「ようこそ、
「はい、えと、お願いします」
リューと別れた後、ベルと春姫は赤と黒、色鮮やかに塗られたルーレットが鎮座する場所へと移動していた。ゲームテーブルの前には
「では、初心者のようですのでご説明をさせて頂きます。こちらのすり鉢状の
卓上のシートの
「このシートの上に、お金を置けばよろしいのでしょうか・・・?」
「はい。賭ける方法によって配当は異なります。赤か黒かの色に賭けたなら二倍、数字単体に賭ければ最高配当の三十六倍」
「さ、三十六倍・・・」
「当然、一目賭けの場合は当る確率が低いですが」
「奇数賭けや偶数賭け、数字縦一列。制限はなく複数賭けても構いません。」
「習うより慣れろって言うし・・・」
「は、初めてでございますし、いきなり大きいのは春姫・・・心臓に悪ぅございます・・・」
シートに
「綺麗な球でございます・・・・持って帰れないのでしょうか?」
「ふふっ、残念ながら差し上げることはできません」
ダンジョンで採掘された鉱石を使用しているのか、磨き抜かれた紅玉が不可思議な光を放ちながら高速回転する
「お見事です」
「勝ったのでしょうか?」
「ほら、春姫さん、
「こちらに返ってきた
「どんどん、行きましょう! お姉さん、次は数字の縦1列で!えっと・・・何枚にしますか?」
「ご、五枚で・・・」
「じゃあ、それで!」
再び
「わぁぁ・・・!!す、すごいです、貴方!」
「これ、いくらなんだろう・・・えっと、次お願いします!」
はしゃぐ春姫に同じく笑みを浮かべ再び賭けるベル。
「ま、また的中でございます・・・」
「べ、ベル様・・・?」
「次」
「こ、これが【幸運】・・・?お、お腹が痛いです・・・」
「はい、次」
――的中。
「アストレア様・・・やはり春姫には荷が重いです・・・ベル様がもう何も言ってくださいません・・・」
「あん?この白っちぃガキ・・・どこ・・か・・で・・・?」
「お、おいモルド・・・」
「これ、嘘でしょう・・・!?」
「お姉さん、次・・・あとモルドさん達、いつの間に?」
「へへっ、お前もついに大人の世界に来やがったか・・・!」
高額
「うぅ・・・あとでお姉様達に詰め寄られそうです・・・怖いです・・・」
―――的中。
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』
築き上げられた光輝く高額
モルド達の声を聞きつけ、神々を含め他の客からも注目を浴び始める。
それほどの大勝であった。
「えっと・・・次は・・・」
「許してくださいごめんなさい・・・!」
「えっ!?駄目なんですか!?」
「怖い・・・白いの怖い・・・」
「え、えぇぇ・・・」
「ベ、ベベベ、ベル様・・・も、もう行きましょう!?」
可愛らしい
「だ、駄目なんですか?」
「春姫の心臓が持ちません!」
「そ、そんなに・・・」
「ベル様、絶対、理解せずにされていましたね・・・!?」
「えへへ」
「『えへへ』ではございません!」
手に入れた高額
「ストレートフラッシュ」
基本、
「
十分な軍資金があるため、時には春姫にも
「ギルド長殿おおおおおおおおおおお!?」
あまりの豪快な――考えてるのかさえ怪しい賭けっぷりにベルと同卓につく哀れな客は、必要以上に
「ベ、ベル様、いったい誰にここまで教え込まれたのですか?」
「ライラ先生」
「あそこで、ギルド長が泡を吹いておられますが・・・」
「エルフの人たちが『いいぞもっとやれ!』とか言ってますね」
「【あれが迷宮街の白い悪魔か】とはどういう意味なのでございましょう?」
「さ、さぁ・・・?」
この時には春姫も
『先程から目立っているあの年若い御仁は、どなたですか?』
『フェルナスの伯爵様らしいよ!』
『まぁ、フェルナスと言ったら小国の・・・』
『確か、あの国は一度財政難に見舞われたはずでは・・・』
『領地の森から
『なんと、それは羨ましい』
『後はもうなんか色々事業も成功してウハウハらしいよ!』
『見てください、またお勝ちになられた!』
『瞼を閉じて、適当にやっているようにしか見えないのに・・・!なんと言う運の強さだ!』
『私、あの国に、あんな可愛らしい御方がいらっしゃったなんて知りませんでした!』
『なんでも早くに前頭首を亡くされたらしい!』
『まぁお若いのに・・・』
