旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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ベート回のつもり。


兎追いし狼

「ベルぅ・・・あんまりです・・・」

「もきゅもきゅ・・・もきゅもきゅ・・・」

「何よリオン、顔を真っ赤にして。」

「お、おき、起きたらまさか・・・そんな・・・ああ、私はなんて不敬な・・・!」

「リューさん、あーん」

「む・・・あーん。ってそうではなく!?」

 

 

それは2日後の朝のこと。

ファミリア全員で朝食を囲む食卓にて、金髪妖精リューリオンは顔を真っ赤にして頭から煙を吹いていた。それもそのはず、

 

 

「き、昨日はベルと一緒に眠っていたはずだというのに・・・いえ、時々耳を触られることもありますが・・・め、目が覚めると、私はアストレア様のベッドの中に・・・な、何を言っているのかわからないと思いますが、私にも何が起きたのか分からず・・・じ、自分の格好を見返して、眠る主神の横でなんてはしたない・・・あぁ、私はなんてことを・・・!」

 

「うん、余計訳が分からないわね」

「はしたないも何も、今更何を言っているのでしょうかこの淫乱妖精は」

「私は気にしていないのよ? リューの寝顔も、ベルの寝顔も、とっても可愛かったんだもの」

「アストレア様、あーん」

「ふふっ、あーん。ほらベル、お返し・・・あーん」

「あむ・・・もきゅっもきゅっ」

 

主神も少年も『いったい、何をそんなに恥ずかしがっているのだろうか?』と言った具合に小首を傾げて、けれど仲良く朝食のパンを千切っては食べている。そんな少年の顔に、金髪妖精(リュー)はムッとした。

 

「わ、私はキャミソールに短パン・・・な、何よりベルを抱き枕にしていたはずなのに、瞼を開ければアストレア様の・・・ご、ご尊顔が!?」

 

「よかったじゃない、ご褒美よ?」

 

「ベル、お前は美女と女神に挟まれて眠っていたのか?」

 

「むぐむぐ・・・夜中に目が覚めて、アストレア様の所に行きたくなったから・・・」

 

『運びました』と少年の口からその言葉が出て、金髪妖精(リュー)は『ぁあああっ!!』とテーブルに額をぶつけて悶絶!

 

話を聞いていた眷族達は『あら~^』『つまり、眠れるリオンをお姫様抱っこして運び込んだのね!』と優しい目を向けながらニヤニヤ!

 

「そんなに嫌だったんですか?」

「そ、そういうわけでは・・・! し、しかしっ!? 自分の姿があまりにもはしたなく・・・!」

「どういう格好だったのよ」

「口から涎が垂れてた」

「ぐふっ!?」

「幸せそうな顔だった」

「かはっ!?」

「寝巻きが捲れ上がっててちょっとエッチだったよ」

「ぁあああっ!?」

 

つまりは、はだけた格好で少年を抱き枕に。そして少年がベッドに潜り込んで来たことに気がついた女神もまた少年を抱き枕に。リューは少年を独占できたことに対する喜びで涎を垂らして『ぐへへ』的な寝言まで漏らし時折身じろぎをする少年のせいでキャミソールははだけにはだけ下乳が見えかかってすらいたのだ。

 

「もう駄目だ!エルフにあるまじき羞恥! かくなる上は―――」

「「「かくなる上は?」」」

「切腹ぅっ!?」

「おい馬鹿!やめろ馬鹿!おいっ!ナイフを今すぐ離せ馬鹿!」

「ちょっとベルがショックで気絶したわよ!?」

「お願いやめて!流血沙汰はやめて!?気にしてない!私は気にしていないからぁ!?」

「やめろ、止めるなぁ!? 殺せ、いっそ殺せぇ!?」

「リオン、落ち着きなさい! 私なんてアストレア様とベルと寝る時なんて裸の時もあるのよ!?」

「あなたは自重しなさいっ!!」

「す、すいません!?」

 

羞恥のあまり大混乱を来たした残念大馬鹿妖精(ルナティックポンコツエルフ)はあろうことかナイフを手に取り、その姿に何かトラウマでも刺激されたのかショックで気を失った少年は隣に座る女神に倒れ掛かった。

朝食は狂気と混乱の渦で、混沌(カオス)に満ち満ちていた。

 

 

それから数十分後。

 

 

「――――落ち着いたかしら、リオン」

「・・・・はい」

「発情期は終わりましたか、残念淫乱妖精(ポンコツエルフ)様?」

「私は発情などしていないっ!あの子に耳を咥えられて悶々としただけだ!」

「静かに、リオン」

「はい、すいません」

 

