兎は星乙女と共に   作:二ベル

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銀の聖女、白の兎

 

「3食おやつ、昼寝付きで我が治療院で働きませんか?」

「嫌ですけど」

 

 

嫌ですけど・・・嫌ですけど・・・嫌ですけど・・・

即決、即断・・・聖女は固まった。微笑んだまま固まって

 

 

ゴツンッ!!

 

とベッドの手すりに頭を強打!

 

ビクゥッ!!

 

と体を揺らす少年。

心なしか少年を抱き枕にしている裸同然のアーディまで揺れた気がしたが、そんなことはどうでもよかった。

 

 

「だ、大丈夫・・・ですか・・・?」

 

手すりに頭をつけ、両手で握り顔を見せずにプルプルと震える聖女に何とか体を起こして恐る恐る頭に手をやる少年。

 

「そ、そんな・・・即・・・答・・・?な、何故・・・こんな高待遇は他にあるとしたら【デメテル・ファミリア】くらいでしょうに・・・【ヘルメス・ファミリア】ですら団長が死んだ魚・・・いや、それは【フレイヤ・ファミリア】の彼女のことでしたか・・・・ブツブツ」

 

「ア、アミッドさーん?アミッドおねえさーん?」

 

1人プルプルと震えながらブツブツ言うアミッドに怯えながら何故か頭を撫でるベルが、そこにはいた。

『アミッドさんの髪、サラサラしてて気持ちいいなあ迷宮都市(オラリオ)の女の人はみんな綺麗な人ばっかだ。お義母さんも人気あったのかな?』そんなことを考えながら、髪を梳くように撫でるベルに恨めしそうな目をして見つめてくるアミッド。

 

「何故・・・撫でているのですか?」

「―――そこにあるから?」

「誰の頭でもいいと?」

「誰でも言いわけないじゃないですか。僕はそんな軽くないです!」

「はぁ・・・・その、妙に手つきが慣れているというか、変に心地良いというか・・・いえ、誰かに教わったのですか?」

「アリーゼさんが、『いいベル?女の子の頭を撫でるときはね・・・』ってリューさんを使って教えられました」

 

アミッドの頭には、アリーゼに足でホールドされて逃げられなくされて少年にひたすら頭を撫でられまくって蕩けきったリュー・リオンの姿が浮かんでしまっていた。

 

「コ、コホン・・・・あの、もういいですので手を退けてもらえると」

「もう、いいんですか?」

「・・・・あと少しだけ」

 

―――ひょっとしてこの子は、発展アビリティ『魅了』とかそれこそ希少なスキルや発展アビリティでもあるのでは?

 

と思ったが、あって堪るかと一蹴。何とかその手つきを跳ね除け赤くなっている額に濡れタオルを当てて咳払い。『何もありませんでしたよ?』な顔を実行。

 

 

「?」

「そ、それでですね?その、何故、断るのか理由を・・・」

「えっと【アミッドさんの今後益々のご活躍をお祈りして】・・・」

「その台詞はおやめなさい!!」

「えぇ!?」

「その台詞は、『迷宮都市(オラリオ)の外から期待に胸を膨らませた冒険者志望の方が、迷宮都市(オラリオ)中のファミリアを虱潰しに回るも全てお断り』されるときの心をへし折る台詞です!!」

「そ、そんな!?だって、ロキ様が!?」

「あなたは【ロキ・ファミリア】じゃないでしょう!? アストレア様ならなんというか考えて御覧なさい!!」

「え、えっと・・・【男の子はベルだけでいいの・・・】」

「んんんんん!?」

 

 

何故この子は他派閥の主神に、()()()()()()情報を教え込まれてそれを鵜呑みにしているのか・・・いや、彼は純粋なのだ仕方ない。周りのデキル大人達がしっかりと教育してやればいいのだ、とそう思った矢先に【アストレア・ファミリア】の主神ならどういうのか?と聞いてみれば見当違いなことを言うし、【男の子はベルだけでいいの・・・】と顔を逸らす動作つきで再現して見せてきたのは一体どういうことなのか。

 

