「調子に乗るなよ、若造・・・」
眦を裂いたテリーの怒りの形相に、
「何を勘違いしている? 何様のつもりだ? たかが
「・・・・」
「この俺を敵に回して生きていけるとでも思っているのか!? ギルドが守ってくれるなんて考えているのなら大間違いだ!!
「なら、もう1度
テリーの恫喝を、ベルは静かな一声で遮った。
「そうですね、ああ、この手があった。【貴方の自慢の愛人なら、ひとまず賭金に代えてチャンスをくれてやる】でしたっけ?」
惚けた様に顎に指を当て、首を傾げて
「まずは・・・・アンナさんの次ですから、この
「この
ベルの口から、悪魔のような提案を次々と言われワナワナと震えるテリーは最後には拳をテーブルに叩き付けた。
「ふっ、ふざけるなっ!! 馬鹿にするなよクソガキが!!これ以上、この俺、店さえ乗っ取ろうとする輩を生きて帰すわけにはいかん!!」
テリーが片手を上げた途端、それまでたたずんでいた用心棒達が動いた。
ざわっ、とどよめきが生まれ、黒服の男達がベルと春姫を包囲する。慌てて獣人の老紳士や
「舐めやがって・・・だが、だが一応、殺す前に聞いておいてやろう。貴様、何者だ?」
怒気を必死に抑え、テリーは問うた。
「―――【この顔に覚えはないか?】」
腰ほどまでに下ろされた白い髪。
けれど部屋の暗さのせいでその白さは隠れ、閉じられた瞼と佇まいに目の前にいる
「ば、馬鹿な・・・い、生きているはずが・・・!?」
大量の汗をぶわっと流し始める。
己を射抜くかのような佇まい、雰囲気に、テリーは次の瞬間、大音声を放っていた。
「――せ、【静寂】のアルフィアぁあぁっ!?」
それは過去、都市最強の1つとして数えられていた派閥の冒険者の名前。
そして、かつて
「い、いや、いるはずがない!! なにより、背格好すら違う!何者だ貴様はぁ!?」
「【はぁ――また騒々しくなった】。私が・・・僕が何者かなど、そんなに重要なんですか?」
少しずつ開かれる瞼。
薄暗い
「は、白髪に・・・
「僕のことは知っていても、詳しくは知らないんでしょう? だって、お姉さん達と一緒に活動することなんてほとんどないんだから」
アルフィアに似た顔に驚いていたテリーが、用心棒が今度は開かれた瞼の色と共に変わった雰囲気によって更に驚愕を顔に染める。
「ト・・・【
「うんうん、やっぱりその二つ名がいい。【
ベルは杖で肩をトントンと叩いて、魔法の詠唱を開始した。
「【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】――」
「や、やれぇ、お前等ぁ!?」
突きつけられた断罪の刃――眼光を受け、テリーはとうとう叫び散らかした。
取り乱しながら用心棒達にベルを始末するように命令する。
「【我が凍り付いた心はとうに温もりを得た。ならば同胞達に温もりを分け与えよう】」
―――用心棒、つまりは恩恵持ち・・・なら、加減の必要はないよね。
四方から掴みかかってくる屈強な男達。
ベルはそれを――一蹴した。
「ぎゃあ!?」
「ぐぇっ!?」
杖を振り回し、的確に急所を打撃し蹴りで自分よりも体格の大きい巨体を、壁に、テーブルに激突させる。床に叩きつけられ足もとまで転がってきた用心棒に、
「――【
たちまち悲鳴が拡散する
―――ベル様がまた変なことを教えられております・・・
「えっと・・・【アストレア様に代わって、お仕置きよ】!」
「ぷふっ」
何故女口調なのかと疑問にも思ったが、13の男の子が良い顔している『空気を無視した言動』に耐え切れず春姫は思わず笑い声を吹き出し必死に抑えようと取り繕う。
「え、春姫さん、僕、間違ってましたか?」
