兎は星乙女と共に   作:二ベル

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4周年が熱い・・・・いや、熱い。燃えとるがな



17巻のアレに似てるけど、オリンピアだとガチのガチってことなのかな?


聖女激怒

その日、オラリオでは季節はずれの雪が15分間降り注いだ。

後にこの出来事は『怪物との友愛(モンスターフィリア)』として【日刊オラリオ】に記事として描かれるわけだが、何でも『バベル前の広場――迷宮都市(オラリオ)の中心地で悲劇のヒロインを救った英雄が生まれた』だの『ローブを羽織った何者かが奇跡を起こし、それは人ではとてもできることではない前代未聞の偉業でありその姿は御伽噺で描かれるような顔の見えない神のようだ』だのと広場にいなかった者達は聞く事になる。

 

口々に見たものは言うのだ。

『正体不明の英雄が生まれた』

『喋る怪物がいたが、そいつらは迷宮で死んだ冒険者の魂がダンジョンに吸い込まれて生まれたんじゃねえか』

『ラミアの乳がやばかった』

『歌人鳥もやばかった』

『あ?そこで何があったかだって?何言ってんだ、ただの『怪物祭』のやり直しだよ』

『ふぁいあぼるとおおおおお!』

 

と。

 

 

 

「ふむ・・・不思議な現象ですね」

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院でも、その魔法の効果による被害―――否、恩恵を受けて患者が激減するという事態が生まれていた。

 

『怪我人がいなくなる』

『患者がいなくなる』

 

云々。

それはとても良いことだ。

治療師が、都市の憲兵が必要とされない―――悪が蔓延る・・・という意味ではなく、それはとても理想的ではないだろうか。まぁ、何が起こるかわからないから、自分達がこの役割を降りることはないのだが。

 

とにもかくにも、治療院では患者が減ったため、治療師(ヒーラー)達は大喜び。

庭を駆けずり回り、『休暇だー!』『キャンプファイアーしませんか!?』『火を囲んで踊るんですね!?』『だれか、火炎魔法をお願いします!!』『ダメダメダメ!!魔法が詠唱した途端霧散するんだけど!?』『そんなー!!』

 

 

―――とにかくはしゃぎまわっていた。

 

普段から忙しいとは言え・・・少々ハメを外しすぎ・・・いや、ネジが数本、飛んでいませんか?と【ディアンケヒト・ファミリア】団長、アミッド・テアサナーレ19歳は思った。

 

 

「労働環境を・・・見直す機会でしょうか」

 

シフト管理を・・・いえ、そもそも毎日の様に怪我人が多すぎる。猫の手も借りたいくらいには。冒険者は『無傷で帰る』ということはできないのか?私の知り合いの少年は、『今日は18階層まで、最近入った狐人さんとピクニックに行ってました!』と傷なし、汚れなしの私としてはこれ以上ないほどの綺麗な格好で治療院に保護者を連れて回復薬等の補充に来たものだから見習って欲しいくらいだと――――無理難題なことを彼女は考えていた。

 

 

それが人魔の饗宴(モンストレル・シュンポシオン)というスキルの恩恵だと知るのは先のことである。

 

 

アミッド・テアサナーレ、19歳。

Lv.2でありながら都市最高の治療師(ヒーラー)として名を馳せ、『死亡一歩手前』の治療まで可能であり冒険者達からは銀の聖女と呼ばれている。

さらには、全てを癒すと言われる回復魔法で常にパーティを支え、対階層主の戦線をたった一人で保ち根負けさせたという逸話から【戦場の聖女(デア・セイント)】という二つ名を与えられている。

 

白銀の長髪で低身長、巨乳の美女。

休みであっても新薬の開発に取り掛かったり、『アミッドさんって休日何されてるんですか?』と疑問に思った山吹色妖精に一緒に出かけませんか?と誘われた際も珍しい医学書を手に取るわ、薬膳料理を食べるわと『い、いつもこういう感じなんですか・・・?』と少し引かれた気がするが・・・今回の一件についてはいつまで雪が降り注ぐかわからないため、つかの間の休息を得ようと思っていた。

