問題児と悪魔の妹が異世界から来るそうですよ? 作:亡き不死鳥
普段より文字が多くなったけどまあどうぞ。
耀を、友達を、この手で殺そうとした丁度その時、私の右腕が吹き飛ばされた。聞き慣れた音、見慣れた色、たった一月前にも見た真紅の槍。
それを使う存在は、フランの知る限り一人だけだった。
「……お姉様」
紅い軌跡を辿る先、フワリと浮かび上がるスカートをはためかせ、悠々とした表情に勝気な笑みを浮かべ、先程私の腕を吹き飛ばしたものと同じ槍を持っている。
500年もの間共に過ごして来た姉レミリア・スカーレットだった。
「一ヶ月ぶりね、フラン。元気そうで安心したわ」
普段と変わらない少々大人ぶった声色でフランに話しかけるレミリアだが、その表情は若干嬉しそうだ。たった一月とはいえ離れ離れになっていたせいだろう。攫われた直後に紫に食ってかかった姿を見た者たちなら納得のいく光景だ。
そんなレミリアの後ろに瞬間移動したかの如く一瞬でメイド姿の少女、十六夜咲夜が気を失った耀を抱えて現れた。
「お嬢様。春日部耀の保護、完了しました」
「ご苦労様咲夜。ノーネームのウサギは美鈴に迎えに行ってもらってるからそのままパチェの所に行って頂戴」
「かしこまりました」
再び一瞬で消えた咲夜からレミリアは視線をフランに戻す。
燃え盛るレーヴァテインを構えたまま静かに此方を見据えている。八雲紫に聞かされたとおり狂気が少ないというのは本当らしい。その僅かな理性で襲いかかるのを堪えているようだ。
その理由が姉が傷つくのが嫌なのか友達をこれ以上傷つけたくないなのかは分からないが。
前者なら頬ずりしたいくらい愛おしく思えるし、後者ならちょっと嫉妬してしまうかもしれない。どちらにせよ、やはり私の妹は世界一可愛い。異論は認めない。
だからそろそろ可愛い可愛い妹が苦しむのは終わりだ。妹の嫌な事は姉が請け負い、妹が苦しんでいるなら姉が助ける。何百何千何万年経とうとそれは変わらないのだ。
「フラン、いいかげん
ビクッとフランの身体が震える。レーヴァテインを持つ手には力がこもり、レミリアの言うように何かを我慢している様子が伺えた。
「フラン。貴女は私の妹、私の家族よ。
私の家族である以上私達に遠慮することは許さないし、自分のしたい事を全力でやらないなんて許さないわ。
ダメな事は私達が叱ってあげるから、叱られるまでは好き放題やりなさい。
叱られてもやりたければまた叱られるまで好き放題やりなさい。
そんでもって今から勝手に家を出てった事を叱ってあげるからとっととかかって来なさい!」
ビシィ!と効果音が付きそうなほど勢いをつけてフランを指差す。
いつも通りでいつも通りな姉にちょっと安心する。姉曰く、姉を困らせるのも妹の仕事らしい。よって今回も姉を頼らせてもらうことにしよう。
フランは僅かに残していた理性を手放した。
抑えられていた蓋が外れ、本能が溢れ出す。妖怪としての、吸血鬼としての、フランドールの破壊衝動。
………友達の前では見せたくなかったフランの本性とも言える部分だ。
「…アハッ♪」
☆☆☆
背中が冷たい。どこか硬くて冷たい所に寝かせられているようだ。
身体が暖かい。なにか不思議な力が流れ込んでいるような感覚だ。
目の前が暗い。何かに目を塞がれているように何も見えない。
目の奥が明るい。なにかの光が自分の顔の前で光っているようだ。
そこでようやく思い出す。自分はフランと戦いそして勝った……はずだ。そこからの記憶はない。フランの身体から手を話し、フランが泣きそうな顔で此方に手を伸ばしていたのだけは思い出した。
ならば今、自分は何処にいるんだろう。ゆっくりと重い瞼を開く。目を開けるだけなのに想像以上に体力を使う。
そして目の前に見えたのは赤色と紫色の髪。
それに加えて宙空に浮かぶ五色の結晶だった。
「……きれい」
「あ、起きました?」
耀の消え入りそうな声を聞き取り赤髪の女性が人懐こそうな笑顔で耀の顔を覗き込んだ。華人服とチャイナドレスを2で割ったような不思議な服を着ている。