「だ、男性の入団希望者が来たのですか?」

「えっと、青いタイツ?に胸元に『S』って書いてて赤いマントをつけてて、髪の毛がピッチリしてました。他には・・・えっと目が見えないくらい顔に影の入った大柄な人で『私が来た!』とか言ってました。そっちの人は強そうでしたよ?アストレア様が、【1人だけ画風が違うのよね・・・】って。何のことかわからなくて聞いたら、『こすぷれ』っていうやつだったみたいです。2人とも筋肉のスーツ着てるだけで、輝夜さんに切り裂かれてガリガリの姿で帰っていきました」

「なんなんですかそれは・・・それが妙に気になるのですが・・・」

 

 

何なんだその珍事件は。

色々とツッコミたい・・・でも、ツッコンだら泥沼というか止まらない気がしてならない・・・聖女様は口角をピクピクとさせながら汗が頬をつたっていくのを感じた。

 

「ま、まぁ・・・迷宮都市(オラリオ)の女性は、その、筋骨隆々よりも華奢な方が好みな傾向があるかと思いますよ・・・?」

「筋肉、ダメなのかぁ・・・」

「何故、落ち込むのですか貴方は・・・」

 

この子はまさか、『筋肉ムキムキのマッチョマン』にでもなりたいのだろうか?いや、そんなバカな。似合わなさ過ぎる。想像したくもない!!もし本気でそう思っているのなら、他派閥ながらきっちりと教育してやらねばならないと聖女は決意した。

 

「だって僕、背ひk・・・筋肉あんまりないし・・・」

「私達『神の恩恵』を授かっている者達は総じて一般人とは違います。筋肉を無理につけずとも・・・何か、目的があるのですか?」

 

今、背が低いとか言おうとしましたね?とは、彼女は指摘しなかった。なぜなら、アミッドはデキル女かつ、年上のお姉さんだからだ。そんなことで一々年下の男の子に目くじらを立てていたらキリがないのだ。

というか、何故そこまで筋肉をつけたがるのかが疑問だ。別にいいじゃないか、なくたって。冒険者やってれば勝手につくでしょう・・・と彼女はジト目で少年を見つめる。

 

 

「アストレア様が、『お姫様抱っこって・・・いいわよねぇ』って言ってたから・・・」

「あぁぁ・・・っ!良い子・・・っ!」

 

ガツン!!と聖女は本日2度目の手すりに頭突きを行ってしまう。

『【猛者】のようになりたいんです!』なんて言ったときは、とことん教育してやろう。似合いません、やめなさいと言ってやろうと思っていたのに・・・そんな自分が許せなくなってしまった。

 

 

「アミッドさん、大丈夫ですか?」

「魔法を使っていただけると治る・・・かもしれません」

「その手には乗りませんよ?」

「くっ・・・私が付きっ切りで色々とお世話したというのに・・・!?」

「付きっ切り?」

 

 

少年のことは以前から気にかけていたアミッドとしては、他の団員達に任せるよりも自分が担当してやったほうが『まだ会話をしたことがある人』というのもあり安心するだろうと思って付きっ切りでお世話していたのだ。

 

「ええ、付きっ切りです。まぁ、あなたの魔法・・・のおかげで、入院患者が減ったお陰で余裕が生まれまして。それで私が貴方の担当をしていました」

「は、はぁ」

「お風呂に入れるのは無理なので体を拭いてやったり、着替えさせてやったりと・・・眠っている方の着替えは結構重労働なんですよ?」

「体を拭いた?」

「はい」

「着替えさせた?」

「はい」

「えっと・・・全部?」

「なんです?恥ずかしいのですか?お気になさらず、放置する方が不潔です」

「アミッドさんに辱められた・・・?」

「フンッ!!」

 

ペシンッ!!と少年の頭をお盆でひっぱたいた。

勿論全力ではなく軽くだが・・・この少年は一体何を言っているのだろうか。

 

「いいですか、ベルさん?」

「ふぎゅぅ・・・あい?」

「別に下着の中にまで手を入れてはいませんよ?」

「・・・ほっ」

「はぁ・・・。まぁ、その・・・知らない人よりも、少なくとも会話している私の方が貴方も安心だろうと思って貴方のお世話をしていたんですよ?」

「あ、ありがとう・・・ございます?」

「ええ、どういたしまして」

 

 

―――あれ、話が結構脱線してしまっているような?

