「――――はぁ。」
「そんな面倒くさそうにするな、ベル」
「だってぇ・・・・」
「こ、これも息抜きでございます! そ、それに未開拓領域が見つかった際にはギルドから報酬が出るとお聞きしましたよ!?」
「息抜きで【穢れた精霊】やら【
「もうすんだことだろうに」
「頑張ってくださいませ、そうすれば、アストレア様やアリーゼ様もお喜びに・・・」
「―――やりましょう」
「ベル殿、もしやチョロ!?」
場所は
「この『未開拓領域』は外れだな」
「―――はい。流石に上から下に行くとキリがないので下から上に行く形で始めましたけど・・・まさか17階層でいきなりみつけるなんて」
「幻想的でございましたが・・・残念でございます。」
「レフィーヤさん辺りに教えたら魔法の練習場に使いそうだなぁ」
「マッピング済みの地図まで持ってきていただいて申し訳ございませんベル殿・・・・」
「いや気にしないでください。疲れるからあんまり乗り気じゃないですけど・・・輝夜さんも『面白そうだからやってみろ』って言ってましたし。でも、見つからなくても文句言わないでくださいね?」
「も、もちろんです!」
「ええっと事前に調べた情報では、ゴライアスの再出現まではまだ余裕があるようでございますが次に参りましょう!」
「じゃあ、行きましょう」
振り返るは数時間前のこと。
「ベル殿!『温泉探し』をしてはいただけないでしょうか!!」
その一言に、話を聞いていた少年と少女、そして女神は言葉を失った。
声の主は【タケミカヅチ・ファミリア】所属、ヤマト・命。
春姫の同郷にして幼馴染の少女である。
数瞬の沈黙の後、少年は立ち上がった。
「春姫さん、僕、疲れてるみたいです。春姫さんの部屋でお昼寝しててもいいですか?」
「あ、はい。それでは私も・・・はっ!?い、いけませんベル様!私のお部屋はまだ掃除の最中といいますか、衣類も散らかっておりますので!!」
「僕は別に気にしないですけど・・・」
「き、気にしてくださいませー!?」
自分達の目の前に座る少女が言った言葉がいまいち理解できず、『自分達は疲れてる』という自己回答を出した少年は一度仮眠を取るべきだと思ったのだった。しかし、それは女神が許さなかった。
「ベル、待ちなさい。命ちゃんが可哀想よ、話はちゃんと聞いてあげなさい」
「で、でも!?」
「―――人には、成し遂げなければならない何かがあるのよ」
「言っている意味が!?」
「
「「ア、アストレア様が壊れたァ!?」」
バグった女神を少年は涙目で抱きしめ、揺さぶるも『いいのよ・・・』とか『ダンジョンダンジョン』とか言うばかりで少年は女神に膝を提供し、命の話を聞くしかなくなってしまった。
「ひっく・・・アストレア様・・・僕、アストレア様の仇・・・取って見せます・・・命さん、どうぞ、詳しく」
「な、なぜ、こんな騒ぎに・・・?」
少年の膝を枕に幸せそうな顔で少年のお腹に顔を埋める女神の頭を撫でながら、詳しい話を2人は聞いていく。【タケミカヅチ・ファミリア】は所謂、零細ファミリアなるものらしく、だからと言って不満があるわけでもなく生活も何不自由はない。けれど彼女はふと、湯船に浸かりながら―――
『聞いたところでは
などと思い至ったらしい。
ならば、あるならば是非とも入りたい。オラリオ近辺に温泉があるのかはわからないが、温泉が恋しくて堪らない。しかし探す手段がないぞ?と思ったところでさらに―――
『確かベル殿は・・・怪物に襲われないスキル、空間を把握するスキル、怪物を呼び寄せるスキル等があったはず・・・・であれば、未開拓領域に可能性を見出すのもありなのでは?』
湯船に沈み、ブクブクと泡を立てながら彼女は1人の少年に白羽の矢を立てたのだ。
最も、彼女はその3つのスキルが1つのスキルの効果でしかないことなど知らないわけだが。
彼女は、ザバッ!!と湯船から飛び上がりシュバッと着替えを済まし、翌日のために早めの就寝についた!!その姿に主神も
『え、まだお前、夕飯食べてないけど・・・』
と固まってしまった。
呼びかけても、彼女は目覚めることはなかったという。
「―――というわけでございまして。零細ファミリア・・・いえ、これは私の個人的な依頼!!報酬も未開拓領域が発見された際の報酬の全て!!いえ、お望みのものがあれば何なりと!!」
その気迫に、少年は恐れおののいた。
女神がバグるほどの存在なのか?と。
目の前の少女がそこまで気迫を纏うほどのものなのか?と。
―――輝夜さんがいつか温泉に連れて行ってやりたいとか言ってたけど・・・普通のお風呂じゃ駄目なんだろうか?
