兎は星乙女と共に   作:二ベル

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豊穣の女主人2

■ ■ ■

「よっしゃぁ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

赤髪で糸目で変わった訛りをした女神様が音頭を取って、そこから【ロキ・ファミリア】の人達は騒ぎ出した。

『ガチン!』とジョッキをぶつけ合い、料理と酒を豪快に口の中へ運んでいく。

 

 

「――――おい、団長様よ」

輝夜さんは少し、不機嫌気味にアリーゼさんに声をかけた。

【ロキ・ファミリア】と予約が被っているなど聞いていないぞ。と。

でも、アリーゼさんも本当に知らなかったのか

「―――私も今知ったわ」と返すだけだった。

 

「何かあったのですか、輝夜」

「――あったも何も・・・昨日ダンジョンd「そうだ、アイズ!お前あの話を聞かせてやれよ!!」・・・はぁ言う前に始まった」

「どういうこと?」

 

輝夜さんは昨日、上層でミノタウロスと遭遇したこと。それが恐らく【ロキ・ファミリア】の遠征中に起こった異常事態(イレギュラー)によるものだろうということ。

そして僕とアリーゼさんがダンジョンに潜っている間にギルドに改めて確認に行ったことを教えてくれた。

アリーゼさんは「あらま」という顔。リューさんは「まさかそれを、自分達の不手際を酒の肴にすると!?」と表情を険しくしていた。

僕は別に殺されかけたわけでもなく輝夜さんの指示にしたがったまでのことで「あの金髪エルフさんを笑いものに?」と思っていた。

 

 

―――どうもそれは違ったらしい。

 

 

■ ■ ■

「・・・あの話?」

「ほら、あれだって、遠征から帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で見つけたときにいただろ!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 

―――トマト野郎?モンスターのことかしら?

―――だとしたら新種でしょうか?

―――阿呆。なわけあるか

 

「そんでよ、いたんだよ、情けなくミノに追っかけられたんだろうな、頭から真っ赤に染まったやつがよ!」

 

―――あの金髪のエルフさんでしょうか?

―――私は見ていないから知らんぞ。金髪エルフなんぞ。というか、髪の色を言うな。どうでもいいわ。金髪エルフはリオンでお腹いっぱいだ。

―――輝夜、それはどういう意味だ

―――生娘(おぼこ)妖精はうちに1人いるから事足りる。そう言っておりますのがわかりませんか?

―――輝夜!!

―――リューさん!輝夜さん、喧嘩しないでぇ!!

 

「抱腹もんだったぜ、頭から血を浴びてよ、正義の眷属様に背負われてお帰りだなんてよ!」

「ふーん。それで、その子どうしたん?生きとるん?」

「ったりめーだろ、女に背負われて何か喋ってたんだからな」

 

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を浴びて…真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、きっと無様な駆け出しに狙ってやったんだろうよ!」

 

―――輝夜、ベルのことよね?笑いものにされてるわ。

―――あの時見ていたのか。ベル、気づいてたか?

―――さすがにそこまでは・・・

―――なら、悪いことをしたな。

―――ううん、気にしてないから大丈夫。

―――どうするの?これ、身内が笑いものにされるのは気分が良いものじゃないわ。結局のところあっちのミスを尻拭いしてあげたようなものでしょ?

―――私が行ってくる。ベルをトマト野郎にしたのは私の責任だ。

―――そう、じゃあやりすぎないでね?