「もう少し待っててくださいね。今私の気とパチュリー様の治癒魔法で傷を塞いでますから。それにしても黒ウサギさんを助けに行って戻ってきたら春日部さんも居たのでびっくりしました。それにあんな大怪我して痛かったでしょう?あ、黒ウサギさんの方は安心してください。元々そこまで大きな傷はなかったので傷を塞いで寝たらすっかり良くなってると思います。フラン様の事も安心してくださいね。フラン様の姉君であられるお嬢様が止めてくださいますので。おっとと、忘れてました。私の名前は紅美鈴。こちらの紫の方はパチュリー・ノーレッジ様です。実は私達もコミュニティ“幻想郷”としてこのゲームに参加したはいいものの八雲紫に止められて……」
「そろそろ辞めなさい美鈴。怪我人に貴女のマシンガントークは拷問よ。あと紫の方って言うの辞めなさい」
コロコロとした笑顔で耀に話しかけてくる美鈴だが、話す量が多い。相槌を打とうにも間髪いれずに次の話題に行ってしまいそれも難しい。まあ、うん、悪い人ではないのは分かる。こちらを労わる言葉も黒ウサギを助けたこともこの人の名前もよくわかった。だが長い。正直起きたてホヤホヤの頭に長ったらしいセリフを突っ込むのは勘弁願いたいものだ。その点に関しては止めてくれたパチュリーさんとやらに感謝したい。
「ごめんなさいね。普段寝てばっかりのくせにこう言う時だけはお喋りで……」
「ちょっと待ってくださいよパチュリー様!私だって寝てばかりって訳じゃないんですよ!?魔理沙が来た時は門番として立ち塞がってますし(止めてるとは言ってない)、この前なんかオオナマズを(夢の中で)退治したりとか…」
「うるさい」
「……はい」
……楽しそうな人達だなぁ。
耀は純粋にそう思った。
「……それよりフランはどうなったの?お嬢様が相手してるとか言ってたけど」
「あぁ、それはですね……ちょうど上を通りかかりそうです」
「上?」
美鈴の視線を追い耀は空を見上げる。それと同時に耀たちの上を二つの影が通り過ぎた。一つは見知ったフランの顔。もう一つはフランに瓜二つだが、髪の色が青っぽいのと背中に生えた翼が蝙蝠に似ていて吸血鬼っぽい感じのひとだった。
ぱっと見フランが押されているように見えた。
フランがもう一人に突っ込み炎の剣と紅い槍が交差する。拮抗するかと思いきや、紅い槍はガラスの割れる音をあげてアッサリと壊れてしまった。しかしそれに焦る事なくもう一度槍を生み出し、フランの攻撃を槍に滑らせるように受けてから蹴り飛ばした。
それにより距離が離れ、今度は弾幕が空を駆け巡る。フランだけでなくもう一人も弾幕を放っているので、空が紅く輝いているようだ。
「……お嬢様ってば私達がこっちにいること忘れてません?」
「レミィが妹様の相手をしている時にそんなの考えるはずないじゃない」
「ですよね〜」
結構な危険が真上を通り過ぎているわけだが、この二人は特に慌てる様子はない。上のもう一人と知り合いなのだろうか。
「…あの」
「ん?あぁ、心配ないわよ。隠匿術式を張ってあるから妹様がこっちに向かってくることはないわ」
「いやそうじゃなくて、上の人のことを知りたいと思って」
「そういうことね。あれは…」
「あれはレミリア・スカーレットお嬢様。フランドール・スカーレット様の姉です」
「…………」
「レミリアお嬢様は幻想郷、つまりフラン様の出身地である紅魔館の主です。フラン様との年の差は五歳しかありませんが姉として妹様を守り続けている立派なお方ですよ。我々を家族として迎え入れてくださり、心が広く楽しいことが大好き。他にも館に不法侵入してきた天狗とモケーレムベンベごっこをしたり、アームチェアディテクティブごっこをしたりなどユーモアに溢れた発想をお持ちで、二つ名にスカーレットデビルという異名を……」
「長い」
ガスッとパチュリーの持ってた辞書のような厚さの本が美鈴の頭を叩く。かなり鈍い音がしたけど美鈴は「いやーえへへ」と笑っているので平気そうだ。
とりあえずあのレミリアという子がフランの姉だということは分かった。しかしそれならそれで心配になってくる。妹だからと言っても今のフランは凶暴だ。はたして吸血鬼でも止められるのか。
心配が顔に出て居たのか、美鈴は目ざとくそれを見つけて笑いかけてきた。
「春日部さん、不安でしょうがどうか安心してください。お嬢様は妹様に関しては天才ですから」