 

冷水を頭からぶっ掛けられた金髪妖精は正座をさせられていた。

 

「ベルに埋め合わせとして添い寝を頼んだのはあなたよね?」

「はい」

「でもベルは()()()()()()()()()()とーっても好きで、アストレア様の所に行きたがるのもわかるわよね?」

「どうして僕がアストレア様のことが好きだって強調したんでしょうか・・・」

「あら、いいじゃない別に」

「・・・・こほん、だからベルがあんたを運んでも仕方ないことじゃないかしら?」

「それならそれで事前に知らせて欲しかった・・・」

「知らせていたらどうしてたのよ」

「―――はしたない姿を見せないように、全身鎧を」

「「「そっちの方が恥だ馬鹿」」」

「・・・・くっ!!」

 

 

そうこうして頭を物理的に冷やされ、平静を取り戻した彼女はアリーゼ達と共に巡回に。

その他の者は買出しやらダンジョン探索やらに出て行くのだった。

 

「で、ベルと寝るのは嫌だったわけではないのでしょう?」

「はい、いやではありません。むしろ久しぶりに安らかに眠れました」

「お願いだから、そのまま安らかに天に昇らないで頂戴よ」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

その日、ベート・ローガは機嫌が少し悪かった。

理由としては、数週間ほど前―――【アストレア・ファミリア】のベル・クラネルが異端児なる知性を持った怪物達との一件の騒動から少し前のこと。

 

彼の少年が、迷宮内でなんやかんや、あれやこれやとしている、巻き込まれている間に地上では闇派閥の残党と暗殺者達による『アマゾネス狩り』が行われていた。目的としては闇派閥と接触あるいは何らかの関係を持っていた女神イシュタルの元眷族への口封じとして行われたそれだが、その事件に巻き込まれたのが【ロキ・ファミリア】Lv.6、ベート・ローガである。

 

『あいつ等が死んだのは、あいつ等が弱かったからだ。恨みなんざ見当違い・・・強ぇ奴は弱ぇ奴から全てを奪える。それが強者の特権だ。それが、このクソッタレな世界だ』

 

【ロキ・ファミリア】がメレンにて【カーリー・ファミリア】にチョッカイを出された際に邪魔をしてきた派閥である【イシュタル・ファミリア】、そしてその中にいた女戦士(アマゾネス)の少女がその時の一件でベート・ローガに惚れ、何かと交流(付きまとい)が増えてきたのだが、その少女、レナ・タリーもまた『アマゾネス狩り』の事件に巻き込まれ青年の目の前で倒れ伏した。

 

『ベート、ローガ・・・・弱っちくて、ごめん』

『―――』

『やくそく、無理だっ、た。あなたの、となり・・・並びたかった、なぁ・・・』

 

会う度に何かとベタベタベタベタとしてくる少女に、拳をめり込ませ、膝を腹に叩き込むも毎度の様に『えへへ、いいのもらったぁ・・・これであの眼鏡おっぱいにも勝てる!』『今のはいいの入った・・・これで妊娠した、間違いない。名前何にしよう』などと言う恐ろしいそれは、最後の力を振り絞るように、微笑んでゆっくりと力を失っていった。

 

 

強者は何をしても許される。何を奪ってもいい。

弱者は何をされても抗えない。何もかも奪われる。

弱者であっては、生き残れない。

 

『俺がてめぇをブチ殺そうが、何も問題はねえってことだッ!!』

 

怒りのままに、逃げようとする女幹部を殴り、蹴り付け、最後に顔面を右手で鷲掴みにする。

軽々と持ち上げた女の体を柱に叩きつけ、宿す炎の牙を揺らめかせ

 

『ま、待てェ!? 私を殺したら、『鍵』の在処はっ――!?』

『うるせぇ』

 

女を猛炎で瞬く間に漆黒の灰へと変え、その命を奪い取った。

その際の戦闘行為、および魔法によって半壊あるいは全壊した前【イシュタル・ファミリア】の本拠は完全な廃墟へと成り果てた。幸いなのはこの事件が起きてから歓楽街からは己の身の危険を感じて娼婦共々人が避難していて無人だったこと。その被害で【ロキ・ファミリア】に対する損害賠償などは発生せず、『余計な事件の是非を問うて怪物の尾を踏むことはない』としてギルド上層部は恐れをなして看過することを決めたのだ。あえて被害(いい迷惑)を被ったのは巡回やらと【ガネーシャ・ファミリア】と協力している【アストレア・ファミリア】であるが、それは狼人の知ったことではなかった。

