「―――ってことがあったらしいわ」
少年が狼と追いかけっこをしたその日の晩、【アストレア・ファミリア】本拠にて団長であるアリーゼが風呂上りの髪を肩にかけたタオルで拭き取りながら何があったのかを報告していた。
曰く、
『【剣姫】と仲良く日向ぼっこしてたら、突如、ヤヴァイ顔した狼人がやってきて追いかけられてあれよあれよと25階層。モスヒュージの強化種を瞬殺して帰還。』
らしい。
「「「「ごめん、意味が分からない」」」」
アリーゼは、夕方になっても今日は特に予定がないはずの
「あれ、もしかしてあの子・・・・またトラブルに巻き込まれてる?」
と思い
『あの・・・お宅の弟さん、何故かウチの
『・・・・・はい?』
どうして他所のファミリアの本拠でそんなことになっているのかはわからないが、まさか『突撃、となりのリヴェリアさん!』をして怒られてしまったのだろうか?と頭の片隅に思いながら迎えに行くも、もうすでにいなかったのだ。どういうことかと聞いてみれば、反省札を首からかけて正座させられていた後、3人は生まれたての子羊のようにヨロヨロ、ぷるぷる、と外に出て行ったという。
少年と少女が青年の足、腰にしがみつき、それはもう青年は一種の拷問を受けているようだったと団員は語る。
『ぐぉおおおおおおっ!? テメェらぁ、今、俺の足に触るんじゃねぇぇぇえッ!?』
『Lv.6なんですから、しっかりしてくださいベートさん!』
『ベートさん、は、Lv.6なんだから・・・平気、のはず・・・!』
『おいアイズ! てめぇもLv.6じゃねえかよ!?』
『【聖火を灯し天秤よ、彼の者に救いを与えよ】――【
『う、うぉおおおおおっ!? てめぇ、兎ぃ!?』
生まれたての少年少女を青年は無理やり運ばせられ外出―――
「ごめん・・・意味が分からない・・・・」
ってきり、24階層の時のように苛められたのかと思っていたのにどうやらそういうわけではないらしかった。その証拠に、【ロキ・ファミリア】の
『私は盛大な勘違いをしてベートさんをハーレム野郎にして強化種に突っ込みました。』
『私は子兎に大声を上げて怯えさせ迷宮内を追い掛け回して強化種に突っ込みました。』
『私は散歩中のペットに引っ張られるように迷宮内を走り回って強化種に突っ込みました。』
―――ベルが原因? それとも、狼が原因? んー・・・
そしてそこから更に、『迷子の兎捜索』を再開。
道行く人々に
『あの、真っ白な髪で腰くらいまであって、
『途中までは喉まで来てたんだけどなぁ・・・ごめん、最後ので引っ込んじまったわ。尻の穴の方まで』
『お尻の穴から出しなさいよ!?』
『んな無茶な!? お前、尻から出てきて良いっていうのかよ!?』
『いいわけないでしょぉぉぉ!?』
誰に聞いても、はっきりとせずもう1度
『男がめそめそ、女々しく泣いてんじゃねぇぞぉ、兎ぃ!!』
その聞き覚えのある、いつも不機嫌そうに罵詈雑言を投げるようなその声がアリーゼの耳に入ってきた。
―――どこ!? どこ!? あの狼、私の
キョロキョロ、キョロキョロと血相を変えて辺りを見渡す。
すると、1件の酒場が目に入った。
【火蜂亭】
アポロン・ファミリアと戦争遊戯が始まる前に、少年がキレて暴れたという酒場。
狼の声の発生源は、どうにもそこのようだった。
―――あの子を泣かせたら許さないわよ、全身の毛を剃って毛狩り後の犬にするわよ
ゴゴゴゴ・・・!! と戦意を滾らせつつもその酒場に近づいていくと徐々に会話の内容も聞こえてくる。
「強さってのはなぁ・・・なんなんだろうな・・・ゴクンッ・・・ぶはぁ・・・」
―――知らないわよ!? あえて言うなら、『愛』よ!!