 

そうだ、そもそもこれはスカウトをしようと思って話しかけたのだ!と即答で断られたことがショックでつい違う話をしてしまっていた。

 

 

「えっと・・・話は戻るのですが」

「・・・あ」

「どうされました?どこか痛みますか?」

「タイツ、破れてますよ?」

「へっ?・・・どこかで引っ掛けたのでしょうか・・・後で変えておかないと。って違うんですよベルさん。話を変えないでください」

「どうしたんですか?」

「はぁ・・・その、ここで働きませんか?というのはですね、何も『ファミリアを改宗しろ』と言っているのではありませんよ?お手伝いというか、アルバイト的な意味合いでですね」

「本当に?」

「ええ、貴方は【アストレア・ファミリア】でなければいけないことくらいファミリアの方々と一緒にいるのを見ている私としては理解しているつもりです。」

 

第一、無理やり改宗でもさせて女神アストレアやアリーゼ・ローヴェルらと引き離した場合、間違いなく少年の怒りを買うことくらい目に見えているしアミッドもそんなどこかの太陽神のような考えは持ち合わせてはいない。それでも貴重な治療師(ヒーラー)だ、是が非でも手は借りたいのだ。少年は『改宗しろ』と言う意味で捉えていたのかその言葉にほっとして、少し悩んだ素振りをして再びアミッドの顔を見つめる。

 

 

「どう・・・でしょうか?毎日とはいいませんから。貴方が来てくれると、私としても助かるのです。あの魔法を使っていただければ、団員達の負担を減らしてやれるのです」

「うーん・・・」

「な、何か、望むものが?」

「んー・・・でも」

「で、でも?」

 

 

何か難しい条件、いや、求める対価があるのか?可能な限り答えるが、何を求めるのかがわからない!!だからアミッドは焦った!!可能なら『世界の半分を貴方にあげます』と言いたいくらいには。

 

 

「僕の魔法・・・別に回復魔法じゃないんですけど」

 

 

その言葉でアミッドはどこか力が抜けてしまった。

 

 

「・・・・はい?」

「えっと・・・僕の魔法は『絶対安全領域の展開』で、そもそも『傷つかせない』っていうのが前提で・・・」

「つまり?」

「回復効果は、ただ付随しているってだけで・・・」

「効果範囲も、場所によってまちまちだし・・・」

「いえ、ですが、先日のは・・・」

「あれは『月下条件化』っていうのを満たしていたからで」

「では、ダンジョンや屋内では?」

「たぶんですけど、今いる部屋で魔法を使っても、この部屋だけしか。扉を開けたらもしかしたら、この部屋から正面の廊下までを範囲とするかもしれないですけど」

 

 

そもそも前提が違っていた。

アミッドが『全ての傷を癒す』のであれば、ベルの場合は『傷つかせない』。

傷つかないのであれば、そもそも治癒する必要はなくだからこそ回復効果単体で見ればポーション程度だということ。

 

「私が確認した限りでは、『回復』『解呪』・・・恐らくこれには状態異常も含まれますね・・・さらには『精神状態の回復』。これが、安心感を感じるというもののことなのでしょう。そして、あなたの言うように攻撃魔法が発生しないことからして『戦闘行為の禁止』でしょうか?」

 

「いえ、戦闘行為事態は可能です。えっと・・・自分は傷つかずに、敵をやっつけられる。みたいな?」

 

「むむむ・・・」

 

「だから、アミッドさんの魔法に比べたら・・・それに僕、治療師(ヒーラー)ってわけでもないですし」

 

「い、いえ!そんなことはありません!!それでも、手伝いに来ていただければ・・・。ダメ、でしょうか?」

「それでもいいなら別に・・・いいですけど」

 

 

聖女様はその瞬間、無表情でガッツポーズを決めた。

これで団員達の負担を減らせられる。

職場環境の改善!!

私は新薬の開発に勤しめる!!