 

 

都市第三区画、歓楽街。

その一件の最後に金髪少女が背後からやってきて、左肩にぽん、と右手を置いて口を開く。

 

 

ゆっくりと振り向いた後に、その言葉を告げた。

彼女も彼女で、最近何か悩んでいたらしいが、それはその後の異端児の一件で自分なりの答えを見出したらしいが・・・それでもこの時の彼女は単純に青年のことを心配していた。

 

 

『どんまい』

 

 

全く抑揚のない声で、感情の乏しい表情がくそ真面目に放ったその言葉に、青年は頬を痙攣させた。その後は、青年の黄昏など知ったことかと少女は聞いてくる。

 

 

『どうして人を見下すのか、何で強くなろうとするのか・・・教えてください』

 

途切れ途切れの言葉で必死に意思を伝えた少女は、真っ直ぐ見つめてきて誤魔化すことも許されず、嘘をつくこともできず、最終的に主神の命令で答えざるを得なくなった。

 

舌打ちを鳴らし、少女に向き直る。

 

『弱ぇ連中を貶すのは強え奴の役目だ! 俺等がしなけりゃあ、誰がするってんだ! でなけりゃあ勘違い野郎どもが益々増えやがる! 冗談じゃねえ!!』

 

溜まっていたものを全てぶちまけるように、言葉をぶつけていく。

 

『弱ぇヤツは戦場にでてくるな! 弱ぇ女は巣に引っ込んでろ! 身の程を知りやがれ! ことあるごとに泣き喚きやがって、イラつくんだよ!! もやもやしやがる!! 雑魚が目の前で野たれ死ぬのは御免なんだ!!』

 

脳裏に過ぎるのは両親の、部族の、妹の、彼女の死に様だ。

心に蘇るのはアマゾネスの少女の最期。

それらの光景に胸の中をかき乱されながら、立て続けに言葉を連ねた青年は、最後に大きく吠えた。

 

『もう、誰も哭んじゃねえ!!』

 

 

その後のことは、思い出したくもない。

生まれたのは、混沌(カオス)だった。

 

金髪の少女には謝罪をされ、主神は、にんまりとあくどく笑い口に手を当てて声を張り上げ

 

『そういうことらしいでぇー! 聞こえたかぁー!』

 

振り返ったところ、瓦礫の影から出てきたのは【ロキ・ファミリア】の団員達。

 

『ああいうの、つんでれ っていうらしいわ』

 

女戦士(アマゾネス)の女が言った。

 

顔を真っ赤に染める青年、それを皮切りにどっと盛り上がった団員達はラウルを筆頭に一斉に声を浴びせた。

 

『私、ベートさんのこと信じてました!』『誤解してましたすいません!』『これが神様の言う【萌え】なんですね!』

 

『ツンデレベートさんちぃーっす!』

『ツンデレベートさん素敵っすね!』

 

 

挙句の果てには、死んだと思っていた女戦士(アマゾネス)の少女が生きており、それはもう、どいつもこいつも誰も彼もが

 

 

『ツンデレベートさん、まじぱねぇっす!!』

 

 

などと言うのだ。

 

 

 

―――思い出したくもねぇ。

 

 

けれど、それはまだいい。まだいいのだ。

過ぎたことだ、部外者にまで広められているわけでもない。

ラウルあたりは顔をニヤけさせたらすぐに〆るが、それはまだどうでもよかったのだ。

 

あの一件の後から少しして異端児の一件が起こり、その辺りからまたファミリア内で青年を見る目が若干おかしかったのだ。何かがおかしい、自分の知らないところで何かが起きていると思っていた矢先、ステイタスの更新で主神の部屋に行っていたところ作業が終わったあとにニヤけた主神が口を開いたのだ。

 

 

 

『なぁなぁ、ベートぉ・・・』

『あん?』

『リーネと、あのレナって子以外に、どんな女の子がおるんや?』

『は?』

 

 

割とマジでガチで何を言っているんだこのアホ神は、と目を点にしているとさらに言葉を続けてくる。

 

『いやな、狼人って夜の生活とか激しそうやん?』

『・・・』

『まあその辺はウチよう知らんねんけど、ベートって・・・・』

『・・・』

『他にも女の子、囲ってるんやろ?ブフッ』

 