「あ、あの命さん」
「はい、なんでしょうベル殿!」
「その、【デメテル・ファミリア】の乳白色になる『おんせんのもと』っていうのではダm・・・」
「駄目です」
「アッハイ」
やばぁい・・・この人、こわぁい・・・目がこわぁい。
少年はドン引きして、隣に座っている狐人の少女の尻尾を握り締め耳元で声をかけた。
「あの、春姫さん、命さんって怖くないですか?」
「ち、違うのですベル様・・・命ちゃんはお風呂好きというだけで・・・」
「温泉ってそんなに凄いんですか?」
「そ、それはもう・・・女性は喜ぶものでございます」
「春姫さんも入りたいですか?」
「は、はい!可能ならば是非!」
春姫も入りたいと言っている。
ベル自身、別に予定があるわけでもない。しかし、中途半端な時間帯から
「今から行っても、変な時間だしなぁ・・・」
「夕飯を食べて、集合して行ってくればいいんじゃないかしら?」
「―――アストレア様っ!?」
「ご復活でございますか!?」
復活した主神アストレアは柔らかな慈愛の顔で微笑んで、少年の頭を撫でながら『受けてあげたら?』と言う。
「いいんですか? 深夜徘徊になりますよ?」
「そうでございます! アリーゼ様達が『ベルは真夜中に出歩くの禁止。帰って来れなくなるから』と言っていたのを聞いたことがございます!」
「でも、
「むむむ・・・わ、わかりました。じゃぁ―――」
『行きましょうか』と話は決まり、
・1~18階層の範囲でのみの探索。
・無かったら大人しく諦めること。
・18階層から順に上に上がっていき1階層ごとに隅々まで探索。
等々、打ち合わせを済ませて夕飯後にバベル前に集合ということとなったのだ。
パーティはベル、サポーター役の春姫、命、緊急事態を考えての輝夜の4人。
集合し、一度18階層に向かいそこから順に地上を目指して探索を開始した。
開始して数分後、17階層にてさっそく未開拓領域を発見したのだ。
そして冒頭へと戻る。
「18階層については実質調べないようなものだな。」
「うん、18階層はちょっとややこしいし・・・」
「で、この壁でいいのか?」
「うん。」
「少し、下がっていろ」
ベルの探知で壁の向こうに空間があるのを発見し、輝夜が壁を破壊する。
破壊したその先はかなりの広さを持った空間があり、地面には雪のようなものが落ちていた。
その空間を歩いていけば、どういう訳か【
春姫の【ウチデノコヅチ】とベルの【
「何の精霊だったんでしょ? 『【―――才禍ノ・・・・代行者タル我ガ名ハ・・・】』とか言ってましたけど」
「・・・・・」
「輝夜さん?」
「ん?ああ、いや、なんでもない。そもそも【穢れた精霊】は1つの精霊の魔法しか使わないわけではないだろう?」
「言われてみれば・・・」
「私達が戦った【穢れた精霊】より弱かったのが幸いというかなんというか・・・とりあえず帰ったら団長に報告だな」
「戦ったこと怒られるかな?」
「大丈夫だろう、私がいたんだから」
17階層の未開拓領域については『
4人はさらに上層へと足を運ぶ。
道中は命のスキルとベルのスキルについてが話題に上がっていた。
「命さんのスキルって僕のとはまた違うんですね」
「そのようです。自分のはモンスター専用の探知系スキル【
「えっと・・・【
「それは怪物が襲ってこないというアレ・・・でしょうか?」
「はい、初見の皆さんが声を揃えて『気持ち悪い』というアレです」
「す、すいません!?」
「それで、アクティブ・・・自分の意志で害あるものを誘引できます。これは、前の異端児の時にしてわかったんですけど冒険者相手でもできるみたいです」
「ああ、それは少し違うぞベル。聞いたところ、『抗えないわけじゃない』らしい。ただ、引っ張られる感覚はあるようだ」
自分より上の相手には恐らく効果がないものだと思えと輝夜に言われ、『
「ああ、それも効果の1つです。
「対象によって音波変質とは?」
「えっと・・・命さんが他の冒険者とパーティを組んで別のエリアにいても見つけられないけど、輝夜さんや春姫さんなら、見つけられます。ようは個人を特定できるか否かです」
「なるほど・・・どのように特定するのですか?」
「・・・接触頻度の高さというか、胸の鼓動を何度も聞く必要があるというか・・・・・」
「・・・・・」
『春姫殿!お幸せにー!』と迷宮内で何かを察した少女の声が響き渡った。
■ ■ ■
ボゴォッ!! と石壁が崩れ砂が地面に流れていく。
13階層に到達した頃、また未開拓領域を発見した。
時間も既に深夜を回っており、少年はウトウトとして
「怪物との戦闘が殆どなく探索できるというのはこうも楽とは・・・」
「ですが、17で見つけてからようやく2つ目でございます。」
「そうそうあるものと思うなよ?見つけるなら、更に下だ。下に行けば行くほど、そこにたどり着ける冒険者の数も減るからな」
「確かに」
「ベル様、大丈夫ですか?」
「・・・・・んぅ」
「飽きたか」
「飽きておられます」
「飽きられてしまわれました」
つまるところ、少年は既に探索に飽きていた。
迷宮1階層ごとに隅々まで回っていたことで時間も掛かり、15階層に来た頃には輝夜におぶられていたほどだ。
「しかし・・・スンスン・・・ふふっ、これは当りの予感!」
「何?」
「み、命ちゃん!?」
命はその温泉レーダーたる鼻をスンスンとさせ、地面に這い蹲り、テケテケと未開拓領域を先行して行きその後を2人が追う。そして辿りついた場所が
「・・・・まさか、」
「本当にあるなんて・・・」
「おおぉ・・・ついに、自分が求めていたものが・・・!」
視界にはいくつものクレーター状になった水溜りがあり、その水溜り全てから湯気がでておりさらには周囲に生えている竹のような植物からは風呂桶のようなものがまるで木の実のように生っていた。
命は膝を付き頭から湯に突っ込んで、テイスティング!!