「そうね、レミィが言うには妹様のことは全てわかると豪語してるわ」
「…でも今のフランは」
「大丈夫よ。実際全てわかるっていうのはあながち嘘ではないから。ほら、あれ」
未だ苛烈に戦っているフランとレミリア。しかし両者の表情には大きな差がある。フランは苦々しげに顔を歪め、レミリアは楽しそうに笑みを浮かべている。
見ている間にフランがスペルカードを取り出す。
あっ!と耀は声を出しそうになるも、その弾幕が飛ぶことはなかった。
「禁忌『カゴメカ…」
「必殺『ハートブレイク』」
「……ッ!禁弾『カタディオブ……」
「紅符『スカーレットシュート』」
「…ッァ!きゅっとして!」
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
フランがスペルカードを唱えようとする瞬間、決まってレミリアの弾幕が突き刺さる。ずっと俺のターンを力尽くで繰り出し、フランから優位を取り続けている。
しかしフランが加減しているのかと言われるとそうではない。実際何度も剣と槍が打ち合っているが、槍の方は耐久値を疑うレベルで壊れている。つまりそれはフランが『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を常時展開していることに他ならない。
そのフランを相手取りなお余裕の姿を変えないレミリアに耀はある種尊敬の眼差しを送っていた。
自分では手も足もでないフランに真っ向から撃ち合い迎え撃っている。四方八方から飛んでくる弾幕を華麗に躱し、逆に自分の弾幕によって相手を支配している。その暴力的なまでに圧倒的な『力』に耀は見惚れていた。
「しかしフラン様はフラン様で相変わらずですね」
突如呟いた美鈴に視線を移す。美鈴とパチュリーは視線を動かすことなく上を向いていたので自分も上空の戦いを見ながら聞くことにした。
「あの状態になってもスペルカード宣言を律儀にやるなんて。理性を失ってもそれを忘れないとは、よほど頭に刻み込んであるんでしょうね。いやー私もスペルカードルールを覚えたての時は……」
「あれはレミィが一番力を入れて叩き込んできた遊びだからね。『友達を作る遊び』って所に心打たれたんでしょう」
解せぬ、なんていいそうな顔をしている美鈴を含め三人はずっと姉妹の戯れを見続けていた。二人がぶつかり合うだけでハラハラする自分とは違い、二人は微笑ましいものを見るように笑っている。
……殺し合いをしているようにしか見えない姉妹を見る目としてはどうかと思うが、きっとこの人達の間には私なんかには想像もつかない絆があるのだろう。
それによく考えてみればフランは家族の話はしてくれたのに、フラン自身の話は何も聞かせてくれなかった。信用が足りないのか、それとも力が足りないのか、私には分からない。それでも分かる。身に染みて分かった。
十六夜、飛鳥、フラン、黒ウサギ、ジン。偶然素敵な友達が出来ただけで……私には、その関係を維持するだけの力が…ない。
耀は上にあげていた顔をさらに少し上にあげた。目の奥から込み上げるナニカが消えるまではこうしていようと思う。
そんな耀を横目で見つつも、二人の妖怪は顔を動かすことはなく視線を戻し二人の影を追いかけた。
☆☆☆
「へっへーん。どうしたのフラン!さあもっと全力でかかってらっしゃい!」
グングニルをバトンのように振り回すレミリアはフランを挑発するように胸を張って踏ん反り返っている。それをフランは今日何度目かの苦渋の表情を浮かべた。
全くといっていいほどにレミリアに攻撃が届かない。能力で武器は潰せる。魔力も妖力も自分の方が高い。速さも力も弾幕量だって決して劣っているとは思えない。
それでも勝てない。まるで未来を見ているかのような反応で一切の攻撃を封じてくるのだ。
そんな状態は破壊衝動に襲われているフランでなくともイラつくだろう。あと態度もなんとなくウザい。
それに伴いフランの破壊衝動はさらに増してくる。落ちている石ころより目の前を飛び回る虫を殺した方が楽しいのは自明の理だが、如何せん破壊するという行為がそもそも出来ない。
ならばどうする?