肩を揺らす(それ)に、青年は――ベートはゴゴゴ・・・と詰め寄った。

 

『何のことだ』

『誤魔化さんでええやん、ほら、あれやろ、ゼウスも昔言っとったで?【男だったらハーレムを目指せ!】って』

『・・・・言い残すことは?』

『へ? いや、待って、ベートさん待ってぇや、あっ、やっ、いぎにゃあああああああっ!?』

 

主神をぶっ飛ばし、青年はこのほとぼりが醒めるまで本拠にいるわけにもいかず迷宮にでもうさ晴らしに行こうとバベルへと向かっていた。そんな時だろうか

 

 

「あん? あいつは・・・・」

 

バベル前のベンチ。

そこにいる1人の・・・正確には2人いたが、1人の存在に気がついた。

どうにも、その存在は何かと噂と言うか人気があるらしく

 

 

・ベンチにいる白兎に会うと、その日は無事に帰還できる。ドロップ率が上がる、換金率が上がる、何かいいことがある。

 

・治療院ではお金を払うとお触りができる。

 

・聖女の飼兎(ペット)

 

・実は【ディアンケヒト・ファミリア】所属の戦える治療師(バーサクヒーラー)

 

・都市全土を覆うほどの広範囲魔法を所有した化物。

 

・怒らせたら泣き声で仲間を呼び寄せて消される。

 

・怒らせたら背後に灰色髪の女が見える・・・気がする。

 

などとよくわからないことをベートでさえ聞いていた。

ベートとしては、その存在――少年は、強いのか弱いのかいまいちハッキリせず妙にイラついた。

少女(アイズ)に聞いても『神様に全部取られちゃった子』とかなんとかこれまたスっきりしないことを言うだけ。何故だかわからないが、何か通ずるものがあるような気がしたがそれはそれで気に入らなかった。

 

その少年は簡単に『英雄の席』を蹴り飛ばすし、力を持っているのに強くなる意思があるのかも曖昧。そこらの雑魚とは違うというのに、聞けば少女(アイズ)と【ロキ・ファミリア】の本拠の庭で模擬戦をした時には適当なところで最強の保護者(リヴェリア)の部屋に逃げ込むらしく

 

―――Lv.6から逃げられる足を持っていてどうしてこう、中途半端なんだ

 

と疑問に思わざるを得なかった。

 

なお、何故、他派閥の副団長の部屋に逃げ込んだのか少年の派閥の妖精の姉が聞いたときには

 

『えっと、アイズさんでもリヴェリアさんには勝てないんです。だから、【突撃、隣のリヴェリアさん!】をしたら助けてくれるはずだってロキ様が』

 

実際、当のリヴェリアは最初は驚くも溜息をついて少年の避難を良しとしていたし少年も少年でその姿に義母を重ねていたのか妙に懐いていて『リヴェリアさんとお義母さんはどっちが強いんですか?』とこれまた答えづらい質問をしていた程だ。

 

山吹色妖精はこの質問に対して、

 

『決まっているじゃないですか。リヴェリア様に決まっています!貴方のお義母様だって、デコピンひとつで伸されて終わりですよ!』

 

『いーや! お義母さんのが強いに決まってます! リヴェリアさんの方がデコピンされて終わりですよ!』

 

リヴェリアの前でするそのやり取りに、かなり頭を痛めた。

何ともまあ答え辛かったのだから。

 

『お前の義母には、【年増】などと侮辱された』とか、まぁ、言える訳がなかったし。

 

 

その件の少年は、どういう訳かヒューマンから兎人(ヒュームバニー)にジョブチェンジ?したらしく金髪少女ことアイズとベンチで語らっていた。

 

 

「ベル、誰かと待ち合わせ?」

「特にそういうわけでは・・・ただ、ずっと本拠(ホーム)にいたら『お日様の下で遊んでいらっしゃい』って言われたり『ベル様?お外で遊んできては?』って子ども扱いされるから・・・」

「ベルは、まだ、子供、だよ?」

「ぼ、僕、子供じゃないです!」

「女神様と添い寝する大人は、いない、よ?」

「うっ・・・」

 

傍から見れば、姉弟とも見えないこともない2人はどうやら今日のご予定についてお話中らしい。

少年は特にすることもなくただ単に日向ぼっこしているだけらしく、通り過ぎていく女神や女冒険者が手を振っては振り替えしていた。瞼を閉じているのに、器用なことである。

 

