旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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招聘状

「んっ・・・・ぁん・・・はぁっ・・・」

 

ぎゅむぎゅむっ

 

「そ・・・こぉ・・・っ・・・・」

 

ぎゅっぎゅっ

 

「いっ・・・!?ベ、ルゥ・・・その、少し、強い・・・わ・・・っ」

「こ、こう・・・ですか・・・?」

 

もみゅっ、もみゅっ

 

「そ、う・・・上手・・・上手・・・誰に・・・やっ、んっ、教えてもらった・・・の?」

 

さす、さすっ

 

「アミッドさん・・・。『お風呂上りにでも、体をちゃんと解しなさい』って」

「なる・・・ほど・・・んぁっ・・・はふぁ・・・もう、いいわ・・・」

 

さわさわ・・・。

 

 

「ふぅ・・・・ああベル、少しもたれさせて頂戴?」

「ど、どうぞ。神様でも、体がこったり・・・するんですか?」

「別にそういうわけではないのだけれど・・・こう、1日中動き続けたりすると、疲れるでしょう?そういうものよ。まぁ、私達完全な存在(デウスデア)からは老廃物(きたないもの)なんて出ないのだけれどね?」

「な、なる・・・ほど?」

「不変な私達が、一々こっていたりしたら、デメテルなんてすごいわよ?」

「・・・・デメテル牧場

「ベル、こっちむいて?」

「んぁ?」

「はい、不敬罪っ」

 

ピンッ!

 

「ふぎゅっ!?」

 

リビングにて風呂上りのマッサージ後、火照る体のまま少年にもたれかかる女神がボソッと呟いた少年の言葉の後に女神必殺の【正義の剣(デコピン)】が炸裂!!

痛くはないが、少年は座っている長椅子(カウチ)を横に倒れる。もたれている女神も一緒に少年に覆いかぶさるように倒れこむ。

 

「本人に言っては駄目よ?豊穣の女神を怒らせると怖いんだから」

「そ、そうなんですか・・・?」

「そうなの。だから、気をつけなさい?」

「―――はぁい」

 

 

女神は覆いかぶさったまま少年の頭を撫で回し、上体を起こして同じく起きた少年を抱きしめる。

 

なお、女神の嬌声を後から入浴を終えた残念メイド、サンジョウノ・春姫が髪を拭きながらリビングに来たところ聞いてしまい、顔を真っ赤にして目を回して倒れていた。

 

 

「―――ふぅ。それで、えっと『大賭博場(カジノ)』に行きたいんだったかしら?」

「はい。アスフィさんが言うには、アンナさんはそこにいるらしいんですけど・・・。」

「うーん・・・そうねぇ。いくつか、案を出してみましょうか」

「あん?」

「はいベル、林檎、あーん」

「あ、あーん」

 

【女神の提案】

 

・歓楽街方面から施設の裏を突く形で強襲。

・地下に穴を掘って進む。

・いっそ堂々と入っちゃう。

・【福音】しちゃう。

 

 

「えっと・・・最後の2つは駄目だと思います、というか、案ですらないような?」

「そうよねぇ・・・ふあぁ・・・」

「ね、眠たいんですか?」

「んむ・・・少し・・・ああ、でも、大丈夫よ。貴方の話はちゃんと聞くから」

 

そういうことなら・・・と瞼を擦る女神に、詳しい説明を求める少年。もしこれが、かの美神であったならばその眷族達は『トゥンク・・・』となっていたかもしれない。

 

「えと、裏を突く形で強襲・・・っていうのは?」

「それはまぁ、無理ね。昔、どこかの強盗団(ファミリア)が失敗して警備が厳重になったみたいだから」

「じゃあえっと、地下に穴を掘るっていうのは?」

「貴方の魔法を使ってナイフを振動―――要は地中を焼き切って進む。みたいなものね。人工迷宮(クノッソス)を滅茶苦茶にできる貴方なら可能でしょう?それでもまぁ、現実的とは言えないけれど」

「僕、モグラじゃないです・・・」

「ベルは兎さんよ?」

「むっ・・・」

「冗談よ冗談。あとの2つは・・・・これも冗談だから気にしないで」

 

 