 

「ファミリアの皆さんが言うには、歩ける軽症者はこの雪に触れると傷や痛みが治り帰っていった・・・念のために検査しても『入院の必要性なし』とのこと・・・ふむ、不思議ですね」

 

 

アミッドもまた、外に出て雪に触れたり辺りを見渡してみるも誰も彼もが『雪なのに寒くない』『不思議と安心する』と似たり寄ったりなことを言う。

 

「これは魔法・・・しかし、屋内には効果はなし。ですが効果範囲が広すぎる・・・だというのに魔法円(マジックサークル)がない・・・?」

 

彼女も発展アビリティの『魔道』を習得していないにも関わらず『魔法円(マジックサークル)』を展開させはするがこの未知の魔法は全く持って知らない代物だった。

 

 

「『回復』効果だけなら、恐らくはポーション程度・・・複数の効果が交じって、エリクサーを浴びているような錯覚を生んでいる?一体どこにこんな規模の魔法を行使できる治療師(ヒーラー)が・・・?」

 

ふと空を見上げるとやけに月が輝いて見えてそれがまるで『魔法円(マジックサークル)』のように見えたが気のせいだ、きっと。

 

 

魔法のお陰で、現在治療院には動けない重傷者くらいしかおらず聞こえてくるのは、神ディアンケヒトの悲鳴くらいだ。

 

『おのるぇぇぇぇ!?誰どぅあぁぁぁぁ!?』

 

アミッドは聞こえないフリをした。

 

「たまには、ゆっくり休むのもいいかもしれませんね」

 

新薬の開発も止めて、ゆっくりと湯船に使って日々の疲れを取ってぐっすりと眠る。うん、ありかもしれない。そう彼女は思ったし、なんなら心の中の小さな聖女(アミッド)達はキャンプファイアーを囲んでフォークダンスを踊ってはしゃいでいた。無表情で。そして一斉にプラカードを持ち上げて訴えてくる『休んじゃいましょう』『たまには友人達と食事にでも』と。

 

 

「そういえば・・・最近、彼は治療院に来ていませんね。」

 

白髪で小柄で初対面時には女の子かと思っていたら男の子で、聞いたところでは物語でいうところの『前日譚』を知る人物だとかで・・・まあよくわからないが、精神的に不安定な子で――まあ所謂『放っておけない子』なわけで。主神や団員達についてくる姿を見ては問診をしてはコミュニケーションを取っていたのだが最近はパッタリと見かけなくなってしまっていた。それと同じ時期頃に何故かアイズ・ヴァレンシュタインが落ち込んで治療院に来ていたことがあり何があったのか聞いてみたら

 

『えっと・・・男の子に、嫌われた、んだと、思う・・・』

『アイズ~あんたねぇ、その言い方だと勘違いされるわよ?』

『そう、かな・・・?』

 

男の子に嫌われた・・・・らしい。

なるほど、かの【剣姫】にも意中の殿方がいたのですね・・・そう思った次第である。

 

その白髪の少年は、少なからず人気があるようでよくバベル前の広場のベンチに座っているのを目撃するし女神や女性冒険者達に手を振られては振り替えしていたり、はたまた男神や男性冒険者達に手を振られたりナンパされようものなら、魔法で吹き飛ばされる光景が最近の日常と化しているようでその光景もアミッド自身見たことがあり、団員の者達も『今日あの子に会えたんですよ、きっと良いことがあります!』と言うものがいるほど・・・まあそう言う時に限って『い、いぞがぢいいいい』と悲鳴を上げるのだが。

 