「は、はひっ、ふふっ、止めておいたほうがよいかと。その、恥ずかしい過去になりますので」
「だ、黙っててくれますか?」
「ふふっ、考えておきます」
緊張感も何もないように余裕を織り交ぜた会話をする2人に
「ファウスト!! ロロ!! 奴を殺せぇ!?」
雇い主の命を受け、背後に控えていた2名の用心棒が動く。
中肉中背のたくましいヒューマン、痩身の
「春姫さん、大丈夫だとは思いますけどアンナさんと一緒に下がっていてください。魔法は発動済みです」
「はい。ベル様、ご武運を」
自分より前に出たら巻き込みかねないと暗に告げ、ベルは走り出す。
春姫とアンナが離れる中、襲い掛かってくる手練達と戦闘に臨んだ。
瞬く間に間合いが縮まる最中、ヒューマンと
「!」
「ファウストとロロはあの『
が、黒光する拳具がそれを弾き、絶妙の時機で横からナイフが振るわれる。
それを杖を握っていない左手で起用に掴み取り、ナイフを奪い取る。
「なっ!? 俺のナイフが!?」
テリーは汗を拭いながら獰猛な笑みを浮かべていたのが凍りつき、
「確かに、名くらいは知ってますよ。実力は知らないですけど・・・少なくとも、貴方達ほど間抜けじゃない」
『
賞金稼ぎと暗殺者の通り名で、ファミリアの団長ことアリーゼによって強引に『豊穣の女主人』に入れられた経歴を持つ2人。
「なっ、なっ・・・給仕ども、アンナとその女を捕らえろ!!」
ベルの動きを止めさせるため人質にせんとする命令に
周囲では
「あ、あの・・・!?」
「・・・・」
じりじりと近づいてくる輪にアンナが恐怖する一方で、春姫は黙ってベルを見つめた。
自分を置いて逃げてと今にも言いそうな娘の視線を無視し、春姫はただ黙って立っていた。
やがて、前触れなく鐘の音が鳴り響いた。
「―――【
ゴーン、という音と共に春姫達を取り囲んでいた給仕達が吹き飛んだ。
「!」
響き渡る鐘の音にびくり、と肩をゆらし周囲の視線はその音の発生源であるベルへと向けられた。
ベルは戦闘を行いながら、微笑を浮かべて語りかけた。
「今、貴方達は僕の魔法の加護で守られています。傷を負うこともありません。そこにある僕が稼いだチップを持って今のうちに逃げても構いません。貴方達は自由です。だから―――最後に、やり返しても、誰も文句は言いません」
導火線に火をつけられたかのように、瞬く間に美姫達は溜め込んでいた激しい怒りと共に爆発した。
美姫達が一斉に叫び出す。
「うあぁ――――――っっ!!」
「もうこんなところに1秒もいたくない!!」
「ウチに帰すニャァ―――!!」
「あんなドワーフより、ショタがいいに決まってるでしょうがぁ―――!!」
「年下白髪赤眼キタコレ――――っ!!」
美しい人形であった筈の女性達が怒りの咆哮を上げ、がむしゃらに暴れ出す。
青ざめるのは給仕達である。既にベルにのされてしまった他の用心棒と異なり彼等は腕っ節に自信があるわけではない。テリーが集めた『
ドレス姿にもかかわらず飛び掛るヒューマン、光輝く
「なっ、なっ、なぁっ・・・・!?」
視界に広がる大暴動に、テリーは顔面全体を痙攣させた。
「・・・あ、あの子ってまさか」
「?」
眼前の光景に思わず仰け反りそうになるのを堪え、アンナが亜麻色の髪を揺らす。
見覚えでもあるのかおずおずと口を開く彼女に、春姫は小首を傾げた。
「
「・・・・」
「ほ、本当に【アストレア・ファミリア】が来てくれた・・・?」
アンナは目を合わせていた春姫からベルに視線を移す。
己の胸に片手を置く少女とともに、春姫も毅然と戦う少年を眺めた。
「私はただ一緒に同行するように言われただけでございます。・・・貴女様の話を聞いたベル様が、『家族が生きているなら一緒にいるべきだ』と引き受けてくださったのでございます」