ですよねー、とベルは言葉を返す。

マッサージで女神はお眠状態で碌に頭が回らないらしい。

豊かな果実を実らせる胸をゆっくりと上下させ、瞼まで何とか寝落ちするまいと閉じては開けてを繰り返す。

 

「ん・・・そうね・・・ヘルメスに用意させるわ・・・・」

「ヘルメス様?」

「ふぅわぁ・・・変装に・・・偽装・・・ええっと、要は『違う誰か』として入っちゃえばいいのよ・・・」

 

『軍資金』なら、【狩人の矢(ヴェロス・キニゴス)】の支払いでベルの貯金もそろそろ減ってきているし・・・丁度いいから、稼いじゃいなさい。と何か今、サラッと恐ろしいことを言われた気がしたけれど『まぁ別に僕個人のお金だしいっか』と流した。

 

「ベルごめんなさい・・・もう・・・無理ぃ・・・」

「あ、はい・・・えと、運びます・・・」

「ふふっ、お姫様抱っこがいいわ・・・」

「わ、わかりました」

 

 

ネグリジェ姿のお眠な女神を抱きかかえて、主神室へと向かう。

薄い生地から、その下界の住人からまた違うような肌の感触と少年に抱きかかえられることで形を変えるそのたわわな果実にドキドキしながらもそっとベッドに降ろして掛け布団をかける。

 

「昔は、僕が背負われたりする側だったのになぁ・・・これが大人になるってことかな・・・」

 

 

違う。

断じて違う。

それはお前が神の恩恵を持ってかつ、Lv.4へと至っている結果だと誰かが言ったような気がしたけれど、まぁ、うん、僕はもう大人なんだ。えっへん。と少年なりに結論付けた。

もう一度リビングに戻り、目を回して倒れている春姫を抱きかかえて春姫の部屋に運び込む。

 

「春姫さーん、風邪、ひきますよー?」

「ふぇぇ・・・・ベルしゃまがぁ・・・アストレア様とぉ・・・そ、そんなぁ・・・」

「な、何を言っているんですか・・・春姫さん?」

「リ、リビングでなんてぇ・・・・み、見られ、みられひゃぁ・・・」

「・・・・・」

 

ベルはこの3つ上のお姉さんは、『冒険者』じゃない方向で家事やら料理やらで腕を上げているのにどうしてこう残念度が上がっているのだろうか・・・と思ってしまった。

なので腹いせ代わりに、尻尾と耳をモフることにした。

 

眠れる美少女に対する、悪戯である。

 

モフモフ、モフモフモフ

 

「あふっ・・・ひぅっ・・・」

「柔らかい・・・そして、この触り心地・・・」

 

もふもふっ、しゅっしゅっ

 

「んぁっ・・・やっ・・・ベルさまぁ・・・そんなご無体なぁ・・・」

「どんな夢を見てるんだろ・・・ゴクリ。」

 

段々、眠れる美少女は艶かしい声を出し始めてモジモジとしはじめた辺りで『もう止めたほうがいいかな』なんて思っていると

 

 

「ベルゥ~・・・・」

 

 

と女神が抱き枕(しょうねん)がいないことに気付いたのか、不満なのか、そんな声が聞こえてイソイソと春姫の部屋を後にした。

 

 

「――――そう言えば、アリーゼさん達、昨日も今日もご飯だけ食べてすぐに出て行ってたけど忙しいのかな。」

 

 

いつも賑やかにしている姉達がほぼ出払っていることに、どこか寂しさを感じて『実は帰ってきてるんじゃないか』と姉達の部屋を1つずつチェック。けれどいたのは、非番のライラだけで

 

『おう兎、私に【寝起きドッキリ】を仕掛けにきやがったのか?』

 

なんて言われたので

 

『いや、先生はないです』

 

と言って扉を即閉じた。

先生は先生であって、なんかこう・・・違うのだ。

 

結果、他の部屋にも誰もおらず若干の寂しさを抱いて女神の眠るベッドに潜り込み抱きつくと抱き枕(しょうねん)が来た事に気がついたのか女神もまた嬉しそうな顔をして腕を回し、足を絡めてすやすやと寝息を立てた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

次の日の夕暮れのこと。

春姫と女神と一緒に、洗濯物を畳んでいると本拠の鈴が鳴った。

 

ジリリ・・・!