―――戦うわけじゃあるまいし、大丈夫だろう。

 

「・・・・ベル?」

「―――どうしました?アストレア様?」

「その"金髪のエルフさん"は、どこの派閥の子なの?お礼とか・・・なにか言ってた?」

「えっと、金髪のエルフさんが通り過ぎたところを横からミノタウロスを誘引したので・・・・直接顔を見たわけじゃないですよ。ただ」

「ただ?」

「確か・・・・『そんなに女がいいのかああああ!!』とか『ヘエエエルメエエエス様アァァァァ』って言ってました。」

 

僕が金髪エルフさんの言っていたことを真似したらブフッとリューさんは噴きだしてアストレア様はむせていた。

「人を笑いものにするのは良くないと言っていたそばからこれは良くないわね。ごめんなさい。・・・あぁ、ありがとうベル、背中を摩ってくれて。」

 

そんなやり取りをしていると輝夜さんが狼人(ウェアウルフ)さんの背後に立ち

ロキ様はいることを知っていたのか、ニヤニヤとして

「なぁ、ベート、その正義の眷属様って後ろにおる子のことなん?」

と言った。

 

最初から僕たちがいることに気づいていた人達は「あぁ、やってしまった」なんて顔をしているし気づかずに笑っていた人たちは顔を青くしているし、

アリーゼさんに手を振っている人達がいて新顔がいることに驚いていた。

 

「ほーぅ?抱腹ものだったとはそれはそれは。かの名高きオラリオの双璧をなす道化の眷属様の腹筋を割ることに役立っていただけるとは光栄でございますなぁ?」

 

輝夜さんはベートと呼ばれている狼人(ウェアウルフ)さんの左肩に右腕を乗せもたれる様な姿勢になり耳の近くで、いつもの『悪戯をする時の顔』をしていた。

「あぁ?てめぇ・・・いつから!?」

 

「クスクス....仮にも五感に秀でた獣人の狼人(ウェアウルフ)様は(わたくし)達に気づきもしないとは、やはり(わたくし)達はちっぽけな存在ということでございましょうか?クスクス」

 

「ですが、ですが、このような場に来てまで新人を笑いものにするとはさすが都市最大派閥でございますなぁ?やはり、そちらでは『恩恵を与えてすぐにミノタウロスと戦う』というのは朝飯前なのでございましょうなぁ?クスクス」

 

人をおちょくる様な話し方にベートさんはイラつき出して輝夜さんを睨みつけていた。

でも、輝夜さんの腕を払うどころかまるで、押さえつけられているように見えた。

「まぁ、輝夜もあの人と同じLv5だし・・・酔いが回ってるなら押さえつけるくらいはできるんじゃないかしら?」

とアリーゼさんが言い、「まぁ輝夜ですし」とリューさんが付け加えた。

そういえば僕も輝夜さんと寝るときとか動こうとしてもまったく動けなかったけど、あれはただ単にレベル差があるだけじゃなかったのかな?

 

「そんな怖い顔しないでくださいませ。どうしました?発情期でしょうか?犬の交尾は長いとお聞きしましたし・・・・最大派閥で貴方様ほどの実力者であれば女子(おなご)に飢えることなどないと思いますが、そんなにムラついていらっしゃいますなら、今宵の夜伽のお相手くらいは・・・してさしあげましょうか??」

 

「はぁ!?何言ってやがるテメェ!!!」

 

「えっ!?輝夜さっムグッムームー!?」

 

「ベル、しっ!あなたは黙ってなさい!!大丈夫よ、取られたりしないから安心なさい!」

「ムゥ・・・。はい・・・あっえっといや、僕はなにも言ってないですよ!?」

「ベル、動揺しすぎですよ?」

「はぅっ」

 

胸板に指を這わせながら続く輝夜さんの発言にベートさんは驚愕の顔、僕は動揺してしまった。

何故だろう、なぜか、すごく嫌だった。

 あれ、輝夜さん?どうして僕のほうをチラ見して笑ってるんですか?