 

「よ、よかった・・・ありがとうございます。お礼に頭を撫でてあげましょう、さっき撫でてくれたお返しです」

「アミッドさんに会うのは嫌じゃないですし・・・お手伝いなら、アストレア様も『いいのよ』って言ってくれるだろうし。」

「アストレア様には先に聞いてはいますよ?ただ、本人の意思に任せる、と」

「でも、ディアンケヒト様的にはいいんですか?僕、あの神様が苦手で・・・えっと『商売の神様』ですよね?」

「違います!?」

 

気を良くしたアミッドはベルの頭を撫でてやるも自分の主神に対する勘違いを聞いて動揺。違う、あの神は生命と医療、技術の神なのだが確かにやたらと『金』にうるさくて否定しづらかった。でも、勘違いさせたままではいけないのだ。

 

「そ、その直接会うことはきっとないと・・・思います。ええ。というか、会わせません」

「な、何故そんな鬼気迫る顔を」

「あの魔法を見たディアンケヒト様が『この魔法の所有者を雇うだと!?何を言っているのだ!?そんなことをしたら、その日建てた治療院がその日の内に無くなるではないか!!』と大層否定的でして・・・」

「ナァーザさんが『あいつはヤブだから、ベルは行っちゃダメだよ』って言ってました」

「エリスイスぅ・・・」

 

どうにか丸め込まなければ・・・。アミッドは頭を悩ませながらも、しかしベルが手伝いに来てくれるならば自分も含めて【ディアンケヒト・ファミリア】は負担が減り余裕が生まれる。余裕があるのはいいことだ。だから、どうにかしなくては。

 

「丸め込む?」

「え、ええ・・・正直なところ貴方の魔法で今は余裕が会っても、また忙しくなることは目に見えています。それではいけないのです」

「・・・・・・あ」

「な、何か思い浮かんだのですか?」

「うーんと、確か前来たとき大声で何か・・・」

「お、思い出してください!弱味を!弱味をなにとぞ!!」

 

アミッドはベルの手を両手で包み込み胸元まで持って行き祈るように見つめる。

ベルはそれに答えるようにウンウンと唸って、そして、思い出した。

 

「この間、輝夜さんと来たときに『まさかアミッドの入った風呂の残り湯にこのような効能があるとはな・・・都市最高位の治療師(ヒーラー)だからか?何か、これで儲けを・・・ハッ!!確か極東には【銭湯】とかいう公衆浴場があったな!!あれにオラリオ市民を入れれば・・・ふふふ、さすが私だ。この商才が恐ろしい・・・ガーハッハッハッ!!』って言いながら液体の入った透明の容器を持って歩いてましたよ? でも、輝夜さんに聞いたら『人によるのか場所によるのかまでは覚えていないが、湯を飲む奴もいる』って言ってましたよ?」

 

 

アミッドは凍りつき、『告発ありがとうございます。少々お待ちください。』そう言って立ち去り、暫くした後

 

 

「ディアンケヒト様あああああああああ!?私の残り湯で何をするつもりですかああああああああ!?」

「な、何のことだアミッドよ!?お、落ち着くのだ!?」

「そ、そそそ、その容器は何ですか!?」

「こ、これは、あれだ!そう!ダンジョンに温泉があったのだ!!」

「神がダンジョンに行けるわけがないでしょううううう!!」

「ぐわああああああああ!?」

 

というディアンケヒトの悲鳴と、アミッドの怒声が院内に響き渡ったのだった。

 

「・・・聖女の残り湯だから・・・聖水になるのかな・・・?」

「ベル君・・・君は何を言ってるのかな?」

「・・・・アーディさん?」

 

ベルの呟きに、モゾモゾと布団から顔を出したアーディと目が合った。

アーディはベルの体の上に乗りながらジトーっとした目で

 

「アミッドちゃんと知り合いだったの?」

「えっと・・・うん、何ていうか、気にかけてくれてる」

「ふーん・・・・」

「アーディさんはどうして僕のベッドに?」

「それはその・・・君にお礼を言いたかったのと、君と一緒にいたかったから。」

 

 

膝立ちになって、解れた病衣の紐を結びなおして再びベルの上に抱きつく形で寝転んで見つめてくる。その顔色はとても良く怪物にされたのは夢だったのでは?と思うほどだった。

 