 

 

(ベル)が鳴っているわ」

「呼びました?」

「んー違うわ、貴方じゃないの。扉の方よ」

「わ、私が出ます!」

 

パタタタ・・・と小走りで玄関まで行くと、『アストレア様、ヘルメス様でございます』と声が聞こえヘルメスが中に入ってくる。

 

 

「あーなんだ、家族団欒中だったかな?」

「いいのよ、気にしないで。それでどうしたの?」

「君が朝早くに俺の派閥の本拠に来たものだからさ・・・いやぁ、まさか『招聘状(しょうへいじょう)』を用意して欲しいなんて言ってくるもんだから驚いたよ」

 

旅行帽を脱いだヘルメスが胸ポケットから1通の用紙を見せ付ける。

それは白地の封筒に豪華な金箔を施された、一通の手紙だった。

それはまるで、舞踏会の招待状のようにさえ思えるほどに豪華だった。

 

 

「アストレア様?朝起きたらいなくなってたのって・・・」

「ええ、ヘルメスのところに行って来たの。」

「いなくなってたから泣きそうになりました」

「そ、それはその・・・ごめんなさい」

 

女神アストレアは早朝にベッドから起き上がり、身支度を整えると【ヘルメス・ファミリア】に訪れていた。そして、ヘルメスに用意するように頼んだのが招聘状(しょうへいじょう)だった。

こころなしか、ヘルメスの顔は煤けて見えたのでベルは思わず聞いてしまった。

 

 

「ヘルメス様、どうしたんですかその顔」

「ん?いやぁ、アスフィに『気遣いの1つもできないのか』って言われたからさ~」

 

 

『シャンパン片手に可憐なアスフィちゃん~!ファミリアみんなで飲んで騒いで荒れ狂う~!ワン、ツー、いやほい♪飲んで飲~んで飲んで♪飲んで飲~んで飲んで♪飲んで飲~んで飲んで、飲んで♪』

 

ってやったら

 

『そういうことじゃなああああああああいッ!!』

 

とぶっ飛ばされたらしい。

 

 

「―――アストレア様、僕があれしたら」

「やめなさい」

「はい」

「あ、はははは、まぁ俺のことは気にしないでくれ。それで、アスフィが『有給を取らせてもらいます!』ってメレンに出て行っちゃったからさ、俺が直接調達してきたのさ」

 

 

『これで大賭博場(カジノ)に入れるだろう?』

 

とテーブルの上に招聘状(しょうへいじょう)を置いてベルのもとに滑らせた。

 

確かに、通行証を兼ねるこの書状があれば、侵入などせずとも正面から堂々と最大賭博場(グラン・カジノ)に入場する事ができる。

 

「何か、条件があるとか?」

「いや、ないよ」

「・・・嘘だぁ」

「あはは、俺、信用ないなぁ」

「まぁ仕方ないわよね」

「安心してくれベル君。これはただの『ダイダロス通り』の一件の侘びでもあるんだ、何も条件はないし企みもないよ」

 

その言葉を聞いて、女神の顔を見て確認するも『本当に何もないわ』と言うので素直に受け取ることにした。

 

「内容は小さな国の伯爵宛のものだ。伯爵本人が行く気がないみたいだったから譲ってもらったのさ。・・・・ただし」

 

「―――ただし?」

 

「その招聘状(しょうへいじょう)には『伯爵夫妻2名』と書いてあるから、1人だけだと怪しまれる可能性がある。」

 

「つ、つまり?」

 

「誰か誘っちゃいなよ、ベル君!!」

 

それを言った後、本当にそれだけのために来たらしく立ち上がり『健闘を祈っているよ』と旅行帽を被りなおして出て行った。

 

 

最大賭博場(グラン・カジノ)に入り込むための条件

 

・伯爵夫妻2名で行くこと。

 

 

「つまり・・・えっと」

「どこか男の子を誘うか、女の子を誘うかね。夫婦役をしてくれる」

「僕、もう女装は・・・・」

「してくれないの?」

「うっ・・・ちょ、ちょっとだけなら・・・」

 

 