「ファミリアのお姉さん達は?」

「今日は皆、色々しているらしくって・・・」

「えと、じゃあ・・・一緒に迷宮(ダンジョン)、行く? それとも、行くなって言われてたり・・・する?」

 

おずおずと小首を傾げてアイズはベルに迷宮(ダンジョン)に行くか誘い出す。

 

「1人じゃなかったら別に良いって言われてるから・・・いいですよ」

「武器はある?」

「えっと、ここにナイフが。」

「鏡みたいだね、それ」

「えへへ」

 

鏡のような刀身、【星ノ刃(アストラル・ナイフ)】を撫でてアイズに自慢をする。

世界にただ1つだけの自分だけの武器、と。

そのまま2人はまた色々と話をし・・・・

 

 

「それでそれで、春姫さんが大賭博場(カジノ)で『ベル様は小さい頃からハーレムをお持ちなのですね』とか言うんです!」

 

「う、うーん・・・?」

 

「アストレア様は、『ベルが皆から離れるのを嫌がったりするようになったのは仕方ないことだから悪くいえない』って言うんですけど・・・駄目なんでしょうか?」

 

「よく、わかんない・・・今度、リヴェリアに聞いてみる」

 

 

まあ別にどうでもいいか・・・そう思って足を再び動かそうとしたところ、ベートはピクリ、と動きを止める言動を聞いてしまう。

 

 

「お爺ちゃんが言ってたんです! 【男だったらハーレムを目指せ】って!!」

 

 

ロキが言っていた言葉を思い出したベートは固まった。

 

「・・・・・」

 

そして、何か、こう、パチリ・・・とパズルが填まったような感覚に陥った。

この派閥内での噂というか全員に広まっているわけではないが、噂の出所な気がしたのだ。

 

 

―――こいつか。

 

 

捕まえて、問い詰めてやろう、仮にそうだとしても面白おかしく広めようとしたのは主神なのだが、出所ぐらいは聞き出して押さえ黙らせておかねば痛い目を見る気がしたのだ。

 

ドスドスと石畳を蹴り付けながら、歩く速度を徐々に早めていき、少年と少女の目の前で立止まった。

 

 

「ベート、さん?」

「・・・・?」

「―――おい、てめぇ、クソ兎」

「へ?」

「今、【ハーレム】がどうとか言ったか?」

「?」

「お前・・・俺のこと、何か言ったりしたか?」

 

小首を傾げる少年少女、背後からはなにやら『ねえあれやばくない?大丈夫?』『うわ、凶狼(ヴァナルガンド)だ・・・兎さんが狩られる!?』『あばばばば』とか聞こえるが、知ったことではない。

 

「ベートさんのこと・・・? 『ベートさんはハーレムなんですよ』って、言っただ・・・け・・・で・・・ひっ!?」

 

 

―――有罪(ギルティ)。何を勘違いしてるかわからねぇが、こいつだ。

 

 

狼はピクピクと牙を揺らし、少年の首根っこを引っ掴もうと迫った!

少年はその形相を見て怯え、姿勢を低くしあろうことか逃走を開始した!

 

「えっ、ベル・・・?」

 

アイズは走り去る少年へ手を伸ばそうとするがもう既に遅く少年は見る見る距離を離していく。

ベートもまた自分の横をすり抜けて走り去る兎に一瞬呆けてすぐに転進

 

 

「待ちやがれええええええええええええっ!!」

 

 

吠えた。

そして、追走!!

 

「え、ベート、さん?―――(ベル)が・・・(ベートさん)に狩られる・・・?」

 

 

何かいけない、少年を助けなくてはいけない!と思ったアイズもまた立ち上がり走り出した!!

 

 

「リヴェリアもベルのこと、気にかけてた。『アイズ、あの少年のことは気にかけてやれ。未だに人ごみの中で死者を探すような子供を放置などできん。死の神にでも魅入られたら溜まったものではない』とか言ってたし・・・」

 

 

バベル前にてはじまるは逃走劇。

兎は狼に怯えて逃げ、狼は兎を追いかけ、少女は兎を保護するべく同じく追いかける絵面。

兎←狼←少女。

 

その光景に後に職場に戻った桃色髪のギルド職員は言う。

 

 

「エイナエイナぁ~、さっき外でウサ耳姿の弟君が【凶狼(ヴァナルガンド)】に追いかけられてて【剣姫】にも追いかけられててさー何ていうか『散歩しているはずの飼い主が逆に散歩させられてる』みたいだったよー? by ミィシャ・フロット」

 

「ごめんミィシャ、よくわからない」

 