愛ゆえにわがままに、少年をオラリオ入りさせられるだけの土壌をつくるために奔走した期間は6年。少年が女神の眷族になる約束をしてから6年。【ロキ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】等事情を知る存在は数少ないが、とりあえずのところは少年が『
「ひっく・・・なんらんれしょ・・・けぷっ・・・」
―――何で酔ってるの!? あんた、外じゃ飲まないでしょうに!?
こればかりは、輝夜のせいだが少年はどうやら口移しで飲まされることが癖になってしまったらしく病み付きになってしまったらしく、滅多に飲まない。だというのに、少年の声はあきらかにいつも以上に酔っている様だった。
「・・・・ベル、口、汚れてる」
「んー・・・」
―――イラッ☆
いけないいけない、年下の女の子相手に嫉妬だなんてはしたないわオホホホホ・・・。アリーゼは手で自分の顔をパタパタと扇いだ。遠目から見た2人はどうにも色違いの姉弟のようでさえあった。ただでさえ、どこぞの聖女と隣で歩いている時も姉弟に見えてきて仕方ないと思っているのに酔った少年は甲斐甲斐しく金髪の少女にお世話されていた。さらにはその少年の瞳は、自分達に果たして見せたことがあるだろうか?と思うレベルでキラキラとしていて狼人を見つめていた。さすがにそろそろ声をかけてやろう、アストレア様も心配してしまうだろうし・・・と店に入ろうとした時。
「触れそうになった瞬間・・・また遠のいていくんだ・・・」
「ひぐっ・・・僕も・・・触れていたはずのものが・・・気がついたらいなくなってまじだ・・・ぐすっ」
その言葉に、ピクリ、と動きを止めてしまった。
女神は少年の精神的な状態については『少しずつ、前に進んではいる。けれど、あの子の願いは叶わないからこそ、妄執へと成り果てかねない危険性がある』という。
アルフィアを知る【ロキ・ファミリア】副団長のリヴェリアは、
『人ごみの中で、かつての家族――アルフィアやザルドを探すあの子を見たことがある。既にいない死者との再会を願う子供なぞ放置できん。死の神にでも魅入られたら溜まったものではないぞ』と苦言を漏らされた事もある。
―――ベルは、満たされてはいないのかしら。
思わず、店の入り口から退き扉の横に壁にもたれるようにして隠れてしまう。そっとその会話を、声を聞くためだけに。満たされていないわけではない、それは普段の様子からよくわかる。女神にも姉達にも甘えてくるし、いないと逆に寂しがるし眠っている時に体を摺り寄せてくる様は何とも愛らしい。
―――満たされてはいる、けれど、『空いた穴は塞がらない』ということかしら。
―――前に春姫が、
こればかりは解決策など見つけようがない。
フラッといなくならないように、目をかけてやるしかない、手を取ってやるしかない。
別れを告げることもなく2人は少年の前から消えうせ、オラリオで再会したといえばそれは義母の墓前。少年は、2人に別れを告げることすらできずに彷徨い続けるのだ。巡礼者のように。
―――リヴェリアさんは気まずそうにしていたけど、あの人にアルフィアの影でも重ねていたのかしら?
リヴェリアとアイズの関係性を興味本位で聞いてみたところ、どうも女神と少年がそうであったように似たようなことがあったらしい。もっとも、少年の場合は勝手にフラフラと外に出て行って怪物に襲われ生死を彷徨ったのだが。目が覚め、説教をされ、泣き喚き、女神に抱かれて眠り、目が覚めたころ、少年は茹蛸のように顔を赤くしていた。どうにもその瞬間まで、女神と眷族達を碌に認識できていなかったようで、まあつまるところ
―――初恋って・・・いいわよねぇ・・・母性に惹かれたのかしら?