顔を近づけて『もうしてくれないの?』と訴えてくる女神に少年は根負け。

けれど、今回は絶対しないと押し通した。

 

「ア、アストレア様じゃ・・・その、駄目なんですか?」

「私がベルの奥さん? ふふっ、そうねぇ・・・でも、神だとバレちゃうでしょうから・・・駄目ね」

 

『駄目ね』

 

その言葉に少年は雷に打たれたように項垂れた。

その落ち込みように女神もメイドも『そ、そんなに!?』と動揺。

 

「ロキに頼んで【剣姫】ちゃんを借りる?」

「目立ちますよ・・・・」

「そうねぇ・・・」

 

 

その日、道化の神の眷族たる金髪金眼の少女は草原で戯れていた兎が突如どこかに走り去っていってしまう夢にうなされた。

 

 

「じゃあ・・・酒場のシルちゃん」

「シルさんは、アリーゼさんが『あの子はベルのことパクっと食べちゃう』って言ってたから駄目ですね」

 

 

その日、白亜の巨塔に住まう銀髪の女神は寝起きのところを椅子に小指をぶつけて涙目で悶え苦しんだ。

 

「えっと、他には・・・ええっと、あ!そうだ、【戦場の聖女(デア・セイント)】ちゃんは!?」

「アミッドさんは忙しいし、そういうところ行かないと思います・・・」

 

その日、どこかの治療院で仮眠を取っていた聖女様は撫で回していた兎が老神に耳ごと掴みあげられ取り上げられる夢を見た。

 

「んー・・・・それならぁ・・・」

 

女神は唇に人差し指を当てながら悩んでいるとふと、招聘状(しょうへいじょう)を眺めている一匹の狐が視界に入った。

 

 

―――目立つといえば目立つけれど、派閥の団員として表立って活動していないのはベルと同じ。なら・・・

 

いけるんじゃね?と女神は思って、手をぽん!と叩いた。

 

どうしたんだろうか?と少年と少女は首を傾げて女神を見つめると女神は2人に告げた。

 

 

「春姫、あなたが行きなさい。」

「へ?私でございますか?」

「ドレスは用意してあげるわ」

「え、え、え?」

「2人はその招聘状(しょうへいじょう)に記されている夫妻のフリで入ってもらいます。」

「で、でも、春姫さん・・・・大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。【イシュタル・ファミリア】にいたときも特段目立つ位置にいたわけじゃないのだし」

「それはそうでございますが・・・」

「ベルについていくだけでいいの。あとはベルが上手くやるだろうし」

 

 

女神の口でつらつらと話が進んで行き、結果。

 

伯爵のアリュード・マクシミリアンをベルが。

伯爵夫人のシレーネ・マクシミリアンを春姫が。

 

という形で入り込む事に決定してしまう。

 

「大丈夫かな・・・」

 

と不安がる兎に対して

 

「わ、私がベル様の・・・ふ、夫人・・・!?は、はわわわ・・・」

 

と両手で頬を押さえて、やんやんとする狐。

 

 

「ベル、大丈夫よ。貴方ならできるわ。それともベルは春姫じゃ嫌なのかしら?」

「春姫ではダメなのでございますか?」

「そ、そういう訳じゃ・・・」

「ほら、ベルから誘ってあげなさい」

「うぅぅぅ」

 

そして女神と少女に追い詰められた少年は何を血迷ったのか混乱しながら少女の手を包むように取り

 

「ぼ、僕とふ、夫婦になりましょう!?」

 

などと言ってしまう。たちまち起こるのは女神と少女の混乱と動揺。

 

「べ、ベル!?ダメ、それはダメよ!?」

「えっ、えぇ!?」

「は、春姫は幸せものでございますぅぅぅ!?」

「は、春姫さん!?」

「だ、ダメったらダメぇ!?春姫、貴方もシッカリなさい!!」

 

大混乱の3人はやがて疲れ果て頭を冷やして状況を整理し、準備に取り掛かる。

 

―――まあ、あそこには輝夜とリオンがいるから最悪問題が起これば何とかしてくれるでしょう。

 

 

と2人の少年少女を応援する女神であった。




なんで春姫さんか?

特に理由は無いです
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