兎は星乙女と共に   作:二ベル

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タルヴィちゃん実装してほしい


なんてことのない不幸な国のお話

「――――『おいでよ! 毒沼の森!!』」

 

 

 

手紙の内容を読み上げて、それを聞いていた【アストレア・ファミリア】の眷族達が咳き込んだ。

続いて始まるのは、『ふざけてるのか!?』という動揺と騒ぎ声だ。

 

 

「ベル、ふざけるな!」

「そうです!真面目にやりなさい!」

「えっ・・・ぼ、僕!?」

「あなたを指名した冒険者依頼(クエスト)なのでしょう!?なのに読み上げるあなたが何をふざけて・・・!」

「ひっ!?」

「コホン。落ち着きなさい、貴方達。――ベルがこんなおふざけをするはずがないでしょう?」

 

 

何故か自分のせいにされてしまった少年は涙目になって隣に座る女神に抱きついて顔を隠し、女神は少年を庇うようにして手紙を取り上げ内容を確認。少年がふざけていない事を照明した。眷族達は少年に謝罪したのち、団長に抗議の目を向ける。

 

 

「おい団長」

「アリーゼ」

「い、いや~・・・みんなの反応(リアクション)が見たくって。てへっ☆」

「「正座」」

「アッハイ」

 

 

いらん騒ぎを起こした派閥(ファミリア)の団長は、『私はベルを使って口に料理やら水やらを含んだ皆を驚かせて吹き出させました』という反省札を首からぶら下げられリビングの端で正座させられた。

 

 

「―――ベル、すいません。続きを・・・」

「いや」

「ベル、悪かった。すべてあそこの阿呆のせいだ、怒って悪かった、な?」

「いーやっ」

「「くぅ・・・!」」

 

 

姉達は涙目の少年にはすこぶる弱かった!

少年は相変わらず女神に抱きついて顔を隠しているも声が震えているのが丸分かりであり、きっと今振り返ればあの涙を溜めて潤んだ深紅(ルベライト)の瞳が魔石灯の光を反射させて彼女たちのハートを穿つに違いない。その瞳の脅威を経験している姉達は、しかし、それでも、見てみたかった!!

 

「ベッドで抱きついてくる時のあの潤んだ瞳」

「潤ませて『おかわり』を求めてくるあの瞳」

「そう、これが、御伽噺に出てくる蛇の怪物の・・・」

「 【魔眼】 というやつなのね? 」

 

主神と少年、そして反省中の団長を他所に眷族達は小声でそんな全く持って違う話し合いを始めてしまっていた。

 

「貴方達・・・大丈夫かしら?」

「あっ、す、すいません!? ベ、ベル、ご、ごめんね?」

「・・・・・」

「ベ、ベル?その・・・」

「しつこい男は嫌われるぞ」

「ぼ、僕、怒ってない!大人だから!」

 

輝夜に言われたその一言に、ぴくりと肩を揺ら下唇を噛み締めながらフンス!と女神から離れて姉達の方へと向き直った。しかし、涙を拭うのを忘れていたせいか、瞳は潤んで、タラリ・・・と1滴頬を伝っていく。それを、そのちょっとお馬鹿な姿を見て姉達は顔を寄せて再び2人を他所に話し合いを始めてしまう。

 

「ねぇあれずるくない!?」

「しかも、チョロ!?」

「輝夜にいいように弄ばれている光景が眼に浮かぶ・・・」

「あれが数多の女性冒険者と女神のハートを打ち抜いたと噂の【女神殺し(テオタナシア)】なのね!?」

「それは非公式ですよ。正式には【夢想兎(トロイメライ)】です。ちゃんと覚えてあげないと本気で嫌われますよ」

「そ、それは嫌!!」

 

 

「アストレア様、僕もう寝てていいですか?」

「あら、お風呂は?」

「アストレア様、行きましょ?」

「うーん・・・ちょっとだけ待ってほしいわ」

「えー」

「ほら貴方達、話が進まないのだけれど?」

「「「すいません」」」

 