 

「あー・・・ですがさすがに(わたくし)、長時間も交わり続けるなど、とてもとても・・・ましてやレベル5の腰使いなど翌日は足腰が立たないかもしれませんのでお手柔らかにしてくださいますと助かります。

あぁ、それともあれでございますか?吼えるだけの声は大きいのにナニの方は子犬ちゃんほどのものなのでございますか?(わたくし)共の子兎様はなかなかいいものをお持ちでしたのに。クスクス」

 

さらに続けられた言葉にエルフ組は顔を俯かせ、若手の男性団員の人たちは内股になってキュッとしていたし、ベートさんは怒る気も起きなくなったのか口をあんぐりとあけて「こいつやべぇ」という顔をしている。

何でだろう、聞いてるだけですっごく恥ずかしい。

どうして僕を巻き込むんですか、輝夜さん!?誤解を生むことを言うのをやめてくださぁい!!

僕は恥ずかしさのあまりアリーゼさんに抱きついてローブのフードを深く被って顔を隠した。

 

 

「輝夜」

「ベート」

「「その辺にしておきなさい(しとき)」」

 

そこでアストレア様とロキ様による止めが入り輝夜さんは戻ってきた。

「今夜が楽しみでございますね?クスクス」

「輝夜さぁん!!」

「―――輝夜、やりすぎです。ベルに何かしたのですか?」

「なぁんにも???」

「―――ベルの顔が真っ赤じゃないですか。昨日の風呂場から聞こえた声と何か関係が?」

「いんや?関係ないが??ただ単にわき腹を弄っていただけだ」

 

はぁ。。とリューさんは溜息をついて話を終わらせ、輝夜さんは僕をニヤニヤしながら髪を梳くように頭を撫でていた。

 

■ ■ ■

「悪いなぁ、アストレア。おるんは知っとったけど、まさかベートの言う駆け出しの子が自分とこの子やとは思わんかったわ。いつ新人いれたんや?」

 

「半月前かしら」

 

「その前から自分とこの子供らちょいちょいオラリオの外に行っとったみたいやけど、それと関係あるんか?」

 

アストレア様たちと出会ったのはオラリオにくる6年前からだから・・・

そっか別の人とは言え眷族が何度も都市を出たり入ったりしていることになるから、怪しまれているのかな。

 

「―――まぁ、無関係ではないわ」

 

「ふぅん。まっ、悪いことしたな。お嬢ちゃんもごめんナー!!うちのアホが笑いもんにして!!あとでみっちりしばいとくから勘弁してなー!!」

 

「僕、お嬢ちゃんじゃないんですけど!?」

 

アリーゼさん、髪、切らせてくださいお願いします!!

特に気にしてなかったけど、女の子扱いされるのは何か、いけない気がする!!

 

■ ■ ■

 

「・・・・ねぇ、君」

 

「は、はぃ。ナンデショウカ・・・・アイズ・ヴァレンシュタインさん・・・」

 

そして今、僕は、金髪金眼の少女、アイズ・ヴァレンシュタインの目の前に座らせられていた。

 

「えっと、君のことが気になってて。話がしたいなって、だめ、かな?」

その言い方のせいで周囲からすごい殺気が飛んできてるんですが・・・。

あと顔が近いです!鼻と鼻がくっつきそう!・・・すっごい良い匂い!!?

 

「え、えっと??」

 

「ミノタウロスに追われてた時・・・その・・・私には君は駆け出しにしか見えないのに何の迷いもなくミノタウロスを誘導しているように見えたから」

 

やっぱりあの時見られてたんだ。

でも言い方的にベートさんより少し前からかな?

『誘導していた』というアイズさんの言葉に金髪のパルゥムさんと緑髪のエルフさんが「ん?」と反応を示した。

 

「何をしたのか、気になって・・・・その・・・」

 

「えっと・・・・」

 

どうしたらいいんだろう。

スキルや魔法は他人、とくに多派閥に言っちゃ駄目だって言ってたし・・・

悩んでいると、ぽん。と頭に手を置くアリーゼさんが背後にいて一言だけ喋った。

 

「何をしたも何も、『挑発』しただけよ?さっ、そろそろ帰りましょっか。ベル」

 

言うだけ言って、僕を脇から抱き上げて店を後にしたのだった。


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