ブンッ!!
横薙ぎ一閃。聳え立った建物を同時に三つ、打ち壊した。
飛んでいる虫が殺せないなら落ちている石ころを壊せばいい。本来は人間を襲うのが一番効率がいいのだが、冷静な判断が出来ていないフランは一時的にでも満足感を得ようとしたのだった。
フランが自分ではなく建物に目が移り出したことにより、レミリアは小さくため息をついた。
「まったく。上手くいかないとすぐ拗ねるんだから。可愛いわね。ゲームで負けた子供みたいな可愛さというか、かまって欲しい子猫のような可愛さというか。まあ可愛いからいいけど」
可愛いのは大前提としてもさすがにただ見てるわけにもいかないのでレーヴァテインをグングニルで受け止めて周りの被害を減らしていく。グングニルを壊されては作り壊されては作りと、今度はレミリアがフランを攻めるという系図で先程までの焼き増しが始まった。
「……うーん、でも八つ当たりを始めるとなるとそろそろ止めないとマズイわね」
ポツリと呟く。
フランは再びレーヴァテインを構え街を破壊する気満々だ。
「ふむ。……神槍『スピア・ザ・グングニル』」
振りかぶった腕と身体を切り離すように槍を放った。当然腕が千切れた程度では吸血鬼にダメージなど響かない。
「運命『ミゼラブルフェイト』」
空中から現れた鎖がフランを笹巻きにして拘束する。それを力任せに手元に引き寄せた。
釣りのようにフランを釣り上げ、胸に飛び込んできたフランをギュッと抱きしめる。そして暴れるフランの額に小さく口づけをする。
「お帰りなさい。フラン」
そして髪を一撫でし、レミリアはフランの首筋に噛み付いた。
「…!?……ッア!」
鈍い痛みにフランは必死に身体に巻きついた鎖を外そうとする。しかし時間が経つに連れ、その動きはおとなしくなっていった。狂気が溢れていた瞳はトロンとして虚ろになり、レミリアにかかる体重が増えてきている。
そしてその瞳も閉じられ、小さな吐息がフランから聞こえるようになった。
火龍誕生祭を巻き込んだ魔王のゲーム。
それをさらに巻き込んだノーネームの暴走。
そんな様々なコミュニティを巻き込んだ騒動は、静かに静かに幕を閉じた。
☆☆☆
そんな終局を迎えている最中、前後左右上下を目玉がギョロめくスキマの中で一人の少年が横たわっていた。
その少年の名は逆廻十六夜。八雲紫によりスキマに放り込まれてからずっと放置されていた少年だ。
「いい加減諦めろ、人間。お前達は紫様の手のひらの上で動いていればいい」
そんな十六夜を見下ろす、否、上下逆さまで見上げている八雲藍は倒れ伏した十六夜に無情に言い渡す。
此度のゲームの影に隠された陰謀はもう少し続くようであった。
感動の再開!でもまああるけど改めてまた今度。
本当にアッサリ終わった。
フランは可愛い。超可愛い。異論は断じて認めない。