息を止めて、胸をぎゅっと握るアンナ。
彼女の隣にたたずむ春姫は、そこから独白のように言葉を続ける。
「ベル様は英雄になろうと思えばなれるのに、なりたがらない。」
はっきりと告げながら緑色の瞳を細める。
「寂しそうにしながらも、結局は助けて英雄のようなことをしてしまう・・・そんな優しいベル様が、私は好きなのです」
そして、相好を崩した。
春姫の唇から紡がれた囁きが、加速するベル達の戦いの中に溶けて消える。
「―――も、もうっ嫌だあああぁ!?」
一方、もはや戦場と化した
恐慌を起こした
「貴方達はそもそも、偽者でしかない」
用心棒は怪訝な表情を浮かべ、その直後、その表情は驚愕へと移り変わった。
「『
左手に持ったナイフで顎を打ち上げ、杖の先端で鳩尾を突いた。
「僕はたまにしかいかないですけど、とある酒場で、今日も日銭を稼ぐために働いていますよ。」
地に伏す用心棒を見下ろしながら、あらん限りに目を見開く男に、ベルは告げた。
「名を偽る相手は選んだほうがいい。あとで本物の所に運んでおいてあげます」
明確な死刑宣告のあと、ベルは用心棒の意識を刈り取った。
「す、すごい・・・・」
一連の戦闘の光景に、アンナは恐れながらも感嘆した。
まるで御伽噺の英雄のように凄まじい力を示す、その少年の横顔に目を奪われていた――その時。
「――来い!!」
「きゃあっ!?」
テリーの太い手が彼女の細腕を掴んだ。
ベル達の戦闘の中で用心棒の敗北が濃厚だと悟った瞬間、息を殺しながらアンナのもとに忍び寄っていたのだ。
驚く春姫が振り返った先で、2人は
「ベル様、すいません!」
「いや、春姫さんは戦闘ができないんですから気にしないでください! 何よりこんなに人がいたら魔法で守っていても巻き込みかねない! 春姫さんは【ガネーシャ・ファミリア】を呼ぶなり輝夜さんを呼ぶなり・・・お願いします、僕は追いかけますから!」
「は、はい!」
■ ■ ■
激しい足音を立てて、豪奢な絨毯が敷かれた廊下をひた走る。
ドワーフのテリーは、全身から大粒の汗を流しながら
「くそ、くそぉ・・・! あいつら名を偽っていやがっただと!? 何が『
化けの皮が剥がされた男はもはや
「う、ううっ・・・!」
男の怒りに呼応して強く握りしめられる手に、アンナの唇から呻吟の声が漏れる。
今も必死に抵抗しているものの、華奢な生娘の力などドワーフの怪力の前では赤子も同然であった。何度も床から足が浮きながら、人質の娘は強引に連れ去られていく。
その時、連続する靴音と猛烈な気配が、テリー達の背後より急速に迫っていた。
「くっ!? ば、化物めぇ!?」
追ってきたベルにテリーは焦りと恐怖を表に出し、逃れようと躍起になった。
悪趣味な銅像や絵画が飾られた豪華絢爛な長廊下、美姫達に与えられた部屋の前を次々と通り過ぎ、
「今からやってくるヒューマンを足止めしろぉ!!」
と一蹴。
うろたえる従業員や残りの用心棒達に碌な説明もせず、テリーは走り続ける。
「【ハロー、テリー。こっちへ来て一緒に遊ぼうよ。遊ぼうよ、テリー。永遠に・・・ずっと・・・ずっと】」
彼が後にした通路からはたちまち鐘の音と思しき騒ぎ、そして悲鳴が発生し、テリーの『灰色髪の女』が背後から迫り来る光景を幻視するほど、恐怖を助長させた。
「こっちだ!」
苦しむアンナを振り回しながら、
「早く、早くしろぉ・・・!」
全ての錠前を開錠すると、船の操舵輪にも似たハンドルを回し、顔を真っ赤にして極厚の金属扉を引き剥がし、唖然とするアンナを金庫内へ押し飛ばし、身を滑り込ませる。
「はぁ、はぁ・・・!ここまで来れば・・・!」
ガゴンッ、と音を立てて閉鎖される円形扉。