「だからぁ、弟君がウサ耳で追いかけられてたの。たぶん、今日の夕飯は兎鍋じゃないかなあ」

 

「待って。余計意味がわからない。そもそもベル君にウサ耳なんてないよ?」

 

「え?でも、ついてたよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

少年は『僕、何で殺されそうになってるの!? ナンデ!?』と言った具合に涙目になって迷宮(ダンジョン)に飛び込んでグングンと進んで行く。

 

「お、おい!? 待ちやがれ!?」

 

ベートはそれを『24階層の時みたいにい面倒ごとになってたまるか!?』と焦り、さらに加速。18階層に入ったあたりでようやく首根っこをつかめるところまで追いついたその時!

 

 

「ひぃいいいいい!? 【聖火を灯し天秤よ、彼の者に救いを与えよ】――【聖火ノ天秤(ウェスタ・リブラ)・オーラ】ァ!!」

 

ベートが初めて聞く少年の魔法に『どんだけ魔法があるんだこいつは!?』と驚いた。

少年は自分自身に魔法をかけると、少年の胸には優しげな色をした炎が灯り、グンッ!!とさらに加速!!

 

 

「は・・・はぁああああああああッ!?」

 

あろうことかベートとの距離をさらに離した。

幸いなのは、つかず離れずの距離を保てているお陰なのか、少年の人魔の饗宴(スキル)のおかげで怪物達が近寄ってこないこと。それでも進行方向にいる怪物達は無慈悲に轢き殺されていくのだが・・・。後ろを振り向けば、これまた凄い形相の少女がものすごいスピードで迫ってきていた。

 

 

「ベート、さん・・・・ベルに、乱暴、しないで・・・!」

「ち、違ぇよ!?」

「ベルは・・・私が守るッ!!」

「だから違ぇって言ってるじゃねえかあああああああッ!!」

 

 

後に宿場街(リヴィラ)の頭目はその光景を見てこう語る。

 

「おう、何か散歩中のペット2匹に引っ張られるみてぇに、金髪の女が見えねえ速度で通り過ぎていきやがったぜ。躾がなってねえよな、ペットがあんな速度で走るなんてよぉ・・・ 」

 

3人は気がつけば19階層を越え、25階層にまで。

道中、少年の魔法によって進路上にいる怪物達は無慈悲に爆散し灰に変えられていてその魔石を後ろから追いかける2人は慣れた様に破壊する。

 

「おい! いい加減、止まりやがれ!」

 

ゴーン!!

 

「だあああああっくそっ!!」

 

 

少年が勘違いしていること、別にベートは少年を殴り飛ばそうとしているわけではないと誤解を解こうとしているというのに少年の魔法・・・音によってその声はかき消されてしまう。再び後ろを振り向けば、ムッとした顔のアイズがなお追いかけてきていた。

 

 

―――なんでこうなりやがる!?

 

これでは、『前門の虎後門の狼』ならぬ『前門の兎、後門の少女』である。

このままでは泣きっ面の少年は下層を突破しかねない、それは不味い!!

到達階層がどこまでなのかわからないがとにかく不味い気がした。

そしてそこで

 

 

「―――あん?」

「冒険・・・者・・・?」

 

進路方向のその先、人影が見えた。

うつむけた顔の両端からは細長い耳が伸びていて、その影の主がエルフであることがわかった。

 

「こんなところに、一人・・・ベート、さん?」

「・・・・兎をとめろ、アイズ。何かいやがる」

 

この階層に居る以上、実力者なのはわかるがどうも様子がおかしい。

まず、パーティメンバーがいない。

矢筒があるにもかかわらず、何故か弓を持っていない。

纏っている防具が傷だらけだった。

前方を瞼に涙を溜めながら走る少年も様子がおかしいことに気がついたのか足は止めないが、警戒しはじめたのがわかった。右手を後方に向けて魔法を唱える。

 

「【天秤よ傾け、我等を赦し全てを与えよ】――【乙女ノ天秤(バルゴ・リブラ)・オーラ】ッ!!」

 

全能力上昇魔法が2人にかけられた。

それによって2人はさらに加速。

 

「・・・・・」

 

そのエルフは頼りない蹌踉(そうろう)とした足取り。

ともすれば亡者のようなそれに、薄闇の中で不気味に揺れる輪郭に、戸惑いの感情と一緒に3人の空気が張り詰めて行く。

 

やがてエルフは天井に生えた白水晶(ホワイトクリスタル)の真下にたどり着き、俯いていた顔が、ゆっくりと上がっていく。

 