アミッドとしても彼のことは友人や弟程度には思っては・・・気にかけているが、そんな彼に『受け取ってほしいもの(素材)があるので、今度一緒に(廃)教会に来てもらえませんか?』と以前言われたときは、珍しく目を見開いて『えっ』と声を漏らしてしまった。彼も彼で勘違いさせやすい言動をするのだろう・・・と後から溜息をついた。

 

 

閑話休題。

この安息がいつまでのもかわからないのだし、もしこの魔法の所有者を見つけることができれば、是非スカウトしようそうしようと満場一致で心の中の聖女(アミッド)達は結論を出した。

しかし彼女のつかの間の安息は、この魔法の所有者が許さなかった。

 

 

「団長!急患ですうぅぅぅ!?」

 

 

雪が止んで暫くしたのち、団員の1人が悲鳴を上げてアミッドを呼び出した。

声音からしてただ事ではない。

先ほどの雪でふざけて高所から飛び降りたのか?とも思ったが、どうも違うらしい。

 

治療師(ヒーラー)が慌ててどうするのです、落ち着きなさい。患者を奥の治療室に運んでください」

「は、はいぃ!!」

 

 

口をつけていたカップをテーブルに置き、治療室に歩み寄ろうとしてアミッドは見てはならぬものを見てしまった。

 

「アスト・・・レア、様?」

「・・・こんばんわ、アミッドちゃん」

 

女神だ。

【アストレア・ファミリア】主神、女神アストレア。

一体何故?

女神が急患?

よく見れば、その衣類や露になっている肌も血で汚れている。

 

「アストレア様が、急患・・・ですか?」

「いえ、私はアリーゼと一緒に運んできただけよ」

「・・・はい?」

 

 

いや別に?正義の派閥が怪我人を運んで来ようが不自然じゃないし?でも、何ゆえ?

変な疑問が浮かんでいた。

というか、女神といつも一緒にいる少年の姿がなかったのがアミッドにとっては不思議だった。

2人はいつも一緒にいるというわけではないが・・・アミッドが知っている限りではいつも一緒だったはず。

 

 

「応急処置はしてくれてるけれど・・・その、」

「あ、は、はいっ、すぐ行きますのでここでお待ちを」

 

 

治療室に行ってみれば、あら不思議。

最近見かけないなーと思っていた男の子が血濡れで眠っていた。

団員達も絶句。

 

「ひ、一先ず・・・治療を優先しましょう。」

「は、はい・・・」

 

「【癒しの滴、光の涙、永久の聖域。薬奏(やくそう)をここに。】――【ディア・フラーテル】」

 

応急処置をしているとは聞いたが、見た限りでは血塗れだ。

もしもがあってはならないので、魔法を使用。

血濡れの戦闘衣装(バトルクロス)も邪魔なため、病衣に着替えさせ・・・

 

 

「だ、団長?」

 

ぴたり。と動きを止めたアミッドに団員達が恐る恐る顔を覗こうとする。

 

「そういえば、先ほど・・・ここに、アーディ・ヴァルマさんが運ばれてきましたね?」

「え、あ、そうですね」

「彼女に病衣を着せる際に確認しましたが・・・鱗のような痣がありましたね」

「は、はい・・・」

「何か・・・無茶をした臭いがします」

「あっ(察」

 

団員はそそくさと少年を脱がし、体の血をふき取り病衣に着替えさせ、病室に運び込んだ。

別に異性の裸で?年下の男の子で?動揺することなどないが、聖女は嫌な予感がしてならなかった。

 

 

数分後、聖女は激怒した。

 

 

「な・に・を・考えているのですかああああああああああ!?」

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】

その診察室の1室で、特大の雷が落ちた。

アミッドの目の前では麗しい肢体を血塗れにした女神アストレアに、アリーゼ・ローヴェルが正座させられていた。

 

「【イケロス・ファミリア】と・・・格上の冒険者と戦って、呪詛(カース)を受けて?街中を暴れまわる新種のモンスターと一緒に魔法の砲撃を浴びて?落ちて?家出?何を言っているのか、まったくもって!!これっぽっちも!!理解!できません!!」