ということである。
「だが、追いかけるしかねぇ・・・無様だろうとなんだろうと・・・飢えて喰らいつくしかねぇんだ・・・『雑魚』どもに見せ付けてやるためにも・・・」
「ぐすっ、お義母さん・・・ひっぐ・・・置いていかないれぇ・・・」
この2人は何か共通点でもあるのだろうか? などと疑問に思わないでもないが、少なからず地上に大穴ができ怪物が蔓延るようになった世界において『奪われた』側の人間は腐るほどいるはず。少年も青年もその1例にすぎない。不幸比べなど話にもならないが、少年は何か感じるものがあるのか妙に懐き始めているし青年の真意を気付いているのか気付いていないのか『あの人は優しい人』と24階層の時は言っていたな、とアリーゼは思い出す。
―――無愛想だけど親切な親戚のお兄さんってところかしら?
青年の真似などされては堪ったものではないが、憧れをいだくくらいは、いや、おそらくは男の子はああいう系に惹かれるのだろう・・・所謂、『男の浪漫』というやつがそこにはあるのかもしれない。少年は青年の話を、会話が成立しているのかも怪しいレベルで喋っては泣き出していよいよ少女に抱きしめられて慰められていた。よほど2人がいなくなったことが心に残っているらしい。
・
・2人は別れすら告げてくれなかった。
・自分があの時眠らなければ。
―――そんなことを、思っているのかしらね。ベルは悪くないのに。
『別れを告げられない』それを気にしていたからなのか、だからこそ、アンナ・クレーズの奪還を引き受けたのかもしれないと『家族が生きているなら、一緒にいるべき』などと言っていたのかもしれない。もっとも、その一件の後の事後処理というか金銭のやり取りで要らぬ被害者?が出ていたが。
『ベル様ベル様ベル様ぁぁぁぁ!?』
奇声を上げながらやってきたのは【ヘスティア・ファミリア】団長、リリルカ・アーデ。ベル―――【アストレア・ファミリア】と直接契約しているサポーターでありながら孤児院の金銭面の管理もしているらしい彼女は血相を変えて叫びこんでいた。何事かと聞いてみれば、ファミリアの、孤児院の金庫に2000万ヴァリスが突っ込まれていたらしく子供達は『足長ラビットだ!』『すげぇ!』『これでじゃが丸くん毎日食べられるよ!』などとそれぞれ喜んでいたらしいが彼女にとっては心臓が飛び出るレベルだったらしい。
『せめて、一言かけてください! いきなりあんな大金が入っていたらビックリするじゃないですか!? 寄付テロとか今時流行りませんよ!? ヘスティア様は泡を吹いて倒れるし、挙句の果てには【三大処女神の像】作ろうぜ!?とか言う始末!!というか、どうやって忍び込んだんですか!?』
それは申し訳ないことを・・・いらないなら返してもらえると・・・と冗談で言うとキッ!!と目付きを鋭くさせ
『いーえ、ぜぇーったいに! 返しません!! このお金でじゃが丸君以外のものを食べるんです!! 』
などとまた意味の分からない奇声を上げていた。
「強さという名の牙を!!」
と、そんなことを思い出していると青年は、ダンッ!! とジョッキを机に叩きつけ持論を言うだけいって満足げに串に刺さった肉を頬張る。少年もまた、涙を拭いながら青年が注文した鶏肉をお構いなしに手にとって頬張って、少女にもお裾分けしていた。
「何てめぇ、人のモン食ってんだ」
「ひっぐ・・・おいじい・・・うっく・・・」
「ベート、さんは・・・大人だから、奢ってくれる、よ? ね、ベル?」
「―――ちっ、男がくよくよしてんじゃねえ」
迷宮内鬼ごっこの間に何があったのかわからないが、妙に青年の少年に対する態度というか普段より軟化しているように感じてしまった。青年もまた、少年に何かを感じているのだろうか?女であるアリーゼにそれは理解できるのかどうかなどわからないが、少なくとも少年を宥めている少女には理解できておらず、『なんだこれ』といった顔をしては少年に串を向けられて頬張っていた。
―――さすがに、一段落したわよね?