次いで施錠音が重なる中、床に倒れているアンナは辺りを見回した。
四方に存在するのは磨きぬかれたヴァリス金貨。億はくだらない数の貨幣が見上げられるほど金山をいくつも作り上げ、小さな家ならすっぽり収まるであろう金庫内部を埋め尽くしている。
まるで黄金郷と呼ぶに相応しい光景に、アンナは思わず息を呑んだ。
「この金庫を自由に開けられるのはオレだけだ。そして、この金庫はダンジョンの
肩で息をしているテリーの顔にようやく笑みが浮かぶ。
その言葉通り、この金庫はダンジョンで採掘された
テリーの狙いは、この地下金庫に逃げ込み籠城することだったのだ。
「ここに籠りさえすれば、 いくら【静寂】のアルフィアに似ていても、この中には手出しできない。【静寂】のアルフィアの血縁か知らんが、もし仮にそうならお尋ね者間違いなしだ。何せ、人殺しの子ということなのだからなぁ!」
「・・・!」
「あの小僧がいなくなるまでの間・・・アンナ、お前には憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ」
テリーの瞳が吊りあがり、たちまち血走る。
「ひっ・・・!?」
「【アストレア・ファミリア】めぇ・・・6年前から動きが活発になったかと思えば最近は落ち着いてきたというのに・・・!」
服は汗にまみれ、撫で付けている髪までくしゃくしゃとなった形相は悪漢そのものだった。
テリーは嗜虐心を剥き出しにし、溜まりに溜まった鬱憤を目の前の娘にぶつけようとする。
「コケにされた分まで可愛がってやる・・・あのガキにお前の泣き叫ぶ声を聞かせてやれないのが残念だがなぁ」
「こ、来ないで・・・!?」
恐怖に揺れる亜麻色の髪。
身の危険を感じ、アンナは床に手をついたまま後ずさる。
震え上がる少女に、ドワーフの影がのしかかろうとしていた。
その時、再び
ゴォン、ゴォン――と鐘の音が鳴り響いた。
「これは・・・さっきの・・『魔力』?」
アンナの体に手をかけようとしていたテリーは、己の遥か後方より発生する『魔力』の流れに気付いた。外と一切の情報を遮断する金庫扉を隔てていても、その渦巻く力の奔流は感じ取れるほどであった。
顔を振り上げたテリーは、すぐにあざ笑う。
「ふ、ふははははっ! 無駄だぞ、【
何度も鳴り響く鐘がやがて、金庫そのものを叩き付ける様に響き始めるもテリーは金貨の山に囲まれながら、ドワーフの野太い哄笑が響き渡っていく。
鐘の音はやがて止み、今度はギャァン!!と金属を切るような音が響き始める。
「ははははは、は・・・?」
金属内に響き渡っていた哄笑が、途切れる。
その金属を傷つけるような音に。
「お、おい・・・?な、なにを・・・」
一般人であるアンナはその音に耳を塞いで目を瞑って蹲り始める。
金属を引っ搔く音が、次第に変化していく。
嘲笑を浮かべていたテリーの顔が、引きつった。
そして、
ジュゥゥゥ・・・!と
金属扉の開閉部に、白く変色した刃が煙を上げながら通過した。
「・・・・はぁ!?」
そのまま刃は更に金庫内へと侵入し、煙を上げながら真っ直ぐ右から左へと走っていく。
金属がまるで、スイーツのように柔らかくなったかのように焼ききられていく光景に、テリーはただただ目を見開き固まる。
そしていくらかの隙間ができ、開錠の必要性がなくなると刃が耐え切れなかったのか溶けてなくなり・・・・
ダァンッ!!
と今度は手が侵入。
隙間から
「【見つけたぞー、テリー!】・・・で良いんだっけ。命さんから聞いた怪談話、怖かったなぁ」
「―――ひぃいいいいいいいいいいいいい!?」
右手が侵入し、次に左手が侵入。
無理やり引き裂くように金属扉は開閉されていき
ギィィィ・・・・!