少女のお湯を飲み込む音が後ろの2人の耳に吸い込まれていく。
そして、命はカッと目を見開き、ぷはぁっ!と顔を上げて振り返り! 親指を立てた!
「湯加減、塩加減申し分なし! 最高の逸品です! 是非入っていきましょう!」
「わぁ・・・輝夜お姉様!ベル様!温泉でございます!」
「ああ・・・長かった・・・とても・・・とても長かったな・・・ベル、よく頑張ったな」
「んぅ・・・」
4人・・・1人を除いて3人は既に深夜テンション!!
いざ尋常に全裸!と言わんばかりに勢いよく脱ごうとした。
脱ごうとしてベルが男であることを思い出した輝夜が脱ぐのを止めた。
「輝夜お姉様?」
「タオルを巻けばよいのでは?」
「何故都合よく用意しているんだ? いや、私は向こうの方でベルと入ってくる。お前たちはこっちで入っていろ。怪物がいるかもしれないから2人で見てくる。お前たちも警戒はしておけ」
輝夜はベルを再び背負い、怪物がいないかどうか、丁度いい湯加減の場所を求めて歩きに歩いた。
「ベル、起きてくれ」
「んー・・・?」
「んぅっ、こらっ、耳を甘噛みするな! やり返すぞ!?」
「良い匂い・・・」
「いや、汗かいているから気持ち悪くないか?」
「そう・・・かなぁ」
「それより、念のため怪物がいないか確認したい。手伝ってくれ。それが終わったら一緒に入ろう」
一度ベルを下ろし顔を洗わせて目を覚まさせ、探索すること数分。
奥の空間にてシャンデリアとはまた違った丸く、赤い光を灯した照明のようなものを見つけてベルが指を指した。
「あれ、怪物」
「よし、殺そう」
そうして討伐されるは、提灯アンコウのような見た目の温泉の主。
主と同種でありながらも小型の取り巻きのような怪物も現れたが、輝夜によって瞬殺。板前よろしく綺麗に捌かれて灰に変わっていった。その後は、足を伸ばせる丁度いい場所を吟味して輝夜はベルと湯に浸かっていた。
「ふぅ・・・・どうだベル、温泉は」
「んー・・・温かい」
「まだ眠たいのか?ほれ、お前の大好きな姉の乳房が隣にあるんだぞ?」
「んぅ・・・」
「はぁ・・・眠気が勝ってるか。せっかく奉仕してやろうと思ったのに」
「抱きしめて欲しい」
「・・・・ほら、もっとこっちに寄れ」
「・・・・うん」
他に怪物の気配もなく、2人は数十分ほど温泉を満喫し1人は姉に体を完全に預けて眠りについた。
湯から上がり、着替えをすませて来た場所へ戻ると命と春姫も一頻り満喫したらしく頭から湯気が上がってはいるが満足げな顔をしていた。
「では、帰るとするか」
「はい!」
「輝夜殿、ベル殿、春姫殿、今回は個人的な依頼とは言え、付き合っていただきありがとうございます!」
「奥に怪物がいた。恐らくはそいつのせいで今まで見つけた冒険者が餌食になって報告されていなかったということだろう。さて、報酬だが・・・」
「・・・・ごくり」
『お前達に金がないことくらいわかっている』と輝夜は言い放ち、出口へ向けて歩き出した。
ぽかーんとする命に、輝夜の後を追うように小走りする春姫。
輝夜は少しだけ振り返って命の呆けた顔を見るとクスリと笑い
「依頼されたベルは金に興味がないし・・・そうでございますねぇ報酬は・・・ギルドに報告する前に、我々で堪能させてもらう。ということで手をうちましょう。報告したら碌に楽しめなくなりそうでございますし」
とだけ言って、命もその輝夜の物言いにホッとして後を追い4人は無事地上に戻りそれぞれの
【13階層にて未開拓領域を発見】
・未開拓領域内は全て温泉であった。
・大型の怪物(恐らくは主と思われる)が存在していたため、武器の携帯が必須。
・定期的に怪物が生まれていないか確認する必要性アリ。
なお、本当に迷宮内に温泉があったことに驚いた女神アストレアは報告を聞いてちょっぴり拗ねた。