「ぁ・・・がっ・・・!?」

 

光の下に晒されたのは、血塗れの形相だった。

さらには、肘から先を、右腕を失っていた。

こちらに気がついていないのか、力尽きたように体が地面に倒れこみ背後の暗がりから大型のモンスターが歩み出てきた。

 

「【聖火を灯し天秤よ、彼の者に救いを与えよ】――【聖火ノ天秤(ウェスタ・リブラ)・オーラ】ァ!!」

 

倒れたエルフに魔法をかけその大型のモンスターに少年は、狼は、少女は戦意を上昇させた。

 

人型を象る巨躯は2Mはあり、全身と言う全身が苔に覆われ、まさしく木の巨人と言ってもいいようなモンスターだった。無骨な左手に握られるのは、深蒼の輝きを宿す天然武器(ネイチャーウェポン)――水晶の鎚矛(メイス)

 

 

「アイズ!強化種だ!」

「・・・はいっ!」

 

『オオォ・・・ッ!』

 

そのモンスターの名を、【モス・ヒュージ】。

24階層に出現する希少種。魔石の味をしめ、後衛のサポーターや弱い者達を、魔石を持っている者を優先的に狙う異端児とはまた違った知性――効率を覚えていた。

 

けれど。

 

『オオォォォォォッ!!』

 

少年は、鏡のような刀身が魔法によって青く変わりさらに、聖火巡礼(スキル)の効果の1つ『聖火付与』によって炎が灯る。そしてそのまま突撃した。その後ろを走る2人もまたそれを追う様に突撃した。

 

 

「―――【福音(うるさい)】」

 

『オォォォーーッ!?』

 

「どけぇぇぇ!!」

 

『グオオーーッ!?』

 

「邪魔ッ!!」

 

『ッーーーー!?』

 

モス・ヒュージに立て続けに繰り出される、魔法と斬撃、魔剣を使った炎の蹴り、風を纏った斬撃。少年の攻撃により水晶の鎚矛(メイス)は焼き斬られ、音の暴風で体を痛めつけられ、その後からやってきた炎の蹴りでさらに纏っているはずのウンディーネクロスを無視して体を焼き、少女の風が襲い掛かる。

 

 

【モス・ヒュージ】の強化種、通りすがりに滅殺された瞬間である。

理解するまでもなく、青い光と紅の聖火、猛炎、暴風に世界が染まる中、彼は寸前に思った。

 

―――今度もし、生まれ変わったなら。

―――散歩中の少女とペットには、決して近寄らないようにしよう。

 

その思考を最後に、彼の意識は爆砕した。

 

 

■ ■ ■

 

 

その後、足を止めた少年に風を纏ったままの少女が背後からタックルをして動きを止めた。

 

「―――ぐへぁっ!?」

「ベル・・・めっ、なんだよ?」

 

うつ伏せで倒れる少年に馬乗りになったまま顔を近づけて注意する。

さながら、悪戯をした弟に対して注意する姉である。

少年はパクパクとさせながらも顔を若干赤くして謝罪した。

 

「ごめん・・・なさぁい・・・」

 

「ベートさんに苛められたら、私が、やりかえすから、帰ろ?」

「――――ぁぃ」

「―――兎、てめぇ・・・・」

「ひっ」

 

 

ベートはベルの前でしゃがみ込んで『お前は勘違いをしている』と告げ、ベルが今の今までしていた勘違いについて指摘した。

 

「そ、そんな・・・ぼ、僕の、か、勘違い・・・?」

「聞いていたやつは、それを聞いて何も言わなかったのか?」

「・・・・『有り得ない』『趣味が悪い』って言ってたような・・・?」

 

『趣味が悪い』にピクピクとしたが、もうどうでもよかった。

 

―――こいつはただの『雑魚』じゃねぇ。ただの『阿呆』だ。

 

ベートは疲れていた。

もう、どうにでもなーれっと言いたくなるくらいには。

背を向け、歩み始める。

 

 

「・・・帰るぞ」

「怒らないんですか?」

「・・・もう、どうでもいい。倒れてる冒険者共を連れて帰るぞ」

「――――ッ!」

「ムッ・・・ベルがベートさんを見て目をキラキラさせてる・・・」

 

 

倒れている冒険者、後に【モージ・ファミリア】と【マグニ・ファミリア】の冒険者だとわかるのだが、彼等は無事に18階層に連れて行かれあとは地上で【ガネーシャ・ファミリア】あたりから人手を送ってもらうことになった。