完全に手紙を読む気を失ってしまった少年の変わりに、女神は少年を抱きながら読み上げ始めた。

 

 

『―――まず、この手紙を読んで腹を抱えて笑っているのであれば『掴み』はオッケーだということだろう。』

 

『なぜ、ふざけたのかだって? お前等知らねぇの? 応募ハガキ出す時にただ説明通りに書くよりも『ちょっと派手に』『ちょっとキラキラさせたり』したほうが抽選する奴の目に止まって選ばれるかも・・・なんてジンクス的なのあるだろ? それだよ』

 

 

「「「「どれだよ!?」」」」

「ひっ!?」

「貴方達、一々ベルを怯えさせないで。」

 

 

『――まあ、読み上げているってことは眷族共は無事にオラリオに到着し、遊んでから帰ってくることだろう。【かきょーいんの魂】を賭けると勝ち確だぜ?って言ったらタルヴィのやつが『じゃあ、大賭博場(カジノ)でベルテーンを豊かにしてくるわ!』とか言ってたから大方、大賭博場(カジノ)で遊んでいることだろう。赤字になって帰ってきたら、マジで助けて。』

 

 

「え、つまり金を貸せってことですか?」

「違うわ」

 

 

『―――では、ベルテーンとはどのような国か?について説明してやろう。』

 

『ベルテーンとは、割とすごい力を持っている泉・・・【生命の泉】が存在する国だ。湧き出る水は傷を癒し、疲れを取り、病も治す。簡単に言っちまえば天然で湧く特殊な回復薬(ポーション)みてーなもんだ。』

 

『何百年くらいか前、ここに住み着いた連中はその泉を有難がった。』

 

『これは奇跡の泉――』

 

『そうだ!【ここをキャンプ地とする!】的な感じで、ここに国を作った。ここが我等の楽園だ!!・・・そうしてできたのがベルテーンだ。』

 

『しかし、その楽園は永くは続かなかった。』

 

『ある日、その楽園で悪い方の奇跡が起きた。起きてしまった。』

 

『――はじめは、一匹のモンスターだった。誰にでも簡単に討伐されるような、どこにでもいるモンスター。それが偶然、【生命の泉】に落っこちた。どんぶらこっこどんぶらこってな。』

 

『これが後に【万有引力】とよばれる現象の誕生ではないかと学者達は語っている』

 

 

「この手紙を書いた人物は一々ふざけなければ死ぬ病気にでもかかっているのでしょうか?」

「う、うーん・・・・」

「アストレア様、大丈夫ですか?」

「え、ええ、大丈夫よ。こほん」

 

 

『―――失敬。たまたま泉に落っこちたモンスターは、たまたま【源泉】にへばりついた』

 

『――へばりついたモンスターは次第に泉の力を吸い始めた。何十年、何百年とかけて、そのモンスターは泉の力を取り込み続け――』

 

『【おや、モンスターのようすが・・・?】 なんて言う間もなく、対処する間もなく、どうしたらいいのかもわからず、いつしか、化け物ができあがっていた』

 

『その瞬間、【楽園】たるベルテーンは、【毒沼の森】へと変貌した。』

 

『誰が悪いわけじゃない、誰が始めたわけじゃない。ただ、たまたま、そうなった――』

 

『国の奴等だって何もしてこなかったわけじゃあない。しかし、沼に引きずり込むわ、他のモンスターも吸収して力をつけるわ、・・・普通にやっても倒せるもんじゃない。どうしようもなく国の連中は慌てた』

 

『奇跡の泉がおかしくなっている。どうすればいい?何をすればいい?―――そこに現れたのが、(アタシ)だ。』

 

『この土地に降臨したアタシに国の連中は()()した。国を救う方法はないかと』

 

『アタシは、()()()()()()答えてやった、方法ならあるってな』

 

 

その方法は、『生贄』でありただの『生贄』ではなく犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)狼人(ウェアウルフ)牛人(カウズ)兎人(ヒュームバニー)猪人(ボアズ)狐人(ルナール)、他にももっと・・・只人を媒介にして妖精の血も混ぜ獣人を中心に、30以上を。どれかの血が濃過ぎても、配合の順番を間違えてもいけず何世代にも渡り決められた通りに子を産んで、1人の『贄』を造る。