『母親は生まれつきの病を患い、あの御仁は病こそ患ってはいないそうですが目をやられてしまったのだとか』
『まぁ・・・』
『それに隣にいる御婦人も可憐で美しい・・・!』
『何でもあちらの奥様はカエルのような怪物に襲われていたところを御仁に救われたのだとか!』
『それはすごい!』
人込みに紛れて神々が好き放題に発信する偽の情報。まことしやかな嘘にあっという間に尾ひれが付き、誇張された噂が
「ベル様、その、私も遊んでよかったのでしょうか?」
「アストレア様が『春姫は殆ど遊びに行くこともないから、楽しませてあげて』って言ってたので。大丈夫ですよ?」
「そ、そうでございますか・・・・」
「それより・・・誰がこんな噂を?」
「随分と・・・お楽しみのようでございますねえ」
「―――ひぅっ!?」
「っ!?」
声の主はその場に相応しい着物を着用した、黒髪の女性だった。
思わず逃げようとするベルの首根っこをひっつかんでホールの端、ちょうど死角になって人目に付かない場所に連れて行く。
「―――怒ってないから、逃げようとするな」
「ほんと?」
「お前がアストレア様の了解もナシにこんな時間に夜遊びなどするはずがないだろう。だから適当に噂を流すようにそこらの
ベルと春姫を目を見開いて
『おお、これが【アストレア・ファミリア】副団長!!言わなくても察してくれる!すげぇや!!』みたいな気持ちになって尊敬の眼差しを向けてしまう。
「その目をやめろ気色悪い。」
「ど、どうしてわかったの?」
「やたらと目立っていたから目を向ければ春姫がいたからな。ベル、お前は・・・ぶふっ、何で御座いましょうそのお姿は。『七五三』で御座いますか?」
「うぎぃ・・・『シチゴサン』って何ぃ・・・」
「可愛らしい伯爵様で御座いますねぇ」
輝夜はベルに悪戯をけしかける時のように悪戯な笑みを浮かべ、ベルを壁に張り付かせ体を密着させる。
「か、輝夜さん・・・?だ、誰か、来ちゃうよ?」
「ここは丁度死角になっておりますので・・・そうそうすぐには見つかりません。レロッ」
「ひぅっ!?」
「やはり、感じやすいようですねえ」
輝夜はベルの首筋に吸血鬼のように唇をくっつけ、舌を這わせて舐め上げる。
その行為にベルはすぐに顔を赤くし、輝夜から離れようとするもレベル差によって意味のない抵抗となってしまう。
「事情を・・・チゥッ・・・聞かせろ」
ぐりぐり。
「ひ、膝ぁ・・・グリグリ、やめぇ・・・!?」
「春姫、見張ってろ」
「は、はひ!?」
「ほら、早くしろベル」
「あ、あの、ただの遊びじゃなくて」
「それは察した。私はリオンの阿呆とは違うぞ?なーにが『ベルが春姫と婚姻したようです・・・私はもう駄目です・・・お仕舞いです・・・手塩にかけて育てた子供が巣立つ親の気持ちとはこういうものなのでしょうか輝夜』だ。これだから頭の固い妖精様は困る」
春姫に見張り役をさせ、人気が少ない死角なのをいいことにベルの股間に膝を押し当て首を舐め、胸を密着させてベルを羞恥に染め上げる輝夜に息が荒く悶々としていくベル。春姫が小声で『あ、あれが伝説の【壁ドゥン】でございますか・・・』とか言っているが、ベルはそれどころじゃなかった。どうしてかリューが何かよくわからいことを言っていたらしいと聞かされたが、輝夜にせかされて事情を説明した。
「なるほど。つまりは『賭け』に嵌った駄目男が娘を取られて、その娘を取り返しに来た・・・と?」
「せ、正確には、ふぁっ・・・アンナさんのお母さんのため・・・」
「どうやって入り込んだ?」
「アストレア様が、ヘルメス様に招聘状を用意させたみたいで・・・でも、条件が『伯爵夫妻』だから2人でって。」
「それで春姫を選んだのか?」
「ア、アストレア様が・・・春姫さんがあんまりオラリオで遊んだりしてないからって息抜きもかねて行っておいでって」
「それで、リオンには何と言ったんだ?」
「えっと・・・・『僕たち夫婦です』って」
「お前は一々誤解を生む発言をしないと気がすまないのか!?」
「ひゃぁうっ!?」
輝夜はベルの耳に甘噛みを繰り出した!
▷効果は抜群だ!
ベルは輝夜を押しのけようと両肩に手を置いて力を入れた!
▷効果はイマイチのようだ・・・
輝夜はベルの股間にさらに膝でグリグリ、胸の谷間を見せ付けた!
▷効果は抜群だ!!