「体・・・大丈夫?」

「君よりはね。違和感はまだあるけど、その内治るよ。あとは何ていうか、本能的なものなのかな・・・何ていうか、性欲が。それと、胸が少し大きくなってた」

「え、えぇ・・・」

「君は嫌かな?」

「・・・イヤジャナイデス」

 

その言葉に気を良くしたのか、アーディはベルの首筋をペロペロ、チロチロと舐め出す。

 

「ひっアーディさん!?」

「スンスン・・・チロチロ・・・カプッ」

「くひゃぁ!?」

 

あろうことか、甘噛み。

そしてそのまま舌で嘗め回し始めて、口を離して悪戯が成功した子供の様に笑いだす。

 

 

「ふっふふ・・ふふふふ・・・ごめんごめん、つい」

「た、食べられたらどうしようかと・・・びっくりした・・・」

「食べていいの?」

「ア、アミッドさんに怒られる・・・」

「ここじゃなければいいんだ?」

「え、あ、うーん?」

「私、1人暮らししてるんだー」

「そ、そうなんですか・・・僕には無理です・・・怖いし」

 

 

そういうことじゃないんだけどなーと言いたげに恨めしげに徐々に顔を近づけ、額に唇を落としてきて、ベルは固まる。

 

「遊びにおいでよ。」

「へ?」

「お姉さんにお礼させて?」

「えっと?」

「じゃ、おやすみー」

「え、ちょっと!?」

「すやぁ・・・」

「え、えぇぇぇ・・・」

 

 

言うだけ言って、再びベルの右脇に収まるようにベッドに潜り込み寝息を立て始める。

そしてタイミングよく額に手を置いてアミッドが戻ってくる。

その顔はとても疲れていて、まるで階層主と戦った後のようだった。

 

「お、お疲れ・・・様です」

「え、えぇ・・・どうも・・・アーディさんは起きられましたか?」

「えっと、また寝ちゃいました」

「はぁ・・・まったく。私も少し疲れました」

「・・・左、空いてますよ?」

「そうですね、そうします」

「えっ」

「はい?」

 

『何を言っているんですか?』って返すと思って冗談を言ったのに、入ってくるの?いや、もう左に回って入ろうとしているし?そう言えばよく見れば目元に隈が。

 

「こ、断ると思ってたんですけど・・・」

「貴方なら、何もしないでしょう?」

「他派閥の人ですし」

「同じ派閥の女性になら手を出すのですか?」

「むしろ来てって言われてます・・・いや、出しませんけど」

「まあその・・・徹夜続きと言いますか・・・深夜テンションと言いますか・・・まぁ寝かせてください。鍵はかけているので」

 

もぞもぞ、もぞもぞ・・・と右にアーディ、左にアミッドという謎の事態に陥ったベルは混乱した。

えっ!?本当に寝るの!?アミッドさんの中で僕ってどういう評価なの!?というか、密着してて当るものが当ってるんですけど!?

 

 

「うぅぅ・・・」

「痛いですか?」

「い、いえ・・・その、アミッドさんが本当に入ってくると思わなかったから」

「貴方の世話をしていたのは私ですよ?今更ですよ。」

「具体的に世話って?」

「そうですね。筋肉に疲労が溜まっていたのでその都度、マッサージを。後は体を拭いたり・・・ああ、頭はさすがに。起きたらシャワーに案内しますので・・・ええと、そうですね。貴方が気になっているであろう私から見た貴方の評価はまぁ、放っておけない弟・・・というのでどうでしょうか?それに、貴方の髪の触り心地がとてもよくて・・・ああ、安眠できそう・・・おやすみなしゃい・・・」

 

 

アミッド・テアサナーレは、ベル・クラネルを抱き枕に静かに眠りについた。

それはもう、安らかに。ぐっすりと。

 

「顔が近い・・・息が当ってる・・・や、柔らかいのも・・・だ、大丈夫なのかな・・・」

 

 

アリーゼさんに見られたら怒られそう。そう思う少年だったが、少年も2人の寝息に誘われるように意識を落としたのだった。

 

 

アミッドからの『お手伝い』のお願いを承諾して以降、治療院が忙しすぎる時に呼び出されては魔法を行使する白兎の姿が治療院に加わることになり、なぜか【セラピー・ラビット】などと呼ばれるようになる。


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