 

『―――儀式を行うための、【生贄】が、それでありベルテーンの姫であるタルヴィである。【生贄】のために造られたタルヴィは生贄(タルヴィ)であり、明確な種族名は存在しない。混ぜ合わせた血が故だ。』

 

『ここでお前達は、【その儀式とは何だ?】とそこの優等生ぶったおっぱい女神に()()することだろうからあらかじめ答えを用意しておいてやる。儀式とは【旅立ちの儀】であり、土地を脅威から――【沼の王(怪物)】から守るための儀式だ』

 

 

「優等生ぶったおっぱい女神・・・」

「ベル、今は駄目よ」

「僕何もしてないですよ?」

 

『何故、儀式のためにそこまでの血を混ぜるのか? いいだろう、その質問、答えてやる。無料でな。』

 

『言わば攻略本に載ってある通りにキャラクリをするようなものだ。そうしてできあがったそいつにはとある『魔法』が発現するんだ。それは『毒の結界』。しかも、【沼の王】にすこぶる刺さる。所謂、特攻持ちキャラ誕生!というやつだ。意味、わかるか?時代についてこれてるか?ついてこいよ?このでっかいビックウェーブに』

 

 

ちょいちょい煽ってくるような馬鹿にしてくるような、そしてたまに自分達の主神に『優等生ぶったおっぱい女神』というセクハラまがいの文面に眉根をピクピクとさせながらも大人しく話を聞く眷族達。しかし、『生贄』だとか『儀式』だとかなにやら不穏なワードのオンパレードに全員が真面目に聞いていた。反省中のアリーゼでさえも。

 

 

『――生まれた生贄(タルヴィ)を『結界ごとモンスターに食わせる』んだ。造られた『生贄(タルヴィ)』は文字通り『毒の爆弾』だ。【生命の泉】の繋脈(パス)をズタズタにブッ壊されて、【沼の王】は回復に専念せざるを得なくなる。』

 

『これにて、この国は救われる。ハッピーエンドだ!!』

 

 

不穏だし、生贄のために造られたなど気に入らないが国が救われると聞いてなんともいえない顔をする眷族達。けれど、それで終わりではない。

 

『と、言えればよかったが、答えは、ノーだ。』

 

『その怪物に『生贄(タルヴィ)』を食わせれば、その【沼の主】は倒せるか? 答えは ノーだ。倒すのは無理、だが眠らせるくらいはできる。』

 

『どれくらい眠らせられるのか?―――数十年くらいは動きを止める。この国は、それを何度も繰り返してきた。何人も食わせてきた。』

 

 

『そして、これからも繰り返し続ける。それがベルテーンの歴史ってわけだ。』

 

『潔癖症なエルフはきっと、こう言うだろう。【人と人を掛け合わせ、死ぬための命を造るだと?そんなものは生命の冒涜だ、許されるものか!】とな。』

 

『――だが、そんなものはアタシの知ったこっちゃない。何より、合意の上だぜ? 質問あるか?』

 

 

読み上げたアストレアが目を眷族立ちに向けるとリューが手を上げていた。

アストレアが『どうぞ』と促すとリューは質問を行う。

 

 

「この国の人に何故、それを教えたのですか?」

 

その質問に、アストレアは『彼女は未来でも見えてるのかしら?』とこれまた何ともいえない顔で読み上げる。

 

『聞かれたから答えただけだ。そうしろだとか、そうすべきだとか、そんなことは一切言ってない。この国の連中がアタシから話を聞き、自分達で考え、自分達で選んだことだ。アタシを責めるのはお門違いだろ?』

 

『もし仮に、アタシが何も言わなかったらこの国の連中全員がくたばってるだろうな』

 

これは『百』か『一』か、どれを選ぶかというだけのことであり英雄譚(れきし)を紐解けば似たようなことなどゴロゴロとある話だ。これはただの1例に過ぎないのだと手紙の主は語る。