と未だ煙を吐き出しながら完全に金属扉が開かれた。
処女雪のような白髪は揺れ、
「この程度の
ベルの魔法によって振動し鉄色から赤色、そして白色へと変色して金属扉を焼き斬った仕込み杖の刃は完全に溶け落ちていて今や持ち手しか残っていなかった。
手をパンパンッと叩いてテリーを見据える。
「そ、そんな馬鹿な・・・!?」
【ロキ・ファミリア】ならば破壊することのできる者はいるだろうが、こうも簡単に・・・とはいかないはずだ、と。
唖然として固まるテリーは、脇に視線を飛ばす。
そこにいるのは、先程の金属を引っ搔くような音が不快だったのか未だ耳を塞いで蹲る1人の娘。
直後テリーは床を蹴りつけ、気配に気付いて驚愕するアンナへ手を伸ばす。
だが、人質にせんとするドワーフの手より早く、ヒューマンの手が少女の体をさらっていった。
「っ・・・!?」
「歯を食い縛るだけの時間はあげましょう」
蒼白になるテリーを見下ろしながら、ベルは淡々と告げる。
細い腰に片腕を回され抱き寄せられたアンナが赤面する中、ヒューマンの少年は少女を背後に庇い、火傷を防ぐ嵌めていた
「くそっ・・・くそぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」
眦を裂いて飛び掛ってくるテリーに、ベルは白手の拳を握り締める。
「―――容赦はしない。」
そして、視認を許さない兎の一撃が、テリーの頬面に叩き込まれた。
「ぐべえっ!?」
ベルの拳に殴り飛ばされたドワーフは凄まじい勢いで後方に飛び、崩れた金貨の山の中に激突した。
再び舞い散る多くの金貨。半身が金の中に埋もれた格好で、ドワーフの悪漢はぴくぴくと痙攣を繰り返す。
「ええっと・・・【聖火を灯し天秤よ、彼の者に救いを与えよ】――【
ベルが人差し指をアンナの胸の中央に向けて魔法を発動。
ぽうっ・・・と暖かな聖火がアンナの胸に灯り始める。
「え、えっ!?」
「大丈夫ですよ。怪我してそうだったので・・・これで治ると思います」
「――な、なんだか温かい・・・」
「さ、行きましょう」
「え・・・でも」
「あとは【ガネーシャ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の副団長がしてくれます。僕の仕事は貴方を取り返すことなので」
テリーに背を向けるベルはうろたえるアンナを促す。
亜麻色の髪の美少女は歩み出すベルについていくが、おもむろに立止まった。
「あの・・・」
「?」
「・・・ありがとうございます」
振り向くベルに、純白のドレスを揺らす少女は胸に両手を置く。
「見ず知らずの私のために、こんなところまで・・・本当に、ありがとうございます」
「・・・歩けますか? 無理そうならおぶりますけど」
「えっ? あ・・えと、はい・・・お願いします・・・」
「? どうぞ」
「お、お邪魔します・・・そ、その、痛みが引いたらちゃんと歩くので・・・」
少年はただ足が痛むんだろうなという気遣いで、『おんぶくらいならセーフだろう』という結論にいたり少女を背負う。どうしてか少女の顔は心なしか赤かったがきっと疲れているんだろう。魔法の効果でもしかしたら安心して眠気がでてるのかもしれない、歩いているときに倒れられても困るし仕方ないよね、と考えながら。
―――『お姫様抱っこ』はアウトだろうけど、これはセーフだよね?アストレア様?