 

「で、でも、事実なのよ!?」

 

「お黙りください!!」

「ご、ごめんなさい!!」

 

女神は涙目で正座させられていた。

この姿を少年が見たのなら、女神の隣に自分から座って正座していることだろう。

聞けば

 

呪道具(カースウェポン)を持った冒険者と戦った。

・新種の怪物と一緒に魔法の一斉砲撃を浴びて崩落に巻き込まれて奈落の底に叩きつけられた。

・ボロボロの体で本拠に帰らず家出をした。

・何者かが治療をしたが完治しているわけではなく、次の日にはまた『ダイダロス通り』で暴れまわった。

・さらにはバベル前の広場で黒いミノタウロスと殺し合いをした。

・ミノタウロスにダンジョン1階層に叩きつけられて瓦礫に埋もれてた。

・体に反動がでるようなスキルの乱発で体に疲労やらが蓄積されてしまっていた。

 

聖女は聞きなおしたかった。

『ぱどぅん?』と。

 

 

「彼は13の少年です!!家出した!?怪我をしているんです!引きずってでも連れ帰りなさい!!」

「で、できることならしてるわよ!?それができないk・・」

「言い訳無用!!」

「ご、ごめんなさい!!」

 

【アストレア・ファミリア】団長、アリーゼ・ローヴェルは泣きそうになった。

いや、でも、待ってよ。割とガチで少年と鬼ごっこしたらスキルのせいで捕まえられないから!マジで!!と訴えたかったが、聖女様の怒れる炎を前にアリーゼの炎は鎮火してしまっていた。湿気たマッチ状態である。

 

「それに加えて無茶に無茶を重ねて・・・?死にたいんですか?」

「滅相もございません・・・」

「は、反省しております・・・」

「貴方達は彼の保護者でしょう!?彼ほどの年齢を考えれば、まだ母性に飢えていてもおかしくはありません!!」

「もっと、甘やかします!!」

「そういうことではございません!!」

「アリーゼ、貴方はちょっと黙っていて!?」

 

怒れる聖女を前に女神もその眷族もぷるぷると震えるばかりで、眷族にいたっては頭がバカになっていた。聖女の派閥の団員達も『団長が滅茶苦茶キレてる・・・』『わ、私、あの子の様子見てこよ・・・』と逃げ出す始末。聖女は最後に溜息をついた。

 

 

「はぁ・・・彼の身に何があったのか知りませんが、もっと彼の身を大切にしてやってください。ほんと、このままこんなことを繰り返していれば、早いうちに命を落としますよ」

 

「・・・・はい」

 

「目が覚めたら私の方から伝えておきますので、その、体を清めてお帰りください。衣類はこちらで洗いますので」

 

「え、いや、さすがにそこまでしてもらわなくても」

「血濡れの女性が夜とは言え、往来を歩くのはどうかと思いますが?猟奇殺人犯にでも間違われたいのですか?」

「「うっ」」

 

 

流石にこんな遅い時間帯に女性2人を血濡れのまま歩いて帰らせるなど、良くない事件と間違われかねないと思ったアミッドは衣類の洗濯をするからせめて身を清めて帰ってくださいと言うしかなかった。2人は正座のダメージにぷるぷるしながら立ち上がろうとして

 

「あ、あの・・・」

「何か?」

「ベルは1人だと、その・・・不安に思うでしょうから、一緒にいてあげたいのだけれど」

「お帰りを」

「あ、はい」

 

お断りをした。

聖女は痺れる足を支えあいながらシャワー室に案内される2人を残念な目で見ることしかできなかった。大切にされていることは分かるが・・・強引にでも連れ帰れなかったのかと。そう思えてしかなかったのだ。

 

 

「まぁ、何も知らない私が言える口ではありませんが・・・。」

 