 

 

『―――しかし、国の連中はその『百』か『一』かで揉めに揉め、『(タルヴィ)』をとったんだ。いや、正確には『どっちも』を望んだ。【儀式】の時期はまだ先だっていうのに、棺桶に入れるタルヴィの好きなものを集めるでもなく、選びやがった。』

 

 

長い長い繰り返しの果てなのか、殉教に疲れてしまったのか、それはわからなかったがその繰り返しを終わらせるという選択肢を取ったらしい。

 

 

『繰り返しても()()()()()()()、解決にはならない。祖先から受け継いできた死の病を抑えるためには【生命の泉】がいるというのに、選んだ。選んでしまった。』

 

『だが、方法がない。【沼の主】を滅ぼす手段がない。私からしてみれば、とっくにベルテーンは詰んでいるってのに、国の連中はどうすればいいか、と()()してきた。だから、答えてやったんだ。』

 

 

冒険者依頼(クエスト)を出せってな。―――ウスカリはキレた。めっちゃ、キレた。こえーよあいつ。【2()0()0()()()()()()()()()()()()()!!】ってよ』

 

 

派遣された冒険者は全滅。

それでも恥を承知で頼んでもう一度頼んだ。

どうかもっと強い【ファミリア】を、最強(ゼウスとヘラ)の力を貸してくれと。

当時のギルドはこう答えた。『国を捨てるのが賢明だ』と。

 

 

『ウスカリが怖かったから、アタシは偶々読んでいた【月間オラリオ】をウスカリに放り投げてやった。偶々書かれてたんだよ、そこに。』

 

 

『―――【怪物にされた人間を治した英雄(ばか)】がいるってな。ウスカリたちは紙に穴が空くかってくらい何度も何度も読み漁った。目が見えねえはずのリダリまで。最後にはタルヴィの角で紙が破れちまったが。――より詳細な情報が欲しかったらしい。そして最後の最後に頼みの綱・・・いや、蜘蛛の糸と言うべきか?冒険者依頼(クエスト)を出すことを決めた。腹を括った』

 

 

思い起こされるのは、オラリオ全土を覆いつくした特大の魔法。

怪物にされた知己(アーディ)を治したというあの瞬間、あの光景。

あの魔法ならばもしや・・・と、ベルテーンの人間は思ったらしい。

同じく【アストレア・ファミリア】の団員達も思い少年に視線を送る。

少年は既に疲れていたのか女神の胸に抱かれるように眠っているが。

 

 

『えっとー・・・・なんだっけ。そう、冒険者依頼(クエスト)だ、冒険者依頼(クエスト)。面倒くせーけど代わりに書いてやってるんだ、なんとかしてやってくれ。【正義の眷族】様よ』

 

 

 

「―――以上、ベルテーン【ヴェーラ・ファミリア】主神・ヴェーラより」

「それで?」

「ベルだけが行くと?」

「あら、私も行くわ」

「アストレア様が?」

「だって、ベルがヴェーラに会ったら何するかわからないもの。」

 

 

いやさすがに女神に手を出すとは・・・と一瞬考えて、『いや、前科(イシュタル)があったな』と思って言うのをやめた。

 

 

「ですが、どうやって許可を取るのですか?」

「――大賭博場(カジノ)に行ったときにどうやらギルド長(ロイマン)を大負けさせたらしくってね・・・たぶんそれを言えば震え上がって許可を出すと思うの」

 

眠れる少年に目を向けた姉達は戦慄して心を1つに声を上げた

 

「「「怖いもの知らずか!?」」」

 

と。

そこで反省を終えて足が痺れるせいで立てないのか四つん這いで戻ってきたアリーゼが面子を決めていたのか発表していく。

 

 

「行く面子は決めてるわ! ベルとその保護者としてアストレア様。輝夜とリオン、それと春姫」

「わ、私でございますか!?」

「なんかこう・・・直感がね。春姫を行かせろと囁いてるのよ」


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