もしかしたら、身内だからこそ言えない事もあるのかもしれないと思ったが、さすがにこれ以上放置するわけにはいかない。もう日も傾き暗くなっている、さすがに女神も
「!?」
「だーれだっ」
「えっ、えっ」
「ほらほら、答えられないのかなー?」
「・・・・」
少年はそっと、目を覆う両手に触れて安心したように力を抜いて
「アリーゼさん」
と言う。それに気を良くして
「正解、さっすが私のベルね! でも、こんな時間まで遊んでるなんてよくないわ。」
「もう・・・そんな時間・・・?」
「もう外真っ暗よ?」
「ベート、さん、私達も」
「・・・ああ」
少女と青年も立ち上がり勘定を支払い出口で待つ。
アリーゼは少しウトウトしている少年の前で屈みこんで
「ほら、おんぶ、してあげるから・・・帰りましょ?」
と言う。
それに素直に、姉に体を預け、大人しく背負われた。
「ん~・・・」
「ふふっ、くすぐったいわよベル」
「良い匂い・・・」
「あら、私まだお風呂入ってないわよ?」
「んー・・・」
「帰ったら一緒に入りましょっか」
「・・・・うん」
少年を背負って酒場を出ると、2人を待っていたのか青年と少女がこちらを見て立っていた。
「じゃあ、ね・・・ベル。また、一緒に
「・・・・じゃあな」
歳の近い姉のように微笑みながら半分夢の中の少年の頭を撫でた金髪の少女と、無愛想に別れを告げた青年ら2人は自分達の
そして帰り道、少年を背負うアリーゼはどうせ聞こえないだろう、聞こえても答えやしないだろうと思いつつも聞いてしまう。
「ベル・・・貴方は今、幸せ?」
「・・・・・・」
やはりもう眠ってしまって答えてくれないかーとがくり、と肩を落とすとモゾモゾと首もとを頬擦りしてくすぐったさでゾワワ・・・としてしまったところ
「もう・・・寒くは、ない、よ・・・」
とだけ、答えた。
それから
「起きた?」
「・・・んむぅ」
体の向きは変わり、向き合う形からそのまま倒れこみ姉の胸に顔を軟着陸させた少年はそれでも何とか姉の顔を視認する。
「アリーゼさん?」
「そうよ、ベルの大好きなアリーゼお姉ちゃんよ」
「どうして、お風呂?」
「私はまだ入ってなかったのよ。あとはベルも少し汗臭かったから。洗ってあげたわ」
「・・・ありがとう?」
「どういたしまして」
ようやく目が覚めた少年は姉の横に移動しようとして、けれど姉に阻止されそのまま向き合ったまま抱きしめられ本日何があったのかを聞かれ、ぼんやりとした頭でそれを説明した。そして、冒頭へ戻る。
まあ結局のところ、勘違いと誤解による追いかけっこというわけでむしろそれに巻き込まれたモスヒュージの強化種が可哀想に思えるレベルであった。
「で、ベルはあそこでアストレア様に膝枕されて眠っている・・・と」
「ええ、まあ・・・疲れてたみたい。」
姉達は背後の・・・
「アリーゼ、それは?」
「お風呂上りに、ベルに可能な限りでいいから報告書を書いてほしいってお願いしたのよ。」
「あの子に? 今までそのような物は・・・」
「書かせたことはないわ。まあさすがにそこまで『ザ・報告書』を期待しているわけじゃないし良いのよ。」
「それで、内容は?」
「ぷ・・・ふふ・・・これよ」
そうしてアリーゼが全員が見えるように卓の中央に置く。
姉達は体を乗せるようにして羊皮紙に目をやった。
その内容は。
【ぼくの考えたさいきょうのベートさん】
・【
・僕と春姫さんで、【ウチデノコヅチ】を2枚掛けします。