踏み込んではいけないところなのかもしれない。だから、怒鳴るということはしないが、命を大切にしろ。くらいは少年に言っておいてあげよう。怯えられて顔を見せに来なくなっても困る。団員達に文句を言われかねないし。そう思う聖女だった。

 

「はあ・・・頭が痛い・・・」

 

 

聖女の安息は、1時間ももたなかった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

髪を掻き分けるような、優しく撫でるような感触がした。

体は重く、だるく、動かない。

けれどその手の感触は女神のものではないとわかったが、決して不快ではなかった。

 

――何かが、僕の上に乗ってる?

 

衣類を着ていないのか、着ているのかわからないが、足の肌にスベスベとした感触があった。

胸の位置に、細い何かが乗っかっている重たいわけではないが重量感を感じた。

右胸の位置ほどに、何か柔らかく、程よい弾力を感じた。

鼻腔をくすぐる薬品の匂いがした。

 

 

――春姫さん?それとも、リューさん?

 

またいつぞやのように、裸で抱き枕にでもしているのだろうか?寝ている間に襲われてはいないだろうか。別に嫌と言うわけではないが・・・少し、目が怖いので優しくしてほしいと、そう思う。

 

「ん・・・ぅゅ・・ぁ・・・」

 

なんとか出した声に反応したのか、頭を撫でる手がピクリと止まり離れていった。

それが少し、寂しい。

 

――やめないで

 

お義母さんに撫でられているような、そんな気がしたけれどきっと違うのだろう。

瞼にピクピクと力を入れて、開けようとするも入り込む光に目が眩んですぐに閉じてしまう。

 

「・・・・っ・・ぁ」

 

 

気配だけは感じ取れて、すぐ近くにいるのがわかった。

そして、徐々にそれが近づいてくる気配も。

もう一度、ゆっくりと目を開ける。

 

「・・・・・」

「・・・お目覚めですか」

「・・・・・女神、様?」

「何の女神に見えますか?」

「・・・・婚kt・・」

「・・・・もう一度寝ますか?一週間ほど」

「ごめ、なさ・・・」

 

白銀の髪が見えた。

でもまだ目がぼやけてよく見えない。

それに気が付いたのか、その人は温かい塗れタオルで顔を拭いてくれる。

 

「むぐ・・んぐぁ・・・」

「こら、大人しくしていなさい」

「あぃ・・・んぁ・・・」

「ふふっ・・・本当にペットみたいですね、貴方は。これで、見えますか?」

 

僕は、この人を知っている。

僕より少し背が低いのに、年上のお姉さんで綺麗でアリーゼさん曰く『胸が大きいのよ彼女』と色々凄い人だ。僕がここにファミリアの人と一緒に来るたびに何か感じるのか『体に異常はありませんか?』『何か悩み等あれば』と気を使ってくれる人、アミッド・テアサナーレさんが僕の顔の額に額をくっつけてきていた。

 

「あの」

「はい」

「近くないですか」

「熱を出していましたので・・・問題なさそうですね」

「?」

「変なところで羞恥心があったりなかったり。綺麗な女性達と生活しているせいでしょうか?おはようございます、ベルさん」

 

起きたら顔が近くにある、それくらいで動揺する僕じゃない。

寝巻きの中に手を入れてくすぐってきたり耳に息を吹きかけるレベルのことをされてる僕は、鍛えられているんだ。平気だ。

 

「・・・何を考えているのかしりませんが、変なところで自信を持たないほうがいいですよ」

「そう、なんですか?」

「ええ。あと背中には気をつけるように。殺されますよ」

「えっ」

「まあ治しますが」

「・・・・あ、あの」

「はい?」

 

アミッドさんが少し怖い・・・いや、前に会った時から表情が変わらない人だなーって思って、つい年下の子だと思って『アミッドちゃん棚の上のやつ取ってあげようか?』と背伸びする彼女に言ったとき、すごい目で睨まれたけどあの時以来の怖さを感じて話題を強引に変えた。

 

 

「・・・ベル()()()、何かございましたか?」

「ごめんなさい許してくださいわざとじゃないんです」

 

このお姉さんは僕の心でも読めるのだろうか?