 

 

「あっ・・・えと、ルヴィスさん、でしたっけ?」

「ああ・・・武装した怪物達の1件以来だったか?」

「いやぁ、まさかおめぇ等に助けられるとは思わなかったべ・・・ありがとうなぁ」

 

 

3人にすることはなく、魔法の連続使用と走り続けたことの消耗でうとうとしはじめたベルをアイズが背負おうとしたところベートが小脇に抱え地上への道を進んで行く。

 

「ベート、さん?」

「お前が背負ったら戦えねえだろうが」

「ベルがいたら、襲われないです、よ?」

 

地上に戻った3人はギルドで迷宮(ダンジョン)内で起こったことを報告、【ガネーシャ・ファミリア】に18階層で休んでいる冒険者を運ぶように要請し【ロキ・ファミリア】へと戻っていった。

 

 

■ ■ ■

 

 

「ぷっ・・・ふふっ・・・」

 

朱色の女神がある光景を見て腹を抱えて笑っていた。

【ロキ・ファミリア】の本拠、メインロビーにて正座をさせられる3人がそこにはいた。

 

『私は盛大な勘違いをしてベートさんをハーレム野郎にして強化種に突っ込みました。』

『私は子兎に大声を上げて怯えさせ迷宮内を追い掛け回して強化種に突っ込みました。』

『私は散歩中のペットに引っ張られるように迷宮内を走り回って強化種に突っ込みました。』

 

と3人はそれぞれ首からボードにかけて正座させられていた。

真顔の兎に虚無顔の狼、そして、『私、悪いことしてないもん!』という不満たらたらの顔をした少女。

 

 

「ねぇ、うちにあんな白い兎人(ヒュームバニー)いたっけ?」

「あーどうっすかねぇ・・・ラクタの親戚とか?」

「いやいやいやいや」

 

と団員達に通りすがりに言われたが、3人・・・とくに2人は動くことはなかった。

 

「見てみなよガレス」

「ほう・・・リヴェリア式の反省をさせられておるのか」

「まるで面構えが違うね」

「ぶっふぉwwwwwうちの眷族に、いつのまにあんな白いのが増えたんやwwww」

「はぁ・・・もし強化種討伐の後に『アンフィス・バエナ』と戦っていたら、これでは済んでいないぞ」

「3人で倒せるん?」

「わからんが・・・ベル・クラネルの魔法を使えば可能性は。アミッドも一目置いているようだしな」

 

日が傾き始めた頃にようやく解放され、痺れる足で3人は酒場――火蜂亭で飲み食いをし、どういう経緯か酔い始めたベートによる『真の男談義』が始まる。

 

「強さってのはなぁ・・・なんなんだろうな・・・ゴクンッ・・・ぶはぁ・・・」

「ひっく・・・なんらんれしょ・・・けぷっ・・・」

「・・・・ベル、口、汚れてる」

「んー・・・」

 

酒を飲めないアイズが甲斐甲斐しく口を汚すベルの顔を拭いてやり、ベルもまた呑んでいるのは酒ではないというのに場の空気に酔ってしまってキラキラとした目でベートの語りを聞いていた。

 

「触れそうになった瞬間・・・また遠のいていくんだ・・・」

「ひぐっ・・・僕も・・・触れていたはずのものが・・・気がついたらいなくなってまじだ・・・ぐすっ」

「だが、追いかけるしかねぇ・・・無様だろうとなんだろうと・・・飢えて喰らいつくしかねぇんだ・・・『雑魚』どもに見せ付けてやるためにも・・・」

「ぐすっ、お義母さん・・・ひっぐ・・・置いていかないれぇ・・・」

「よ、よしよーし・・・」

「強さという名の牙を!!」

 

ベルは泣き出し、アイズに抱きしめられ、ベートは何故か熱く語っていた。

アイズだけがついていけず

 

『なんだこれ』と言った顔でベルの世話を、保護者(アリーゼ)が見つけ出すまでするのだった。

 

なお、余談だがアリーゼにおぶられて帰ってきたベルが狼人のネーゼを見つけて飛びつき耳、尻尾をモフり、それはもう甘えに甘えられ母性を刺激されキスさえも喜ばれ、後日ベート・ローガを見かけた彼女は『ありがとう』と礼をした。

 




モス・ヒュージの後に、普通にインターバルで復活したアンフィスバエナと戦わせようかと思いましたが、やめにしました。
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