「アイズさん、自分が何を言ったか、忘れたんですか?」

「・・・え?」

「【私に一撃入れたら、私の魔法、貸してあげるね】」

「・・・あ」

 

カツン。と槍が胸当てに軽く、当てられた。

 

 

■ ■ ■

 

「レイ達ハ無事、『鍵』ヲ持ッテ人造迷宮に入ッタソウダ」

「よかったね。これで後は君達が帰るだけ」

「その前にアーディっちとウィーネっちを元に戻してからだな!」

 

アーディとグロス、リド、そしてレイとは別に複数の異端児が『ダイダロス通り』の出てメインストリートを進みバベルを目指して進んでいた。

 

「ところでリド、さっきどこに行ってたの?」

「いやなに、せっかく地上に出たんだぜ?証拠を残しとかねえと・・・って思ってよぉ」

「証拠?キサマ、何ヲシタ?」

「ま、まあいいじゃねえか・・・減るもんじゃねえんだし」

 

減るも何も、何かあったら迷惑をこうむるのはあの小僧と目の前にいる娘だぞ。とグロスは言いたくなったが、面倒なのですぐにやめた。

 

「トコロデ娘、モウ少シ早ク動ケンナイノカ?」

「む、無理言わないで・・・腰から上ならともかく、下は人間のときとは勝手が違うんだから」

「ウィーネの意識はあるのか?」

「う、うーん、上手くいえないけど・・・あると思うよ?」

「体ハドウダ?」

「この水浸しの体みて分からない?強いて言うなら、気をしっかり持ってないとまた暴走しそう」

「「すまん」」

 

アーディは少しでも崩壊を遅らせるべく、一定間隔で回復薬をかけられていた。

魔法の効果範囲を出たために、その行為を繰り返してはいるが見た目で言えば全身がずぶ濡れ。胸を隠すために撒いていた布も張り付き、アーディは恥ずかしさから苛立っていた。

 

「ま、まあ、なんとかなるだろ」

「ウ、ウム・・・」

「もう・・・なんで都市の中心なのかなあ・・・」

 

『え、意味?特にないけど。元に戻ったらアーディちゃんって全裸でしょ。眼福じゃん』とどこかで橙黄色の髪の男神は誰に聞かれるでもなく呟いて、一緒にいた美女に殴られた。

 

 

「そ、それより・・・さ」

「ム、何ダ娘」

「君たちは・・・いいの?バベルまで一緒に来て」

「ああ、いいんだ。覚悟の上だ。それによ、ヘスティア様だっけ?に言われたんだ」

「何を?」

「【自分の家に帰るのに裏口から入らねばならない理由があるのかね?】ってよ。あとは、ベルっちをちゃんと家族のところに帰して、礼を言いたい」

「・・・そっか。」

 

メインストリートを堂々と、けれど、アーディにあわせたスピードで進む怪物達を妨害するものは、何故だかいなかった。不思議な事に静かで、だから怪物達は時々空を見上げて感嘆の声を漏らす。

 

「これが、星か」

「アノデカイノハ何ダ?」

「あれが・・・月だね」

 

輝く月に、満天の星空に瞳を輝かせる異端児達。

 

月は、もうすぐで真上に来そうだった。

 

 

「シカシ、アノ小僧ハ、何故、コンナ時ニ喧嘩ナンゾシテイル?」

「ああでもしないと、ベル君が話を聞かないからじゃないかな?」

「面倒くさいんだな、人間は」

「君達と・・・・そんなに・・・変わらないよ」

「ダガ、コノママデハ、我々ガ先ニ着イテシマウ・・・!」

「おいグロス、ちょっと迎えに行ってやれよ」

「ムゥ・・・仕方アルマイ」

 

遅れ始めたベルを迎えに行くべく、グロスが離脱しリドと残った異端児達がアーディを囲うように進んで行く。

 

「ベルっちは大丈夫か?」

「あ、あはは・・・あの子なら、大丈夫だよ」

 

グロスが離れて少ししたとき、急にアーディが頭を抱えて苦しみだす。

 

「お、おい、大丈夫か!?」

「ぐぅ・・・痛い・・・きつい・・・かも・・・」

 

バシャバシャと慌てて回復薬をかけるも、別に体が崩壊を始めているわけではなかった。

瞳をよく見れば、明滅していた。本能で行動する怪物と理性をもった人間とがせめぎあうように。

 

 

「おいおいおい!!しっかりしてくれ、アーディっち!!」

 

痛みに耐えかねたアーディは悲鳴を上げて走り出してしまう。

けれど、体は相変わらず上手く動かせないのか少しスピードが上がった程度。

異端児達は焦り出す。

 

「やべえ、フェルズぅうぅぅ!」

 

今や人造迷宮(クノッソス)の中にいる魔術師に助けを求めるも、何かトラブルでも起きているのか返答がなく益々持ってリドは取り乱す。

 

「やべえ、お前等、とにかくアーディっちの体は守れよ!?死んだらオレっち達が殺されちまう!!」

 

ワーワーギャーギャーと慌てふためく異端児達は、必死にアーディに並走する。

次第に聞こえてくるのは、バベルからのざわめき。

 

「やべぇ・・・やべぇ・・・!」

『リド、ドウシタ』

 

どうするべきか慌てていたリドに、グロスから通信が入る。

それに事情を話すとグロスも少し慌てて、何かに話をして

 

『モウ、着クノカ?』 

「お、おう・・・あの塔のところだろ?もう着いちまう!」

『気ニスルナ、モウスグ、追イツク』

「は?何言って・・・」

 

その通信を最後に、リド達をグロスとその背中に膝をついてしがみ付くベルがすれ違ってアーディを追い越し、ベルはグロスから飛び降りアーディを待ち構えた。

 

「―――アーディさん、今、助けます」

 

何故人がここに集められているのか?と疑問にも思ったベルだが、そんな余裕はなかった。

騒ぎ声が大きくなる中、ベルは槍を構えて詠唱を開始する。

 

 

 

「【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】」

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