春姫は先に輝夜と合流していることだろうし、さっさと撤収しようと足を進めようとすると
「―――【
しゃがれた大声が放たれた。
テリーである。ベル達が振り返った先で意識を取り戻したドワーフは、今も震える体を起こし、喚き散らした。
「ただで身を堕とすものか! お前もともに破滅に導いてやるぞ!」
「・・・?」
「捕まるまでの間、手下どもを使って噂をばらまいてやる! 【静寂】のアルフィアの子がこの都市にいると! は、は、はははははっ!! あの女に家族を殺され恨むを持つ者達がこぞってお前を、人殺しの子を探すぞ、安寧はないと思え!」
頬を砕かれ、口から溢れ出る血で服を汚しながら、テリーは憎悪に燃えていた。
膝を突いたまま、ぎらついた瞳でベルも道連れにしてやると復讐を誓う。
ベルは溜息をついてアンナを下ろし、テリーのもとに歩み寄る。
「な、なんだっ、何をするつもりだ!?」
ベルは再び瞼を閉じて、腰を折り、思わず怯むテリーの前で顔を寄せ、囁く。
「【――雑音は終わりか?ならば潰えろ】 ―――そして忘れるな、僕がその人の血縁がどういう意味かということを」
「な、なにを・・・!?」
「 ヘ・ラ 」
「・・・・・」
間もなく、テリーは不自然に硬直し、まるで喘ぐようにぱくぱくと口の開閉を繰り返した。
呆然とした顔で見上げてくるドワーフの男に向かって、ベルは再び微笑を浮かべる。
今度こそ力が抜け落ちたかのように、テリーの腰は床に落ちた。
「行きましょう、アンナさん」
「・・・えと、今のは?」
「そもそも、僕がその人物の血縁だということを知っている人達なんてこの都市には沢山いますよ。今更過ぎるんです」
「な、なるほど・・・?」
「それに、僕が今ここにいられるのは、その問題が解消されているという証ですよ」
「・・・・」
アンナの手を引いてベルは来た道を通り、堂々と
「あ、あの、先程の奥様は?」
「―――ああ、
「―――賭けごとはうんざりです!」
「あははっ、でしょうね」
「この馬車に乗ってください」
「えっ・・・で、でもっ」
「
獣人の御者が待つ馬車の前で、ベルはアンナに一人乗るように告げた。
このまま誰にも見つかることなく家族のもとに帰り、あとはドレスを脱いでしまえば、彼女が
馬車の扉が開けられる中、瞳を揺らしていた見目麗しい少女は、胸に両手を添えた。
意を決したように、ベルへ身を乗り出す。
「あの! 貴方には愛する奥様がいらっしゃるのは重々わかっています! これから言うことが貴方を困らせることも! でもっ、それでも私はっ、身を挺して守ってくれた貴方のことが・・・!」
ベルは、瞬きを繰り返した。
なんだこれは、と。こんな台詞は知らないぞ?と。
アンナはそんなことなど気付かず『恋する乙女』のようにベルへ熱い眼差しをそそいでいた。
彼女もまた、『年下だっていいじゃない!』と謎の嗜好へと至っていた!
「私は、貴方に恋を――」
「駄目です」
「駄目だ」
「?」
「えっ? あ、あれ!?」
言葉の意味を理解するのに追いついていない少年
いつの間にか現れていた黒髪の極東の姫と
同じくいつの間にか現れて少年の肩に両手を優しく添え頭を撫でる金髪妖精が、唖然とするアンナにのたまった。
「「その子は私達の男だ」」
一瞬の硬直。
時を止めていたアンナは、次には、大声を出して叫んでいた。
同じく、スキルがあるのに気付けなかったことにベルは大声を出して叫んでいた。
「え、ええええええええええええええぇぇ~~~~!?」
「へ、ひっにゃぁああああああああああぁぁ~~~!?」
情けない響きの悲鳴が路地裏に響き渡る。
身の危険も顧みず自分を助けに来た騎士が、実は
胸をときめかせてしまった少女の
茫然自失というより半分涙目になっていたアンナは、ベルが心配するほどフラフラとした足取りで箱馬車に乗り込む。
馬の嘶きとともに車輪が回り始め、傷心の少女を乗せた馬車は去っていった。
「・・・あの子は、き、近親相姦が・・・この・・・み・・?で、でも・・・」
あのお姉様方なら、アリかもしれない・・・。今度治療院にあの子を触りに行こうそうしよう・・・。
と少女は何か変な方向に拗れていた。
後日。
『豊穣の女主人』にてルノア・ファウストとクロエ・ロロの前に、偽者2人がロープで縛り上げられ『これどうする?』と処刑前の罪人のような変な光景が見受けられたらしい。