 

「顔に書いてますよ」

「そんなっ!?」

「ふふふっ・・・冗談です。どうされました?」

「え、えぇ・・・えと、体が、重くて、だるくて、動かなくて、あと、何か上に乗ってて」

「・・・・はぁ、またですか」

「ま、また?」

 

アミッドさんは僕の言うことを理解したのか、溜息をついて布団を捲り上げた。

そこには病衣をはだけさせて僕に抱きついて眠るアーディさんがいた。

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「貴方は我が治療院に入院してから3日ほど眠っていました。同じく入院していたアーディさんは翌日には目覚めていたのですが、当然の様にこうしてベッドに忍び込む始末で」

 

「3日・・・」

 

「貴方達2人の身に起きたことは、ガネーシャ様とアストレア様から聞いてます。聞かねば診察のしようがありませんから。」

 

「・・・・ごめんなさい」

 

「お体を、命を大切にしてください。でなければあなたのことを思っている方々に失礼です」

 

「・・・はい」

 

「大声で怒鳴るようなことは今回はしません。ですが、次は覚悟なさってください」

 

「・・・はい」

 

垂れ下がる耳を幻視してしまうほどに、自分が何をしたのかを思い出して目の前の少年は落ち込んでしまっていた。

 

「アーディさんの体についてですが」

 

きっと彼自身が気にしているであろう話題を進めて行く。

 

「体の中に魔石は確認できませんでした。ガネーシャ様に恩恵の確認をしてもらったところ『いたって正常』とのこと。」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「はい。彼女は怪物ではなく人間です。」

 

その言葉に安堵したのか、ほっと息を漏らす。

無理もない、こんな偉業をたった1人で成したのだから。真実を知る・・・否、当事者なのだから。

 

「後遺症も彼女から聞く限りは見受けられません。副作用とでも言うべきか『気配を感じやすくなった』『下半身が動かしにくい』・・・そ、その『種を残そうとする本能なのか、ムラムラするときがある』と。まぁ、死にかけたのですから安易に否定はしませんが・・・」

 

下半身が動かしにくいというワードに心配そうな顔をする少年に、ベッドに立てかけてある杖を見せて『どれもその内治ります』と安心させてやる。けれどその後の『ムラムラする』については口角をピクピクさせていた。

 

 

「ア、アミッド・・・さん、アーディさんの体、鱗の痣が」

「ああ・・・ご安心を。観察していましたが、日に日に薄くなっているので、その内消えると思いますよ。」

 

「よかった・・・よかった・・・」

「ただ、2人は暫くダンジョンに行くのは禁止です。わかりますね?」

「はい・・・体、だるいですから、無理、です」

「ええ。その倦怠感もスキルの反動でしょう」

 

そこでアミッドは女神から開示してもらった少年のステイタスの載っている羊皮紙を手に取る。

 

「眠っている貴方には無断・・・となりますが、命に関わるのであれば隠されても困りますので開示していただきました」

 

「別に、いいですよ」

 

「・・・個人情報なので、怒ると思ったのですが」

 

「あまり、興味・・・なくて」

 

「変わっていますね」

 

「えへへ」

 

「褒めてはいません」

 

「はいっ」

 

 

少年のスキルと魔法を見て、『貴方が犯人ですか』とでも言いたげな顔をするアミッドに気が付いたのか『どうかしましたか?』とベルは問うと、溜息をついてアミッドは精一杯の微笑みを持ってスカウトをした。

 

 

「ベルさん?」

「はい」

「3食おやつ、昼寝付きで我が治療院で働きませんか?」

「嫌ですけど」

 

 

即答であった。


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