・リヴェリアさんの【レア・ラーヴァテイン】をベートさんのフロスヴィルトに吸わせます。
・【
・相手は死ぬ。
※満月の夜と外限定
・・・・である。
「何だこれ、報告書ですらねえじゃねえか」
「聞いたことがあります。学区には夏の長期休暇の際、生徒に課題を出すと。確か・・・『じゆうけんきゅう』なるものだったかと」
「しかも満月であることと外限定で迷宮では意味ございませんねえ」
「ところで、オーラって春姫の【ウチデノコヅチ】とどう違うの?」
「ああ、あれね。春姫のがランクアップなら、ベルのはステイタスの数値を限界まで上げるのよ。」
「つまり?」
「【
「うわぁ・・・」
きっと寝ぼけた頭で書いたのだろうそれを眺めて姉達は、そのレポートを読みながら話し込む。
「で、結局今回のことはお咎めなし?」
「このベルの字を見て」
「・・・小さいですね」
「・・・丸いですね」
「可愛いらしい字でございますねえ」
それは、小さく、けれど綺麗でありながら丸みを帯びた可愛らしい字で
「これをニコニコしながら渡してきたのよ? 許したわよ」
「「「許せた」」」
ということであった。
ウトウトと女神の膝枕から起き上がった少年は金髪妖精の姉の手を握り、主神の部屋へと強制連行していった。
「ま、待ってくださいベル。そこは私の部屋では・・・!」
「あら、いいじゃないリュー。」
「し、しかし!?」
「リューさん、おいで?」
「くぅ・・・っ!?」
■ ■ ■
「よっ、ベル。待たせたか?」
「ううん、僕もアミッドさんも今来たとこだよ」
「・・・・こんにちわ、
「お、おう・・・よろしく」
次の日の朝、ベルはアミッドを連れて廃教会へと来ていた。
道中、何を勘違いしていたのか少しばかり頬を染めていた彼女は辿りついた場所を見て『ああ、そういえばそんな話をしていましたね』とジトっとした目をベルへと向けていた。
「で、素材やらがお前の叔父さんが残してるんだったか?」
「うん。僕が持ってても、えっと、宝の持ち腐れ?っていうので勿体無いから・・・ヴェルフとアミッドさんにって思って」
「本当によろしいのですか?この廃教会の土地は確か、アストレア様の所有のはずですが・・・」
「お義母さんに聞いて買い取ったらしくって、中の物は僕が決めて良いって」
「ほう・・・まぁ、とりあえず見てみようぜ」
ベルに案内され、廃教会の奥の床下の隠し扉を順番に入る。
中は生活空間がしっかりと造りこまれていてアミッドは思わず『ほぉ・・・』と声を漏らす。
「まるで、ここで誰かが生活しているかのような・・・」
「な、内緒」
「まあ、追求はいたしません」
「こ、こっち」
生活空間から少し奥に、倉庫のような空間がありそこにはこれでもかと視界を覆いつくさんばかりの怪物の素材や迷宮内でしかとれないような物がぎっしりと置かれていた。まるで、御伽噺の海賊の宝のように雑に。
「すごい・・・これは、カドモスの皮膜・・・品質も申し分ありません・・・700万ヴァリス、いえ、交渉次第では多少上乗せしても問題ありません」
「おいおい、こっちにはユニコーンの角・・・こっちも品質については問題ねえ・・・!くそ、ほしい・・・!!」
「僕じゃどうしようもないから、その・・・・自由に・・・」
「そういう訳にはいきません!」「そういうわけにはいかねぇ!!」
『こういうのは、値段交渉とかが重要なんだ! 気軽にあげていいもんじゃねぇ!!』と2人して同じ言葉を投げつけられ、ベルは思わず仰け反った。
―――叔父さん、ずっと狩りしてたのかな?