ベルは倒れそうになって輝夜に抱き寄せられた。
▷力尽きてしまったようだ・・・
「ご、ごめん・・・なさ・・・いぃ・・・・」
「はぁ・・・まったく。お前はもう少し発言に気をつけろ。でないといらん勘違いをされて最悪殺されるぞ」
「そ、そこまで・・・!?」
「あと、何故相談しなかった?」
「だ、だって・・・皆すぐ出て行っちゃったから・・・寝る前に部屋に行っても、やっぱり誰もいないし・・・」
「それは・・・そうだが・・・いや、そうか・・・それは私達が悪い。すまない」
「ふぅふぅ・・・」
「だ、大丈夫か?」
「うぅぅ・・・まだ仕事中なのにぃ・・・」
「達したのか?」
「してません!!途中で止められた!」
「帰ったら相手してやるから我慢しろ」
「―――今日、帰ってくる?」
「正確には明日になるだろうな。」
見張り中ながら耳を赤くする春姫を他所に2人で話し合う2人が、そこにはいた。
「正直に言えばお前の話を聞いて、私達派閥の人間として仕事をしていることに少なからず嬉しさを感じてはいる。だからやるだけやってみろ」
「怒らないの?『こんなところに来るな!』って」
「私達が留守にしていたのにも原因がある。リオンには私の方から説明をしておいてやるから・・・勘違いさせたことは謝っておけよ?」
「う、うん!」
「恐らく、人目の付くところに出ればすぐにでも声がかかるはずだ。あとはお前たち次第だ。暴れるなり、好きにしろ。半人前のお前の荒くらいは埋めてやる」
そら、行って来い。とベルの背中を押す輝夜にベルは一層嬉しそうにして抱きついた。
「ありがとう、輝夜お姉ちゃん大好きー!!」
「っ!?」
言うだけ言って春姫と腕を組んでホールの方へと2人は姿を消していった。
「それにしても一体いくら稼いだんだ? 数千万?あるいは億か?まああいつの貯金がもう無くなるころだから問題はないが・・・」
今後のことも考えて
その時、迷宮内で異端児達と一緒にいた当人は悪寒を感じて体を震わせていた。
■ ■ ■
「だ、大丈夫でございますかベル様?」
「うぅぅぅ・・・あ、やぁ、い、今、背中摩らないでください!?」
「ふぇっ!?そ、そんなにですか!?」
輝夜と別れた後、真っ赤な顔と変なスイッチが入りかけている少年に少女が背中を摩ろうとするも拒否され近くを歩いていた給仕に水を貰い少年に飲ませて落ち着かせていた。
「お、女の人・・・しゅごい・・・んくっんくっ・・・ぷはぁ」
「だ、大丈夫でございますか?」
「ん、ん、だ、だ、大丈夫れす・・・」
春姫の瞳に映る少年は、瞳を潤ませていてどこか厭らしさを感じさせており春姫の心の中で『
「お客様」
そこで、輝夜が言っていた通り2人のことを見つけたのか仕立てのいい黒服に身を包んだ、年配のヒューマンが2人のもとに現れた。
「
―――来た。
ベルを心配そうに見つめる春姫の隣で、ベルは心の中で唱えた。
ついにこの時が来たと。
「私のような青二才に、
「どうぞ、こちらに」
店の支配人なのか、初老のヒューマンは老紳士のようにベル達を案内していく。
向かった先にいたのは、
「おお、貴方がマクシミリアン殿ですか!」
こちらに気付いた相手は、両腕を広げて自らも近づいてくる。
ベルとほぼ同じくらいか少し高いくらいの目線、典型的なドワーフの体型。蓄えられた髭もまさにといった具合だ。茶色の髪は前髪から全て後方へ撫で付けている。堅気ではない、用心棒の一人にも見える。
「私はテリー・セルバンティス、この
「こちらこそ、このような場所に招待して頂いて感謝しています。僕・・・こほん、私はアリュード・マクシミリアン。こちらは妻のシレーネです」
「夫ともども楽しませて頂いております、
ベルが偽名の紹介を済ませると、春姫が令嬢のように礼を取る。
歓迎してくるテリーは愛想を欠かさない人物だった。
一見強面だが、笑みを絶やさず話す様は相手の警戒心を和らげるのに役立つことだろう。姉達から聞いた話では、『仮面』を被る者達が数多くいるらしくだからこそ対応を揺らがせてはいけない、警戒心を解いてはいけないということらしくベル自身も仮面を被り、貴族の演技を続ける。
「早くから挨拶したかったのですが、今宵もなにぶん
ここまで案内した支配人のヒューマンが退席していく中、テリーは右手を差し出した。
それを感じ取ったベルは手を出さず、代わりに春姫が左手を差し出して握手する。
「おや?」
「申し訳ございません。主人はあまり目がよくないものでして・・・」
「これはこれは、とんだ無礼を・・・」
「いえ、お気になさらず。目はよくありませんが、その代わり耳がいいですので支障はありませんよ」
握手を解き、にこやかに春姫を見たテリーの視線に、一瞬の好色が滲み出たことにリューの言っていたことが本当だと確信した。
「マクシミリアン殿、お聞きしたところ本日は相当
テリーはそれまでの愛想のいい笑顔とは打って変わって、商人のような笑みを浮かべる。
彼が一瞥するのは他でもない、ベルが目標として定めたホールの奥の扉だ。
テリーは、より高額の
最高級の奉仕やあの部屋でしかできない
「貴方、私もぜひ行ってみたいです」
「妻もこう言っているので、よろしければ」
「がはははっ、決まりですな!」
笑い声を上げるテリーに引率され、ベル達は移動を開始。
込み合う客を避けながら、ホールの奥へと向かう。
そして屈強な門番が立つ大扉にたどり着く。
「どうぞ、こちらへ」
きつく閉ざされていた両開きの扉が開かれる。
テリーの後に続いたベルと春姫は、敵の懐へとうとう足を踏み入れるのだった。
カジノ云々はよくわかってないので実際どれくらい稼いだんだろうか・・・・正史のベル君。