「おい【
「いいえ!何にお使いになるつもりですか!? 貴重な薬になる素材なのです、おいそれと無駄には」
「防具は無駄じゃねぇよ!」
「くっ・・・」
始まるのは、鍛冶師と治療師の素材を巡る戦いであった。
あるときは素材の使い道について問答をし、あるときはオークションのように値段を言い合っていた。
最終的に、一通り素材を見てお腹いっぱいになった2人はホクホク顔になりながらも
「ベルさん、金銭についてはファミリアの方に入れるということでよろしいですか?」
「うん、それでお願いします」
「俺もヘファイストス様に報告しとかねえと・・・直接のやり取りはお前のとこの団長、副団長とすることになると思うが構わないか?」
「うん、それでいいよ」
これにて一旦話は打ち切りになり、地下室を後にした。
後は墓の掃除を3人でしようと地上に出たところ
「?」
ベルは思わず首をかしげた。
「どうされました?」
「何かあったのか?」
ベルは2人の声を聞いて、墓石を指差した。
「少しだけど・・・ズレてる・・・気がする。」
何か、動かしたのか引きずったような後が床には着いており、ベルはそれが気に食わないように唇を引き結んだ。
「冒険者であれば不意にぶつかったときに動いてしまうこともあるのではないでしょうか?」
「うーん」
「一般人ならともかく、俺達冒険者なら一般人が持てない物も軽々と持てちまうしな。まあ気になるなら調べてもらえばいいじゃねえか。ほら、掃除するぞ」
「う、うん。わかった」
ズレた墓石を元に戻し、3人で手分けして廃教会を掃除し最後に墓前に膝を着いて手を合わせて黙祷をする。
「お義母さん・・・僕、Lv.4になったよ」
少し寂しそうに、泣きそうな顔をするベルの頭を雑にガシガシと撫でる兄貴のようなヴェルフに、無表情に近いが少し微笑みを浮かべてアミッドはベルのことを見つめた。
「あなたのお義母様は・・・冒険者だったのですか?」
「うん、すごい冒険者だったらしい・・・です」
「らしい?」
「僕、冒険者としてのお義母さん知らないから」
「お名前を聞いても?」
「・・・・・アルフィア」
暗黒期にいたであろうアミッドはその名に少しばかりピクリと眉を動かすも『だからといってこの子はこの子、責められる謂れはない』と押し黙った。ヴェルフだけは事情を知っていたがアミッドはまだ教えてもらえておらず少しばかり不満ではあったが無理に聞きだしていい話しでもないし・・・いずれ聞く機会もあるだろう、とその日はそれで解散することとなった。
■ ■ ■
廃教会を後にして
「ベル殿、ベル殿はおられますか!?」
「み、命ちゃん!?」
「あらあら、どうしたのかしら?」
【タケミカヅチ・ファミリア】ヤマト・命。
春姫と輝夜の同郷の冒険者である。
その慌てようから何事かと、ベルは昼食を食べ終え命が座る席の正面にアストレアと春姫と共に着席した。
「・・・・・」
「あ、あの?」
なにやらただならぬことらしい空気を纏った彼女は『いや、やはりやめておくべきでは・・・』『いやしかし・・・!』などとブツブツと呟き、そして、意を決したように口を開いた。
「ベル殿!」
「は、はい!?」
「そ、その、笑わずに聞いてもらいたいのですが・・・!」
目をクワッ!と見開いた彼女は本題に中々入らずに言葉を放っていく。
「ベル殿はスキルで未開拓領域を見つけることは可能ですか!?」
「え、うーん、たぶん、可能だと思いますけど」
「で、ではですね・・・・冒険者依頼をお願いしたく!」
「え?」
「どうしたのかしら?」
「命ちゃん?」
「・・・・・」
黙りこくり、そして、
「『温泉探し』をしてはいただけないでしょうか!!」
その瞬間。
【アストレア・ファミリア】
アミッドさんは確か暗黒期にいた・・・はず。アストレアレコードでそんなこと言っていた様な言っていなかった様な・・・